• 検索結果がありません。

特定調停における二、三の問題 文書提出命令の効用を中心として 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "特定調停における二、三の問題 文書提出命令の効用を中心として 利用統計を見る"

Copied!
24
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

特定調停における二、三の問題 文書提出命令の効

用を中心として

著者名(日)

小野寺 忍

雑誌名

東洋法学

52

1

ページ

21-43

発行年

2008-09-30

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000647/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

︽論  説︾ 東洋法学第52巻第1号(2008年9月)

特定調停における二、三の問題

      −文書提出命令の効用を中心としてー

1 問題の所在

小 野 寺

 近時、貸金業者に対して、債務者から提起される過払金返還請求訴訟が激増し、経済動向の激変と社会情勢の変 動の狭間にあって、裁判所の対応が注目されていた。とくにサラ金に苦しむ債務者の深刻な状況と貸金業者の経営 実態とのアンバランスが顕著になりその調整が必要とする気運が高まった平成一五年前後の頃から、利息制限法の 制限を超える利息︵資料①参照︶または損害金の支払に関する紛争について様々な形で問題が裁判所に持ち込まれ ていたが、なお多くの問題について下級審の判断は分かれる状況にあった。すなわち、貸金業の規制等に関する法 律︵以下、貸金業法という︶第四三条が規定する﹁みなし弁済﹂の成立要件をめぐる問題がその中心であるが、そ こでは、貸金業者からの残元本支払請求︵本訴︶と債務者による過払金の主張に基づく不当利得返還請求︵反訴︶       ︵1︶ という民事訴訟として顕在化したのである。 21

(3)

 貸金業法にいう﹁みなし弁済﹂については、﹁特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律﹂︵以下、 特定調停法という︶が制定される以前から、民事調停の場においては大きな問題となっていたのであり、そこには 多くの調停運営上の困難が存在したのである。すなわち、貸金業者は、一般に、債務者に対する貸付に当たっては 一七条書面を交付し、かつ、債務者からの毎月ごとの返済を受けるに当たっては書面を交付していることを強調し て、それらの返済は、貸金業法四三条一項に規定する﹁みなし弁済﹂に該当すると主張する場合がほとんどだった からである。その際に、債務者から任意に提出される書類は極めて少なく、貸金業者の主張するままを甘んじて受 けようとするかのような状態のままむかえた調停の中で、裁判所からの協力要請に対して、債務弁済協定の一内容 としての引直計算に渋々ながら応ずる常況にあった。したがって、そこには﹁天引き﹂の事実や﹁借換え﹂の事実 などが遮断されてしまった場合も多いのであり、債務弁済協定調停の成立にあったても﹁将来利息﹂を容認せざる を得ない場合も見られるに至ったのである。  平成一九年になって、民事調停、とくに特定調停の延長線上にある問題︵特定調停においては、過払状態が判明 することが多いが、不当利得返還まで調整するシステムになっていない︶に関して、重要な意義をもつ最高裁判決 が相次いで打ち出された。それらは、いずれもいわゆる﹁悪意の受益者論﹂を展開して、債務者の過払金について 多重債務者からの不当利得返還請求権を認めたもので、判旨は次のとおりである。 22  ①判決﹁同一の貸主と借主の間で基本契約を締結せずにされた多数回の金銭の貸付けが、一度の貸付けを除き、 従前の貸付けの切替え及び貸増しとして長年にわたり反復継続して行われており、その一度の貸付けも、前回の返 済から期間的に接着し、前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われたものであり、上記各貸付けは一個の連続

(4)

した貸付取引と解すべきものであるという判示の事情の下においては、各貸付けに係る金銭消費貸借契約は、各貸 付けに基づく借入金債務につき利息制限法一条一項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合に は、当該過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当であ る。﹂︵最判平成一九年七月一九日裁判所時報一四四〇号一〇頁︶  ②判決﹁貸金業者が借主に対して制限利率を超過した約定利率で貸付けを行った場合、貸金業者は、貸金業法 四三条一項が適用される場合に限り、制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるにとど まり、同規定の適用がない場合には、制限超過部分は、貸付金の残元本があればこれに充当され、残元本が完済に なった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきであ る。そうすると、貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法四三条 一項の適用が認められないときは、当該貸金業者は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような 認識を有するに至ったことがやむを得ないといえる特段の事情がある場合でない限り、法律上の原因がないことを 知りながら過払金を取得した者、すなわち民法七〇四条の﹁悪意の受益者﹂であると推定されるものというべきで ある。﹂︵最三小判平成一九年七月一七日裁判所時報一四四〇号六頁︶ ③判決﹁少なくとも平成一一年判決以後において、貸金業者が、事前に債務者に上記償還表を交付していれば 一八条書面を交付しなくても貸金業法四三条一項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得な いといえる特段の事情があるというためには、平成一一年判決以後、上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当 23

(5)

数あったとか、上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を 有するに至ったことが必要であり、上記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解する ことはできない。  したがって、平成一六年判決までは、一八条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知 させているなどの場合には貸金業法四三条一項が適用されるとの見解も主張され、これに基づく貸金業者の取扱い も少なからず見られたというだけで被上告人が悪意の受益者であることを否定した原審の判断には、判決に影響を 及ぼすことが明らかな法令の違反がある。﹂︵最三小判平成一九年七月一三日裁判所時報一四四〇号二頁︶  ④判決コ七条書面には各回の﹁返済金額﹂を記載しなければならないところ︵貸金業法一七条一項九号︵平成 一二年法律第一一二号による改正前は同項八号︶、施行規則一三条一項一号チ︶、前記事実関係等によれば、本件各 契約書面の﹁各回の支払金額﹂欄には﹁別紙償還表記載のとおりとします。﹂との記載があり、償還表は本件各契 約書面と併せて一体の書面をなすものとされ、各回の返済金額はそれによって明らかにすることとされているもの であって、﹁各回の支払金額﹂欄に各回に支払うべき元利金が記載されているとしても、最終回の返済金額はそれ と一致しないことが多く、現に本件においても相違しているのであり、その記載によって各回の返済金額が正確に 表示されるものとはいえないというべきである。  貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法四三条一項の適用が認 められない場合には、当該貸金業者は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有する に至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りな 24

(6)

がら過払金を取得した者、すなわち民法七〇四条の﹁悪意の受益者﹂ ︵最三小判平成一九年七月一三日裁判所時報一四四〇号一頁︶ であると推定されるものというべきである。﹂        ︵2︶  以上の最高裁判例の他にも多重債務者を救済する趣旨のものはみられるが、上記の四判例によって、貸金業者に 利する反論は悉く否定されたことになるのであり、不当利得返還請求権を拒絶する道はほぼ完全に閉ざされたもの と考えられる。  以上のような最高裁判決に至るまでの背景を想起すれば、債務弁済協定事件を一般民事調停から特定調停へと変 更したことがその基礎になっていなければならないのであり、また、多重債務者の救済のためにほぼ一〇年を要せ ざるを得なかったことは、債務弁済協定調停の運営の仕方と関連する問題を考えておく必要があると思われる。 もっとも、多重債務者の増加をもたらした事象については、社会的・経済的現象として法的側面とは別の観点から 考察することも、一方では重要な問題になろう。すなわち、貸金規制法施行以来、﹁貸す側﹂に有利に、﹁借りる 側﹂には過酷になることを放置したままの状態が、昭和五八年に出資法が制定されるまで続き、この出資法の制定 を契機に﹁借りる側﹂の一定程度の保護を考慮しただけだったからである︵資料①参照︶。平成元年頃からは、バ ブル経済の停滞・崩壊に伴いながら、﹁借りる側﹂の債務超過現象、多重債務化現象が次第に増大し、一般民事調 停における債務弁済協定事件として登場するようになり、その後急膨張するに及んで深刻な社会問題として捉えら れていくこととなったのである。そのような背景のもとに、平成一二年、特定調停法が制定施行され現在に至って  (3 ) いる。  一般に、民事調停では、特定調停も含めて、積極的な証拠調べは行われず、当事者双方の協力に委ねたかたちで 25

(7)

の、いわば消極的な証拠調べに依存している。しかし、証拠調べに関しては、いずれの法においても規定が措かれ ているのであり︵民調二二条による非訟一一条の準用、特定調停一〇条︶、ただ調停制度は民事訴訟制度とは異な          ︵4︶ る手続であることから、その利活用が裁判に顕れたものとは異なる様相を呈して調停に登場すると思われるのであ る。  そこで、本稿では、民事調停における証拠調べのあり方とその実態、とりわけ特定調停における文書提出命令の 有効性およびその結果に基づく不当利得返還請求調停の実現について指摘してみたい。なお、本稿中の意見にわた る部分は筆者の個人的見解にすぎず、さらなる研究の途上にあるものであることをお断りしたい。

2

民事調停と特定調停       ︵5︶  民事調停制度は、発足して八五年の歴史を有する裁判外の公的紛争解決システム︵ADR︶であり、わが国にお いては、身近な紛争解決制度として、民事訴訟制度以上に利活用され、発生したトラブルの円満解決に寄与してい る︵資料②参照︶。このことは、自主的紛争解決制度としての民事調停が、日本国民が古から尊んできた﹁和﹂の 精神を基調とする民族文化の伝統に支えられ、条理にかなった解決策をめざして互譲の精神を発揮するという制度 に依存していることに基因する。したがって、民事調停は民事訴訟とは異なって、﹁当事者の互譲﹂により、﹁条理 にかない実情に即した解決﹂を当事者が打ち出す場ということになり、その限りにおいて民事訴訟法の準用もな く、手続的な制約や手続促進のためのルール、証拠調べの手続ルールなどについてもかなりの部分で当事者に任さ れている。これらの点については、特定調停が民事調停の一類型であることから本質的には同様であるが、当事者 の責務を明確にして多数当事者︵債務者のほか貸金業者である複数の債権者︶の集団的な処理、調停委員会の調査 26

(8)

権限の強化、専門的な知識を有する調停委員の指定︵資料③参照︶、調停委員会による資料収集︵文書等の提出︶ 等の諸点について規定したことで、倒産処理手続を見据えたものとするところに民事調停との相違がある。  民事調停は、当事者の申立てに始まり、指定された調停期日に当事者双方が出頭し、調停主任と選任されている 調停委員からなる調停委員会において調停が行われる。この調停委員会は、二人の調停委員︵三人の場合もある︶ で行われる場合が多く、当事者の申立て内容も緻密に整理されたものからかなり抽象的なものまで千差万別で、調 停委員会が時間をかけて当事者の言い分などを整理しながら進める場合がほとんどで、紛争解決の決め手となる資 料なども当事者の対応にしたがって提出するものとなっており、また証拠がすべてを解決するわけではなく、あく までも当事者の互譲に基づく和解を促すことに全力が注がれることになる。  特定調停の場合も、前述した通り、その基本は同じであるが、当事者に対し必要な資料等について予め提出が要 求され、専門的知識を有する調停委員が選任される点で異なり、また民事調停の場合には活用されていない文書提 出命令が活用できるとしている点で異なる。  具体的には、特定調停手続は、金銭の借入れや物品の購入などが増えたり、住宅ローンやその他のローンを抱え ていながら、病気やその他の理由により予定している収入が減ることで、予定どおりの返済ができなくなった場合 に、債務者の一定の生活を維持しながら可能な範囲で返済を続けるための方法を調整するものである。これは、経 済的に破綻するおそれのある者が、その経済的再生を図るための債務の調整を図るものであり、簡易迅速かつ柔軟 に多数の関係者の集団的な処理をめざし、倒産処理手続の一側面をも有する特別な民事調停である。具体的な特定 調停は、経済的に破綻するおそれのある債務者からの申立事件に限られ、毎月の返済額を減らすこと、返済期限を 延長すること、一括払いから分割払いに変更することなどを、債務者が申し出て債権者と話し合い、債務者の生活 27

(9)

の建て直しを図るための手続である。したがって、申立人︵通常は債務者。以下同じ︶は、調停申立時に、申立人 自身の資産の一覧表、債権者および担保権者の一覧表、収支報告書︵給与明細書・家計簿・預金通帳など︶、借入 れの内容がわかるもの︵契約書︶、返済してきた内容がわかるもの︵領収書︶、その他貸金業者等との関係がわかる 資料を提出しなければならない︵特定調停法三条二項︶。         ︵6︶  この特定調停手続では、一般の調停と同様に、調停委員会︵特定調停法八条・一七条︶が、申立人からその生活 状況、収入、調停成立後の返済方針等について事情聴取した上で、相手方︵通常は貸金業者︶の意向を聴取し、当 事者間における残債務の確定と調停成立後の返済計画を検討し調整する。この調整の結果、当事者間に合意が成立 した場合が調停の成立であり、その合意内容を調書に記載することにより、確定判決と同一の効力を有するもの ︵債務名義。民執二二条七号︶となることから、申立人は、調停調書の記載内容どおりに返済していくことになる。  ①民事調停の実際  民事調停は、一般にその申立てが成されてからほぼ一ヵ月後に期日が定まり、ほぼ同時期に担当する調停委員が 指定されて調停委員会が形成される。調停委員会は裁判官と二名の調停委員で構成されるが、最初の期日から裁判 官が加わることはなく、民問から選ばれた調停委員が当事者双方に対し、民事調停制度の趣旨説明をすることから はじめられる。  民事調停では、当事者双方が同席して進められることよりは、交互に事情聴取する方法で進められることのほう が圧倒的に多い。したがって、一回の期日で調停が成立し、当事者間の紛争が解決するということもほとんどな く、多くの場合に三回ぐらいの期日を要することになる。しかも、ほとんどの当事者が弁護士を代理人として委任 28

(10)

することがないため、感情的な対立が前面に出てしまう場合が多く、妥当な紛争解決のためには必ずしも法律的で はない問題整理が主な作業になることもしばしばである。  しかしながら、金銭消費貸借契約上の紛争、特に契約どおりの内容では履行できないとする申立人からの債務弁 済協定調停事件では上に述べた一般調停事件とはかなり様相が異なる。それは、当事者問に金銭消費貸借契約が存 在することを前提とすることから、感情的対立は希薄であり、したがって同席調停も困難ではなく、むしろ貸主側 も貸した金銭の返還を確保できる内容であれば進んで調停に臨むという態度を示すことが多いからである。こうし た場合の調停はおよそ次のような経過をたどる。 ︽具体例︾申立人X︵三五歳、会社員、月収約二五万円︶は、積︵債権額二五万円、約定利率三八%、返済月額二 万円︶、L︵債権額三〇万円、約定利率四〇%、返済月額一万円︶、%︵債権額三五万円、約定利率三五%、返済月 額一・五万円︶、脹︵債権額四〇万円、約定利率三五%、返済月額二万円︶、脇︵債権額四五万円、約定利率 四〇%、返済月額三万円︶とそれぞれ金銭消費貸借契約を締結し、総額九・五万円を毎月返済しながらの生活を続 けていたが、いよいよ家庭生活が成り立たなくなったために、債務協定の民事調停を申し立てた。  この調停では、まず申立人である債務者の資力調査が行われ、その結果内容に応じて調停委員会として返済計画 の実効性があると判断した場合に、申立人の意向を重視しながら、相手方である債権者らに申立人の経済的実情を 説明し、当事者間における約定利率を利息制限法上の法定利率に引直計算をした上で、資力調査に基づく返済計画 案を示して協力を要請するという手順となる。この返済計画案に示された債務者が可能とする月額返済総額を、そ れぞれの債権者について修正した月額返済額の総返済額となるように按分して算出した調停案を相手方である債権 29

(11)

者らがそれぞれ受け入れるということで調停が成立する。  このように、この種の調停では、債務者である申立人の資力調査を含めて三期日ぐらいを要し、おおむね裁判所       ︵7︶ からの協力要請を金融業者である相手方が受け入れることで債務協定事件が収束することになる。  債務弁済協定調停事件として、再点検をすると、申立人の家庭生活および家庭経済の実情把握をするための資料 は申立人の任意に提出された資料のみに基づくこと、有力な資産状況の存否確認のための資料収集をしないこと、 家族構成を把握するための資料を把握できないこと、他方、貸金業者である相手方も、金銭消費貸借契約の内容を 正確に示す資料の提出が任意であること、特に借換えの事実の存否を確認する資料や継続的な金銭消費貸借である ことを示す資料の提出がなされないこと、約定利率から法定利率への引直計算をしないこと、みなし弁済の強硬な 主張などの諸点があり、一定の規準づくりが必要とされたのである。  ②借換えの事実の把握の困難性  前述の具体例で指摘したように、ほとんどの債務協定調停では、申立人となる債務者は多くの貸金業者から借金 をすることが常で、その実態も特定の貸金業者との問で継続的に取引をする場合、あるいは数人の貸金業者との間 で自転車操業的に取引をする場合、それらの取引を複合的に行う場合とさまざまである。これらの場合に、当事者 間における金銭消費貸借契約の実態を把握できないのが、借換えの事実の存在である。  借換えの問題とは、貸金業者と借主間において、数回にわたって行われる貸付け︵継続的取引︶を別個独立の数 個の貸付けとみるのか、一連の貸付けを一個の貸付けとみるのかということで、利息計算の結論に影響する。  とくに、貸金業者から取引履歴を全部開示されない限り、借主との間に何個の契約があったのか、それらがどの 30

(12)

ようなものかを明確にすることはできず、借主は相当前から何度も繰り返して借りていたことを述べるにとどまる 結果、引直計算の始点が貸金業者の主張どおりに収まる場合も相当数にのぼったと思われる。  引直計算の始点次第では過払分の存在が明らかになり、貸金業者の債権が消滅することはもちろん、早い時点で 借主に不当利得返還請求権行使の可能性が明確になるのであるが、調停では、この点についての解決が、文書提出 命令による取引履歴の開示が得られないかぎりできないことになる。  ③﹁みなし弁済﹂の取扱い  みなし弁済とは、貸金業法第四三条がいうように、﹁貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利 息︵利息制限法︵昭和二九年法律第一〇〇号︶第三条の規定により利息とみなされるものを含む︶の契約に基づ き、債務者が利息として任意に支払った金銭の額が、同法第一条第一項に定める利息の制限額を超える場合におい て、その支払が次の各号に該当するときは、当該超過部分の支払は、同項の規定にかかわらず、﹂有効とみなされ る利息債務の弁済をいう。多重債務者との関係では、一般に債務者は、利息の天引きを条件として貸付を受け、弁 済期には利息を前払いして弁済期を延期してもらうことを繰り返すことから返済不能状態に陥ることが多い。こう した場合に民事訴訟では、利息制限法の制限枠を超える利息の天引きないし前払いがなされている場合にみなし弁       ︵8︶ 済の適用があるかどうかが争われ、前掲の判例がみなし弁済規定の適用如何について結論を示したことになる。  しかし、特定調停制度実施以前から、調停で取り扱われる債務弁済協定事件では、貸金業者側の非協力もあっ て、あるいは債務者側の消費貸借契約内容についての理解不足もあって、現実の取引行為がどのような約束のもと にどのように行われたかを明確にすることができないまま、しかも債務者からの申立てにも関わらずほとんどの資 31

(13)

料がないまま出頭する状態であったことは、前述したとおりである。  もっとも、民事調停において、﹁みなし弁済﹂を主張するケースは一部の業者に限られてはいたが、それでも債 務者側の資料不足などを見込んで主張をしながら、矛を収めるようなやり方で﹁みなし弁済﹂の主張に代わる都合 のよい主張︵借換えによる前契約の終了、期限の利益喪失、将来利息など︶を繰り返すケースがほとんどであっ た。  ④過払分の発生とその取扱い        ︵9V  いわゆる過払分の返還をめぐっては、訴訟上、大いに問題とされたところである。民事調停では、民事訴訟と異 なり、当事者双方から提出される資料に乏しいのが通例である。調停委員会では、当事者双方に対し可能な限りの 資料提出を求めるのであるが、貸金業者側は、前述した通り、自己に有利な資料は提出するものの、﹁互譲﹂の精 神を発揮することは例外的で、﹁借り手﹂としての借主の怠慢を主張する場合が通例である。また、債務者たる借 主は、その家庭が抱える問題と窮々とした経済生活に追いまくられるあまり冷静さを欠くことからか、取引の経過 を物語る資料のほとんどを提出することができず、記憶に頼るだけの場合が通例である。そこからは、﹁借り手﹂ 側に過払分が存在することを証するような資料が新たに発見できる場合はきわめて稀であり、また、発見できた場 合であっても、貸付業者側はその時点で直ちに残債部分の債権を放棄することで終了することになってしまうので ある。このような状況を打破できないのは、特定調停を含めた民事調停手続において、適切に文書提出命令を発す ることに謙抑的であったことに基因するものと思われる。 32

(14)

3

特定調停の実情       ︵10︶  ︵1︶特定調停施行以前の債務弁済協定調停の実情  債務弁済協定調停は、民事一般調停事件として債務者から金融会社を相手に申し立てられ、貸金業者が債務者を 相手方として弁済を要求する内容のものはほとんど見当たらないのが実情であった。したがって、そこでは、支払 いの滞った債務について将来にわたって返済していくことを前提として、調停の場で貸金業者に対し債務者の窮状 を訴え、新たな弁済計画を立て、一回分の返済額を契約時の額よりも小額にするといった方法がとられた。そうし た方法は、債務者の債務を減少させるものではなく、単に長期返済計画を貸金業者が受け入れることで債務者に対 して一定の譲歩を示した形を作っただけで、本来的な意味での債務者救済をもたらすものではなかった。       ︵n︶  ︵2︶特定調停施行直後の債務弁済協定調停の実情  債務弁済協定調停は、増加の一途をたどることになるのであるが︵資料④参照︶、特定調停施行直後は、一般の 債務弁済協定事件と特定調停事件の住み分けをすることなく、貸金業者に関係する申立てのほとんどが特定調停事 件として取り扱われる状況ができあがった。そのため、自己破産手続との限界が不明確なまま特定調停に入る場合 も多く見られた。したがって、特定調停が成立するものの、その後、その成立内容が債務者によってどのぐらい履        ︵12︶ 行されるかは全く予測のつかないまま、世に放り出されたことになったのである。 33

(15)

       ︵13︶  ︵3︶定着した特定調停の実情  平成一五年をピークにして、特定調停の事件数は減少へと推移して現在に至っているが、個別的な事件の内容は 前述3︵2︶の時期とそれほど変わるものではない。大きな変化を遂げたのは、債権者たる貸金業者側の特定調停 に対する対策が完成しつつあることである。それは、一言で言うならば﹁機械的対応﹂である。それは、裁判所の 要請に応えて金銭消費貸借契約書および引直計算書等の提出を行い、あわせて残額債権についての返済に関する希 望を記載した上申書を提出するに止め、担当者が出頭することなく、債務者の確認方を調停委員会に願い出たうえ で調停に代わる決定を求めるようになったことである。こうした傾向は、多重債務者との契約期間がそれほど長期 にわたるものではないことから、過払状態にならないケースに多く、その際の引直計算書も契約書と整合性を保っ ていることのほか、契約関係についてほとんど資料を残していない債務者の記憶にも合致することが多く、債務者 の資力に応じた返済計画を立てることによって成立する。  民事訴訟において過払分の不当利得返還請求が認められることになる多くのケースの背後には、実は、特定調停 において、貸金業者たる債権者側の担当者が出頭することなく、しかもその上申書において当該債務者の債権を放 棄する旨を記載して調停に代わる決定を求める圧倒的多数のケースがある。そうした場合の債務者は、契約期間が 比較的長期で、引直計算をした場合には過払分が算出される可能性の有る場合が多いのであるが、もとより債務者 には契約関係書類が保存されておらず、弁済を証明する書類などもないことから、調停委員会における調査の術も      ︵14︶ 無いのである。こうした場合に文書提出命令を発令して、契約書類等を整えることができる余地があればとも考え られるが、特定調停の限界を示すところとなろう。 34

(16)

 ︵4︶今後の特定調停の展望  最近の事件としては、滋賀県造林公社が滋賀県、農林漁業金融公庫、大阪府を含む合計八団体に対して、同公社 が確保できる財源の約三倍にのぼる累積債務三六五億円をかかえていることから、債権者の合意を得たうえで特定        ︵15︶ 調停を申し立て、債権の放棄や金利減免などを求めたことが伝えられている。       ︵16︶  このような地方公社や第三セクターの経営破綻状態の頻発に対して、総務省は、早い時期から、﹁地方公共団体 の点検評価の結果などから、経営の改善が極めて困難と判断されるものの、何らかの形で事業を存続させる必要が あると判断した場合には、その手続、内容についての公平性、透明性を確保する観点﹂から、特定債務等の調整の       ︵17︶ 促進のための特定調停に関する法律等による法的整理を選択することが適当である、としている。  貸金業法、利息制限法等が改正整備されて、多重債務者問題が一段落しつつある現在、特定調停は、いよいよ所 期の目的であった倒産処理手続としての役割︵司法型倒産ADR︶を果たすことがその中心的任務になることが予 想される。すなわち、一般の商取引債権者の債務は全額弁済したうえで、銀行等の金融機関・その他の大口債権者 ︵自治体など︶の債務を減免の合意を得ることにより、事業の再建を図ろうとする事業主の私的整理ないし経営破 綻した第三セクターおよび公社等による破綻処理のために特定調停制度が利用される傾向にあるからである。これ らの場合にこそ、文書提出命令の効用は大なのである。

4

最近の特定調停の動向 ︵1︶貸金業者の協力と非協力 特定調停制度施行後における、 債務弁済協定調停の実際は、手続の形式面では大きく変わったことになる。すな 35

(17)

わち、貸金業者の協力体制が一応整ったといえるからである。  まず、第一回調停期日は、借主︵申立人︶の資力調査の確認が予め提出されている資力調査票に基づいて行われ るとともに、関係資料に基づく借受金の実態が調査される。この時点で、調停委員会には貸付業者から提出された 関係資料が整理されており、借主の申述との照合作業が行われる。こうした進行経過は、前記3︵1︶∼︵2︶の 時期まで、貸金業者の一部を除いて順調に行われている。ただ、その場合も貸付業者に利するために必要な限りで の資料︵一業者について継続的多重債務の場合の最新の契約書およびその引直計算書、残額分の請求書など︶が出 てくることが多い。過払分の存在がテーマになったりすれば、その時点で調停が終了するのは前述した通りであ るQ  第二回調停期日は、貸金業者が呼出しに応じて出頭し、予め提出してある資料に基づいて、機械的に対応するこ とになる。この調停の場において、借主側の過払分の存在がテーマになったりすれば、その時点で調停が終了する のは前述した通りである。  貸金業者の出頭が順調である場合は、二回の調停期日で終了することが多い。  以上のような経過が形式的に変化するのは、前記3︵3︶の時期以降の現在までであるが、それは、手続内容の 変化ではなく、貸金業者側の対応の変化である。すなわち、貸金業者は基本的に出頭することはなく、借り手の過 払いがある︵と思われる︶ときは、債権の放棄を内容とする上申書を提出して、一七条決定を求めてくることであ る。もっとも、取引期間がそれほど長期でなく、かつ、残額債権がある場合でも出頭してくることはなく、一括弁 済を主張する内容の上申書を提出したうえで調停に応ずる場合がほとんどである。このような状況下で、なお裁判 所の要請に応えることなく、貸金業者側において予め資料を提出せず、かつ不出頭という場合においてはじめて文 36

(18)

書提出命令が発せられることになる。  ︵2︶計算書提出の実情  貸金業者が提出する計算書は、前記3︵1︶の時期は、むしろ取引履歴を加味した内容の書式になっていたが、 最近は、電算化が進んだこともあって、貸金業者全体がほぼ同一様式のものを提出する状況にある。現在は、借換 えの事実や継続的取引を示すような記載をしなくなった以外は、その意義は引直計算にあるので、それほどの変化 はないといえる。  そこで、つぎに、返済計画に基づく計算書を例示しておきたい。  たとえば、平成一五年一月一日に、五〇万円を借入れ、もっとも一般的な利用方法となっている元利均等返済方 式で毎月末三万円ずつ返済していく場合で比較すると、返済計算モデルは、次頁の表のようになる。この場合の金 利計算は消費者金融の実質利率を﹁二九・二%﹂とし、それを、特定調停における引き直し利率である実質年率 ﹁一八%﹂とするものである。 ︵3︶過払分算出計算書 つぎに、返済計算モデルを前提に過払計算を例示しておくことにする。 この返済計算モデルどおりに支払ったものとすると、特定調停では、実質年率二九・二%のものを実質年率 一八%に引直計算をすることになる。その結果として、次々頁の表のように、過払分が算出される。 この計算によれば、約二年で、六八、六九五円の過払分が算出されることとなり、毎月の返済額との関係から返 37

(19)

済回数が多くなればなるほ ど、さらに過払分が増加する ことになる。そうした過払分 が不当利得として貸金業者に 対する借主からの返還請求権 として構成できることになる が、民事調停では、ここまで で終了し、不当利得返還請求 の問題は、調停に顕れた内の ほんのわずかの件数︵と思わ れる︶だけが民事訴訟事件と して浮上していくことになる。    5 結びに代えて

 最近では、大手貸金業者

が、貸金業法等の改正や、多 重債務者からの過払金返還請 求に備えた引当金の積み増し 実質年率29.2% 実質年率18% 残元金 500,000 482,000 462,797 444,274 424,937 405,475 385,206 364,759 343,805 322,056 300,043 277,244 254,120 230,405 205,736 180,824 155,152 128,989 102,076 74,519 46,303 17,411      0 元本充当分 利、自、 返済額 18,000 19,203 18,523 19,337 19,462 20,269 20,447 20,954 21,749 22,013 22,799 23,124 23,715 24,669 24,912 25,672 26,163 26,913 27,557 28,216 28,892     0 12,000 10,797 11,477 10,663 10,538 9,731 9,553 9,046 8,251 7,987 7,201 6,876 6,285 5,331 5,088 4,328 3,837 3,087 2,443 1,784 1,108

 417

30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 17,411 647,828 残元金 500,000 477,397 453,989 430,929 407,304 383,531 359,205 334,696 309,813 284,397 258,745 232,573 206,128 179,271 151,828 124,143 95,975 67,438 38,433   9,000      0      0      0 元本充当分 利息 日数 返済額 22,603 23,408 23,060 23,625 23,773 24,326 24,509 24,883 25,416 25,652 26,172 26,445 26,857 27,443 27,685 28,168 28,537 29,005 29,433     0     0     0 7,397 6,592 6,940 6,375 6,227 5,674 5,491 5,ll7 4,584 4,348 3,828 3,555 3,143 2,557 2,315 1,832 1,463   995   567   133 30 28 31 30 31 30 31 31 30 31 30 31 31 29 31 30 31 30 30 30 30 31 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000   9,000      0      0 609,133  年月日 H15.1。1 Hl5.1.31 H15.2.28 H15.3.31 H15。4.30 H15.5.31 H15、6.30 H15.7.31 H15.8。31 H15.9.30 H15.10.31 H15.11.30 H15.12.31 H16.1。31 H16.2.29 Hl6.3,31 H16.4.30 H16.5.31 H16。6.30 H16.7.30 H16.8.31 H16.9.30 H16.10,31 支払合計

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 38

(20)

に関する会計基準の変更によ り、その財務状態が悪化した 結果、経営破綻に瀕する事態      ︵18︶ になっている。これは、不当 利得返還請求がすべて民事訴 訟ということになり、その解 決のための労力・時間・費用 等が最大限に要することに なった結果と考えられないこ ともない。  従来、民事調停における債 務弁済協定調停の場におい 実質年率18% 残元金 500,000 477,397 453,989 430,929 407,304 383,531 359,205 334,696 309,813 284,397 258,745 232,573 206,128 179,271 151,828 124,143 95,975 67,438 38,433   9,000 −20,867 −50,867 −68,695 元本充当分 利息 日数 返済額 22,603 23,408 23,060 23,625 23,773 24,326 24,509 24,883 25,416 25,652 26,172 26,445 26,857 27,443 27,685 28,168 28,537 29,005 29,433 20,867 30,000 17,828 7,397 6,592 6,940 6,375 6,227 5,674 5,491 5,117 4,584 4,348 3,828 3,555 3,143 2,557 2,315 1,832 1,463  995  567  133   0   0 30 28 31 30 31 30 31 31 30 31 30 31 31 29 31 30 31 30 30 30 30 31 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 30,000 17,828  年月日 H15.1.1 Hl5.1.31 H15。2.28 H15.3.31 H15.4.30 H15.5.31 H15.6.30 H15.7.31 H15.8.31 Hl5.9.30 H15.10.31 H15.11.30 H15.12.31 H16.1.31 H16。2。29 H16.3。31 H16.4.30 H16.5.31 H16.6.30 H16.7.30 H16.8.31 Hl6.9.30 H16.10。31

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 て、債務者から貸金業者に対する過払金の存在が明らかになった問題はなかったが、しかし、債務者側に取引経過 を証する預金通帳などが残っていて、そのことを貸金業者に説明すると、直ちに調停打切りを申述し、債権不存在 を申し出て、その旨の調停調書を作成のうえ終了するということがしばしば生じていたところである。消費貸借契 約書は提出されていても引直計算書などは提出されない場合は、過払分の存在が推測できても、それ以上の債務者 救済にまでは到らないのである。  その点、特定調停制度においては、文書等の提出に関し正当な事由のない不提出者に対して過料の制裁を科する 39

(21)

ことにするなど、ことに債権者側に強い協力要請を明記している︵特調一二条・二四条︶。しかし、実際には、﹁過 料の制裁﹂を科する場合はほとんどなく、したがって、文書等の提出は当事者の意思に委ねながら、協力要請をす        ︵19︶ るにとどまっているように思われる。  とくに、非協力的な債権者たる貸金業者に対しては、可能な限り早い時点で文書提出命令を発し、契約の始期か らの引直計算書を提出させたうえで、返済計画等について調停を進めるべきであり、債務者による過払分が算出さ れた場合には、その過払分について債権者︵相手方︶から債務者︵申立人︶に対する返還方についての調停を進め        ︵20︶ てもよいのではなかろうか。もっとも、この点については、特定調停と一般調停は別手続とされ、移行手続に関す る規定もないことから、いったん特定調停を取下げるなどして、あらためて民事調停を申し立てなければならない こととされている。  調停制度全体が、簡易・迅速・低廉な自主的紛争解決制度とするならば、特定調停から一般民事調停への移行措        ︵21︶ 置は、﹁簡易移行﹂として容認されていいのではないだろうか。 ︵1︶津地判平成一四年五月二九日ほか多くの裁判例があるが、それらの背後には多くの債務弁済協定調停が潜在していたものと思 われる。 ︵2︶最判平成一九年二月一三日民集六一巻一号一八二頁、最判平成一九年六月七日民集六一巻四号一五一七頁参照。 ︵3︶﹁特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律﹂︵平成一二年二月施行︶ ︵4︶民事調停においては、当事者が文書提出命令に応じない場合に、民事訴訟法二二四条の適用はないとされていることから、文 書提出命令の実効性は乏しいことになる。 ︵5︶最近は、特定調停手続を司法型倒産ADRと称するようになっている。これは、ADR法が制定され、民間の裁判外紛争解決 40

(22)

 システム︵民間ADR︶が認証されることとなったための区別である。 ︵6︶特定調停は、民事調停の特例として、支払い不能に陥る︵または陥っている︶おそれのある個人または法人が負っている金銭 債務に関する利害関係の調整を促進することを目的として定められ、特に個人の多重債務者に利用しやすい制度である。 ︵7︶この場合の調停条項は、かつて、﹁当事者間には本調停条項に定めるもののほか何らの債権債務のないことを相互に確認する﹂ というもので、貸金業者の目指すところであり、後日、不当利得返還請求の問題が生じたとしてもそれをさえぎるのに十分なもの  であったところから、その後になって、﹁申立人は相手方に対し何らの債務のないことを相互に確認する﹂として、後日の不当利 得返還請求を可能にする文言に統制されたいきさつがある。 ︵8︶東京地判平成二二年二一月三日判タ一一二五号五四頁︹林 潤︺ ︵9︶山下11土井”衣斐”脇村﹁過払金返還請求訴訟をめぐる諸問題︵上︶・︵下V﹂判タ一二〇八号四頁⊥二〇九号一二頁に詳し  い。 ︵10︶平成三年頃から一般民事調停に債務弁済協定調停が散見されるようになり、次第にその件数を増していくようになるが、この 時期のものは多重債務というよりは、支払猶予を求めて申し立てるものの割合が多くを占めている。貸金業者の方も弁済が前提と なっていることもあり、その対応は鷹揚なものである場合も見られた。調停成立後における貸金業者の債権回収率もそれほど悪い ものではなかったものとも思われる。 ︵n︶特定調停法施行前後の時期は、当時の経済動向とも関係あると思われるが、多重債務者が特定調停を申し立てるケースがほと んどで、しかも五社以上の貸金業者を相手にする割合も多く、かつその負債額も多額な場合がほとんどである。 ︵1 2︶のちになって支払督促事件として、簡裁に回ってくる件数が多くなることで認識できることになっていた。 ︵13︶平成一五・六年以降になると、債権者たる貸金業者側の特定調停に対する応接が次第に変化し、裁判所の求める引直計算書を 提出するケースと、貸金業者側の債権を放棄する旨の上申書を提出して民調一七条決定を求めるケースになっている。その多く  は、後者である。 ︵14︶この場合、債務者は、当該貸金業者に対する借金が消えたといって、きまって調停委員会に感謝の念をあらわすことになる。 41

(23)

︵15︶同類の事件としては、びわ湖造林公社事件、大阪市第三セクター事件などがある。 ︵16︶﹁第三セクターに関する指針の改定について﹂算昼\\名≦塑ω自BF碧む\ω出Φ≦ω\88\8田茜﹂,﹃け邑 ︵17︶平成二〇年八月には地域力再生機構が創設される運びになっている。 ︵18︶新貸金業法、改正利息制限法の施行に伴って、これまでのような多重債務問題は鎮静化するとともに、貸金業者によっては新 規融資の縮小を図ったり消費者金融からの撤退が推進されるものと思われる。 ︵19︶特定調停のみならず、調停全般にわたって、当事者に対する制裁や命令をすることにやや謙抑的にすぎると考える。 ︵20︶実際に債権者である金融業者の方から、過払分の存在を記載した引直計算書が提出されることもあるが、調停委員会が積極的  にその旨を債務者に開示しない方針をとっていることから、債務者が過払分の返還に積極的な態度を示すことなく終了するケース  が多い。債務者に対する情報開示の点については、各裁判所間にも温度差があることも考えられる。なお、民事訴訟による情報開  示請求については、最判平成一七年七月一九日民集五九巻六号一七八三頁がある。 ︵21︶灰聞したところによると、裁判所によっては、すでに﹁簡易移行﹂を試行している由である。 42

(24)

資料①《上限金利(年利率)の変遷》

①②③④⑤⑥⑦

1877(明治10)年・一・182.5% 1954(昭和29)年・一・出資法109.5%、利息制限法(遅延損害2.0倍) 1983(昭和58)年・一・改正出資法73。0% 1987(昭和62)年・一・改正出資法54、75% 1991(平成3)年・一9改正出資法40.004% 2000(平成12)年・一・改正出資法29.2%、改正利息制限法(遅延損害1.46倍) 2007(平成19)年・一・現行出資法29.2%、貸金業法、改正利息制限法 資料②《民事調停事件と第一審民事通常訴訟事件の新受件数の推移》 調件 事事 民停

年摩

臓斬 地半  第一審民事 通常訴訟事件数 1980 62,714 2,118 1990 59,120 1,867 196,847 2000 315,577 2,399 454,111 2001 365,204 2,194 461,252 2002 487,943 2,005 466,911 2003 613,260 2,047 495,064 2004 439,173 1,545 487,512 2005 321,383 1,599 488,040 2006 302,528 1,508 547,028 2007 254,013 1,541 657,914 (最高裁判所:司法統計年報/各年版) 資料③《民事調停委員の職業別員数》 おのでら しのぶ・法学部教授 職   業 弁護士 医師 大学教授等 公務員 会社役員・団体役員・理事 会社員・団体職員 農林水産業 商業・製造業 宗教家 公認会計士・税理士・不動産鑑定士・土地家屋調査士等 その他 職 無 総数 2005 1,924  450 138 139 1,843  488 308 231 321 3,421  643 4,759 14,665 2006 1,859  424 191 136 1,718  445 269 216 286 3,440  537 4,672 14,193 2007 1,851  420 173 130 1,655  430 255 213 276 3,428  551 4,627 14,009 2008 1,749  388 173 128 1,498  497 225 201 249 3,386  470 4,408 13,372 資料④《特定調停の新受件数の推移》 (最高裁判所:裁判所データブック/各年版) 年 特定調停件数 調停総数対比率 2000 210,866 66.8% 2001 294,485 80.6% 2002 416,668 85.4% 2003 537,071 87.6% 2004 381,503 86.9% 2005 274,794 85.5% 2006 259,297 85.7% 2007 208,310 82.0% (最高裁判所:司法統計年報/各年版) 43

参照

関連したドキュメント

サーバー費用は、Amazon Web Services, Inc.が提供しているAmazon Web Servicesのサーバー利用料とな

これはつまり十進法ではなく、一進法を用いて自然数を表記するということである。とは いえ数が大きくなると見にくくなるので、.. 0, 1,

(2)特定死因を除去した場合の平均余命の延び

Matsui 2006, Text D)が Ch/U 7214

個別の事情等もあり提出を断念したケースがある。また、提案書を提出はしたものの、ニ

1.実態調査を通して、市民協働課からある一定の啓発があったため、 (事業報告書を提出するこ と)

を負担すべきものとされている。 しかしこの態度は,ストラスプール協定が 採用しなかったところである。