論 旨 日本の情報教育の目的のひとつである,情報と情報技術を問題の発見と解決に効果的に活用する ための科学的な考えの育成法について研究した. 平成21年3月に高等学校学習指導要領が改訂・告示され,共通教科「情報」の科目として「社会 と情報」及び「情報の科学」の2科目が設けられた.この改訂では,各科目の学習により情報活用 の実践力及び情報モラルに関する内容が共通に,実践的に行われるように改善が図られている. 本研究では,実態調査,文献調査等により,科学的リテラシーの育成を目的とする教育学的見地 から,情報の授業設計,実践の方法について研究した.
1.緒 言
近年,日本の情報教育が見なおされている1)2)3)4)5).2010年3月に高等学校学習指導要領が改訂・ 告示され,高等学校の各学科に共通する教科「情報」の科目が変更された.「情報A」「情報B」「情 報C」の3科目であった教科「情報」は,「社会と情報」「情報と科学」の2科目から構成されるこ ととなった.情報教科全体の変更点として次のような視点を重視している3)5). (ア) 情報及び情報技術を適切に活用するために必要となる知識と技能の習得を図るという視点に ついては,義務教育段階における情報教育の成果を踏まえ,高等学校段階において確実に身 につける. (イ) 情報に関する科学的な見方や考え方を養うという視点は引き続き重視し,高等学校段階にお いて確実に身に付けさせる. (ウ) 社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解させるという視点については, 義務教育段階における情報教育の成果を踏まえ,高等学校段階においては健全な倫理観や安 全へ配慮する態度を育成する. (エ) 情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を,情報化の進む社会に積極的に参画する能力・ 態度及び社会の情報化の進展に主体的に寄与することができる能力・態度の総称と位置付け, このような能力・態度を高等学校段階において確実に身に付けさせる.情報教育における科学的リテラシー育成法
に関する研究
Study on Scientific Literacy Education for Information Education
【研究論文】
横 山 泰
活用の実践力」に関する内容について発展的に解消を図り,「情報の科学的な理解」,「情報社会に 参画する態度」に関する内容を重視した基礎的な科目として,「社会と情報」と「情報と科学」に 位置づけられた.具体的には,主に「情報社会に参画する態度」の達成を目的とする「情報C」と, 主に「情報の科学的な理解」の達成を目的とする「情報B」の内容を柱にして,「社会と情報」と「情 報と科学」の内容を構成し,問題解決に情報技術を積極的に活用する実習については,どちらの科 目にも多く取り入れている.また,「情報A」の内容のうち,義務教育段階では学習しない内容は 引き続き取り入れられている.このように,各科目の学習によって情報活用の実践力及び情報モラ ルに関する内容が,より実践的に行われるように改善が図られている. 学習指導要領の改訂に伴い,共通教科「情報」の教育方法に関する研究が多くなされている.兵 庫県立舞子高等学校長の常陰は,「21世紀型スキル」を定義した教育課題考察において,近年の教 育環境の変化と情報教育との関連性について論じている.その中で,「情報の科学的な理解」につ いて,次のような考察と問題提起をしている6). 「情報の科学的な理解」は現在でも重要な要素であること 「情報B」を設置している高等学校が少なく,総合的に見て積極的に取り組まれていないこと 新学指導要領における「情報と科学」の教材作成の重要性 専門的にではなく,科学的な理解からはじめる教育の必要性 また,兵庫県立西宮今津高等学校の佐藤は,新学習指導要領とそれに伴う指導計画の作成と内容 の取り扱いについて考察し,高校現場からみた教育課程上の諸問題と教科「情報」の今後について, “現行の(情報A+情報B):(情報C)の設置比率は,4:1と言われている.この比率がそのまま「社 会と情報」:「情報と科学」の設置比率に反映するのではないかと予想されている”ことについて論 じ,教科「情報」における科学的アプローチの必要性について述べている7).仏教大学の西之園は, 教科「情報」を基盤教育であると主張する理由について論じ,教科「情報」において自ら考えて理 解する力を育成することの必要性について述べている4).東京工業大学の松田は,情報教育におけ る基礎・基本について考察し,情報教育の本質は情報技術の使い方を教えることではなく,自ら考え, 多様な代替案を発想する力,自分の出した答に責任を持つことを教えることであると述べている8). 東京理科大学の小川は,新学習指導要領を科学技術リテラシー開発の観点で読み解き,新学習指導 要領には社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項として,「情報教育」「環 境教育」「ものづくり」「キャリア教育」「食育」「安全教育」「心身の成長発達についての正しい理 解」が含まれている点に注目し,情報を含む多くの教科の内容には現代の科学技術との関連性が包 含されていると述べている9).さらに小川は,平成20年12月18日に日本政府の教育再生懇談会が行っ た『教科書の十四つに関する提言(第二次報告)』において,「他の教科に関連する内容も柔軟に記 述できるようにする」と例示されていることについて,理科と他の教科との連携や働きかけが可能 になり,学校教育において科学技術に関する教育と科学的な理解が促進される可能性について論じ ている9).
政策的な科学教育の新しい方向性の研究として,埼玉大学の清水は,学力の国際比較から得られた 問題点と,新学習指導要領における科学教育の方針とを検討し,実践すべき具体的な活動として,学 習意欲の向上に対する活動を挙げている10).また,独立行政法人科学技術振興機構の内丸は,政策と しての科学技術人材育成に関して,日本の科学技術政策は5年計画である科学技術基本計画をベース に進められており,第3期計画である現在では,人材育成等に大きく比重が置かれていると述べてい る11).横浜国立大学の伊東は,これからの科学教育と創造的科学技術人材育成に関して,初等中等理 科教育に求められる課外について挙げ,教育システム改革の必要性について述べている12).これらの 研究では共通して,国民の学力の国際的な位置づけを把握して特徴を整理し,現在行われている日本 の教育に照らし合わせて,その育成状態と問題点を挙げ,将来の方向性について述べている. そこで,新学習指導要領を踏まえた情報の科学的な理解力を養うための研究が成されている.国 立教育政策研究所の猿田は,新学習指導要領に影響を与えたPISA調査と並行して策定されたキー・ コンピテンシーについて考察し,PISAのキー・コンピテンシーの概念を取り入れた注目すべき研 究について紹介している13).福山大学付属福山中・高等学校の竹森らは,科学を支えるリテラシー の育成を核とする教育課程について研究し,カリキュラム開発,全教科体制の試み,新教科サイエ ンスの設置,総合的な学習の時間,具体的な指導計画及び実施結果について報告している14)15)16). 以上のように,新学習指導要領の教科「情報」に関する留意点と考察についての研究は多くなさ れており,情報の科学的な理解についての教育方法に関する研究が昨今求められていることは明白 である.しかし,情報の科学的な理解について理数教科をはじめとする他の教科との有機的な結び つけに視点を向けた研究は少ない.また,教科「情報」の教育研究において,科学的リテラシー研 究の成果を踏まえた研究はほとんど成されていない.そこで本研究では,情報の科学的な理解の促 進のために科学的リテラシー教育が有効であるとの見解のもと,教科「情報」の教育における科学 的リテラシーの授業方法の研究として,科学的リテラシー教育に関する研究の調査・考察を行い情 報の授業のモデル化を行うことで,科学的リテラシーの教育学的見地から,情報の授業設計,実践 の方法について研究した.
2.研究方法
本研究では,情報の科学的な理解についての効果的な授業のモデル化を行うことを目的とした. そこで,情報の各科目における情報の科学的見方・考え方について調査し,その実践例と共に体系 的に整理した.次に科学的リテラシー育成に関する授業研究について調査し,その共通点や知見に ついてまとめ,その成果を情報授業のモデル化の考察対象とした.3.結 果
3-1.情報の各科目における情報の科学的見方・考え方について 平成9年に,初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議は,第一次報 告「体系的な情報教育の実施に向けて」をまとめ,情報教育の目標を「情報活用の実践力」「情報 情報教育における科学的リテラシー育成法に関する研究考え方について課題を明確化するために,情報の各科目における「情報の科学的理解」について調 査した.また,学習指導要領の改訂に伴う指導の留意点の変化についても整理するために,「情報A」 「情報B」「情報C」の内容における「情報の科学的理解」についても検討した.東京都立駒場高等 学校の天良は,高等学校学習指導要領解説,情報編を参考に「情報A」「情報B」「情報C」の内容 における3つの観点のバランスを図3-1のように整理している17). 3-1-1.情報Aにおける情報の科学的見方・考え方 「情報活用の実践力」に重点が置かれている情報Aでは,情報の統合,問題解決と情報活用,情 報機器の仕組みなどの学習を通して,科学的な理解力の促進が図られている18)19).東京都立駒場 高等学校の天良は,情報Aにおける科学的な見方や考え方の育成方法として,以下のような観点で 実践し,事例を紹介している20). 情報教育の目標の3つの観点を互いに関連付ける 事例:ネットワークの利用において,セキュリティ技術の科学的な理解を進める授業 「情報」と関係の深い,「数学」や「物理」などの他教科の学習内容と関連させて指導する 事例:数学との関連付けとして,表計算ソフトと関数,情報検索と論理演算,統計的な見方・ 考え方と統計,物理との関連付けとして,画像のディジタル化と光の三原色,音声のディジタ ル化と波動 比喩や類推を使ってわかりやすく指導する 事例:電子メールの比喩表現と郵便メールへの類推,情報量表現に対する速度などの単位への 類推,表計算でのセル参照に対する相対速度への類推 科学的な理解を深めるための実習を行う 事例:帰納的な課題の提示による,ソフトウェアの利用実習 図3-1 各教科における3つの観点の関係 情報A 情報B 情報C 情報活用の実践力 情報の科学的な理解 情報社会に参画する 態度 (引用文献:天良和男「各教科で育む情報の科学的見方・教え方」、 情報教育資料、18号、実教出版、2007)
3-1-2.情報Bにおける情報の科学的見方・考え方 「情報の科学的理解」に重点が置かれている情報Bでは,問題解決とコンピュータ,情報の表現 とコンピュータの仕組み,コンピュータでの情報処理,モデル化とシミュレーションなどすべての 単元の学習を通して,科学的な理解力の促進が図られている19)21).立教池袋中学校・高等学校の 山口は,情報Bの授業において,逐次実行型のコンピュータの仕組みについての基本的な理論とプ ログラミングについて,把握させることが大切であると述べている22).また山口は情報Bの授業に おける次のような工夫について述べている. 教材の視覚化 抽象的,難解な問題を避け,理解しやすい身近な題材を用いること 内容のパターン化とスモールステップ化 応用可能な例題の利用 将来の学びに結びつくような例題の利用 3-1-3.情報Cにおける情報の科学的見方・考え方 「情報社会に参画する態度」に重点が置かれている情報Cでは,ディジタル化とネットワーク,情 報の活用と個人の責任などの単元の学習を通して,科学的な理解力の促進が図られている19)23).福岡 県立嘉穂総合高等学校の倉光は,情報Cの授業において,ネットワーク構築の命題解決により,理論 学習→実験→結果の考察→理論学習というサイクルを実践できる授業方法について述べている24). 3-1-4. 「社会と情報」「情報と科学」における情報の科学的見方・考え方 永井の報告と学習指導要領に基づき,「社会と情報」「情報と科学」における情報の科学的見方・ 考え方についてまとめた25)26). 「情報と科学」のみならず「社会と情報」においても情報の科学的見方・考え方の育成が図られ ている.内容のうち情報の活用と表現,情報通信ネットワークとコミュニケーションにおいて,情 報の信頼性・信憑性の評価,情報の標本化や量子化,情報のディジタル化について情報の科学的見 方・考え方が求められる. 「情報と科学」では,理解させる内容として情報Bの科目目標にある「コンピュータにおける情 報の表し方や処理の仕組み」については,義務教育段階の成果を踏まえるとともに,これらを情報 技術の中に包含することにより,科目目標では具体的且つ個別には示していない.しかし前提知識 として,コンピュータと情報の処理,情報通信ネットワークや情報システムに関する基礎的な理解 力が必要である.また,問題の発見と解決を学習場面の中軸とし位置付け,この関連として情報や 情報技術を効果的に活用するための科学的な見方・考え方や方法などについて習得させることを 図っている. 「情報と科学」は次の4項目で構成される. (1)コンピュータと情報通信ネットワーク (2)問題解決とコンピュータの活用 (3)情報の管理と問題解決 情報教育における科学的リテラシー育成法に関する研究
(1)は,科目の前提として位置付けられている.(2)は,アルゴリズム,処理手順の自動実行, モデル化,シミュレーション,情報通信ネットワークの活用,データベースなどについて,問題解 決と関連付けながら学ぶように内容が構成されており,問題解決の基本的な考え方を学ぶ内容とし て位置付けられている.(3)は,問題解決について評価と改善を内容項目としている.ここでは, 問題解決などの活動を実施するだけでなく,自ら振り返り,活動の過程や結果を評価し,その成果 を実生活での活動にフィードバックすることが求められる.この目的は,これまでの情報科教育で も取り組まれてきたことであるが,改訂に当たって,その重要性を鑑み,内容項目として位置付け られている.(4)は,「社会と情報」と同様に,情報モラルが内容項目として位置付けられている. この内容について「情報と科学」では,科目の性格やねらいから情報モラル教育の3つの学習内容 である.ア.社会の情報化と人間,イ.情報社会の安全と技術,ウ.情報社会の発展と情報技術と あるように,比較的,技術的な側面から学習することとなる.内容全体としては,情報技術につい ての実習を含め,すべてにおいて問題解決と関連付けながら取り扱うことになる.さらに,言語活 動を重視する観点から,生徒が主体的に考え,討議し,発表し合うなどの活動を取り入れることが, 「情報A」「情報B」「情報C」から「社会と情報」「情報と科学」に新たに加えられた内容と解する ことができる. 「社会と情報」「情報と科学」における指導計画の作成と内容の取扱いについては,情報の科学的 見方・考え方の育成に関して述べれば,公民科及び数学科などとの連携を図ることが留意点として 挙げられる.今回の学習指導要領改訂によって,公民科や数学科の指導計画の作成と内容の取り扱 いに当たっての配慮事項に,情報教育の視点や,共通科目「情報」との連携を図るとともに学習内 容の系統性に留意する内容の規定が置かれている. 3-2.科学的リテラシー育成に関する授業研究について 科学的リテラシーに関する基礎的研究は,多数報告されている27)28)29). 授業の実践的研究としては,埼玉大学の清水らは,優れた理科教師が実施した授業実践を調査 し,その指導方法の分析と授業の効果を検証することを試みた30).結果として,授業は教師による 情報提供,それをもとにした生徒による調べ活動,調べた結果についての発表・討論,レポートに まとめるという流れで授業を進め,調べる活動を行う前に,まず知識や考え方の習得に時間をかけ ていること,発表・討論の場やレポート作成の場においても教師からプリントを使った細かな指導 が成されていたことを報告している.そして授業評価の結果,PISA型科学的能力の3領域のいず れもが向上したと結論付けている.また,調べ学習が科学的リテラシーの育成に及ぼす効果を検 討し,生徒が各自の課題を設定して調査し,レポートにまとめるという調べ学習を行うことが有効 であることも示唆している31).広島市立安佐北中・高等学校の土屋らは,中学校理科におけるESD
(Education for Sustainable Development)の単元開発を目的として,単元「エネルギー資源の利 用と持続可能性」を「デイリーの三条件a」の視点から構成し,授業実践を行った結果,以下の3
点を明らかにしている32). ① 中学校理科において,「デイリーの三条件」の概念に関して多くの部分が理解できたこと. ② 持続可能性に関して科学技術の問題点や,その問題点を解決する科学技術の利点が認識でき, さらに研究開発や技術発展の必要性や意味を認識できたこと. ③ 将来,科学技術に係わる仕事につきたいと考えたり,理科学習の有用感を指摘したりする生徒 が有意に増加したこと. 神戸大学発達科学部付属明石小学校の田中は,小学校期における科学的思考の発達について研究 し,思考力の発達や支援の方向性,単元開発の指針について述べている33).三重大学の平賀は,国 語の学習も科学的リテラシー育成の重要な場であるとして,データベースの活用による,科学的な 内容の作品を扱う国語学習の指導について研究し,学習者の科学的リテラシー育成の効果について 論じている34). より実践的な授業デザインと授業概念のモデル化の研究として,神戸大学大学院の坂本らは,「燃 焼の3要素による説明活動を中心」とした小学校6年生理科の授業における,燃焼現象とその機能 について検討し,逆推論が多く生じる場面と,探究活動において逆推論が果たした役割について論 じている35).
4.考 察
4-1.情報の科学的見方・考え方の育成方法に関する知見 教科「情報」における情報の科学的見方・考え方の育成方法について,3-1-1から3-1-3までの結果 をもとに考察した.3-1-1の結果から,情報教育における情報活用の実践学習から,日常生活への効 果的な利用を図るためには,学習結果を他の事象と関連付ける力を養う必要があると推察される. また,3-1-2の結果と,情報Bにおける学習にはアルゴリズムとプログラミングに関連した学習が広 く認知されていることから推察すると,問題の発見と解決の学習が実際の生活で生かされるために は,問題を発見し,問題解決学習の結果と結び付けるための,情報の抽象化とその逆の具体化の能 力が求められると考えられる.3-1-3の結果から,情報社会の特徴と情報技術の役割とを関連付けて 問題を見出し,倉光の学習サイクルのように実践し続けるためには,情報を俯瞰し,概念構造を発 見する能力が求められるものと考えられる.以上の科目学習の研究を通して得られた知見とは,以 下である. 比喩や類推で関連付ける学習の必要性 問題の発見と解決に結び付けるための,情報の抽象化と具体化に関する学習の必要性 社会の中の情報を俯瞰し,概念構造を発見する学習の必要性 これらの知見と,3-1-4の結果との差分が新しい学習指導要領から新たに加えられた情報教育の留 意点であると考えると,教科「情報」の学習と公民や数学などより多くの教科の学習と関連付け, 討議し,発表し合う学習が挙げられる.自らの考えを効果的に討議し,発表するためには論理的に 文章表現するための推論表現の能力が必要とされると考えられる.結果として,「社会と情報」「情 情報教育における科学的リテラシー育成法に関する研究学習どうしを関連付ける学習活動の必要性 推論に基づいた論理的な表現能力の必要性 4-2.科学的リテラシー研究から得られた知見 清水らの研究には,調べる,レポートにまとめる,発表・討論という流れで,繰り返すという授 業の特徴が見られ,その有効性について考察して述べられている.土屋らの研究においては,一連 の活動において調査結果を抽象概念に関連付けるという活動が見られる.以上の結果から,抽象概 念の形成と情報の再生産を一連の活動の中で行うことにより,効果的に科学的リテラシーを育成で きることが推察される.またこの考察は,田中,平賀の実践,坂本らの研究結果からも裏付けられ る.横浜国立大学の森本らは,メタ認知的アプローチによる科学概念形成を目指した授業開発に関 する一連の研究についても,本研究の考察と類似の考察を述べている36). 4-3.情報の授業のモデル化 教科「情報」の授業に提案するモデルの例を図4-3に示した.情報を比喩や類推などにより直接 的に関連付ける学習から始まり,問題解決のチャートモデル化などによる情報の概念構造の発見を 経て,討議や発表などの情報の再生産を行う学習活動を提案した.その際,常に他の教科などの学 習と関連付けを図り,情報の再生産の際には推論に基づいた論理的な表現を行うことにより,情報 の科学的見方・考え方をより効果的に育成できるものと推察される.
5.結 言
情報の科学的な理解の促進のために科学的リテラシー教育が有効であるとの見解のもと,教科「情 報」の教育における科学的リテラシー育成方法の研究として,情報教育および科学的リテラシー教 育に関する研究の調査・考察を行い以下の結論を得た. 抽象概念の形成と情報の再生産を一連の活動の中で行うことにより,効果的に科学的リテラシー 図4-3 教科「情報」の授業に提案するモデルの例 情報の関連付け (比喩や類推など) 情報の再生産 (討議や発表など) 情報の抽象的な 概念構造の発見 (問題解決方法の モデル化など)情報教育における科学的リテラシー育成法に関する研究 注: a 「デイリーの三条件」は,資源や環境を持続可能にする概念であり,①再生可能な資源に関するもの,②再生不可能な資 源に関するもの,③汚染物質に関するものからなる. 参考文献: 1) 永井克昇,“新高等学校学習指導要領と教科「情報」∼教科「情報」はどのように変わるか∼”,情報教育資料,24号, 実教出版,2009,1-6 2) “学習指導要領はこう変わった”,情報教育資料,24号,実教出版,2009,7-11 3) 永井克昇,“新高等学校学習指導要領への展望∼現行指導要領からの改善点∼”,情報教育資料,21号,実教出版, 2008,1-4 4) 西之園晴夫,“革新性を失った情報教育の再生を学ぶことの開放を”,情報教育資料,18号,実教出版,2007,1-5 5) “高等学校学習指導要領”,文部科学省,平成21年3月告示,平成21年9月発行,2009 6) 常 則之,“共通科目「情報」が教えるべきもの”,情報教育資料,28号,実教出版,2010,1-4 7) 佐藤万寿美,“新しい学習指導要領で具体的に示されたこと<共通科目「情報」> ― 高校現場の視点から授業計画・実 践のヒントを探る ―”,情報教育資料,27号,実教出版,2010,12-15 8) 松田稔樹,“これからの情報教育∼情報教育の本質∼”,情報教育資料,13号,実教出版,2005,1-5 9) 小川正賢,“新学習指導要領と科学技術リテラシー開発との関連性”,日本科学教育学会第34回年回論文集,2010, 55-56 10) 清水誠,“科学教育の新しい方向性”,日本科学教育学会第33回年回論文集,2009,21-22 11) 内丸幸喜,“政策としての科学技術人材育成”,日本科学教育学会第33回年回論文集,2009,51-52 12) 伊藤卓,“これからの科学教育と創造的科学技術人材育成”,日本科学教育学会第33回年回論文集,2009,59-60 13) 猿田祐嗣,“新学習指導要領と科学技術リテラシー開発との関連性”,日本科学教育学会第34回年回論文集,2010, 41-42 14) 竹盛浩二,“科学を支えるリテラシーの育成を核とする教育課程の開発 ― すべての教科で取り組む ―”,日本科学教育 学会第34回年回論文集,2010,43-46 15) 山下雅文,“科学を支えるリテラシーの育成を核とする教育課程の開発 ― 科学的リテラシーを育成する新教科サイエン ス ―”,日本科学教育学会第34回年回論文集,2010,47-50 16) 服部裕一郎,“科学を支えるリテラシーの育成を核とする教育課程の開発 ― 数学的リテラシーを育成する総合的な学習 の時間 ―”,日本科学教育学会第34回年回論文集,2010,51-54 17) 天良和男,“各教科で育む情報の科学的見方・考え方”,情報教育資料,18号,実教出版,2007,6 18)“高校情報A”,実教出版,平成21年1月発行,2006 19) 文部科学省,“高等学校学習指導要領”,文部科学省,平成21年3月告示,平成21年9月発行,2009 20) 天良和男,“情報Aにおける情報の科学的見方・考え方∼情報の科学的見方・考え方を育成するための方法∼”,情報教 育資料,18号,実教出版,2007,7-13 21)“最新情報B”,実教出版,平成21年1月発行,2006 22) 山口弘泰,“情報Bにおける情報の科学的見方・考え方∼問題解決能力を育くむ授業実践∼”,情報教育資料,18号,実 教出版,2007,14-17 を育成できる 結果的に情報の科学的見方・考え方をより効果的に育成できる 情報の授業モデルの一例を示した
教育資料,18号,実教出版,2007,18-20 25) 文部科学省,“高等学校学習指導要領解説 情報編”文部科学省,平成22年5月,2010 26) 永井克昇,“新高等学校学習指導要領と教科「情報」”,情報教育資料,26号,実教出版,2010,1-6 27) 宮下治,“理科自然体験学習における学習支援の類型化とその実践による評価 ― 学習支援と教員の成長との関わり ―”, 科学教育研究,Vol.33,No.2,日本科学教育学会,2009,105-117 28) 横山泰,トータルなサイエンス・コミュニケーション能力を身につけるための教育方法に関する研究,新潟経営大学紀 要,Vol.15,2009,149-160 29)横山泰,マーケティングにおける科学的リテラシー教育に関する研究,新潟経営大学紀要,Vol.16,2010,159-170 30) 清水誠,小森栄治,田中修平,“科学的リテラシー育成のための指導法の開発”,科学教育研究,Vol.34,No.2,日本科 学教育学会,2010,237-244 31) 清水誠,小森栄治,田中修平,黒川昇“調べ学習が科学的リテラシーの育成に及ぼす影響”,日本科学教育学会第33回 年回論文集,2009,307-308 32) 土屋恭子,磯崎哲夫,“中学校理科における持続可能な教育の単元開発とその指導法に関する実証的研究 ―「デイリー の三条件」を手がかりとした科学技術の問題点と利点の検討 ―”,科学教育研究,Vol.34,No.1,日本科学教育学会, 2010,24-37 33) 田中一磨,“科学的思考力を高める単元開発および学習支援に関する実践研究 ― 第3学年「くらしに役立つ磁力の力を 感じよう」からの一考察 ―”,日本科学教育学会第34回年回論文集,2010,61-62 34) 平賀伸夫,“国語学習を科学的リテラシー育成の場とするために ― 科学的な内容の作品の指導に役立つ教師支援ツール の開発 ―”,日本科学教育学会第34回年回論文集,2010,113-114 35) 坂本美紀,山口悦司,橘早苗,村山功,稲垣成哲“科学的思考を指導するための授業デザイン ― 探究活動中の逆推論 の検討 ―”,日本科学教育学会第33回年回論文集,2009,285-286 36) 森本信也ほか,“子どもの科学的リテラシー形成を目指した生活科・理科授業の開発”,東洋館出版社,2009