緒 言 膀胱子宮内膜症は,子宮内膜症のなかでは 1%未満といわれている比較的まれな疾患であ る.月経時に膀胱刺激症状(排尿痛,頻尿,血 尿)を引き起こし,しばしば急性膀胱炎と診断 され,日常生活の QOL を損なうことがある. われわれは保存的治療では症状のコントロール が困難な5症例の膀胱子宮内膜症に対し,腹腔 鏡下膀胱部分切除術を行うことで全例に良好な 結果を得ている(表1).しかし,膀胱の手術 に際しては,切除範囲が広範囲に及べば膀胱容 量の極端な減少による術後の排尿障害,切除部 位が三角部に及べば尿量知覚障害による残尿増 加や慢性膀胱炎を引き起こす可能性,また,尿 管口に及べば膀胱尿管新吻合の必要性など,術 後の膀胱機能を考慮した手術内容が必要とな る.今回,膀胱右側壁から頂部にかけて存在し た病変に対し,右の尿管口近傍にまで切除範囲 が及んだが,術後の経過が良好であった症例を 経験したので文献的考察を加えて報告する. 症 例 40歳,未婚,未経妊. 既往歴:特記すべきことなし. 月経歴:初経10歳,周期整,持続6∼7日間. 現病歴:月経時の強い排尿時痛(VAS8)を主 訴に当院泌尿器科を受診.膀胱鏡にて右側壁か ら頂部にかけて 広 範 囲 に 粘 膜 面 に 突 出 す る blue berry spot 様腫瘤を認め(図1),経尿道 的膀胱腫瘍生検の結果,膀胱子宮内膜症と診断 さ れ た.12ヵ 月 に わ た り 休 薬 期 間 を お い て GnRH アゴニストによる保存的治療を続けてい たが,改善徴候なく薬剤の継続に限界があるた め手術目的で当科紹介となった. 全身所見:特記すべきものなし. 局所所見:内診にて左直腸壁,右膀胱子宮窩に 硬結を触知. 経静脈的尿路造影検査:異常所見なし. 経腟超音波所見:膀胱子宮窩腹膜より連続して 膀胱右側壁に突出する15×22×17mm 大の腫瘤 を認めた(図2). 骨盤 MRI(ゼリー法)所見:膀胱右側壁筋層に 直径2cm 大 T1,T2強調画像にて“iso inten-〔一般演題/異所性2〕
膀胱子宮内膜症に対する腹腔鏡下手術
―病変の位置と膀胱の縫合修復の工夫―
健保連大阪中央病院婦人科 蔵盛理保子,佐伯 愛,奥 久人,久野 敦 松本 貴,伊熊健一郎 表1 当院で経験した腹腔鏡下膀胱部分切除術5症例 症例 年齢 G P 症状 膀胱内 での 発生部位 その他の病変 1 28 0 0 排尿痛 後壁正中 なし 2 33 1 1 排尿痛, 血尿 月経痛 三角部 卵巣チョコレー ト嚢胞 3 45 2 2 排尿痛, 月経痛 頻尿,排 便痛 後壁正中 子宮腺筋症 卵巣チョコレー ト嚢胞 仙骨子宮靭帯病 変 4 31 0 0 排尿痛, 月経痛 慢性骨盤 痛 後壁正中 卵巣チョコレー ト嚢胞 仙骨子宮靭帯, 腟壁 ダクラス窩 5( 報 告例) 40 0 0 排尿痛 右側壁 仙骨子宮靭帯sity”の腫瘤を認め た(図3).子宮腺筋症や 卵巣チョコレート嚢胞などの所見は認めなかっ た. 経肛門的内視鏡:直腸粘膜は異常所見なし. 以上の所見より,深部子宮内膜症を伴った膀 胱子宮内膜症と診断し,膀胱尿管新吻合術の可 能性を説明のうえで,腹腔鏡下子宮内膜症深部 病変切除術と膀胱部分切除術の施行となった. 手術所見:子宮は正常大で,両側付属器には異 常を認めず.右円靭帯から膀胱子宮窩にかけて 癒着と硬結を認めた(図4).左仙骨子宮靭帯 にも硬結を認めダクラス窩は直腸が強固に癒着 し完全閉鎖していた.r―ASRM 分類では50点で stageÂであった.まず,同部位の子宮内膜症 病変を切除しダクラス窩を完全開放した.つい で右円靭帯から右子宮前面と膀胱との癒着を剥 離し,右後腹膜腔を展開し,子宮動脈と右尿管 の走行を確認したうえで膀胱壁を切開した.腫 瘍は膀胱壁全層に及んで切除した.泌尿器科に よる術前膀胱鏡所見では,粘膜面の病変と右尿 管口との距離は十分にあるとの見解であった が,手術時の筋層の病変は右尿管口近傍まで広 範囲に及んでいた.泌尿器科医師と検討した結 果,右尿管口と切除断端との距離は収縮した状 態においても5mm 以上保たれたため膀胱尿管 新吻合は不要と判断した.膀胱壁の閉鎖に緊張 がなく,かつ尿管との位置関係に配慮した膀胱 壁縫合として,創面を T 字型に修復すること にした.尿管ステントを留置した状態で膀胱壁 を2層に分けて縫合修復した(図5).はじめ に T 字型の縦方向に下から上へと3―0PDS に て粘膜面を連続縫合し,筋層は2―0バイクリ ルにて尿管に緊張のかからないよう単結紮縫合 した(図6).続いて横方向に移り,粘膜面を 図3 MRI 所見 膀胱右側壁に“iso intensity”な腫瘤を認めた. 図1 術前の膀胱鏡所見
膀胱粘膜面に突出する blue berry spot を認めた.
図2 経腟超音波所見(膀胱充満時) 膀胱筋層より突出する腫瘤を認めた.
図4 腹腔鏡所見
右円靭帯から膀胱子宮窩腹膜にかけて癒着と硬 結を認めた.
3―0PDS にて連続縫合し2―0バイクリルに て筋層を同様に縫合修復した(図7).最後に 膀胱内に生理食塩水100ml を注入し,リークテ ストにより漏出の有無と良好な進展性を確認し 終了した(図8).手術時間283分(待機時間を 含む),術中出血100ml,左仙骨子宮靭帯5g, 膀胱病変(正常粘膜含む)9.3g であった. 術後病理所見:膀胱筋層に平滑筋の過形成と円 柱上皮からなる子宮内膜腺細胞を認めた(図 9).左仙骨子宮靭帯にも子宮内膜腺細胞を認 めた. 術後経過:膀胱カテーテルは術後14日間留置し た.逆行性膀胱造影にて異常のないことを確認 したうえで膀胱カテーテルを抜去し,術後16日 目に退院となった.術後1年経過した現在,薬 物療法は行っていないが頻尿などの排尿障害は 認めず,排尿痛は VAS 0と消失している. 考 察 膀胱子宮内膜症は,子宮内膜症の1%未満と いわれ〔1〕,本邦においても150例程度の報告 にとどまるまれな疾患である.その発生成因に 関しては,月経血の腹腔内への逆流により腹腔 病変が生じ膀胱に浸潤していく移植説,膀胱腟 図5 尿管ステント留置 収縮した状態で尿管口との距離は5mm 以上保 っていた. 図8 手術終了時 リークテストを施行し進展性も確認した. 図6 膀胱修復 尿管ステントを留置して尿管口に配慮しながら 縦方向に2層で縫合修復した. 図9 術後病理所見 平滑筋の過形成と円柱上皮からなる腺構造を認 めた. 図7 膀胱修復 横方向に2層で縫合修復した.
中隔に遺残したミューラー管より発生する化生 説,子宮前壁に存在する子宮腺筋症から連続性 に発生する直接進展説が知られている〔2〕.発 症年齢の平均は31.1歳と生殖年齢に好発するが 〔1〕,初経から1年以内の13歳の報告や閉経後 女性の報告もみられる〔3,4〕. 発生部位としては膀胱後壁,三角部,後三角 部の順に多く全体の90%以上を占め,その後は 左尿管口部,頂部,頸部と続く〔5〕.われわれ の経験した5症例の中で,1例は三角部,3例 は後壁正中部であった.今回報告した症例は右 尿管口付近に病変を認めたもので,検索しえた 範囲の本邦での報告は1例のみで,まれな部位 に発症したものと思われた〔6〕. 治療法として,本邦では膀胱部分切除を施行 した例は,腹腔鏡下を含み8割以上を占めてい る〔7〕.Marcus らは薬物療法は症状軽減にお いて効果があるが,中止とともに再発が必至で あることから手術を勧めている〔1,8〕.Donnez らはほとんどの症例において粘膜面に異常がな か っ た た め,“extramucosal excision”で 十 分 病変を切除できると述べているが,長期予後に ついてはまだ報告されておらず膀胱粘膜側の組 織を残すことについての評価は不明である〔9〕. しかし,本症例のように GnRH アゴニストの 使用にもかかわらず,明らかな子宮内膜症病変 を膀胱粘膜に認める場合には,正常な膀胱粘膜 を含めた全層切除が適切であると考えられる. 再 発 率 の 点 か ら も Nezhat ら は,病 変 か ら5 ∼10mm 程正常膀胱筋層を含めた切除が再発率 を低下させたと報告している〔10〕.また経尿 道的膀胱腫瘍切除術(TUR―Bt)による“volume reduction”の選択肢もあるが,一時的な症状 改善がみられたとしても,膀胱子宮内膜症は粘 膜面から発生したものではなく外側より膀胱筋 層に浸潤した病変であると考えられるため,膀 胱内からの完全切除は不可能である.また再燃 したとの報告もみられるため〔6〕,TUR―Bt は あくまで対症的な手術療法であると考える. 膀胱部分切除術では膀胱容量低下や排尿障害 が懸念されるが,膀胱三角部の広範囲切除や, 尿管口,膀胱頸部,骨盤神経叢膀胱枝が走行す る膀胱子宮靭帯後層を切断しない限り,膀胱に は進展性があり広範囲の切除であってもその機 能は時間とともに代償されると思われる.実際 本例では右尿管口近傍まで広範囲に切除した が,頻尿などの術後合併症は認めず良好な経過 をたどっている.したがって膀胱子宮内膜症の 多くは外科的な切除は可能であると考える. アプローチ法に関しては,癒着や病変部位に よっては Fedele らの開腹術を推奨する報告が ある〔11〕.これに関しては,われわれはすで に腹腔鏡下でのアプローチがほとんどの症例で 可能であると述べたが〔9〕,その選択はあくま で術者の技量によると考える. 膀胱壁の縫合修復に際しては1層縫合で十分 とされているが,重要なことは粘膜面を丁寧に 合わせることと,できる限り“water tight”に 縫合することである〔8,12〕.腹腔鏡下手術を 施行するにあたり,膀胱の閉鎖だけであれば1 層縫合で十分であるが,尿管に近い部位での膀 胱壁を修復する場合には必ず2層縫合で密に修 復するべきと考える.今回われわれは,尿管に 不要な緊張のかからないよう,かつ尿管口に配 慮しながら T 字型に2層縫合で膀胱壁修復を 行い予後良好であった膀胱子宮内膜症の1例に ついて報告した. 結 語 膀胱子宮内膜症は根治性を考慮すると,病変 を正常膀胱壁とともに過不足なく切除する膀胱 部分切除術が望ましいと思われた.また病変部 位や切除範囲によっては,とくに尿管において 緊張のかからないよう膀胱修復に工夫が必要 で,かつ膀胱尿管新吻合の準備と泌尿器科との 連携が大切であると考える. 文 献
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〔12〕上田陽彦.私の行っている縫合と吻合の手技 3 膀胱切開法と膀胱縫合法.臨泌 2002;56:1109− 1115