日本認知・行動療法学会 第44回大会 90
-成人ADHDに対する集団認知行動療法
○(企画・話題提供3)中島 美鈴1)、(司会・指定討論)松永 美希2)、(話題提供1)稲田 尚子3)、(話題 提供2)大野 史博4) 1 )九州大学大学院人間環境学府人間共生システム専攻、 2 )立教大学現代心理学部、 3 )帝京大学文学部、 4 )医療法人 社団心劇会さっぽろ駅前クリニック 【企画趣旨】 成人期の注意欠如・多動症(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder ; ADHD)に対する治療では, 英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence : NICE)によるガ イドライン(2008)では,第一選択治療として薬物療 法が推奨されている。しかし,薬物療法が奏効しな い,あるいは残存する機能障害がある場合には,機能 障害に対処するためのスキルを学ぶ認知行動療法が推 奨されており,中でも,「グループ療法は費用対効果 の面から第一選択心理療法として推奨」されている。 実際,薬物療法の奏効しない成人ADHD患者は20~50% 存在し(Wilens, Spencer, & Biederman, 2002),追 加の治療が求められている。本シンポジウムでは,成 人期のADHDをめぐる研究知見を概観し,「就労支援デ イケアにおける支援のあり方」および「時間管理に特 化した集団認知行動療法」の実践的取り組みを紹介す る。その上で,成人のADHDの方にどのような集団認知 行動療法を提供すれば効果的であるかを検討する。 【話題提供 1 】 「成人期のADHDの理解と支援」稲田尚 子(帝京大学文学部) 2013年に改定されたDSM-5(APA, 2013)では, 17歳 以上のADHDの診断基準が追加され, 青年期後期および 成人期のADHDの診断がより明確に位置づけられた。こ れまで, ADHDの症状は年齢を重ねると治まる傾向にあ るとされてきたが, 最近の研究では, 約60%の人で成 人期にも症状が残るといわれている。個人差はある が, 成人期のADHDは, 児童期と比べて多動性が弱ま り, 不注意が目立つ傾向にある。 本シンポジウムでは, 成人期のADHDについて, その 症状と有病率を概観し,神経心理学的機能障害モデル として, 実行機能障害(Brown, 2006)や三重経路モ デル(Sounga-Barke, 2010)について述べる。次に, 成人期のアセスメントと評価に関して、ASRS-v1.1 (ADHD Self Report Scale-v1.1), DIVA(Diagnostic Interview for ADHD in adults), CAADID(Conners’ Adult ADHD Diagnostic Interview for DSM-IV) , CAARS(Conners’ Adult ADHD Rating Scales)の特徴 と適用を紹介する。最後に, これまでに発表されてい る成人期のADHDに対する治療ガイドラインおよび心理 療法を概観し,フロアと問題意識を共有したい。 【話題提供 2 】 「就労および復職支援における集団認 知行動療法」 大野史博(医療法人社団心劇会さっぽ ろ駅前クリニック) 就労支援の現場における成人ADHDに対する集団認知 行動療法について紹介する。職場場面において,わが 国でもADHDや自閉スペクトラム症などの発達障害の存 在が疑われる例が増加している。その多くが,これま で適切な診断や支援を受けてこなかったことなどか ら,職場でのコミュニケーションや業務において失敗 体験を積み重ね,休職や復職を繰り返している。特に 発達障害を持つ者は二次的障害としてうつ症状をはじ めとする気分障害や不安症等の精神疾患の並存,引き こ も り 等 の 社 会 不 適 応 を 抱 え る 者 が 多 い( 齋 藤, 2009)。そのため,例え復職や再就職をしてもうつ病 などの精神疾患の再発が多いことから,復職支援では 再休職予防に焦点を当てており,就労支援においても い か に 就 労 継 続 で き る か が 課 題 と な る( 五 十 嵐, 2012)。 そこで,さっぽろ駅前クリニックでは自己効力感の 向上や二次的障害の予防として集団認知行動療法を 行っている。また,集団で得られるポジティブな共感 体験によって合理的な認知を高め,適応的行動の再学 習を行うことも狙いとしている。本シンポジウムでは 当院の集団認知行動療法の取り組みを報告したうえ で,ADHD等の発達障害傾向者がもつ二次的障害として の抑うつ症状やネガティブな認知的特性の変化,CBT を集団で行うメリット,集団が与える影響等について 検討したい。 【話題提供 3 】 「時間管理に焦点を当てた集団認知行 動療法」 中島美鈴(九州大学大学院人間環境学府) ADHDの問題の中でも,時間管理スキルの欠如で生じ る機能障害に対処するための集団認知行動療法の試み について紹介する。 時間管理は,締め切りまでに課題を仕上げたり,約 束の時間を覚えておいてそれに間に合うように出かけ たりするなどの職業生活および社会生活に欠かせない スキルである。しかし,2010年以降の成人期のADHDを 対象とした集団認知行動療法の無作為化比較試験で 自主企画シンポジウム 1日本認知・行動療法学会 第44回大会 91 -は,プログラムの中に必ず含まれている必須のもので ありながら,単独での効果は実証されていない。 また,成人ADHD患者を対象にした集団認知行動療法 の脱落率は,3.4~25.0%(Solanto et al., 2010 ; Emilsson et al., 2011 ; Zylowska et al., 2008 ; Solanto et al., 2008 ; Virta et al., 2008)と, 他の疾患と比較すると大きいことが知られている。 Araujo et al.(1996)は,プログラムの効果を感じ ている参加者ほど脱落しないと述べており,効果的で 脱落の低いプログラムの作成が求められている。 本シンポジウムでは,九州大学病院で実施された時 間管理に特化した集団認知行動療法で得られた知見を 報告する。特に,( 1 )脱落を減らすためのプログラ ム作成と,( 2 )成人ADHD患者が時間管理プログラム のどの過程でつまずき,治療者は集団認知行動療法の 中でどのように解決したのかについて経過を報告し, 成人期のADHD患者に対して時間管理スキルを習得させ る上での課題や配慮すべき点について検討したい。 【指定討論】 松永美希(立教大学現代心理学部) これまで、うつ病や復職支援の集団認知行動療法の 実践や研究に携わってきた立場から、うつ病患者と成 人ADHD患者における集団認知行動療法の配慮すべき点 の相違について質問していきたい。 成人ADHDの認知行動的理解として,衝動性の強さや 注意欠陥という神経心理学的機能の障害によって学校 や職場など社会的場面での適応的行動が困難になるこ とに加えて,そのような機能障害によって強化が欠如 することや,自己への不信感や欠落者であるというよ うなネガティブなスキーマが形成され,抑うつ症状を はじめとした精神的問題を抱えやすくなるというモデ ルが提唱されている(Ramsay, J.R., 2010など)。 このような成人ADHD患者に対する集団CBTでは,機 能障害による失敗経験を防ぐような適応的行動や対処 方略の学習や,自動思考やスキーマの改善を狙った認 知的介入が含まれることが多く,うつ病集団CBTの治 療要素といくらか重複もみられる。また集団形式で CBTを行うメリットとして,どちらの対象においても, 安心感やサポートの提供や,他者の適応的な認知・行 動が観察され学習が促進されやすいというモデリング の機能などが挙げられるであろう。 一方で,ADHDは衝動性などの障害特有の問題によっ て,突然発言したり,ホームワークを忘れたりなど, 集団CBTを行う上で難しい点もあるのではないかと想 像する。また,障害のタイプによって個々に感じる問 題に違いがあると思われるので,そのような個別性の 問題や関係性の問題を集団でどのように扱うのか,う つ病の集団CBTと比較しながら,成人ADHDに対する集 団CBTの特徴や配慮すべき点について質問してみたい。 自主企画シンポジウム 1