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経済とカオス

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経済とカオス

原田康平

11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川11川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川11川1\川川11川川11川川11川川11川11川11川i刊11川川11川川11川川11川川1\川川11川川11川川11川川11川川11川山11川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川11川川1\川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川11川川11川川11川11川川1\川11川11川川11川川11川川1\川川11川川1\川川11川川11川川11川川11川川1\川11川11川川11川川11川川11川川11川川1\川川11川川11川川11川川11川川11川11川1\川川11川川11川川11川川11川川1刊川11川川11川川11川川11川川1\川11川1\川川11川川11川川11川11川1\川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川1\川川11川川11川川11川11川川1\川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川111川11川川11川1\川111川川11川川11川11川川1\叫11川11川川11川11川川11川川11川11川11川川1\川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川川11川11川1\川11川11川11川11│

1.はじめに

景気変動に関して. r循環的であるが,周期的ではな い」という表現がよく見受けられる.耳当りがよし それなりに尤もらしく感じられながら,改めて考えて みると,これほど情報に乏しい表現も珍しい.循環的 という言葉でホワイトノイズが排除きれ,周期的で、な いという表現で少数モードからなる系列が除外きれる. しかし,その両端の境界を明示しない限り,この言葉 はほとんどのケースに当てはまることにもなり,結果 的に何もいわないに等しい.元来リズミックとされて きた現象も,よく調べれば特有の揺らぎを含んでいる し,不規則ときれてきた現象にもそれなりの規則性が 内在きれていることが多いからである. 近年,経済学の諸分野において,カオスにかかわる 多くの報告がなされている [1-12]. この背景には,話 題としての新奇きだけでなく,不規則現象に対する道 具立ての乏しきへのストレスが感じられる.不規則衝 撃理論や自己回帰型の実証分析などは,結局のところ ホワイトノイズを入力とする線形フィルターの推定で しかなし既知の入力に対する緩和応答の加算値が得 られるだけで,将来の「不規則さ j は予測不能のまま 残される.特に恐慌などのドラスティックな変化には ほとんど無力である.一方,周期的な非線形振動だけ では,やはり不規則な現実にリアリティを欠いている. カオス系が示し得た準周期性や間欠性などのバラエ ティは,まきにシステム内部の要因だけで生み出きれ る「循環的だが周期的でない」現象であって,多くの 経済研究者が希求したものでなかったか. とはいえ,いかなるアイデアであれ,実証による裏 付けを得なければ仮説の域を出ない.筆者は,これま で生体信号処理の分野にあって,さまざまの水掛け論 に直面してきた.いわく「実用上は線形処理でも十分 ではないか J. r これはカオスだ,いや違う」などなど. そして,いくつかの文献をみる限り,経済分野でもあ はらだこうへい久留米大学経済学部 〒 830 久留米市御井町 1635 まり変わらない状況ができつつあるように思われる. 筆者はカオス理論について門外漢であるが,このよう な観点から,経済分野におけるカオス研究の現状に触 れ,特に実証面での問題点や今後のモデリングの方向 について考えてみたい.

2. 代表的なカオス系

代表的なカオス系としては .May 方程式. Lorenz 方 程式や Rössler 方程式. Duffing 方程式などが知られ る.すでに優れた解説 [13-17J が多数出版されている ので,詳細はそちらを参照いただくとして,ここでは 簡単に紹介するにとどめたい. まず. Lorenz 方程式とともにカオス研究の発端と なった May 方程式を挙げてみよう.いま,次の方程式 で表わされる系を考える. Xi+l= 似, (α>

1

)

.

係数 a が 1 より大きければ,めは i とともに指数関 数的に発散していく.そこで X が大きくなると抑制 がかかるとして 2 次の抑制項を導入し, X'+l=ax

,

-bx;' (a

>

1

,

b

>

0

l

.

さらに,変数変換をほどこして X'+l = ax

,

(1-

X;) とすれば, May の方程式となる.定常解は, α が大き くなるにつれ安定ノード→安定フォーカス→不安定 フォーカスと変化して振動解が現われ,さらに分調波 が登場して最終的にカオスに至る.つまり,この単純 な方程式だけでほとんどのシステムの特徴がシミュ レートできることになる May 方程式におけるカオス の由来についてはすでに詳細な検討が行なわれている が [13, 15J ,形式的には図 l に示きれているパイこね 変換と呼ばれる写像系に分類される.

r

2x

,

(

x

,

~玉 0.5) Xi+l==

l

2(I-x,) または 2x, -1

(x

,

>0.5

l.

ポイントは引き延ばし(係数 2 )と折り畳み (0.5 で の反転)にあり,はじめに近接していた 2 点は引き延 ばしによって次第に離れ,折り畳みによりいつかは左 右に行き分かれる.つまり,有界ではあるが,不安定

(2)

+回同 .5 Xj 図 1 パイこね変換 な軌道が形成される.これがパイこね変換であって, 逆写像は 1 対 2 になるため,行き別れた 2 点の由来を 逆上ってたどることはできない. 次に, Lorenz 方程式より直観的に理解しやすい次の Rössler 方程式を考えてみよう. ま れ す 同地 4 a 1 無 を 項 の 1 ノ z f し -'A り -J て= zvd 十い、 lvx 一 azと+ y++1・ x 一 xb<a 一一一一一一<一 x-vd ・ zz ・ x 宇品 、. hν と単純化される.ここで,

a>

0 であれば零解は不安 定であって , x は次第に増大する.これは May 方程式 における軌道の引き延ばしに相当する.そして x が C を超えると 3 番目の式によって z が急速に増大し, l 番目の式により X は折り畳まれるように原点近傍に 引き戻きれる.結果として,有界な準周期的振舞いが 生み出きれる.

Van d

e

r

Pol 方程式などと異なり 3 次元空間の中ですべての軌道は交差しない. この他,非線形方程式に強制振動項を加えた,いわ ゆる強制振動系にもカオスを示すものが少なくない. よく知られたケースが

x

+

c

X

+

x3=Acos( ω t

)

の形式で与えられる Duffing 方程式であり,この他, 励振 Van

d

e

r

Pol 方程式も適当な条件下でカオス応 答を示すことが知られている.生物など,外部から周 期刺激を与えやすい場合に,カオス検証の手段として 引合いに出されることが多い.

3. 経済理論におけるカオス

経済の各分野においても,カオスを取り込んだ多く のモデル分析が試みられている.もともと経済理論に は,逓j成性に代表きれるよっな非線形性を織り込んだ ものが多く,すでに数々の非線形モデルが提案されて いたため,カオスが導入される素地は十分であったと いえよう.詳細は文献[ 1 一 7 ]を参照いただ くとして,ここではいくつかの典型例を紹介す る. まず,よく知られている古典的理論に Day の マクロモデル [18] がある.第 t 期における資 本労働比率 ι に対し,

kt+

1

=

Ckt

a

(

l

-

k

t

)

b とおくもので,右辺の 2 項目は pollution など 行き過ぎの反動とされる.容易に理解されるよ うに,このモデルは May方程式の直接的なアナ ロジーーとなっている.

Goodwin は,著書 [5] において, May や Rössler,

さらに強制振動項を含むカオス系などを基礎とした多 数の経済モデルを検討し経済学のロジックの枠内で カオスを導入することがいかに容易であるかを示して いる.たとえば,

L

o

r

e

n

z

[1]が検討した Kaldor タイ プのモデル

Yt

+1- Yt= α {Jt

(Yt

,

K

t

)

-St

(乙)

}

Kt +l -Kt=It( 五 ,

Kt)-澈t

を考えてみよう.ここで,

Y

,

K

,

S

,

1 はそれぞれ所 得,資本,消費および投資である.逓減性を考慮して, 関数 I や S は非線形であることが仮定されている.そ して一般には,このような方程式をもとに,均衡解や 均衡経路の局所的な安定性,パラメータ変化による解 のシフトなどが定性的に論じられる.しかし , 1 を 2 次の関数に置き換えるだけで,このモデルは直ちに Hénon タイプの写像系に移行するし,積の項を導入す れば離散化した Lotka-Volterra 方程式となる.同様 に,変数や関数の選び方次第てうさまざまのカオス系 を案出することはそれほど困難ではない. さらに Duffing 方程式など,典型的なカオス系のほ とんどが経済モデルに移植されているといっても言い 過ぎではない.笹倉が提案した Duffing モデル[1 9] は,太陽活動の周期変動を入力とした経済のカオ ティックな変動というユニークなアイデアにもとづく もので, Goodwin も同様の可能性に言及している [5]. これらはカオスへのモチーフがむしろわかりやす いケースとなっている. 前述したように,サイクリックな揺動に対して,上 下のターニングポイントを陽に表わそうとすれば,最 終的に高次の抑制項の形に収まる効果が要請され,一 方,周期的な非線形振動だけではイレギュラーな現実 のサイクルに対してリアリティを欠くことになる.短 期間の聞にカオスに関して多くの研究が集中した背景

(3)

には,このようなジレンマがあったのではないかと思 われる. きて,前節で紹介した力学系は,一般に低自由度カ オスと呼ばれるもので,比較的単純な方程式で表わさ れる.これに対して,近年,中間自由度のカオスが注 目きれている [16]. たとえば,非線形振動子を多数カッ プルした複合振動子系やニューラルネット,セルオー トマトンなどで,数十個以上の変数を含み,それらを 数個の変数に集約することはできない.従来,マクロ モデルは低自由度カオスを中心に展開きれてきたが, ゲーム理論やミクロな問題などは,このような中間自 由度系の方がフィットしやすいように思える.した がって,このような方向で経済システム特有の力学を 解明する試みが今後増えていくのではないか.

4. カオスの実証

あるデータ系列が与えられたとして,それがカオス であると実証できるのか.これまで実際にカオスが見 いだされた系としては,流体系や液晶,電子回路,レー ザー,化学反応系,神経系などがある [16. 20J. いず れも外部から制御可能な系であって,スベクトル分析 などにより分岐のプロセスが克明にたどられる一方, 図 1 のようなマッピング(リターンマップとかローレ ンツマップとも呼ばれる)などにもとづいてカオスで あると認定されてきた.しかしながら,経済データの ほとんどは一過性であって,パラメータを変えながら 各フェーズのデータを揃えることなどほとんど不可能 といえる.マップを作成しても,たいていは不規則な 分布パターンとなって,判定の材料とはなり得ない ケースが圧倒的に多い.このため,一過性の時系列デー タしか得られない分野では. ["相関次元j と ["Lyapunov 指数」だけがシステムの性質を測る指標として用いら れてきた.ただし. Lyapunov 指数については,かなり デリケートな量でありながら信頼性の程度を判断する 方法がなしこれだけでカオスがあると主張するケー スはむしろ少ない.ここでは,話題を相関次元に絞っ て内容を紹介し,次節でこれまでの経緯と問題点を指 摘したい. いま,ホワイトノイズと正弦波という 2 つの極端な ケースを考えてみる.まず,正弦波

X

l

=

s

i

n

(

i

)

があるとして,これをたとえばX軸上にプロットする と,区間[ーし

1

J 上に分布する.次に適当な間隔 m をとって 2 次元ベクトル

5

3

6

X

l

(

2

)

=

(Xh Xl+m) を構成し . X-y 平面上にプロットしてみる(このよ うな作業は「埋め込み embeddingJ と呼ばれる)と, 図 2 a に示きれているような楕円状の軌道が現われる. しかし,線状の軌道内に収まるという点で 1 次元で のプロットと変わるところはない.さらに

X

l

(

3

)

=

(Xh Xl+m. Xl+2m) と 3 次元ベクトルを作って,空間にフ。ロットしでも結 果は変わらない(図 2

b

l

.

次に . {xd がホワイトノイズの系列である場合に同 じような埋め込みを行なってみる.図 2 c および図 2 d に示きれているように,プロットは増えた次元分だ け広がり,形として収束する気配を示きない. この他 2 つの振動モードを持つトーラスであれば, l 次元のプロットは線上に 2 次元は平面上に広がり, 3 次元も筒状の曲面上に分布する.つまり 1 つの振 動成分だけからなる場合,埋め込み次元を上げてもプ ロットは有限の曲線軌道上に収まり 2 つのモードを 含むときは 2 次元の曲(平)面内に収まる.このよう

a

c

e

X

,

l+m

A

,-X

j

b

Xj+2m

X

j+m Xj d

f

図 2 2 次元および 3 次元埋め込み空間における正弦 波 (a. b). ホワイトノイズ (c• d) ,および Röss!er系 (e. f)の分布 © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.

(4)

な有限次元に収まる軌道はアトラクタと呼ばれる.一 方,無限のモードを含むホワイトノイズの場合,次元 を上げてもその分だけプロットは拡散する.直観的に いうなら,何次元に収まるかは,何個のモードが含ま れるか,あるいはシステムを記述するのに何個の変数 が要求されるかに対応する.ちなみに (Xi,

Xi+m

),

(Xi

,

Xi+m

,

Xi+2m) などで表わされる軌道は位相空間

(X

,

X)

,

(X

,

x

,

X) 上の軌道とトポロジー的に 同等である. 最後にカオスの例として Röss!er 系を挙げてみよう. 図 2

e

,

f に示されているように, Röss!er 系のカオス 軌道は幅を持って折れ曲がった楕円状のパターンを示 す.すなわち 1 次元では収まらないが 2 次元一杯 に広がるわけではない.しかもこの範囲内において軌 道は安定せず,常に変化する.このようなカオス特有 の広がったアトラクタは「ストレンジアトラクタ j と 呼ばれている. Grassberger と Procaccia [2 1]が提案 した相関次元は,このようなアトラクタのストレンジ ネスに対する直接の指標となっている. いま,時系列データ Xh

X2

, …,

XN があるとき,適当 な埋め込み間隔 m をとって , d 次元ベクトル (d)_ (

i

'

-

'

=

=

~Xi,

Xi+m

,

Xi+2m

,

・・ ,

X

i

+

(

d

-

l

)

m

)

を構成する.次にすべてのベクトル対のノルムの累積 分布関数

c

<

d

)

(

r

)

= (I/N2) 玄(川 H(r-II X/向ーが d) 1 ) 1 を求める.ここでH( )はへビサイド関数である .

C

(

d

)

(r) は相関積分とも呼ばれ,任意の点、からまわりを見 たとき,半径 r の d 次元球の中にどれくらいの点があ るかを示す.正弦波の場合, d の値を問わず , d 次元 空間内で X/d) は曲(直)線上にあり,半径 r が十分小 さければ,半径 r の球内の点数は r に比例する.すな わち, Cめ (r) αr1

r<<

1

(d=

1

,

2

,

3

,…)

l

i

m

l

i

m

a

e,

n

C

<

d)(rL=l d →∞ γ → o

a

e,

nr

となる. 2 次元トーラスでは ,

d

=

1 でプロットは直 線上 2 次元以上で曲(平)面に分布し,

C

(l

)

(

r

)

ocr1

,

r<

<

1

C

(

d

)

(

r

)

ocr2

,

r<

<

1

(d= 2

,

3

,…)

で, d→∞の極限値は 2 である.ホワイトノイズの場 合, d 次元の状態点は d 次元球全体に広がり, C(d)(r) α rd

r<<

1

(d=

1,

2

,

3

,…)

l

i

m

limθ e, n C<拘 (rL=oo

d→∞戸 a e, nr ホワイトノイズに対する実際の計算例を図 3 に示し た.このプロットは Grassberger-

P

r

o

c

a

c

c

i

a

(

G

-P)

プロットと呼ばれ,

r<<

1 の領域の傾きから相関指 数と呼ばれる r のべき指数が知れる.そして , d→∞で、 相関指数が有限値に収束したとき,相関次元と定義き れる.正弦波と 2 次元トーラスの相関次元はそれぞれ し 2 となり,ホワイトノイズは有限の次元値を持た ない. ではカオスの場合,相関次元はどうなるのか.容易 に想像きれるように, strangeness は整数値からのず れとして検出される. Röss!er では 2 より幾分小きい値 となり, Hénon では1. 25 ほどの値になる.したが って,相関次元を推定して,それが有阪の非整数値と なれば,そのデータが比較的低自由度のカオス系に由 来する強い証拠となるはずである. 相関次元の特徴は,計算アルゴリズムの単純さと, 何よりもその定量性にあるといえる.たとえば,狭帯 域に制限されたホワイトノイズを位相空間に埋め込め ば,いかにもストレンジアトラクタのようにも見え, 区別はっきにくい.マッピングによる判断がほぼ次元

1

-

2 の低次元カオスに限られる由縁であり 3 以上 となると,このような指標によらざるを得ない. このような利点を受けて,相関次元推定は多くの分 野で試みられ,ホットなカオス論争を巻き起こす契機 となった.しかしシミュレーションであれば,計算 精度,データ量ともにほとんど制限を受けないが,現 実のデータはさまざまの制約を伴う.したがって,同 じ対象についてきえ「次元4.4 だ J , r いや有限値ではな い」という相反する結論が登場する.筆者は,これま で・α 波という脳波成分のカオス性に関して,この種の 議論に遭遇してきた [22, 23]. そこに総括されている 一覧表は,このテーマに寄せられてきた多大の時間と 労力の証しであり,現在も多くのところで継続きれて 。 -且句'u ((』)、唱 dU) 回。 -3 -4 0 I og (r) 図 3 ホワイトノイズの G-P プロット

5

3

7

(5)

いる.そして,次節で述べるように,経済分野でも同 じことが再現きれているように,思える.

5. 経済におけるカオスの実証

経済分野におけるパイオニア的研究として Mandel. brot を挙げる必要があろう.彼はフラクタル幾何学の 先駆者として知られるが,価格変動などのフラクタル 性に関しでも詳細な検討を行なっており(内容は「フ ラクタル幾何学J [24J に要約されている),予測やモ デル化に際して Gaussian を仮定することの無意味さ を強調している.カオスとフラクタルは不可分の関係 にあって,相関次元もフラクタル次元と密接に関わり 合っている [16]. わき道にそれるが,武者は交通量や株価変動のスベ クトル分析を行ない,これらがlI f ノイズであること を示している [25]. 1/1 ノイズはフリッカノイズと かピンクノイズ(ホワイトとブラウンの中間)とも呼 ばれ,自然界にごく一般に観察きれながら,その起源 は未だ明らかにされていない.この 1/ 1 ノイズも,ど の周波数帯域で見ても同じ特性という意 。 味で,フラクタル性を内包している. きて,具体的にカオスという言葉を伴 う実証研究は相関次元の案出以降であっ て, 1980年代後半にほぼ出揃っている

[3

,

7

-11]. いずれも GNP や金利変 動などについて次元推定を試みたもので,

positive

,

negative の結果が錯綜してい る.筆者も,図 4 に示した米国 GNP の 結果から,次元4.2 という値を遠慮がち に提出した経験がある[12J. 肯定論は, おおむね 3-7 の次元値を提出し,否定 (一 2 論はデータや推定方法の難点を挙げて, き

それらの値が信頼できないことを指摘し

E

ている.初期の段階での分析結果に関し ては Lorenz による要約 [3J が印象的と いうべきで,一言でいうなら「カオスで あるとの主張のいずれも厳密なチェック に弱みを持ち,現段階でカオスと断定で きる明瞭な証拠はない.しかしカオス の可能性もいまだ排除きれてはいない」 となる. では,なぜこのような暖昧な議論に終 始するのか.その理由は,相関次元推定 のデリケートきに集約される.たとえば

5

3

8

-3 。 ホワイトノイズをローパスフィルターに通せば,図 5 のように, G-P プロットは肝心の領域で歪んでくる. この例は 2000 点のデータを対象としているため,シス テマティックな歪みとして判読できるが,データ数が 少なければ,誤った値を取り出してしまう危険性は高 い.この他,埋め込み間隔や G-P プロットでの傾き 推定法なども影響を与え得る [23]. もっとも大きい要 因はやはりデータ長とデータに課された歪みというべ きであろう.データ長については,信頼できる推定の ためには次元 4 程度で 1 万個程度のデータが必要との 指摘もある [16J. 月次データや日次データを取るなど サンプリング関摘を狭めると,見かけ上のデータ数は 増えるが,これは C( 吋の推定精度を高めるだけで,推定 法そのものの信頼性向上は期待できない.経済データ の場合,どう工夫しでもせいぜい 100-200年,それさ え定常性など厄介な問題が付きまとう.高々数十年, キチンサイクル 10数期分程度で,そのストレンジネス をきちんと推定するなど,やはり不可能というべきか も知れない.ちなみに,筆者らが脳波の次元推定に使 0.5 0.75 log(升 図 4 米国GNP成長率の G-P プロット口2J © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.

(6)

。 ( ':-1‘ ) 司g

u

国 -2 ー。 -3

-

4

2 3 log (r) 図 5 サンプリング周波数の 0.1 以上が遮断きれ たホワイトノイズの G-P プロット.フィル ターは非再帰型を使用 用したデータ数は最大 2 万点であり,それ以上はコン ヒ。ュータの能力と使用料金が伽となった. 帯域制限など,データが受けている歪みも深刻とい わなければならない.この点について, AR モデルなど を適用して,残差系列で次元推定を行なう方法が広〈 取られている[

9

,

10J.先ほどのホワイトノイズ例で いうなら,フィルターの効果を AR で推定して影響を 取り除しいわば逆フィルタリングをほどこす方法と いえる.もしデータが線形フィルターによる歪みを含 む場合は有効な方法といえるが,そもそもカオスを生 み出すようなシステムを想定するとき, AR による形 式的な補正がどこまで意味を持ち得るのか,不安は拭 えまい.データには,この他にも季節調整という名の 非線形フィルターやトレンド除去による特性のあいま いな低域遮断フィルターなど,さまざまな加工が含ま れている.金利などの瞬時データは別にしても,累積 系列は月や年単位での加算というフィルター,対前年 同月比や同期比などでも同じフィルターが入っている. 実際, G/P プロットを描いても,直線領域がほとん ど見あたらないケースも少なくなし定規を当てるな り最小 2 乗法をほどこすにせよ,常に恋意性をまぬが れない.おまけに,たいていのデータは帯域そのもの がせいぜい 2 桁しかない.どのような工夫をほどこし たとしても,その信頼性には常に疑問符が付きまとう ことを念頭に置いておく必要があろう. Brock らが提 案した BDS 統計量 [9J など,次元そのものの推定は あきらめたという雰囲気きえ伝わってくる.

6. 経済分野におけるカオス研究の今後

前節で示したように,相関次元にもとづいたカオス の議論はなお問題が多い.しかも positive にせよ negative にせよ,何がわかったのかがいま 1 つわかり にくい.次元 4.2 などといわれでも,具体的な力学系 を想定することはできず,掻摩感、を拭えないわけで, これこそ次元にもとづくカオスの議論が十分に浸透し ない最大の理由ともいえよう.しかしながら,経済シ ステムや社会システムが常に非線形な要素をはらむ複 合系であることも事実であって,このような世界にカ オスが絡む可能性はきわめて高いといわなければなら ない. ともかく,相関次元や Lyapunov 指数による議論が 決着するとは思えないが,カオスへの糸口を与えたこ とは確かである.今後,モデリングの面では,従来の カオス系の移植にとどまることなしもっとミクロな 視点から構築し直していく必要があろう.たとえば, 本誌で安達・合原が示したニューラルネットのカオス [26J やセルオートマトンのカオス [27J などは,具 体的な社会のネットワークを単純化したものとも解釈 できるしゲーム理論などと直接に結びつけることも できそうである.また, [26J で指摘されているよう に, 予測という観点からもカオスの意義は無視できな い.都市形成などは diffusion

l

i

m

i

t

e

d

aggregation と 呼ばれる結晶成長モデル [16J ときわめてアナロジカ ルであり,このように考えていけば,カオスに結ぴつ く具体的テーマに不足はなさそうである. 一方,実証面では,スベクトル分析の見直しと多元 的な分析が必要と思われる.近年の経済時系列分析に おいてスベクトル分析はほとんど閑却されているが, データにどのようなモードが含まれているのか,まず この点の把握から出発すべきであって,ただちちに次 元計算に入るのは尚早というべきであろう.さらに, ここでいう多元的分析には 2 つの意味を込めている. まず,経済データの多くは互いに密接に関わり合って いて,ある量だけがカオス性を示すことはありえない. したがって,多くの量について検討を行ない,その結 果が E いにコンシステントであるかどうかをチェック しなければならない.もう 1 つは,このE いの関わり 合いの中にも非線形特有の性質が検出きれなければな らないという点である.たとえば金利と投資の関係や 日本とアメリカの関係などを例に挙げれば,これらは 時間的なズレをもって関連している.そして,その相 対的な関係が不変であれば,積極的に非線形を持ち込 む根拠は失われる.おそらし互いの位相関係を詳細 に検討して,歪みの蓄積と解放というカオス特有の現 象を探ることが最良の方法と考えられ,そのための

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