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リスク分担型 DB の概要 年金改正解説 3 PwCあらた監査法人第 2 金融部 ( 保険 共済 ) 年金数理人井川孝之 はじめに社会保障審議会企業年金部会 ( 以下 企業年金部会 ) が 2015 年 1 月に 社会保障審議会企業年金部会の議論の整理 ( 以下 議論の整理 ) を公表した後 201

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特集 :

サイバーリスクへの対応

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議論の背景

前回、わが国においては、確定拠出年金(DC)は十分普及 している状況にないことをご説明しました。このことは、実 は DCに限ったことではなく、わが国において、確定給付企 業年金(DB)を含む企業年金全体について、普及は十分と はいえません。企業年金部会で示された2013年3月末時点 の企業年金加入者数の厚生年金被保険者数に対する割合 は、厚生年金基金と確定給付企業年金の加入者の重複が全 く存在しない仮定でも39.5%という状態でした。その後、厚 生年金基金の解散数が増え、この割合はさらに小さくなって いる可能性があります。 それでは、企業年金がなくても、老後の生活保障は十分 でしょうか。図表 1は、わが国と海外先進諸国の公的年金の 所得代替率を表しています。所得代替率とは、年金受給開 始時点の年金額が、現役世代の手取り収入額(賞与込み)と 比較してどの程度の割合かを表します。図表 1の前提と異な る部分がありますが、国際労働機関(ILO)第 102 号条約で は、老齢(有配偶)の受給者について 30 年拠出した場合に 従前の所得の 40%以上を実現することが織り込まれてお り、公的年金が縮小して行くなかで、公的年金の給付のみ では、求められる所得代替率を達成できない恐れがありま す。図表 1に掲げる国には、公的年金の所得代替率はそれ ほど高くありませんが企業年金などの私的年金が充実して いる国もあり、公的年金と私的年金を合わせて制度設計の 議論が行われています。 企業年金部会では、わが国における企業年金のカバー率 や公的年金の給付水準の状況も踏まえ、企業年金の普及を 促進し老後に向けた自助努力をできる限り支援していく方 策について議論されました。その中で、より自由な設計を可 能とするため、柔軟で弾力的な給付設計や拠出時・給付時 の仕組みについて検討され、以下のとおり、取りまとめられ ました。 はじめに  社会保障審議会企業年金部会(以下「企業年金部会」)が 2015年1月に「社会保障審議会企業年金部会の議論の整理」 (以下「議論の整理」)を公表した後、2015年 4月に「確定拠 出年金法等の一部を改正する法律案」(以下「DC法改正 案」)が国会に提出されました。さらにこの後、2015年 6月に 政府の日本再興戦略が策定され、運用リスクを事業主と加 入者で柔軟に分け合うハイブリッド型の企業年金制度の導 入と将来の景気変動を見越したより弾力的な運営を可能と する内容が織り込まれました。これを受け、企業年金部会で は、2015年9月に、「リスク対応掛金」と「リスク分担型DB」が 提示され、2016年 4月導入に向け準備が進められていまし たが、実施は遅れている状況です。  本稿では、わが国の企業年金の課題を確認しながら、リ スク分担型DBの概要について解説します。また、リスク分担 型 DBの参考とされている海外の集団型 DCなどの状況を簡 単にご紹介し、リスク分担型 DBが活用されるための課題に ついて考察します。文中の意見にわたる部分は筆者の私見 であり、PwCあらた監査法人または所属部門の正式見解で ないことをあらかじめお断りします。 PwCあらた監査法人 第2金融部(保険・共済) 年金数理人

 井川 孝之

リスク分担型DBの概要

【年金改正解説③】

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「議論の整理」(2015年1月・抜粋) 2.企業年金制度等の普及・拡大に向けた見直しの方向性 (2) 柔軟で弾力的な給付設計 ○ 柔軟で弾力的な給付設計については、企業年金の選択肢を拡大 し、企業年金の普及・拡大に資するものと考えられることから、諸外国 の例を参考に、現場のニーズや現行制度(キャッシュ・バランス・プラ ン)との違いを踏まえつつ、制度導入も視野に入れて引き続き検討す べきである。 「議論の整理」の後、2015年 6月30日には、政府の「日本 再興戦略」改訂 2015が閣議決定され、後述の「リスク対応 掛け金」と「リスク分担型 DB」の内容が織り込まれました。こ れらの概要案については、2015年 9月と2016年 4月の企 業年金部会において示されています。 2

企業年金の給付設計の種類と特徴

「議論の整理」に記載された「柔軟で弾力的な給付設計」と は、DBとDCの中間的な特徴を持つもので、ハイブリッド型 とも呼ばれます。ハイブリッド型の代表的な給付設計とし て、キャッシュ・バランス・プランがあります(図表2参照)。 キャッシュ・バランス・プランは、1985年に米国で開発さ れた制度ですが、わが国においても、DBの中で2002年より 利用可能となっており、多くの日本企業が既に利用していま す。キャッシュ・バランス・プランの給付は、一定の保証を設 けつつ、国債利回りなどの指標に連動して給付が改定される 仕組みとなっており、市場金利の変動に対し、退職給付債 務や費用の変動を抑制することができる特徴があります。 運用リスクについては、伝統的な DB(勤続年数別の定額 給付や最終給与比例給付など)と同様、キャッシュ・バラン ス・プランにおいても事業主が負うこととなりますが、給付 が国債利回りなどの指標に応じて改定されるため、金利水 準などの変動による積み立て不足の発生を抑制することが 可能な仕組みとなっています。わが国のキャッシュ・バラン ス・プランでは、一定の保証を設けつつ、年金資産の運用 利回りに応じ給付を改定する設計も可能です。これに対し、 DC(後に詳述するリスク分担型 DBや海外の集団型 DCと区 別するため、以下「伝統的 DC」と言います)は、各加入者が 全面的に運用リスクを負う仕組みとなっています。提案され ているリスク分担型 DBは、加入者や受給権者全員でリスク を負い分担し合う点が伝統的DCと異なります。 3

リスク分担型DBの概要

リスク分担型 DBを実施するためには、将来の財政悪化時 に想定されるリスクに備えるリスク対応掛け金の導入が必要 となります。その他にも、給付設計の変更に係る同意取得の 伝統的DB あらかじめ 規定された給付 国債利回り等に連動・保証有り 財政状況に連動運用実績等の 運用実績に連動 キャッシュ バランス プラン リスク分担型 DB 伝統的DC 給付の種類

給付は

運用実績に

関わらず規定

給付は

運用実績に

よって決まる

図表1:OECDによる先進諸国の年金給付水準の比較 単位:% アメリカ イギリス オーストラリア ドイツ フランス スウェーデン 日本 義務加入年金の所得代替率 38.3 32.6 52.3 42.0 58.8 55.6 35.6 (うち公的年金) 38.3 32.6 13.6 42.0 58.8 33.9 35.6 (うち義務的な私的年金) - - 38.7 - - 21.7 - 労働人口の40〜65%を カバーする任意の私的年金 37.8 34.5 - 16.0 - - - 図表2:企業年金の給付設計の種類と特徴

出所:OECD、 “Pensions at a glance 2013”、厚生労働省の資料を加工して作成

20歳から標準的な支給開始年齢まで平均賃金水準で働いた勤労者の年金(本人分)の平均賃金に対する比率 平均賃金・年金とも税・社会保険料控除前

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厚生労働省の資料を加工して作成 「給付現価」は将来の給付の現在価値、「掛金収入現価」はリスク対応掛金を除く将来の掛金収入の現在価値を表しています。 あらかじめ 労使合意により固定された リスク対応掛金を拠出 積立金 給付現価 掛金収入現価 リスク対応掛金 将来発生するリスク 加入者等の給付調整により 対応する部分 事業主の掛金負担により 対応する部分 財源 変動 給付 増減調整 取り扱いや、ガバナンスに係る規定の整備などが必要と考 えられますが、リスク分担型 DBに係る政省令案のパブリック コメントは、2016年5月11日時点で公表されておりません。 ここでは、企業年金部会で示されたリスク分担型 DBの仕組 みの概要について解説します。 (1) リスク対応掛け金 企業の掛け金負担力や年金資産の運用利回りは、景気変 動にも影響を受けることに鑑み、景気が良好な間に掛け金を 増やし将来の財政悪化に備えることを可能とするリスク対応 掛け金が提案されました。上述のとおり、リスク対応掛け金 は、リスク分担型 DBの前提となります。財政悪化時を想定し た積み立て不足の測定方法として、ストレスシナリオによる方 法やVaR(Value at Risk: バリュー・アット・リスク)、資産価格 の変動のみを考慮した係数を乗じる方法などが検討されてい ます。これらは、金融機関のリスク管理などで用いられている 複雑な手法ですが、リスク分担型 DBを実施する事業主にお いて取り扱う必要があります。また、リスク対応掛け金の設定 に恣意性がないか、一定の専門性を有する第三者が検証す べきという意見も企業年金部会では出されています。 (2) リスク分担型DB 提案されているリスク分担型DBの概要は、下記のとおりです。 [ 制度概要 ] ・掛金負担と給付調整 事業主が掛金負担により対応する部分(リスク対応掛金含む)と加入者 等の給付調整により対応する部分を予め規定 ・給付算定式 従来のDBにおける給付算定式 × 当該年度の調整率 図表 3は、DBの収入と支出の均衡の様子と事業主の掛け 金負担部分および給付調整の部分を表したものです。追加 拠出が発生しないよう、リスク対応掛け金と給付調整の部分 を規定しています。リスク対応掛け金は、標準方式では、積 み立て金の価格変動リスクと予定利率低下リスクの範囲内 で設定し、あらかじめ労使合意により固定とされています。 調整率を乗じる従来の DBにおける給付算定式としては、 現行の DBで用いられている定額制、最終給与比例制、平均 給与比例制、ポイント制などが可能と考えられます。当該年 度の調整率については、下記のとおりとされています。 [調整率] ・剰余が生じている場合:(積立金+掛金収入現価−将来発生するリス ク)÷調整を行わない場合の給付現価(1.0超) ・財政均衡している状態:1.0 ・不足が生じている場合:(積立金+掛金収入現価)÷調整を行わない 場合の給付現価(1.0未満) 単年度ごとの給付の変動を抑制するため、調整率は複数 年度で平滑化したものを使用することも可能とする案が示さ れています。 (3) リスク分担型DBの論点 上述のとおり、リスク分担型 DBは、複雑な制度となってお り、特に給付改定の仕組みが加入者や受給権者に理解さ れ、受け入れられるかが論点となります。また、運用方針の 策定やモニタリングを、多くの関係者を交えて、どのように 実施していくか、年金ガバナンスと資産運用も大きな論点で しょう。 事業主にとっては、リスク分担型 DBが会計上 DCとDBの いずれとされるかも大きな論点であり、これについては、企 図表3:リスク分担型DBの仕組み(イメージ)

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業会計基準委員会の退職給付専門委員会において審議が 続けられています。 4

海外の事例(集団型DC、DA)

リスク分担型 DBの参考とされた海外の給付設計の事例と して、オランダの集団型 DC、米国のフロア・オフセット・プ ラン、カナダのターゲット・ベネフィット・プラン、英国の DA (Defined Ambition: 目標建て)があります。このうち、既に 利用されているオランダの集団型 DCと、法案が成立し実施 される予定の英国DAについて、簡単にご説明します。 (1) オランダの集団型DC オランダの集団型 DCは、DCの要素を取り入れた DBであ り、掛け金水準を一定期間固定し、その間は、積み立て水 準に応じて給付をスライド調整する仕組みです。オランダで は、2006年以降、多くの上場企業が集団型 DCへ制度変更 し、会計上も会社と監査人の間の議論を経た上で、DCとし て説明されてきました。わが国のリスク分担型 DBの議論で も指摘されているとおり、制度の理解のためには十分な説 明が必要であり、従業員の考え方を把握し、良好なコミュニ ケーションを取ることが制度の価値を高めるポイントの一つ のようです。高度なリスク管理と資産運用が求められること にも留意する必要があるでしょう。 (2) 英国のDA 英 国では、労 働 年 金 省 主 導で策 定された改 正 法 案 が 2015年 3月に成立し、職域年金に関し、DBとDCの中間的 な位置付けの DAが利用可能となりました。ただし、DAの詳 細を規定した政省令が公布されておらず、実施は先になる 見通しです。 DAの中で、オランダの集団型 DCと同様の制度を実施す ることは可能と考えられますが、英国においては、2009 年 に集団型 DC導入の検討が行われ、制度の複雑性や年齢に よる有利 ・不利の可能性などから、当時受け入れられなかっ た経緯があります。 上述のとおり、DAに関する政省令は発出されていません が、DAでは、DB、DCの他にリスク分担制度(Shared Risk Schemes)を規定し、集団型給付(Collective Benefits)とい う概念を導入しており、給付額を算定する要素についてさま ざまなリスク分担を可能にするものと考えられます。DAは、 集団型 DCも含めた柔軟性のある制度を規定可能としてお り、わが国のリスク分担型 DBの詳細を検討する上でも参考 になるものと思量されます。 5

年金ガバナンスと資産運用

リスク分担型 DBが提言された背景と提案されている制度 概要をご説明しました。リスク分担型 DBが実施可能となっ た場合、海外の事例を見ても、リスク分担型 DBを有効活用 するには、乗り越えなければならない課題が複数ありそうで す。そのうちの一つが年金ガバナンスと資産運用で、リスク 分担型 DBに限らず、DBや DCなども含めた企業年金全般に 関わるテーマです。次回は、法令 ・通知の内容も踏まえなが ら、主に、制度 ・給付種類に応じた年金ガバナンスと資産運 用について解説する予定です。

井川 孝之

(いがわ たかゆき) PwCあらた監査法人 第2金融部(保険・共済) シニアマネージャー 年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。信託銀行、コンサルティング 会社勤務等を経て、現職。退職給付会計に係る監査支援をはじめ、退職 金・年金制度設計や資産運用・リスク管理等、年金に係るアドバイザリー 業務に従事。 メールアドレス:takayuki.igawa@jp.pwc.com

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参照

関連したドキュメント

年金積立金管理運用独立行政法人(以下「法人」という。)は、厚 生年金保険法(昭和 29 年法律第 115 号)及び国民年金法(昭和 34

その他、2019

件数 年金額 件数 年金額 件数 年金額 千円..

(※1) 「社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会報告書」 (平成 29(2017)年 12 月 15 日)参照。.. (※2)

会  議  名 開催年月日 審  議  内  容. 第2回廃棄物審議会

*一般社団法人新エネルギー導入促進協議会が公募した 2014 年度次世代エネルギー技術実証事

*一般社団法人新エネルギー導入促進協議会が公募した平成 26 年度次世代エネルギー技術実証

*一般社団法人新エネルギー導入促進協議会が公募した 2014 年度次世代エネルギー技術実証事