済生会横浜市東部病院では、集中治療室(ICU)開設当初の2008年4月から専任薬剤師を配置し、 高度急性期の薬学的管理に取り組んできた。薬学的管理の必要性の高い病棟へ優先的に薬剤師を配 置したいという薬剤部の熱意と、当初から多職種とのチーム医療を志向してきた集中治療医の後押 しによって実現に漕ぎ着けたものである。 現在、ICUには3名の薬剤師が所属し、チームになくてはならない存在として医師や看護師から厚 い信頼を寄せられている。2回目となる今回は、ICUでの薬剤師の具体的な業務内容とその成果を紹 介し、薬剤師のICU病棟業務の意義を考察する。
ICUチーム医療における
専任薬剤師の活躍とその成果
第2回
チーム医療で「薬剤師力」を
発揮するために
患者さんに服薬指導を行うICU専任薬剤師の木幡雄至氏 回診での医薬品情報提供の様子ICUで薬剤師が担うべき業務とは
図1 医師への情報提供内容(2011年4月~ 2013年3月)業務の中心は情報提供
医師の受諾率は95%超
ICU専任薬剤師の主な業務内容は、病棟の医 薬品管理や情報提供、服薬指導や副作用モニタ リングといった薬剤管理指導、病棟スタッフへ の指導などである。 これらの業務のなかで、適切な薬物療法の実 施や医療安全の確保などの観点から、中心的業 務に位置づけられているのが、薬物投与設計や 処方支援などの情報提供である。 図1は、薬剤師による医師への情報提供の内 容を分類したもの。薬剤師の提案を治療に反映 した割合を示す受諾率は、平均で98%近くに達 している。また薬剤師が自発的に行った「能動 的情報提供」の件数は、医師やメディカルスタッ フから質問を受けて行った「受動的情報提供」 を大きく上回る。ICUに常駐する薬剤師が集中 治療医の信頼を得て積極的に情報提供を行って いる様子がうかがえる。 「抗菌薬の投与設計でも、自分たちの意見が 100%に近い割合で受け入れられている―。そ れは大きな責任を伴うことです。だから、提案 して終わりではなく、その結果、患者さんが本 当に良くなっているのかどうかまでフォローし ていく必要があると思うのです」と、ICU立ち 上げ当初からの担当である薬剤部主任の今浦将 治氏は話す。薬剤師の業務の目的は
知識を患者さんに還元すること
2012年度の病棟薬剤業務実施加算の新設によ り、薬剤管理指導以外の「医療従事者の負担軽 減及び薬物療法の質の向上に資する」業務の展 開が求められている。しかし、業務スタイルが すでに完成された病棟で何をすべきか戸惑う薬 剤師は少なくない。同院ICUでは、薬剤師が多 職種チームのなかで担うべき業務像をどのよう にとらえているのだろうか。 450 400 350 300 250 200 150 100 50 100 50 0 (件) (%) 0 用法用量 の適正化 TDM に基 づく処方支援 薬剤 の開始 ・変更 ・中止 禁忌薬投与 の発見 ・回避 同種同効薬投与 の発見 ・回避 処方不備 の発見 ・回避 配合変化 の発見 ・回避 薬物間相互作用 の発見 ・回避 副作用 の発見 ・回避 薬剤鑑別 製剤学的 内容 その他 ■能動的 ■受動的 受諾率今浦氏にとって方向性は明確だったという。 「マンパワーが限られているなか、自分たちの 知識を最大限還元できる業務をしていくべきだ と考えました。家族が望むのは患者さんの一日 も早い回復です。医師や看護師と同様、薬剤師 もその目標に直接貢献できる業務に比重を置か なければいけません。そのためには薬剤師とし ての技術や知識は、すべて患者さんに還元して いくことが必要であると考えています」と答え る。以前、病棟看護師から配薬業務を依頼され、 悩んだ末に断ったことがあるという。配薬には、 患者さんの服薬状況の確認や看護師との関係構 築などのメリットがあるものの、薬剤師以外の スタッフが行っても問題のない業務だからだ。 同じくICU専任薬剤師の木幡雄至氏も口を揃 える。「点滴のミキシングをすべて引き受けて しまうと、それで1日が終わってしまいます。 ミキシングは指導にとどめ、投与量や薬剤の選 択など、薬剤師にしかできないことを優先的に 行ったほうが意義は高いと思います」 今浦氏らのこうした考え方に指針を与えた のは、集中治療科部長の髙橋宏行氏である。 が無駄になるため、薬の効果を最大限発揮させ るようなサポートをしてほしいと頼みました。 当初は薬剤師のICU常駐に対する否定的な意見 もちらほらあり、薬剤師ならではの業務で治療 効果や経済効果をアピールしていく必要があっ たからです」と髙橋氏は説明する。また、ハイ リスク薬を多く扱うICUでは、医療安全という 観点からも薬剤師の活躍が期待されているとい う。そうした髙橋氏の思いに応えるように、情 報提供を主体としたICU専任薬剤師の業務は、 治療効果の向上や医療安全の確立に向けて大き く前進しつつある。 図2 ICU専任薬剤師業務の考え方 医師、メディカルスタッフに対して: 治療効果を最大限 発揮できるサポート 医療安全面からの 医薬品管理 患者さんに対して: 薬剤師の持つ すべての知識や技術を還元 closed ICU(ICU専従医が常駐 して患者管理を行う)下では慢 性的な医師不足が予測されたた め、当初からチーム医療を推進 して医師の負担を補う体制を志 向していくなか、薬剤師のICU 常駐化を強力に後押ししてくれ た人物だ。 「ICUでは呼吸・循環管理は もちろん、感染対策や栄養管理 も重要です。これらを数少ない 集中治療医がカバーしていくの は困難ですので、志の高いメ ディカルスタッフたちの協力が 得られないかと、薬剤部や栄養 部に声をかけました」と、髙 橋氏はICUの設立当時を振り返 集中治療科 部長
髙橋 宏行
氏 る。今浦氏や木幡 氏に求めたのは、 治療効果を出して 薬剤師の存在意義 をICU内外に示す ことだ。 「ICUに は 高 額 な薬が多く、配合 変化を起こしてし まうと薬そのものICUにおける薬剤師業務の成果
れている。また、腎臓が悪い患者さんのMRSA 感染症の治療においては、有効性と副作用発現 のリスクベネフィットを考慮したうえで許容さ れうる最大限の用量を設定することにより、臨 床効果を上げながら、腎不全などの臓器障害を 最低限に抑えられているという。髙橋氏の期待 どおり、ICU専任薬剤師の業務が治療効果や医 療安全、経済効果に結びついているといえる。薬剤費削減効果は
1年間で約600万円
薬剤師による情報提供は、副作用や相互作用、 治療効果不十分といった患者さんの不利益の回 避・軽減(プレアボイド)にもつながる。図3 は、プレアボイドの観点から、情報提供内容別 にICU専任薬剤師の介入のタイミングを分類し たもの。投与前に問題を発見し情報提供できた もの、すなわち不利益を未然回避できたものが 約6割に上っている。このデータにより、医療投与量の設計・チェックなどで
医師から高い評価
同院薬剤部では、ICUへの薬剤師常駐の貢献 度を客観的なエビデンスとして提示できるよ う、他職種への情報提供内容を記録し、さまざ まな角度から分析を行っている。 2009年2月から5月までの4カ月間のICUに おける情報提供の全記録288件を、治療計画向 上への寄与を指標に、集中治療医5名が1件ず つ評価した結果が表1である。情報提供の内容 別に、「治療計画を非常に向上させたと思われ る」(4点)から「臨床的意義は低いと思われる」 (1点)までの評点平均が算出されている。 医師が高く評価したのは「投与量の提案」(3.6 点)や「過量・過少投与の発見または回避」(3.5 点)などである。 「ICUの患者さんは臓器不全の方が多いため、 投与量は厳密に調整する必要があります。彼ら が来てくれて非常に助かっているのはそこのと 情報内容の分類 件数 受諾率(%) 評点*平均 投与量の提案 98 99.0 3.6 過量・過少投与の発見または回避 66 98.5 3.5 投与薬剤の選択・追加・中止の提案 27 100.0 3.0 薬物動態に関する情報 2 100.0 3.4 副作用の発見または回避 13 100.0 2.9 配合変化の発見または回避 16 100.0 3.1 薬物間相互作用の発見または回避 3 100.0 3.1 重複処方の発見または回避 5 100.0 2.3 処方不備の発見 41 100.0 2.7 その他 17 90.9 2.7 全体 288 98.9 3.3 表1 情報内容の受諾状況およびその評価(2009年2月~ 2009年5月) * 4段階評価 4点:治療計画を非常に向上させたと思われる、3点:治療計画を向上させたと思わ れる、2点:治療計画には反映されないが参考になった、1点:臨床的意義は低いと思われる出典:Imaura M, et al : YAKUGAKU ZASSHI 130(10),1365,2010 ころです。抗菌薬の分布容 積などをシミュレーション して、添付文書に記載され ている用量では十分でない ということを調べたうえ、 適切な投与量を設定してく れ る。PK/PDの 理 論 を 駆 使しているわけですが、そ れは私たち医師にはできな いことです」と、髙橋氏は 説明する。 これらの投与量の調整が 功を奏し、敗血症の治療で は患者さんの回復が早くな り、在院日数の短縮も図ら
安全に薬剤師が大きく貢献していることが示さ れている。 「特に配合変化に関しては、9割近くは投与 前に介入できています。配合変化に関する情報 提供先は看護師が主体ですが、こうしたデータ を踏まえると、情報提供が看護師の安心感につ ながっているのではないかと思います」と木幡 氏は語る。 薬剤師の情報提供により、薬剤の減量・中止 につながった事例の薬剤費削減効果についても 早期からデータ化に取り組んできた。患者さん の回復に伴い、注射薬から内服薬への変更を提 案したといった事例の積み上げによる成果で ある。これらの介入による薬剤費削減金額は、 ICUだけで2011年度で601万円、2012年度では 525万円に上っている(図4)。診療報酬収入を 加えると、ICU専任薬剤師の業務は年間1千万 円近くの経済効果を生んでいる。