第 1 節 基本方針
旧佐渡鉱山近代化遺産群の保存管理は施設個々
に保存管理を行うと同時に、これらの施設群をと
りまく周辺環境を含めた地域全体を文化景観資源
としてとらえ、地域の生活環境と調和のとれた保
存管理を行うものとする。また、近代化遺産群が
有効に活用され地域の誇りとして引き継がれてい
くよう、産官学民が連携する仕組みづくりを推進
し、地域の人々を中心とした持続可能な保存管理
を行うものとする。
(1) 周辺環境との一体的な保存管理
保存管理の対象は近代化遺産群及びそれらと一
体をなす周辺環境とする。近代化遺産群は、国・
県及び市の文化財関連諸法令に従って保存管理を
推進する。周辺環境は、景観法等の関連諸法令を
視野に入れ、関係諸機関との連携体制の強化を図
りながら一体的な保存管理を推進する。
整備にあたっては自然環境及び地域の生活環境
との調和に配慮する。また、施設間のアクセス整
備にあたっても同様に配慮するとともに、案内標
識の設置場所及び意匠について十分な検討を行う
ものとする。
(2) 施設の個別特性と相互関係の重視
個々の施設が持つ特性と施設相互の関係性を重
視し、保存管理と活用のための整備を実施する。
実施にあたっては、文化財価値を損ねることのな
いよう十分な検討を行うものとし、機械類におい
ては施設と一体的な保存管理を行うものとする。
保存活用にあたっては対象施設毎に復原、現状保
存、活用のための改善等の整備方法を計画し、建
造物と遺構について鉱山システムとの関連性が理
解できるよう適切な整備を行うものとする。また、
日常の維持管理行為と文化財価値に影響をあたえ
る整備行為の区分を明確にし、行為に対する事前
協議及び完了後の確認を法令に従って行うものと
する。
(3) 持続可能な保存管理の仕組みづくり
継続的な保存管理を行うため、地域に密着した
活動を目指した実施体制の整備充実を図る。その
ためには、地域の人々に近代化遺産群に関する情
報をしっかりと伝え、歴史を語る大切な資源とし
て残し伝えるものであることを認識してもらうこ
とが重要となる。その結果、地域の人々が高い意
識をもってこれら近代化遺産群の意味を考え、保
存管理の活動を行うことで、旧佐渡鉱山の価値や
魅力がよりよい状態に保たれる。そこで、“遺産が
重要なものであり人々に伝えたい”という思いを
もって地域の人々が自ら行動することを支援する
仕組みづくりを推進する。
(4) 他の文化財との総合的な保存管理
相川には近代化遺産群の他にも多くの文化財が
保存されている。特に国指定史跡の佐渡金山遺跡
は保存管理計画が策定されていることから、旧佐
渡鉱山近代化遺産群とともに佐渡鉱山遺跡全体の
保存管理として総合的な計画とする。
また、相川郷土博物館(旧御料局佐渡支庁)をは
じめとする多くの近代化遺産建造物が保存活用さ
れており、相川のまちなみ形成とも関連づけた計
画とする。
第五章 旧佐渡鉱山近代化遺産保存管理方針
第 2 節 保存管理と段階的整備
旧佐渡鉱山近代化遺産群の保存管理に至る前段
階として、先ずは多くの人々に遺産の状況及び価
値を知ってもらい、文化財としての認識を高める
ことが重要である。そこで、全体的な保存管理に
ついて段階的に進めることとする。
また、近代化遺産群は各地区に点在する多数の
構造物に対して整備が行われることから、個別施
設の整備を進めて行く中で、様々な整備段階の施
設が混在しながら、全体的な整備段階を向上して
いくこととなる。そこで、個別整備に優先順位を
計画し全体的な整備を効果的に行うこととする。
さらに、これらの整備を進める中で、鉱山のシ
ステムを構成する複数の施設要素の関係性をわか
りやすく解説するためのビジターセンター施設の
整備も早期段階において重要なものとなる。ビジ
ターセンター施設は相川郷土博物館などの既存施
設を利用することも視野に入れる。
以下にそれぞれの段階を示す。
(1) 全体的な保存管理の段階
a.近代化遺産施設群の存在を広く認識してもら
い、島内外に紹介する。
b.調査工事等により、保存管理のための具体的
な手法を決定する。
c.劣化を防ぎ、現状保存を行う。
d.修復、活用のための改修等を行う。
(2) 個別施設毎における整備段階
a.植物による構造物への侵食を防ぐために、樹
木を伐開する。
b.構造体の劣化を防ぐために、表面保護を施す。
c.外観を保存するための補修・補強を行う。
d.施設を活用するための補修・補強を行う。
(3) 整備の優先順位
a.保存状況が良く、施設の機能が分かりやすい
高任貯鉱舎及びベルトコベアーヤード、佐渡
鉱山機械工場、中尾変電所、北沢火力発電所
発電機室棟、戸地川第二発電所、大間港
b.アピール性の高い施設を整備する。
道遊坑、間ノ山搗鉱場、間ノ山上アーチ橋、
間ノ山下アーチ橋、旧北沢青化・浮選鉱所、北
沢浮遊選鉱場、北沢浮遊選鉱場インクライン、
北沢 50mシックナー
c.その他の施設を整備する。
高任坑、高任分析所、上相川火薬庫、諏訪隧
道・神明トンネル、戸地川第一発電所
第 3 節 保存管理の仕組みづくり
文化財の保存・活用においてはハード事業とソ
フト事業が相互に機能する必要があり、佐渡市担
当課を中心に関連各課に連携を働きかけながら推
進していくものとする。
(1) ソフトづくりの仕組み
生涯学習講座や現地見学会、ワークショップの
開催など、地域住民に対する情報提供の拡大を図
るとともに、学校教育においても地域の自然・歴
史・文化を学ぶ教育の推進を行い、次世代への学習
機会の充実を目指す。
現在、相川地区においては、観光客を対象に『相
川ふれあいガイド』によって佐渡金銀山の史跡を
中心とした案内を行っている。『相川ふれあいガイ
ド』の人材は、相川の歴史・文化財・寺社他に関す
る「学習講座」を受講した人の中から参加を依頼し
ているものである。今後は旧佐渡鉱山の近代化遺
産もこの案内の対象に含め、この仕組みをより充
実し、親子参加型の学習講座に参加した小中学生
にも『相川ふれあいガイド』を依頼するなど、よ
り多くの地域の人々が旧佐渡鉱山の歴史と触れ合
いながら観光や学習を行えるようにする。これら
地域住民による現地案内機能の確保及び充実を図
ることにより、見学時の興味と理解を深め、学習
効果を高めるようにする。
また、平成 19(2007)年に結成された全島規模の
民間団体である「佐渡を世界遺産にする会」や「古
道を歩く会」との連携活動を行い、住民が樹木管理
や施設の清掃、イベント企画などの活動に積極的
に参加できるよう推進する。
さらに、平成 17(2005)年より景観法が制定され、
平成 19(2007)年より佐渡市においても景観計画
の策定が進められている。これにより地域住民の
意向を踏まえ、それぞれの地域性及び多様な特質
の形成が期待されることから、旧佐渡鉱山と周辺
景観を保存管理する上で十分に連携を図るものと
する。
(2) ハードづくりの仕組み
佐渡市担当課が行う文化財に関連した保存・活
用整備の他に、道路誘導標識や施設案内板整備、
近代化遺産施設を取り込んだ公園化、遊歩道・散策
路整備などのまちづくり関連事業の導入も活用に
際して有効な手法となるため、関係各課との連携
を働きかける。これらの事業は地域の歴史・文化を
活かしたまちづくり施策として導入できることか
ら、文化財に関連する保存・活用整備のあらゆる段
階において積極的に推進していく。
また、施設の具体的な修復、活用のための改修
等を行う場合には、建築基準法や消防法、都市計
画法等の各種関係法令との調整が発生するため、
これら関係機関との協力体制も推進する。
(3) 学識経験者及び関係各省庁との体制
近代化遺産群は構造、仕上げ、機能において様々
な異なる条件の施設が残されているため、保存・
活用についての様々な手法が検討されたうえで、
各施設にとって最適な方法で整備が行われる必要
がある。したがって、国及び県の文化財行政担当
課と充分な情報交換を行いながら計画や整備を推
進するとともに、学識経験者を交えた整備検討委
員会を組織し、保存・活用の方法について広範にわ
たる検討を行うこととする。
第五章 旧佐渡鉱山近代化遺産保存管理方針
第 4 節 保存管理と公開
現在、旧佐渡鉱山近代化遺産群の所有者は㈱ゴ
ールデン佐渡であり、施設の維持管理及び安全管
理は同社が鉱山法を遵守しながら行っている。施
設の公開については佐渡金銀山の史跡を主にして
いたが、近年、「産業遺産散策コース」を設定し、
大立竪坑及び北沢浮遊選鉱場の公開を行っている。
今後は、地域住民、行政、学校教育機関も加わり
保存管理を推進するとともに、他の近代化遺産に
ついても積極的な公開を実施する。
旧佐渡鉱山近代化遺産群は貴金属選鉱・製錬の
技術史的変遷を中心に、近代鉱業の先端技術が導
入された足跡を辿りながら新たな価値や魅力を発
見することができる資源である。したがって地域
への情報提供に加えて、島外でのシンポジウム開
催などにより国内外への情報発信を行い、多くの
人々がこれらの遺産に触れられる機会を増やすよ
う、積極的な PR を行うものとする。
このように、旧佐渡鉱山近代化遺産群を含む歴
史資源は地域の教育資源及び観光資源ともいえる
ものであり、保存管理と公開が歴史文化の啓発と
観光等の産業振興につながり、地域の誇りとなっ
て引き継がれていく資源となるよう計画を推進す
るものとする。