中学生の WISC-Ⅲについての相談
【相談内容】 中学生の子どもが WISC-Ⅲを受けました。その結果、いろいろな項目の「差」が大きい ようで、成績の低い項目に支援をするように指導を受けました。たとえば、「絵画配列」が 低いので「因果関係」を具体的に指示することが必要だというようなことを言われました。 また、「処理速度」が速いと言われたのですが、これはどういう意味なのでしょうか? さらに、「世の中には仕方がないことが多い」ことを覚えようと担当の先生に言われただ けで、説明が終わりでした。 全体として、検査の結果で何が分かったのか、よく理解できませんでした。この検査結 果についての説明をお願いします。子どもへの関わり方は、SST の本などを⾒て、足りな い部分を補うような感じで関われば良いでしょうか? 同時に、この結果で「アスペルガー症候群である」と言われたのですが、そうなのでし ょうか? 併せて教えてください。 【WISC-Ⅲの結果】 1.IQ ・群指数 IQ(知能指数) 群指数 言語性 VIQ 動作性 PIQ 全検査 FIQ 言語理解 VC 知覚統合 PO 注意記憶 FD 処理速度 PS IQ/標準得点 121 101 113 120 90 106 1362.下位検査評価点 言語性尺度 知 識 類 似 算 数 単 語 理 解 数 唱 12 11 14 16 14 8 動作性尺度 絵画完成 符 号 絵画配列 積木模様 組合せ 記号探し 迷路 10 17 5 10 9 16 13
【回 答】 お子様がアスペルガー症候群という診断を受けられたということで、さぞご心配なこと と拝察いたします。 今回、受検された検査は、“WISC-III(ウィスク・スリー)”といい、従来、医療機関や児 童相談所で、もっともよく使われて来た子ども用の知能診断検査です。ただし、2011 年 1 月に、この改訂版である WISC-IV(ウィスク・フォー)が出版されましたので、今後はこ ちらが、主に使われるようになると⾒込まれますが、WISC-III もまだ広く使われていま す。検査の正式な名称は、Wechsler Intelligence Scale for Children で、その頭文字を とって、通常、WISC と呼ばれています。Ⅲや、Ⅳという数字は、その改訂版であること を示しています。 1.知能指数(IQ) IQ は、ある年齢集団の中で、お子様の知的な⽔準が相対的に⾒て、どのくらいのレベル にあるかを示します。いずれの IQ も、平均的成績を取った場合に、100 となるように数 値化されており、IQ=90〜109 の子どもが、全体の 50%になるようにつくられています。 お子様の場合、全検査 IQ=113 でした。これは、「平均の上」というレベルに入ります ので、全体的な知能はやや高いと考えられます。また、言語性 IQ=121 は、「優れている」 範囲に含まれます。動作性 IQ=101 は、「平均」の範囲ですから、全体として知能の⽔準 は、平均以上の⼒をお持ちで、その意味では問題はありません。ただし、言語性 IQ と動 作性 IQ との間には、20 の差があります。統計学的に⾒て、これは、意味のある差(有意
差)と考えられ、お子様の場合には、言語的な能⼒の方が、動作的な能⼒よりも高いとい えます。 なお、この言語性と動作性の IQ の区別は、最近になって、理論的な根拠や、実証的な 根拠には乏しいと考えられるようになっていますので、参考程度としてご理解ください。 むしろ、次に述べる「群指数」を重視してください。 2.群指数 群指数は、最近の研究によって、言語性-動作性の区別よりも、根拠が明確であり、子ど もたちのそれぞれの能⼒をかなり的確に捉えることができ、また、指導計画を考える上で もとても有効な指標と考えられています。数値の意味は、IQ と同じく、平均的な能⼒があ る時に 100 となるように作られており、90〜109 が「平均」と判断される範囲です。 それぞれの群指数は、次のような能⼒を測定しています: ・処理速度……反応の速さ、視覚的な短期記憶の能⼒、視覚的な情報を記号化する能⼒ ・言語理解……言語の意味の理解⼒、言語的知識の豊富さ、言語表現能⼒、言語を用いた 推理(思考)能⼒ ・注意記憶……注意の範囲(⼀度にどれくらいの量の情報を短時間、記憶できるか)、聴覚 的な短期記憶能⼒、聴覚的な系列化(聴覚的な情報を、順番に処理する能⼒)、聴覚的な情 報の記号化能⼒ ・知覚統合……視覚的刺激・情報の統合能⼒(関連性を理解する能⼒)、言語によらない推 理・思考能⼒
お子様の場合、4 つの群指数ともに「平均」の範囲かそれ以上の数値ですので、いずれ も平均以上の能⼒をお持ちと考えることができます。 ただし、検査を受けられたときに説明があったようですが、数値のばらつきがやや大き く、得意・不得意の差がかなりあると考えられます。統計的な有意差を考慮しますと、 処理速度>言語理解>注意記憶>知覚統合 という順で能⼒が高く、2 つずつのペアを作って比べても有意差が認められます。これが、 今回の担当の先生が、「いろいろな項目の『差』が大きい」といわれたことの⼀つです。 IQ でみたときには、言語性 IQ の方が、動作性 IQ よりも高かったのですが、それは、 群指数でいうと、言語理解や注意記憶が高かったのに対して、相対的に知覚統合が低いと いう結果と⼀致しています。 さて、ここまでの結果で、お子様の支援を考えますと、低い能⼒を補う、支持するとい うことも考えられますが、まず優先したいのは、高い能⼒、つまり得意な能⼒を生かして、 新しい知識やスキルを獲得するという「⻑所活用型」の指導です。 すなわち、お子様の場合、次のような方法を使って学習する方がより分かりやすいと考 えられます: ①ことばで説明や、定義づけを⾏う ②⼀つずつ順を追って説明する ③頭の中だけで考えさせず、形の理解、空間関係の理解に関わることがらでは、具体物 を使って指導する ⾝近な例を出せば、初めてのところに出かける際には、地図を⾒せるよりも、言葉で道
順を説明した方が分かりやすいというタイプであるように考えられます。 3.下位検査の得点パターンからみた特徴 下位検査は、群指数や IQ を求めるもととなった、個別の検査課題の結果を示していま す。言語性尺度 6 種類、動作性尺度 7 種類の合計 13 種類があります。これらの結果は、 「評価点(SS)」で示されます。平均的な成績を取ると評価点=10 になります。評価点は、 7〜13 が「平均」の範囲ですので、お子様の場合には、「絵画配列」が低い以外は、平均 または、それ以上の能⼒をお持ちといえます。 しかし、絵画配列の評価点=5から、単語や記号探しの評価点=16 までかなり大きな差 がありました。これが、「いろいろな項目の『差』が大きい』といわれたもう⼀つの点です。 さて、この下位検査の評価点の⾒方については、⼀つひとつの下位検査の評価点をみる よりも、複数の下位検査に共通する得意・不得意のパターンがないかを検討した方が、よ り有用な示唆が得られますし、その方が、心理アセスメントとしては根拠がある解釈にな ります。以下には、この「プロフィール分析」と呼ばれる分析方法から得られたお子様の 特徴をお示しします。 ただし、これらは、あくまでも今回の WISC-III の結果から推定した、いわば「仮説」 ですので、学業成績や、日常生活の場面で、ここにあげた特徴と共通するものがあれば、 それはお子様の持つ能⼒である可能性が高くなります。 ①学習能⼒はあり、いったん獲得した知識やスキルはきちんと⾝につく ②とくに言語的な面では、この特徴がみられる
③それに対して、空間認知、図形の認知、ことばによらないで考える問題(数学でいえ ば、図形問題;地図の読み取りなど)、複数の視覚刺激の関連性の理解などは、苦⼿である ④意味のある刺激や情報の理解が悪い時がある ⑤興味や好奇心はかなりある ⑥柔軟性に欠けたり、自信がないときには答えるのを迷ってしまったりする傾向がある ⑦込み入った刺激や情報を示されると、本質的なものや、大切な情報を区別できにくい 以上が、WISC-III の結果から考えられる、お子様の認知、知能面の特徴です。これら の中に、ご両親からご覧になった特徴や、学業成績、学校での様子などと⼀致するものが ありましたら、それはお子様の特徴であると考えられます。何か新しい知識やスキルを教 えるとき、その他の支援を考えるとき、あるいは、日常生活をスムーズに送ることができ るようにするためには、すでに述べたように、「得意な能⼒」「⻑所」をうまく活かすこと をお考えください。 また、苦⼿な部分については、反復練習して克服するよりも、それをカバーするような やり方を考えたり、得意なやり方で教えたり、理解できる方法がないかをまずはお考えく ださい。 4.診断と知能検査の結果 発達障害についても、医学的な診断は、専門医が⾏います。また、知能検査の結果は、 発達障害の診断を下す際には、あくまでも補助的な資料として用いられます。発達障害の 診断は、心理や⾏動の特徴、これまでの生育歴、日常生活や学校での状況など、いろいろ
な側面から詳しく、慎重に面接を⾏って、状態をお聞きし、場合によっては、ご両親など からの情報、学業成績なども参考資料として、総合的に判断することになります。お子様 のアスペルガー症候群という診断については、もう⼀度主治医の先生によくお聞きになる ことをお勧めします。 今回のご質問では、お子様の心理、⾏動上の特徴についてはお書きになっていらっしゃ いませんので、アスペルガー症候群に該当なさるかどうかについて、私の意⾒を書くのは 控えさせていただきます。しかし、アスペルガー症候群など、いわゆる広汎性発達障害に 含まれるお子さんの場合、わかりやすく書きますと、「融通が利かない」という特徴を持つ ことが多いと考えられます。今回の先生が、「世の中には仕方がないことが多いってことを 覚えよう」と助言されたのは、この点と関連するのではないかと推察します。悪い意味で ご理解になるのではなく、日常生活をスムーズに送る上での知恵とか、対⼈関係の持ち方 などについては、単純に理屈では割り切れないことが多いのですが、それらについては、 市販の図書を参照していただき、具体的な場面で、対応を教えて⾏くことが必要です。 たとえば、相⼿のことばを額面通りに受け取ってしまうと、うまくいかないことが多い といったことは、具体的な場面を通して説明し、理解してもらって⾏かざるを得ないとい うことをおっしゃりたかったのではないかと考えます。 以上、⻑くなりましたが、多少とも参考になることがあれば、幸いに存じます。