中心として
著者 川満 直樹
雑誌名 社会科学
号 85
ページ 59‑78
発行年 2009‑11‑30
権利 同志社大学人文科学研究所
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011854
1.は じ め に
1947
年に英領インドから分離独立を果たしたパキスタンは,人的,経済的にも悪条 件のもとでの出発を余儀なくされた。なぜなら分離独立以前のインド亜大陸において,パキスタン地域(東西パキスタン)はこれといった産業もなく,農業を中心とした地域 であり,また工業的には後進地であった1)。それに加え同地域で活躍していたのはムス リムではなく,ヒンドゥー教徒やスィク教徒等であった。経済的な側面から見たならば,
同地域はインド亜大陸内の後進地であった。
分離独立後,新生パキスタン政府は,1948年に「産業政策声明」を発表する2)。その 声明の主な内容は,消費財産業の優先,民間資本の主導性の確認であり,パキスタン政 府は,同国の経済分野の発展を政府主導ではなく,民間主導で行うことを目指した。パ キスタン政府は,パキスタン経済の発展を民間に委ねたのである。
このようなパキスタン政府の要請に応じたのが,インド亜大陸内で活躍していたいく 現在,パキスタンで活躍する財閥は,大小あわせ約50近く存在するといわれている。
本論で取り上げたハビーブ(Habib)財閥は,印パ分離独立当初からパキスタンで活 躍してきた財閥であり,金融を中心にパキスタン経済の発展に大きく貢献してきた財 閥である。
そのハビーブ財閥にはサブグループが存在し,各グループが共存する形で,パキス タンでビジネスを展開している。筆者は,以前にハビーブ財閥のサブグループの一つ であるモハメダリー・ハビーブ・グループ(MohammedaliHabibGroup)の事業 展開ならびに所有と経営の問題を取り上げ論じた。今回は,同じハビーブ財閥に属す るダーウッド・ハビーブ・グループ(DawoodHabibGroup)を取り上げ,同グルー プの事業形態,および一族による傘下企業の支配構造,特に所有面と経営面に焦点を あて考察を行う。
ハビーブ財閥の形成と発展に関する一考察
ダーウッド・ハビーブ・グループの所有と経営の問題を中心として
川 満 直 樹
つかの有力なムスリム商人(ムスリム一族)たちであった。彼らは独立運動へのサポー ト3),またパキスタン建国に際し早急に必要とする公共性の高い諸企業4)(金融・海運・
空運)の設立および資金提供を積極的に行った。それら企業の設立にかかわったムスリ ム商人(ムスリム一族)は,その後「建国企業(Nati
onBui l di ngCompani es
)」とよ ばれ,現在でもパキスタンにおいて名門一族である。本稿で取り上げるハビーブ一族も「建国企業」に名を連ね,分離独立当初のパキスタ ン経済に大きく貢献した一族である。特に,ハビーブ一族はハビーブ銀行の設立などパ キスタン国内で金融業を中心に活躍した。
ハビーブ一族については,以前に詳しく述べている5)のでここでは簡単に触れたいと 思う。ハビーブ財閥の祖となる人物は,ハビーブ・イスマイル(Habi
bEsmai l
)であ る。彼はイスマイル・アリ(EsmailAl i
)の子として1878年に生まれ,ハビーブと名 付けられた。父イスマイルは,ボンベイ(現ムンバイ)に工場を持ち,当時の産業界に おいてはパイオニア的存在であった6)。10代前半で父イスマイルを亡くしたハビーブは,おじカシューム・モハメド(Cassum Mohamed)のもとで働き始める。その後,ハビー ブは彼のもつ才能を発揮し,おじのパートナーとなりカッパー・アンド・ブラス・マー チャンツ・アソシエーション(CopperandBrassMerchantsAssoci
ati on
)の経営を カシュームより任される。ハビーブは,その後,ジュネーブとウィーンにヨーロッパ貿易の拠点となるオフィス を開設した7)。1921年に設立したハビーブ&サンズ(Habi
b& SonsLtd.
)は,ハビー ブ家の貿易業務を一手に引き受け,日本や中国ともビジネス関係を築き貿易を行った8)。 同社が主に扱った輸入品は洋品類,生糸,ガラス製品,刃物類であり,輸出品としては 綿が主であった。その後,ハビーブ&サンズは次第に綿花の取引に事業の中心を移し,1930
年代までにハビーブ家は,インド亜大陸内の有数の綿花商人となっていた。現在,ハビーブ財閥はアーメド・ハビーブ(AhmedHabi
b
)が中心となったアーメ ド・ハビーブ・グループ(AhmedHabibGroup
),ダーウッド・ハビーブ(DawoodHabi b
)を中心としたダーウッド・ハビーブ・グループ(DawoodHabibGroup
,以 下ダーウッド・グループ),モハメダリー・ハビーブ(MohammedaliHabi b
)を中心 としたモハメダリー・ハビーブ・グループ(MohammedaliHabi bGroup
,以下モハ メダリー・グループ)の三つに分かれている(図表1を参照)。この件に関してハビーブ関係者は,「それは決して一族内の分裂を意味するのではな く,彼らの父ハビーブ・イスマイルの企業家精神が息子に受け継がれ,各々がその能力
を発揮した結果である」9)と述べている。だが,サブグループ化の原因やそのプロセス は定かではない。しかし,現在ダーウッド・グループとモハメダリー・グループの両グ ループがハビーブ・インシュアランス(Habi
bInsuranceCo.Ltd.
)の株式を持ち合 い,また役員を派遣しあい共同で経営を行っている10)。ハビーブ・インシュアランスの 共同経営はハビーブ一族が分裂をしていない証拠であろう。このような財閥内でのサブ グループ化や財閥の分裂現象については,財閥の分裂化現象が顕著に進行しつつあるイ ンド財閥11)との比較においても,今後の興味深い研究課題となる。ちなみにハビーブ&サンズは,現在ダーウッド・グループの一傘下企業である12)。
これまで筆者は,パキスタン建国当初からパキスタン経済の発展に大きく貢献してき たハビーブ財閥の活動,特にハビーブ一族の活動を明らかにすることを目的とし,研究
図表1 ハビーブ家系図
(出典)HouseofHabibでの聞き取り調査(1998年7月)およびHabibBankAG Zurich,BriefHistory, pp.45,ダーウッド・ハビーブ・グループとモハメダリー・ハビーブ・グループ傘下企業各社の AnnualReportより作成。
(注)図中の★印は女性を示す。同家系図は2009年7月13日までに収集した資料をもとに作成した。
Farah Fatimahۻ
Munizehۻ Sarwatۻ
Abbas D.
Ali Raza D.
Hurtaza D.
Hamid D.
Qumail D.
Hussain D.
Habib Mohammad D.
Asghar D. Tairaۻ
Rashid D.
Niamet
Fatimaۻ Zuhair D.
Mauoor G.
Asghar G.
Aun Mohammad A.
Imran A.
Yusuf A.
Ismail A.
Ghulamali Habib Mohammedali
Habib Ahmed
Habib
Dawood Habib Sakinabai
Habibۻ
Esmail Ali Habib Esmail
Qumail R.
Muslim R.
Razia
Asad H.
Habib M.
Suliman M.
Hyder M.
Mohammad H.
Rafiq M. Jamilaۻ
Mohammadali R. Sayyedaۻ Reza S.
Ali S.
Zain H.
Ahmed H.
Murtaza H. Hasnain A. Qasim A.
を進めてきた。そのような観点から,以前に同財閥のサブグループの一つであるモハメ ダリー・グループの事業展開ならびに所有と経営の問題(特に一族員との関係で)を取 り上げ論じた13)。しかし,先にも述べたようにハビーブ財閥内にはいくつかのサブグルー プが存在する。以前に論じたモハメダリー・グループは,そのハビーブ財閥の一つのサ ブグループにすぎない。よって,モハメダリー・グループのみを論じたのでは,ハビー ブ財閥を総合的に論じたとは言えないであろう。ハビーブ財閥の活動を明らかにするた めには,同財閥内に存在するサブグループの考察が必要であることは言うまでもない。
よって,本稿の主な目的は,これまで取り上げていなかったハビーブ財閥のサブグルー プの一つであるダーウッド・グループを取り上げ,同グループの事業形態およびダーウッ ド・ハビーブ一族による傘下企業の支配構造,特に所有面と経営面に焦点をあて,その 特徴などを考察し明らかにすることである。
2.ダーウッド・ハビーブ・グループの傘下企業
ダーウッド・ハビーブ・グループの中心人物は,先にも述べたとおり,ダーウッド・
ハビーブである(図表1を参照)。彼は,モハメダリー・ハビーブとともに,革新的な 企業家であった父ハビーブ・イスマイルの影響を受けた人物である。それは,弟である モハメダリーとともに1941年8月にインド亜大陸初となるイスラーム系の銀行(ハビー ブ銀行:Habi
bBank
)の設立を行った14)ことからもうかがえる。ダーウッド・グループも,モハメダリー・グループ同様に,分離独立当初よりパキス タン国内で金融業や製造業を中心に事業を展開し,同国の経済発展に大きく貢献したグ ループである。図表2はダーウッド・グループの傘下企業を示したものであり,現時点 で確認している傘下企業は約30社近くある。また,ダーウッド・グループ傘下企業と モハメダリー・グループ傘下企業との比較において特徴的な点は,近年モハメダリー・
グループがインダス・モーター(IndusMotorCo.Ltd.),タール(ThalLtd.),アグ リオート・インダストリーズ(Agri
autoIndustri esLtd.
)やパキスタン・ペーパーサッ ク(PakistanPapersackCorporati onLtd.
)などの製造業を中心に事業を展開(特 に自動車製造)しているのに対し,ダーウッド・グループは製造業が中心というよりは,パキスタンで金融業を中心にビジネスを展開している点である。それに加え,パキスタ ン以外の国へも積極的に進出し,ビジネスを展開している点は,モハメダリー・グルー プに比べると特徴的な点と言えよう。
ここで,ダーウッド・グループの主要な傘下企業について簡単に述べたいと思う。は じめに銀行を含む金融業から見ていこう。
ハビーブサンズ・バンク(Habi
bsonsBankLtd.
)は,1984年にハビーブ・モハメ ドD.
ハビーブ(HabibMohammandD.Habi b
,図表1の家系図を参照)が中心とな りイギリスのロンドンに設立された。よって,同行の活動の場はパキスタンではなく,主にイギリスである。設立の中心人物であったハビーブ・モハメド
D.
は,ハビーブ銀 行のJoi ntPresi dent
として,1954年から同行が国有化される1974年まで経営にかか わっていた。その後,1975年にスイスへ渡り,ハビーブ・バンクAGチューリッヒの Manager
,そしてJoi ntPresi dent
をつとめた。ハビーブ・モハメドD.
は,ハビーブ 銀行とハビーブ・バンクAGチューリッヒの経営にかかわったのち,1984
年にイギリ スへ渡り,ハビーブサンズ・バンクの設立にかかわった。設立当初の同行の社名はハビー ブ・サンズ・トラスト・アンド・ファイナンス(HabibsonsTrustandFi nanceLtd.
) であったが,1988年に現在の社名に変更している。先ほども述べたように,ハビーブサンズ・バンクの活動は主にイギリスであるが,
1989
年にはパキスタンのカラチに駐在員事務所を開設し,またその翌年の1990年には図表2 ダーウッド・ハビーブ・グループ傘下企業一覧
(出典)日本貿易振興会(1983年),HouseofHabib本社(1998年)での聞き取り調査,およびダーウッド・
ハビーブ・グループ主要傘下企業AnnualReport・08より作成。
(注)★:HabibInsuranceCo.Ltd.はモハメダリー・グループとダーウッド・グループが共同で経営を行っ ている。表中のUAEはUnitedArabEmirate(アラブ首長国連邦),BVIはBritishVirginIslands
(英領ヴァージン諸島)をさす。
Habib& SonsLtd.
BankALHabibLtd.
HabibsonsBankLtd.
HabibAfricanbankLtd.
HabibOverseasBankLtd.
HabibAssetManagementLtd.
Axiom Funds
ALHabibCapitalMarkets(Pvt.)Ltd.
HabibFoodsLtd.
GreenshieldInsuranceBrokersLLC(UAE) HabibBankingCorporation(Bahamas) HabibInvestmentCorporation(UAE) HabibCapitalAdvisorsLtd.(BVI) HabibProperties(UAE)
GreenshieldDevelopers(UAE) HabibInsuranceCo.Ltd.★
GreenshieldRealEstateBrokers(UAE) GulfPropertiesInternational(BVI) BaluchistanConcrete& BlocksLtd.
BaluchistanParticleBoardLtd.
HabibSugarMillsLtd.
HSM Textiles HabibMotorcycle HabibEducationalTrust
(HabibPublicSchool,HabibGirlsSchool) HabibMercantileCompanyLtd.
HabibMaritimeLtd.
HabibGeneralLtd.
HaydaryConstructionCompanyLtd.
HasniTextiles(Pvt.)Ltd.
KarachiMercantileCo.(Pvt.)Ltd.
スイスのチューリッヒに事務所を開設している。
次に,バンク
ALハビーブ(BankALHabi b
)は,ハーミドD.
ハビーブ(Hamid D.Habi b
)が中心となり1991年10月15日15)にパキスタンで設立された16)。ハーミドD.
はバンク
ALハビーブの初代 Chai rman
である。ちなみに,ハーミドD.
もハビーブ・モハメド
D.
同様に,ハビーブ銀行のDi rector
を1954年から1974年の国有化までつと めていた。バンク
ALハビーブは,本店をパンジャーブ州南部に位置するムルタン(Mul tan
) におき,実質的な活動のためのオフィスをカラチにおいている。現在では,パキスタン 国内の主要都市を中心に160以上の支店をおき,そのネットワークはパキスタン全土を 覆っている。幅広いネットワークだけではなく,バンクALハビーブはパキスタンの
金融界でインターネットバンキングやイスラーム金融等の業務で常に新しい商品を提供 するなど革新的であり,またパキスタン金融界で先駆的な存在となっている。また,上記二つの銀行以外にもバンク
ALハビーブの子会社としてパキスタンに 2005
年に設立されたアル・ハビーブ・キャピタル・マーケット17)(ALHabibCapi tal Markets
(Pvt.)Ltd.), またハビーブ・アセット・マネジメント (HabibAsset ManagementLtd.
),1990年に南アフリカのヨハネスブルクに設立されたハビーブ・オーバーシーズ・バンク(Habi
bOverseasBankLtd.
),1998年にタンザニアのダル エスサラームに設立したハビーブ・アフリカン・バンク(HabibAfri canBankLtd.
),2000
年にアラブ首長国連邦に設立したグリーンシールド・インシュアランス・ブロカー ズ(Greenshiel dInsuranceBrokersLLC
18))などがある19)。ダーウッド・グループが かかわる銀行などを含む金融機関は,パキスタン国内はもとよりパキスタン以外の国や 地域にもありグローバルにビジネスを展開している。次に,ダーウッド・グループの主な製造業をみていきたい。ハビーブ・シュガー
(Habi
bSugarMi l l sLtd.
)は,1962年にカラチに設立された。本社はカラチに,工場 はカラチから北西に約300キロメートルにあるナワーブシャー(Nawabshah)におき,また設立から2年後の1964年にはシンド州に第二工場を建設した。それによりサトウ キビの粉砕能力は,設立当初約1,
500
トン(1日あたり)であったが,第二工場ができ たことにより飛躍的に生産能力が上昇した(同社の最近の生産量については図表3を参 照のこと)。同社は,その社名からもわかるように製糖業を中心に事業を展開しているが,現在で は,製糖業以外に四つの部門を持っている。具体的には,産業用アルコールや食用油な
どの製造,港湾等での貨物の取扱業,高品質のタオルなどの製造を行う織物業20),およ び貿易業である。
次に,バローチスタン・パーティクルボード(Bal
uchi stanParti cl eBoardLtd.
) は2008年で設立28年目を迎える21)。同社は,その社名からも分かるように木片や木材の 削りかすなどで固めたパーティクルボード,いわゆる削片板の製造を行う企業である。次にハビーブ・フーズ(Habi
bFoodsLtd.
)は,エスニック食品やハラールフー ド22)の食品加工産業の分野で活躍することを目的に2004年にパキスタンで設立された 食品加工メーカーである。「TAZA」ブランドのもと,パンやデザート,スナックなど の製造を行い,パキスタンだけではなくアメリカ,カナダ,イギリスや中東諸国で販売 を行っている。最後に,ダーウッド・グループでは教育関係の事業「ハビーブ・スクール・トラスト
(Habi
bSchoolTrust
)」も行っている23)。ハビーブ・スクール・トラストは,パキス タンの教育の発展のため,またパキスタンの若者に世界最高水準の教育を提供すること などを目的に,1959年に設立した組織である。同トラストは,目的を達成するために ハビーブ・パブリック・スクール(HabibPubl i cSchool
)とハビーブ・ガールズ・ス クール(HabibGi rl sSchool
)の二校をカラチに開校した。ハビーブ・パブリック・スクールはモハメダリー・ハビーブ(モハメダリー・ハビー ブ・グループ,図表1の家系図を参照)の願いが24),またハビーブ・ガールズ・スクー ルはラシード
D.
ハビーブ(RashidD.Habi b
,図表1の家系図を参照)の願いが実現 したものである25)。現在までに,両校を卒業した者は約3,500
名以上となり,医者や弁 護士,またビジネスマンなどとなり各方面で活躍している。また,ダーウッド・グルー プは,上記の教育関係の事業だけではなく,児童福祉や医療関係などの事業も展開し,パキスタンの経済発展だけではなく,パキスタン社会の向上にも大きく貢献している26)。 簡単ではあるが,ダーウッド・グループの傘下企業について述べてきた。以上,見て
図表3 HabibSugarMillsLtd.の主要部門の生産量
(出典)HabibSugarMillsLtd.,AnnualFinancialStatement,September30,2008,p.8.
(注)単位は,製糖部門と蒸留部門が「トン」,織物部門が「キログラム」である。
2008 2007 2006 2005 2004 2003
製糖部門 123,064 66,875 80,530 63,969 84,806 65,839 蒸留部門 181,259 153,648 147,257 167,350 139,987 70,425 織物部門 916,937 685,287 856,749 876,388 604,981 428,582
きたように同グループの中心的な事業は銀行をはじめとする金融業である。もともと,
ハビーブ家は印パ分離独立以前のインド亜大陸で,綿花などをあつかう商人であった。
その後,それらで得た資金を元手に,ハビーブ銀行をボンベイ(現ムンバイ)に設立し た。ハビーブ家は,ムハージル27)としてパキスタンへの移住後は,ハビーブ銀行を中 心に金融業からパキスタン経済の発展を支えてきた。
このようにハビーブ財閥は,パキスタンにおいて金融業を中心に事業を展開してきた 一族であり,同財閥の中核となる金融業を引き継いでいるのがダーウッド・ハビーブ・
グループである。ダーウッド・グループは金融業を中心に,現在その活動はパキスタン 国内だけにとどまるのではなく,イギリスや南アフリカ,また
UAEなどへも進出し,
グローバルに事業を展開している。
3.ダーウッド・ハビーブ・グループの経営支配について 役員兼任を中心に
ダーウッド・グループの傘下企業を経営支配(特に役員兼任)という観点から見たな らばどのようになるのだろうか。結論からいうと,モハメダリー・グループ同様に,ダー ウッド・ハビーブ一族が中心となった経営を行っているということである。
図表4は,ダーウッド・ハビーブ一族による傘下企業への役員兼任を表したものであ る。図表4からも明らかなように,ダーウッド・ハビーブ一族が同グループの主要な傘 下企業の
Chai rman
,ManagingDi rector
やChi efExecuti ve
およびDi rector
等の 要職にあり,主要傘下企業の経営権を握っている。図表4からも確認できるように,現在,主要な傘下企業の役員はダーウッド・ハビー ブ(第2世代(ハビーブ・イスマイルを1世代目とすると))の息子たち(第3世代),
ハビーブ・ムハンマド
D.
ハビーブ(HabibMohammadD.Habi b
)やアリ・ラザD.
ハビーブ(Al
iRazaD.Habi b
),アシュガルD.
ハビーブ(AsgharD.Habib
),アッ バスD.
ハビーブ(AbbasD.Habib
)が就いており,同グループの企業活動等に関す る意思決定は彼らによりなされていると思われる。なかでもハビーブ・ムハンマドD.
とアリ・ラザは,同グループの中核的な企業数社の
Chai rman
やDi rector
を兼任して いる。具体的には,ハビーブ・ムハンマドD.
は三つの銀行のChai rman
の職にあり,アリ・ラザはバンク
ALハビーブの Chai rman
,ハビーブ・シュガーのDi rector
,そ れに加えダーウッド・グループとモハメダリー・グループの両グループが共同で経営にか か わ っ て い る ハ ビ ー ブ ・ イ ン シ ュ ア ラ ン ス の
Managi ng Di rector & Chi ef Executi ve
など,合計5社の役員を兼任し,また2社の監査委員会の委員も務めている。現在,ダーウッド・ハビーブ一族の中でも年齢面および役員の兼任数などからみて,ハ ビーブ・ムハンマド
D.
とアリ・ラザが中心的な役割を果たしていると思われる。先の図表4で確認したように,ダーウッド・ハビーブ一族員は,一人でいくつかの傘
図表4 ダーウッド・ハビーブ一族による役員兼任状況(2008)
(出典)BankALHabib,HabibInsuranceCoLtd.,HabibSugarMillsLtd.,BaluchistanParticleBoard Ltd.の各社AnnualReport・08,CompanyInformationおよびHabibsonsBankLtd.Website, Board of Directors(http://www.habibsons.co.uk/directors.html,・09.7.13採 録 ),Habib OverseasBank Ltd.Website,Board ofDirectors(http://www.habiboverseas.co.za/?id=5,
・09.7.13採録),HabibAssetManagementLtd.Website,BoardofDirectors
(http://www.habibfunds.com/boardofdirectors.aspx,・09.7.13採録)より作成。
(注)★3:HabibEsmailから数えて3世代目,★4:4世代目。
名 前 企 業(役職)
HabibMohammadD.Habib★3 HabibsonsBankLtd.(Chairman) HabibOverseasBankLtd.(Chairman) HabibAfricanBank(Chairman) AsgharD.Habib★3
HabibsonsBankLtd.(ViceChairman) HabibOverseasBankLtd.(ViceChairman) HabibAfricanBank(ViceChairman) HabibSugarMillsLtd.(Chairman)
AliRazaD.Habib★3
BankALHabibLtd.(Chairman)
BankALHabibLtd.(Member,AuditCommittee) HabibAssetManagementLtd.(Chairman)
FirstHabibIncomeFund(Chairman,InvestmentCommittee) HabibSugarMillsLtd.(Director)
HabibSugarMillsLtd.(Chairman,AuditCommittee) HabibInsuranceCo.Ltd.(ManagingDirector& ChiefExecutive) AbbasD.Habib★3 BankALHabibLtd.(ChiefExecutive& ManagingDirector)
HabibInsuranceCo.Ltd.(Director)
MurtazaH.Habib★4
BankALHabibLtd.(Director)
BankALHabibLtd.(Member,AuditCommittee) BaluchistanParticleBoardLtd.(Director)
BaluchistanParticleBoardLtd.(Chairman,AuditCommittee) HabibSugarMillsLtd.(Director)
AhmedH.Habib★4 HabibsonsBankLtd.(Director) ZainH.Habib★4 HabibsonsBankLtd.(Director)
HabibOverseasBankLtd.(Director) HabibAfricanBank(Director) HasnainA.Habib★4 BankALHabibLtd.(Director)
Muslim R.Habib★4 BaluchistanParticleBoardLtd.(Chairman& ChiefExecutive) QumailR.Habib★4 BankALHabibLtd.(ChiefDirector)
ImranA.Habib★3
BaluchistanParticleBoardLtd.(Director)
BaluchistanParticleBoardLtd.(Member,AuditCommittee) HabibSugarMillsLtd.(Director)
HabibSugarMillsLtd.(Chairman,AuditCommittee)
図表5 ダーウッド・ハビーブ・グループ主要傘下企業の役員の変遷
(出典)HabibInsuranceCo.Ltd.,AnnualReport・06,p.1,・07,p.1,・08,p.1,BankALHabib,Annual Report・04,p.1,・05,p.1,・06,p.1,・07,p.1,・08,p.1,HabibSugarMillsLtd.,AnnualReport・04,
・CompanyInformation・,・05,・CompanyInformation・,・06,p.2,・07,p.2,・08,p.2,Baluchistan ParticleBoardLtd.,AnnualReport・04,・CompanyInformation・,・05,・CompanyInformation・,
・06,p.2,・07,p.2,・08,p.2,HabibOverseasBankLtd.,AnnualReport・08,p.3,HabibsonsBank Ltd.Website,BoardofDirectors(http://www.habibsons.co.uk/directors.html,・09.7.13採録),
HabibOverseasBankLtd.Website,BoardofDirectors(http://www.habiboverseas.co.za/?id=5,
・09.7.13採録),HabibAssetManagementLtd.Website,BoardofDirectors
(http://www.habibfunds.com/boardofdirectors.aspx,・09.7.13採録)より作成。
(注)表中の名前Habibはすべて省略した。VC:ViceChairman,CE:ChiefExecutive,
CD:ChiefDirector,MD:ManagingDirectorの略。★:HabibInsuranceCo.Ltd.はダーウッド・
ハビーブ一族とモハメダリー・ハビーブ一族による共同経営。
(20042008,ダーウッド・ハビーブ一族員のみ)
2004 2005 2006 2007 2008
HabibInsuranceCo.Ltd.★
Boardof Directors
Chairman - - RafiqM. RafiqM. RafiqM.
Director - -
AbbasD.
MansoorG.
MohamedaliR.
AunMohmmadA.
AbbasD.
MansoorG.
MohamedaliR.
AunMohmmadA.
AbbasD.
MansoorG.
MohamedaliR.
AunMohmmadA.
MD& CE - - AliRazaD. AliRazaD. AliRazaD.
BankALHabib
Boardof Directors
Chairman AliRazaD.AliRazaD. AliRazaD. AliRazaD. AliRazaD.
MD& CE AbbasD. AbbasD. AbbasD. AbbasD. AbbasD.
CD - QumailR. QumailR. QumailR. QumailR.
Director HasnainA.
MurtazaH.
QumailR.
HasnainA.
MurtazaH. HasnainA.
MurtazaH. HasnainA.
MurtazaH. HasnainA.
MurtazaH.
Audit Committee
Chairman - - - - -
Member AliRazaD.AliRazaD. AliRazaD. AliRazaD.
MurtazaH. AliRazaD.
MurtazaH.
HabibsonsBankLtd.
Boardof Directors
Chairman - - - - Habib
MohammadD.
VC - - - - AsgharD.
Director - - - - AhmedH.
ZainH.
HabibAfricanBank
Boardof Directors
Chairman - - - - Habib
MohammadD.
VC - - - - AsgharD.
Director - - - - ZainH.
HabibOverseasBankLtd.
Boardof Directors
Chairman - - - - Habib
MohammadD.
VC - - - - AsgharD.
Director - - - - ZainH.
AhmedH.
HabibSugarMillsLtd.
Boardof Directors
Chairman AsgharD. AsgharD. AsgharD. AsgharD. AsgharD.
Director AliRazaD.
MurtazaH.
ImranA.
AliRazaD.
MurtazaH.
ImranA.
AliRazaD.
MurtazaH.
ImranA.
AliRazaD.
MurtazaH.
ImranA.
AliRazaD.
MurtazaH.
ImranA.
Audit Committee
Chairman AliRazaD.AliRazaD. AliRazaD. AliRazaD. AliRazaD.
Member ImranA. ImranA. ImranA. ImranA. ImranA.
BaluchistanParticleBoardLtd.
Boardof Directors
Chairman& CE Muslim R. Muslim R. Muslim R. Muslim R. Muslim R.
Director MurtazaH.ImranA.MurtazaH.
ImranA. MurtazaH.
ImranA. MurtazaH.
ImranA. MurtazaH.
ImranA.
Audit Committee
Chairman MurtazaH.MurtazaH. MurtazaH. MurtazaH. MurtazaH.
Member ImranA. ImranA. ImranA. ImranA. ImranA.
下企業の役員を兼任している。近年のダーウッド・ハビーブ一族員による役員兼任の変 遷(2004年~2008年)を示したのが図表5である。資料上の制約により空欄になって いる個所もあるが,しかし役員兼任の一つの傾向を確認することができる。特徴的な点 は,一族員はいくつかの傘下企業の役員を兼任しているが,例外はあるが
Chai rman
を数社兼任している者は少なく,多くの場合,一人がある傘下企業一社のChai rman
を長年担当していることである。例えば,バンクAL
ハビーブのChai rman
にはアリ・ラザが,ハビーブ・シュガーのそれにはアシュガル
D.
が,またバローチスタン・パー ティクルボードのそれにはムスリムR.
が就いている。また,第3世代でもっとも年長 者であるハビーブ・ムハンマドD.
が,例外的にハビーブサンズ・バンク,ハビーブ・オーバーシーズ・バンク,ハビーブ・アフリカン・バンクの3行の
Chai rman
の職に 就いている。もちろん,ダーウッド・グループ傘下企業の経営を担っているのはハビーブ・ムハン マド
D.
とアリ・ラザなどの第3世代だけではない。ハビーブ・モハメドD.
の息子(第4世代) のアフメド
H.
ハビーブ (AhmedH.Habib
) とザインH.
ハビーブ(Zai
nH.Habi b
)はハビーブサンズ・バンクとハビーブ・オーバーシーズ・バンクな どのDi rector
を兼任し,アッボスD.
の息子のハスナインA.
ハビーブ(HasnainA.
Habi b
)はバンクALハビーブの Di rector
の要職に就き,またラシードD.
の息子の ムスリムR.
ハビーブ (Musli m R.Habi b
), クマイルR.
ハビーブ (QumailR.
Habi b
)なども主要企業の要職に就き,ダーウッド・グループの経営に対し重責を負っ ている。以上,見てきたようにダーウッド・グループでも傘下企業の経営(特に役員兼任)に 関し,ダーウッド・ハビーブ一族員が主要な傘下企業に役員として派遣され,一族員が 中心となった経営がなされていることは明らかである。
4.ダーウッド・ハビーブ一族による傘下企業の所有について
では,次にダーウッド・グループの傘下企業の所有構造およびダーウッド一族による 所有支配を見ていきたいと思う。
はじめに,図表6から見ていきたい。図表6は傘下企業間における株式の所有関係を 示したものである。傘下企業の株式所有に関し,中心的な役割を果たしているのは,言 うまでもなくダーウッド・ハビーブ一族である。図表6からも明らかなように,すべて
の傘下企業の株式を,個々人ばらばらにではあるがダーウッド・ハビーブ一族が所有す る構図となっている。次に重要となる傘下企業は,金融業の中心的な企業であるバンク
ALハビーブと,製造業の中心的企業であるハビーブ・シュガーであろう。同図表が示
すように,バンクALハビーブは,金融系企業を含むいくつかの企業の株式を所有し,
またハビーブ・シュガーも同様に傘下企業の株式を所有している。このような関係から ダーウッド・グループもモハメダリー・グループ同様に,傘下企業内で株式を所有して いることが確認できる。傘下企業内で株式を所有することにより傘下企業間で密接な関 係を構築し,そしてダーウッド・グループとしての結束を保っていると思われる。
また,図表6の中には,いくつかのプライベート・カンパニー(Pri
vateCompany
:Pvt.Co.
)が存在する。例えば,ハスニ・テキスタイル(HasniTextil e
(Pvt.))とハ ビーブ・マーカンタイル(HabibMercanti l eCo.
(Pvt.))は,ハビーブ・シュガーの 株式を所有している。また,カラチ・マーカンタイル(KarachiMercantil eCo.
(Pvt.))はハビーブ・インシュアランスの株式を所有している。
プライベート・カンパニーはその性格上,役員の構成,事業内容および財務内容等を 公表する義務はなく,その活動の詳細を把握することは現時点ではできない。プライベー
図表6 ダーウッド・ハビーブ・グループの株式所有関係図(20072008)
(出典)傘下企業各社のAnnualReport・07,・08より作成。
(注)矢印は株式の所有先を示す。図中の★印はモハメダリー・グループの傘下企業をさす。また,Habib InsuranceCo.Ltd.はダーウード・ハビーブ一族とモハメダリー・ハビーブ一族の共同経営。
Bank AL Habib Habib Sugar
Mills
Habib Insurance Dawood Habib Family
Dyneaۻ Habib Metropolitan Bankۻ
Indus Motorۻ
Agriautoۻ
Shabbirۻ
Thalۻ First Habib Modarabaۻ
Karachi Mercantile Co. (Pvt.) Habib & Sons
(Pvt.) Ltd.
AL Habib Capital Markets (Pvt.) Ltd.
First Habib Income Fund
Habib Asset Management Baluchistan
Particle Board Ltd.
Hasni Textile (Pvt.)
Habib Mercantile Co. (Pvt.)
ト・カンパニーが傘下企業の株式を所有することは,一体,何を意味しているのだろう か。財閥内におけるプライベート・カンパニーの存在は,ダーウッド・グループだけに 見られるものではない。それはモハメダリー・グループや他の財閥にも同じように存在 するものである。この場でプライベート・カンパニーについて断定的なことを言うこと はできない。しかし,プライベート・カンパニーの非公開性という特性を利用し,傘下 企業の株式所有の面で影響を与えていることは間違いないであろう。プライベート・カ ンパニーの役割等についての検討は,今後の課題としたい。
では,次に図表7を見たいと思う。図表7は現時点で確認している主要傘下企業別に みる一族および傘下企業の株式所有状況である。同図表からも明らかなように,バンク
ALハビーブは,一族が約10
%,傘下企業が約1.8
%の株式を所有し,またハビーブ・シュガーは一族が約2.
4
%,傘下企業が約16%の株式を所有している。ちなみに,一族 による4社の株式所有比率の平均は約4.7
%であり,傘下企業のそれは約7.4
%となって いる。パキスタンに存在する他の財閥と比べると,それほど一族および傘下企業の株式 の所有比率は大きくない。しかし,4社中3社の株式を先の両者が10%以上を所有し ている。図表8は,図表7で示したダーウッド・ハビーブ一族員の個人別の株式所有状況を表 にしたものである。18名ものハビーブ一族の成員(内訳:ダーウッド・ハビーブ一族
11
名28),モハメダリー・ハビーブ一族4名,両一族以外:3名)が主要傘下企業の株式 を所有していることが確認できる。中でも多くの企業の株式を所有しているのは,アリ・図表7 ダーウッド・グループ主要傘下企業別:
ダーウッド・ハビーブ主要一族および傘下企業の株式所有状況(2007)
(出典)HabibInsuranceCo.Ltd.AnnualReport・07,p.49,BankALHabibLtd.,AnnualReport・07, p.85,Habib SugarMillsLtd.,AnnualReport・07,p.49,Baluchistan ParticleBoard Ltd., AnnualReport・07,p.26より作成。
(注)「企業名」欄のカッコ内の数字は株式の総発行数である。小数点4位以下切捨て。
企業名 一族所有分 傘下企業所有分 一族+傘下企業所有 BankALHabibLtd.
(368,106,741株)
10.056% 1.868% 11.925% 37,020,384 6,878,437 43,898,821 HabibInsuranceCo.Ltd.
(59,319,000株)
3.497% 9.236% 12.733% 2,074,860 5,478,795 7,553,655 HabibSugarMillsLtd.
(57,600,000株)
2.452% 16.263% 18.715% 1,412,508 9,367,696 10,780,204 BaluchistanParticleBoardLtd.
(6,000,000株)
3.103% 2.463% 5.566% 186,197 147,797 333,994
図表8 ダーウッド・グループ主要一族員別:主な傘下企業の株式所有状況(2007)
(出典)HabibInsuranceCo.Ltd.AnnualReport・07,p.49,BankALHabibLtd.,AnnualReport・07, p.85,Habib SugarMillsLtd.,AnnualReport・07,p.49,Baluchistan ParticleBoard Ltd., AnnualReport・07,p.26より作成。
(注)所有株式数の後にあるカッコ内の数字は,その企業の株式の総発行数を示す。また割合(%)は個人の 所有比率(小数点4位以下切捨て)を示す。所有比率は小数点4位以下切捨てのため図表7の「一族所 有分」の所有比率とは一致しないものもある。★1:モハメダリー・ハビーブ一族をさす。★2:ダー ウッド・ハビーブ一族とモハメダリー・ハビーブ一族以外の者をさす。
AshgarD.Habib
・HabibSugarMillsLtd.……… 401,032株を所有(57,600,000株:0.696%)
AliRazaD.Habib
・HabibSugarMillsLtd. 8,916(0.015%)
・BankALHabibLtd. 3,446,690(368,106,741株:0.936%)
・HabibInsuranceCo.Ltd. 29,362(59,319,000株:0.049%)
………
………
………
AbbasD.Habib
・BankALHabibLtd. 13,752,886(3.736%)
・HabibInsuranceCo.Ltd.……… 360,733(0.608%)
………
QumailR.Habib
・BankALHabibLtd.……… 5,292,171(1.437%)
MurtazaH.Habib
・HabibSugarMillsLtd. 453,414(0.787%)
・BaluchistanParticleBoardLtd. 94,164(6,000,000株:1.569%)
・BankALHabibLtd. 4,537,042(1.232%)
………
………
………
HasnainA.Habib
・BankALHabibLtd.……… 6,555,278(1.780%)
Muslim R.Habib
・BaluchistanParticleBoardLtd.……… 1,000(0.016%)
Mrs.Razia(AliRazaD.Habibの妻)
・BankALHabibLtd.……… 1,533,772(0.416%)
Mrs.Tahira(AshgarD.Habibの妻)
・HabibSugarMillsLtd.……… 148,118(0.257%)
Mrs.NiametFatima(AbbasD.Habibの妻)
・BankALHabibLtd. 1,595,801(0.433%)
・HabibInsuranceCo.Ltd.……… 9,999(0.016%)
………
Qasim AbbasHabib(AbbasD.Habibの子)
・BankALHabibLtd.……… 306,744(0.083%)
RafiqM.Habib★1
・HabibInsuranceCo.Ltd.……… 79,902(0.134%)
MohammedaliR.Habib★1
・HabibInsuranceCo.Ltd.……… 930,860(1.569%)
Mrs.Jamila★1
・HabibInsuranceCo.Ltd.……… 462,965(0.780%)
Mrs.Sayyeda★1
・HabibInsuranceCo.Ltd.……… 62,284(0.104%)
MansoorG.Habib★2
・HabibInsuranceCo.Ltd.……… 2,700(0.004%)
AunMohammadA.Habib★2
・HabibInsuranceCo.Ltd.……… 136,055(0.229%)
ImranA.Habib★2
・HabibSugarMillsLtd. 401,028(0.696%)
・BaluchistanParticleBoardLtd.……… 91,033(1.517%)
………
ラザ
D.
とムルタザH.
(MurtazaH.Habib
)の二人であり,ともに3社の株式を所有 している。彼ら以外のダーウッド・ハビーブ一族員が株式を所有する企業数を見ると1 社から2社が平均となっている。また,一族員の一社当たりの株式の所有状況を見ると,一族員で他の者よりも特に多 くの株式を所有している者は見受けられない。図表8からも明らかなように,一人当た り平均し1%程度の株式を所有していることが確認できる。このようなことからダーウッ ド・グループでは,特定の一族員が集中的に株式を所有するような形態ではなく,多く の一族員が企業の所有に参加し,一人一社当たり平均し約1%程度の株式を所有してい る。
以上,見てきたように傘下企業の「所有と経営」に関しては,ダーウッド・グループ でもモハメダリー・グループ同様29)に一族により支配がなされていることが確認でき た。経営面に関しては,一族が中心となっていることは,図表4および図表5からも明 らかなことであり,今後もこのような一族が中心となった経営形態は変わることはない であろう。また,所有面でも一族が中心となった所有形態となっていることは明らかで ある。しかし,ある特定の一族員が多くの株式を所有するということは確認することが できなかった。逆に多くの一族員が企業の所有に関わり,ダーウッド・ハビーブ一族が 一族として企業の所有にかかわっていることが明らかになった。
5.結びにかえて
以上,本稿ではダーウッド・ハビーブ・グループの傘下企業の事業,および同グルー プの所有面と経営面での支配等について論じてきた。特に,この場で個々について要約 する必要はないであろう。最後に,現時点で確認しているダーウッド・ハビーブ一族員 の一族内における人材育成(後継者の育成)について述べ,結びにかえたい。
近年,パキスタンでも財閥一族員の高学歴化が進んでいる。特に,高学歴の傾向は,
二世および三世以降の財閥一族員に顕著にみられ,彼らの多くはアメリカやイギリス,
またヨーロッパ諸国の大学あるいは大学院等で学んでいる30)。G.
F.
パパネックの調査(1958年)によれば,パキスタンのムスリムの産業企業家の学歴は,まったく教育を受 けていない者が6.
5
%,初・中等レベルの教育しか受けていない者が46.5
%,また大学 入学許可レベルの教育を受けた者が19%,大学レベル以上の教育を受けた者が27.5
%と なっている31)。大学レベル以上の教育を受けた者が27.5
%もいるが,しかし初・中等レベルの教育を受けていない者とまったく教育を受けていない者をあわせると,全体の半 数以上の者が初・中等教育程度の教育しか受けていないということになる。
当時の多くの企業家は,慣習的に各個人を取り巻く一族およびコミュニティ内で丁稚 的な修業を通じ,ビジネスに必要となるノウハウを習得してきた。いわゆるたたき上げ の企業家が多く存在していたのである。そのような慣習は,地縁・血縁・宗派などの関 係を重視する彼らにとってはごく自然なことであったであろう。
1950
年代から約半世紀が経った現在では,財閥一族あるいは企業家の教育に対する 考え方はどのように変化してきたのだろうか。結論から述べると,現在,彼らの教育に 対する考え方は大きく変化し,高学歴を望むようになってきている。既述したように,パキスタンに存在する多くの財閥の一族員が,アメリカやイギリスなどの大学等で高等 教育を受けるようになっている。今回取り上げたダーウッド・ハビーブ一族も例外では ない。
図表9は,現時点で確認しているダーウッド・ハビーブ一族員の学歴を示したもので ある。現時点で確認しているダーウッド・ハビーブ一族員の学歴はアフメド
H.
ハビー ブ,ザインH.
ハビーブ,ムスリムR.
ハビーブの3名のみである。第4世代の彼ら3 名は,他の財閥一族と同様にパキスタン以外の地,アフメドH.
とザインH.
の2人は アメリカで,ムスリムR.
はスイスで高等教育を受けている。彼ら3名とも卒業後は,ダーウッド・ハビーブ・グループ傘下企業で,アフメド
H.
とザインH.
は銀行業を中 心に,具体的にはアフメドH.
は大学卒業後にスイス・ユニオン銀行(Unionbankof Swi tzerl and
,現UBS
)に1985年から1989年まで勤め,ザインH.
も大学卒業後に同じ く,スイス・ユニオン銀行に1990年から1993年まで勤め,そこで銀行業を学び,その 後両者ともダーウッド・ハビーブ傘下のハビーブサンズ・バンクなどの役員に就任して いる32)。また,ムスリムR.
はスイスから帰国後は,製造業を中心にそれら企業の役員 等(バローチスタン・パーティクルボードのChai rman&Chi efExecuti ve
。図表5 を参照)に就き,同グループの発展の一役を担っている。図表9 主なダーウッド・ハビーブ一族員の学歴
(出典)HabibsonsBankLtd.Website,BoardofDirectors
(http://www.habibsons.co.uk/directors.html,・09.7.13採録)。
AhmedH.Habib DegreeinManagementandQuantitativeMethodsfrom BostonCollege,USA ZainH.Habib Businessdegreefrom BentleyCollege,USA
Muslim R.Habib BSc(BachelorofScience)inIndustrialTechnology,Switzerland
学歴に関するデータが3名しかないため,断定的なことは言えないが,しかしダーウッ ド・ハビーブ一族における一族員の人材育成(後継者の育成)についての傾向の一端を,
以上述べてきたことから伺えるのではないだろうか。すなわち,一族員を外国の大学あ るいは大学院等で学ばせ,その後,アフメド
H.
らのようにダーウッド・グループとは まったく異なる企業で経験を積む,あるいは傘下企業内でのトレーニングによりマネー ジメントに必要な知識を学ばせる。どちらにしても,人材育成,特に後継者の育成方法 は以前とはまったく違う方法をとってきているということである。以上,ダーウッド・ハビーブ・グループについて論じてきた。しかし,本稿で論じる ことのできなかった点も多くある。例えば,傘下企業の詳細な企業活動,一族内におけ る役員兼任についての役割分担,株式所有に関する一族内における取り決め等々,多く の事柄について明らかにしたとは言いがたい。残された問題点は多くあるが,それらす べてを今後の課題とし継続し研究を行っていきたい。
〔付記〕本稿は平成21年度科学研究費補助金(若手研究(B),課題番号19730245)「イ スラーム諸国における財閥の形成・発展過程に関する一考察」の助成にもとづく 研究成果の一部である。
注
1)山中一郎編著(1992)297頁。
2)山中一郎(1966)を参照。
3)Kochanek,StanleyA.(1983),p.21.
4)代 表 的 な 企 業 は , ハ ビ ー ブ 銀 行 (Habib Bank), ム ス リ ム 商 業 銀 行 (Muslim CommercialBank), オ リ エ ン ト 航 空 (Orient Airways), ム ハ マ デ ィ 汽 船
(MuhammadiSteamshipCo.Ltd.)などである。
5)川満直樹(1998)および同(2003)。
6)HabibBankAGZurich,A BriefHistory,p.4.
7)Shahid-ur-Rehman(1998),p.139.
8)HabibBankAGZurich,A BriefHistory,p.5.
9)ハビーブ財閥本部(HouseofHabib)での聞き取り調査による(1998年7月)。
10)アーメド・グループのハビーブ・インシュアランスへの関わりについては,それを示す資 料が現時点(2009年7月現在)ではないため確認できない。
11)インド財閥については,さしあたり,三上敦史(1993)を参照のこと。
12
)BankALHabib
本店での聞き取り調査による(1998年7月)。13
)ハビーブ財閥のモハメダリー・ハビーブ・グループについては,川満直樹(1998)および 同(2003)111
頁を参照のこと。14
)HabibBankAGZuri ch,
A BriefHistory,p.6.
15
)バンクALハビーブの本格的な事業開始は1992
年1月である。16
)BankALHabib,
AnnualReport2007,p.17.
17
)バンクALハビーブがアル・ハビーブ・キャピタル・マーケットの株式を66. 67
%所有し ている(BankALHabib,
AnnualReport2007,p.94
)。18
)LLCとは「有限責任会社(LLC:Limi tedLi abi l i tyCompany
)」のことである。19
)ダーウッド・ハビーブ・グループは,UAE国内においてグリーンシールド・インシュア ランス・ブロカーズ以外にも保険業や不動産関係の企業,HabibInvestmentCorpora- ti on
,HabibProperti es
,Greenshiel dDevel opers
,Greenshiel dRealEstateBrokers
などがある(Greenshiel dInsuranceBrokersLLCWebsi te,
・History・,http: //www. greenshi el d. ae/greenshi el d-hi story. php
より。・09. 7. 13
採録)。20
)ハビーブ・シュガーの織物業は,HSM Textil esLtd.
(1979年設立)により行われている。21
)Baluchi stanParti cl eBoardLtd. ,
AnnualReport・08,p.3.
22
)ハラールフードとは,イスラームの教えにより許された食べ物のことである。23
)ハビーブ・スクール・トラストの詳細な活動については,同トラストのウェブサイト(http:
//habi bschool s. edu. pk/Habi bSchool /defaul t. asp
)を参照のこと。24
)HabibPubl i cSchoolWebsi te,
History(http://habi bschool s. edu. pk/Habi bSchool / mai n/hi story. asp?ID=3&Log=1&menui d=1
,09.3. 25
採録)。25
)HabibGi rl sSchoolWebsi te,
History(http://habi bschool s. edu. pk/Habi bSchool / mai n/hi story. asp?ID=4&Log=1&menui d=1
,09.3. 25
採録)。26
)ダーウッド・グループの社会貢献については,DawoodHabi bGroupWebsi te,
CommunityDevelopment(http:
//www. habi b. com/html /communi tydevel opment. html
)を参照のこと。27
)「ムハージル」とは,1947年の印パ分離独立にともないパキスタン国内にインド,あるい はその他の国から移住してきたイスラーム教徒の(宗教的)避難民をさす。28
)資料の制約により,ダーウッド・ハビーブ・グループの主要人物であるハビーブ・ムハン マドD.
の株式所有分を現時点では確認することができない。29
)川満直樹(2003)611
頁を参照。30
)川満直樹「パキスタン新市場で活躍する財閥 ラークサン財閥の形成と発展を中心とし て 」『市場史研究』第25号(2005年)158頁,同「パキスタン財閥の形成と発展 ガ ンダーラ財閥とアトラス財閥を中心として 」『阪南論集 社会科学編』第38巻第1号(2002年)30頁などを参照のこと。
31
)Papanek,G.F.
(1971),p.240,Tabl e8 1Educati onandsuccessofMusl i m Industri al -
i stsasof1958.
32
)HabibsonsBankLtd.Websi te,
BoardofDirectorshttp: //www. habi bsons. co. uk/di rectors_ahmed. html ,
http: //www. habi bsons. co. uk/di rectors_zai n. html
より(・09. 7. 13
採録)。参考文献
川満直樹(1998)「パキスタン財閥の形成と発展 ハビブ財閥を中心として 」『国際学論 集』第9巻第2号。
川満直樹(2003)「パキスタン財閥の発展と構造 ハビーブ財閥とダーウード財閥を中心と して 」『経営史学』第38巻第1号。
末廣昭(2000)『キャッチアップ型工業化論 アジア経済の軌跡と展望 』名古屋大学出 版会。
末廣昭(2006)『ファミリービジネス論 後発工業化の担い手 』名古屋大学出版会。
末廣昭・星野妙子編著(2006)『ファミリービジネスのトップマネジメント アジアとラテ ンアメリカにおける企業経営 』岩波書店。
瀬岡誠(1980)『企業者史学序説』実業出版株式会社。
瀬岡誠・瀬岡和子訳(2003)ジェーン・マルソー著『ファミリー・ビジネス? 国際的ビジ ネス・エリートの創出』文眞堂。
日本貿易振興会(1983年)『パキスタンの主要民間企業体』。
星野妙子編著(2004)『ファミリービジネスの経営と革新』アジア経済研究所。
三上敦史(1993)『インド財閥経営史研究』同文舘出版。
安岡重明(1998)『財閥経営の歴史的研究』岩波書店。
山中一郎(1966)「パキスタンの産業政策声明」『アジア経済』第7巻5号,アジア経済研究所。
山中一郎(1976)「パキスタンにおける資本の集中と支配」『アジア経済』第17巻6号,アジア 経済研究所。
山中一郎編(1992)『パキスタンにおける政治と権力』アジア経済研究所。
山中一郎(1993)「パキスタンにおけるビジネスグループ その生成と発展に関する一考 察 」小池賢治・星野妙子編『発展途上国のビジネスグループ』アジア経済研究所。
ダーウッド・ハビーブ・グループ主要傘下企業
AnnualReport
。 参考にしたウェブサイトは,本文中に掲載。Al taf,Zafar
(1983),
PakistaniEntrepreneurs,Croom Hel m.
Cragg,Cl audi a
(1996),
TheMaharajahs:TheCommercialPrincesofIndia,Pakistan&Bangladesh,
Random House.
Habi bBankAGZuri ch,
A BriefHistory.HouseofHabi b,
Brochure.Kochanek,Stanl eyA.
(1983),
InterestGroupsandDevelopment:BusinessandPoliticsinPakistan,