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不妊治療を経て妊娠した女性の第1子妊娠期から産褥期・育児期までの体験

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Academic year: 2021

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 28, No. 2, 218-228, 2014

*1名古屋第一赤十字病院(Japanese Red Cross Nagoya Daiichi Hospital)

*2愛知県立大学看護学部(School of Nursing and Health, Aichi Prefectural University) *3亀田医療大学(Kameda College of Health Sciences)

2013年8月29日受付 2014年8月6日採用

資  料

不妊治療を経て妊娠した女性の第1子妊娠期から

産褥期・育児期までの体験

Experiences of women who became pregnant with fertility treatment:

From pregnancy to puerperium and childcare for a first child

勝 村 友 紀(Yuki KATSUMURA)

*1

神 谷 摂 子(Setsuko KAMIYA)

*2

恵美須 文 枝(Fumie EMISU)

*3 要  約 目 的  不妊治療を経て妊娠した女性の,第1子妊娠期から産褥期・育児期に至るまでの体験を明らかにする。 対象と方法  不妊治療を受け第1子を出産後,第2子妊娠のため再び不妊治療を受けている女性9名を対象に,第1 子の不妊治療による妊娠期から産褥期・育児期までの体験について,半構成的面接によってデータを得 て質的記述的研究を行った。 結 果  妊娠期の体験として【沸き上がる第2子への欲求】,【予想に反した妊娠や出産への実感のなさ】,【妊娠 の喜びと誇らしさ】,【出産施設の選択に対する不安と安心】,【長い道のりを経てここまで来れたことの 安堵感】,【自然分娩ができないことを割り切る】,【胎児の異常や障害に対する不安と大丈夫という気持 ちの揺らぎ】,【家族に対するありがたさとストレス】,【妊娠継続の不確かさを抱く】の9つのカテゴリー, 分娩期の体験として【健康な児の出生への切望】,【充足感の薄い出産】,【母親になれた喜びと育児への 意欲】の3つのカテゴリー,産褥期・育児期の体験として【赤ちゃんの存在から感じる喜び】,【薄れてい く赤ちゃんへの心配】,【苦労の末の嬉しい出産でも初めての育児は不安】,【出産の実感や感動の薄さ】, 【不安な出来事と治療を結びつける】の5つのカテゴリーが抽出された。 結 論  不妊治療を経て妊娠した女性は妊娠期,分娩期,産褥期・育児期において胎児の異常や障害に対する 不安や,妊娠・出産の充足感が薄いなど多様な体験をしていた。看護者は不妊女性がこのような独特の 体験をしていることを理解し,ケアを行っていく必要があることが示唆された。 キーワード:不妊治療後,妊娠,分娩,産褥期,体験

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Abstract Purpose

The purpose of this study was to clarify the experiences, from pregnancy with a first child to puerperium and childcare, of women who became pregnant through fertility treatment.

Methods

The subjects were 9 women who were receiving fertility treatment for a second pregnancy after giving birth to a first child through fertility treatment. Data were obtained from semi-structured interviews on the subjects' experi-ences from pregnancy with a first child through fertility treatment to puerperium and childcare, and a qualitative descriptive study was performed.

Results

Nine categories were identified as experiences of pregnancy: Growing desire for a second child; contrary to

expectations, lack of actual sense of pregnancy and delivery; joy and pride in pregnancy; anxiety and reassurance in se-lecting a birthing facility; feeling of relief at having come this far on a long journey; acceptance that one cannot have a natural delivery; fluctuation between anxiety about abnormalities or disorders in the fetus and feeling that it will be all right; thankfulness and stress with respect to family; and uncertainty about continuation of pregnancy. Three categories

were identified as experiences of the intrapartum period: Longing for the birth of a healthy child; delivery with little

sense of fulfillment; and joy at becoming a mother and motivation for child rearing. Five categories were identified

as experiences of puerperium and childcare: Joy felt from existence of baby; easing of worries regarding baby; anxiety

about raising one's first child despite joyful birth after much difficulty; weakness of one's feelings and emotion towards childbirth; and connection between unsettling events and medical treatment.

Conclusion

Women who became pregnant through fertility treatment had various experiences, including anxiety about abnormalities or disorders in the fetus during pregnancy, intrapartum period, puerperium, and child raising, and weak sense of fulfillment from pregnancy and childbirth. The findings suggest that nurses need to understand these unique experiences of women who have difficulty becoming pregnant and provide appropriate care.

Key words: After fertility treatment, pregnancy, childbirth, puerperium, experience

Ⅰ.緒   言

 日本における不妊治療では,高度生殖補助医療 (Assisted Reproductive Technology:以下ARTとする)

での妊娠後の流産率は約25%であり(齊藤・石原・久 具他, 2011, pp.1887-1888),全妊娠の流産率10∼15% (荒木・浜崎, 2003, p.129)に比べると高い割合である。 多胎妊娠率(齊藤・石原・久具他, 2011, pp.1887-1888) や低出生体重児,先天異常発生の確率も高く(久慈・ 井上・福永他, 2011, pp.376-377),不妊治療による妊 娠は自然妊娠に比べリスクがある。そのため不妊治療 を経て妊娠した女性は,流早産,胎児の知能,児の五 体満足に対する不安が高いこと(岸本・西本・宮田, 1996, pp.386-387;森・陳・糠塚, 2005, p.31),妊娠継 続に関する周囲からのプレッシャーを感じていること (林・佐山, 2009, p.86;末次・森, 2009, p.30)が分かっ ている。また,Bernstein(1990, p.20)は,長年にわた って不妊治療を受けてきたカップルは,不妊症である ことが自分たちのアイデンティティの中心となってし まい,育児への移行には特別な問題やニーズを抱えて いると述べている。更に,不妊治療を受けていたこと が妊娠及び出産に対する不安を持続させる誘因となり, 産褥期の抑うつ感情を高めること(原田, 2008, p.3)も 示唆されている。加えて大槻(2003, p.119)は,不妊治 療を経て出産した女性は,子どもができても治療でし か子どもができなかったという不毛感をもつことや出 産自体が目標となり,円滑な育児に結びつかない可能 性を示唆している。このように,不妊治療を経て妊娠 した女性は,育児への移行に何らかの問題を抱えやす いことが考えられ,第1子を産み終えると女性は再び 妊娠しづらい体に戻り,精神的にも不妊時の状態が再 燃する可能性がある。  これまで不妊治療を経て妊娠した女性の妊娠期にお ける研究(林・佐山, 2009;岸本・西本・宮田, 1996; 森・ 陳・ 糠 塚, 2005; 森・ 石 井・ 林, 2007; 崎 山, 2011;崎山・村本, 2006;末次・森, 2009)は多くなさ れているが,分娩期以降の研究はまだ少ない。しかし 妊娠期,分娩期,産褥期・育児期はひとつの流れであ り,看護ケアとしても継続的支援が重要であるため, 妊娠期も含めて検討する必要がある。

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 そこで本研究の目的を,不妊治療を経て妊娠した女 性が,第1子妊娠期から産褥期・育児期に至るまでど のような体験をしているかを明らかにすることとした。 不妊治療を経て妊娠した女性の妊娠期,分娩期,産褥 期・育児期全体の体験を明らかにすることで,それぞ れの時期に応じたケアや,不妊女性が不妊体験を肯定 的に捉えるためのケアへの示唆,育児への円滑な移行 を促すための継続的・具体的なケア内容を見出す一助 になると考える。

Ⅱ.研究の方法

1.研究デザイン  本研究デザインは質的記述的研究とした。 2.用語の定義  体験とは,直接に直感的に意識の内容として見いだ されるもの(粟田・古在, 1979, p.144)であるとされて いる。これに従い,本研究における体験とは,不妊 治療を経て妊娠した女性が,第1子妊娠からインタビ ュー時までに,不妊症・不妊治療に関連して考えたこ とや感じたこととした。 3.研究の対象  研究参加者は,A県内の不妊治療専門外来を有す るX施設にて不妊治療を受けた結果,第1子を妊娠し, 正期産で出産後,第2子妊娠のために再び不妊治療を 受けている女性9名とした。ただし,第三者配偶子を 用いた不妊治療を選択した女性は除くこととした。 4.データ収集方法  有益なデータ収集を行うために,不妊及び出産に詳 しく出産経験のある看護師,助産師それぞれ1名に半 構成的面接によるプレテストを実施し,インタビュー ガイドを精錬させて本調査を行った。本調査では調査 施設の看護責任者に,研究対象となる候補者へ研究説 明の内諾を得てもらい,内諾が得られた候補者に研究 者が口頭と文書で説明を行った。参加の同意が得られ た参加者に対し,一人30∼60分程度の半構成的面接 として,第1子妊娠期,分娩期,産褥期・育児期の経 過と体験を振り返って語ってもらった。参加者の了承 が得られた場合はインタビュー内容をICレコーダー に録音し,録音の了承が得られなかった場合はメモを 用いてインタビュー後のできるだけ早い時間に記憶を 再生して逐語録を作成した。参加者の背景はインタビ ュー開始時に簡単な聞き取りを行った。データの収集 期間は2011年7月から10月であった。 5.データ分析方法  データ分析は,内容分析(グレッグ・麻原・横山, 2007, pp.64-69)を参考に,まず,録音された参加者の 語りを用いて逐語録を作成し,丹念に読み込み,第1 子にまつわる不妊症・不妊治療,妊娠期,分娩期,産 褥期・育児期に関連した記述を全て抜き出した。その 際,分娩直後の語りは分娩期に含むこととした。次に その記述の意味内容を損なわないように参加者の表現 を大切にした上で簡潔に書き出し一次コードとした。 一次コードを妊娠期,分娩期,産褥期・育児期におい て感じたことや考えたことに関する記述に分類し,類 似性・相違性に基づき集約し抽象度を上げて二次コー ド化した。二次コードの中から,不妊症・不妊治療に 関連すると思われる内容を抽出し,更に類似性・相違 性に基づき集約し抽象度を上げて,サブカテゴリー, カテゴリーを生成した。結果の妥当性を確保するため, 了承の得られた参加者2名に対して,二次コード,サ ブカテゴリー,カテゴリーについてメンバーチェッキ ングを行った。また,質的研究者,不妊看護を専門と する看護師のスーパービジョンを受けた。 6.倫理的配慮  本研究は愛知県立大学研究倫理審査委員会の承認 (22愛県大管理第2-38号)を得て実施した。研究協力 施設では倫理審査委員会に代わる施設理事長の許可を 得て行った。参加者への説明は,看護管理責任者から 研究説明の内諾を得られた場合のみ行った。また,研 究への参加・不参加は施設側へは伝えないこと,プラ イバシーの保護される個室で話を聞くこと,研究参加 の自由,匿名性の保持,データは研究終了時点で消去 すること,研究成果は公表するが個人を特定できるよ うな情報は公開しないこと,研究の参加・不参加など いかなる場合も不利益を被ることはないことを説明し て同意を得た。研究参加の意思表示は,その場で同意 書に署名するか,後日郵送するかを参加者へ選択して もらった。インタビュー実施日時は参加者の都合に合 わせて行った。また,インタビュー中に心理的な負担 が生じた場合は希望を確認した上で,看護責任者の助 言を得て,相談機関あるいは医療機関等に同伴するこ とを予定していたが,実際に同伴することはなかった。

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Ⅲ.結   果

1.研究参加者の背景  研究参加者A∼ Iさん9名の年齢は33∼43歳(平均 37.8歳)で,第1子妊娠のための治療期間は3ヶ月∼6 年であった。不妊原因は女性因子が4名,男性因子が 1名,原因不明が4名であった。第1子の妊娠に至った 治療はタイミング療法と排卵誘発剤の併用が1名,人 工授精が2名,体外受精が6名であった。分娩様式は 経腟分娩が4名,帝王切開が5名で,その内3名は緊急 帝王切開であった。9名の内2名は治療施設で出産し, 7名は他施設で出産しており,第1子出産からインタ ビュー時までは9ヶ月∼8年であった。インタビュー 所要時間は最短29分,最長60分(平均47分30秒)であ った。 2.妊娠期,分娩期,産褥期・育児期における不妊治 療を経た女性の体験  結果の記述にあたっては,カテゴリーを【 】,サブ カテゴリーを《 》,研究参加者の語りを「斜体」,研究 者が補った部分は( )で示す。 1 ) 妊娠期の体験(表1)  不妊治療を経て妊娠した女性の妊娠期の体験として, 9つのカテゴリーと,20のサブカテゴリーが抽出され た。カテゴリー毎に具体的内容を記述する。 (1)【沸き上がる第2子への欲求】  これは1つのサブカテゴリーから生成された。《いざ 妊娠できると二人目が欲しくなる》という体験では,2 ∼3年かけて体外受精で妊娠したHさんは「いざ(妊娠) できると,やっぱりあと一人欲しいとかって。」のよ うに,妊娠できたことの可能性から更に第2子が欲し くなることを語った。 (2)【予想に反した妊娠や出産への実感のなさ】  これは2つのサブカテゴリーから生成された。《治療 の末の妊娠で嬉しいはずが実感がなく冷静》では,3年 かけて体外受精で妊娠したBさんは,「最初はすごい 泣けちゃうほど嬉しいのかなとか色々思ったんですけ ど,そこまでもなく,良かったっていう程度でした ね。」と予想よりも嬉しくなかった体験を語った。Dさ んは「そのとき私,欲しくないっていうか,仕事が楽 しくて,契約社員にしてもらったときに妊娠しちゃっ て。もちろんね,やってるから,AIH(人工授精)を。」 のように語り,仕事との両立に戸惑いを感じていた。  また,《意外と出産する実感がない》では,Dさんは 「意外と実感が無くて,生まれるのに。生まれてから の想像が全くつかなくて。でもなんとなくこう,産む 表1 妊娠期の体験 カテゴリー サブカテゴリー 沸き上がる第2子への欲求 いざ妊娠できると二人目が欲しくなる 予想に反した妊娠や出産への実感の なさ 治療の末の妊娠で嬉しいはずが実感がなく冷静意外と出産する実感がない 妊娠の喜びと誇らしさ やっとの妊娠が心から嬉しい エコーではっきりと妊娠を実感する 妊娠してやっと堂々と歩けると思う 出産施設の選択に対する不安と安心 自分のことを分かってくれている治療施設での出産が安心出産施設を通して周囲の人に治療を受けたことがばれないか不安 長い道のりを経てここまで来れたこ との安堵感 これまでの長い道のりを思い起こし治療に通った結果ここまで来れて良かったと思う 自然分娩ができないことを割り切る 自然分娩ができないことにショックを受けるが胎児のために納得する 胎児の異常や障害に対する不安と大 丈夫という気持ちの揺らぎ 羊水検査の結果で高齢妊娠による染色体異常の恐怖感が消え去る エコーを見て治療による胎児の異常や障害の不安が軽減する 頭では分かっていても割り切れない治療や高齢妊娠による胎児への影響の不安 高齢妊娠による胎児への影響の不安と妊娠の喜びがシーソーのような感じ 医療を信じて治療による胎児の異常や障害の心配をまぎらわす 家族に対するありがたさとストレス 普通より一層安産を願う家族の心配がありがたくもありストレスでもある親から自然分娩を期待されることのストレス 妊娠継続の不確かさを抱く 切迫早産になっても自分より胎児を心配する 常にある流早産の恐怖感と胎児の成長・胎動による安心感を抱く 無事に臨月を迎えられることを願う

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のは怖くなかったんですよね。」と語り,妊娠した実 感だけでなく,出産前になっても自分が出産すること を実感していなかった。 (3)【妊娠の喜びと誇らしさ】  これは3つのサブカテゴリーから生成された。《やっ との妊娠が心から嬉しい》では,2∼3年かけて体外受 精で妊娠したCさんが「やっぱり,お腹の中に赤ちゃ んがいるって,もうそれだけで,もうほんとに嬉しく て。」と語ったように,妊娠を心から喜ぶ体験をして いた。  また,《エコーではっきりと妊娠を実感する》では, Bさんは「妊娠したばかりのときはお腹はそんな目立 って来ないですし,つわりがひどかったわけでもない ですから。だからそんなに実感が沸かず,エコーとか で,やっぱりちょっとこういう,形?子どもの形が こうですよっていうような感じでまあ(妊娠を実感し た)。」と語ったように,妊娠を医師から告げられた時 よりも,自分の目で胎児の画像や形,心拍などを見る ことで妊娠を確信し,実感する体験もあった。  《妊娠してやっと堂々と歩けると思う》では,Eさん は3ヶ月かけて人工授精で妊娠し,「やっと堂々と歩け るなっていうような感じ。うん,でしたね。」と語っ たように,友人たちの相次ぐ妊娠に焦りを感じていた が,やっと妊娠できたことで,不妊であることへの後 ろめたさを払拭していた。 (4)【出産施設の選択に対する不安と安心】  これは2つのサブカテゴリーで生成された。《自分の ことを分かってくれている治療施設での出産が安心》 という体験では,Iさんは5∼6年治療に通って妊娠し, 「予約の時にお願いすれば決まった先生で見てもらえ たんで,前からずっと不妊治療の時から見てもらって るなんとか先生でっていう感じでやってもらえて,お 願いできたし,妊娠が短い週の時にこちらで見てもら えたりとかしたので,そういう面で全部こちらでやっ てよかったなって。」と語り,信頼関係のある治療施 設で出産することを選択していた。  《出産施設を通して周囲の人に治療を受けたことが ばれないか不安》では,治療施設とは別の施設での出 産を選択したFさんは「知られたくないっていう心配 は,うん。看護婦さん言うわけじゃないけども,親は (切迫早産で入院中に)ちょこちょこ来てたんで,洗 濯とかで。それがちょっと怖かった。(親に)漏れない とは分かってても,それはちょっと心配でしたね。」 と語り,胎児の安全のために紹介状を書いてもらい治 療経過を知ってもらえることで安心感を持つと同時に, 紹介状内容についてのプライバシー保護の不安を抱え ていた。 (5)【長い道のりを経てここまで来れたことの安堵感】  これは1つのサブカテゴリーから生成された。女性 は出産が近づいた時期に,《これまでの長い道のりを 思い起こし治療に通った結果ここまで来れて良かった と思う》という体験をしていた。Iさんは「買い揃えた のとかを見て,ああ,なんか,生まれるんだ,この家 に来るんだ。不思議な気持ちと,ほっとした気持ちと …。長かったなっていう何か。今まで長かったなあっ ていうか。」と,児を迎える物品等を目にしつつ実感 を得て安堵感を抱いていく様子を語った。 (6)【自然分娩ができないことを割り切る】  これは1つのサブカテゴリーから生成された。《自然 分娩ができないことにショックを受けるが胎児のた めに納得する》という体験では,Bさんは「なんか結 構,ショックって言うんですかね。(中略)最初ちょっ と(児頭が産道を)通らないって言われただけの時は 心配だったんですけど,すぐに先生がフォローしてく ださったんで,そこまで心配することも無く,無事に どっちかで生まれればいいかって。」と語った。この ことから自然分娩ができないことについて自分の気持 ちを割り切り,何よりも児の安全を優先する姿勢が伺 えた。 (7)【胎児の異常や障害に対する不安と大丈夫という 気持ちの揺らぎ】  これは5つのサブカテゴリーから生成された。妊娠 当時30代後半であったFさんは胎児が染色体異常では ないかと大きな不安を抱えていた。しかし《羊水検査 の結果で高齢妊娠による染色体異常の恐怖感が消え去 る》というように,結果が陰性であると分かると,「も う全然。そっからもう全然(不安は)良かったんです けど。」と,それまでの心配が大きかった落差につい て語った。  また,《エコーを見て治療による胎児の異常や障害 の不安が軽減する》という体験では,Eさんが「(人工 授精の際に)名前の確認しますってぎりぎりまでして もらいましたけど,ていうかそもそも違うものだった らどうしようって。だからもうエコーで旦那そっくり の鼻をみた時にああ良かったって思って。」と語った ように,胎児に何か異常や障害があるのではないか, 人工授精の際に他の精子と間違えられていないかとい う不安を持っていた。

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 更に,《頭では分かってきても割り切れない治療や 高齢妊娠による胎児への影響の不安》という体験にお いて,Bさんが「どうしてもね,人の手でやってること, 自然でできてるわけじゃないので。ここの病院は割と そういう実績もあるし,だからその点では安心ってい うか,信頼はしていたんですけど,やっぱり初めてで すし,そうやって頭で分かってても,なかなか割り切 れない部分もありますからね。」と語ったように,自 分の妊娠を自然では無いと捉えて胎児に何か異常や障 害があるのではないかと不安を感じていた。  また,《高齢妊娠による胎児への影響の不安と妊娠 の喜びがシーソーのような感じ》という体験では,妊 娠当時40代前半であった Iさんは「だから本当,常に こう,シーソーみたいな感じで,嬉しかったり,不安 だったりっていうのが,波があった感じでしたね。」 と語り,高齢妊娠による胎児への影響に不安を感じ, 純粋に喜びきれず妊娠期を過ごしていた。  加えて,《医療を信じて治療による胎児の異常や障 害の心配をまぎらわす》という体験では,Bさんは「成 長してその体外受精で生まれた子は,やっぱり子ども ができにくいんじゃないかとかっていうことは,ちょ っと心配はしましたけども,でもせっかくもうお腹の 中にできてしまったので,その時はもっと医療も発達 してるから,なったらなったときで考えればいっかと か思って。」と語った。このように,医師から胎児の 異常や障害の発生率は自然妊娠と同じであると説明を 受けたり,医療の発展を期待して心配をまぎらわして いた。 (8)【家族に対するありがたさとストレス】  これは2つのサブカテゴリーから生成された。《普通 より一層安産を願う家族の心配がありがたくもありス トレスでもある》では,Iさんは「普通の妊婦さんより は大事にした方がいいとか,5月に生まれたんで,そ の冬の時期とかは暖かくしとかなきゃいけない,腹巻 と靴下みたいな感じだったり,これを食べるといい よとかって言って。(中略)ありがたいなっていうのと, ちょっとうっとうしいなっていうのとあったんですけ ど。」と語り,様々な気遣いを受けることで,家族がこ の妊娠を特別と考えて自分に接していると感じていた。  また,《親から自然分娩を期待されることのストレ ス》では,Eさんは妊娠中から児頭が大きく自然分娩 は難しいかもしれないと言われており,「もう半ば帝 王切開だろうなって諦めもあったんですけど,母親か らうるさいぐらいに自然分娩がいい,自然分娩がいい って。かわいそうだって。子どもは自然に産んでやれ って。ずーっと言われてたんで。」と,自分の思いと は裏腹に母親から自然分娩を期待されていることでス トレスを感じていた。 (9)【妊娠継続の不確かさを抱く】  これは3つのサブカテゴリーから生成された。《切迫 早産になっても自分より胎児を心配する》では,Cさ んは「自分どうなっちゃうかなっていうか,おなかの 赤ちゃんどうなっちゃうのかなって,すごい感じて, やっぱ不安でしたね。」と,何よりも第一に胎児のこ とを思う母親の気持ちが語られた。  また,《常にある流早産の恐怖感と胎児の成長・胎 動による安心感を抱く》という体験では,過去に流産 の経験があるDさんは「(妊娠時に)ちょっと怖くって。 でも5週目で行って,もう心臓が動いてるのが見えて, あ,これは大丈夫だって。」と,過去の経験から今回 の妊娠にも不安を抱きつつ,胎児の存在を確認するこ とで安心感を得ていた。  《無事に臨月を迎えられることを願う》では,Hさん は「とりあえず,無事に,臨月まで来れるように。」と 語り,妊娠中は一心に無事に過ごせることを願ってい た。 2 ) 分娩期の体験(表2)  不妊治療によって妊娠した女性の分娩期の体験とし て,3つのカテゴリーと,11のサブカテゴリーが抽出 された。 (1)【健康な児の出生への切望】  これは2つのサブカテゴリーから生成された。《やっ と妊娠できたからこそ胎児が心配でとにかく早く出し て欲しい》という体験では,Bさんは妊娠期から抱い てきた胎児の異常や障害に対する不安を分娩期にも抱 き続け,「(胎児の心音が低下した際に)まだ出てきて もいないのに苦しい思いさせてるのは嫌だから,何 が何でもいいから,もう早く出して欲しいっていうか, どういうふうでも,切ってでもなんでもいいから,出 してーって感じはしてましたね。」のように語り,心 配から早く逃れたい気持ちを持って分娩期を過ごして いた。  また,《五体満足元気に生まれることを強く願う》で は,2∼3年かけて体外受精で妊娠したGさんは「(分 娩中は)無事に生まれてくれればという気持ちでした ね。」と語り,児が無事に生まれることだけを強く願 っていた。

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(2)【充足感の薄い出産】  これは3つのサブカテゴリーから生成された。《自然 分娩がかなわず医療者のフォローで納得するも後悔を 引きずる》という体験では,分娩停止で緊急帝王切開 となったEさんは「手術の経過表を見せられて,多少 心拍が落ちたみたいです。羊水も濁ってたっていう話 を聞いて,それ言われちゃうとこれで良かったのかな って。出てきた姿(児の大きさを)見てこりゃ無理だ ったってみんなに言われて,どんどん切ってもらえば 良かったかなっていうのと,だけどやっぱもうちょっ と頑張りゃ良かったかなーっていうのと。(中略)なん かプレッシャーがあったんで。自然に産んであげたい っていうのがあったんで…。」と語った。Eさんは医療 介入を受けるのではなく自然に産みたいという気持ち を強く持っていたが結果的に帝王切開となってしまい, 後悔の念を抱く体験となった。  また,児が生まれたことは嬉しく思いつつも《医療 処置や疲労感から赤ちゃんへの興味が強く持てない》 という体験があった。Fさんは「あんまり感動とかな くて,疲れちゃって,なんかもう。もう疲れちゃって。」 と語り,分娩時間が長時間であり,疲れ果てた末の出 産であったという体験があった。  更に,《帝王切開のために自分が一番に赤ちゃんと 対面できないことを残念に思う》では,全身麻酔で帝 王切開を受けた Iさんが「目が覚めて,分かりますかー みたいな感じで確認を受けて連れてきてもらって,カ ンガルーケア,抱っこしてだったんで。だから,私よ りも主人とか,おばあちゃんが先に対面するんだと思 って。私じゃないんだ。(中略)私,後なんだって。」と 語ったように,自分の出産にかける思いを強く持って いる人の残念な気持ちがあった。 (3)【母親になれた喜びと育児への意欲】  これは6つのサブカテゴリーから生成された。《や っと我が子に会えたことがとにかく本当に嬉しい》と いう体験では,Cさんの「こう抱かせてもらった時に, 名前呼んであげて,やっと会えたねーって言って。夫 婦で抱っこ,囲んで,抱っこして。やっと会えたねー って。」のように,これまでの長かった道のりを経て 児を迎えることができた喜びが語られた。  また,《赤ちゃんが夫似であり二人の子どもである ことを実感してすごく嬉しい》では,Eさんが「エコー で見たまんまの顔だったんで,生まれてきてなおの こと間違いないって。(中略)この子だ,この子だって。 お腹にいた子だって感じですね。ああ良かった,旦那 の子だったって。」と語ったように,生まれてきた児 が夫に似ていることを重要と捉え,喜ぶ体験があった。  更に,《孫を抱かせることができ親に対して役目を 果たせた達成感》では,Dさんは「これでちょっと役目 果たした,何だろ,果たしたじゃないけど。健康に生 まれたっていうので,それだけでもう満足で。」と語り, 出産を自分の役目であると捉えていた。  《治療の苦労を知っている家族が出産を喜んでくれ る幸福感》では,Cさんは「やっぱり喜んでくれました ね,私が苦労してるの知ってたんで,ずっと病院行っ てるのとか,注射痛いーってずっと言ってたんで,良 かったねって。(中略)やっぱ嬉しかったですね。」とし みじみ語り,家族を通した幸せを感じていた。  また,《他のことがどうでも良くなる程五体満足元 気に生まれて安心》では,Eさんの「やっぱ願いは五体 満足で健康にって,それだけなんで,結局出産まで思 うことは。だからもう元気なら良いですっていう。ち ゃんと泣いてくれたし,まあ頭でかいですけどそんな ことは良いかなって。」のように,気になることがあ 表2 分娩期の体験 カテゴリー サブカテゴリー 健康な児の出生への切望 やっと妊娠できたからこそ胎児が心配でとにかく早く出して欲しい 五体満足元気に生まれることを強く願う 充足感の薄い出産 自然分娩がかなわず医療者のフォローで納得するも後悔を引きずる 医療処置や疲労感から赤ちゃんへの興味が強く持てない 帝王切開のために自分が一番に赤ちゃんと対面できないことを残念に思う 母親になれた喜びと育児への意欲 やっと我が子に会えたことがとにかく本当に嬉しい 赤ちゃんが夫似であり二人の子どもであることを実感してすごく嬉しい 孫を抱かせることができ親に対して役目を果たせた達成感 治療の苦労を知っている家族が出産を喜んでくれる幸福感 他のことがどうでも良くなる程五体満足元気に生まれて安心 赤ちゃんを見て触って母親になれたことを実感し育児を頑張りたいと思う

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っても,元気に生まれたことが何よりも重要であると 考える語りがあった。  《赤ちゃんを見て触って母親になれたことを実感し 育児を頑張りたいと思う》では,Cさんは「親っていう 自覚は持てなかったんですけど,とにかくこの子だけ は守っていかなきゃいけないなっていう感じでした ね。」と語り,児を守っていかなければならない存在 と認識し,育児へと意欲を高めていた。 3 ) 産褥期・育児期の体験(表3)  不妊治療によって妊娠した女性の産褥期・育児期 の体験として,5つのカテゴリーと,8つのサブカテゴ リーが抽出された。 (1)【赤ちゃんの存在から感じる喜び】  これは2つのサブカテゴリーから生成された。治療 の末にやっとの出産にたどり着いた女性は,《とにか く赤ちゃんがかわいく育児できること全部が嬉しい》 という体験をしていた。これはCさんの「もう生まれ てからは,とにかくこの子がかわいくて,とにかくこ の子のお世話ができるのが嬉しくて,全部が嬉しかっ たですね。母乳あげられるのも嬉しかったし,ママに してくれてありがとうみたいな感じで。」という語り のように,全てが喜びとなる体験があった。  《赤ちゃんとのつながりを感じるための母乳育児を したい》では,Hさんは「母乳を吸わせたほうが結構つ ながりがあるとかって言って。ミルクだとつながりは ない。」と直接授乳によって児への愛着を強くしたい 気持ちを語った。 (2)【薄れていく赤ちゃんへの心配】  これは1つのサブカテゴリーから生成された。《赤ち ゃんの健康な状態を見て強かった心配が入院中に薄れ る》では,Bさんが「すごく手がかからない子だったん ですね。夜泣きもほとんど無かったんで,(心配は)全 く無かったんですよ。」と語ったように,治療や高齢 妊娠による児の異常や障害の不安は,出産して元気な 姿を実際に見たことで払拭されていた。 (3)【苦労の末の嬉しい出産でも初めての育児は不安】  これは2つのサブカテゴリーから生成された。《初め ての育児を一人でやっていけるか不安》のように,C さんは児の誕生や育児を心から喜んではいても,「退 院後の不安はちょっとありましたね。今,結構母子同 室ってとこ多いですよね,個室でね。(中略)帰ったら この子と24時間一緒だな,休めないけど大丈夫かな みたいなのはあったんですけど。」と,母子別室であ ったことから,入院生活の中で育児に対する不安を募 らせることを語った。  また,《赤ちゃんの健康面を過剰な程神経質に心配 する》では,Gさんの「モロー反射を私痙攣と間違えち ゃって。痙攣してるんです!って先生に言ったら脳 波?とか,CT撮ったりして,結局入院が1日長引い ちゃったんです。今思えば神経質だったな,あんなこ としなきゃ良かったなって思います。」のように,出 産後の不安な時期の自分を振り返って,通常以上に児 の異常を意識し過ぎる傾向を自覚していた語りもあっ た。 (4)【出産の実感や感動の薄さ】  これは2つのサブカテゴリーから生成された。《帝王 切開後の苦痛により出産の感動が薄い》では,帝王切 開で出産したAさんが「あれ(弾性ストッキング)が窮 屈でしたね。生まれたことには感動ですけど,動けな かったことに私は印象があり過ぎて。手術するとこん なのはかされるんだって。おしっこの管もついてたん で。そっちの方が嫌でしたね。」と語ったように,手 術による影響で出産の感動が妨げられる体験があった。  《医療介入によって出産の実感や感動をそれほど感 じない》では,帝王切開後に多量出血し輸血を受けた Dさんは,「もちろんかわいいんだけど,でも自分が 想像してたより,落ち着いてて,自分でも分かんない。 表3 産褥期・育児期の体験 カテゴリー サブカテゴリー 赤ちゃんの存在から感じる喜び とにかく赤ちゃんがかわいく育児できること全部が嬉しい赤ちゃんとのつながりを感じるための母乳育児をしたい 薄れていく赤ちゃんへの心配 赤ちゃんの健康な状態を見て強かった心配が入院中に薄れる 苦労の末の嬉しい出産でも初めての育児は不安 初めての育児を一人でやっていけるか不安 赤ちゃんの健康面を過剰な程神経質に心配する 出産の実感や感動の薄さ 帝王切開後の苦痛により出産の感動が薄い医療介入によって出産の実感や感動をそれほど感じない 不安な出来事と治療を結びつける 不安なことが生じると不妊治療を思い出す

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自分が大変だっていうのはあるかもしれないですけ ど。」と,予想外の自分の反応に戸惑っていた。 (5)【不安な出来事と治療を結びつける】  これは1つのサブカテゴリーから生成された。《不安 なことが生じると不妊治療を思い出す》では,Gさん は「看護師さんたちも,こういう子(黄疸の子)は何人 もいるよとか,ちょっと日サロ(日焼けサロン)に行 くのよとかって言ってくれて。でも私には何もわから ないから。そうやって何か不安なことがあると,治療 のことを思い出しますね。」と語り,不安や気がかり があるたびに不妊治療を思い出し,結びつけて心配す る体験をしていた。

Ⅳ.考   察

1.妊娠期,分娩期,産褥期・育児期各期に生じる不安  本研究参加者は妊娠期に【胎児の異常や障害に対す る不安と大丈夫という気持ちの揺らぎ】という体験を しており,不妊治療の影響による胎児の奇形や,五体 満足ではない可能性に不安を感じていた。先行研究で も,生殖補助医療によって妊娠した女性は妊娠や胎 児の異常に不安をもつ(林・佐山, 2009, p.86)と言わ れており,本研究結果と一致している。このことから, 不妊治療を経て妊娠した女性は,不妊治療が胎児へ何 らかの影響を及ぼすと考え,常々不安を感じながら妊 娠期を過ごしていると思われる。このような胎児の異 常への懸念に対して「仕方ないと考える」や,「仕事な どに没頭して気をそらす」という対処がある(末次・ 森, 2009, p.29)。本研究では《医療を信じて治療による 胎児の異常や障害の心配をまぎらわす》のように,医 師から胎児の異常や障害の発生率は自然妊娠の児と同 じであると説明を受けることで,不安が軽減し,胎動 やエコーで胎児を確認することが気持ちを休めるきっ かけになっていた。従って不妊治療を経て妊娠した女 性は,自分なりに不安に対処しつつ前向きな気持ちを 維持しているが,医療者から明確な情報による胎児の 健康についての説明を求めていると言える。近年は, ARTによる出生児の異常や障害は,両親の不妊や不妊 となった機序に関係しており,ART技術そのものに は関係がない(久慈・井上・福永他, 2011, p.376)とさ れているため,このような事実を,常に不安と隣り合 わせで治療を受けている女性に丁寧に伝えていく必要 がある。  また,プライバシーに関する不安もあることが分か った。不妊治療を経て妊娠した女性は,治療施設が分 娩も扱っていればそこで出産をすることも,他施設へ 転院することもできることから,【出産施設の選択に 対する不安と安心】という体験があった。不妊女性は 不妊治療の長い通院中に,医師との意思疎通,信頼関 係の構築がなされ,不安の増強がない(大嶺・儀間・ 宮城他, 2000, p.442)と言われており,治療施設で出産 する場合は女性の不安が比較的軽いと考えられる。し かし他施設での出産の場合,女性は紹介状に不妊治療 経過を記載されることで,施設を通して親や周囲に治 療を受けたことが漏れないかという不安を抱いていた。 女性には【家族に対するありがたさとストレス】など 特有の複雑な状態もあるため,紹介状の記載内容を女 性自身が把握した上でプライバシーに関する意向が反 映できるように十分な配慮をすべきである。  分娩期における,【健康な児の出生への切望】という 体験も,妊娠期と同様に不妊治療や高齢妊娠による児 への影響の不安が反映されたものであると言える。そ して無事出産することでようやく【母親になれた喜び と育児への意欲】という体験をしていた。これについ て知念・玉城(2011, p.31)も同様に,不妊治療を受け なおかつ高齢出産の女性には児の障害を気にする体験 があり,出産時に児が五体満足であることに安心する と述べている。このことから不妊治療を受け,かつ自 分は高齢妊娠であると捉えている場合は,児の五体満 足な出生がより重要視され,妊娠期同様,分娩期の精 神的ケアも重要であることが示唆された。青柳(2013, p.329)は不妊治療後の産婦へのかかわりについて,助 産師は不妊の情報を活用した実践頻度が低いことを述 べているが,今回の結果からもこうした産婦の気持ち に一層の理解を持って接することが必要と言える。  産褥期・育児期には【薄れていく赤ちゃんへの心配】 と,【不安な出来事と治療を結びつける】という相異な る体験があった。不妊治療を経て妊娠した女性は,児 の健康状態に強い関心を抱いているからこそ,育児中 に生じる不安材料を不妊治療と結びつけてしまう場合 がある。鷲見(2012, pp.1031-1033)は不妊治療出生児 を対象としたサポート体制はほとんどなく,医療機関 や地域によって支援体制は異なっており,育児期の家 族に適切な情報を提供する必要性があると述べている。 このように,育児期は地域での集団的支援が中心とな り,不妊治療を経て出産した女性とその児に個別的支 援を行えることは少ない。育児期も不妊の人々への支 援を専門としている治療施設などが,子育て広場を設

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けるなどして,継続的・個別的なかかわりを持てる工 夫が必要と言える。 2.不妊治療を経ての妊娠及び出産に伴う充足感や実 感の不足  本研究参加者は,妊娠時には泣く程嬉しいに違いな いと予測していたにも関わらず,実際は【予想に反し た妊娠や出産への実感のなさ】という体験をしていた。 これは森・石井・林(2007,p.27)による,不妊女性は 妊娠できたことを奇跡的であった,あるいは半信半疑 で捉えたり,長期に不妊であったために妊娠の実感が 持てないという結果と一致する。更にこのカテゴリー では,仕事でキャリアアップして楽しくなってきた頃 の妊娠であった事実が語られ,半ば妊娠を諦めつつ仕 事に力を注ぎ,嬉しいけれど今ではないという戸惑い に曝される場合があることが分かった。このことから, 仕事を持つ女性には,仕事と不妊治療の両立を考えた スケジューリングの支援も必要であると言える。  また分娩期には,帝王切開などによって児へ関心を 向けられない【充足感の薄い出産】という体験があっ た。産褥期・育児期も同様に,【出産の実感や感動の 薄さ】という体験があり,育児への移行に影響を及ぼ す可能性が示唆された。緊急帝王切開後の女性には経 膣分娩の母親に比べ,子どもへの愛情や感謝の気持ち が不足しているとの思いや,陣痛を伴って出産するこ とが母親であるという考えがある(今崎,2006,p.86) と言われている。本研究参加者は5名が帝王切開であ り,妊娠期から【自然分娩ができないことを割り切る】 のように一旦は努力して諦めたものの,《自然分娩が かなわず医療者のフォローで納得するも後悔を引きず る》という体験をする女性もいた。貴重児と考えられ やすい不妊女性は,せめて出産だけでも自然分娩がし たいと願う事例でも帝王切開になる場合があり,この ような気持ちを十分に察したケアが重要である。 3.本研究の限界と今後の課題  研究参加者の心理的負担を考慮して比較的その可能 性が低いと思われる,すでに第2子妊娠のために不妊 治療を再開している女性を対象としたことから,現在 の治療や育児状況が結果に影響している可能性がある。 また,これまでの流早産の関連や,第1子出産後の期 間のばらつきなどを検討することができなかった。今 後は妊娠期から縦断的にデータを収集し,妊娠期,分 娩期,産褥期・育児期それぞれの移り替わりにおいて どのような体験の変化があるのか,そのプロセスを明 らかにしていく必要がある。

Ⅴ.結   論

 不妊治療を経て妊娠した女性の体験として,妊娠期 には【沸き上がる第2子への欲求】,【予想に反した妊 娠や出産への実感のなさ】,【妊娠の喜びと誇らしさ】, 【出産施設の選択に対する不安と安心】,【長い道のり を経てここまで来れたことの安堵感】,【自然分娩がで きないことを割り切る】,【胎児の異常や障害に対する 不安と大丈夫という気持ちの揺らぎ】,【家族に対する ありがたさとストレス】,【妊娠継続の不確かさを抱 く】という9つのカテゴリーが抽出された。分娩期の 体験として,【健康な児の出生への切望】,【充足感の薄 い出産】,【母親になれた喜びと育児への意欲】という 3つのカテゴリーが抽出された。産褥期・育児期の体 験としては,【赤ちゃんの存在から感じる喜び】,【薄れ ていく赤ちゃんへの心配】,【苦労の末の嬉しい出産で も初めての育児は不安】,【出産の実感や感動の薄さ】, 【不安な出来事と治療を結びつける】という5つのカテ ゴリーが抽出された。看護者は妊娠期,分娩期,産褥 期・育児期それぞれの時期において,不妊女性がこの ような独特の体験をしていることを理解し,ケアを行 っていく必要があることが示唆された。 謝 辞  育児と通院でご多忙な時期にも関わらず,貴重な体 験を語って下さいました女性の皆様に心より御礼申し 上げます。また,快く本研究にご協力,ご支援下さい ました施設理事長様,看護師長様,スタッフの皆様に, 深く感謝致します。なお,本研究は平成22年度愛知 県立大学大学院修士論文を一部加筆・修正したもので あり,第10回日本生殖看護学会学術集会において発 表した。 文 献 青柳優子(2013).不妊治療後の産婦に対する助産師の実 践と不妊に関する意識および不妊治療の許容度との関 連.母性衛生,54(2),325-334. 荒木重雄,浜崎京子(2003).不妊治療ガイダンス第3版.東 京:医学書院. 粟田賢三,古在由重(1979).岩波哲学小辞典.東京:岩波 書店.

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参照

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