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バースレビューを実施した助産師学生の経験と教育課題の検討

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Academic year: 2021

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 27, No. 1, 72-82, 2013

資  料

*1 札幌医科大学保健医療学部看護学科(Department of Nursing, School of Health Sciences, Sapporo Medical University) *2 北海道大学病院(Hokkaido University Hospital)

*3 北海道大学大学院保健科学研究院(Faculty of Health Sciences, Hokkaido University) *4 旭川医科大学病院(Asahikawa Medical University Hospital)

2012年6月18日受付 2013年1月17日採用

バースレビューを実施した助産師学生の経験と教育課題の検討

Educational challenges and experiences of midwifery students

who performed birth reviews

荻 田 珠 江(Tamae OGITA)

*1

中 澤 貴 代(Takayo NAKAZAWA)

*2

安 積 陽 子(Yoko ASAKA)

*3

荒 木 奈 緒(Nao ARAKI)

*3

平 塚 志 保(Shiho HIRATSUKA)

*4 抄  録 目 的  分娩介助実習の初期(分娩介助数1∼3例)と,実習終了時(分娩介助数10例)の2時点において,助産 師学生が褥婦とのバースレビューで経験したことを明らかにし,出産体験へのケアに関する助産学教育 の示唆を得ること。 対象と方法  対象はA大学に在籍し,看護学専攻の選択科目である助産学課程を選択した4年次学生とした。研究 対象となった7名の学生を3名と4名の2グループに分け,前期実習終了時と後期実習終了時にフォーカ スグループインタビューを行った。分析はS・ヴォーンらが示す手順に従って行った。 結 果  前期・後期実習ともに学生の話題に挙がったテーマは3つであった。「バースレビューの実施と自己評 価」というテーマでは,前期で【出産体験の振り返りへのケア】と【バースレビューの難しさ】,【次回に 向けた自己課題の把握】,後期では【出産体験の統合に向けたケア】,【現時点における自分の未熟さ】と いうカテゴリーが抽出された。「バースレビューで気づいたこと・わかったこと」では,前期で【思い込 みによる対象理解】,【バースレビューを行う理由と必要性】,後期では【分娩期には捉えきれない全体像】, 【助産ケアとその対象の多様性】,【個別のニーズに応える必要性】などであった。「バースレビューを実 施した感想」では,前期で【好評価への申し訳なさと満悦感】,後期では【好評価による次への意気込み】 であった。 結 論  学生のバースレビューは,出産体験の振り返りに始まり,実習終了時には出産体験の統合に向けたケ アを実施するようになっていた。同時にバースレビューがもたらす効果を実感したり,助産ケアの多様 性に気づく機会となっていた。教員は,学生がバースレビューの目的や意義,対象をどの程度理解して いるのかを把握し,課題の明確化や不足を補うようサポートをしていくことが重要である。

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キーワード:助産師学生,助産学実習,バースレビュー,出産体験へのケア,フォーカスグループイ ンタビュー

Abstract Objectives

The purpose of this study was to examine the experiences of midwifery students with puerperants during deliv-ery through birth reviews at the beginning (number of times assisting labor: 1-3) and completion (10) of a labor as-sistance practicum. The results were analyzed to gain educational insight into care related to childbirth experiences of postpartum women.

Methods

Participants were seven senior nursing major students at A University who chose an elective course in midwife-ry. These students were divided into two groups of 3 and 4. Focus group interviews were conducted at the comple-tion of the first and second half of the practicum. Results were analyzed using the methods described by Vaughn et al.

Results

Three themes were raised by students as topics in the practicum. In performing birth reviews and

self-eval-uations, the topics were "care related to reflecting on the childbirth experience," "difficulty of performing birth

reviews," and "understanding one's task for the next delivery" in the first half of the practicum, and "care related to integrating the childbirth experience" and "one's current inexperience" in the second half of the practicum. With respect to what one noticed/realized during birth reviews, the topics were "an understanding of puerperants through assumptions" and "the reason and need for birth reviews" in the first half of the practicum, and "lack of a big picture understanding of the delivery process," "midwifery care and puerperant diversity," and "the need to meet individual needs" in the second half of the practicum. Regarding impressions of performing birth reviews, students felt both "uncomfortable with favorable evaluations and a sense of accomplishment" in the first half of the practicum, and "enthusiasm due to favorable evaluations" in the second half of the practicum.

Conclusions

Birth reviews began with reflecting on the childbirth experience and, by the end of the practicum, carrying out care by integrating experiences. Birth reviews also provided opportunities for students to realize the effects brought about by such reviews, and made them aware of the diversity in midwifery care. It is important that teach-ing staff recognize the degree of student understandteach-ing of the objective and significance of birth reviews and under-standing of their patients, and provide support for clarifying and supplementing deficiencies in tasks.

Key words: midwifery students, midwifery practicum, birth review, care related to childbirth experiences, focus group interview

Ⅰ.諸   言

 平成22年7月の助産師養成指定規則の改正が行わ れ,助産師養成の修業年限が6か月以上から1年以上 となった。4年制大学では統合教育から大学院への移 行など,各助産師教育機関では,学生のさらなる実践 能力の向上を目指し,教育内容が検討されていると ころである。助産師教育に関する研究は多数報告さ れてきた。特に助産師学生の分娩介助技術の習得状況 や,分娩介助時の学びに関する研究が多くみられ(岩 木,1996;松岡・宮中・五十嵐,2004;名取・岡部・ 有井他,2004;常盤・今関,2002;渡邊・小田切・熊 澤他,2007;谷津,2003),分娩期の教育は助産師教育 に携わる教員の大きな関心事であることがわかる。他 方,平成22年3月の「健やか親子21」の第2回中間評価 報告書(2010)では,妊娠・出産に満足している者の 割合は増加しているものの,「出産体験を助産師等と 振り返ること」においては,満足度が低かったという 結果が報告された。今後は分娩期に限らず,産褥期の ケアに関する教育内容を充実させていくことが重要で あると考えた。しかし,出産後の女性の心理・社会的 な側面に関わる教育に関する研究はほとんど行われて おらず,具体的な方向性は明確になっていない。そこ で,出産後の女性に行われるバースレビューに着目し た。バースレビューは,褥婦の心理面や家族・社会的 背景に触れながら,妊娠期に描いていた出産に対する 思いや,出産体験を助産師とともに振り返り,褥婦が 自己の出産に意味を見出すことを目的に行われる。褥

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う体験を通して,気がついたことや思ったこと。ま た,この気づきや思いから生じた解釈とそれに伴っ た行動。

Ⅲ.研 究 方 法

1.研究対象者  A大学に在籍中,看護学専攻の選択科目である助産 学課程を選択した,4年次学生(以下学生と示す)とし た。研究の依頼は,助産学実習開始前のオリエンテー ションの際に依頼文書を用いて行った。後日,署名し た同意書の提出があったものを対象者とした。 2.助産学実習の方法と実習指導体制  本学生は,助産師国家試験受験資格を得るために, 卒業要件に加え,さらに14単位を修得する必要があ る。分娩介助実習に要する期間は約12週間で,学生 は6月∼8月に1∼2週間の前期実習と,10月∼1月に 11週間の後期実習を行った。実習施設は5施設(総合 病院3施設,産婦人科病院1施設,産婦人科クリニッ ク1施設)で,学生は1∼2名に分かれ前期1∼2施設, 後期は2∼3施設でそれぞれ実習を行った。実習には 必ず教員1名が同行した。分娩介助技術を含む分娩期 ケアの実施は,臨床指導者の指導のもと行われ,助産 過程やバースレビューの実施は,教員の指導のもと進 められた。総合病院やクリニックなど実習場所は様々 であったが,助産ケアの提供方法に大きな違いはなか った。実習施設の概要を表1に示す。  学生は受け持ち産婦が決定次第,助産過程を展開し ながら産婦のケアを行う。実習時間は日勤帯に限られ たため,産婦の分娩進行によっては分娩介助ができな いこともあった。分娩介助を行った際には,原則2日 以内にバースレビューを実施した。分娩介助に至らな かった場合にも必ず顔を合わせ,母子の様子と分娩経 過を把握するようにした。 婦が自身の出産を肯定的体験として捉えることができ れば,母親としての自信を高め,親役割への取り組み も順調に進めていくことが期待できる。よって,バー スレビューは,出産後の女性に対する重要な助産ケア といえる。平山(1993)は,助産師学生が実習で受け 持った女性とともに行う振り返りは,学生と産婦双方 に意義があったと述べている。助産師学生が褥婦に行 うバースレビューは,出産体験へのケアを学ぶ重要な 機会になり得ると考えた。  助産師学生が褥婦とのバースレビューで経験したこ とを明らかにし,出産後の女性へのケアに関する教育 の基礎的資料を得たいと考え,本研究に取り組むこと とした。

Ⅱ.研究の目的

 本研究は,助産師学生が分娩期に関わった女性との バースレビューで経験したことを明らかにし,出産体 験へのケアに関する助産師教育について検討すること を目的とする。先行研究では,分娩介助実習における 技術到達度は分娩介助数1∼3例目,4∼6例目,7∼10 例目に節目があるとされている(松岡・宮中・五十嵐, 2004;常盤・今関,2002)。これは分娩期の経過診断 や技術の習得が向上する時期を示しており,学生が行 うバースレビューに影響すると考えた。教育の順序性 を考慮し,分娩介助実習の初期(分娩介助数1∼3例) と実習終了時(分娩介助数10例)の2時点における学 生の経験を記述し,その内容を比較することとした。 用語の定義 出産体験の振り返り:褥婦が出産中に起こった出来事 や,その時々に抱いた思いや感情を思い起こすこと。 出産体験の統合:褥婦が出産体験の振り返りを通して, 出産や出産にまつわる体験について,自分なりの意 味を見出すこと。 出産体験へのケア:褥婦に出産体験の振り返りや統合 を促し,最終的に褥婦が自己の出産を肯定的に捉え られるように関わるケア。 バースレビュー:助産師学生が褥婦の出産体験の振り 返りや統合を目的とした会話をもつこと。または意 図的な場を設けなくても,褥婦が出産時に体験した ことや出産にまつわる事柄を直接助産師学生に伝え た時に生じたやり取り。 学生の経験:助産師学生が分娩期に関わった褥婦との バースレビューで,見たり聴いたり話しをするとい 表1 実習施設の概要 実習施設 施設の種類 実習期間 ① 総合病院 前期・後期 ② 産婦人科病院 前期・後期 ③ 総合病院 後期 ④ クリニック 後期 ⑤ 総合病院 後期

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3.バースレビュー実施前の学習状況  バースレビューの目的・方法は,産褥期ケアの講義 内容に含まれていた。講義では,文献(小川,2005; 吉沢,2008)が用いられ,バースレビューは産褥期に 必須のケアであること,またバースレビューを行う際 の基本姿勢が説明された。バースレビューに関する演 習は特に行われていなかった。 4.データ収集期間  前期実習終了時(以下前期実習と示す)の2010年8 月と,後期実習終了時(以下後期実習と示す)の2011 年1月の計2回,フォーカスグループインタビュー(以 下インタビューとする)を行った。この2時点は,前 期実習と後期実習の分娩介助例数が,分娩介助実習の 技術到達度の節目となる1∼3例と7∼10例に達した 時期であった。 5.インタビュー内容と方法  研究対象者である7名の学生を3名と4名の2グルー プに分け,インタビューを実施した。インタビューは 研究者のファシリテートのもと進められた。インタビ ューの内容は,「バースレビューで褥婦からどのよう な話を聴けたか」,「その話からわかった事や気づいた 事は何か」,「自分が行ったバースレビューが褥婦にと ってどのような体験になったと思うか」であった。イ ンタビュー内容は前期と後期実習の経験が比較できる よう,2回とも同様にした。研究者は学生間のグルー プダイナミクスを促すとともに,忌憚のない発言がで きるよう,受容的な態度で同意を示し,個人の意見を 大切にした。インタビューの内容は承諾を得て,IC レコーダーに記録した。 6.分析方法  S・ヴォーンらが示す手順である,基本的考えの確 認,データの単位化,情報単位のカテゴリー化,カテ ゴリーの取り決め,主題の確認と理論の適用に従って 分析した(Vaughn, Schumm & Sinagub, 1996/2006)。  基本的考えとはインタビューの中で,主に話題とな った内容を指す。逐語録を精読し,学生の経験を示す 記述に注目しながら,話題となっていることを確認し た。次に逐語録から学生の経験を示す記述を抜き出し, できるだけ学生が使用した言葉を用い,簡潔にしたも のをコードとした。そして,コードの内容が同質のも のをまとめ,カテゴリー名をつけた。これをサブカテ ゴリーとし,さらに内容の同質性によってまとめたも のを,意味内容を損なわないよう抽象度を上げカテゴ リー名をつけた。最後に,カテゴリーと基本的考えを 照らし合わせ,カテゴリーが基本的考えを反映させて いるか確認を行った。分析の全過程において研究者間 で議論を重ね,分析結果の真実・信憑性の確保に努め た。 7.倫理的配慮  本研究は,研究者が所属している教育研究機関の倫 理審査委員会の承認を得てから開始した(承認番号10-18)。学生の研究協力の自由意思が尊重されるよう,研 究協力の拒否と途中辞退の権利について,文書を用い ながら十分に説明をした。また,協力を拒否しても 成績に影響することは全くないことを保証した。なお, 本研究の研究者はA大学の教員であるが,研究を遂行 する上では,研究者という立場で学生に関わった。  学生がバースレビューを行うことに関しては,褥婦 が不利益を被ることがないよう十分配慮した。学生は バースレビュー実施前に行動計画を立て,教員のフ ィードバックを受けた。褥婦の否定的感情が強いなど, 学生では対応しきれない場合も想定されたため,実施 の際には教員が付き添い,出産体験の統合に向けたケ アを行うこともあった。実施後には病棟の指導者に内 容を伝え,最終的には褥婦の出産体験が肯定的なもの として完了するようにした。インタビューを通して学 生が知り得た個人情報や実習施設の情報は,他の場所 で他言しないよう同意を得た。

Ⅳ.結   果

1.助産学実習の概要とインタビューの実施  助産師課程を選択した4年次生7名に研究協力を依 頼した結果,7名全員から同意が得られた(学生 A∼ G)。学生は実習期間を通して,10∼11例の分娩介助 を行った。分娩介助をした褥婦全員にバースレビュー ができなかった学生もいたが,分娩介助に至らなかっ た褥婦とのバースレビューも含めると,各7∼13回実 施できていた(表2)。インタビューでは多様な情報を 得るために,できるだけ学生の実習施設が異なるよう 3名と4名のグループに分けた。インタビューの時間 は全グループで60分前後であった。

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2.バースレビューを実施した学生の経験  前期実習の学生の経験は,15のサブカテゴリーから 7つのカテゴリーに集約された。後期実習では,19の サブカテゴリーから7つのカテゴリーとなった。また, 基本的考えの確認を行った結果,インタビューで話題 となったテーマは,前期・後期実習ともに「バースレ ビューの実施と自己評価」,「バースレビューで気づい たこと・わかったこと」,「バースレビューを実施した 感想」の3つであった。以下,テーマ毎にカテゴリー を分け説明する(表3)。【 】はカテゴリー,〔 〕はサブ カテゴリーとし,学生の語りはフォントを変えて示し た。説明の必要がある部分は( )の中で補足した。 1 ) バースレビューの実施と自己評価 (1)前期実習 【出産体験の振り返りへのケア】  実習前半の学生は,褥婦のわだかまりや疑問に気づ いた時に,〔わだかまりや疑問の解決に向けた説明〕を 行っていた。一方,出産に満足した思いを語った褥婦 には,〔出産に対する肯定的な思いへの同意〕を行って いた。 C:2回目(の出産)だから,もっとつるんと産まれる と思っていたとか,いきなり痛みが強くなって,想 定外の痛みだったとか,すごくわだかまりの部分の 表出が多くて。(中略)でも,その人は客観的にみる とすごく上手に頑張っていたから,そういうところ を伝えたり,今回の赤ちゃんは前(の児)より大き かったので時間がかかったと説明して,その褥婦さ んが悪いとかではないと伝えた。 G:自分で産めたっていう満足感をもっていたから, 特にこっちから客観的な視点を伝えるっていうより は,そうですね,出来てましたよって同意をして, お話を聴く感じだった。 【バースレビューの難しさ】  学生は褥婦の語りを傾聴する中で,〔褥婦の言葉の 意味を理解する難しさ〕や〔褥婦の言動に対するフィー ドバックの難しさ〕を感じていた。バースレビューの 進行が上手くいかなかった経験から,〔褥婦の様子に 対応したバースレビュー進行の難しさ〕も示した。 G:褥婦さんの中では声を出しちゃったことが残って て。私は声が出ても仕方なかったんですよって言っ たんですけど。(中略)先生が,声を出して気持ち良 くいきめたんだったら,それはすごく良かったんで すよって言ったら,褥婦さんはそれで良かったんだ って感じで納得してくれて。(中略)(褥婦は自分に) どのような言葉を求めているのかを考えるっていう のが難しいところ。 A:(褥婦の話を)聴きながら,次に何を聴こうって考 えちゃったから。(中略)その時言った産婦さんの言 葉に考えをもって深めないといけないのに,自分が こうしなきゃっていう思いが先行しちゃったことが, だめだった感じです。 B:(褥婦に)気持ちを表出してもらったり,こと細や かに話をしてもらうには言葉が足りなかったところ があって,(褥婦から)早く終わらせたいオーラが出 てたんで,(中略)出産体験について深いお話しがで きなかった。 【次回に向けた自己課題の把握】  学生は,自分のバースレビューに対する認識と実際 の経験が異なっていたことから,〔目指すバースレビ ューに向けた次回の課題〕を見つけていた。 G:予想していたことは,(自分で)何を質問しようと いうイメージだったんですけど,褥婦さんから話を してくださるので,聴きたいことを聴くんじゃなく て,語りを引き出すっていう意味がわかった気がし ます。(中略)沈黙があっても褥婦さんとの関係がで 表2 助産学実習の概要 学生 産婦受け持ち数 分娩介助数 バースレビュー実施回数 実習施設 合計 合計 合計 A 5 11 16 2(経) 9(初4,経5) 11 2 9 11 ② ①③ B 3 10 13 2(初1,経1) 8(初3,経5) 10 1 6 7 ② ①②⑤ C 5 11 16 3(初2,経1) 7(初2,経5) 10 2 7 9 ① ④⑤ D 2 12 14 2(初1,経1) 8(初2,経6) 10 1 9 10 ① ①④⑤ E 3 9 12 3(初2,経1) 7(初5,経2) 10 1 6 7 ① ①③④ F 5 12 17 2(初1,経1) 8(初2,経6) 10 3 10 13 ① ③④ G 3 16 19 2(初1,経1) 8(初5,経3) 10 4 7 11 ①② ①②③

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きていれば大丈夫だし,新たに語ってくれることも あるから,聴こう聴こうっていうよりは,語っても らう感じかもしれない。 (2)後期実習 【出産体験の統合に向けたケア】  実習後半の学生は,〔的確な説明や質問ができるよ うになった実感〕をもち,褥婦の否定的な出産体験に は,〔否定的な出産体験の転換を図る説明や確認〕をし ていた。褥婦が満足している際には,〔出産体験の意 味を見出す意図的なバースレビュー〕を行っていた。 F:(褥婦から)こうできなかったから,こうなったん ですか?って要因を聴かれた時に,それはそういう ことじゃなくて,例えば,赤ちゃんの頭が大きかっ たということも(要因として)ありますとか,説明 できる部分が増えたかな。 D:(褥婦が出産の時)朦朧としていて全然わからなか ったっていうところから,ひとつひとつ私がわかる 範囲でつなげていって。肯定的まではいかないかも しれないですけど,どんどん辛い思いが出たバース レビューの最初の時よりは,明らかに良く捉えられ ていたかなとは思った。 C:(出産の)満足って分娩経過だけではなく,その他 にも満足した要因があるはずだから。(中略)全体的 な分娩の経過が把握できるようになってきて,満足 した要因はこのあたりだろうなって自分でもわかる から,(満足した理由は)こういうこと?みたいに聴 表3 バースレビューを実施した学生の経験 テーマ 前期カテゴリー サブカテゴリー 後期カテゴリー サブカテゴリー バースレビューの 実施と自己評価 出産体験の振り返り へのケア わだかまりや疑問の解決に 向けた説明 出産体験の統合に 向けたケア 的確な説明や質問ができる ようになった実感 出産に対する肯定的な 思いへの同意 否定的な出産体験の転換を図る説明や確認 バースレビューの 難しさ 褥婦の言葉の意味を 理解する難しさ 出産体験の意味を見出す意図的なバースレビュー 褥婦の言動に対する フィードバックの難しさ 現時点における自分の 未熟さ バースレビューの内容が予想外 だった時の難しさ 褥婦の様子に対応した バースレビュー進行の難しさ バースレビューでは補えない否定的な出産体験 次回に向けた 自己課題の把握 目指すバースレビューに向けた次回の課題 教員と自分の関心事の違い 教員と自分のバースレビュー スキルの差 バースレビューを 行って気づいたこと・ わかったこと 思い込みによる 対象理解 予想と違った産婦の客観性や 確かな感覚 分娩期には捉えきれない 全体像 褥婦の出産体験の意外性 分娩・産褥期における褥婦と 自分の思いの相違 分娩期には知り得ない産婦の思いや状況 産婦の言葉の理解不足 わからない褥婦の思いや人柄バースレビューをしないと 分娩期ケアの効果と 生じる責任 看護者が産婦の側に 寄り添う効果 助産ケアとその対象の 多様性 褥婦からの評価による ケアの学びや見直し 産婦に対する自分の 言動の重要性 家族単位でもつ必要性ケアの視点を夫婦や バースレビューを行う 理由と必要性 喜びや経験を共有したい という褥婦の望み 援助関係とケア内容の関連 褥婦をより知ることで 実感したケア不足 分娩期ケアや信頼関係が バースレビューに与える影響 個別のニーズに応える 必要性 自分の考え以上にあった褥婦の 話したい事や欲求 褥婦の心配事の解決や 気持ちを受け止める必要性 褥婦が分娩時の疑問を抱えた ままでいる可能性 褥婦の話したいタイミングで 関わる必要性 バースレビューが褥婦に もたらす効果 バースレビューを 実施した感想 好評価への申し訳なさと満悦感 感謝やお礼に対する 申し訳なさ 好評価による次への 意気込み 褥婦からの好評価で感じた成長の実感と次回への意欲 褥婦からの好評価で感じた 嬉しさや満足感

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くことができる感じかな。 【現時点における自分の未熟さ】  学生は,褥婦の出産体験が否定的な場合に〔バース レビューの内容が予想外だった時の難しさ〕を感じて いた。また,褥婦の出産体験を良いものにできなかっ た経験から,〔バースレビューでは補えない否定的な 出産体験〕があると述べた。さらに,教員と褥婦のや り取りを見て〔教員と自分の関心事の違い〕に気づき, 〔教員と自分のバースレビュースキルの差〕を感じて いた。 D:分娩を肯定的に捉えている人が多いから,そうじ ゃない時が難しい。(中略)ひとつひとつ話を聴きな がら確認して,最終的には色々わかったっていう話 は聴けたんですけど,否定的だったなっていうのが すごく印象的だったのと,自分がやったのはあれで 良かったのかなっていうのがあります。 C:(褥婦が)考えていることと事実が違って,本当の ことを伝えて肯定的になれる人もいるかなと思うの で,自分なりにきちんと伝えたつもりだけど,もう こんなきついのは嫌だっていうのがその人の振り返 りになっちゃった。 G:先生が(褥婦に)話すことで,あって気づくよね。 (中略) そこが掘り下げるポイントだったんだっ て。(自分では)そうなんですねって終わるところ を,先生は引き出すポイントだと気づいて聴いてい る。(中略)褥婦さんは,よくぞ聴いてくれましたっ ていう感じ。話の反応が違う。食いつきがいいって いうか。 C:褥婦さんが(出産に)満足してる感じだったから, 良かったって自分は終わっちゃったけど,先生が何 で良かったのかとか,何でそうなったのかとかを (褥婦に)聴いているのを見て,自分にはできませ んと思って。 2 ) バースレビューを行って気づいたこと・わかった こと (1)前期実習 【思い込みによる対象理解】  学生は,褥婦が分娩期にどのような体験をしていた かについて話を聴き,〔予想と違った産婦の客観性や 確かな感覚〕や〔分娩・産褥期における褥婦と自分の 思いの相違〕に気づいていた。また,褥婦が分娩時に 言っていた言葉の本当の意味を知ることで,〔産婦の 言葉の理解不足〕を示した。 F:(褥婦は)頭はフル回転していて,ふ―うんのうん で力を入れる意味がわかったっていうことや,(中 略)あと1回いきんだら産まれますよっていう言葉 で頑張れたというようなことを言っていて。(中略) 周りの言葉が全部聞こえていて,色々考えていたん だっていう話を聴いて,すごいなぁって。 B:介助している時は泣いていたり,過呼吸を起こし たりだとか,ちょっと不安が強かったんですけど。 (バースレビューの時には)表情も晴れやかで,肛 門を押さえてもらったり,呼吸法のリードがすごく 助かったっていうような言葉があって。分娩では不 安そうな産婦さんでも,肯定的に受け止められるっ ていうのがあるんだなってわかりました。 C:痛みのないお産がいいって分娩に関わった時から 言っていたから,それがどういう意味か本人に確認 すべきだったんだけど,(中略)裂傷がなく順調にい けばいいんだって勝手に解釈しちゃって。(中略)後 で聴いたら痛みがないなんて無理だってわかってい るけど,それでもなるべく痛くない方が良かったっ て言ってて。私,この人のバースプラン何も分かっ ていなかったって初めて気づいたんですよね。 【分娩期ケアの効果と生じる責任】  学生は,分娩時に褥婦が独りになった時の心細さや 不安を聴き,〔看護者が産婦の側に寄り添う効果〕に気 づいていた。また,ケアを実施するにあたり〔産婦に 対する自分の言動の重要性〕も感じていた。 G:(産婦は)こういう時にはどうしたらいいんだろう とか,これからどうなっていくんだろうとか知って いる人が(側に)いないっていうことがすごく不安 で。旦那には支えてもらったけど全然違うって言っ てたから。家族や誰かが居ればいいってもんじゃな くて,知識がある誰かが側に居ることで安心するっ ていう方もいらっしゃるんだっていうことは目から うろこだった。 F:産婦さんは,(周りの声を)聞いているし,(私が) 言ったことをやってくれるから,(自分の)責任は大 きいなぁって思うよね。 【バースレビューを行う理由と必要性】  学生はバースレビューの実施を通して,〔喜びや経 験を共有したいという褥婦の望み〕に気づいていた。 また,褥婦の語りを受けとめ〔褥婦の心配事の解決や 気持ちを受け止める必要性〕を理解していた。 G:他の病院実習の患者さんだと,(私が)聴かないと 答えてくれないとか,話が続かないとかあるけど。 (中略)褥婦さんは自分から語ってくれるから,こ

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の体験の話をしたいんだなっていう感じがした。 E:私自身考えていることを口に出すと,自分はそう 思っていたんだって気づかされるから,褥婦さんも (自分の考えを)言葉にして,相手に聴いてもらう ことで,(分娩時の)思いや経験に気づける場になる のかなって思う。 (2)後期実習 【分娩期には捉えきれない全体像】  実習後半になっても学生は,自分と褥婦の分娩期の 体験の違いを実感し,〔褥婦の出産体験の意外性〕を述 べた。また,分娩時には全くわからなかった〔分娩期 には知り得ない産婦の思いや状況〕があることに気づ き,〔バースレビューをしないとわからない褥婦の思 いや人柄〕を捉えていた。 D:1番印象に残っていることを聴いた時,吸引した 時に血が飛び散って色んな人の服が血まみれになっ たのが驚愕だったって話されていて。私はむしろ吸 引で産んだこととか,遷延していたというのが印象 に残っているのかなと思っていたから,褥婦さんと 自分の考えていたお産が違うってすごく思った。 B:(分娩第2期の介助のみ承諾された方に)何で2期だ けだったのか,お話を聴いてみたら,自分の辛い姿 を見せるのがいたたまれないって言っていて。(中 略)陣痛で辛い中でもそういう理由があって,配慮 があった上での希望だったっていうのが(バースレ ビューで初めて)わかったっていう経験がありまし た。 A:分娩第1期の産婦さんとバースレビューの時の産 婦さんて,かなり(印象が)違うなって常日頃感じ ていて。(中略)分娩だけじゃなくて,バースレビ ューをすることでその人自身がわかるって思いまし た。 【助産ケアとその対象の多様性】  学生は自分で実施した分娩期ケアを,褥婦がどのよ うに捉えているかを聴くことで,〔褥婦からの評価に よるケアの学びや見直し〕を行っていた。また〔ケア の視点を夫婦や家族単位でもつ必要性〕も学んでいた。 A:(分娩)第1期の痛い時に側に居てくれたのは嬉し かったけど,誰もいない時があってって(褥婦から) 言われて,見直しました,その後の実習についても。 (中略)側に居てくれる人の存在は大きいと思って いましたけど,そこまでなんだって気づきました。 F:(褥婦の夫も一緒に出産の話をした時に)破膜をす る時とか内診の度に,部屋から出されたことが,す ごく疎外感だったって夫から言われて。(中略)夫が 見たくて,産婦さんにもその覚悟があったのに,そ のニーズは捉えてなかったなぁと思って。家族のキ ャラクターを捉えるのも重要だってわかった。 【援助関係とケア内容の関連】  学生はバースレビューで褥婦との関係を深めること で,〔褥婦をより知ることで実感したケア不足〕や,〔分 娩期ケアや信頼関係がバースレビューに与える影響〕 について述べた。 D:バースレビューでその人(褥婦)自身の色んなこと を聴いて,妊娠期から関われていたら,もっともっ といい関わりが出来たのかなって。(中略)カルテや 分娩期の状態では分からない大事な情報があるから。 E:コミュニケーションがすごく苦手だったから頑張 ってみようと思って,第1期のコミュニケーション を頑張ったら,バースレビューで妊娠中のことを深 いところまで話してくれて。1番辛い時に自分がど ういう風に関わっていたかで,バースレビューが違 ってくるのかなっていう気はしました。 【個別のニーズに応える必要性】  実習後半の学生は,〔自分の考え以上にあった褥婦 の話したい事や欲求〕と〔褥婦が分娩時の疑問を抱え たままでいる可能性〕,さらに〔褥婦の話したいタイ ミングで関わる必要性〕に気がつき,褥婦のニーズを 満たす必要性を示した。そして,褥婦のニーズに応え られた際には〔バースレビューが褥婦にもたらす効果〕 を実感していた。 G:わーって沢山の話をしてくれる方が多かったから, 学校の授業で習ったように,分娩体験を誰かに話し たい人がやっぱり多いのかなって。褥婦さんにとっ ては一生に一度のすごい体験を話せる機会になった んじゃないかな。 D:(出産体験を)ネガティブに捉えている人はもちろ んだし,最初からすごく幸福感に満ち溢れている人 でも気になっていることはあると思うから,話す場 っていうのはすごく大事だと思うので,バースレビ ューは必要だと思います。 D:褥婦さんが話したいなら,その時に話を聴けばい いし。あまりに個人情報が多すぎて,大部屋ではど うかと思って反省したこともあったんですけど。そ の褥婦さんが話したいタイミングも大切にする必要 があるとわかった。 G:褥婦さんにとって,バースレビューを行うことは いいことだと思う。語りたい欲求もあるし,わだか

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まりとかを解消する機会にもなる。 3 ) バースレビューを実施した感想 (1)前期実習 【好評価への申し訳なさと満悦感】  実習前半の学生は,褥婦から感謝の気持ちを伝えら れても,〔感謝やお礼に対する申し訳なさ〕を感じてい た。その一方で自分のケアが役に立ったと伝えられた 時に,〔褥婦からの好評価で感じた嬉しさや満足感〕を 表出した。 A:直接介助のお礼を言われても,確かに全然できて いないから,お礼なんて申し訳ないですって思うけ ど,側に居ることに関しては(居てくれてありがと ねと言ってくれたので)ミスもなくできて,意味が あったなーって思ったかな。 E:居てくれて良かったって言ってもらってすごく嬉 しかったし,ほっとした。役に立てたんだなって思 ったけど,それと同じくらい本当に力になれたのか, もっとできたことがあったんじゃないのかなってい う反省と後悔もあった。でも自分がすごく関われた, 一緒に頑張れたっていう気持ちはすごくあった。 (2)後期実習 【好評価による次への意気込み】  実習後半の学生は,褥婦から分娩期ケアに対する好 評価や感謝の言葉をもらうことで,〔褥婦からの好評 価で感じた成長の実感と次回への意欲〕を述べた。 F:(褥婦と)一緒に(分娩を)振り返った時に,このケ アが良かったと言われると,次にも活かせるし,い いかなって思う。 G:居てくれて良かったとか,学生さんなのにすごい しっかりしてて頼もしかったとか,そういう言葉を 頂けるようになって。(中略)自分の成長を実感でき る機会でもあったかな?っていうのはあります。

Ⅴ.考   察

 実習前半の学生の経験は,褥婦のわだかまりや疑問, 出産時の体験といった,褥婦が表出した言葉そのもの への対応であった。実習後半では褥婦の人柄や思いに 触れ,その人をより深く知ることの必要性を実感して いたように思われる。前期実習と後期実習のインタビ ューで明らかとなった学生の経験に,このような違い が生じた要因を探り,学生が行う出産体験へのケアに ついて,教育的な視点から考察する。 1.バースレビューの進度  実習に先立ち,学生は学内の講義でバースレビュー の目的・方法を学んでいた。実習前半のバースレビ ューでは,学生は褥婦が語る出産体験に傾聴・同意を 示し,疑問やわだかまりが表出された際には,その解 消に努めていた。学内の講義で学んだ知識を実践で活 用できていたことがわかる。机上では言葉の理解に留 まっていたかもしれないが,実際にバースレビューを 実践するという経験は,「こういうことだったのか」と 学生自ら納得できる機会になったのではないかと考え る。  しかしその一方で,学生は褥婦の言葉を解釈し切 れなかったなどの経験から,【バースレビューの難し さ】を述べ,自分のバースレビューに不十分さを感じ ていた。バースレビューでは,分娩経過中の出来事を 想い起こしながら,褥婦がその時の状況を整理し,思 いや感情を言語表現できるような関わりが求められる (吉沢,2008)。分娩介助数が1∼3例目に当たる学生 は,分娩期に刻々と変化する産婦の状況についていく のが精一杯であり,産婦の心理面にまで目が向いてい るとは言い難い。実習前半のバースレビューでは,分 娩経過の出来事から褥婦の思いを推し量ることは困難 なため,褥婦が表出した言葉そのものへの対応に終わ り,バースレビューの不十分さを感じたのではないか と考える。  先行研究では,産婦の全体像を捉えた助産診断が可 能になる時期は介助例数7例目以上であり(常盤・今関, 2002),予測診断や分娩進行度の診断が概ね可能にな るのもまた,7例目以降と報告されている(松岡・宮中 ・五十嵐,2004)。本学生も7例目以降の助産診断の客 観的評価を平均すると,「指導者の助言のもとで判断 しほぼ自立してできる」ところまで到達していた。後 期実習において学生は,【出産体験への統合に向けた ケア】について述べていたが,これは分娩介助の積み 重ねによって,ある程度経過診断ができるようになっ ていたことと,分娩経過中の産婦の心理・感情面など にも配慮できるようになっていたことが影響している と考える。分娩経過を正確に振り返ることができるよ うになり,ケアの内容とその意味について理解を深め たり,産婦・褥婦の人柄や思いを促えられるようにな ったことが,出産体験の統合に向けたケアへと繋がっ たのではないかと考える。  学生のバースレビューは,出産体験の振り返りを促 すケアから始まり,分娩介助例数を積み重ねることで,

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統合に向けたケアが可能になると期待できる。教員は 学生のバースレビューの実施状況と,分娩介助数や到 達度,さらには褥婦と学生の関係性を照らし合わせな がら,出産体験の振り返りから統合に向けたケアへ進 めるように,支援していくことが重要であるといえる。 2.対象理解の深化  本研究の対象者は,4年制の統合カリキュラムにお いて助産学を専攻しており,実習前まで分娩に立ち会 ったことがない学生が殆どであった。そのため学生が 考える産婦の体験は,講義で得た知識による想像でし かなかったといえる。前期実習のインタビューで学生 は,【思い込みによる対象理解】を述べた。このことか ら,褥婦から出産体験を聴く経験が,今までの対象理 解が自分の思い込みであったと気づく機会になるので はないかと考える。実習の初期では,学生が自分の思 い込みを修正する段階にあると考え,教員は正しい対 象理解とその必要性が認識できるように関わることが 重要である。  後期実習になると学生は,【分娩期には捉えきれな い全体像】や【援助関係とケア内容の関連】のように, 褥婦の人柄や思いを把握し切れていなかったことや, 対象理解の程度と助産ケアの関連について述べた。学 生は,知り得なかった褥婦本来の姿を知ることで,対 象理解の必要性を実感していたのではないかと考える。 褥婦をさらに知ることは,個別的なケアについての学 びを深められる可能性がある。教員は学生の対象理解 はどの程度進んでいるのか,その理解は褥婦本来の姿 を捉えたものなのかを査定し,個別的なケアの実践に 向けて支援をしていく必要性が示された。また,学生 が考える助産ケアが対象者のニーズに合致するように, 様々な助産ケアのかたちを教授していくことも,教員 の重要な役割であると考える。 3.学生の出産体験へのケアに対する教育的関わりに ついて  学生がバースレビューを実施する前には,学生と教 員で自己課題や実施内容を確認し,共有した。そして, バースレビュー終了時には,その内容を見直すことで, 次回の課題を明確にした。前期実習で,【次回に向け た自己課題の把握】が示されたことから,実施前後の 学生と教員のフィードバックは,学生の自己課題の 把握に有効であったと考える。岩木(1996)は,学生 は分娩期実習の学びの積み重ねの過程において,自分 に不足していると意識した課題を克服しようとする傾 向があることを明らかにしている。本研究結果におい ても,バースレビューが出産体験の振り返りから統合 へ,また,ケアの対象者を広く多様に捉えるなど,出 産体験へのケアや理解度に深化が見られることが示さ れた。学生が主体的に出産体験へのケアに取り組める よう,教員は学生の課題の明確化を助け,不足してい るところに学生自身が気づけるように関わっていくこ とが重要である。  一方,後期実習のインタビューで学生は,自分の バースレビューにおいて【現時点における自分の未熟 さ】を述べた。バースレビューの際には教員が同席し, 褥婦の反応によっては補足の説明などケアに参加して いたが,そこで学生に力不足を感じさせてしまった可 能性がある。学生は看護師および教師のケア実践を 観察,模倣し,さらにそのケアに協力することにより, 円滑なケア提供を学習しているといわれている(海野 ・舟島・杉森,1997)。教員の言葉で褥婦が活き活き と話し出すという変化を目の当たりにする経験は,学 生にとってバースレビューが果たす役割や重要性を学 ぶだけではなく,成長意欲やモチベーションを刺激す る機会になり得る。教員は自身が実施するケア提供も 教材となっていることを意識し,行ったケアの意図を 学生へ伝えていくことが学生の学びを深めると考える。 教員自身が気になった褥婦の態度や言葉,それは何故 かという自分の解釈を伝え,学生自ら褥婦の言葉や態 度に留意し,本当の思いや感情を察することができる ようにサポートしていくことが重要である。また,学 生が自分の未熟さを自覚することによって意欲を喪失 しないよう,適切なケアに関しては支持的態度を示し, 学生のケアを保証することも必要であるといえる。  看護学実習の場において,どの部分を教材化する かは教員の能力によると言われている(杉森・舟島, 2005)。学内の講義ではバースレビューの手順や一般 的な褥婦の心理について説明はするが,実際に起こる 対象者の反応は予測し切れないことも多い。予期しな かった反応があった場合や,個別の対応が必要と判断 された時には,褥婦のニーズに応じたケアの実際を示 すことができる機会と考え,学生の学びが深まるよう 意識しながら,ケアにあたる必要がある。

Ⅵ.結   論

 分娩介助実習の初期と実習終了時の2時点における,

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バースレビューの学生の経験を明らかにし,その内容 を比較した。学生のバースレビューは,出産体験の振 り返りを促すことから始まり,分娩介助を重ねること で統合に向けたケアを実践するようになっていた。ま た,正しい対象理解の必要性や助産ケアの多様性に気 づく機会となっていた。教員は,学生の分娩介助例数 に伴い、バースレビューの内容や対象理解がどの程度 進んでいるのかを把握し,課題の明確化を助けたり, 不足を補っていくことで,出産体験へのケアに対する 理解を促していけると考える。  本研究の対象者は,4年制大学の統合カリキュラム で助産学を学んでいた学生である。今後は対象者を広 げ,教育内容を検討することが課題である。 謝 辞  本研究を行うに当たり,前期実習では助産学実習の レポートや実技練習,後期実習では国家試験の勉強な ど,多忙な時期にも係わらず,インタビューにご協力 いただきました助産師学生7名の皆さまに心から感謝 致します。  なお,本研究の一部は第52回日本母性衛生学会, ならびに日本助産学会第26回学術集会にて発表した。 文 献 平山操(1993).産婦による出産の振り返りの意義に関す る検討 学生の受け持ちケースより.東京女子医科大 学看護短期大学研究紀要,15,17-22. 岩木宏子(1996).助産婦学生の分娩介助実習における学 びの積み重ねについて̶学生の視座に基づく学びの積 み重ねのプロセス.日本助産学会誌,10(1),36-45. 厚生労働省(2010).「健やか親子21」第2回中間評価報告書. http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/s0331-13a. html [2012-04-27] 松岡知子,宮中文子,五十嵐稔子(2004).助産師教育に おける分娩介助実習の検討̶短期大学専攻課程の7年 間の検討から.京都府立医科大学看護学科紀要,13(2), 85-94. 名取初美,岡部惠子,有井良江,小林康江,滝沢美津子 (2004).分娩介助実習における学生の技術習得状況と 課題.山梨県立看護大学紀要,6,85-94. 小川朋子(2005).出産体験の振り返り.ペリネイタルケア, 24(10),941-46. 杉森みど里,舟島なをみ(2005).看護教育学(第4版).253, 東京:医学書院. 常盤洋子,今関節子(2002).4年制大学における分娩介助 実習の効果的な教授法の検討̶実習状況および実習到 達度の分析から.助産婦雑誌,56(6),507-513. 海野浩美,舟島なをみ,杉森みど里(1997).看護学実習 における学生のケア行動に関する研究.看護教育学研 究,6(1),27-44.

Vaughn, S., Schumm, J.S., & Sinagub, J. (1996)/井下理監 訳(2006).グループインタビューの技法.128-151,東 京:慶応義塾大学出版会株式会社. 渡邊典子,小田切房子,熊澤美奈好,江幡芳枝,黒田緑 (2007).大学・短大専攻科・専門学校における助産師 教育の実態と分娩介助・継続事例実習指針.助産雑誌, 61(4),344-351. 谷津裕子(2003).分娩介助場面における助産師学生の熟 練助産師からの学び.日本助産学会誌,16(2),46-55. 吉沢豊予子編(2008).周産期看護学アップデート.242-247, 東京:中央法規出版.

参照

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