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経済 TOPICS No.133 (2017 年 4 月 17 日 ) 景気ウォッチング 1. 日本経済 緩やかに回復している 輸出が米国 中国向けなどを中心に増加しているほか 設備投資も趨勢としてみると持ち直してきている 消費は緩やかではあるが 均してみれば増加傾向にある 生産 出荷関連の指標も持

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No.133

(2017 年 4 月 17 日)

景気ウォッチング

経済

TOPICS

1.日本経済「緩やかに回復している」

輸出が米国、中国向けなどを中心に増加しているほか、設備投資も趨勢 としてみると持ち直してきている。消費は緩やかではあるが、均してみれ ば増加傾向にある。生産、出荷関連の指標も持ち直してきている。金融面 では、株価はこのところ北朝鮮問題などを嫌気して軟調。為替市場では 11 月を境にいくぶん円高気味に推移していたが、3月後半以降はドル安・円 高傾向を強めている。10 年物国債利回りのプラス幅は縮小。

2.米国経済「拡大を続けている」

米国経済は均してみれば年率2%前後で拡大を続けている。個人消費は 底堅い動きを強めているほか、輸出も増加傾向にある。設備投資も緩やか に回復している。雇用者数も増加を続け、失業率はかなり低い水準にある。 株 価は 新 大 統 領 によ る 景 気 刺 激策 を 期 待 して 2 月に は 最 高 値 を更 新 し た が、最近ではもみ合っている。住宅価格の上昇も続いている。

3.マネーが増えても物価が上がらない理由

異次元金融緩和がはじまって5年目に入ったが、2%の物価目標を達成 できる目途は立っていない。原因は、日本銀行が金融機関から国債を大量 に購入してマネタリーベースを増やせばマネーストック(通貨量)が大幅 に増え、その結果、景気が良くなり物価も上がると考えてきたことなどに ある。本ペーパーでは、なぜマネーが増えても物価が上がらないかという 点について踏み込んで考えた。

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1.日本経済「緩やかに回復している」

供給面の動きを鉱工業指 数によってみる と、2月の生産指数は輸 送機械、はん 用・生産用・業務用機械を中心に前の月を 上 回り、前年比では+4.8%のプラスになった。 先 行 き に つ い て は 、 3 月 は 前 月 比 ▲ 2.0% の マ イ ナ ス が 予 測 さ れ て い る が 、 4 月 は + 8.3% と 大 幅 な 上 昇 が 予 測 さ れ て い る 。 特 に 上 昇 寄 与 が 大 き い と さ れ て い る の は 、 は ん 用・生産用・業務用機械と輸送機械で、電子 部品・デバイス工業なども上昇が予測されて いる。 1 月 の 第 3 次 産 業 活 動 指 数 は 前 の 月 と 同 じ水準で、前年比では+0.7%となった。 鉱 工 業 生 産 指 数 と 第 3 次 産 業 活 動 指 数 を 加重平均した1月の月次実質GDPは、鉱工 業 生 産 指数 のマ イ ナ ス が 響 いて 前 の 月 を ▲ 0.4% 下 回 っ た が 、前 年 比 で は +0.8% と 8 か月続けてプラスになった※ 需 要 項 目 別 に み ると 、 個 人 消 費 全 体 の 方 向 と 度 合い を あ ら わ す2 月 の消 費 総 合 指 数 は 3 か 月続 け て 前 の月 を 上 回り 、 前 年 比 で は+1.6%上昇した。個人消費を個別にみる と 、 2 月 の 小 売 業 販 売 額 は 前 年 比 で は + 0.2% と 4か 月 続 け て プ ラ ス にな っ た 。「 燃 料 小 売 業を 除 く 個 人 消 費 」は前 年 比 で は ▲ 0.7%と5か月振りにマイナスになった。3 輸出が米国、中国向けなどを中心に増加しているほか、設備投資も趨勢として みると持ち直してきている。消費は緩やかではあるが、均してみれば増加傾向に ある。生産、出荷関連の指標も持ち直してきている。 金融面では、株価はこのところ北朝鮮問題などを嫌気して軟調。為替市場では 11 月を境にいくぶん円高気味に推移していたが、3月後半以降はドル安・円高傾 向を強めている。10 年物国債利回りのプラス幅は縮小。 100 102 104 106 108 110 112 消費総合指数(実質、季調済) 2011年=100 14/3月        月次実質GDP(季節調整後、水準) 93 95 97 99 101 103 105 107 109 510 515 520 525 530 535 540 545 550 14/1月 7 15/1 7 16/1 7 17/1 月次実質GDP 第3次産業活動指数(右軸) 鉱工業生産指数(右軸) 2005年=100 兆円 17/3、4月の鉱工業生 産指数は予測値

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月の乗用車新車販売台数 は乗用車(普通 車)の増加を主因に2か 月続けて前の月 を上回り、前年比では+9.6%のプラスになった。旅行代理店取扱額はこのところ 横ばい圏内の状態が続いており、1月の前年比は▲0.8%のマイナスになった。外 国人旅行は趨勢としてみ ると増加気味で、このところ少し勢いを 増しているが、 主力の国内旅行はほとんど横ばいである。海 外 旅 行 は 海 外 の テ ロ 事 件 等 を 嫌 気 し て 趨 勢 としてみると落ち込んだ状態にあるが、12 月 は前の月を上回った。 2月の住宅着工戸数は前の月を下回り、前 年 比 で は ▲ 2.6% と 8 か 月 振 り のマ イ ナ ス に なった。これは振れの大きい分譲住宅が前の 月を大幅に下回ったためで、分譲住宅を除く と前月比では+2.0%、前年比では+3.0%と ともにプラスであった。 設備投資関連では、設備投資の一致指標で あ る 2 月 の 資 本 財 出 荷 は 前 の 月 を 下 回 っ た が 、 前 年 比 で は +5.7% と 8か 月 連 続 で プ ラ スになった。2月の建築着工(非居住用)は 3か月続けて前の月を上回り、前年比では+ 7.9% の プ ラ ス 。 機 械 投 資 の 先 行 指 標 で あ る 機械受注は、均してみるとこのところ緩やか な減少傾向が続いている。 2 月 の 輸 出 ( 実 質 ベ ー ス ) は 3 か 月 振 り に 前の月を上回り、前年比では+10.3%増加し た。国別には、アメリカ向けと中国向けなど が、財別には自動車、情報関連、資本財・部 品等が牽引。情報関連の増加の背景には、ス マ ホ の 更 新 需 要 や 生 産 活 動 に お け る I T 化 の進行などがあるとされている。輸入(同)は 減 少 し 、 前 年 比 で は▲ 4.6%の マ イ ナ ス に な った。 2 月 の 公 共 工 事 出 来 高 は 2 か 月 続 け て 前 の 月 を 上 回 っ た が 、 前 年 比 で は ▲ 4.2% の マ イナスであった。土木の前年比マイナス幅は   (注)機械受注は3か月加重移動平均、ウェイト前月1、      当月2、翌月1。 90 95 100 105 110 115 120 125 14/1月 7 15/1 7 16/1 7 17/1 2005年=100 実質輸入 実質輸出入 実質輸出 100 105 110 115 120 125 700 750 800 850 900 14/1 月 7 15/1 7 16/1 7 17/1 10億円 機械受注 資本財出荷 (右軸) 2010年=100 設備投資関連 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 14/1月 7 15/1 7 16/1 7 17/1 万戸 15/6月 住宅着工戸数

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▲2.0%とそれほどでもないが、建築は▲15.1%と居住用・非居住用ともに大幅な マイナスになった。 雇用面(2月)では、有効求人倍率は 1.43 倍と前の月と同じ水準であった。常用 雇用指数は1年 11 か月続けて上昇し、前年比では+2.4%のプラスになった。完 全失業率は 2.8%と前の月を▲0.2%ポイント下回り、22 年8か月振りの低水準に な っ た 。 賃 金 指 数 は 前 の 月 を + 0.3% 上 回 り、前年比では+0.4%上昇。物価変動を除 く 実 質 賃 金 指 数は 前 年 比で は ▲0.2% と 1 年振りに前年水準を下回った。 為替レート(円/ドル)は 11 月を境にいく ぶん円高気味に推移していたが、3月後半 以降は「円安は行き過ぎ」との警戒感から ドル安・円高傾向を強めている。 3 月 の 円 建 て 輸 出 物 価 は 前 の 月 を 小 幅 に上回ったが、ガソリン、灯油価格の上昇 な ど か ら 円 建 て 輸 入 物 価 の 方 が 大 幅 に 上 昇した。この結果、輸出物価を輸入物価で 割 っ た 交 易 条 件 は 前 月 比 ▲0.6% と 5 か 月 連続で低下し、前年比では▲7.8%のマイナ スになった。 3月の国内企業 物価は輸入 価格の上昇を 主因に5か月連 続で前の月を 上回り、前 年 比では+1.4%の上昇となった。 2月のコア消費者物価(除く生鮮食品)は 5か月連続で上 昇し、前年比 でも僅かで は あるが2か月続 けてプラスに なった。も っ とも、コア消費 者物価から更 にエネルギ ー を除いたコアコ ア消費者物価 は前年比マ イ ナスであった。 3月の東京都 区部速報は 、 コア消費者物価、コアコア消 費者物価と も に前年比マイナスになった。 株価は1月から 2月にかけ てもみ合い圏 内にあったが、4月に入ると 北朝鮮問題 等 の地政学リスクやドル安・円 高などが嫌 気 物価(前年比) ▲ 25 ▲ 20 ▲ 15 ▲ 10 ▲ 5 0 5 10 15 20 ▲ 5 ▲ 4 ▲ 3 ▲ 2 ▲ 1 0 1 2 3 4 14/1 月 7 15/1 7 16/1 7 17/1 交易条件(=輸出物価÷輸入物価、右軸) 消費者物価(除く生鮮食品) コア・コアCPI(除く食料〈除く酒類〉とエネルギー) 輸入物価(右軸) 国内企業物価 前年比、% 14/4月 (消費税分 +1.7%)           主要国の株価 (データ出所)日本経済新聞社、各国証券取引所 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 10/1月 11/1 12/1 13/1 14/1 15/1 16/1 17/1 日本 アメリカ イタリア フランス イギリス ドイツ 中国・上海 韓国 10/1月=100

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されて軟化。 ※ 月 次実 質 GD Pは 、 四半 期で し か発 表さ れ ない 実質 GD Pを 月 次で 捉え る こと がで き るも のと し て、当研 究所 が統 計的 手法(回 帰式 )で作成 。回帰 式 は、実質 GD P= 第 3 次産 業活 動指数×5.833 +鉱工 業生 産指 数×0.987-固定 値 169.8 決定 係数 : 0.977。

最近の日本の主要経済指標

(とくに断らない限り季節調整済み前期・月比、 %) 16/7-9月 10-12月 17/1月 17/2月 17/3月 前年比 生 生 産 1.4 2.1 ▲ 2.1 3.2 生産予測 2月4.8 産   鉱 工 業 出 荷 0.8 3.3 ▲ 1.1 1.4 3月▲2.0 2月3.7 活 在 庫 ▲ 2.2 ▲ 3.2 ▲ 0.1 0.7 4月8.3 2月▲3.9 動 第 3 次 産 業 活 動 指 数 0.3 ▲ 0.1 0.0 1月0.7 ・ 実 質 G D P 0.6 0.3 ▲ 0.4 1月0.8 景 景気動向指数 一致指数 0.3 2.9 ▲ 0.4 0.4 気 (前期・月との差) 先行指数 0.0 2.8 0.1 ▲ 0.5 個 消 費 総 合 指 数 ( 実 質 ) 0.4 ▲ 0.0 1.0 0.2 2月1.6 人 小 売 業 販 売 額 ( 全 店 ) ▲ 0.1 1.0 0.2 ▲ 0.2 2月0.2 消     除く燃料 ▲ 0.2 0.8 ▲ 0.1 ▲ 0.5 2月▲0.7 費 乗用車新車販売台数(含む軽) 0.6 2.9 ▲ 1.5 2.8 0.3 3月9.6 等 旅行代理店取扱額 (主要50社) ▲ 1.4 ▲ 0.5 1.8 1月▲0.8 住  宅  着  工  戸  数 ▲ 1.2 ▲ 2.8 8.4 ▲ 6.1 2月▲2.6 投 資 本 財 出 荷 ( 国 内 向 け ) 1.7 3.3 0.9 ▲ 7.2 2月5.7 資 機械受注 (民需、除く船舶電力) 5.5 0.3 ▲ 3.2 1.5 2月5.6 ・ 建築着工(非居住用、移動平均後前月比) ▲ 2.8 1.9 2.5 1.7 2月7.9 輸 輸出・輸入 実質輸出 0.7 2.8 ▲ 1.0 6.5 2月10.3 出 (通関ベース) 実質輸入 0.6 ▲ 0.2 3.6 ▲ 6.3 2月▲4.6 公共工事 出来高 ▲ 1.0 ▲ 3.9 1.4 0.4 2月▲4.2 有 効 求 人 倍 率 (倍、水準 ) 1.37 1.41 1.43 1.43 -雇 常 用 -雇 用 0.6 0.6 0.2 0.2 2月2.4 用 完 全 失 業 率 ( % ) 3.0 3.1 3.0 2.8 名 目 賃 金 0.3 ▲ 0.1 ▲ 0.3 0.3 2月0.4 為 替 レ - ト (円/ドル、水準) 102.4 109.3 114.7 113.1 113.0 3月0.0 物  輸 出 物 価 ▲ 2.9 4.8 0.0 ▲ 0.4 0.3 3月3.7  輸 入 物 価 ▲ 1.7 6.9 1.8 0.4 1.0 3月12.5 価  交 易 条 件   (注) ▲ 1.2 ▲ 2.0 ▲ 1.7 ▲ 0.8 ▲ 0.6 3月▲7.8 国 内 企 業 物 価 ▲ 0.3 0.4 0.6 0.3 0.2 3月1.4 等 消費者物価 (除く生鮮食品、前年比) ▲ 0.5 ▲ 0.3 0.1 0.2東京▲0.4 - 同  (除く生鮮食品、エネルギー) ▲ 1.1 ▲ 1.1 0.1 ▲ 0.1東京▲0.4 -金融     株  価  ( 水 準 ) 16,497 17,933 19,194 19,189 19,3404/17日18,355 (注)交易条件は輸出物価を輸入物価で割った指数。

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2.米国経済「拡大を続けている」

鉱工業生産指数(除くエ ネルギー)は、 昨年8月をボトムに趨勢 としてみると 上昇を続けており、前年比では+1.1%のプラス。2月の個人消費のサービス指数 は2か月続けて前の月を下回ったが、前年比では+1.8%上昇した。この結果、鉱 工業生産指数(「除くエネルギー」)とサービス指数を加重平均した2 月の月次実質 GDPは前の月を僅かに下回ったが、前年比では+1.9%のプラスになった。 2月の景気先行指数は3か月続けて上昇し、前年比では+2.4%となった。 3月の消費者信頼感指 数は2か月続けて 前の月を上回り、前年 比では+30.7% と力強い上昇が続いてい る。3月の小売 販売額は2か月続けて前 の月を下回った が、前年比では+5.2%のプラスになった 。「ガソリンスタンドを 除く」ベースで も2か月続けて前の月を下回ったが、前年比では+4.5%のプラスになった。 2月の中古住宅販売戸数は前年比では7 か月続けてプラスになっ た。中古住宅 の在庫は5か月振りに前の 月を上回った。住宅価格(1月)は前の月と同じ水準で あったが、前年比では+5.7%の上昇となった。 3月の製造業のISM景 気指数(PMI )は「生産」、「在庫」 を中心に7か月 振りに前の月を下回った。統計を作成しているISMでは、2月の 57.7%という 水準は年率では+4.4%の実質GDP成長に相当するとしている。非製造業の3月 のISM景気指数は「企業 活動」、「新規 受注」を中心に2か月振り に前の月を下 回った。この 55.2%という水準は年率で は+2.4%の実質GDP 成長率に相当す るという(PMIは水準 ではなく変化の 度合いをあらわす指標で 、前の月からの 上昇は伸び率の拡大を意味する)。 2月の設備投資指数は前 の月を上回り、 前年比では+1.8%のプラスになった。 GDP統計の設備投資も 10~12 月期は前期比+0.3%と3四半期続けて前の期を 上回った。設備投資の先 行指標である2 月の非国防資本財受注は 2か月続けて前 の月を下回ったが、前年比では+0.2%のプラスになった。 2月の財輸出(実質)は前の月と同水準であったが、前年比では+4.2%と8か 月続けてプラスになった。輸入も趨勢としてみると増加傾向にある。 米国経済は均してみれば年率2%前後で拡大を続けている。個人消費は底堅 い動きを強めているほか、 輸出も増加傾 向にある。設備投資も緩や かに回復し ている。雇用者数も増加を続け、失業率はかなり低い水準にある。 株価は新大統領による景気刺激策を期待して2月には最高値を更新したが、 最近ではもみ合っている。住宅価格の上昇も続いている。

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3 月 の非 農 業 雇 用 者 数 の 前 月 比 増 加 数 は +9.8 万 人 に 止 ま っ た が 、 失 業 率 は 4.5%と前の月を▲0.2%ポイント下回った。時間当たり賃金は前年比+2.3%のプ ラスと、2008 年9月に並ぶ同じ高さになった。 食料品・エネルギーを除く3月の消費者物価(コアコアCPI)は前年比+2.0% と、15 か月続けて2%台の上昇となった。 株価はトランプ新大統 領の景気刺激 策を 期待して2月には 12 営業日連続して 最高値を更新したが、その後は高値圏でもみ合っている。      図1 月次実質GDPと景気先行指数     図2 個人消費、設備投資、輸出(指数)     図3 雇用関連    図4 物価関連     図5 金融関連 15.0 15.5 16.0 16.5 17.0 110 115 120 125 130 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 14年 15年 16年 17 兆ドル 10年=100 景気先行指数 月次実質GDP (生産指数とサー ビス指 数の合成値)、右軸、注 46 48 50 52 54 56 58 60 62 64 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 14年 15年 16年 17 横ばい=50 ISM景気指数(非製造業) ISM景気指数 (製造業) 112 114 116 118 120 122 124 70 80 90 100 110 120 130 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 14年 15年 16年 17 1985年=100 消費者信頼感指数 設備投資、右軸 財輸出、右軸 2010年=100 16,000 17,000 18,000 19,000 20,000 21,000 22,000 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 14年 15年 16年 17 % FFレート 10年物国債利回 ドル 株価(右軸) 0 100 200 300 400 4 5 6 7 8 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 14年 15年 16年 17 % 非農業雇用者数 (前月比)、右軸 失業率 千人 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 9 11 1 3 6 14年 15年 16年 17 ドル/バレル 消費者物価(コアコ ア) 前年比、右軸 原油 価格 %

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最近の米国の主要経済指標  (とくに断らない限り季節調整済み前期・月比、 %) 16/7-9月 10-12月 17/1月 17/2月 17/3月 全 実質GDP(前期比年率、商務省発表) 3.5 2.1 前年比 体 月次実質GDP (注) 0.7 0.6 ▲ 0.0 ▲ 0.1 2月1.9 景気先行指数(カンファレンスボード) 0.5 0.2 0.6 0.6 2月2.4 消費者信頼感指数 6.2 7.1 ▲ 1.5 4.0 8.2 2月30.7 消 小 売 販 売 額 0.9 1.7 0.5 ▲ 0.3 ▲ 0.2 3月5.2 除 く ガ ソ リ ン 1.5 1.0 0.4 ▲ 0.3 ▲ 0.2 3月4.5 費 個 人 消 費 ( 実 質 ) 0.7 0.9 ▲ 0.2 ▲ 0.1 2月2.6 サ ー ビ ス 指 数 0.7 0.6 ▲ 0.1 ▲ 0.1 2月1.8 等 中 古 住 宅 販 売 戸 数 ▲ 1.8 3.1 3.3 ▲ 3.7 2月5.4 住 宅 価 格 ( F H F A 指 数 ) 1.6 1.5 0.0 1月5.7 ISM景気指数(製造業、横ばい=50) 51.1 53.3 56.0 57.7 57.2 -企 ISM景気指数(非製造業、横ばい=50) 54.4 55.8 56.5 57.6 55.2 -鉱 工 業 生 産 0.4 0.1 ▲ 0.1 0.0 2月0.3 エネルギー(  〃  27.5%) 2.3 ▲ 1.2 ▲ 2.6 ▲ 2.3 2月▲2.7 関 除くエネルギー(  〃  72.5%) ▲ 0.0 0.4 0.6 0.5 2月1.1 自動車・同部品(  〃  5.1%) 3.2 0.3 ▲ 0.8 0.8 2月2.6 業 除く自動車・同部品(ウェイト94.9%) 0.2 0.1 ▲ 0.0 ▲ 0.0 2月0.1 連 鉱 工 業 稼 働 率 ( % ) 75.5 101.3 75.5 75.4 2月▲0.3 設備投資(実質、四半期はGDPベース) 0.3 0.3 ▲ 0.1 0.9 2月1.8 非 国 防 資 本 財 受 注 (除く航空機) 1.0 2.2 ▲ 2.9 ▲ 0.1 2月0.2 財輸出(センサスベース、実質) 1.9 ▲ 0.1 1.9 ▲ 0.0 2月4.2 企 業 収 益 ( G D P ベ ー ス ) 23.3 2.1 10-12月9.3 非農業雇用者増減(前期・月差・千人) 627 528 216 219 98 3月1.5 雇 失  業  率  (  %  ) 4.8 4.7 4.8 4.7 4.5 -用 時 間 当 た り 賃 金 ( 前 年 比 ) 2.5 2.4 2.3 2.4 2.3 - 消費者物価(コア・コア、前年比) 2.2 2.3 2.3 2.2 2.0 -物    輸 出 物 価 (前期・月比) 0.6 0.3 0.2 0.3 0.2 3月3.6    輸 入 物 価 (前期・月比) 0.8 0.6 0.2 0.4 ▲ 0.2 3月4.2 価 交易条件 (輸出物価÷輸入物価) ▲ 0.2 ▲ 0.2 ▲ 0.3 ▲ 0.1 0.4 3月▲0.8 原油価格(WTI、ドル/バレル) 45.0 49.3 52.7 53.5 49.7 4/17日53.03 金 フェデラル・ファン ド・レー ト(期・月平均%) 0.40 0.45 0.65 0.66 0.79 4/14日 0.90 融 10年物国債利回(期・月平均%) 1.56 2.13 2.43 2.42 2.48 4/14日2.23 株価(NYダウ、ドル、期・月平均) 18,368 18,865 19,908 20,424 20,823 4/14日20,453 (注)実質GDP(鉱工業生産指数とサービス指数の合成)=サービス指数×150.4+鉱工業生産指数(除くエネルギー) 既往ピー ク    ×8.097-1214.65  決定係数=0.994、前月比のウェイトは前月1、当月2、翌月1の3か月加重移動平均。 3/1日 21,115

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3.マネーが増えても物価が上がらない理由

(要旨) 異次 元 金 融緩 和 が はじ ま っ て5 年 目 に入 った が 、 2% の 物 価目 標 を 達成 で きる目途は立っていない。なぜ日本銀行が「異次元」と言われる大胆な金融緩 和を 続 け てい る の に物 価 が上 昇 し ない か とい う と 、日 本 経 済は そ もそ も 金 融 緩和 を 徹 底す れ ば 景気 が 良く な り 物価 が 上昇 す る よう な 状 態に は ない か ら で ある。 それにも拘らず、なぜ日本銀行が過度な金融緩和を行ってきたかというと、 理由は二つあったと考えられる。一つは、日本銀行が金融機関から国債を大量 に購入してマネタリーベースを増やせばマネーストック(通貨量)が大幅に増 え、その結果、景気が良くなり物価も上がると考えたことである。もう一つは、 そう し た 政策 を 採 る中 で 、日 本 銀 行が 物 価は 上 が ると 言 い 続け れ ば人 々 の 物 価予想が高まり、実際の物価も上昇すると考えたことにあった。 しかし、それらはいずれも誤った考え方で、そのことは過去4年間の日本経 済が物語っている。日本の多くの企業はかつてのバブルに懲り、将来の活動に 必要な資金しか金融機関から借りなくなった。企業収益が改善し現・預金を十 分に持っているので資金繰りに不安はない。だから、いくら日本銀行が資金を 潤沢に供給してもマネーストック(M2)が増え、物価が上がることはない。 皆そのことを良く分かっているので、いくら日本銀行が将来「物価は上がる」 と言い続けても信じない。 過剰な金融緩和は、日本銀行の国債保有額を異常なまでに増加させ、日本銀 行の 資 産 内容 を 不 安定 に しただ け でな く 、健 全 な 金融 シ ス テム を 脆弱 に し つ つあ る と いう 点 で も大 き な問 題 が ある 。 大幅 な 金 利低 下 は 財政 規 律を 弛 緩 さ せるという点などでも問題である。速やかに軌道修正しなくてはならない。 (1)はじめに 日本銀行は物価上昇率2 %が安定的に展 望できる状態になるまで 異次元金融緩 和を続けるとしている。 しかし、異次元 金融緩和には多くの問題 があり、そのこ とはこれまで何度か本ペーパーなどでも明らかにしてきた※ 1。問題点は大別する と4つある。 第1は、目標としている 物価(消費者物 価)がガソリンや灯油な どの輸入品を 含めたものであることで ある。このため 、例えば原油価格が大幅 に上昇して消費 者物価が2%になった場 合でも「物価目 標は達成された」ことに なってしまう。 国内経済が十分に潤った 結果として物価 が上昇したのであれば問 題はないが、ガ

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ソリンや灯油の価格が上 昇したことが原 因で物価が上昇したので あれば実質賃金 が減るため、家計はむし ろ苦しくなって いるはずである。どうし ても物価を政策 目標にしたいのであれば 、価格変動の大 きい食料だけでなく、エ ネルギーを除い た「コアコアCPI」などの「国内物価」でなくてはならない。 第2は、かつて消費者物価上昇率が2%であったのは、日本では 1980 年代後半 のバブル期であったことで ある。前回の 本ペーパー(「3.タイト化する労働市場 の現状と課題」)でも触れたことであるが※ 2、当時の経済がどのような状態であっ たかというと、高い成長 率を背景に雇用 者数が増加を続け、賃金 と物価が上昇を 続けたバブル期であった。1992 年までの 12 年間の物価上昇率は年平均+2.5%、 賃金上昇率は+4.5%であった。このことは物価上昇率が+2%のときの賃金上昇 率は平均すると+3.6%(=2%×4.5%÷2.5%)であったことを意味する。わが 国はそうした過程でバブルを経験し、その弊害は 20 年以上続き、現在でも当時の 傷を引きずっている。先 進国が2%前後 の物価上昇率であるから 日本も目標とす る物価上昇率は2%で良 いとの説明も国 情を無視しているという 点で乱暴な考え 方である。 第3は、なぜ日本がこれ までデフレの状 態にあったかが正しく理 解されていな いことである。デフレの 原因は石油を中 心とする輸入コストの上 昇を輸出価格の 引き上げで吸収できなく なったことにあ った。新興国の経済成長 率がグローバル 化の進展によって高まった結果、原油価格は 1999 年の 19 ドル/バレルから 2013 年には 98 ドル/バレルと5倍に上昇し、その結果、輸入物価はドル建てで+80.4% も上昇した。しかし、ドル建て輸出物価は▲5.9%下落した。ドル建て輸出物価が 下落した主な原因は輸出 ウェイトが最も 高かった電気機械の輸出 価格が約半値に 値下がりしてしまったこ とにあった。中 国や台湾、韓国なども日 本と同じ程度、 あるいは日本を上回る商品価値を持った電気機械を生産、輸出するようになった。 それにも拘らず日本の電気 機械業界は新 たな市場(ブルーオーシャン)に挑むこと にあまり積極的でなく、 価格引き下げ競 争から抜け出せていない 。輸出価格と輸 入価格の両面で「グローバル化」に上手く対応できず、輸出入の採算(交易条件) が悪化してしまったこと にこそ経済低迷 、デフレの原因があった 。ところがその ような事実に気付かないまま(あるいは目をつむって)、物価が上がれば企業収益 が改善するので景況感が良くなり賃金は上昇し、物価も上がると期待してきた。 第4は、金融を徹底して 緩和し、マネー を大幅に増やせば物価が 上がると誤解 していることと、そうし た状況の中で「 物価が上がる」と日本銀 行が言い続けれ ば、「実際に物価は上がる」と誤解していることである。この2つは、なぜ日本銀 行が異次元金融緩和とい う危険な政策に 舵を切ったのかという点 に関わる特に重

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要な部分である。 新体制下の日本銀行は、 それまでの金融 緩和は不十分で、もっと 大胆に金融を 緩和すれば実態経済は元 気になり物価も 上昇すると考えた。しか し、異次元金融 緩和がスタートした 2013 年4月から既に4年が過ぎ、今月で5年目に入っている にも拘らず、物価はゼロ %近辺にとどま っている。日本銀行が先 般発表した短観 の「企業物価見通し」をみても、1年後の物価の前年比上昇率は+0.7%と3か月 前の調査(12 月)と変わらない。3年後の+1.0%、5年後の+1.1%という数字 も前回調査と同じである 。金融をいくら 緩和しても目標達成が困 難であることは 普通に考えれば分かることであるが、「誤った金融理論」に囚われているため異常 な金融緩和から訣別でき ていない。それ どころか、財政面で更に 緩和の余地があ るといった不可解な学説(物価水準の財政理論)すら話題に上がっている。 本ペーパーでは、この4 つ目の、金融を 徹底して緩和し、マネー を大幅に増や せば物価が上がるという考え方と、日本銀行が「物価が上がる」と言い続ければ、 物価は実際に上がるという考え方に焦点を当てて検証した。 (2)異次元金融緩和の狙いと現実のギャップ 2013 年4月にスタートした異次元金融緩和の最大のポイントは、金融機関が保 有している長期国債を年間 60 兆円から 70 兆円買い続けることによって物価上昇 率2%を達成するというものであった(その後 14 年 11 月には年 80 兆円に増額 された)。日本銀行が金融機関から国債を大量に購入し、対価として円資金を市場 に供給すれば金融機関は それを貸出に回 すので、マネーストック (通貨量)は増 え、景気が良くなり物価 目標が達成でき ると考えたわけである。 このような関係 をフロー図で示すと図1の上段の①「日本銀行が期待した流れ」のようになる。 しかし、下段の②にあるように、 金融機関 は国債の 売却代 金として 受け取っ たお金の ほとん どを日本 銀行の当 座預金( 日銀当 座預金) に預けた ままで、 貸出や マネース トックは あまり増 えず、 物価も期 待したほど上がっていない。 日 本 銀 行 が 保 有 す る 長 期 国 債 は、2013 年3月から 17 年2月ま での約4 年間 で+285 兆円増加し た。名目GDPは年約 500 兆円で       図1 日本銀行の期待した流れと現実との差 ① 日本銀行が期待した流れ 市場で国債を購入 銀行の日銀預け金の増加 銀行の貸出増加 景気の拡大 マネーストックの増加 物価の2%上昇 ② 現実の流れ 市場で国債を購入 銀行の日銀預け金の増加   (ここでストップ)

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あるから 57%に相当する大変な金額である。これがそのまま実需を刺激していれ ば名目GDPは+57%増えたはずである 。年率では+14%(=+57%÷約4年) の経済成長が続いても不 思議のない大量 の資金が日本銀行から金 融機関に注がれ 続けた。 しかし、それによって金融機関の貸出がどのくらい増えたかというと、2013 年 3月から 17 年1月までの約4年間で+49 兆円である。それは長期国債の購入額 の 17%(=49 兆円÷285 兆円)に相当し、残り8割強は日本銀行の当座預金に止 まっている。 なぜ、金融機関が貸出を 大幅に増やさな いかというと、それほど 借入需要がな いからである。もちろん お金を借りたい 企業は多数あるだろう。 しかし、金融機 関にあるお金は預金者か ら預かり、求め られれば元本に利息を加 えて返さなくて はならないので信用できる借り手にしか貸し出すことはできない。 図2は、なぜ企業が借入を増やさな いかを見たものである。企業は運転資 金 の 不 足 分 を 金 融 機 関 か ら の 短 期 借 入れで補ってきた。しかし、過去に遡 ってみると、1970 年以降ほとんどの期 間 で は 短 期 借 入 金 の 売 上 高 に 対 す る 比率(a)が必要運転資金の売上高に対 する比率(b)を大きく上回っていた。 その度合いが特に大きいのは 1980 年 代後半のバブル期で、ピークとなった 87 年 4 ~ 6 月 期 に は 必 要 運 転 資 金 を 超 え る 短 期 借 入 金 の 売 上 高 に 対 す る 比率(a-b)が 5.5%まで上昇した。こ う し た 余 剰 資 金 は 結 果 と し て 考 え る と土地取引や株式取引等に回り、バブ ルを引き起こしてきた。 そうした反省もあり、バブルが崩壊した 1990 年代から 2000 年代前半にかけて、 企業は短期借入金の返済 を積極的に進め 、金融機関も過剰と判断 される貸出の返 済を求めてきた。その結果、ピーク時には 18%近くあった短期借入金の売上高に 対する比率(a)は、最近では 12%弱に低下した。この 12%弱という水準は、過 去 40 数年間の中でみても非常に低い水準である。この結果、図の一番下にある必 要運転資金を超える短期借入金の売上高に対する比率(a-b)は、最近では▲1% 図2 企業の短期の資金需給(いずれも売上高に対する比率) (注)必要運転資金は売掛金、受取手形、在庫から買掛金と支払手形を引いた金額。 ( デ ー タ 出 所 ) 財 務 省 ▲ 2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 ▲ 2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 1970 75 80 85 90 95 00 05 10 15 必要運転資金 を超える短期借入金の比率 a-b 短期借入金の比率 a 必要運転資金の比率 b 現金・預金の比率 c 現・預金を加えた短期の余裕金の比率 a-b+c % 13年 年 87年4-6月期 5.5% 12%弱 (注) ▲1.0%

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前後のマイナスである(2016 年 10~12 月期▲1.0%)。 しかし、企業は資金繰り が苦しいとはあ まり考えていない。なぜ なら、企業収 益の改善によって現・預金の売上高に対する比率(c)が 2008 年をボトムにほぼ 一貫して上昇傾向にあるため、現・預金を加えた短期の余裕金の比率(a-b+c) はそれほど低い水準にないからである。 また、長期資金を加味してみても企 業の資金繰りに問題はない。図3は、 前 図 と 同 じ 方 法 で 企 業 の 長 期 資 金 の 需給関係をみたものである。長期借入 金の売上高に対する比率(d)と長期 資金 需 要の 売 上高 に対 す る比 率 (e) は 大 体 同 じ よ う な 水 準 で 変 化 し て き たが、完全に一致していたわけではな い。長期借入金の売上高に対する比率 (d)から長期資金需要の売上高に対 する比率(e)を差し引いた、長期余裕 金の売上高に対する比率(d-e)は、 図の一番下にあるように、最近では+ 4.8%のプラスで、過去 40 数年間では 1991 年7~9月期に並ぶ高さである。 理由は、設備投資関連の資金需要はこ こ数年横ばいの状態にあるが、金利が 非常に低いので企業が長期資金の借入れ水準を高目に維持しているためである。 また、長期余裕金の売上高に対する比率(d-e)に、現・預金を加えた短期の 余裕金の比率(a-b+c)を合算すると、その比率は最近では 17.9%となってい る。この水準は 1989 年から 90 年にかけてのピーク(1990 年1~3月期 21.1%) の 85%の水準である。異次元金融緩和が始まった 2013 年の段階でもその値は+ 15.5%であるから、すでに企業には十分な余裕金があったことになる。 このような状態は、大手自動車メーカーが原材料や中間品在庫を最小限に抑え、 あるいは大手のコンビニ エンスストアが POS(販売時点情報管 理)システムを 活用して、できるだけ少 ない在庫で最高 の販売額を実現しようと している経営を 考えれば納得がいく。1980 年代のバブルを経験した企業は、必要な資金だけを金 融機関から借り入れるよ うになった。先 行き必要な資金を正確に 予測し、余分な 借入はしない。必要なら 金融機関から容 易にお金を借りることが できるので、資       図3 企業の長期の資金需給(いずれも売上高に対する比率) (注)長期資金需要は建設仮勘定とその他の固定資産の合計金額。長期借入金には社債を含む。 ( デー タ 出 所 ) 財 務省 ▲ 5 0 5 10 15 20 25 30 ▲ 5 0 5 10 15 20 25 30 1970 75 80 85 90 95 00 05 10 15 長期余裕金の比率 d-e 長期借入金の比率 d 長期資金需要 の比率 e 長期余裕金と「現・預金を加えた短期の余裕金」の合計の比率 d-e+(a-b+c) % 13年 年 17.9% 4.8% 91年7-9月期 4.8% 90年1-3月期 21.1% 08年1-3月期8.3% (注) 15.5%

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金繰りが苦しいという気 持ちにならない 。むしろ「健全経営」と いう観点からみ て、余計なお金を借りていないことに満足しているかもしれない。 (3)マネーストックが増えれば物価は上がるのか? このように現状を整理す ると、日本銀行 が、金融機関が保有して いる国債を金 融市場から買い入れるこ とによって市場 に資金を供給しても貸出 の大幅な増加に つながらないのは当たり 前である。それ にも拘らず、なぜ日本銀 行は金融を緩和 すれば景気は良くなり、物価も上昇すると考えてきたのであろうか。 理由は、金融を徹底して 緩和し、マネー を大幅に増やせば物価が 上がると考え たことと、そうした状況 の中で、日本銀 行が「物価が上がる」と 言い続ければ、 物価は実際に上がると考 えたことにあっ た。両者は単独の考え方 としても存在す るが、日本銀行はこの2つの考え方が相乗効果をもたらすと期待したのであろう。 しかし、結論を先取りし て言えば、金融 を徹底して緩和し、マネ ーを大幅に増 やせば物価が上がる、と いう考え方は誤 解である。マネーは決済 に必要だから使 われるのであって、必要 がなければその 多くは銀行券であれば日 本銀行に、預金 であれば金融機関に戻っ てしまうからで ある。また、そうである なら、いくら日 本銀行が「物価は上がる」と言い続けても、実際に物価が上がるはずはないため、 人々が日本銀行の予測を信じて活動を積極化させ物価が上がることもない。 マネタリストと呼ばれている人たちは、マネーストックの増加率が拡大すると、 しばらくして物価上昇率 が拡大し、マネ ーストックの増加率が縮 小すると、しば らくして物価上昇率が縮小すると考えてきた。 ここでいうマネーとは、 かつてはマネー サプライ(通貨供給量) という言葉が 使われていたが、現在は マネーストック という言葉が広く用いら れている。マネ ーストックとは、「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」のことで、 どこまで範囲を広げるかでM1、M2、M3などの区分がある(Mはマネーサプラ イあるいはマネーストックの略)。 M1は、現金と要求払い預金(当座、普通 、貯蓄、通知、別段、納税準備 )の合 計である 。M2は、M1に国 内銀行 等の 定期預金 を含 めたも ので、 これ が最も一 般に用い られ ている 。M3は、金 融商品 の範囲は M2と 同じで ある が、預 金の預 け入れ先に信用組合、農 漁協組合、ゆう ちょ銀行等を含む。この 他にも、さらに 広い範囲の捉 え方もあ るが、マ ネースト ックの本質を 考える観 点からは 、M2で 十分であるの で、以下 では最も 一般的に 用いられてい るM2を マネース トックと して、「とりあえず」の議論を進めたい。

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図4は、マネーストック(M2)と物価の関係を、1960 年以降のデータで確認 したものである(いずれも前年比変動率)。1960 年から 80 年代にかけては、マネ ーストック(M2)が増えると、1~ 2年 後 に物 価が 上 昇す る 関係 が あ っ た。最も高いマネーストック(M2) の山は 1972 年 10~12 月期、物価の 山は 74 年 10~12 月期であるから、 この と きに は8 四 半期 ( 2年 ) の タ イム ラ グを 伴っ て 変化 し たこ と に な る。 この よ うな 関 係 は日 本 に限 ら ず 他 国でも広く観察できたため、「マネー スト ッ クを 増や せ ば物 価 は上 が る 」 と考 え る人 たち の 意見 が 説得 力 を 持 つよ う にな った 。 アメ リ カで は ミ ル トン ・ フリ ード マ ンと い う経 済 学 者 が特 に 有名 で、 彼 はマ ネ ース ト ッ ク の変 化 が景 気や 物 価に 大 きな 影 響 を 与え る ため 、大 幅 な物 価 上昇 を 招 か ない た めに は、 マ ネー ス トッ ク の 伸 びを 上 手く コン ト ロー ル する 必 要 が あると主張、1976 年にノーベル経済学賞を受賞した。日本でも、1970 年代前半の 列島改造バブ ルや第二 次石油危 機時など は、マネース トック( M2)を 適切にコ ントロールできなかった ため大きなバブ ルになってしまったとの 立場から、一時 はフリードマンの「貨幣数量説」に共感を寄せる人たちが増えた。 しかし、フリードマンら の主張が正しい のであれば、かつてはな ぜマネースト ック(M2) が増えて から物価 が上がる まで1~2年 も時間が かかった のであろ うか。マネー ストック (M2) が決済に 使われている のであれ ば、マネ ーストッ ク(M2)と物価は同時に変化していなくてはならない。マネーストック(M2) が増えてから1~2年も 過ぎないと物価 が上がらないのであれば 、その間に何が 生じたのかを説明できなければならない。しかも、2000 年代に入ってからはそれ ほど緊密でなく、かつて みられた時間差 も観察できない。そうで あるなら、この 点についても納得のいく説明が必要である。      図4 マネーストック(M2)と物価(前年比) (注1) 物価とM2の相関は、 全期間を通すと相関係数は0.679であるが、1970-   全期間を通すと相関係数は0.679であるが、1970-    99年の間で は最高は6四半期前のM2で相関係数は0.886、2000-16年       の間では最高は当期のM2で相関係数は0.447で ある。 (注2) 相関係数は、2つの指標間の密接の度合いを示す指標で、一般に相関        係数は0.4を下回ると「相関がな い」、0.4~0.9は「相関が弱い」、0.9以上        だと「相関が強い」とされて いる。 ( デ ー タ 出 所 ) 内 閣 府 、 日 本 銀 行 ▲ 5 0 5 10 15 20 25 30 1970 75 80 85 90 95 00 05 10 15 マネース トック( M2=現金+預金等) 物価(GDPデフレータ) P % ピーク72年10-12月期 ピーク74年10-12月期 年 00年

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図5は、前の図の物価の前年比変動率を、6四半期前のマネーストック(M2) の前年比変動率と並べたものである。1970 年代の物価が大幅に上昇した時期など の両者の関係は確かに密接である。し かし、2000 年以降は統計的に相関がな く、マネーストック(M2)が増えた か ら 物 価 が 上 昇 し た と い っ た 関 係 が あるようには見えない。 マネーストック(M2)と物価がこ の よ う に 不 可 解 な 関 係 に な っ て い る 理由は、マネーストック(M2)と物 価の双方にある。 一つは、マネーストック(M2)と は言っているが、実はモノやサービス 等 の 取 引 決 済 に 使 わ れ る マ ネ ー ス ト ッ ク は M2の 一 部 に 過 ぎ な い こ と で ある。取引決済に使われるのは現金と当座預金だけで、M2の 10%から 20%に過 ぎない(1960 年以降の平均では 13.7%)。M2の8~9割を占める定期預金や、 当座預金を除く普通預金 、貯蓄預金等の 要求払い預金は、預金に 留まったまま取 引決済には使 われない 。しかも 、マネー ストック(M2)の大 半を占め る定期預 金と当座預金を除く要求 払い預金の合計 額というのは、実は金融 機関のバランス シ ー ト で 考 え る と 負 債 総 額 に ほ ぼ 等 しく、同時に、貸出や有価証券、預け 金等の資産総額でもある。マネースト ック(M2)と言 いながら、 実は銀行 部門の貸出や有価証券、預け金等の資 産勘定の総額を見ているのである。ち なみに図6は、銀行部門における預金 ( 要 求 払 い 預 金 と 定 期 預 金 の 合 計 ) を、貸出、国債、預け金(日銀当座預 金)の合計額と比較したものである。 要 求 払 い 預 金 と 定 期 預 金 の 合 計 額 で ある預金は、2000 年頃まではほとんど 貸出と一致していた。1999 年の要求払 い 預 金 と 定 期 預 金 の 合 計 額 は 477 兆 図5 6四半期前のマネーストック(M2)と物価(前年比) ( デ ータ 出 所 ) 内閣 府 、 日 本銀 行 ▲ 10 ▲ 5 0 5 10 15 20 25 ▲ 5 0 5 10 15 20 25 30 1970 75 80 85 90 95 00 05 10 15 6四半期前のマネーストック( M2=現金+預金等)、右軸 物価(GDPデフレータ) P % 年 0 0年 相関係 数 0.886 相関係数 0.3 04 図6 銀行部門の預金と、貸出・国債・預け金の合計額の関係 0 100 200 300 400 500 600 700 800 1970 75 80 85 90 1995 00 05 10 15 預金(=要求払い預金・定期預金) 貸出・国債・預け金の合計額 うち、貸出 うち、国債 うち、預け金(日銀当座預金) うち、当座預金 兆円 年 00年

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円、貸出は 488 兆円であるから、その差は 2.3%である。その後の預金は、貸出に 国債と預け金を加えた金額とほとんど一致している(2017 年1月の預金の総額は 736 兆円、貸出、国債、預け金の合計は 774 兆円であるから差は 5.2%)。 2000 年代に入るとなぜ預金と貸出の間に乖離が生じたかというと、貸出が先に 述べたような理由などか ら減少した一方 、国債の発行額が増え、 金融機関は貸出 の代わりに国債を保有するようになったためである。2013 年以降に国債が減って 預け金が増えたのは日本銀行の異次元金融緩和の結果である。 ここで重要 なことは 、マネー ストック ( M2)と言っ ているが 、その実 態は、 取引決済に使われるマネ ーではなく、金 融機関の貸出や有価証券 、預け金等の資 産勘定の総額である、ということである。 他方、最近の当座預金 の残高は 47 兆円であるから、預金全体 に占める割合は 6.4%に過ぎない(2017 年2月)。当座預金の 10 倍以上もある定期預金や普通預 金などを「いつでもマネ ーストックに変 化する可能性がある」と いう理由で「最 も信頼の置けるマネーストック」と位置付けてきたのである。 もう一つの問題は、物価 の側にある。マ ネーストックが決済に使 われるのであ れば、モノやサービスの取引(名目実物取引)に限定すべきでなく、株式や土地、 債券等の資産取引も含め なくてはならな い。最近は投機的な土地 取引、株式取引 などのために金融機関が お金を貸すこと はほとんどなくなったが 、かつては運転 資金の名目で貸し出され たお金のかなり の部分が、先に述べたよ うに土地や株式 などの資産取引に流用されていた。 図7は、名目資産取引と名目実物取引 を、全体に対する寄与度の形で図示した ものである。名目資産取引は土地取引、 株式取引、債券取引の合計、名目実物取 引はモノやサービスの生産額のことで、 名 目 G D P に 名 目 輸 入 を 加 え た 名 目 総 需 要 の こ と で あ る※ 3 。 こ の 図 か ら は 、 1990 年 末 頃 ま では 名 目 資 産 取 引 が ピ ー ク を 付 け る と 2 四 半 期 か ら 6 四 半 期 遅 れ て 名 目 実 物 取 引 が ピ ー ク を 付 け た こ とが見て取れる。特に大きなバブルにな った 1974 年の第一次石油危機時と 1980 年 代 後 半 バ ブ ル 期 の 時 間 差 は い ず れ も 6四半期であった。1976 年のピークは2     図7 名目実物取引より先に変化する名目資産取引 ( デ ー タ 出所 ) 内 閣 府 、 日 本 証券 業 協 会 、 東 京 証券 取 引 所 、 日 本 不 動産 研 究 所 ▲ 10 ▲ 5 0 5 10 15 20 25 1970 75 80 85 90 95 00 05 10 15 名目資産取引額 名目実物取引額 % 年 +1四半期 +6四半期 +6四半期 +2四半期 +3四半期

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四半期、79 年のピークは3四半期、85 年のピークは1四半期であるから、第一次 石油危機と 80 年代後半バブルの前には 長い期間にわたって名 目資産取引が増加 し続けたことになる。 マネーストック(M2)といいながら、そのほとんどが 2000 年頃まで貸出のこ とであったという「事実 」と、バブル期 には名目資産取引と名目 実物取引の間に 1年半もの時間差があったという「事実」は、「かつてはなぜマネーストック(M 2)が増えて から物価 が上がる まで1~ 2年も時間が かかった のか」と いう先の 問いに回答を与えている 。答は、貸出の 多くが株や土地等の投機 的な資産取引に も使われたた めである 。マネー ストック (M2)が大 幅に増え たから物 価が大幅 に上昇したのではなく、 貸出が、最初は 名目資産取引に、後半は 名目実物取引に 回ったためである。金融 機関から貸し出 された資金は、最初は株 式市場や土地市 場に向かって株価や地価 を押し上げた。 そこで生じたキャピタル ゲインはやがて 実物市場に向かい、実体 経済を押し上げ た。逆に、貸出が絞られ ると、まずは名 目資産取引で回収され、 その後は名目実 物取引で回収された。株 式市場や土地市 場から資金が流出して株 価や地価が下落 した。そうした変化は、 やがて実物市場 にも影響を与え、実体経済が縮小した。 2000 年以降は、過去の反省もあり、必要運転資金を超える短期借り入れは圧縮 され、投機的な資産取引は抑制されてきた。 データを正しく整理し直 すと、フリード マンが主張した「貨幣数 量説」が、本 来の「貨幣数量説」と似て非なるものであることが分かる。 (4)正しい「貨幣数量説」 では、「貨幣数量説」が 間違っているのか というと、そうではない 。「貨幣数量 説」が誤解され、誤って使われてきただけである。「貨幣数量説」は、決済に関わ るお金(残高)と決済金 額の間には、次 式の関係があるとするも ので、この点に 限れば正しい理論である。 マネーストックM×通貨回転率V=物価P×取引数量T=名目総取引額PT この式は、一定期間に使 用された通貨の 量(平均残高)Mと通貨 回転率(流通 速度ともいう)Vの積は 、物価Pと取引 数量Tの積、つまり、名 目総取引額PT に等しいというもので、 こうした関係を はじめて明らかにしたの は米国エール大 学のアービング・フィッシャー(1867~1947 年)であった(「貨幣の購買力」1911 年)。 この関係は、一定の水路 の中を流れる水 の容積は1秒間に流れる 水の量と時間 の積に等しいことと同じで、左辺と右辺はおおむね等しい。フリードマンらの誤解は、

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①マネーストックMを、現金と当座預金だけでなく、普通預金や定期預金などを加え たM2に拡大 してしま った結果 、貸出、 国債、預け金 等の金融 機関の資 産の全額 をマネーストックM と 見な し て しま っ た こと と 、② 名 目 総取 引 額 PT を 実 物取 引 に 限定し、資産取引の存在 を考えていなか ったこと、などにあった (なぜこのよう な過ちをフリードマンが犯し、その後の学者たちも否を唱えなかったかというと、 推測の域を出ないが、過 去にさかのぼっ て現金、当座預金、資産 取引に関わるデ ータを入手することに努力しなかったことも大きく影響していると思う)。 その結果、マネーストック(M2)を増やせば、しばらくして物価が上がる関 係を導き出してしまった。マネーストックと言いながら、M2は、かつては金融 機関の貸出に等しかったわけであるから、金融機関が貸出を積極化すれば、しば らくして景気が良くなり物価も上がる。貸出にそれなりの需要がある限り、貸出 が増えれば、いずれは実態経済にもお金が回り物価が上昇するので、確かに「マ ネーストックを増やせば物価は上がる」関係が存在するようにも見えた。その結 果、マネタリストは、物価を上げるためにはマネーストック(M2)を十分増や せば良いと誤解してしまった。 しかし、「貨幣数量説」が説く正しいマネーストックMは、現金と当座預金に限 定しなくてはならない( このため、以下 では現金と当座預金の合 計額を「真正の マネーストック」という意味で数字のないMと表現する)。普通預金や定期預金等 の預金は金融機関に預け られたままであ る。普通預金の一部は口 座振替の方法で 決済に使われるが、金額は普通預金の1 ~2割である。定期預金は決済に使われ ることはまずない(あっても、それは現 金 や 当 座 預 金 等 に 振 り 替 え ら れ た 後 で あ る か ら 定 期 預 金 を マ ネ ー ス ト ッ ク に 含める必要はない)。名目総取引額PT も 名 目 資 産 取 引 と 名 目 実 物 取 引 の 合 計 額でなくてはならない。 図8は、このような考え方に立ち、マ ネーストック(M)と名目総取引額PT を推計し、前年比変化率の形で並べたも のである。両者は大体同じタイミングで 変化している。マネーストック(M )が 増えている(減っている)ときには、多 く の 場 合 に は 名 目 総 取 引 額 P T が 増 え 図8 マネーストック(M)と名目総取引額の正しい関係(前年比) ( デ ータ 出 所 )内 閣 府、 財 務 省、 日 本銀 行 、 日本 証 券 業協 会 、東 京 証 券取 引 所、 日 本 不動 産 研 究所 ほ か ▲ 20 ▲ 10 0 10 20 30 1970 75 80 85 90 95 00 05 10 15 マネーストック(M=現金+当座預金) 名目総取引額(=名目実物取引+名目資産取引) % 73年第一次石油危機 80年代後半バブル バブル崩壊 世界同時不況 78年第二次石油危機 相関係数 0.761 年 02年ペイオフ 部分解禁 16年国債から 当座預金等への シフト

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ている(減っている)。両者の動きがときに異なっているのは、①土地取引は公表 データがないので大胆な 仮定を置いた推 計をしていること、②近 年、株式取引は 電子取引の拡がりととも に現金や当座預 金を経由することなく行 われるようにな ったこと、③当座預金は 1999 年までは変動の大きい月末データしかないこと※ 4 、 ④現金は取引動機とは別の要因で変化することもあることなどによる(たとえば、 2002 年 に ペ イ オ フ が 解 禁 に な っ た 際 に は 預 金 か ら 現 金 へ の 一 時 的 な 逃 避 が 起 き た。2016 年には国債の金利低下などを受けて国債の売却代金を預金や現金にシフ トする動きが加速した。 これは、かつて ケインズが説いたように 、マネーストッ クは取引動機だけでなく、予備的動機や投機的動機でも使われるためである)。 ま た 、 図 9 は 、 過 去 約 140 年 間 の 両 者 の 関 係 図 で あ る 。 前 の 図 は 四 半 期 デ ー タ 、 本 図 は 年 デ ー タ と 違 い は あ る が 、 わ が 国 経 済 が 言 葉 の 正 し い 意 味 で「貨幣数量説」が説く通 り に 変 化 し て き た の が 見 て 取 れ る 。 こ の 図 を 完 成 さ せ る ま で に は 多 く の 時 間 が 必 要 で あ っ た 。 お そ ら く こ の よ う な 関 係 図 を つ く っ た 人 は 他 に い な い と 思 う 。 最 近 の デ ー タ は ホ ー ム ペ ー ジ か ら 手 に 入 る が 、 数 十 年 以 上 前 の デ ータを時系列の形で整理するのは骨の折れる作業であった。 これら2つの図が示す最も重要な点は、マネーストックは「原因」ではなく「結 果」であることを証明していることである。「マネーストックを増やせば物価は上 がる」のではなく、「マネーストックを取引決済に使いたいとの需要があるからマ ネーストックが増加する 」ということで ある。われわれの生活で もそれは理解で きることである。例えば 、ある大きな買 い物があれば金融機関か ら預金を下ろし て代金を払うのであって 、手元に大金が 現金の形であるのですぐ にそれを使って しまうという行動を普通 の人はとらない 。ヘリコプターからお金 が撒かれるとい うことは現実的にはあり えず、道義的に 考えても普通の人はその ようなお金を使      図9 約140年間のマネーストック(M)と名目総取引額の関係(前年比) (注)名目総取引額は1896年以降は株式取引を、1930年以降は輸入を、1955年以降は債券・土地取引を含む。ただし、1945、46年は    戦争のため名目総取引額PTのデータはない。 (データ出所)明治以降本邦主要統計、国民経済統計年報、同速報、日本銀行経済統計年報、同月報、法人企業統計調査、日本証券業協会ホームページ、     日本不動産研究所「市街地価格指数」、藤野正三郎、寺西重郎「日本金融の数量分析」ほか ▲ 20 ▲ 10 0 10 20 30 40 50 60 1875 85 95 1905 15 25 35 45 55 65 75 85 95 2005 15 マネーストック(M=現金+当座預金) 名目総取引額(=名目実物取引+名目資産取引) % 41~45年第二次大戦 14~18年第一次大戦 77年西南戦争 00年北清事変 50年朝鮮戦争 相関係数 0.850 年 31年満州事変 58年日米安保 条約改定 05年日露戦争 21年日英 同盟破棄 37年 盧溝橋 事件

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って物を買うことはないはずである。 図 10 は、これまで述べてきたことを整理したものである。マネーストックMと 通貨回転率Vの積は物価 Pと取引数量T の積(=名目総取引額P T)という関係 は正しい。マネーストックMは 現 金 と 当 座 預 金 の 合 計 額 で あ るところのM 、名目総取引額は 名 目 実 物 取 引 額 と 名 目 資 産 取 引 額 の 合 計 額 で な く て は な ら ない。ところが、マネタリスト らは、左式ではマネーストック M に は 決 済 に ほ と ん ど 使 わ れ な い 普 通 預 金 や 定 期 預 金 な ど を含めたM2を考え、右式では 名目総取引PTの中の資 産取引を考慮せ ず、名目総取引額PTに 限定された物価 だけを考えた。本当は貸 出が増えたため に物価が上昇したのに、 マネーストック (M2)が増 えたから 物価が上 がった、 だから物価を 上げるた めにはマ ネースト ック(M2)を増せば良いと誤解してしまった。 なお、以上の点の多くは、かつて経済企画庁(現内閣府)物価局の審議官の赤 羽隆夫氏(その後同庁事 務次官、慶応大 学経済学部教授)から共 同研究の提案を 受けて行った作業結果が 基礎になってい る。同氏の的確かつ事実 を徹底的に見極 めようとする問題意識なく してこのよう な整理ができなかったこと を記しておく 。 (5)マネタリーベースとマネーストックの関係 マネー(通貨量)と金融 政策の関係では 、もう一つ大きな誤解が ある。それは マネーストッ ク(M2)を増や すために はマネタリー ベース( MB)を 増やせば 良いと考え、市場から日本銀行が大量に国債を購入し、マネタリーベース(MB) を増やし続けてきたことである。 マネタリーベース(MB )とは、現金と 、金融機関が日本銀行に 預けている当 座預金(日銀当座預金) の合計額のこと であるが、大幅に増加し ているのは後者 の日銀当座預金である(前者の現金は、過去4年間の平均では+2.2%とあまり増 えていない。理由は個人消費が小幅な増加に止まっているためである)。 日本銀行が市場を通じて 金融機関から国 債を買うと、代金は日銀 当座預金に入 る。新体制後 の日本銀 行は、日 銀当座預 金を増やせれ ばマネー ストック (M2) が増え、貸出が増えて物 価が上昇すると 期待した。最近の日本銀 行は、マネタリ       図10 通貨と取引額の正しい関係(これまでの考え方の整理)    (左式) 本来対比    (右式) 物価   現金 すべき関係 名目実物取引額    M 名目総取引額 数量(実質実物取引)  当座預金 M1 物価(正しくは平均価格) 当座預金以外の要求払い預金 名目資産取引額 通知預金、別段預金、納税準備預金      フリードマンが 株式、債券、 数量(実質資産取引) M2      比較した関係 土地取引等       定期預金 (貸出に近似)

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ーベース(MB)のそう した効能に限界 を感じるようになったた めか、昨年9月 の総括検証でマネタリー ベース(MB) 目標は後退した。しかし 、その後も年間 約 80 兆円のペースで市場から国債を買い続け、マネタリーベース(MB)を増や し続けている。 この結果、図 11 にあるように、異 次元金融緩和の少し前から増え始め ていたマネタリーベース(MB)は、 2013 年4月以降急増を続け、2017 年 3月には 436 兆円まで膨れ上がって しまった。このまま年間 80 兆円近い ペースで日本銀行が市場から国債を 買い続けると、2018 年末には名目G DP(2016 年 537 兆円)を完全に超 える大変な金額になってしまう。 現金と日銀当座預金の合計をなぜ マネタリーベース(MB)と呼ぶか というと、それが起爆剤になって預 金や貸出が増えるとマネタリストた ちは考えてきたからである。預金や 貸出を増加させる基本となるお金と いう意味で、「ベースマネー」あるい は「ハイパワードマネー」(「強力通貨」 または「高権貨幣」)とも 呼ばれてきた。 こうした考え方はマネタ リストに限らず 、多くの金融論の教科書 などでも当た り前のように述べられて きた。金融機関 の日本当座預金を増やせ ば金融機関はそ のお金で何倍もの貸出を 増やすので景気 はよくなり物価も上昇す ると説明されて きた。 しかし、マネタリーベー ス(MB)は大 幅に増えたが、マネース トック(M ) はそれほど増 えておら ず、定期 預金まで 含めたマネー ストック (M2) の増え方 も鈍い。2013 年1~3月期から 17 年1~2月(平均)までの4年間の変化率は、 マネタリーベース(MB)+228.1%であるのに対し、マネーストック(M )は+ 22.6%、マネーストック(M2)は+15.5%である。 マネーストック(M2)をマネタリーベース(MB)で割った「信用乗数」は、 1990 年代のピーク時(1992 年4~6月期)には 130.7 倍もあったが、その後大幅 に低下し、最近では 22.3 倍と約6分の 1 になっている。 図11 マネーストック(M)、マネタリーベース(MB)、信用乗数 (注)日本銀行保有の長期国債の2001年1~3月期以前は国債から短期国債を除いた数値で接続。 ( デ ー タ 出 所 ) 日 本 銀 行 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 550 600 650 700 1970 75 80 85 90 95 00 05 10 15 マネーストック(M) a マネタリーベース(MB) b 日本銀行保有の長期国債 名目GDP 信用乗数(=マネーストック<M2>÷b)、右軸 兆円 年 02年ペイオフ 部分解禁 倍 23.3倍 436兆円 130.7倍

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マネタリストは、「信用乗数」は比較的安定しているので、マネタリーベース(M B)を増やせば「信用乗 数」倍のマネー ストック(M2)が増え 、その結果、景 気が良くなり物価も上昇 すると考えた。 異次元金融緩和の当初の 日本銀行は明ら かにその主旨で政策を説明していた※ 5 。 しかし、マネタリーベース(MB)が大幅に増えたのにマネーストック(M2) は、ここ数年は年率4%程度しか増えていない。安定的であるはずの「信用乗数」 が上記のように大幅に低 下しているとい うことは、マネタリスト の考え方が誤り であるというだけでなく、「マネタリーベース(MB)を増やせばマネーストック (M2)が「信用乗数」倍増える」との考え方(外生的信用拡張説)も見直しが求 められていることになる (外生的信用拡 張説が誤解であるという 点については、 横山昭雄氏の近著「真説 経済・金融の仕組 み 最近の政策論議、ここがオカシイ」 (2015 年 9 月、日本評論社)で明快に説明されている)。 少し脇道に逸れるが、最 近ある著名な数 学者のエッセイを読んで いて驚いた。 その本は、最近の日本社 会の課題やグロ ーバリズムの功罪など、 多方面に論が進 められているものであっ たが、その中に、かつての日本銀行の政 策に対する批判 があったからである。エッセイの筆者は、『長いデフレ不況の最大責任は政府でも 財務省でも財界でもなく 日銀にあるのだ 。毎年3万人以上の自殺 者を出し、学校 を出た若者が就職さえできないというデフレ不況を横目に、「物価の番人」などと うそぶきながら無策を決 め込んできたの は日銀なのだ』と述べていた。こうした 主張は以前からあったが 、著名な数学者 が力説しているところに 驚きがあった。 この数学者も以下のような論理でそのような結論になったのだろう。 A:日本銀行が本気で金融を緩和すればマネタリーベース(MB)は増加する。 B:マネタリ ーベース (MB) が増加す れば金融機関 のマネー ストック (M2) は増加する。 C:マネーストック(M2)が増加すれば景気は良くなり物価も上がる。だから、 景気が良くならないのは(物価が上がらないのは)、日本銀行が本気で金融を 緩和しようとしなかったからである、と。 こうした論理は数学の基本で、A→B、B→C、だからA→Cとなる。それが 数学者のかつての日銀に 対する批判の根 拠になったと思われる。 しかし、本当は A→BでもなければB→ Cでもないとし たら、当然のことながら A→Cは成り立 たない。数学者は金融や 経済のプロでな いので、A→B、B→C が本当に正しい かどうかは知らない。で も、多くの金融 や経済のプロ(と自他共 に認めている人 たち?)がA→B、B→ Cと主張してい るのでそれを信じ、論理 を大事にする数 学者としてはいたたまれなくなって上記のような誤った論評になったのだろう。

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日本銀行の異次元金融緩和は、「デフレの罠」にはまり込んでしまった日本経済 を救い出す「偉大なる実 験」と言われて きた。しかし、本当に実 現したのは、異 次元金融緩和を支えてき たマネタリスト の考え方が2つの点(つ まりA→B、B →C)で誤っていたことを証明したことである。一方、「実験」の対象になった日 本経済は深刻なリスクを 背負ってしまっ た。今はまだそのリスク が完全に顕在化 しているわけではないが 、いずれは明ら かにならざるを得ないだ ろう。できるだ け速やかに現状を修正しなくてはならない。 (6)異次元緩和が内包する4つのリスク 異次元金融緩和が内包しているリスクは以下の4点である※ 6 第1のリスクは、金利上 昇が日本銀行の 資産に与える悪影響であ る。過去にお いて物価上昇率が年2 %のときの 10 年物長期国債の利回りは 平均的には4%で あった。現在の長期国 債の利回りは 0.1%前後であるから、物 価が4%に上昇す れば約+3.9%の上昇となる。日本銀行が保有している長期国債の残高は 2017 年 2月末で 376 兆円である。したがって、物価が2%に上昇すると初年度だけで約 14 兆円(≒376 兆円×約 3.9%)の国債価格の評価損が発生する計算になる。日 本銀行の資本勘定は引当金を含めても 7.6 兆円である。とてもカバーできる金額 ではない。 第2のリスクは、日本銀 行が内包してい るリスクを他の主体に補 てんしてもら おうとすると、それを補 てんする主体が リスクを背負うことであ る。金融機関は 日本銀行から国債を購入 した際に受け取 った代金を日銀当座預金 に置いていて、 現在はその多くは年 0.1%の利息収入を 得ている。日本銀行の 収益が悪化してく れば、この 0.1%という利率を引き下げてくるだろう。また、それでも足りないと きには政府に依存するし かないが、周知 のように財政はすでにG DPの2倍に相 当する赤字を抱えている。 第3のリスクは、金利低 下が金融機関の 収益を悪化させ、金融シ ステムの脆弱 性を助長する恐れがある ことである。正 しい理論に基づく正しい 政策であればそ れも許容可能かもしれな いが、誤った理 論に基づく誤った政策の 結果、金融シス テムが脆弱になるのはいかがなものであろうか。 第4のリスクは、金融緩 和が内外の借り 手に与える影響である。 金融緩和は阿 片のようなものであるか ら人間の体力を 弱め、心を蝕める。多く の企業は金融に 過度に依存する体質から 卒業しているが 、過度な金融緩和の状態 でなければ生き られない企業が一方で増 えていることは 困ったことである。行き 場を失った過剰 なキャピタルゲインが内外の経済変動を大きくするリスクもある。

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