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366 農林業問題研究 ( 第 188 号 2012 年 12 月 ) 表 1. 宮城県における地震 津波による被害状況 被害金額 5,515 億円 被災農地 1,483 箇所 被災農業用施設 4,215 箇所 被災農村生活施設 106 箇所 流失 冠水等被害推定面積 15,002 ha うち水田

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梅 本   雅

*

小特集「震災と地域農業―食と農の視点から―」

震災からの復旧・復興過程における農業経営と地域農業

Restoration and Reconstruction process from the Damage of the

Great East Japan Earthquake

—A case study on Vegetable Farm and Regional Agriculture in Miyagi Prefecture—

Masaki Umemoto (NARO Agriculture Research Center)

Vegetable farm and paddy field farm on coastal area at Miyagi prefecture got serious damage from the Great East Japan Earthquake. We confirmed the present condition of damaged area and farm management. Also we studied the impact of farm income and farm financing from the damage of Tsunami.

Our conclusions were summarized as follows.

Rice crop areas of 2 city and 2 town (Natori, Iwanuma, Watari, Yamamoto) was declined 35% of areas before earthquake, and in 2012 rice crop area of these areas reached about 70%. The other side strawberry crop area of Watari town and Yamamoto town decrease only 20% of area at 2010, and even in 2012, it estimated that those strawberry crop areas remain about 33% of 2010. Espe-cially in Yamamoto town, more than half of farm couldn’t reopen the farm business.

A case of tomato crop farm in Miyagi prefecture damaged by earthquake, and its farm’s income declined about 40 million yen (40% of farm income of 2010), and

profit was minus 13.9 million yen in 2011. But because of subsidize from government and insurance of green house, farmer could weathered the difficult situation of financing.

A case of strawberry crop farm in Yamamoto town was damaged by Tsunami. He loosed the green house constructed 1.3 years before, but another green house remained, so he continued strawberry production. Farm income declined about 10 million yen. Considering the loss of inventory (strawberry) and asset (green house), his agricultural income decreased to minus 10 million yen.

It is important to survey the present condition and carry out the fact finding for damaged area and farm manage-ment from the impact from Great East Japan Earthquake and the accident of Tokyo Electric Power Company’s Fukushima Daiichi Nuclear Power Station continuously. Also we need to throw the problems to be solved from the view points of agricultural economics.

1.はじめに 本稿のねらいは,東日本大震災から 1 年半が経過 しようとしている中での被災地における農業経営及 び地域農業の現状と課題を整理することにある.但 し,被災地は,現在,復旧・復興の過程にあり,状 況は流動的である.営農再開に向けた取り組みが進 んで,新たな段階に入っている経営もあれば,海水 が湛水し耕作も困難な状況の中で営農再開の糸口さ え見いだせない地域もある.また,先行きは十分見 通せないが,取りあえず作物の栽培を開始された農 業者もいる.被害の状況は,地震,津波,放射能汚 染などその要因によって,また,地域,経営内容, 部門によっても大きく異なることから,その全体像 を描き出すことは困難である.そのため,本稿では, 主として宮城県沿岸部の野菜作地域(亘理町,山元 *中央農業総合研究センター

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町など)を対象に,農業経営者や関係機関の担当者 への聞取りを通して,現状報告として被災地の素描 を試みることとしたい. 2.被害状況と地域農業の現状 東日本大震災による宮城県の農業関連の被害額 は,表 1 に示すように農業関連で約 5,515 億円とされ ており,津波による田畑の流失・冠水被害は 15,002 ha (うち田が 12,685 ha で全体の 85%を占める),被災 した農業用施設 4,215 箇所,被災農村生活施設 106 箇所に達する.また,宮城県の資料によれば,いち ご等の農産物の流失が 859ha,用排水路・農道等の 破損 4,617 箇所,農協等倉庫保管の米・大豆の浸水・ 流失 20,620 t となっており,沿岸部を中心にまさに 壊滅的と言える被害を受けた. 災害からの復旧は日々続けられているため調査時 点により状況は変わるが,津波による被害を受けた 排水機場の復旧率は 2011 年 12 月現在で 74%(面積 カバー率 89%)とされている1).沿岸部の水田は津 波により大きな被害を受けたが,その復旧には,瓦 礫等の除去に加え,除塩が必要である.そして,そ れには排水機場が稼働し,水が適切に排水される状 態にならなければならない.この点で,この排水機 場の復旧は,水田作の復旧・復興に向けて不可欠の 条件となっている. 宮城県全体では,被災前の 2010 年の水稲作付面積 が 71,020 ha であったのに対して,2011 年は 66,400 ha と 4,620 ha(0.65%)の減少(地域間調整を含む)で あったが2),この点を津波被害の大きかった沿岸部 の 2 市 2 町(名取市,岩沼市,亘理町,山元町)に ついて見たものが表 2 である.まず,被災前(2010 年)のこの 4 市町村の水稲作付面積は 5,823 ha であっ た.これに対して 2011 年では普及センター調べで 2,053 ha3)と対前年比でわずか35%の作付けに止まっ た.このうち作付けは困難で除塩等4)を行わなけれ ばならない水田が 2,399 ha あったが,この他にも, 作付けを自粛した面積が 702ha ある.これは,水稲 の作付けは可能だが,上述したように排水機場が機 能しておらずこれら水田での水稲作に用いた水を下 流域において排水できないため,作付けを自粛した のである.なお,まだ完全ではないが排水機場の復 旧も進みつつあることから,2012 年度の水稲作付面 積は先の表 2 に示すように 2010 年時点の約 7 割の 4,200 ha まで戻ると見込まれている. 宮城県南部の沿岸部に位置する亘理町及び山元町 は,水稲作に加えいちごを中心とする野菜産地であ 表 1.宮城県における地震・津波による被害状況 被害金額 5,515 億円 被災農地 1,483 箇所 被災農業用施設 4,215 箇所 被災農村生活施設 106 箇所 流失・冠水等被害推定面積 15,002 ha   うち水田 12,685 ha   水田の割合 84.6 % いちご等の農作物の流失等 895 ha 海岸防潮堤防破損 26.5 km 農協等倉庫保管の米・大豆の浸水・流失 20,620 t 資料:東日本大震災と農林水産業基礎統計データ(図説) ―岩手県宮城福島を中心に―(平成 24 年 6 月改訂版)農林 水産省大臣官房統計部,及び宮城県資料 表 2.宮城県沿岸部 2 市 2 町における水稲作の復旧状況(ha) 地域 2010 年 2011 年 2012 年 水稲作付 面積(A) 水稲作付 面積(B) 水稲作付割合 (B/A)(%) 水稲作付 自粛面積 除塩等 実施面積 農地復旧 見込面積 うち水稲作付 復旧見込 面積(C) 水稲作付 割合 (C/A)(%) 名取市 1,720 760 44.2 239 839 1,790 1,117 64.9 岩沼市 1,120 372 33.2 40 440 852 698 62.3 亘理町 2,030 551 27.1 350 822 1,818 1,700 83.7 山元町 953 371 38.9 73 298 742 685 71.9 計 5,823 2,053 35.3 702 2,399 5,202 4,200 72.1 資料:宮城県亘理農業改良普及センター資料より引用・加工.なお,2010 年の作付面積は農林水産省統計部作物統計の 数字である.

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り5),特に,いちごは,生産額が約 40 億に達する基 幹作物であった.しかし,沿岸の砂地地帯に立地し ていたハウスがすべて津波により流された.いちご 作に限って見ると,表 3 に示すように,両町でのい ちご栽培面積 96ha,栽培戸数 380 戸のうち 91.4 ha, 356 戸が被災した.実質的にほとんどのいちご作経 営が被災したのであり,2011年度に栽培できたのは, 被害を受けなかった 4.6 ha(24 戸)と,被災後その 年に営農できた 14.9 ha(82 戸)の合計 19.5 ha(106 戸)にすぎなかった.2012 年度からは後述するよう にいちご団地の造成が開始されることとなっている がまだ実現には至っておらず,そのため,JA の担当 者によれば,2012 年度のいちごの作付面積は約 27ha と,2 年目に入ってもなお被災前の約 1/3 程度に止 まるとされており,この点でもまだ復旧半ばという 状況にある. 以上,水稲といちごの作付けから復旧の現状を見 てきたが,宮城県全体での農業経営の営農再開状況 を見ると,津波被害のあった農業経営では,2011 年 7 月 11 日時点で営農を再開している経営の割合が 22.3%であったのに対して,震災 1 年後の 2012 年 3 月 11 日時点では 45.2%となっている6).様々な取り 表 3.いちごの被災及び復興状況 区分 地域 被災前の 戸数及び 面積 被災した 戸数及び 面積 被災なしの 戸数及び 面積 被災率 (%) 被災後復旧 した戸数 及び面積 被災後に 復旧した 割合(%) 生産者数 (戸) 亘理町 251 232 19 92.4 64 27.6 山元町 129 124 5 96.1 18 14.5 合計 380 356 24 93.7 82 23.0 作付面積 (ha) 亘理町 58.3 54.5 3.8 93.4 10.7 19.6 山元町 37.8 36.9 0.8 97.9 4.2 11.4 合計 96.0 91.4 4.6 95.2 14.9 16.3 資料:みやぎ亘理農業協同組合資料.なお,2012 年 3 月 28 日時点の数字である. 表 4.宮城県における津波被害からの営農再開状況 地域 2010 年時点の 経営体数 (戸) 津波被害の なかった 農業経営体 津波被害のあった農業経営体 戸数(戸) 戸数(戸) 営農を再開した経営体 営農を再開して いない経営体の 戸数 (不明を含む) (参考)2011 年 7 月 1 日時点で 営農を再開した 戸数 2012 年 3 月 11 日 で営農を再開 した戸数 気仙沼市 1,480 1,030(70) 450(30) 58(4) 100(7) 350(24) 南三陸町 604 300(50) 310(51) 17(3) 80(13) 230(38) 石巻市 4,257 3,410(80) 850(20) 282(7) 390(9) 460(11) 東松島市 1,159 450(39) 710(61) 274(24) 400(35) 310(27) 仙台石 3,110 2,270(73) 840(27) 234(8) 310(10) 530(17) 名取市 1,371 780(57) 590(43) 81(6) 330(24) 260(19) 岩沼市 908 360(40) 550(61) 16(2) 250(28) 300(33) 亘理町 1,315 460(35) 850(65) 174(13) 480(37) 370(28) 山元町 876 240(27) 640(73) 174(20) 250(29) 390(45) 宮城県合計 16,148 10,090(62) 6,070(38) 1,420(9) 2,740(17) 3,330(21) 注:表 1 の脚注に示した農林水産省統計部資料より引用・加工.戸数の右欄の括弧内の数字は,2010 年時点の経営体数 に占める割合(%)である.また,ここで示した市町以外にも津波被害を受けたところはあるが,ここでは省略している (宮城県全体はそれら市町も含む数字である).

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組みは進められているが,しかし,1 年経っても津 波被害を受けた経営の中でまだ半数以上が営農を再 開できていないのである.表 4 に示すように,仙台 市や山元町で営農再開割合が低くなっているが,特 に,前述した山元町では被害が大きかったこともあ り,被災後 1 年経った時点においても営農を再開し た戸数割合は 29%に止まるとともに,それらの結果 として,町全体の 45%が営農を再開できていない. そして,そのような被害割合が高い中での営農再開 の遅れは,地域経済全体にも大きな課題を投げかけ るものとなっている. 3.野菜作経営における震災の影響と経営者の対応 東日本大震災による被害は,前述したように地震 による構築物の損傷や停電,断水,津波の被害,東 京電力第一原子力発電所の事故に伴う放射能汚染や 風評被害など様々であるが,程度の差はあれ,ほぼ 全ての農業経営が被害を受けたと言っていい7).特 に,宮城県では津波の被害は最も大きなものであり, 人命や,住居などの生活基盤をも失わせるもので あった. 震災の影響や復旧・復興に向けた経営対応につい ては,本来,そのような被害状況に応じて一つ一つ 考察すべきであるが,ここでは,その被害の経済的 大きさやその経営運営への影響を把握するという観 点から,震災により大きな被害を受けながらも,と りあえず2011年度のうちに営農を再開できた事例を もとに検討を行うこととしたい. (1)施設野菜作経営における災害復旧からの営農 再開 A 経営は,約 1 ha のハウス(鉄骨ガラス温室)のも とでトマトを周年栽培する施設野菜経営である.経 表 5.施設野菜経営における震災被害の影響(万円) 2010 年度 2011 年度 2010 年から 11 年にかけての変化 売上高 10,351 6,106 −4,246 売上原価 6,416 4,884 −1,533  うち肥料費 359 206 −152  うち諸材料費 595 430 −165  うち労務費 1,656 1,246 −410 減価償却費 468 470 2 水道光熱費 2,578 1,800 −777 販売費及び一般管理費 3,593 2,615 −978  うち役員報酬 852 878 26  うち出荷経費 1,693 744 −949  うち保険料・租税公課 337 319 −18 営業利益 342 −1,393 −1,735 営業外収益 104 5,106 5,002  うち雑収入 103 5,106 5,003 営業外費用 125 3,875 3,750  うち支払利息 125 105 −20  うち雑損失 0 3,770 3,770 経常利益 321 −162 −483 農業所得 1,173 716 −457 営業キャッシュフロー 803 379 −424 収獲期間 9 月~ 6 月 9 月~ 3 月  経営概要 労働力:専従構成員1 名,従業員 15 名 ハウス(鉄骨ガラス温室)面積 1 ha 養液栽培 単収 約30 t/10 a 独自ブランドを形成し,市場経由で量販店等に販売.実施的には契約取引となっている. 注:A 経営の会計資料及び聞き取り調査に基づき作成.なお,会計年度は 9 月~ 8 月である.営業キャッシュフローは, 税引後純利益+減価償却費で計算している.

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営概要は,後述する表 5 の下欄に示した.この経営 は比較的沿岸部に近い所に位置していたが,津波の 直接の被害は回避できた.以前に同じ出荷グループ としてトマト生産を行っていた別の経営では津波に より施設が全壊し,廃業を余儀なくされたのであり, この点では,被害は大きかったが,経営が続けられ たことは幸運であったと言える.しかし,地震の揺 れが強く内部の配管や雨水タンクの破損等が生じる とともに8),停電もあり,施設内のトマトが全て被 害を受け,6 月中旬まで出荷する予定であったトマ トの生産中止を余儀なくされた. 施設自体は何とか維持されたが,被害の程度は非 常に大きく,事業を停止するか,修理して再開する かの決断を余儀なくされた.特に,この経営には 15 名の従業員がいて,その人達の生計もあることから 早期の方針提示が求められた9).修理にかかる費用 や,公的助成に関する明確な情報は得られていな かったが,決断は急ぐ必要があった.そこで,経営 者は従業員に対して施設の修理を行って経営を維持 するという方針を示し,3 月一杯は自宅待機として, 4 月から施設の修理を開始した.修理は専門の業者 による対応が求められることから早期に依頼し,混 乱状況にある中で部品を調達して作業を進めたが, 最終的に修理費用として 4,200 万円を要することと なった. 上述したように,本来であれば 6 月中旬まで収獲 を行うところが,3 月 11 日で生産中止となったこと から,通常の収獲期間の 1/3 を占める約 3ヶ月間が 無収入となった.そのため,この年の収益は大きく 低下した.表 5 は,この経営の震災前の 2010 年度と, 震災があった2011年度の損益を比較したものである が,売上げは通常年には約 1 億円に達するのに対し て,震災により全体の 4 割に相当する 4,246 万円の 減少となり,そのため,営業利益はマイナス 1,393 万円という結果となった.前年に比べ 1,700 万円も の利益の減少である.これは,大幅な収入減少が生 じたのに対して,労務費,減価償却費,保険料,租 税公課などの固定的経費が多いことや,すでに多く が支出済みとなっていた水道光熱費や諸材料費など の費用もあり,経費の削減にも限界があったからで ある. 以上のように大きな被害が発生すると資金繰りが まず問題となるが,①東日本大震災復興交付金によ り,個人を対象に,4 月まで遡及して,国 50%,県 25%の補助率で助成を得られたこと,②施設は建物 共済に加入しており,その保険金が約 3,000 万円支 払われたこと10),③事故直後における日本政策金融 公庫からの融資対応に関わる連絡があり,その後も 無利子資金の借り入れが可能となったことなどか ら,資金繰りの面での対応が可能となった.この点 について具体的に見ると,まず,この経営は経営開 始当初の施設投資が多額であったことから,毎年の 償還額は 640 万円に達していた.内部金融の源泉と なる減価償却費は 470 万円であり,そのため,170 万円近い経常利益がないとキャッシュフローとして は回らない状況にあった.そのような状況のもとで の 4,000 万円の減収であったのである.そして,こ れに対しては,表 5 に示すように震災後の収入に通 常年にはない雑収入(助成金)が 5,100 万円あり,こ れにより雑損失分 3,770 万円が発生したものの,経 常損益としては 160 万円の損失に止めることができ たのである.この点では,緊急時の資金繰り対策と しては様々な手段が講じられたと言える.換言すれ ば,上記の助成や融資の仕組みがなければ,経営費 に占める固定費用の比率が大きい施設園芸経営で は,震災による売上げ減少や修理費の増加は経営の 存続に直結する深刻な状況を生じさせ,事業の継続 を困難としたと思われるのである. (2)いちご作経営における震災の影響と経営対応 宮城県山元町でいちごを栽培しているB 氏は,震 災前は 60a の農地のもとで,家族労働力 4 名を中心 に,さらに,収獲作業に臨時雇用を 3 ~ 4 人導入し つつ経営を行っていた.いちご作に関わる圃場は, 海岸近くの苗取り圃場 10a,自宅前の 20 a,海岸か ら約 100m 近く内陸寄りの 30 a の 3 箇所に分かれて おり,したがって,いちご栽培面積は 50a である. このうち自宅前の圃場には,震災の 1.3ヶ月前に長男 の就農にあわせて 1,600 万円をかけて新築したパイ プハウスがあった.しかし,震災による津波により, 自宅と,この海岸近くのパイプハウス,さらに,ト ラクタ等の機械は全て流失した.一方,海岸から少 し離れた鉄骨ハウス11)にも 1m 近くの高さまで海水 がきたがハウス自体はなんとか維持され,現在は,こ のハウスでいちご作を実施している.栽培面積は 50a から 30a へと大きく減少したが,家族労働力数は変 わっていないため雇用労働力の導入を控え,2011 年

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度は 1 日おきに収獲を行っている状況にある. なお,この経営では前項の事例で紹介したような 保険(建物共済)に加入していなかった.流失した ハウスの取得に要した借入金については 10 年間,年 償還額 160 万円で返済する計画であったのであり, 今後もこの借入金は残るが,これに対しては日本政 策金融公庫から無利子資金を借り入れ,15 年償還, 年償還額80万円として返済を行っていくこととして いる.また,現在使用しているハウスも修理は必要 であり,そのために約 500 万円を借り入れた.収入 自体が大きく減少する中で,このように資金繰りと しては厳しい対応を余儀なくされる状況にある. 表 6 は,この経営の 2010 年度と 2011 年度の収支 状況を比較したものである.なお,会計年度は 1 月 ~ 12 月である.そのため,2011 年度は 3 月 11 日以 降,通常であれば 6 月上旬まで収穫されるいちごの 販売金額がなく,また,12 月はハウス 30a 分の販売 という状況のもとでの収入となっている.表 6 はこ のような前提のもとでの比較であるが,売上高は 2,500 万円から 1,500 万円へと 1,000 万円減少した. 一方,残った鉄骨ハウスのリース料の支払いが終了 したことによる地代賃借料の削減や,施設が消失し たことに伴う減価償却費の減少,さらに,雇用労賃 を減らしたこと13) などから経営費が少なくなった ことに加え,255 万円の助成金(雑収入)もあり,単 年度の農業所得としては結果的には前年度とほぼ同 水準となった. しかし,ハウスの流出に伴い固定資産やその中に あったいちご(棚卸資産)がなくなっている.この 経営は法人化していないためそれらの損失は2011年 度の申告に計上されているが,減価償却損失及び棚 卸損失は 1,641 万円に達しており,それを考慮する と農業所得はマイナス 1,000 万円という多額の損失 を被ったことになる.そのため,B 経営では,以下 に述べるいちご団地に参加し,いちごの栽培面積を 再び 60a まで拡大する計画である. 表 6.いちご作経営における震災被害の影響 (万円) 2010 年度 2011 年度 2010 年から 11 年にかけての変化 売上高 2,518 1,481 −1,038 経営費 2,126 1,115 −1,011  うち光熱動力費 346 279 −67  うち地代賃借料 259 0 −259  うち減価償却費 229 65 −164  うち雇用労賃 192 50 −142  うち出荷経費 521 314 −206 営業利益 392 366 −26 雑収入 41 255 214 利子割引料等 6 6 0 農業所得(損失含まない) 427 616 188 減価償却損失及び棚卸損失 0 1,641 1,641 農業所得(震災による損失含む) 427 −1,025 −1,453 借入金償還額 160 80 −80 現金収支(家計費充当可能額) 496 601 104 経営 概要 農地面積 60 a 30 a 30 a イチゴの栽培面積 50 a 30 a 20 a 労働力 家族4 名+臨時雇用 主に家族4 名 臨時雇用減少 当該会計年度出荷期間 2009 年 11 月~ 2010 年 6 月 2011 年 3 月,2011 年 11 月2010 年 11 月~ 3 ケ月減少 出荷先 JA JA 注:B 経営の会計資料及び聞き取りに基づき作成.なお,会計期間は 1 月~ 12 月である.現金収支は,農業所得(損失 含まない)+減価償却費-借入金償還額で計算.

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沿岸部のハウスの流出を受け,亘理町,山元町で は,産地の復旧・復興に向けていちご団地を造成す る取り組みが進められている.現在進行中であり流 動的な面はあるが,亘理町 27.5 ha(参加希望者 120 戸.但し,その後 99 戸に減少したため実施面積は少 なくなっている),山元町 20ha(50 戸)の団地を建 設するという計画である.なお,団地となっている が,全てのハウスが連担しているわけではなく,一 定のまとまりを持った範囲での建設という意味合い が強い.場所もそれぞれ 4 ケ所の計画となっている. また,いちご作は農業者により管理の程度に差があ り収量水準も大きく異なること,それゆえ農業者に は競争意識を持たせた方がいいという判断から共同 化は計画されておらず,ハウスは個々の経営がそれ ぞれ自己完結的に利用する方式となっている. また,いちご団地で採用される栽培方法はすべて 養液栽培であるが,その要因には,①従来のように 井戸水を用いた栽培は地下水の塩分濃度が依然とし て高いことから実施できず水道水を用いるため,よ り節水が可能な方式が求められたこと14),②より省 力的で多収が見込める方式であること,さらに,③ 養液栽培を行うには鉄骨ハウス及び設備が必要とな るが,後述するように無料でのリース方式が設けら れたことから,今回を契機に養液栽培へ移行したい とする判断が働いたことなどがあろう.また,土耕 栽培においては盛土に時間がかかるため,より早期 に営農が開始できる養液栽培が望ましいという点も 影響したと思われる. なお,従来はこの地域で養液栽培を行っている農 業者は 5 ~ 10%にすぎず,その他は土耕栽培であっ たが,今回はほぼ全てと言える 95%が養液栽培を希 望しており,この点で今後技術的な対応策の強化が 求められよう.また,この地域では冬期の暖房はハ ウスに散水する方式が用いられてきたが,鉄骨ハウ スになるとそれは実施できないため重油等の暖房費 がかかる.しかし,近年,重油価格による暖房費の 高騰が問題となっていることから経費の増加が懸念 されるのであり,この点への対策も今後必要と思わ れる15). 4.震災からの復旧・復興と地域農業 本稿では,震災による農業経営への影響について 限られた事例から考察したが,最初に述べたように それらは経営により大きく異なるとともに,また, 被災地でのボランティア活動を契機とする雇用型法 人経営の形成など従来なかったような新たな動きも あり,地域農業全体の動向を示すことは困難である. 換言すれば,特に被害の大きかった所では,地域農 業という概念を用いて議論することは現状では適当 ではないように思われるのであるが,このことを念 頭に置いた上で,ここでは地域農業と関連する 3 つ の論点のみ指摘しておきたい. 第一は,復旧及び復興という言葉の理解について である.本稿ではその両者を合わせて用いてきたが, 従来の状態にまず戻すという意味合いが強い復旧に 対して,復興には震災を契機により生産性の高い生 産システムへと発展させていくことが意図されてい ると考えられる.特に,関係機関や政策当局等にお いては,今回の震災を契機に,大区画圃場整備や新 たな経営の育成,新技術の導入などを進め,そのこ とにより競争力の高い農業を構築していくことも意 識されていよう. 一方,被災した農業者,特に,高齢の農業者にお いては,まずは現状復帰(復旧)が必要であり,そ のことが営農への意欲を生み出す前提にもなって いるように思われる.換言すれば,そのような農業 者は復興に向けた新たな取り組みについていけて いないという印象も受けるのである.あるいは,そ のような新たな生産体制の構築には時間がかかる がそれを待つ余裕はなく,営農が開始できなければ 他産業に従事せざるを得ないという現実的問題も あろう.復旧と復興は対立するものではないが,以 上の問題は,復旧から復興に向けてのプロセスが十 分見い出せていないという点にあるのではないだ ろうか.被災地で進められる先進的な施設の建設な どに対して,ある農業者の「あのようなのは我々一 般農業者にはできない」,「明日にも農業をしたい人 が瓦礫を取りに行っているのに」という言葉は,ま ずは復旧こそ早く進めてほしいという想いの表れ でもあろう. しかし,同時に,例えば養液栽培という方式を全 域的に進めるとすれば,栽培システムとしては一定 の共通化を図った方が合理的であることは確かであ り,農業者個々の意向をどこまで尊重すべきかは判 断が分かれる所である.また,いちご栽培において も,産地としての将来方向を考えるならば,共同育

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苗や共同選果の実施など,これまで農業者の賛同を 得られなかった取り組みを開始していくことも必要 なことであろう.さらに,現状の圃場条件への復帰 に対する要望が強いとしても,大区画汎用圃場の整 備を図っていくことも重要である.この点では,地 域の農業者の合意形成にかける時間や体制が十分確 保できない中で,この復旧と復興をいかに一連の取 り組みとして継続させていくかがこれからの課題と 言えよう. 第二は,地域農業という営農の仕組みを今後どの ように形成していくかである.被災地では,自宅や 施設が消失して転居を余儀なくされた方も多いこ とに加え,集落それ自体がなくなった所もある.そ のような地域では,コミュニティそのものが成立し 得ない.野菜作は元々個別性が強いが,今回対象と した地域では,水田作においても,ブロックロー テーションはなされるものの,受託型組織での生産 調整への対応が多く,いわゆるぐるみ型の集落営農 が広く展開してはいない.このような中で,特定の 担い手や営農組織への耕作集中がかなり進むと思 われるのであり,その意味では,従来のような地域 農業の姿を描くことは困難であろう.しかし,そう であるとしても,様々な営農再編への取組みを統合 し,それらの相乗効果を上げる仕組みの構築もまた 必要である.この点では,地縁的ではない,いわば 機能に基づく地域営農の構築が求められていると 言えよう. 最後に,前述したいちご団地の形成に関わる現状 と課題について述べておきたい.新設されるいちご 団地でのハウス用地については,当初の説明では町 (県公社)が中間保有し,それを希望する農業者に貸 し付けるとしており,かつ,その農業者は将来その 農地を購入する前提でハウスを借りるということで あった.しかし,B 経営に対する聞取りによれば,自 分で農地を貸してくれる者を探し出し,その農地に 対しては 10 年の利用権設定を行うこと,また,そこ を購入するかどうかはその時点で判断するとのこと であり,必ずしも方針はまだ明確にはなっていない ように思われる. 育苗に関わる経費や光熱動力費などは生産者負担 となっているが,このハウスのリース料は無料と なっており,生産者にかなり有利な支援が講じられ ることとなった.そのため,これによりいちご生産 を再開しようとする農業者が現れてきている16).し かし,全額公的助成という仕組みであることから, 対象となる面積は従来の当該経営のハウス面積の 0.8 倍(亘理町)~ 1.0 倍(山元町)とされているよう である(2012 年 6 月段階).すなわち,復旧が前提 であり,それ以上の展開を図ろうとすれば他の対策 を検討せざるを得ない状況にある. さらに,上述したように亘理町では従来の 80%の 面積となることもあり,当初このいちご団地に参加 して営農を再開することを希望していた農業者が 120 名から 99 名に減少したと言われている.また, その減少分を他の再開希望者の面積に上乗せするこ とも困難とのことである.この点は更に確認を行う 必要があるが,政策的助成は復旧までであり,今回 の災害を経て営農を再開するに当たって,さらなる 規模拡大や経営内容の拡充が組み込めないとすれば 問題であろう.この点で,上述した復旧から復興へ の道筋をどのようにたてていくのかが改めて問われ ていると言えるのである. このような復旧から復興にむけての支援方策や, 地域の生活基盤が失われた中で,地域農業という生 産システムをどのように再構築すべきかについての 学術的な知見はまだないように思われる.この点で このような課題に対する研究蓄積を図る上でも,被 災地の農業経営や地域農業の実態を継続的に調査 し,課題を整理していくことが重要であり,そのよ うな取り組みを引き続き実施していく必要がある. 注 1) 宮城県資料による. 2) 農林水産省統計部『作物統計』による. 3) なお,農林水産省統計部の作付統計では 1,868 ha となっ ているが,ここでは普及センター調べの数字を用いた. 4)JA 担当者によれば,除塩を行う以前に瓦礫等の撤去が 必要になるが,これらは重機で実施せざるを得ず,そ の重さで小さな瓦礫やガラス片などは土壌中に埋没す ることから,人力による除去や,表土を取り除くこと を実施せざるを得ない.この点で,そのような圃場の 多い沿岸部においては,客土を行うことを含め,農地 の復旧にはまだ多くの時間を要すると言われている. 5) この管内のいちごは「仙台いちご」としてブランドが 確立されており,県内に加え,札幌市場等へ多く出荷 されている. 6) この数字は,津波被害のあった経営に占める割合であ り,表 4 の括弧内の数字(2010 年時点の経営体数に占 める割合)とは異なることに注意されたい.

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7) 本稿では放射能汚染に伴う被害については十分に記載 できていないが,宮城県においても,原発事故以降の 枝肉価格の下落や,水稲・大豆作等に関わって放射性 物質が検出されるかもしれないという不安と,それへ 対応(作付抑制)など様々な被害を受けていることを 指摘しておきたい. 8) 地震発生時は丁度休憩中であり,従業員に怪我はな かった. 9) 従業員にとっても,この経営で働かない場合に他の就 業先が容易に確保できる業況にはない訳であり,この 点でも,経営の再開は不可避の選択肢であった. 10) この経営では建物共済に加入していたことが幸いし た.後述する事例では未加入だったからである.但し, 残存価額に応じた補償であり,これだけで営農再開が 可能な訳ではない. 11) このハウスは,JA からのリースという方式でいちごの 栽培を行っていたものである. 12) 暖房機は全て損傷し,ビニールも交換することとなっ た. 13) このような雇用労働の削減は,経営としてはやむを得 ない対応であるが,地域の被雇用者においては就業機 会が減少したことを意味することに留意する必要が ある. 14) 多数のハウスが建設された場合水道水の使用量は多く なるが,それでも町全体の供給量としては可能と計算 されている, 15) 今回,分析対象とした亘理町及び山元町の水田作経営 に対してはまだ復旧過程にある水田も多く十分な調 査が実施し得ていないが,耕作が可能となった水田で は水稲を中心に作付けが進められている現状にある. また,管内のJA が実施した農業者に対するアンケー ト調査結果によれば,個人で営農を再開するという希 望はわずかであり,集団や共同で実施,あるいは,委 託したいという希望が多いとされている.そのため, 被災地の担い手の耕作面積はかなり拡大する状況に あり,水田作については,今後,特定の担い手への耕 作集中が進んでいくと思われる.なお,これらの地域 以外での水田作経営の被災状況については,関野幸 二・梅本 雅(2012.03)「東北・関東における地域農 業復興の展望と技術的対応」『研究ジャーナル』35(3), pp. 64-68 を参照されたい. 16) 2011 年度における関係機関の説明では,ハウス建設へ の助成は東日本大震災復興交付金を用いて国 1/2,県 1/4 の助成を期待しているということであったが,こ の点では 100%の公的助成という方式が採用されたこ とになる. (受理日:2012 年 9 月 12 日)

参照

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