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Taro-金融取引法講義ノート3(金融機関の融資取引)

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Academic year: 2021

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金融取引法講義ノート3(融資取引)

大阪学院大学大学院教授 細 見 利 明 第1 金融機関の種類 1 金融機関と呼ばれる組織には,銀行,信用金庫,信用組合などがある。 銀行の中でも日本銀行は特別な存在であり,日本銀行法に基づいて設立された日本の 中央銀行である。日本銀行は,日本銀行券を発行し,銀行の銀行として金融機関同士の 取引の決済を行い,政府の銀行として,国庫金の出納を行い,さらには,金融政策を行 う。 2 日本銀行以外の銀行には,都市銀行,地方銀行,第二地方銀行があり,銀行法が適用 される。組織自体は株式会社である。都市銀行は,大都市に基盤を保有しつつ,全国的 な営業エリアをもち,国際業務も広く行っている。地方銀行は,地方を営業基盤とする 金融機関である。第二地方銀行とは,相互銀行から転換して普通銀行となったものであ る。これらの銀行業を営むには内閣総理大臣から免許を受けることが必要である(銀行 法4条)。 3 銀行法に基づく銀行のうち信託業務を兼営している銀行として,信託銀行がある。信 託とは,他人に利益を与える目的で他人の財産を管理又は処分する行為であり(信託法 2条),信託業を営むには内閣総理大臣から免許を受けることが必要である(信託業法 3条)。 4 信用金庫は,信用金庫法に基づき内閣総理大臣の免許を受けて設立された金融機関で ある。信用金庫は,原則として,出資した会員にしか金銭を貸し付けられないし,会員 からしか手形の割引ができない。ただし,預金や定期積金の受入れは会員以外の者から も可能である(信用金庫法53条)。会員は,その信用金庫の地区内に住所又は居所を 有する者,その信用金庫の地区内に事業所を有する者,その信用金庫の地区内において 勤労に従事する者に限られる(信用金庫法10条)。 5 信用組合は,中小企業等協同組合法に基づいて設立され,行政庁の認可を受けた信用 協同組合であり(中小企業等協同組合法27条の2),出資して組合員になった者に対 してしか金銭を貸し付けられない。 6 さらには,ゆうちょ銀行,労働金庫,商工組合中央金庫,JAバンクなどがあり,そ れぞれ根拠法が異なっている。 7 そのほかに,生命保険会社などは預金ではなく保険料として金銭を預かる一方で貸付 業務を行っており,金融機関と実質的には同じである。 第2 金融機関の融資取引

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1 証書貸付 1) 証書貸付は,借主が,金融機関に対し,自己が借り受ける金額や返済方法などを詳 細に記載した金銭消費貸借契約書に記名捺印して金融機関に差し出す方法により行わ れる融資の形態である。金銭消費貸借契約書は金融機関側が用意した契約書案に借主 や保証人が署名又は記名捺印して金融機関に差し出す方法により作成される。金銭消 費貸借契約は借主側のみが債務を負担する片務契約であることから金銭消費貸借契約 書も借主が貸主に契約書を差し出す差し入れ型の契約書が用いられ,売買契約などの 双務契約の場合に双方が署名又は記名捺印する双方捺印型の契約書は作成されない。 証書貸付は,契約書の中に借入金の返済方法を借主の資金計画に合わせて詳細に規 定することができるため,長期の分割返済を約束した貸付けに利用される。 2) 証書貸付では,元金の分割返済が約定されることが多いが,貸金債権の消滅時効の 起算点が問題になる。各分割返済金請求権の消滅時効は各分割返済期日の翌日から進 行を始める。しかし,期限の利益喪失事由が発生したときは注意すべきである。期限 の利益の喪失は銀行取引約定書などで予め定められている約定であるが,その場合に も二つの種類の期限の利益喪失事由があり,一つは当然喪失事由であり破産手続開始 決定があった場合などが期限の利益の当然喪失事由に指定されている。二つ目は請求 喪失事由であり,債務の一部でも履行を怠ったときなどが期限の利益の請求喪失事由 に指定されている。期限の利益の当然喪失事由が発生したときは,事由発生と同時に 全部の期限が到来し,喪失事由発生日の翌日から貸金残債権全額について消滅時効が 進行を始める。これに対し,請求喪失事由が発生したときは,喪失事由が発生しただ けでは期限は到来することなく,したがって消滅時効も進行を開始せず,金融機関側 から期限の利益を喪失させる旨の通知が借主に到達した日の翌日に初めて全債務につ いて期限が到来し,消滅時効が進行を始める。 2 手形貸付 1) 手形貸付は,借主が金銭の貸付けを受けるに際し,借り入れる金額を額面金額とす る約束手形を金融機関に対して振り出す方法で行われる融資の形態である。手形貸付 に用いられる約束手形は貸主側の金融機関が用意した手形貸付用の約束手形であるが, 手形法の適用を受ける約束手形であることに変わりはない。手形貸付にあっては借用 証書は作成されず,借主が振り出した約束手形のみが貸付けの証拠として金融機関側 に残る。 約束手形に記載することが許されるのは手形要件のみであって,貸付金額と返済期 限は記載できても詳細な返済条件は記載できないから,手形貸付は証書貸付における ような長期分割返済を約する貸付けには適さない。このため,手形貸付は比較的少額 の短期の運転資金の貸付けに利用される。 2) 手形貸付により,金融機関は,受け取った約束手形の手形金請求権を取得するが,

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同時に金銭消費貸借契約に基づく貸金債権も取得すると解されている。すなわち,最 高裁昭和37年12月4日第三小法廷判決・集民63号429頁は,手形債権につい て勝訴判決が確定しても,原因債権たる「貸付金債権およびその遅延損害金の請求訴 訟を提起しえないと解すべき根拠もない。」と判示し,両債権が成立することを認め た。手形債権の消滅時効期間は満期日から3年であるが(手形法77条1項8号,7 0条1項),貸金債権の消滅時効期間は商事時効として5年であるのが普通である( 商法522条本文)。しかし,信用金庫は非商人と解釈されているから(最高裁昭和 63年10月18日第三小法廷判決・民集42巻第8号575頁),非商人である信 用金庫が非商人に貸し付けた貸金債権の消滅時効期間は10年である(民法167条 1項。商人に貸せば5年。)。 借主が返済期限に返済しなかった場合には,金融機関は,約束手形金を請求する手 形訴訟を提起して,借主が差し入れた約束手形を甲1号証として提出し,簡易迅速に 勝訴判決(手形判決)を取得することができる。手形訴訟とは,手形所持人の訴訟に おける優位性を確保するため,裁判所に提出できる証拠を書証のみに限定する等通常 の訴訟の特則として定められた訴訟形態である。民事訴訟法350条ないし366条 に定められている。しかし,手形金の請求であるから年6分を超える遅延損害金を請 求できないのが難点である。貸金返還請求訴訟であれば約定割合の遅延損害金を請求 できるという有利な点はある。 3) 手形貸付における保証は,保証人が約束手形の表面に署名する手形保証の形をとる。 手形保証については,手形法77条3項(為替手形の保証に関する30条から32条 の規定を準用)に規定されている。手形貸付の保証人が同時に民事上の保証人になる かどうかについて否定すべきである。民事保証は書面によることが必要であるが(民 法●●条),手形貸付にあっては手形以外の書面が作成されることはないからである。 したがって,手形保証人はあくまでも手形保証人であり,手形外の連帯保証人ではな い。ところが,金融機関の未熟な法務担当者は時として,手形保証人に対する支払督 促の申立書を起案するに際し,手形保証人が「連帯保証した。」などと記載して支払 督促の申立てをする。債務者から異議が出て訴訟に移行し,弁護士の手に渡ったとき に,弁護士の指摘で誤りに気づき訴訟物の変更などのやっかいなことを処理しなけれ ばならないことになる。 4) 手形貸付において,返済期限に従来の手形を返済期限を延期した新手形に書き替え ることがしばしばなされる。借主は新手形を金融機関に差し入れるが,金融機関が旧 手形を返還すべきか否かは当事者が合意で定めるところによる。 3 手形割引 1) 手形割引は,第三者が振り出した満期未到来の約束手形を所持している者が当該手 形に裏書きして手形金請求権を金融機関に譲渡し,金融機関は手形の額面金額から満

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期日までの利息相当額を割引料として差し引いた金額を割引依頼人に交付する融資の 方法である。実質は手形の売買であり,金融機関の買取金額が融資金に当たる。金融 機関は割引手形を満期日に手形交換を通じて手形金を回収する。手形割引の対象とな る手形は,商取引の裏付がある商業手形である。しかし,商取引の裏付がない融通手 形をつかまされることもある。 2) 手形割引に際しては,割引依頼人との間で手形割引契約が締結され,手形割引約定 書が作成される。その約定の中に,金融機関が割り引いた手形が不渡りとなったとき は,割引依頼人に買戻し義務を発生させる旨の約定がある。この約定により,割引手 形が不渡りになったときは,金融機関は手形割引契約に基づく買戻請求権を行使し, 割引依頼人に買戻し代金の支払を請求する。割引依頼人はやむなく買戻し代金を支払 って不渡り付箋のついた約束手形を金融機関から受け取る。 3) 割引依頼人に買戻代金を支払う余力がないときは,金融機関は,振出人や裏書人に 対して手形債権を行使することも可能である。 4) 手形割引は約束手形の売買の性質を有しており,金銭消費貸借契約とは言えないか ら,額面金額と買取金額の差額を利息と考えて利息制限法を適用することはできない と判断した最高裁判決がある(最高裁昭和48年4月12日第一小法廷判決・金融法 務事情686号30頁)。 「本件各約束手形は,上告人石橋食品工業株式会社が商品売買代金支払いのために 振り出したいわゆる商業手形であって,被上告人は,上告人株式会社永松商店の代 表者上告人永松亀一からその現金化を依頼され,原判示の割引料名義の金額を差し 引いた金員を交付して,右手形の裏書譲渡を受けたものであり,右手形の授受は手 形自体の価値に重点を置いてなされたものであり,手形以外に借用証書の交付や担 保の提供はなされなかったなど,原審の確定した事実関係のもとにおいては,上告 人株式会社永松商店と被上告人との間の本件各約束手形の授受はいわゆる手形の割 引として手形の売買たる実質を有し,前記金員の交付は手形の売買代金の授受にあ たるものであって,これについては利息制限法の適用がないとした原審の認定判断 は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用す ることができない。」 4 商業手形担保付手形貸付 商業手形担保付手形貸付とは,商業手形を譲渡担保とする手形貸付であり,略して 「商担手貸」といわれる。商業手形の所持人は,金融機関にその手形を割引に出して金 銭を得ればよさそうなものであるが,手形金額が小口で枚数の多い場合や,手形振出人 の信用が今ひとつの場合,支払期日までの期間が長い場合など,手形割引に不向きの場 合に商担手貸が利用される。金融機関は,担保として受領した手形を取立てて貸金債権 の返済に充当することができる。

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5 当座貸越 当座貸越契約とは,金融機関が当座勘定取引先に対し,一定の貸越極度額までは,当 座預金の残高を超えて,当座勘定取引先が振り出した手形・小切手を支払う旨約束する ものである。手形・小切手等の支払資金を立替払いして貸付けするものである。 6 代理貸付 代理貸付とは,金融機関が他の金融機関との業務委託契約に基づいて,他の金融機関 の資金を貸し付けるものであり,法的には貸付事務の委任である。日本政策金融公庫, 住宅金融支援機構,雇用・能力開発機構その他一定の目的をもった政府関係金融機関の 資金が大部分である。委託機関にとっては委託先機関の店舗網を利用できること,委託 先機関にとっては自己の資金を使わず取引先の需要を満たせるというメリットがある。 代理貸付をすると受託金融機関は融資額の全部または一部について保証債務を負担する。 7 住宅ローン 1) 住宅ローンは,貸付けの類型から言えば証書貸付であり,居住のための住宅や敷地 を購入するために金融機関から受ける融資のことである。住宅ローンを受けるには, 長期間の分割返済に耐えられるように,給与や事業所得などの安定した収入があるこ とが必要である。通常,住宅ローンに際しては,住宅ローンを受ける者が金融機関指 定の信用保証会社に保証を委託し,委託を受けた信用保証会社が債務を連帯保証して いる。住宅ローンの債務者に債務不履行があったときには信用保証会社が保証債務を 履行し(代位弁済),債務者に対する求償権を取得する(民法459条1項)。求償 権は,求償債務を担保するために予め設定された抵当権や保証債務により担保される。 2) 住宅ローンは民事再生手続において,特別な配慮がなされている。 ①小規模個人再生の手続開始の要件 個人である債務者のうち,将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みが あり,かつ,再生債権の総額が5000万円を超えないものは,小規模個人再生を 求めることができるが(221条1項),この5000万円は,住宅口-ンの債務 額,別除権により満足を得ることが見込まれる債務額及び再生手続開始前の罰金等 の額を除外して計算される。したがって,債務の総額が7000万円あってもその うち住宅ローンが2000万円であれば,住宅ローン以外の債務は5000万円を 超えないから小規模個人再生を求めることができる。 ②住宅資金貸付債権の特則 民事再生手続においては,マイホームを失わずに債務整理できるように,住宅資金 特別条項がある。通常再生,小規模個人再生,給与所得者等再生を通じて適用され る。「住宅資金貸付債権」とは,要するに住宅ローン債権であり,再生計画認可決 定の確定時までに弁済期が到来する住宅資金貸付債権の元本,利息・損害金につい ては,その全額を,再生計画で定める弁済期間(当該期間が5年を超える場合にあ

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っては,再生計画認可の決定の確定から5年)内に支払えばよいとか,住宅ローン 債務者の再生のための保護規定が置かれている。 8 信用保証協会の保証付き融資 信用保証協会の保証のもとに行われるのが信用保証協会の保証付き融資である。 信用保証協会は信用保証協会法(昭和28年8月10日法律第196号)に基づき設 立された公益法人であり,各都道府県に存在する。また,横浜市,川崎市,名古屋市, 岐阜市,大阪市には市の信用保証協会も存在する。一般に,中小企業が金融機関から融 資を受けようとする場合に適切な保証人を得られないために融資を得ることができなか ったり,融資条件が不利になったりすることがあるため,中小企業がスムーズに資金を 調達できるよう,信用保証協会の保証が利用される。信用保証協会の保証付き融資がな されると,債務者倒産の場合などには信用保証協会が金融機関に債務を代位弁済する。 そして,信用保証協会は主たる債務者に求償権を行使し,その保証人に履行を求める。 第3 銀行・信用金庫・信用組合取引約定書 1 金融機関と融資取引を始めるに際しては,取引約定書への署名捺印を求められる。取 引約定書には,今後金融機関と取引をするに際しての基本的な約束が盛り込まれている。 2 かつては,全国銀行協会が取引約定書のひな型を作成し,全国の金融機関はひな型に 沿った取引約定書を作成していたが,平成12年4月にひな型が廃止され,以降は各金 融機関ごとに独自の取引約定書を作成し,使用する建前になって現在に至っている。 第4 貸出稟議書と文書提出命令 1 金融機関は融資をするか否かを決定するに当たり,貸出稟議書を作成することがある。 この貸出稟議書が民事訴訟における文書提出命令の対象となるかどうかが争われたこと がある。民事訴訟において,書証は自ら所持する原本を提出することが必要であるが, 提出したい文書の原本を自らは所持しておらず,訴訟の相手方が所持していたり,第三 者が所持していることがある。こういう場合に,裁判所に文書提出命令の申立てをする ことができる。裁判所は,文書提出の必要性があり,かつ,民事訴訟法220条各号に 定める場合に限り,文書提出命令を発令する。 2 最高裁平成11年11月12日第二小法廷決定・民集53巻8号1787頁は,銀行 の貸出稟議書は文書提出命令の対象とならないと判断した判決である。この判決の事案 は,甲野太郎が被告銀行の勧めによって,リスクのある有価証券投資のために6億50 00万円を被告銀行から借り入れて証券投資をしたところ,有価証券価額の下落により 損害を被ったがこれは投資を勧めた銀行の責任であると主張して,甲野太郎の相続人が 銀行に対して損害賠償を請求した事件を基本事件とする付随事件である。原告は,被告 銀行の過失を立証するためには,本件融資の際に被告銀行が作成した貸出稟議書が書証

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として必要であると主張し,民事訴訟法220条3号の「挙証者と文書の所持者との間 の法律関係について作成された文書」(法律関係文書)に該当するから3号文書として 提出を求めることができる,また,220条4号ニ(民訴法改正前は「ハ」)の「専ら 文書の所持者の利用に供するための文書」に該当しないから3号文書にも該当すると主 張して文書提出命令を裁判所に申し立てた。原審の東京高等裁判所が貸出稟議書は4号 文書に該当すると判断して文書提出命令を発令したので,銀行側が抗告した。最高裁は, 次のように判示して,原決定を破棄し,原告の文書提出命令の申立てを却下した。 「二 本件申立てにつき,原審は,銀行の貸出業務に関して作成される稟議書や認可書 は,民訴法220条4号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」 に当たらず,その他,同号に基づく文書提出義務を否定すべき事由は認められない から,その余の点について判断するまでもなく,本件申立てには理由があるとして, 抗告人に対し,本件文書の提出を命じた。 三 しかしながら,原審の右判断は是認することができない。その理由は,次のとお りである。 1 ある文書が,その作成目的,記載内容,これを現在の所持者が所持するに至る までの経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作 成され,外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示される と個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害さ れたりするなど,開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれが あると認められる場合には,特段の事情がない限り,当該文書は民訴法220条 4号ハ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解する のが相当である。 2 これを本件についてみるに,記録によれば,銀行の貸出稟議書とは,支店長等 の決裁限度を超える規模,内容の融資案件について,本部の決裁を求めるために 作成されるものであって,通常は,融資の相手方,融資金額,資金使途,担保・ 保証,返済方法といった融資の内容に加え,銀行にとっての収益の見込み,融資 の相手方の信用状況,融資の相手方に対する評価,融資についての担当者の意見 などが記載され,それを受けて審査を行った本部の担当者,次長,部長など所定 の決裁権者が当該貸出しを認めるか否かについて表明した意見が記載される文書 であること,本件文書は,貸出稟議書及びこれと一体を成す本部認可書であって, いずれも抗告人がBに対する融資を決定する意思を形成する過程で,右のような 点を確認,検討,審査するために作成されたものであることが明らかである。 3 右に述べた文書作成の目的や記載内容等からすると,銀行の貸出稟議書は,銀 行内部において,融資案件についての意思形成を円滑,適切に行うために作成さ れる文書であって,法令によってその作成が義務付けられたものでもなく,融資

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の是非の審査に当たって作成されるという文書の性質上,忌たんのない評価や意 見も記載されることが予定されているものである。したがって,貸出稟議書は, 専ら銀行内部の利用に供する目的で作成され,外部に開示することが予定されて いない文書であって,開示されると銀行内部における自由な意見の表明に支障を 来し銀行の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして,特段の事情が ない限り,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解すべき である。そして,本件文書は,前記のとおり,右のような貸出稟議書及びこれと 一体を成す本部認可書であり,本件において特段の事情の存在はうかがわれない から,いずれも「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たるという べきであり,本件文書につき,抗告人に対し民訴法220条4号に基づく提出義 務を認めることはできない。 四 また,本件文書が,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると 解される以上,民訴法220条3号後段の文書に該当しないことはいうまでもない ところである。」 第5 いわゆる貸手責任について 1 金融機関の貸手責任が問題とされたのは,ほとんどが次のような事案であった。すな わち,不動産価額が実価値以上に上昇傾向にあったバブル経済の頃,金融機関の担当者 が顧客に融資を勧誘する際,「借入金の返済は不動産の転売により見込まれる売却代金 やマンションの分譲代金・家賃収入によって可能である。」と説明したのを信じて金融 機関から金銭を借り入れ不動産を買ったり既に所有している土地上にマンションを建設 したりしたが,バブル経済の崩壊により不動産価額は上昇するどころか大幅に下落し, 金融機関に対する借金のみが残るという悲惨な目に遭った人がいた。担当者は見通しを 述べ,その見通しが外れたわけであるが,担当者は故意に虚偽の見通しを告げたわけで はないだろうし,その当時は,バブルが崩壊するなどとは誰も信じていなかったのだか ら担当者に過失があったとも言えないだろう。 2 いかなる事実があれば「貸手責任」が発生するのかという,貸手責任が発生するため の要件事実を定めた法律の規定は存在しないから,我が国において法律上の概念として の貸手責任を認めるのは困難である。場合によっては民法709条の不法行為が成立す ることもあり得るだろうが,一般的な貸手責任が認められるわけではない。また,消費 者契約法4条には事業者と消費者との消費者契約の勧誘に当たり虚偽を述べたり,重要 事項を述べなかったりした場合に取消権が与えられているが,それも消費者契約法4条 の適用の問題であり,一般的に貸手責任が認められるわけではない。 3 かくして,法律上の概念としての金融機関の貸手責任は否定すべきである。

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