Policy Research Institute, Ministry of Finance
日本企業の現預金保有行動とその合理性の検証
財務総合政策研究所
橋本逸人・奥愛・渡部恵吾
Policy Research Institute, Ministry of Finance
Policy Research Institute, Ministry of Finance 400 450 500 550 600 1994 年度 1995 年度 1996 年度 1997 年度 1998 年度 1999 年度 2000 年度 2001 年度 2002 年度 2003 年度 2004 年度 2005 年度 2006 年度 2007 年度 2008 年度 2009 年度 2010 年度 2011 年度 2012 年度 2013 年度 2014 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年 4 - 6 月期 2017 年 7 - 9 月期 2017 年 10-12 月期 2018 年 1 - 3 月期
名目GDP
(単位:兆円)548.7兆円
(注)2017年度四半期は季節調整値・年率 (出所)「国民経済計算」 2018年度(政府見通し) 564.3兆円 (出所)内閣府(2018)「平成30年度の経済見通しと経済財 政運営の基本的態度」(平成30年1月22日閣議決定)Policy Research Institute, Ministry of Finance 年度 経常利益 従業員給 与・賞与 設備投資 2009 32.1 146.6 33.1 2016 75.0 152.7 42.7 (単位:兆円) 42.7兆円 75.0兆円 152.7 兆円 110 120 130 140 150 160 170 20 30 40 50 60 70 80 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 20 07 20 08 20 09 20 10 20 11 20 12 20 13 20 14 20 15 20 16 設備投資(左軸) 経常利益(左軸) 従業員給与・賞与(右軸) +42.9 +6.1 +9.6 (単位:兆円) (単位:兆円)
企業収益、従業員給与・賞与、設備投資の推移
Policy Research Institute, Ministry of Finance 50% 55% 60% 65% 70% 75% 80% 1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 4-6 7-9 10-12 1-3 2012 2013 2014 2015 2016 2017 全規模 大企業 全規模(NSA) 大企業(NSA)
労働分配率の推移
66.0%
58.9%
(注1) 労働分配率は、(従業員給与・賞与+福利厚生費)÷(営業利益+役員給与・賞与+従業員給与・賞与+福利厚生費)により算出。 (注2) 大企業:資本金10億円以上 (注3)金融業・保険業を除く。 (出所)法人企業統計 太線:季調値ベース(当所試算) 細線:原数値ベース (年度)Policy Research Institute, Ministry of Finance
設備投資とキャッシュフローの動向
(注1)営業キャッシュフロー=内部留保+減価償却費+在庫投資-企業間信用差額-その他運転資金 内部留保:(利益留保+引当等+その他負債)の増減額 企業間信用差額:(受取手形+売掛金+受取手形割引残高-支払手形-買掛金)の増減額 10 20 30 40 50 60 70 80 90 2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 (単位:兆円) 営業キャッシュフロー 設備投資Policy Research Institute, Ministry of Finance (注)全規模、全産業(金融業、保険業を除く)。 (出所)法人企業統計 100 120 140 160 180 200 220 20 00 年度 20 01 年度 20 02 年度 20 03 年度 20 04 年度 20 05 年度 20 06 年度 20 07 年度 20 08 年度 20 09 年度 20 10 年度 20 11 年度 20 12 年度 20 13 年度 20 14 年度 20 15 年度 20 16 年度
日本企業の現金預金の保有額の推移
(単位:兆円) 年率4.3%の上昇 (2009→2016年度) 年率1.2%の上昇 (2000→2009年度)211兆円
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日本企業の現預金の積み上げが、企業価値の向上に結びついていないのではないか?
現預金保有行動に関する先行研究及び実際の企業の声を確認する。(☞ 2.
(P.9))
日米企業の現預金保有行動を比較し、日本企業の特徴を確認する。(☞ 3.
(P.12))
日本企業が保有する現預金に対する市場評価を確認する。(☞ 4.
(P.17))
現預金の活用によって市場評価が向上するか、検証を行う。(☞ 5.
(P25))
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Policy Research Institute, Ministry of Finance ① 予備的動機 • 資金制約問題のため。(Opler et al.(1999)、品田・安藤(2013)、福田(2017)) • 資金調達時に発生する取引コスト節約のため。(Opler et al.(1999) ) • 将来の投資機会(M&AやR&D投資)に向けた待機資金のため。(福田(2017)、中村(2017)) ② エージェンシー・コスト※ ※委託者である株主など企業のステークホルダー(利害関係者)がエージェント(代理人)である経営者の行動を詳細に監視できない 場合、またその行動の結果をきちんと評価・判断できない場合に発生するコスト。(福田(2017)) • エージェンシー・コストが存在する場合、経営者は自らの裁量等を高めるために現預金を保有するインセ ンティブを持ちうる。(福田(2017)) • エージェンシー・コストと現預金保有の関係については必ずしもコンセンサスは得られていない。(福田 (2017)、Harford, et al.(2008)、他) • 企業が現預金を保有する理由は、2つに大別できる。
⇒①予備的動機、②エージェンシー・コスト
<先行研究>
Policy Research Institute, Ministry of Finance • 財務省財務局を通じて企業ヒアリング調査を実施(2017年9月~10月)。
• 企業が現金を保有するのは、
①予備的動機と先行き不透明感、②将来の投資機会への備え
<企業の声>
<上場企業の声> ① 予備的動機と先行き不透明感 • 「リーマンショック後に、当社の業績は問題ないにもかかわらず金融機関に返済を求められたことが あり、そのような不確実なリスクに対応するためになるべく積み上げておきたい」 • 「今が好調であっても不調に陥った際に備えて、ある程度の現預金は確保しておきたい」 ② 将来の投資機会への備え • 「大規模投資を素早く柔軟に対応するため、ある程度の現預金を保有しておく必要があると考えて いる」Policy Research Institute, Ministry of Finance
3.現預金保有行動に関する日米比較
① 先行研究(現預金比率)
② ISバランス(貯蓄投資バランス)
③ 実質無借金企業
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<①先行研究(現預金比率)>
日本企業はアメリカの企業と比べて余剰の現預金を保有していることを示唆。
• Kato,
et al
.(2017)は、Opler,
et al
.(1999)のモデルを拡張して日米企業の現金保有
を比較。
• 企業の特性を制御して「現金/総資産」の比率を比較したところ、日本企業はアメリ
カ企業より14.9%高い(2011年度)という結果。
• アメリカ企業は市場性有価証券を流動性の一部として捉えて現金と合わせて管理
しているため、アメリカ企業は現金に市場性有価証券を加えたものを用いて同様の
分析を行っても、日本企業はアメリカ企業より13%高い(2011年度)という結果。
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<②企業部門のISバランス日米比較>
日本は大幅な貯蓄超過が続いている。
-20 -10 0 10 20 30 40 19 94 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 20 07 20 08 20 09 20 10 20 11 20 12 20 13 20 14 20 15 20 16 日本 純貯蓄-純投資 (兆円) (年度) -400 -200 0 200 400 600 800 19 94 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 20 07 20 08 20 09 20 10 20 11 20 12 20 13 20 14 20 15 20 16 米国 純貯蓄-純投資 (10億ドル) (年)Policy Research Institute, Ministry of Finance (注1).日本企業はTOPIX500から金融機関を除いた443社のうち欠損値を含む企業52社を除いた391社。 アメリカ企業はS&P500から金融機関を除いた431社のうち欠損値を含む企業37社を除いた394社。 (注2)期間は4月1日から翌年3月31日を年度としており、この間の本決算の数字を用いている。 (注3)各決算期において、(現金および現金同等物)-{(短期借入金)+(長期借入金)+(受取手形割引高)}>0となる企業を実質無借金企業とする。借入金は社債を含む。 (注4)データ取得日は2018年6月4日。 (出所)Bloomberg
日本は実質無借金企業が増加傾向にあるが、アメリカは減少傾向。
<③実質無借金企業の割合の日米比較>
37.3% 51.7% 24.4% 18.3% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 日本 米国Policy Research Institute, Ministry of Finance
・日本企業が現預金を保有する理由
⇒予備的動機(資金制約、投資機会の備え等)など。
・日本企業の現預金保有行動をアメリカ企業と比較
①余剰の現預金を有している。(先行研究)
②大幅な貯蓄超過である。(ISバランス)
③実質無借金企業の比率は上昇傾向にある。
⇒日本企業は過剰に現預金を保有している可能性。
<小括>
日本企業が保有する現預金の水準はアメリカ企業と比べると高い。
しかし、日本企業はそれを合理的だと考えている。
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• 日本企業が保有する現預金は、市場から額面未満でしか評価されていない
(=割引いて評価されている)。
• その要因として、ROEが低いこと、コーポレートガバナンスへの懸念が挙げられ
ている。
<先行研究>
<先行研究> • 日本企業の現金保有に対する市場評価に関する実証分析の結果、企業が1円の現金を積み 増した場合のバランスシート上の時価総額は、0.55円から0.68円と1円よりも小さくなっ ている。(山口・馬場(2012)) • 世界の投資家サーベイ調査では、日本企業が保有する現金及び現金同等物100をおおむね いくらくらいで投資家として価値評価するかを聞いたところ、外国人投資家の35%は額 面評価しているが、外国人投資家の65%はディスカウント評価(50%以下:5%、50%前 後:25%、50~100%:35%)している。その要因として、ROEが低いこと、コーポレート ガバナンスに対する懸念を挙げている。(柳(2015))Policy Research Institute, Ministry of Finance
以降では、企業の市場評価指標に基づき日米比較を行う。
<使用データ> 出所:Bloomberg 対象:日本企業はTOPIX500、アメリカ企業はS&P500の構成企業(ともに金融機関を除く) 期間:2013年度から2017年度 (注1)2018年6月4日時点のTOPIX500及びS&P500の構成企業を対象とする。 (注2)期間は4月1日から翌年3月31日を年度としており、この間の本決算の数字を用いている。 (注3)データ取得日は、2018年6月4日。Policy Research Institute, Ministry of Finance (注1)ROE=当期純利益/自己資本
日本企業のROEは改善しつつあるが、アメリカ企業の水準と比べるとまだ乖離が大きい。
<ROE(自己資本利益率)の日米比較>
8.4% 7.9% 8.2% 9.1% 10.5% 17.4% 17.0% 14.7% 15.3% 16.1% 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 日本 アメリカPolicy Research Institute, Ministry of Finance (マージン) (回転率) (レバレッジ) ROE(自己資本利益率)= 当期純利益売上高 × 売上高総資産 × 自己資本総資産
日米企業にはマージンに大きな格差があり、レバレッジの差も広がっている。
<ROEのデュポン分解>
(注)日本企業はTOPIX500から金融機関を除いた443社のうち欠損値を含む企業27社を除いた416社。 アメリカ企業はS&P500から金融機関を除いた431社のうち欠損値を含む企業6社を除いた425社。 (出所)Bloomberg 現預金が割引いて評価される要因は、収益力が弱い状態で現預金を増やしても利益に結びつけられない のではないか。 4.3% 4.4% 4.5% 5.4% 6.2% 9.2% 8.6% 7.7% 8.1% 8.6% 0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 マージン 日本 アメリカ 0.76 0.73 0.75 0.70 0.71 0.73 0.73 0.68 0.65 0.66 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 回転率 日本 アメリカ 2.542.57 2.462.70 2.46 2.41 2.36 2.80 2.86 2.84 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 2017年度 レバレッジ 日本 アメリカPolicy Research Institute, Ministry of Finance
日本は「PBR1倍割れ=時価総額が簿価を下回る」企業の割合が約2割もある。
(注)日本企業はTOPIX500から金融機関を除いた443社のうち欠損値を含む企業2社を除いた441社。<PBRの日米比較>
21.3%
28.1% 17.7% 9.1% 5.4% 5.0% 3.2% 1.8% 2.3% 4.5% 1.6% 2.4% 6.1% 11.5% 12.5% 8.8% 7.8% 6.1% 7.3% 2.9% 22.2% 12.2% 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 1.0未満 ~1.5 ~2.0 ~2.5 ~3.0 ~3.5 ~4.0 ~4.5 ~5.0 ~10 10超 日本 アメリカPolicy Research Institute, Ministry of Finance (注1)政策保有株主は政府及び地方公共団体、保険会社、銀行、事業法人。 機関投資家は国内年金、国内投信、外国法人。 (出所)上田・小林(2017)「企業統治と安定株主 持ち合い解消へ税優遇も」
政策保有目的の株式保有が多い場合、資本が有効活用されていなくとも、企業が経営
改善を迫られない環境となっている可能性。
<日本企業でPBR1倍割れが多い要因として考えられるもの>
① 株主構成をみると依然として政策保有株主が多い。⇩
監視が効かず、ガバナンスが弱くなっている可能性。 ② 機関投資家の割合が上昇している。⇩
しかし、スチュワードシップ責任を十分果たしていない可能性。Policy Research Institute, Ministry of Finance
・先行研究
⇒日本企業が保有する現預金は、市場から割り引かれて評価されている。
・市場評価にかかわる指標
⇒日本企業はROEがアメリカ企業と比べ低く、PBR1倍割れの企業が2割もある。
<小括>
日本企業の現預金保有行動は市場評価の向上につながっておらず、
自らの企業価値を適正に高められていない可能性がある。
では、余剰現預金の活用によって市場評価は上がるのか?
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※TOPIX500(2016年)の「実質無借金かつROE8%未満またはPBR1倍割れ」に該当する
企業を「資本効率に改善の余地がある企業」とし、それ以外の企業と自社株買い(金庫
株)を発表した際の株価上昇率を比較。
<自社株買いを通じた企業価値の向上(株価上昇率の分析)>
データ数が少ないため統計的な有意性までは確認できなかったものの、
「資本効率に改善の余地がある企業」はそれ以外の企業と比べ株価上昇率が高い結果。
自社株買い 資本効率に改善の 余地がある企業 +4.5%(24社) それ以外の企業 +3.4%(102社) 差 1.1%ポイント アナウンス日 アナウンス日前20営業日の平均株価 アナウンス日以後20営業日の平均株価 (イメージ図) 株価上昇率を分析Policy Research Institute, Ministry of Finance
<投資を通じた企業価値の向上①>
■人的投資
• 生産性向上とは、賃下げやリストラをすることでコストを削減することとの誤ったイメージ が企業経営者を中心に強く持たれてきてしまった。(大橋(2018)) • 生産性向上には、コスト削減もあるが、むしろ付加価値の向上が重要。(大橋(2018)、 滝澤(2018)) (財務総研「イノベーションを通じた生産性向上に関する研究会」) • 生産性を向上させる原動力としてアイディアを生み出す人的資産の果たす役割は大きい。 (柳川(2018)) (財務総研「企業の投資戦略研究会-イノベーションに向けて-」)人的資本の投資が企業価値の向上の一手段
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■R&D、設備投資
• 日本企業のR&D支出の対GDP比は先進国の中でも上位にあるが、それが企業収益の向上に 結びついていない。 • R&D投資のみならず設備投資も同様であるが、単に投資額を増やすのではなく、顧客の ニーズを捉えて投資を企業の付加価値の向上につなげていくことが重要。 (財務総研「イノベーションを通じた生産性向上に関する研究会」)■M&A
• スピードを上げて企業間のグローバル競争に対応していくために、方向転換や産業の枠 を超えた投資が必要になる可能性が高まっている。(柳川(2017)) (財務総研「企業の投資戦略研究会-イノベーションに向けて-」)付加価値向上につながる投資が企業価値の向上につながる
<投資を通じた企業価値の向上②>
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Policy Research Institute, Ministry of Finance • 先行研究や財務省財務局ヒアリングから、日本企業は将来の資金制約リスク等に備えた予備的動機等を主な理 由に、現預金を保有していることがわかった。 • しかし、日本企業が保有する現預金は市場から額面未満でしか評価されていない。また、アメリカ企業と比べROE が低く、PBR1倍割れ企業の割合が多いことから、日本企業の現預金保有行動は市場評価の向上につながってお らず、自らの企業価値を適正に高められていない可能性がある。 • 自社株買いを行った企業の株価上昇率を分析したところ、データ数が少ないため統計的な有意性までは確認でき なかったものの、「資本効率に改善の余地がある企業」は、それ以外の企業と比べ株価上昇率が高い結果となっ た。 • 企業価値を高めるための現預金の使途として、経済学的な見地からは、賃上げを含めた人的資産への投資が有 効であり、顧客のニーズを捉えた上でR&Dや設備投資の実施や、構造転換のためのM&Aも考えられる。 • 企業によって経営戦略や投資に対する考え方が多様であることは当然ではあるが、企業価値の最大化は企業経 営者の当然の責務である。経営者は、現預金の過剰保有が市場から評価されていない現実を直視し、企業価値 をさらに向上させるためのより具体的な行動をとることが求められている。 まとめ
Policy Research Institute, Ministry of Finance 補論<政策的な対応に向けて> 1.取り組みを進めている企業とそうでない企業を選別する「メルクマール」の設定 • Chattopadhyay et al.(2017)は、「JPX日経インデックス400(※)」に選定された企業と漏れた企業 について、選定前後の財務分析を実施したところ、インデックスに採用されるというインセンティブ が、マージン、資産の効率性、株主への還元を向上させることで、閾値周辺の企業にROEを比例的に 35%上昇させたことを明らかにしている。 • つまり、「JPX日経インデックス400」が、企業にとって名声の源として作用したといえる。取り組みを 進める企業とそうでない企業を分ける「メルクマール」を設定することは有効だと考えられる。 (※)2014年に導入された株式インデックス。ROEや時価総額等を基準として、収益性、資本効率等の観点から、 日本のトップ400の企業を日本取引所グループ、東京証券取引所、日経新聞社が選定したもの。 2.株主を中心としたステークホルダーによる企業の財務戦略の監視を強化
• Jensen and Meckling (1976)や佐々木 (2013)では、現預金保有の効率性という観点から、外部からの モニタリングが重要である可能性が指摘されている。
• 特に大口株主は、スチュワードシップ・コードにより、資本効率性を向上させる取り組みを積極化させ ている企業を評価する責任を果たしていく必要がある。