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2. 電線電柱類の景観向上効果に関する被験者実験 図 -1 に示す 3 つの実験を実施した 以下に 各実験方法と結果を示す (1) 無電柱化による景観向上の効果 a) 実験の概要 図 -1-(1) 北海道の農村 自然域の中でも 視対象となるランドマークがある農村 自然域の景観写真と その比較対象とす

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(1)

平成29年度

無電柱化事業における

景観形成の効果発現に関する考察

国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 地域景観ユニット ○岩田 圭佑

松田 泰明

高橋 哲生

近年、無電柱化推進法案の成立など、無電柱化推進の機運が高まっている。一方、限られた 予算の中で事業効果を高めるための知見が求められているが、無電柱化の事業効果に関する調 査事例は乏しく、特に景観向上効果の把握は、防災など他の無電柱化の効果と比較し、定義や 評価が難しい。しかし、自治体等による景観まちづくりの一環として無電柱化を実施する機運 が高まる中、今後、電線共同溝方式以外の枠組みで無電柱化を推進していくことが考えられ1) 無電柱化の景観面の事業効果を示す必要性は高まっている。 そこで本研究では、電線電柱類が景観に与える影響を把握するための被験者実験を行い、ど のような場所でどのように効果が発現するのかについて整理考察した。 キーワード:電線電柱類、無電柱化、景観向上、景観形成、事業効果、農村・自然域

1. はじめに

(1) 背景と目的 近年、無電柱化推進法案の成立2)や、道路区域におけ る電柱の占用制限3)など、無電柱化推進の機運が高まっ ており、低コスト化にむけた埋設基準の緩和4)なども行 われている。一方、限られた予算の中で、無電柱化の効 果的な事業箇所の選定や事業効果を高めるための知見が 求められているが、無電柱化の事業効果に関する調査事 例は乏しい。特に景観向上効果の把握は、防災など他の 無電柱化の効果と比較し定義や評価が難しい。 そこで、著者らはこれまでの研究5)において、現地調 査などを行い効果的な電線電柱類の対策手法を提案する とともに、対象地の特性や対策手法が景観の向上効果や その後の波及効果を”見える化”する必要性について述べ てきた。国土交通省が設置した無電柱化推進のあり方検 討委員会の中間取りまとめ1)においても、「電線共同溝 以外の枠組みによる無電柱化の推進も必要」と述べられ ているように、今後、自治体等の景観まちづくりにおけ る無電柱化事業など、これまで電線共同溝の対象となり にくかった無電柱化が進められると考えられる。そのよ うな中、本研究のように無電柱化の景観面の事業効果を 調査する必要性は益々高まると予想される。 そこで本報告では、電線電柱類が景観に与える影響を 把握するための被験者実験を行い、どのような場所でど のように効果が発現するのかについて、農村・自然域と 市街地・観光地を比較する形で整理考察した。 (2) 研究の内容と分析方法 電線電柱類の景観対策手法に関する被験者実験を実施 し、農村・自然域や市街地・観光地の評価結果を分析す る。分析する内容は、以下に説明する3項目である。 a) 無電柱化による景観向上の直接的効果 電線電柱類が景観に与える影響については、これまで 小山ら6)によって電線等の錯綜感が評価に与える影響が 示されてきた。しかし、景観の多面的な印象に電線電柱 類が与える影響や、その効果の程度については明らかに されていない。そのため、SD法※補注1を用いてその影響を 評価するとともに、農村・自然域と市街地・観光地を比 較することで、その効果の程度について比較・考察する。 b) 無電柱化以外の方法と無電柱化の効果の比較 筆者らはこれまで、電線類地中化以外の安価で効率的 に実施できる多様な対策手法について検討してきた7)が、 それらの手法がどの程度景観向上効果があるのかを検証 する必要がある。そこで、それらの手法が効果的に・効 率的に適用できると考えられる農村・自然域の道路を対 象として、ME法※補注2による評価実験を行い、対策手法の 留意点を比較・考察する。 c) 無電柱化による景観形成の間接および波及効果 無電柱化事業には、見た目の景観向上効果だけではな く、それらによる「賑わいの演出」「歴史・伝統・文化 の再生」「回遊性の向上」「地域イメージの形成」の波 及効果が考えられるが、その評価を行う必要がある。そ こで、それらの印象に電線電柱類が与える影響について SD法を用いて評価し農村・自然域と市街地・観光地を比 較することで、その効果の程度について比較・考察する。

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2. 電線電柱類の景観向上効果に関する被験者実験

図-1に示す3つの実験を実施した。以下に、各実験方 法と結果を示す。 (1)無電柱化による景観向上の効果 a) 実験の概要 ※図-1-(1) 北海道の農村・自然域の中でも、視対象となるランド マークがある農村・自然域の景観写真と、その比較対象 とするⅰ)「歴史的街並み」、ⅱ)「市街地」、ⅲ)「農 村・自然域(ランドマークなし)」、ⅳ)「海外の農 村・自然域」等の景観写真を用いて、SD法による被験 者実験を実施した。それぞれの写真について、電線電柱 類がある・ないの画像を計15セット用い、被験者の前方 にそれらの映像を1枚ずつ順にスクリーンで投影し、9つ のカテゴリー全てに1点(低評価)~6点(高評価)で評 価をしてもらった(図-2、図-3、写真-1)。 評価項目を示す形容詞対は、SD法による道路景観の分 析が行われている既往研究等を参照し、評価形容詞の因 子分析の結果等に基づき、電線電柱類の評価に適した形 容詞対を抽出した。その結果、9カテゴリー22種類の評 価形容詞を用いることとした。 b) 結果 「農村・自然域(ランドマークあり)」の評価結果を 基準として、「地中化対策前後の魅力度の評価値が同じ かどうか」「地中化対策による評価値の変化の度合いが どの程度か」について比較を行った。農村・自然域(ラ ンドマークあり)と、以下の写真を比較した結果を示す (図-4)。 図-1 実験の概要 図-3 電線電柱類の景観評価項目と回答イメージ 写真-1 実験の様子 図-2 実験会場のイメージ図

(3)

ⅰ|歴史的街並み 地中化対策前後の評価値は、いずれも農村・自然域 (ランドマークあり)の方が高く、評価は両対象地 とも同程度向上する傾向を示した。 ⅱ|市街地 地中化対策前後の評価値は、いずれも農村・自然域 (ランドマークあり)の方が高い傾向であった。評 価が向上する度合いは、市街地よりも農村・自然域 (ランドマークあり)の方が大きかった。 ⅲ|農村・自然域(ランドマークなし) 地中化対策前後の評価値は、農村・自然域(ランド マークあり)の方が高い傾向にあり、評価が向上す る度合いは同じ程度であった。 ⅳ|農村・自然域(海外) 地中化対策前後の評価値と評価が向上する度合いは、 いずれも同じような傾向であった。 c) 考察 ランドマークがある農村・自然域において電線電柱類 が景観の評価に与えている影響は、市街地等と比較して 同等以上の良い影響を与えているといえる。すなわち、 農村・自然域においては、沿道の建物や広告物等がほと んどないことなどから、電線電柱類が景観阻害に占める 割合が、市街地等と比較して大きいためと考えられる。 景観向上の観点からは、このように“電線電柱さえなけ れば!”という農村・自然域においてこそ、電線電柱類 の対策が有効であるともいえる。 (2)対策手法別の景観向上効果の比較 ※図-1-(2) a) 実験の内容 様々な沿道景観の中で電線電柱類が最も大きい影響を 与えると考えられる“ランドマークのある農村・自然域” の景観写真5枚を用いて、「対策なし」を基準点(100点) 被験者評価実施の様子 図-4 農村・自然域と各対象地の景観向上効果の比較結果

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とした場合に、その他の手法がどの程度の評価となるか、 ME法による被験者実験を行った。比較する対策手法は、 「片寄せ(反対側への移設)」「セットバック(道路か ら離して設置)」「通信線のみ地中化」「電線類地中化 (無電柱化)」など、電線類地中化も含む、実現性が高 く景観の底上げに寄与する手法とし、これらの景観対策 手法をフォトモンタージュで施した画像を用いて評価を 行った(図-5)。 実験は、対策なしの基準画像と、各対策手法の画像1 枚を被験者の前方にスクリーンで示し、対策手法の印象 を基準画像と比較して、(1)の実験と同じ評価指標ごと に採点してもらった(図-6)。 b) 結果(図-7) 「対策なし」と「電線類地中化」の評価結果について は、それぞれ同じような評価値のまとまりを示した。こ れに対し、その他の対策手法については、対象地毎に評 価傾向のバラツキがみられた。 例えば、道路の右手側にランドマークとなる山の見え る写真-No.1.3.4の場合には、「片寄」により比較的高 い評価値となった。特に、片側に樹林がある写真-No.1 図-5 実験に用いた画像(抜粋) 図-6 回答イメージ 写真 No.5 写真 No.4 写真 No.3 写真 No.2 写真 No.1 図-7 対策手法ごとの総合評価値の比較 図-8 被験者の評価順位平均値と評価傾向の類型化

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の場合には、「片寄」により比較的高い評価値となった。 一方、道路の両側が開放的で正面にランドマークとなる 山並みが眺められる写真-No.2.5の場合、「セットバッ ク」で電柱を目立たなくする方が、片寄よりも効果が高 かった。また、通信線の本数が他の写真と比較して多い 写真-No.1.5では、通信線のみの地中化についても効果 が認められた。 図-8に示した被験者の評価傾向の類型化とヒアリング 結果によれば、山並みなどの見たいものがきれいに見え れば、電柱が視点場近辺にあっても評価が低くならない グループと、それとは逆に電柱が近くにあると圧迫感が あるので好ましくないという評価をするグループがある ことが示された。 c) 考察 電線類地中化による景観向上効果は、対策なしや他の 対策手法と比較しても高い効果を得ることが示された。 一方、地中化以外の対策手法では、それらの景観向上 効果には沿道環境によって差があることと、沿道環境に よっては比較的高い効果が得られることが確認できた。 例えば、山の稜線や連峰の眺望が得られるような場所で は、これを阻害せずに電線電柱類が目立たなくなるよう な配置方法とすることなどで、高い景観向上効果が期待 できるといえる。 (3)無電柱化による波及的な景観形成効果 無電柱化事業における直接の景観向上効果が、波及的 に地域に与える景観形成効果を把握するため、被験者実 験を行った。評価項目は、「賑わいの演出」「歴史・伝 統・文化の再生」「回遊性の向上」「地域イメージの形 成」である。これらの評価指標は、昨年の本研究会で著 者ら8)が報告した、景観形成やまちづくりに無電柱化が 与える影響を指標として用いた(図-9)。これらに無電 柱化がどの程度影響を与えるのかSD法を用いて評価し、 農村・自然域と市街地・観光地を比較することでその効 果の程度について比較・分析した。 その結果、例えば農村・自然域においては、観光客な どがその地域を訪れる際の「地域イメージの形成」や 「地域を訪れたい」と感じる度合いに無電柱化が影響を 与えることを示した。また、歴史的街並みでは、「賑わ いの演出」や「歴史・伝統・文化の再生」への影響があ ることを確認できた。現在も分析を進めているところで はあるが、このような景観形成効果を把握することで、 整備箇所の選定や整備規模の検討を支援できないか考察 を進めているところである。

3. まとめ

本報告では、無電柱化の景観向上効果について景観評 価実験により、どのような場所でどのように効果が発現 するのかや、それらの調査手法について、農村・自然域 と市街地・観光地を比較する形で整理考察した。以下、 農村・自然域を対象とした考察を軸にまとめを示す。 (1)無電柱化の必要性と価値 農村・自然域や市街地・観光地などにおいて無電柱化 による景観向上効果を把握するため、被験者実験を実施 した。その結果、農村・自然域では沿道の建物や広告物 等が市街地等と比較して少なく、電線電柱類が景観阻害 に占める割合が市街地等と比較して大きいと考えられる ため、道路背景に良好な景観を有する農村・自然域など では、市街地等と比較しても特に高い景観向上効果を得 られることが示された。このことから、景観向上の観点 からは、農村・自然域でこそ無電柱化に取り組む価値が あるといえる。 (2)多様な対策手法の適用性 電線類地中化による景観向上効果は、他の対策手法と 比較しても高い効果を得ることが示された。一方、地中 化以外の対策手法では、それらの景観向上効果には沿道 環境によって差があることと、沿道環境によっては比較 的高い効果が得られることが確認できた。すなわち、沿 道景観によって得られる景観向上効果に差が出るため、 沿道景観に応じた適切な手法の選定が重要となる。これ らの対策手法は、地中化ほどの景観向上効果や防災面・ 交通安全面の効果は期待できないが、沿道の景観特性に 合わせた手法の選択や、その組み合わせ等で景観形成を 進める上で有効な手法となり得る。つまり、景観向上効 果のみを得たいのであれば、電線類地中化以外の手法で あっても、沿道環境に応じた手法により十分その効果を 得ることができ、景観形成を進める上でも有効といえる。 図-9 景観形成効果の指標(案)

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(3)電線類地中化の可能性 -枠組みと技術開発の観点- 今後、電線共同溝以外の枠組みによる無電柱化も広が っていくものと考えられる。そうなれば、本報告で対象 としたような農村・自然域など、これまで人や交通の密 度が低いことから電線共同溝の対象となりにくかった場 所でも無電柱化の推進が期待できる。加えて、農村・自 然域では沿道に引き込みが必要な施設が市街地と比較し て少ないため、無電柱化に取り組みやすい。さらに、寒 地土木研究所9)において研究を進めている電線類埋設用 掘削専用機械(トレンチャー)による効率的な施工の普 及が進めば、これまでよりも格段に早く低コストで施工 が可能となる。このように、景観のみならず技術開発も あわせて進めることで、農村・自然域の無電柱化推進に 寄与していきたいと考える。 以上から、例えばシーニックバイウェイや広域観光周 遊ルート等でこそ無電柱化に取り組む価値があると示す ことができたといえる。本研究では引き続き、景観向上 効果のみならず、波及効果も含めて調査を進め、景観面 から無電柱化や道路行政の取り組みを支援したい。 補注10)

※1 SD法(Semantic Differential Method)

評価対象に人々がどのようなイメージを持っているのか を、形容詞対の評価言語を用いて測定する手法であり、景 観分野でも広く用いられている。

※2 ME法(Magnitude Estimation Method)

景観の分野では、例えば高架橋の圧迫感に対する評価値を 測定するなど、主に構造物の物理量の変化とそこから受け る心理量の関係を分析するために用いられる。 参考文献 1) 国土交通省 HP:無電柱化推進のあり方検討委員会中間取 りまとめ,http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/chicyuka/index.html 2) 国土交通省 HP:無電柱化の推進に関する法律, http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/chi_20_ 01.html 3) 国土交通省 HP: 緊急輸送道路を対象に電柱の新設を禁止する措置, http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/chi_17. html 4) 国土交通省道路局通達: 電線等の埋設物に関する設置基準の緩和について,2016 年 2 月,http://www.mlit.go.jp/common/001120085.pdf 5) 松田泰明,岩田圭佑,井上利一:ルーラルエリアにおけ る通信線の景観への影響と単独埋設の有効性について, 土 木学会論文集D3(土木計画学)Vol.72 No.5, I_559-I_570, 2016. 6) 小山暁,窪田陽一,深掘清隆,稚貝英二:電線・電 柱による錯綜感に関する研究,景観・デザイン研究 論文集,No.3, pp.95-102, 2007. 7) 岩田圭佑,松田泰明,兵庫利勇:田園地域の沿道景観向 上に向けた電線電柱類の効果的な景観向上策に関する研 究,土木計画学研究・講演集,Vol.49, 2014. 8) 岩田圭佑,蒲澤英範,松田泰明:景観まちづくりにおけ る無電柱化の整備効果に関する事例分析,平成 28 年度第 60 回北海道術研究発表会,2017.2. 9) 小林勇一,田所登,岸寛人:無電柱化に向けたケーブル 埋設用トレンチャーによる道路路盤掘削試験,寒地土木 研究所月報,No.767,pp.33-37,2017.4. 10) 篠原修編:景観用語辞典 増補改訂版,pp.72-73,彰国社, 2007.

参照

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