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Column 民間航空機 Column 民間航空機 - インストールベースを価値に ~Airbus のエアライン向けプラットフォーム Skywise ~ 1. はじめに GE の航空機エンジンは 製造業のサービス化 の代表例 モジュールメーカーによる完成品メーカー中抜きの側面も Airbus Sky

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Academic year: 2021

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【Column】民間航空機

【Column】 民間航空機 -インストールベースを価値に

~Airbus のエアライン向けプラットフォーム“Skywise”~

1. はじめに

「製造業のサービス化」の文脈でデジタルイノベーションが語られるとき、その 代表例として挙げられてきたのは「GE の航空機エンジン」である。GE は、その IoT プラットフォームである Predix を基盤に、航空機の重要モジュールである 航空機エンジンから生じるデータと、航空機の運航者であるエアラインのデー タとを組み合わせて分析する機能を提供した。その結果、GE は、エンジン製 造・販売という元来の事業領域を超え、エアラインに燃費改善や運航効率向 上などの各種サービスを提供している。 この GE の例には、もう一つ、ビジネスモデル上着目すべき点がある。それは、 「モジュールメーカーが、その強いインストールベースを活用し、完成品メーカ ーを経由せずに、エンドユーザーに直接サービスを提供している」ことである (【図表 1】)。すなわち、GE は、モノのサプライチェーンとは異なり、サービスに おいては航空機メーカーである Boeing や Airbus を経由することなく直接エン ドユーザーにアクセスし、価値を享受している。 その環境下、2017 年 6 月 20 日、世界の二大航空機メーカーの一つである Airbus は、オープンデータプラットフォーム“Skywise”を発表した。Skywise の 機能の一部は、GE が Predix で提供するサービスとも類似している。本章では、 Skywise が民間航空機産業に与える影響を検討するとともに、多段階のサプ ライチェーンを持つ産業におけるデータプラットフォームの相互関係について 考察し、日系企業への示唆を検討する。 【図表 1】 GE“Predix”と Airbus“Skywise”の位置付け (出所)各社 HP、報道等よりみずほ銀行産業調査部作成

2. Airbus の Skywise

(1)Airbus について

Airbus は、フランスに本社を置く欧州連合の航空宇宙メーカーである。民間航 空機においては、その大宗を占める座席数 100 席以上の市場において、米 国 Boeing と市場を二分している。 GE の航空機エン ジンは「製造業の サービス化」の代 表例 モジュールメーカ ー に よ る 完 成 品 メーカー中抜きの 側面も Airbus “ Skywise ” 発 表 に 見 る 、 多 段階サプライチェ ー ン に お け る デ ー タ プ ラ ッ ト フ ォ ームの相互関係 Boeing と 市 場 を 二分するトップメ ーカー GE (エンジンメーカー) エアライン 機材調達 運航・保守 Airbus (航空機メーカー) 航空機 製造 Skywise エンジン 製造 Predix 上段:モノの流れ 下段:サービスの流れ

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【Column】民間航空機 Airbus は、かねて航空機産業の競争要因の変化に伴う価値のありかの変遷 に対して、軸足を置く事業領域とビジネスモデルを柔軟に変化させている1 具体的には、航空機がプロダクトとして高度に成熟し、航空機自体の性能によ る差別化が困難になったことに起因して、エアラインへのアフターサービスを 徐々に増加させていた。かかる背景のもと発表されたのが、Skywise である。

(2)Skywise について

Skywise は、Airbus が提供するクラウドベースのオープンデータプラットフォー ムである。その役割は、航空機および空運から生じるデータを収集・蓄積し、 エアラインに対して様々なサービスを提供する基盤となるとともに、ゆくゆくは 航空機のサプライチェーン全体の基礎となることが期待されている(【図表 2】)。 Skywise の現在のアプリケーションは、2017 年 1 月から実施されたアーリーア ダプター・プログラム(【図表 3】)によれば、保全や各種オペレーション分野が 中心と見られる。プログラム参加者は、FSC2・LCC3の双方であることから、 Skywise の対象は特定の層ではなく、多様なエアラインであると考えられる。 【図表 2】 Skywise の発展段階と対象領域 【図表 3】 アーリーアダプター・プログラム要旨 (出所)報道等よりみずほ銀行産業調査部作成 (出所)Airbus HP よりみずほ銀行産業調査部作成 Skywise が広くサービスを提供する基盤と位置付けられていることは、香港航 空のプログラム「燃費改善」からも示唆される。燃料はエンジンで消費されるた め、燃費改善にかかるサービスは、GE をはじめとする航空機エンジンメーカ ーが中心となって開発・提供していた。このように、Skywise は、機体メーカー の元来の事業範囲にとどまらないサービス開発・提供の基盤と考えられる。

3. 想定される Skywise の影響と航空機産業におけるデータプラットフォームの相互関係

【図表 4】に、航空関連産業における事業領域と各種デジタルサービスの現状 を示した。本節では、Skywise の影響を四つの領域に分けて考察する。

1 詳細は、みずほ銀行「Ⅱ‐1‐7. 航空機 -民間航空機産業の成長要因」『みずほ産業調査 50 号 欧州の競争力の源泉を探る -今、課題と向き合う欧州から学ぶべきことは何か-』(2015 年 6 月 10 日)をご参照 2 フルサービスキャリア。一般に、航空機の運航・保全分野のノウハウを蓄積している 3 ローコストキャリア。新規参入者はこの形態をとることが多く、一般に、航空機の運航・保全のノウハウ蓄積は薄いことが多い ・中核となるプラットフォーム作り ・アプリケーションとダッシュボードの提供 キック オフ フェーズ 2 ・発展のフェーズ -エアバスグループの他プロダクトの接続 (防衛、宇宙、回転翼) -アプリケーションの充実 (メンテナンス、エンジニアリング、 フライトオペレーション、運航計画) フェーズ 3 ・成熟のフェーズ -Skywiseを「産業の心臓部」に (サプライチェーン全体の基礎と位置付け、 R&Dや新たなサービスの開発にも活用) -航空機はあたかもセンサーのようになる Air Asia 部品の信頼性・フライトオペレーションの分析、予測保全など広範囲に利用 デルタ 航空 予測保全の高度化に活用。今後、運航障害の 15%削減が期待 easyJet エミレーツ 航空 香港航空 jetBlue Peach Aviation リアルタイムの異常検知と予測保全に利用。 運航信頼性を改善 予測保全に利用、上位100種類の運営上の課題 を設定し運航遅延防止アプリケーションを開発 品質管理プロセスの自動化、専用アプリケーショ ンを通じた航路の可視化に利用 燃費改善のための分析ツール、アプリケーション 開発で協働 メンテナンス(ライン整備、ベース整備)のアプリ ケーションなどのソリューション開発で協働 サ ー ビ ス 開 発 を 徐 々 に 増 加 さ せ つつあった Airbus が提供す る プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 現在は保全分野 中 心 、 対 象 は 多 様なエアライン 機 体 メ ー カ ー の 元来の事業範囲 にとどまらないサ ービス提供基盤 四つの領域に分 けて考察

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【Column】民間航空機 一つ目は、ユーザーであるエアラインへの影響である。Skywise を通じてノウ ハウを得られることは、新規参入のハードルを下げる効果に通じる。また、現 在行われている予測保全の有効性が実証されれば、点検間隔の延長などの 規制緩和を通じ、業界全体の効率性・生産性の向上に寄与すると想定できる。 二つ目は、同業者間の競争の観点である。【図表 4】のとおり、Airbus と市場を 二分する Boeing は、既に Microsoft のクラウド Azure 上で、エアライン向けの デジタルサービスを提供している。グローバル 2 大メーカーである両社は、長 年にわたり様々な面で競合し、また相互に追随もしてきた。Skywise は、 Boeing が同種のプラットフォーム形成に注力する契機となるかもしれない。 三つ目は、GE をはじめとするエンジンメーカーが提供するサービスとの、競合 と棲み分けである。一義的には機体とエンジンという異なる領域に向けたサー ビスとしての棲み分けが考えられるが、例えばエアラインの大きな関心事であ る「燃費」において、先に述べたとおり Predix と Skywise の効用は一部重複し ている。これは、エンジンメーカー側が(航空機メーカーをいわば中抜きして) 享受していた価値へのアクセスであるとともに、航空機全体の統合を担うメー カーだからこそ可能な、新たなサービス形態の開発を試みていると見られる。 【図表 4】 航空関連産業における事業領域と各種デジタルサービスの現状 (出所)各社 HP、報道等よりみずほ銀行産業調査部作成 四つ目は、整備(MRO)事業者への影響である。先に登場した保全分野とは、 伝統的な整備事業者の領域である。【図表 4】のとおり、Skywise および Predix のサービスの一部は、その領域へのサービス提供として事実上の代替の性格 を持つため、整備事業者が本来享受していた価値の移転につながり得る。 この環境下、整備事業者による積極的防衛の文脈で着目すべき取組みとして、 大手整備事業者 Lufthansa Technik が 2017 年 4 月に発表した“AVIATAR”に 触れておきたい。AVIATAR は、整備履歴などのデータに基づき、整備の高度 化を提供する基盤となるプラットフォームである。これは、整備実績とノウハウ を持つ事業者が、自社領域の参入障壁の形成を試みていると評価できる。 このように Skywise は、Airbus のビジネスモデル変化にとどまらず、多様な影 響をもたらすと考えられる。航空機産業では、Airbus や GE がそうであるように、 それぞれの領域で強いインストールベースとノウハウを持つ企業が、相互にプ ラットフォームを持ち、一定の棲み分けを行っていくことになるだろう。 機材 調達 運航 計画 乗員 計画 運航 ライン 整備 重整備 事業 計画 発着枠 取得 エアライン のプロセス 機体 メーカー 機材 開発 Airbus “Skywise” エンジン メーカー エンジン 販売 エンジン 開発 GE “Predix”

Boeing aviation analytics applications

製品の設計製造・販売

MRO

事業者 Lufthansa Technik“AVIATAR” 整備 整備 従来の事業領域 デジタルサービス 機材 販売 エアラインには新 規参入の容易性 と効率性向上 同業の Boeing に は 類 似 サー ビス の開発 エンジンメーカー の サ ー ビ ス と は 競合と棲み分け 整備事業者から の価値移転の可 能性 大手整備事業者 は 整 備 に 特 化 し た プ ラ ッ ト フ ォ ー ム形成も 強いインストール ベースとノウハウ を持つ企業同士 に よ る 一 定 の 棲 み分け

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【Column】民間航空機

4. 日本の航空機産業への示唆

(1)日本の航空機産業の現状

これまで見てきたように、航空機産業においては、航空機メーカーとエンジン メーカーとがそれぞれ自社のインストールベースを最大限に活用し、データプ ラットフォームを通じたエンドユーザーに対するデジタルサービス開発を積極 的に行っている。またその中で、Lufthansa Technik のように、一定の単位で自 社の得意領域の積極的防衛と見られるプラットフォーム形成も見受けられる。 これら企業の共通項は、エンドユーザーと直接接点を持ち得る何らかの単位 で「インストールベース」と「自らビジネスモデルを決定できること」の双方を満 たしていることである。 翻って日本の航空機産業には、Boeing の航空機の機体開発への参画(Tier1) などを通じたインストールベースは存在する。しかしながら現状の機体構造部 位を中心とする分担のみでは、エンドユーザーとの直接の接点を持つことは 難しい。また機体構造部位以外の参画はそもそも少なく、サービス提供の基 盤となる程度に、自らビジネスモデルを決定可能な領域を持つケースは、現 在のところ見受けられない。

(2)日本の航空機産業の成長に向けて

日本の航空機産業の「成長」を考えたとき、その類型は二つある。一つは、例 えば本章で述べた Airbus の Skywise のような、強いインストールベースを持 つ他社のエコシステムに参画し、その中で自社の立ち位置を決めていくことで ある。今後 Skywise が強いオープンプラットフォームとして発展していけば、そ の参画者は、Skywise を製品やサービスの開発・改良に活用することもできる かもしれない。 もう一つは、何らかのサービス提供の基盤を自ら持ったうえで、ビジネスモデ ルを決める立場となることである。今後の日本の航空機産業において、自らビ ジネスモデルを決定できるパターンはさらに二種類想定できる。 一つは、三菱重工業と三菱航空機が上市を予定する MRJ4である。MRJ は、 Airbus・Boeing の航空機とは異なる(相対的に小さな)市場を狙うものであるが、 その市場においてインストールベースを確保することで、デジタルサービスを 含めた多様なサービスの開発余地が生まれるだろう。 もう一つは、Tier1 の参画領域拡大である。報道によれば、川崎重工業は Boeing と航空機開発分野での協力関係強化を合意し、従来の参画部位であ る胴体に加え、設計のシステム等も含む新たな部位への参画を目指している とのことである。この参画が成功した場合のビジネスモデルは明らかではない が、仮にエンドユーザーとの直接の接点を持ち得る単位であれば、何らかの サービスの開発基盤となるかもしれない。但し、新型航空機の開発費は、一般 に 1 兆円規模ともされる。個々の企業のリソースが限られる日本の航空機産業 において、まとまった範囲のビジネスモデル決定権を持ち得る単位で開発に 参画することは、個別企業の努力のみでは難しいと思われる。

4 Mitsubishi Regional Jet(座席数 70-90 席、Airbus・Boeing の航空機とは直接競合しないサイズ)

インストールベー ス を 価 値 に す る 条件は「ビジネス モデル決定権」 現状、自らビジネ ス モ デ ル を 決 定 可能な領域は見 受けられない 成長には二つの パターン、一つは 他社の基盤への 参画 もう一つのパター ン は 自 ら 基 盤 を 持つこと 一つは MRJ、小 さ な 市 場 で 一 定 の基盤に もう一つは、Tier1 の領域拡大だが、 大 き な 範 囲 で の ビ ジ ネ ス モ デ ル 決 定 権 を 持 つ ま で は 難 し い 可 能 性

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【Column】民間航空機 日本の企業が、まとまった範囲のビジネスモデル決定権を持つためには、例 えば Boeing の新型機開発のように、既存の参画基盤を有効に活かしながら、 その範囲を拡大し得る機会を捉えることが重要ではないだろうか。その際には、 個々の企業単位での活動を超え、複数の企業が連携し、例えば RRSP5のよう に開発設計に大きく関与し、分担割合・範囲双方の拡大を通じてビジネスモ デルを決定可能な領域を増加させることが、あらゆる成長の前提とも、これま で培ってきた強みの積極的防衛ともなるだろう。 このような成長の実現には、企業努力に加え、長期的観点での航空関連産業 全体の競争力向上を視野に入れた政策支援が欠かせない。サービス開発の 基盤たるインストールベースの重要性がますます高まる中、日本がこれまで培 ってきた強みを活かした産業振興の観点で、大いに検討すべきではないだろ うか。

みずほ銀行産業調査部

自動車・機械チーム 藤田 公子

kimiko.fujita@mizuho-bk.co.jp

5 Risk and Revenue Sharing Partner(航空機の設計・開発を、資金面を含めて分担し、航空機の売れ行きに応じた収益分配を受

ける立場) 自らビジネスモデ ルを決定 可能な 領域の増加に向 け参画機会を捉 えることが必要 長期的観点での 政策支援を期待

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編集/発行 みずほ銀行産業調査部 東京都千代田区大手町 1-5-5 Tel. (03) 5222-5075 /57 2017 No.1 平成 29 年 9 月 28 日発行

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