133 学 術 情 報 第
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回 東 京 女 子 医 科 大 学 漢 方 医 学 研 究 会 日 時 昭 和59年11月18日 場 所 中 央 校 舎 1階 会 議 室 1.腹痛と腹診 (産婦人科〉谷美智士 中医学では八綱(陰,陽,寒,熱,虚,実,表,裏〉 とし、う診断法の代表となるものがありますが,その八 綱弁証の中で特に陰陽虚実を弁別しなければ診断がつ かないということになっています.今回の腹部の診断 に当たり,特に虚実と寒熱という大きな二つのものが 理解出来ないと話しが進まないわけですが,この寒熱 や虚実は,われわれの西洋医学的な目から見ますと全 く違う表現です.そこで"大略,中医学というものが, どのような考えで腹痛というものを見ているか,それ から,用いる薬物の選別の方法の基本的なことについ て参考に述べたいと思います. 診断法は四つで望,開,間,切とありますが,これ を現代医学のものに置き換えるてみると,望というの はinspection,聞は声とか雰囲気,匂いなどをいい,聞 は病歴や家族歴などのこと.切はpalpationのことで す. 腹病に関して最も大切なものは腹診ですが,腹診は 私共のやる腹部の診断法と基本的に違ったところがあ ります.まず足を伸して診断します.何故足を伸すか というと,中国医学での腹診の目的は,内部臓器,あ るいは内部のいろいろな失調を反映している体表の変 化なのです.西洋医学的な見方は,腹壁を通して内臓 諸器宮の状況を判断しているわけです.ですから,わ れわれは足を立てさせます.シュラーフェンさせて見 ているわけですが,張ったほど反応が著明に出てきま すから,そういう点で基本的な違いがあります. 今一つの根本的な違いは,腹部の診断をする時,西 洋医学は例えば心下部に圧痛があれば,その下の臓器 に異常があるとある程度察してし、くわけで,それはあ くまでも病気の部位を判断し,その後いろいろな検査 をしてその状況をつぶさにみた上で,処方というか治 療法が決定されるわけです. ところが,中国医学は, 腹部の所見イコール方剤名という方式が出てくるとい う違いがあります.例えば,小柴胡湯の証というのが ありますが,季初部に沿って,特に季肋下部に抵抗や 圧痛を認めるもの.しかも圧痛の度合いが中等度程度 のもの,あるいはもう少し弱いものには小柴胡湯を 使ってよい.即ち腹部の所見イコール治療法,という 判断です. すなわち,病態をみてそこに薬物を働かせようとす るわけですが,例えば熱証の方で、咳を止めたいという 場合,咳止めというのは漢方でも30種以上あります. 西洋医学的にし、うと鎮咳作用の強さと作用機序で区別 しますが,中国医学的に投薬する場合には,薬物に性 格を与え,それぞれ熱と寒が分けられていて,熱証の 人の場合は寒性の薬物を与えるというようになりま す.虚証になってくると病勢は寒証というわけで,こ ういう時に寒薬を与えますと,むしろ悪い方に引っ 張っていく.そこで虚証の場合には熱薬を使う.そう することによって居所の生理機能を活発にして疾病の 回復を促す.すなわち人体のホメオスターシスを賦活 させる作用を重視する. 腹痛のタイプにもいろいろあるわけですが,代表的 な腹痛の治療薬を挙げておきます.大建中湯,桂枝加 弓薬湯,大黄牡丹皮湯.この三つの治療薬はいずれも 腹痛治療薬です.ところが内容を少しみていきますと, これがまるで違う内容を持っているわけです.まず大 建中湯は山板(山被の実),乾萎,人参,修飴の四つの ものから出来ています.大建中湯の構成成分は薬性か らいくと熱,温かい薬です.ですから急性の炎症があっ たりすると益々熱を与えるということになって,そう いうものには非常に使いにくい薬ということです.で はどうし、う時に用いる薬かというと, これは寒積とい う言葉を中国医学では使うのですが,寒邪が腹の中に たまっているような状況で,炎症症状のない激しい腹 痛というように解釈します.例えば,イレウスのよう な疾患です. 次に桂枝加有薬湯.桂枝,大秦,乾萎,甘草,考薬 が入っています.この桂枝加巧薬湯は過敏性大腸炎に 非常に良いという報告が沢山あります.潰蕩性大腸炎 などにも併用して良い結果を出しているようです.寒 熱の薬性からみると多少入り混じったものということ になります.ですからいろいろなタイプのトラブルに 桂枝加弓薬湯は使って効果が出てきます. 最後の大黄牡丹皮湯は,大黄,=C硝,牡丹皮,桃仁, 冬瓜子.前二者とは全て別の薬を使っています.大賞-233-134 は下剤,腸管刺激性の緩下剤で消炎作用も非常に強い ようです.腸内の異常細菌を抑えるという,いわゆる 抗菌作用も認められている.即ち炎症に対して抑制す る,熱に対して寒の働きをする.大賞は大寒に当たり ます.牡丹皮,冬瓜子も寒.桃仁だけは平薬.非常に 寒性の強い薬になっています.すなわち熱性である炎 症の強い腹痛に用います.大黄牡丹皮湯が一番良く使 われているのは虫垂炎です. 以上,代表的な腹痛の治療はこの三つですが, この 三つを比べると身体を湯める薬,冷ます薬,中間とい うことになります.ですから,虚実あるいは寒熱とい うものの正しい判断に基いて使用してもらいたい.