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助産師による超音波検査の現状,認識,必要な教育

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京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻(School of Human Health Science, Graduate School of Medicine, Kyoto University) 2010年2月24日受付 2010年10月15日採用

資  料

助産師による超音波検査の現状,認識,必要な教育

The current status, awareness and education of

ultrasonic diagnosis among midwives

我部山 キヨ子(Kiyoko KABEYAMA)

* 抄  録 目 的  助産師が行っている超音波検査の実態,助産師の認識,必要な教育を調べた。 対象と方法  インターネット上で検索した助産師外来を設けている病院・診療所67施設と,有床の助産所81施設 の助産師(n=794)に無記名質問紙調査を実施した。 結 果 1 ) 助産師が超音波検査を実施している施設は,実施していない施設よりも分娩件数に差はなかったが, 助産師数と医師数は有意に少なかった。 2 ) 超音波検査を実施している助産師(実施群)は実施していない助産師(未実施群)よりも,年齢は有 意に高く,経験年数は有意に長かった。 3 ) 実施群では,76.4%が「助産師が超音波検査を行うことに妊産褥婦や家族は満足すると思う」,64.9% が「超音波検査は助産師業務の範囲内だと思う」と答え,肯定的に評価した。 4 ) 助産師が超音波検査を行う利点は,実施群では「コミュニケーション手段に有効」「妊婦や家族の胎 児への関心を引き出す」「胎児の発育・異常の判断に有効」「医師よりも多くの時間がかけられる」が有 意に高率で,欠点は未実施群では「医師との診断の相違の可能性」「業務負担」が有意に高率であった。 5 ) 異常所見が見られた場合の助産師の説明については,「正常逸脱の可能性は伝えるがその診断名は 伝えない」が8割前後を占めた。 6 ) 超音波検査の教育はほぼ100%が必要と答え,教育方法では「院内教育」が8割と多かった。教育内 容は「操作方法の講義・実習」「画像診断の講義・実習」などの実践に即した教育を望んでいた。 結 論  医師および助産師が少ない施設においては両者の役割分担が進み,助産師による超音波検査の実施が 進行していることから,超音波教育体制や異常所見時の相談体制の整備の必要性が示唆された。 キーワード:超音波検査,助産師,妊婦健診

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助産師による超音波検査の現状,認識,必要な教育

Ⅰ.緒   言

1.研究の背景  近年,少子化の進行,産科医不足,分娩取り扱い施 設の閉鎖などによって出産の場所がない妊婦=「出産 難民」や「妊婦のたらい回し」といわれる現象が都市部 においてさえも生じ,マスコミ紙上を賑わし社会的論 議を惹起している。このような現状を背景に,地域 医療に関する関係省庁連絡会議(2005年)においても, 「病院・診療所における正常妊産婦を対象にした助産 師による外来や助産所との連携を図ることにより,産 科医師と助産師の役割分担・連携を進める」という方 向性が示された。この方針は,施設助産師の活用促進 の動きを生み出し,「助産師外来」や「院内助産所」の 創設が各地で報告されるに至っている。  一方,医学診断においては画像診断の占める位置は 極めて大きく,現在ほとんどの医療機関において妊婦 健診に超音波検査が導入されており,助産師外来の普 及(全国353カ所,厚生労働省看護課, 2009)とともに, 助産師に対する超音波検査の教育も職能団体などで行 われるようになってきた。 2.超音波検査と助産師に関する従来の研究の動向  超音波検査と助産師に関する研究では,国内外とも に1990年代(Mark & Kypros, 1992;Page, 1993;鈴井, 1996)から見受けられ,最近では我が国における周産 期の超音波検査の施行は,医師,超音波検査士ばかり でなく,助産師にも拡大し,助産師教育への取り組み も図られ,助産師業務の一部に位置づけられつつある (白井,1999)。その内容として,Mark & Kypros(1992)

は助産師,医師,レントゲン技師が行う超音波検査は, それぞれの職種によって役割が異なり,助産師は異常 を発見するという観点ではなく,正常を確認しながら 妊婦の精神的な援助を行うことが重要であると報告し ている。また,助産師が妊婦健診に超音波検査を用 いる意味づけとして,妊婦の精神的安定(鈴井,1996), Abstract Purpose

This study was conducted to examine the current status, awareness and education of ultrasonic diagnosis per-formed by midwives.

Subjects and Methods

We conducted a questionnaire survey involving midwives (n=794) working in 67 hospitals and clinics providing obstetric outpatient services and 81 maternity centers equipped with beds, identified through an Internet search. Results

1 ) The numbers of midwives and obstetrician were significantly lower in facilities where ultrasonic diagnosis was performed by midwives.

2 ) The average age of midwives performing ultrasonic diagnosis (Group A) was markedly higher with increasing work experience, compared to those who do not perform it (Group B).

3 ) In Group A, 76.4% were of the opinion that "Pregnant and postpartum patients and their families will agree to ul-trasonic diagnosis performed by midwives.", and 64.9% viewed "ulul-trasonic diagnosis as part of their tasks", giving a positive assessment.

4 ) Regarding the benefits of ultrasonic diagnosis performed by midwives, common answers in Group A included: "It will promote communication.", "Pregnant and postpartum patients and their families will become more inter-ested in their babies.", "It is an effective means to determine the growth and abnormality of babies.", and "Com-pared to physicians, midwives can take more time for diagnosis". On the other hand, the majority of Group B cited "Possibility of the difference between the diagnosis of doctor", "an increase in workload" as a drawback. 5 ) On the ultrasonic diagnosis of the abnormality, about 80% of midwives answered "Though it is told to be

abnor-mal, the concrete diagnosis name is not spoken".

6 ) Nearly 100% of midwives recognized the importance of education on ultrasonic diagnosis, and 80% thought that education, including lectures and practical training on "operative procedures" and "diagnostic imaging", should be provided by their facilities.

Conclusion

Since ultrasonic diagnosis is being performed by an increasing number of midwives, it is important to develop an education system and consultation system in an abnormal case.

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検定,χ2検定を行い,助産師が超音波検査を行って いる群(以下,実施群とする)と行っていない群(以下, 未実施群とする)に分けて比較検討した。なお,医療 施設と助産所の様相は異なるので,前述の2群比較に 加えて,助産所とそれ以外別に分けて分析したが,対 象の背景以外では顕著な差はなかったので,結果は実 施群・未実施群の比較で示した。有意水準は5%未満 とした。

Ⅲ.結   果

1.施設および対象の背景  表1は,助産師が勤務する施設の背景である。283 施設のうち,148施設から回答が得られ,回収率は 52.3%であった。148施設のうち,助産師が超音波検 査を実施している施設(実施施設)は105施設(70.9%), 実施していない施設(未実施施設)は43施設(29.1%) であった。施設の内訳は,大学病院1施設,総合病院 51施設,診療所15施設,助産所81施設で,実施施設 では助産所の割合が高かった。なお,助産所を除く施 設67施設の内で,実施施設は40施設であった。  1ヵ月の分娩例数は,実施施設51.5 44.7件,未実施 施設41.3 50.7件で両群に差はなかったが,助産師数 は13.3 13.9人,19.8 19.5人(以下,実施施設,未実施 施設の順),医師数は2.5 3.1人,4.1 2.8人で,実施施 設の方が助産師数および医師数ともに有意に少なかっ た。助産所を除いた医療施設の実施施設と未実施施設 の比較でも差はなかったが,助産師数と医師数はいず れも実施施設で少なかった。  表2は,対象の背景である。回答した助産師794 人のうち,助産師が超音波検査を行っている実施群 は356人(44.8%),未実施群は438人(55.2%)であっ た。年齢と助産師経験年数は,実施群では40.5 11.6歳, 15.0 11.2年,未実施群では36.3 9.5歳,10.7 8.6年で, 実施群の年齢は有意に高く,経験年数も有意に長かっ た。助産所を除いた施設の助産師経験年数でも,実施 群11.9 8.0年,未実施群10.3 7.9年で,同じく実施群 で有意に長かった。 2.超音波検査の実態と認識 1 )超音波検査の対象者と実施頻度  表3は,実施群と未実施群別の超音波検査の対象者 いる。このように,助産師と超音波検査を材題にした 調査も報告されるようになってきたが,国内外ともに 助産師による超音波検査の現状や認識等を調べた報告 は極めて少ない。 3.研究の目的  本研究の目的は,現在助産師が行っている超音波検 査に関する実態と助産師の認識および超音波検査を行 うために必要な教育を調べることである。

Ⅱ.対象と方法

1.研究対象  インターネット上で検索した助産師外来を設けてい る病院78施設・診療所22施設と,有床の助産所183施 設の助産師。 2.研究方法  上記施設の看護職代表者に調査の目的,方法,プラ イバシーの保護等を記載した依頼文と質問紙を郵送し た。同意の得られた看護職代表者または病棟師長から 施設に勤務する助産師に同依頼文と質問紙の配布を依 頼し,調査の趣旨に同意を得た助産師に無記名式質問 紙に回答してもらい,回収は個別に厳封した封書によ り行った。質問紙の調査項目は施設及び対象の背景, 助産師による超音波検査実施の実態,超音波検査に対 する助産師の認識,助産師が超音波検査を行う利点と 欠点,異常所見時の助産師の説明範囲,超音波検査に 関する教育体制と教育内容等から構成し,回答は選択 式とした。 3.研究期間  2007年11月∼2008年1月 4.倫理的配慮  依頼文には前述の調査目的などに加えて,途中離脱 の自由,結果公表の方法と回収後の質問紙の処分,本 研究の目的以外には使用しないこと,質問項目は全 てコード化され個人は特定されないこと等を記載した。 また,本研究はT大学医の倫理委員会の承認を得た。

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助産師による超音波検査の現状,認識,必要な教育 と実施頻度である。超音波検査の対象者は,実施群 では「全ての妊婦に実施」87.4%,「希望者のみに実施」 11.5%であったが,未実施群は「全ての妊婦に実施」が 95.0%に及び,両群間で差が見られた。また超音波検 査の実施頻度は,両群ともに「毎回」が最も多く7割前 後,「妊娠各期に1回程度」が14∼20%で,両群間で差 が見られた。 2 )超音波検査に対する助産師の認識  表4は,超音波検査に対する助産師の認識である。 「助産師が超音波検査を行うことに妊産褥婦や家族は 満足すると思うか」については,「満足すると思う」は 実施群76.4%,未実施群56.2%,「どちらでもない」は 実施群22.2%,未実施群36.1%であった。「超音波検査 は助産師の業務範囲だと思うか」については,「思う」 が実施群64.9%,未実施群36.5%であった。「今後,助 産師が超音波検査を実施する機会の増加を望むか」に ついては,「望む」が実施群60.4%,未実施群44.1%で あり,3項目の全てにおいて実施群は非実施群よりも 肯定的意見が有意に高率であった。 3 )助産師が行う利点と欠点,異常所見時の説明範囲  助産師が超音波検査を行う利点として多かった項目 は,両群ともにほぼ同じで,「コミュニケーション手 段に有効」「妊婦や家族の胎児への関心を引き出せる」 「保健指導に有効」などであった(図1)。また,ほぼ全 表1 施設(実施施設と未実施施設)の背景 施設(%)or Mean SD 内    訳 全  体 実施施設 未実施施設 χ2 or t値,p 施設の内訳   大学病院   総合病院   診療所   助産所 148(100.0) 1( 0.7) 51(34.5) 15(10.1) 81(54.7) 105(70.9) 0( 0.0) 30(20.3) 10( 6.8) 65(43.9) 43(29.1) 1( 0.7) 21(14.2) 5( 3.4) 16(10.8) 9.6* 1ヶ月の分娩件数 46.7 47.7 51.5 44.7 41.3 50.7 1.2 助産師数(人) 16.9 17.5 13.3 13.9 19.8 19.5 2.3* 医師数(人) 3.4 3.0 2.5 3.1 4.1 2.8 2.9** 助産所を 除く67施 設の概要 1ヶ月の分娩件数 (67施設)60.2 47.6 (40施設)61.4 54.2 (27施設)59.5 43.1 0.2 助産師数(人) 20.0 18.1 17.8 14.8 21.2 19.6 0.8 医師数(人) 4.2 2.9 3.6 3.2 4.5 2.6 1.2 注) 2群の母平均値の差の検定(welchの検定).*p<0.05,**p<0.001 表2 対象(実施群と未実施群)の背景 人(%)or Mean SD 内  訳 全  体 実施群 未実施群 t値,p 人 数 794(100) 356(44.8) 438(55.2) 年 齢(歳) 38.1 10.7 40.5 11.6 36.3 9.5 5.5*** 助産師経験年数(年) 12.7 10.1 15.0 11.2 10.7 8.6 5.9*** 助産師経験年数(助産院除外) 646人,10.9 8.0 240人,11.9 8.0 406人,10.3 7.9 2.5* 注) 2群の母平均値の差の検定(welchの検定).*p<0.05,***p<0.001 表3 超音波検査の対象者と実施頻度 実施群 n=356 未実施群 n=438 χ2値, p 1. 超音波検査の対象者   全ての妊婦に実施   希望者のみに実施   わからない 311(87.4) 41(11.5) 4( 1.1) 416(95.0) 6( 1.4) 16( 3.7) 40.4*** 2. 超音波検査の実施頻度   毎回   妊娠各期に1回程度   その他 268(75.3) 50(14.0) 38(10.7) 302(68.9) 91(20.8) 45(10.3) 6.1* 注) χ2検定:*p<0.05,***p<0.001

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項目で実施群が未実施群よりも高率であり,「コミュ ニケーション手段に有効」「胎児への関心を引き出せ る」「胎児の発育・異常の判断に有効」「医師よりも多 くの時間がかけられる」は有意に高率であった。  「欠点」として,両群ともに5割を超えたのは,「医師 の診断との相違の可能性」「誤診の可能性」であった(図 2)。一方,利点とは逆に「その他」を除く全項目で未 実施群が高率で,「医師の診断との相違の可能性」「業 務負担」は有意に高率であった。  また,超音波検査時の異常所見に関する助産師の説 明範囲としては,両群ともに「正常逸脱の可能性は伝 えるがその診断名は伝えない」が80%前後で最も多く, 1. 助産師が超音波検査を行うことに妊産褥婦や家族は満足すると思うか  満足すると思う 272(76.4) 246(56.2)  どちらでもない 79(22.2) 158(36.1) 41.2***  満足すると思わない 5( 1.4) 34( 7.8) 2. 超音波検査は助産師の業務範囲だと思うか  思う 231(64.9) 160(36.5)  どちらでもない 102(28.7) 213(48.6) 64.3***  思わない 23( 6.5) 65(10.3) 3. 今後,助産師が超音波検査を実施する機会の増加を望むか  望む 215(60.4) 193(44.1)  どちらともいえない 130(36.5) 201(45.9) 28.0***  望まない 11( 3.1) 44(10.0) 注)χ2検定:***p<0.001 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 81.4 74.0 65.6 46.5 57.2 54.4 48.5 42.6 40.3 24.7 31.8 32.6 27.0 18.6 4.8 2.8 χ2値=6.3* 29.1*** 21.9*** 8.1** ■実施群  n=356 ■未実施群 n=438 χ2検定:*p<0.05,**p<0.01 その他 医師よりも多くの時間がかけられる 助産師としての自信 胎児の発育・異常の判断に有効 母体の経過判断に有効 保健指導に有効 胎児への関心を引き出せる コミュニケーション手段に有効 (複数回答) % 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 53.9 61.4 53.9 59.8 26.6 33.2 25.7 44.5 18.3 6.8 その他 業務負担 妊産褥婦の信頼が得られない可能性 誤診の可能性 医師の判断との相違の可能性 (複数回答) ■実施群  n=356 ■未実施群 n=438 χ2検定:*p<0.05,***p<0.001 χ2値=4.5* 30.6*** % 図1 助産師が超音波検査を行う利点 図2 助産師が超音波検査を行う欠点

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助産師による超音波検査の現状,認識,必要な教育 「正常逸脱の可能性とその診断名を伝える」は両群と もに1割弱であった(表5)。また,実施群では「異常所 見(診断名等)をありのまま伝える」という積極的意見 も1.7%に認められ,注目された。さらに,実施群に おいて,超音波検査所見に関する相談・支援システム が整っていると回答した助産師は73.5%であった。 3.超音波検査実施前の教育体制と教育内容  超音波検査実施前の教育の必要性については,両群 ともにほぼ全員が「必要である」と回答した(表6)。必 要と答えた者が望む教育体制としては,「院内教育」が 8割弱,「助産教育課程」と「院外教育」は6割前後であ った。  また,望む教育内容として両群のほぼ7割以上が答 えた項目は,「操作方法の実習」「画像診断の実習」「画 像診断の講義」「施行時期や時期別診断ポイントの講 義」「操作方法の講義」で,操作方法の講義・実習や画 像診断の講義・実習等の実践に即した内容であった (図3)。「画像診断の実習」は未実施群で,「超音波検査 の目的・利点・欠点の講義」は実施群で有意に高率で あった。

Ⅳ.考   察

1.助産師が超音波検査を行っている施設の現状  調査施設の7割,助産所を除く医療施設でも6割で, 助産師による超音波検査が行われており,医師・助産 師ともに少ない施設においては,医師と助産師の役割 分担が進み,助産師外来においては助産師による超音 波検査の実施が進んでいることを示唆する結果であっ た。また,実施群の助産師経験年数は有意に長いこと から,より経験を積んだ助産師が超音波検査を含む妊 婦健診を行なっていることも明らかとなった。  さらに,超音波検査の対象者は未実施群で95%, 実施群でも9割弱であり,普及の拡大が示された。超 音波検査の実施頻度は,鈴井・平岡・蔵本(2005)が 2003年に行った調査では,毎回実施と答えた施設は 妊娠初期には7∼8割であったが,中期や末期では2∼ 5割と報告されている。調査対象が異なるので単純に 比較はできないが、本調査では「毎回」が7割前後を示 し,中期や末期でも実施頻度が増加していることが示 された。 2.助産師が超音波検査を行うことの認識  助産師が超音波検査を実施することについて,実施 表5 正常逸脱時の助産師の説明範囲と相談や支援システム 実施群 n=356 未実施群 n=438 χ2値, p 1. 正常を逸脱していると判断した時の助産師の説明範囲  異常所見(診断名等)をありのまま伝える 6( 1.7) 0( 0.0)  正常逸脱の可能性とその診断名を伝える 27( 7.6) 42( 9.6) 13.0**  正常逸脱の可能性は伝えるが診断名は伝えない 276(77.5) 359(82.0)  その他 47(13.2) 37( 8.4) 2. 超音波検査所見に関する相談・支援システム  整っている 262(73.5)  整っていない 94(26.5) 注)χ2検定:***p<0.01 表6 超音波検査の教育の必要性と教育体制 実施群 n=356 未実施群 n=438 χ2値, p 1. 超音波検査実施前の教育の必要性  必要である 351(98.6) 430(98.2)  必要でない 5( 1.4) 8( 1.8) 0.3 2. 教育体制(複数回答)  院内教育 285(79.8) 336(76.7) 1.3  助産教育課程 220(61.8) 250(57.1) 1.8  院外教育 213(59.8) 251(57.3) 0.5  その他 9( 2.5) 9( 2.1) 0.2 注)イエーツの補正:ns

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群では6割以上が超音波検査は助産師業務であり,助 産師による超音波検査実施の機会の増加を望んでいた。 これは,実施群においては超音波検査を助産師業務の 中に取り組むべき内容であるという認識がかなり浸透 してきていることを示唆するものである。  妊産婦健康診査の目的として,松田(2008)は「大多 数が正常な妊娠・分娩経過をたどる中で,妊娠中の母 体・胎児の異常例を検出し,適切な管理・治療に結び つける」こととしており,妊産婦健康診査では異常の 早期発見とその予防に力点が置かれていることは明ら かである。多くの助産師外来では医師と助産師の役割 分担の取り決めが行われ,助産師が取り扱う範囲は正 常妊産褥婦と決められているが,経過中に正常から逸 脱することは希なことではない。従って,助産師外来 に通っている妊婦の安全性を保障し,超音波検査が本 来意図している目的である胎児の発育の診断,異常の 早期発見を正確に行うためにも,実施群において助産 師の業務範囲であるとする意見や超音波検査を実施す る機会の増加を望む意見が増加したものと推測できる。 3.助産師が超音波検査を行う利点と欠点および説明等  助産師が超音波検査を行う利点としては,両群とも に「コミュニケーション手段に有効」「妊婦や家族の胎 児への関心を引き出せる」「保健指導に有効」が上位で あった。妊婦が胎児画像を見ることにより胎児の存在 を確認し安心する(Zlotogorski Z, Tadmor O, Rabino-vitz R, et al, 1997)とか,胎児の発育が順調であること を知る効果がある(Bennett CC & Richards DS, 2000) ことは,以前より報告されている。鈴井(2005)も超 音波検査を含む妊婦健診と含まない妊婦健診を受けた 妊婦を調査し,超音波検査を受けた妊婦は画像を見 ることによって胎児の発育がわかり嬉しい,安心する 等の肯定的感情を示したと報告している。このように, 胎児画像をみることによって妊婦が胎児に関心を示す ことは多くの文献によって示されている。また,胎児 画像を見て説明することで,コミュニケーションを図 り,有効な保健指導に繋がることも容易に推察される ことである。  一方,超音波検査の目的は,胎児の異常を早期に発 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 12.5*** ■実施群  n=356 ■未実施群 n=438 χ2検定 *: p<0.05,***: p<0.001 88.5 90.9 78.8 86.7 77.4 81.6 74.8 72.7 67.3 73.4 59.9 47.3 51.3 55.7 49.9 54.3 47.3 50.1 42.1 40.8 29.5 31.0 1.4 2.6 その他 医療過誤時の対処方法の講義 正常逸脱判断時の対処方法 超音波装置の原理の講義 操作方法の見学 画像診断の見学 超音波検査の目的・利点・欠点の講義 操作方法の講義 施行時期や時期別診断ポイントの講義 画像診断の講義 画像診断の実習 操作方法の実習 図3 超音波検査に関する教育で望む教育内容

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助産師による超音波検査の現状,認識,必要な教育 見すること,胎児の発育を診断することであるが,超 音波検査を受けない妊婦では妊娠各期に出現する身体 的変化によって妊娠経過が順調であると確信していた が,胎児の異常に関しては生まれてくるまで不安は払 拭されなかった(鈴井,2005)と報告されている。本 調査でも実施群は未実施群よりも「母体の経過判断に 有効」「胎児の発育・異常の判断に有効」の項目で高率 (胎児の発育・異常では有意差あり)を示したが,順 位は4位・5位であった。また,欠点にしても実施群 は未実施群に比べて全て低率であったとはいえ,「医 師の診断との相違の可能性」「誤診の可能性」は両群と もに5割を超えていた。吉田(2003)は超音波検査にお いて助産師に必要な能力は「スクリーニング能力」で あるとしている。このスクリーニング能力は正常を診 断できる能力,正常と正常からの逸脱を見極められる 能力であると解釈できるが,前述の結果は,実施群に おいてさえも過半数は自己の画像診断能力の不確実さ を認識し,疑念を呈している結果を示すものと推測で きる。  さらに,正常か否かのスクリーニングをした後,異 常所見が見られた場合にはその伝え方が問題となるが, 助産師の説明範囲については,「正常逸脱の可能性は 伝えるがその診断名は伝えない」が8割前後を占めた。 これは,前述の「医師の診断との相違の可能性」等の 助産師自らの画像診断能力の自信のなさ及び助産師が 主体的にできる範囲は,保健師助産師看護師法第38 条の「…異常があると認めたときは,医師の診療を求 めさせることを要し,自らこれらの者に対して処置を してはならない」という規定が反映した結果と考えら れる。しかし,僅か1割ではあるが,「異常所見(診断 名等)をありのまま伝える」「正常逸脱の可能性とその 診断名を伝える」も認められたことは注目され,診断 技術を持つことと妊産婦の質問やニーズへの即時的対 応のあり方の間でジレンマが生じる可能性もあること から,診断を迷う時や異常所見時の相談体制の確立を 図ること,及び説明範囲等については広く論議し,法 律上の諸問題も含めてコンセンサスを得るべき課題と 考える。 4.助産師が超音波検査を行うための教育  超音波検査に対する教育は,両群ともにほほ100% の助産師が必要と答え,特に院内教育は8割弱が,院 外教育・助産教育課程でも6割の助産師が必要と答え た。また,その教育内容で両群の6割以上が必要とし たのは,「操作方法の講義・実習」「画像診断の講義・ 実習」「施行時期や時期別診断ポイント」であった。こ のことは,教育機関においては超音波教育の教育課程 への本格的導入,院内外教育においては超音波検査の 実施に必修である具体的方法とその画像の読み方の訓 練の両方ができるOJT(on the job training)の活用・ 促進等の臨床に適合した方法論の導入の必要性を示唆 するものである。

Ⅴ.結   論

 産科医不足に伴う助産師外来の拡大,患者の医療安 全の確保と権利保証,医療に対するニーズの多様化な ど,我が国の産科医療の現状と患者意識の高揚を考慮 すると,今後助産師による超音波検査実施への期待 も高まり,正確な診断能力が一層求められることが予 測される。超音波検査を助産師業務に取り入れた場 合,今まで行ってきた業務のEBP(Evidenced Based Practice)の証明にも利するものであり,診断能力を 数段と向上させることは論を待たない。  しかし,助産師が超音波検査を実施するための教育 や実施体制は,現在始まったばかりであり,今後は, 超音波検査装置に関する知識の定着,正確な操作方法 や診断技術の獲得を図るために,助産師教育機関およ び職場での教育体制(診断に迷った場合の相談体勢を 含めて)の整備が急務である。本調査の限界は,助産 師外来を有する医療施設と有床の助産所の助産師を対 象としていることから,助産師外来を有しない医療施 設や無床助産所の助産師の現状や認識は不明であり, 今後の課題である。  今後の研究の方向性として,超音波検査に関するよ り詳細かつ具体的な教育内容及び効果的な教育方法を 確立するために,超音波検査を実施している助産師を 対象に,超音波に関する教育や実践時間・例数などと 助産師の技能定着度や診断能力の関連性を調査し,分 析を深めたい。  本研究は平成19∼22年科学研究費補助金基盤研究 (B)による研究の1部である。 文 献

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参照

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