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運動器理学療法学における学習成果基盤型教育の考え方

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 783 ~ 784 運動器理学療法学における学習成果基盤型教育の考え方 頁(2015 年). 783. 分科学会シンポジウム 4(日本理学療法教育学会). 運動器理学療法学における学習成果基盤型教育の考え方* 赤 坂 清 和**. 近年,医師や薬剤師の養成教育において学習成果基盤型教. 法分野における具体的な内容を考えることを通して,他のシン. 育(Outcome-Based Education)による取り組みとその成果が. ポジストや会場の先生とともに,学習成果基盤型教育について. 報告されるようになり 1. 理解を深めることである。. –5). ,理学療法士養成教育においても検. 討対象となってきている。従来,高等教育では,専門的な研究. 運動器理学療法における第 1 の目標例として,大腿骨頸部骨. 分野における研究業績がある研究者が,そのままその分野の教. 折による骨接合術後に他動運動を実施でき,その効果が十分期. 育者になっていた。これは,研究を進めるうえで,関連領域に. 待できるとする。水準 1 の実践レベルとしては,症状が安定し. おける多くの研究論文を読むことや研究成果を学会発表するこ. ている術後股関節に対して他動運動ができる場合が挙げられ,. とにより,最新の学術内容を吸収し把握していたことが,自然. 具体的には排液用ドレーン抜去後,安定座位ができるように股. と教員としての適性を高めていた結果であると考えられた。し. 関節屈曲 90 度をめざす場合,歩行時対側下肢の振りだしのた. かしながら,教員の専門的な研究分野と他の教員との研究分野. め,側臥位で股関節伸展をめざす場合などが考えられる。水準. には大小様々なギャップが存在し,それを埋める対策が十分で. 2 の監視下模倣レベルとして,大腿骨骨折後症状が安定してい. はなかったことが問題とされた。その対策の 1 方略として,医. ないために他動運動の実施に注意が必要な場合が考えられ,他. 師養成教育における学習成果基盤型教育では,卒業時達成目標. 動運動時に股関節痛が残存するもの,理学療法プログラムの進. を設定し,それを達成するようにカリキュラムを含む全体をデ. 行に影響する中等度以上の認知機能低下がある場合などが本レ. 1). ,さらに医学教育. ベルに該当すると考える。水準 3 の理学療法士学生は見学に留. の質を保証,順次性のある一貫した学習目標を設定するラセン. めるレベルとしては,術後急性期に排液用ドレーンが装着され. 型カリキュラムの作成が推奨された 2)。ラセン型カリキュラム. ている場合,不安定骨折(Jansen’s reverse type など)術後や. では,同一学年や学期における科目間の共通した連携を水平的. 偽関節,異所性骨化症がある場合,中等度以上の他動時股関節. 統合,学年や学期を越えた科目間の連携を垂直的統合と表現さ. 痛(cut out や骨頭壊死を示唆)が残存する場合が考えられる。. れている。そして,各大学におけるプログラムの特色を明確化. 運動器理学療法における第 2 の目標例として,頸部に対して. するうえで,教育内容の基準と標準化,公開性などが推奨され. 筋力強化を実施でき,その効果が十分期待できる,について考. ている。これらの学習成果基盤型教育の実施に関して,PDCA. えてみる。水準 1 の実践レベルとしては,症状が安定した頸部. サイクル(Plan 計画,Do 実行,Check 評価,Act 点検と改善). に対して筋力強化が実施できること,具体的には筋力強化運動. により,主体的かつ自律的に振り返り,気づき,対話,見直し. を実施する姿勢として,座位から臥位などへの姿勢変換が安全. する過程が求められてきている。この PDCA サイクルの考え. に可能である場合,頸部痛や自律神経症状,心理・社会的因子. 方を受けて,教育における内部質保証として振り返りと気づき. などが安定している場合が考えられた。水準 2 の監視下模倣の. による自己点検評価を行い,peer review による現地調査にて. レベルとしては,指導者の監視のもと頸部に対して筋力強化が. 対話と見直しによる客観性担保が行われるようになってきて. 実施できる場合で,座位から臥位などへの姿勢変換に注意が必. いる。. 要な場合,軽度から中等度の頸部痛や自律神経症状が残存する. ザイン,作成,文書化することが推奨され. 学 習 成 果 基 盤 型 教 育 に よ る 医 師 の 臨 床 実 習 で は, 目 標. 場合,症状に影響を及ぼす軽度の心理・社会的因子がある場合. (Outcome; Competency)を決め,水準 1 の実践レベル,水準. が考えられた。水準 3 の見学に留めるレベルとしては,頸椎固. 2 の監視下模倣,水準 3 の見学に留める,3 つの段階に分類し. 定術後急性期などに対して筋力強化は慎重に進め,学生は見学. ている。本稿の目的は,理学療法士養成教育で実施されている. に留めるべきであろうと考える。その他の要因としては,長期. 臨床実習において,これらの目標と水準を用いて運動器理学療. にわたる病状により,頸部の安定性が著しく障害されている場 合や頭頸部体幹装具の使用などにより,頸部に著しい可動制限. *. A Framework of Outcome-Based Education on Musculoskeletal Physical Therapy ** 埼玉医科大学大学院理学療法学 教授 (〒 350–0496 埼玉県入間郡毛呂山町川角 981) Kiyokazu Akasaka, PT, CMP, MS, PhD: Saitama Medical University Graduate School of Medicine キーワード:学習成果基盤型教育,運動器理学療法,水準. がある場合,頸部痛や自律神経症状,心理・社会的因子が残存 し,症状が明らかに不安定である場合などが考えられる。 運動器理学療法における第 3 の目標例として,腰痛に対して マッサージやストレッチ,腰痛体操,関節モビライゼーション, 神経モビライゼーションを実施でき,その効果が十分期待でき.

(2) 784. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. る場合について考えてみる。水準 1 の実践レベルとしては,症. 術の難易度,専門知識,経験,時間などの制約があるため,学. 状が安定し,改善が見こまれる腰痛に対して,マッサージやス. 生には安易に任せられない領域で,資格をもった理学療法士が. トレッチが実施できることが挙げられる。具体的には,腰部,. 行う領域とすべきであると考えられた。学習成果基盤型教育で. 骨盤帯,股関節,大腿部に対するマッサージができること,腰. は,目標と水準について学内と学外での検討を重ね,より適切. 椎,仙腸関節,股関節に関与し,短縮している筋に対してスト. で標準的な教育を構築し,公開することが求められる。. レッチができることが望まれる。さらに,症状が安定した腰痛 に対して,腰痛体操を実施し,指導できるべきであると考える。 水準 2 の監視下模倣レベルとして,腰椎,仙腸関節,股関節に 対して,後前運動や横断圧迫. 6–8). ,椎間関節自然滑走法や持続. 的椎間関節滑走法 9) などの実施が挙げられる。さらに坐骨神 経痛や大腿神経痛に対して神経モビライゼーション 9)10)が実 施できることが望まれる。水準 3 の見学に留めるレベルとして は,複数回の理学療法に対して,効果が一時的か,ほとんど効 果がない場合が考えられ,中等度以上の軟部組織損傷による癒 着が原因と考えられるものや腰部の複数部位に腰痛の原因があ り治療の優先順位を慎重に考える必要がある場合,さらには症 状に影響を及ぼす中等度以上の心理・社会的因子,具体的には Keele Star Back スクリーニングツール 11)12)で総合 4 点以上, 質問 5 ~ 9 で 4 点以上の場合に,認知行動療法など他職種との チーム医療が必要となり,実習生単独では責任が重過ぎる場合 が挙げられる。 運動器理学療法における学習成果基盤型教育における目標と 水準について考慮すべき要件として,目標は理学療法士として 具有すべき知識と技術により,理学療法効果が期待できる内容 とし,水準 1 の実践レベルとして,理学療法士養成教育の中で 十分に専門教育や技術が教授され,ほとんどリスクの問題や経 験などによる制約がなく,積極的に学生に体験させ得る領域, 水準 2 の監視下模倣レベルとして,ある程度のリスクの問題, 技術の難易度,専門知識,経験などによる制約があるものの, 学生の指導がそばにいることで学生が実施することができる領 域,水準 3 の見学に留めるべきレベルとして,リスク管理,技. 文 献 1) Spady WG: Organizing for Results: The Basis of Authentic Restructuring and Reform. Educ Leadersh. 1988; 46(2): 4–8. 2) Harden JR, Crosby MH, et al.: AMEE Guide No. 14: Outcomebased education: Part 5-From competency to meta-competency: a model for the specification of learning outcomes. Med Teach. 1999; 21: 546–552. 3) Spady WG: Outcome-Based Education: Critical Issues and Answers. American Association of School Administrators, Arlington, Va. 1994. 4) 田邊政裕,朝比奈真由美,他:千葉大学医学部における学習成果 基盤型教育(Outcome-based Education)の実質化─順次性のある カリキュラム編成の工夫─.医学教育.2011; 42: 263–269. 5) 中村明弘,長谷川洋一,他:学習成果基盤型教育に基づいて 6 年 制 薬 学 教 育 の 学 習 成 果 を 考 え る.YAKUGAKU ZASSHI.2015; 135(3): 331–332. 6) 赤坂清和,齋藤昭彦:メイトランド脊椎マニピュレーション(原 著第 7 版).エルゼビアジャパン,東京,2008. 7) 赤坂清和,齋藤昭彦:メイトランド四肢関節マニピュレーション (原著第 4 版).医学映像教育センター,東京,2010. 8) 竹井 仁,黒澤和生:系統別・治療手技の展開(改定第 3 版).協 同医書出版,東京,2014. 9) 藤縄 理,赤坂清和,他:マリガンのマニュアルセラピー(原著 第 5 版).協同医書出版,東京,2007. 10) 伊藤直栄,斉藤武利,他:バトラー・神経モビライゼーション─ 触診と治療技術.協同医書出版,東京,2000. 11) 松 平 浩, 菊 地 徳 昌, 他: 日 本 語 版 STarT(subgroup for Targeted Treatment)Back スクリーニングツールの開発─言語 性妥当性を担保した翻訳版の作成.日本運動器疼痛学会誌.2013; 5: 11–19. 12) Keele Star Back スクリーニングツール.http://www.keele.ac.uk/ media/keeleuniversity/group/startback/translations/Japanese % 20translation_STarT % 20Back % 20Tool.pdf(2014 年 10 月 20 日 引用).

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