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アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革
‑ニュージャージー州の事例(2)‑
47
白 石 裕
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本論文は,ニュージャージー州を事例にしてその学校財政制度訴訟と財政制度の動向と法理を探る ことを目的としており,前回の「ニェ‑ジャージー州の事例(1)」では.ロビンソン判決に始まり, それに伴って制定された「公立学校教育法」から「質の高い教育法」に違憲判決を下したアポット第 3判決までのことを述べている。今回はその後の重加軸こついて述べる。
4 総合的教育改善・財政法とアポット第4判決 1)総合的教育改善・財政法の目的と内容
アポット第3判決を受けて制定されたのが.総合的教育改善・財政法(ComprehensiveEducational Improvement and FinancingAct of 1996,以下CEIFAという)であるOニュージャージー州最高裁判 所は,アポット第3判決により新制度を制定する期限として2年間の猶予を与えたが.第3判決から 約2年後の1996年12月に州議会はCEIFTを制完した。
この法律は.その名称が示すとおり,教育改善と財政とを結びつける内容をもった法律であるO新 法に即していえはCEIFTは,アポット第3判決を受けて, 「ゆきとどいて効率的な教育」をあらゆ る公立初等学校(第1学年〜第5学年)・ミドルスクール(第6学年〜第8学年トハイスクール(節 9学年‑第12学年)の生徒に保障するために.実体的な教育内容の基準を設定し.それと学校財政 制度を結びつける目的で制定されたのである。換言すれば 学校財政制度を州補助の増額あるいは特 売プログラムの創出とそれへの補助という形のもので済ますのではなく,学校財政制度を実体的な教 育内容を保障する形のものにしようとするのである。
ニュージャージー州最高裁判所は, CEIFTの制定により「ニュージャージー州は,財政措頂の決 定をアチーブメントスタンダードに置こうする最初の州と思われる」ljと述べているが.おそらく 学校財政制度を教育内容に直接結びつけようとする制度は剛日が初めてであろう。それ以前にも,た
とえば 学校財政制度訴訟の第3の波のリーディング・ケースであるケンタッキー州のローズ判決 1989年)2;やテキサス州のエッジウッド判決(エッジウッド第4判乱1995年)3さにおいても生徒 の学力保障を学校財政の重要な課題としたが,それらの州の学校財政制度改革においては.学力保障 を直接の目的とする学校財政制度を制定するまでには至っていない。その意味でニュージャージー州
48 アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革‑ニュージャージー州の事例(2) ‑ (白石) のCEIFTは新たな学校財政制度構想といえるであろう。
実体的な教育内容を保障するために,ニュージャージー州はCEIFTを制定する約半年前に(1996 年6月)に, 「コアカリキュラム基準」 (CoreCurriculumContentStandards,以下cccsという)を 制定している。 cccsはその名のとおり.が)キェラムの中核を成す教育内容の基準を示したもので ある。州法によれは cccsは,州憲法教育条項の「ゆきとどいて効率的な教育」の保障という理念 に基づき, 「すべての子どもが現代において市民としての役割を果たし,労働市場の競争者として伍 していけるように準備する機会を与える」ために,どの学区でも実現されるべきコアが)キュラムの 基準である(NJ.S.18A:7F‑4.a)。
それではcccsは具体的にはどのようなものであるか,その概要を以下に述べておこう。
まず第1に, cccsは, 7つの教科内容の領域およびすべての教科内容領域にかかわりをもつ教科 横断的な職業準備教育基準.cross‑content workplace readiness standards)との2つの柱から構成さ れている。 7つの教科領域とは,視覚・舞台芸術,保健体育.国語,数学,科学.社会札 国際語で ある。そしてこれら7つの教科領域には,さらに,教科毎に合計で56の具体的ながノキュラム基準 が設定されている。そしてまたそれらの具体的基準について合計で880に及ぶ「生徒進歩指標」が設 けられている。また,第2の柱の就職準備教育基準として定められているのは,キャリアプランニン グ・スキル,テクノロジー・スキル,批判的思考力,意思決定・問題解決力・自己管理および安全原 則の5つである(Core Curriculum Contents Standards, (May, 1996))。
以上のように,コアがノキュラム基準は詳細で,しかもそれが生徒の学業達成の度合いを評価しな がら進められるというところに特徴があるといえよう。こうしたコアかノキェラムは時代に合わせて 柔軟に編成される必要があることから,州教育委員会には高い業績を上げている学校や学区で提供さ れているがノキュラムやプログラムを検討して,より高い基準を求めて5年毎にがノキュラム基準を 見直すことが義務づけられている(N.J.S.A. 18A: 7F‑1)。
また,これらコアかノキュラムの基準が実現されているかどうかを評価するために,第4学年,節 8学年,第11学年の生徒にテストを実施することが定められている。テストの内容は7つの教科領 域と6つの職業準備基準に関するものであり.テストで「完全な成功」を収めた学校(基準を90%
以上の生徒が合格した学校)や「かなりの進歩」を達成した学校(前年度の比較)をもつ学区には 報奨プログラムが与えられる一方で.基準を達成していない学校をかかえる学区については,州教育 長が, ①が)キュラムやプログラムの再編成の指示, ②スタッフの鞘胴歩や再配置の指示, ③総合的 な予算評価の実施④支出の再検討, ⑤標準教育費としてT&E額の最高額に相当する教育費の支出 命令, ⑥将来の団体交渉の合意条件の見直しの指示などの措置をとると定められている(N.J.S. 18A:
7f‑6.b <
かくて,実体的教育を確保するという観点から,コアがノキェラムの基準を定め,その実施を各 学区に求め,その実践を評価し.不十分と判断される場合には州教育長による是正措置が行われると いう制度が設けられたのである。一般的にいえば,アメリカ合衆剛こおいては,初等中等学校のが)
アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革‑ニュージャージ‑州の事例(2)一泊石) 49 キュラムについては州法では詳細な規定を設けず,具体的の実施規定は地方学区に委ねているところ が多い。ところが, 1990年代以隠 州主導の教育改革が推進されるようになり.その下では学力保 障が教育改革の最優先課題の1つになった。そしてそのなかで,が)キュラム基準の精選や見直し, 州全域における学力テストの実施が多くの州で行われるようになった。その意味でニュージャージ‑
州のcccsもそうした動向のなかに位置づけられるわけであるが.そうした教育内容の実施を学校 財政制度に結びつけて改革を図ろうとするところに剛刊の特徴がある。
コアカリキュラムを財政の面で保障するために制定されたのがCEIFAである。そのためにCEIFA には2つの制度が設けられることになった。 1つは.標準教育費としてのT&E額の設完である。
T&Eとは州憲法で述べられている"thorough and efficient" (「ゆきとどいて効率的な」)の頭文字で あるが,こうしたT&E額は あらゆる学区において「ゆきとどいて効率的な教育」を達成させるた めのコストであるとされる(N.J.S. 18A:7F‑3)。この額の設定は.悪意的に定められるのではなく, 上で述べたコアが)キュラム基準の達成に必要な額であるとされる。 T&E額は基本的には経捌票準 教育費の発想法である。したがって,それは, CIEFA制定以前のQEA (「質の高い教育法」)のとき の標準教育費の考え方,つまりどの学校においても必要とされる標準的な経費があり,それを公的に 保障するという考え方と基本的には変わりはないOただしQEAのときの標準教育費の算出が教員給 与など教育条件面から悪意裾二決定された狛Hであったのに対しでき, cIEFAはコアが)キュラムの 達成に必要な費用の観点から標準教育費を算定しようとする点が,少なくとも,構想の上では大きな 粕数である。そして川の説明によればT&E額を超える支出は非効率であり不必要なものとされる5)。
T&E客鋸ま,モデル学区を想定して算出される。現時点で採用されているモデルは,初等学校の生 徒数500名,ミドルスクール675名,ハイスクール900名の生徒数をもつ学区であり,その学区での 学校の条件(教職員数,授業時数,教科書 備品等)を基にT&E額が決定された63 (モデル学区の 設定は州教育省のComprehensive Plan for Educational Improvement and Financing (May 1996)によ る)。ちなみに, 1997‑98年度においてT&E額は,初等学校の場合,生徒1人あた!), 6,720ドルで ある。 T&E額の決定については学校段階毎に加東係数が定められている。加東係数は初等学校(節 1学年〜第5学年)を1として,幼稚園0.5,ミドルスクール(第6‑第8学年)1.12. >、イスクール(節 9学年〜第12学年) 1.20である。したがってハイスクールでは生徒1人あたりT&E額は. 8,064ド ルということになる。また, T&E額は固定された額ではなく.インフレーションの要素も加味して 2年毎に更新される(N.J.S.18A:7ト3,7F‑12)cなお,学区は基本的にはT&E額を基にした教育費支
出が原則とされるが.地方の裁量により年3%の支出増は可能であり,また住民投票によりそうした 支出制限を越える教育費の支出も可能となっており,そのことが本件の重要な論点にもなっている。
CEIFAに定められたもう1つの制度は,特別ニーズ学区の特有の問題に対応する措置が盛り込 まれたことである。アポット第2判決において.州最高裁判所は,特別ニーズ学区の子どものニー ズについて,それらのニーズは,食札 表札 保護等々のニーズであり,教育ニーズを超えている こと,にもかかわらず. 「ゆきとどいて効率的な教育」を達成するには克服されなければならない
50 アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革‑ニェ‑ジャージー州の事例(2) ‑ (白石)
問題であるとして,特別ニーズ学区に特別な補足的プログラムの実施を命じた。そしてそのことは アポット第3判決で再び強調されたのであるが, CEIFAには主な補足的プログラム(supplemental program)として,以下の2つのものが設けられた。 1つは, 「実効的プログラム補助」 Demonstrably EffectiveProgramAid (以下, DEPAという)であり.もう1つは「早期幼児プログラム補助」 Eal・ly ChildhoodPi‑ogramAid (以下, ECPAという).
DEPAはQEA (「質の高い教育法」)の下での危機に立つ子どもに相当する補助プログラムである。
これは低所得家庭の子どもの割合が学校で占める割合が20%を超え,州が定める応募資格を充たす 学校に補助金が交付される措置である。 1997年‑98年度においては,その割合が20%から40%まで を占める学校については生徒1人あたり300ドル, 40%以上の学校には生徒1人あたり425ドルが補 助された。そしてこの補助額は2年ごとに改善されるものとされている(N.J.S.18A:7F‑18)。
また, ECPAは, 5歳児の全日制幼稚園. 3歳児・4歳児の就学前教育その他の子どもプログラム・
サービスを提供している学区に対して補助金を交付する措置であるo これらは学校における中途退学 を予防し,生徒の学力確保を目指すものである。 1997年‑98年度においては低所得家庭の子どもの割 合が20%から40%までを占める幼稚園等にはチビも1人あたり465ドル, 40%以上の場合には750
ドルと比較的大きな補助をしている(N.J.S. 18A:7F‑16)<
かくて.以上のようなCIEFAの規定からみる限り,それは,アポット第3判決の命令に沿った新 たな財政制度であるように思われた。
2)総合的教育改善・財政法の問題とアポット第4判決
しかしながら, CEIFA (「総合的教育改善・財政法」)は,別売されてから早くも2週間後に提訴さ れた。原告の訴えは, 2点である。第1は, CEIFAはアポット第3判決が命じたような裕福な学区と 原告らの特別ニーズ学区の教育費支出の均等を達成するようになっていない,第2は,アポット第2・
第3判決が命じたような,特別ニーズ学区に対して適切な補足プログラムを提供するものとなってい ないというものである
この2つの点において,もう少し詳しく述べると,次のようになる。まず第1の点についていう と,裕福な学区と特別ニーズ学区の間の正規の教育費(生徒1人あたり)の支冊各差は. 1989年‑90 年の1,714ドルから1996年‑97年から1,017ドルから確かに縮小されている。しかしながら, CEIFA には依然として残っているそうした格差に対処し,それを除去する試みは設けられていない。原告ら によれは むしろ,同法は現存の支出格差を維持し,広げるかもしれない二層の財政措置(two‑tiered funding)をつくったという。第1の層は, T&A額どおりの財政支出であり,それを行っている学区 の存在であるo ところがCEIFAで定める標準教育費としての特別ニーズ学区にとってはT&E額は十 分なものではない。もうひとつの財政措置の層は,すでに述べたように, T&E額を超えて支出する
ことを認める財政措置である CEIFAは学区が地方の裁量(localleeway)によって少なくとも年3%
の予算増をすることを認めているが,通常,そうしたことを行っている学区は裕福な学区である。か
アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革一二ュ‑ジャージー州の事例(2)一 白石) 51
くて.現在の財政措置は.標準教育費のレベルをT&E額にとどめておく学区と,それを超えて支出 する学区という二重構造を作り出すことになっているという6)。
第2の,補足プログラムについての原告の訴えは, CEIFAは特別ニ‑ズ学区‑の危機に立つ子ど もたちへの補助をQEAのときよりも39% (7100万ドル)も減らした,州は特別ニーズ学区の生徒 の特別ニーズを充たすプログラムを確定していない,また, CEIFAには就学前および全日制幼稚園
に対する補助プログラムが規定されているにもかかわらず,同法には学区がそうしたプログラムの実 施を命令していないというものである7う。
以上の点から,原告らはCEIFTは原告らに「ゆきとどいて効率的な教育」を剥奪しているがゆえに, 憲法に違反する法であるとして提訴したのである。
ニュージャージー州最高裁判所は, 1997年5月14日に.原告らの訴えを認め, CEIFAは原告らの 特別ニーズ学区に適用される限りにおいて,違憲であるとの裁定を行った8㌧同最高裁判所の見解は,
次のようなものである。
判決は,原告の訴えに沿って,第1に. 「ゆきとどいて効率的な教育」に必要なコストとして設定 されたT&A額について,そして第2に,特別ニーズ学区に交付されている補足プログラムについて, それぞれ検討を加え,以下のような問題点を指摘した。
まず第1の, T&E額については,主に2つの点から検討したoその1)はT&E額は「ゆきとどい て効率的な教育」を提供するに十分なものであるかどうかということ,その2)は,州が主張するよ うに, T&E額を超える支出は非効率的で不必要なものであるかどうかということである。
まず前者の1)の問題についていえは 判決は, T&E額は不十分であると述べ.その矧有として.
以下のものをあげる。 ①は, CEIFAでは生徒が学習すべき教育内容とその水準を設定し,それを財 政的に実現すべきコストとしてT&E額という標準教育費構想を打ち出しているが,実体的教育内 容・水準とT&E額との関連は妥当性を欠く。その理由として,まずあげられるのがT&E額の設定 にあたってのモデル学区の問題である。判決は,モデル学区は生徒の学力改善に成功している学区を モデルにしているわけではなく,まして特別ニーズ学区の特徴を考慮したものとなってはいないとい う。それゆえ判決はモデル学区の非現実性を指摘する9)。また,モデル学区では,すべての生徒が同 じような教育の機会を同じように活用できると想定しているが,さまざまなハンディキャップをかか えている特別ニーズ学区の生徒の場合には,そのような想定が直ちに当てはまらないとlO)。
次にあげらjtるのが, ②T&E額の算定基準の低さである。すなわち, T&E額は, QEAの標準教 育費と比較すると,生徒1人あたり費用で初等学校の場合には80ドル増えただけであり.ハイスクー
ルの場合には,むしろ減っているO こうした算定基準の低さに加えて, CEIFAは,すでに述べたよ うに. T&Eに関して二層の財政措置を認めているが.とりわけ問題とされるのが, T&E額を超える 支出ができることである。すなわち, CEIFAでは学区の総額予算が前年の予算の支出増加制限(3%) を超えていなければ T&E額を超過することが可能になっており.さらに,住民投票によりその制 限自体を超えることもできる。そうしたことから,裕福な学区はT&E額を超える教育費を支出して
52 アメリか学校財政制度訴訟と財政制度改革一二ユ‑ジャージー州の事例(2) ‑ (白石)
いるという。このことはT&E額が豊かな教育プログラムを実施するには不十分であることを示して いるといえよう11)。
次に,後者の②の問題として,州が主張するように, T&E辞を超える支出は非効率的で不必要な ものであるかどうかである。この間題について判決は,次のように述べる。すなわち,裕福な学区は 毎年T&E額を超える教育費を支出しており,それは教育上の利益を得るために必要があるからそう
しているのであろうという。第1,州白身が直接管理している都市学区,たとえば,ジャージーシティ 学区,ペイクーソン学区,ニェ‑ワーク学区はいずれのT&A額を超える支出を行っている。こうし
たことからすれば, T&E額を超えるコストが非効率的であり,不必要であるという州の見解は事実 に反するし.説得力をもたないことは明らかである12)
以上のようなことからすれば 標準教育費として設定されるT&E額は, 「ゆきとどいて効率的な 教育」を実施するには不+分であるとの結論が導かれる。
次に,判決は,第2の問題として.原告が問題とした特別ニーズ学区に対する補足プログラムの 問題点を指摘する。アポット第2,第3判決でニュージャージー州最高裁判所は特別ニーズ学区へ の特別な補足プログラム‑の補助を命じたが.それを受けて, CEIFAでは危機に立つ子どもたちを 対象とする「実効的プログラム補助」 (DEPA)と幼推園等を対象とする「早期幼児プログラム補助」
(ECPA)が設けられた。しかしながら,これら2つのプログラムについては,判決は,いずれも特 別ニーズ学区の生徒や子どものニーズを調査した上でのコストの算出やプログラムの作成がなされて いるわけではないと論じる。また,これらのプログラムについては実施義務が課せられていないこと から,ニーズに応えるプログラムとなっていないという。また,特別ニーズ学区の老朽化し,危険な 施設の改善を提言していないとも述べる。かくして,依然として深刻な状態を抱える特別ニーズ学区 の状況に鑑みて,判決は,特別ニーズ学区に適用される補足プログラム‑の補助の規定は憲法違反で あるとの判断を示す13)
こうした判決から読み取るかぎり,ニュージャージー州最高裁判所は,アポット第2判決以降,一 貫して特別ニーズ学区の学校教育の改革には学校全体に関わる全面的な取り組みが必要であると認識
していることが了解されよう。判決のそうした見解を端的に示しているのが,次の言葉である。 「総 合的で体系的な救済措置こそ,永続的な改革をもたらすものであろう M)。
以上のことから,ニュージャージー最高裁判所は, CEIFAは,貧困な都市学区における公立学校 の子どもたちに, 「ゆきとどいて効率的な教育」を成し遂げる実体的な教育の機会を与えていないと
して,特別ニーズ学区に適用される限りにおいてそれは憲法違反であると裁定した。 CEIFAが制定 されてから僅か半年後の違憲判決であった。
そして裁判所は. ①暫//S的な措置として正規の教育の費)机こついて州は特別ニーズ学区の生徒1人 あたり教育費と裕福な学区との教育費を均等にするように財政措置をすること(1997年においては 両者の差は89%にまで縮小している), ②特別ニーズ学区の生徒がCEIFAで定められている内容の 水準を達成できるように改善措置のための財政措置を行うこと, ③1997‑98学年度の始めまでに州は,
アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革‑ニュージャージー州の事例(2)一泊石) 53 各特別ニーズ学区が,生徒の学力改善に成功している学区の生徒1人あたり平均の予算支出と同じ予 算支出を図ることなどを命令した。そして本件を地方裁判所に差戻し,特別ニーズ学区における補足 的なプログラムと施設の改善に対処するにはどのような司法的救済が必要かを決定させること,そし てそのためには地方裁判所に, f日数膏長をして特別ニーズ学区の生徒に「ゆきとどいて効率的な教育」
を確保するに対処すべき特別なニーズについての事実の発見と勧告のための調査研究を行い,報告書 を用意させるように命令する権限を与えた15)。
5 全面的学校改革とアポット第5判決 1)州教育長による全面的学校改革等の提案
最高裁判所の命令を受けて,地方裁判所の大法官部は,州教育長に特別ニーズ学区の学校改革案を 提出させ,また原告の法廷代理人となっている教育法センターにも州教育長の提案を踏まえた改革案 を提出させた。そして当事者双方に対する聴聞を経て、大法宮部は,事件の審理を助けるために任命 した特別補助裁判官(SpecialMaster)の助力を得て報告書と勧告を作成し, 1998年i n 22日,そ れら報告書と勧告を最高裁判所に提出した。そのなかで勧告は,次のような施策の実施を提案してい
る。すなわち, ①全面的学校改革(whole‑school reform), ②5歳児‑の全日制幼稚園, ③3歳児・ 4 歳児‑の全日制幼稚園就学前教育, ④サマースクール, ⑤学校内での保健・社会サービス, ⑥アカウ
ンタビリティ・システム, ②安全の強化である。これらの項目のうち,初等学校の改革提案である① の全面的学校改革は②, ③, ④と関連を有し, ⑤. ⑥, ⑦はミドルスクールとハイスクールの改革提 案である。
大法宮部の勧吉は.基本的には州教育長の提案に基づくものである。以下には,州教育長の提案を 基にして,新たな学校改革案の骨子をみておこう16)
まず,改革案の目玉ともいうべきものは,全面的学校改革(whole‑school reform.以1㍉ WSRとい う)という構想である。 WSRは,学校の個々の項目を改革するのではなく,文字どおり.学校全体 のあり方を改革しようとする試みであり,本件では特別ニーズ学区の初等学校を対象にした改革案で ある。初等学校に限っている理由として,州はミドルスクールやハイスクールについては研究が不十 分であることをあげている。
wsRには, Success ForAll, Accelerated Schools, America's Choiceなどいくつかのモデルがあって, すでにニュージャージー州の学校においていくつかのWSRを実施している学校もあるが,州教育長 はそのなかで,とりわけSuccessForAll (「すべての者に成功を」以下, SFAという)モデルの実施
を勧告している。もっともすでに実施しているモデルが当該学校において有効に機能しているのであ れは 提案は当面はそのモデルを採用してもよいとしている。
sFAは,生徒が就学前教育から初等学校を通じて,とりわけ適切なレベルの読解力を獲得するよう に意図されている。読解力が学力向上の鍵を握っているとの考え方がその背景にある。もちろん読解 力だけではなく,数学,理札社会札音楽,美術等の教科の学力向上も企図されている17)。
54 アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革‑ニュージャージー州の事例(2)‑ (白石)
SFAの特徴の1つは∴‑neverstream ,つまり「決して選別しない」ということにある。換言すれば, 生徒を読解力不能という理由で特別教育を受けさせることから守ることにあるとされる。その考え方 の背景には, SFAの高い質の集中的な読解プログラムは,読解力が貧弱でも普通の知能を有する子 どもたちでも読解力を身につけることができるという考え方がある。トラッキング・システムがそう であるように,過去において,そして今でもそうした子どもたちは学習不能児と分顛されているので あるが, SFAはそうした分頚を斥ける。もちろん重度の障害児等には特別教育は必要とされているが, そうした子どもでも通常の方法を原則として枠内で特別教育を行うとしている。
SFAを成功させるために,州教育長は,いくつかのSFAの運営・管理・実施のための制度上の提 案を行っている。その1つは.家庭支援チーム(familysupportteam)の結成である。家庭支援チー ムの結成は,子どもの勉強以外の問題を助けるために組織され,学校やコミュニティの資源を活用し て.子どもが学習の準備をして毎日,学校に通学できるように助力することを目的とする。支援チー ムのメンバーは,ソ‑シァルワーカー.カウンセラー,親の連合体,行政職員,教員および親である。
家庭支援チームは.保健,カウンセリング,栄養指導,個人指導(tutorial)等のサービスを提供する。 , 第2の特徴は, SFAにはプログラム・フアシリテ一夕‑ (progr・amfacilitators.SFAがうまく実施さ れるように図るための職員)の採用や学校を基盤とした経営(school based management.以下SBM という),および諮問チーム(校艮 教員,親で構成)の設置が提案されていることである。
第3は,全面的学校改革には関係者の尊1刊勺力量の向上が不可欠であるという観点から当事者の力 量形成のためのさまざまなプログラムが提案されている。そうしたプログラムとしてあげられるの が,全教員に対する現職研修の実施.校長・プログラム・フアシリテ一夕一・家庭支援チームのメン バーに対する研修.生徒の学力向上を図る指導プログラム等が提案されている。
第4は, 「ゼロ・ベース」 zero‑based)予算である。すなわち,学校はあらかじめ決められている 一定の項目に資金を機械的に振り向けるのではなく,資金の全敗を全面的な学校改革を実施するため
に必要と考えられる項目に柔軟に使用できるというものである。 「ゼロ・ベース」予算はSBMと連 動していることはいうまでもない。
学校改革の大きな柱として次にあげられるのが,早期幼児教育である。早期幼児教育は全面的学校 改革の要素の1つとして位置づけられている。早期幼児教育には,すでに述べたように, 5歳児への 幼稚園教育と3歳児・4歳児‑の幼稚園就学前教育があるが,州教育長は前者については全日制の, 後者については半日制の制度を提案している。こうした早期幼児教育についてはCEIFAで7Eめられ ているが,アポット学区ではほとんど実施されておらず.アポット第4判決で実施を命じられたため, 州教育長の提案となったのである。
特別ニーズ学区に対する補足プログラムの実施も学校改革の柱の1つである。全面的学校改革は初 等学校にのみ実施されることが予定され,ミドルスクールとハイスクールについては調査研究が十分 でないということで提案は見送られているoそこでこの2つの学校種別については保健・社会サービ スの提供という形で補足プログラムが提案された。保健・社会的サービスの内容として提言されたも
アメリカ学校財政神変訴訟と財政制度改革‑ニュージャージー州の事例(2)一泊石) 55 のとしては,ソ‑シァルワーク・精神保健サービス,麻薬・アルコールカウンセリング,歯科治療 サービス,プライマリ‑ヘルスケアなどであるG こうした保健・社会的サービスは従来の通年からい
えは 学校本来の業務でないため.州教育長の提案もこうしたサービスについては学校外で生徒の ニーズに応じて対応できる体制を整えることに主眼が置かれているoそれに対して原告は学校内サー
ビスの実施を提案している。
州教育長の提案する補足プログラムには保健・社会的サービスにとどまらず,テクノロジーの整備 (コンピュータを幼稚園からハイスクールまでの生徒5名に1台設置と常勤職員の配置)」戦業準備教 育(school‑to‑work),大学進学準備プログラム、オー)¥yタナティブスク‑ルプログラム(ミドルスクー 恥 ハイスク‑ルで伝統的な学習形態にとらわれない教育プログラムを提供する選択学校)などのプ ログラムがある。原告はそれに加えて,サマースクール,放課後教乳 栄養プログラムを提案した。
また,州教育長の提案は,そうしたアポット学区におけるプログラムを実施していく上での原則とし てアカウンタビリティの制度を導入するとしている。
さらに,州教育長は学校内における安全性の確保についても提案し,肘走の行動規約を制定する必 要があると提案した一方で.常勤の警備員を配置すべきことを提案した18きo さらにまた,州教育省 は.アポット第4判決で命じられた施設の問題の改善策に対応すべく.すべての生徒がCCCS (「コ アが)キュラム基準」)を充たすに+分な教授用面積を確保するための教育適切基準(educational adequacy standards)の策定や,アポット学区が初等中等学校建築・改築のための債権を発行できる
ように提言した。
以上のように,アポット第4判決を受けてなされた州教育長および州教育省の提案は,教育内容や 方法あるいは施設・設備など学校数育自体の事項に関する改革だけでなく,保健・社会的サ‑ビス,
さらには家庭支援などチビも自身が抱えている間数 さらには千どもの環境条件にまで配慮し,対処 しようとする,まさに全面的な学校改革案であった。
2)アポット第5判決と全面的学校改革の開始
最高裁判所の差し戻し命令に対して行われた以上のような州教育長や州教育省の提案に対して, 1998年5月21札最高裁判所はそうした提案は州法や州の規則に適うものとして合憲判決をTしたO そしていくつかのプログラムについて救済措置を命じた。判決が命じた救済措置は,惹全日制幼稚園 の実m. ②半日制就学前教育の実施 ③ミドルスクールとハイスクールにおける学校内保健・社会的 サービスの実施や学校内の安全性の確駄 ④テクノロジープログラムの追加,中途退学率を少なくす るためのオールタナテイブ・スクール等の設嵐 アカウンタビリティ・プログラムの導入.学区や 学校からの要請等に基づき職業準備教育や大学進学プログラムの実施 ⑤サマースクール・放課後教 育・栄養プログラムの実施等を行うことなどである19き。
原告は,州教育長等の提案のほとんどに異論を唱えなかったが, WRS案については. CCCS (「コ アが)キュラム基準」)に結びつけられて構想されていないがゆえに,憲法で保障された「ゆきとど
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いて効率的な教育」を確保するものとはならないと主張した。この点に関して判決は,証言のなかで 示さ讃1た他の州におけるSFAの成功事例をあげて, SFAがcccsに結びつく可能性を肯荒して,原 告の訴えを斥けた。また,原告は,州法に規定のないSFAモデルの実施の問題を指摘したが,判決は, sFAはCEIFAに規定する教育長の極限事項に属する事柄であるとして,原告の訴えを斥けた20)。
かくて,アポット訴訟はその結果からみると,判決が述べるように,学校財政の問題から教育問題 へと焦点が移り,全面的な学校改革への方向という形で終結しようとしている。しかしながら,もち ろん財政問題は重安ではないということではない。判決が述べるように, 「ゆきとどいて効率的な教 育の達成には適切な財政措置は不可欠である」21)。州教育長の提案どおりの全面的な学校改革を行う には相当な額の財政支出が必要なことはいうまでもないであろう。ただ第5判決において判決は,州 が示した教育改革には多くの要因が関係してくるという理由で,アポット第4判決までに命じた財 政支出の水準については決定を避けている(アポット第4判決までの主要な命令であったアポット学 区と裕福な学区の教育費の同一性について判決は,それは州教育長の提案に含まれていると解してい る)。
判決は,アポット第4判決以降の州の教育改革の取り組みを, 「教育長の教育改革への力強い提言, 州議会の総合的で実体的な教育プログラムと基準の必要性の明確な認識」22)と称え,本判決が州の多 大な努力の長い幸い歴史に「最後の司法の関与となるべきもの」23)と述べ,アポット訴訟の事実上の 結審を宣告した。アポット訴訟は,その後も続きアポット第7判決にまで継続されるが2̀ij 判決の事 実上の内容は第5判決に集約さjtている。
一方,アポット第5判決の約2カ月後,州教育長はWSRとSBM (学校に基盤を置く経営)の実 施規定を定めた(NewJersey Administrative Code, 1998)。それに伴いいよいよ本格的に全面的学校 改革が始まることになった。かくて,ニュージャージー州は,財産資産の貧困な学区に総合的な学校 改革プログラムを採用するように定めた全米で最初の州となったといわれる。その後, wSRを実施 する学校は着実に増加し,同規定が定められた1998年‑1999年にはWSRを実施していた初等学校は 72校であったが, 2000年‑2001年には182校になっている25)。
3)アポット第5判決に関わる問題
かくて,第1判決から15年にわたって争われたアポット訴訟は第5判決をもって事実上 終結す ることになった。しかしながら,アポット訴訟と判決についてはそれで終わらないいくつかの問題が 残されたことも否定できない。
Goertzらは,そうした問題をいくつか指摘しているが,そのなかで主な問題点をまとめていえば, 以下のようになる26)。第1は,アポット判決は,ただ1つのグループの,すなわち,貧困な都市学区 の不公正の問題を処理したのみであり,州内の60%の子どもを教育している残りの約550学区につ いては新しい学力基準を達するための適切な資源をもつべきかどうかの間違は残されたままであると いうのである。その結果, 28の貧困な都市学区については108の裕福な郊外学区と均等の教育費(坐
アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革‑ニュージャージ‑州の事例(2)‑伯石) 57 徒1人あたり)が目指されることになったが,残りの学区についてはそうしたことは何も定められて いない。その結私 他の貧困な地方学区はもとより,中位の教育費を調達している学区でもその教育 費はアポット学区より一段と低い状況に陥っている。かくて, 1997年12月には, 17の貧困な地方学
区が,またその5カ月後には25の教育費中位の学区が不十分な教育財政支出の改善を求めて提訴し た。州全体の学校財政制度の改善という点からすれば アポット判決はその1部を処理しただけであ り,むしろ判決とその後の制度改革は,アポット学区以外の問題を浮き上がらせることになったので ある。
第2の問題は,第5判決に伴う全面的学校改革などの制度改革に関するものであるが,上でみたよ うに,全面的学校改革(WSRその他も含めて)は,詳細で膨大な改革であり,まさにヘラクレス的 大仕事であるということである。そしてそうした大幅な改革を行いうるほどの能力(capacity)を州 教育省や学区,そして学区はもっているのかという問題である。そしてまた,改革に必要とされる経 費も相当なものと予想されるが,それほどの財政支出が可能なのか,それは州が負担するのか学区が 負担するのかなどという問題である。いわば 適切な実施が危ぶまれる大規模な改革を求めることに なったのではないかということである。
そうしたGoertzらの指摘に加えていえば 判決はWSRに全面的な期待を寄せているが, WSRが はたしてアポット学区の生徒の教育を改善するものになるのかという問題もあろう。この点につい て,原書は, WSRにはコアが)キュラム基準(CCCS)を達成するような仕組みが設けられていない として全面的学校改革案に危倶の念を表明したが,判決は他州におけるSFAの成功事例をあげてそ の主張を斥けている27)。もし将来,生徒の学力向上にさほどの効果が生じないとすれぼ そしてその ことについてもし訴訟が起こされることになれは 裁判所は結論の出にくい問題に巻き込まれること になるであろう。実体的教育内容の確保ということを裁完の重要な判断基準にしてきたのであれば wsRについてそれを確約させる裁定がなされる必要があったのではないだろうか。
また, WSRの下では.各学校に「ゼロベース」予算制度を導入するとされているが,学校に我義 を与える学校単位の財政制度が,実体的な教育内容の保障にどのような関連するのかは不明である。
学校単位の財政制度改革がはたして生徒の学力を向上させるような機能をはたすのかどうかである。
そうした制度に無前提の信頼を託してよいものかどうかが問われよう。
また,それ以前の問題として,そうした学校単位の財政制度が州全体の学校財政制度のなかでどの ような役割をもち,位置づけを与えられるべきかの問題もある。判決はそうした点については何も述 べていないが,州の責任を強く問う判決であれば 分椎的な財政制度のあり方についての吟味が必要 ではないかと思われるO
さらに.判決は,アポット学区など特産の学区の財政問題については大幅な改善を可能とする命令 を出したが, Goertzらの指摘するように,他の学区の教育費の学区間格差改善につながるなんらか の措置を命じているわけでもない。そうしたことから教育費の不足に悩むアポット学区以外の学区か ら訴訟が提起されるに至っている。そうだとそれは 裁判所はそうした学区の訴えにどのような法
58 アメリか学校財政制度訴訟と財政制度改革‑ニュージャージー州の事例(2) ‑ (白石)
理に基づいてどのような財政制度のあり方を認めるのであろうか。アポット学区以外からの提訴によ り,裁判所は早晩 州全体にわたる教育費の格差問題を一律に改善する財政制度のあり方を検討しな ければならないことになった。
6 ニュージャージー州学校財政制度訴訟の法理と課題
本件は,最初のロビンソン判決(1973年)からすれば約25年の歳月をかけて事実上の結審をした 裁判であったが.この軋 いくつかの特徴的な法理を案出している。寿を後に,そうした法理とその課 題をまとめて示すことにしたい。
第1に.本件は.アポット判決において貧困な都市学区の生徒のニーズを充たすことを州憲法の教 育条項の婁件であると判決の最初から最後まで一貫して主張し続け,そのための財政制度改革を命じ た判決であった。他州における学校財政制度訴訟も多くの場合,貧困な都市学区の生徒の劣悪な教育 環境を問題とし,裁判所の判決もそうした劣悪な教育環境を改善する命令を出しているが,ニュー
ジャージー州の最高裁判所の判決のように,学校財政制度改革の主眼に生徒のニーズの充足をあげた 事例はほとんどない。他州の裁判所が.生徒のニーズを判断基準にしていない最大の理由は,生徒の
ニーズは多様であって特//%するのが困難であるため司法判断になじまないとの判断によるものといっ てよい。したがって,多くの州の裁判所の判決は,判断基準を教育費の相対的格差や学校教育の内容 を検討することに関いてきた。その点において本判決は際立った特徴を示しているのである。
ここで,ニュージャージー州最高裁判所が示した生徒のニーズとは,上で述べたように,実体的な 教育を受けるニーズと,貧困な都市学区に居住しているがゆえに生徒が蒙る社会的経済的不利益を克 服するニーズ(本件では保健・社会的サービスを必要とするニーズ)である。これら2つのニーズの
なかで.前者の実体的な教育を受けるニーズについてはが)キュラムに関連させてのニーズであるた め司法判断になじむニーズである。しかしながら,後者のニーズは広く多様なものが含まれるため特 売が困難なニーズであり,司法判断に多分に適合しない問題である。その点では本件はニーズの定義 に課題を残しているといえよう。
第2に.実体的な教育内容の確保という法理を全面に出したことである0 ‑完の教育内容の確保と いうことは,早くもロビンソン第1判決(1973年)において.どの生徒にもミニマムな教育機会を 与えるということは州の絶対的な責務であると述べていることに示されているように,ニュージャー ジー州最高裁判所の一貫した見解である。それがアポット第2判決において実体的な教育内容の水準 の確保という明確な表現になった。学校財政制度訴訟において教育内容の確保ということが各州にお いて明確に打ち出されることになったのは,一般的に1980年代以降の学校財政制度訴訟の第3の波 以降のことであるが,ニュージャージー州においてはすでに1970年代の一連のロビンソン判決にお いて表明されているのである。しかもその後の財政制度改革において実体的な教育内容の確保を財政 制度に関連させて確保しようとするところに大きな特徴がある。その意味で本件は,先駆的な判決と なっている。
アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革‑ニェ‑ジャージー川の事例(2)‑ (白石) 59 この実体的な教育内容を財政的に確保しようとする基本的な制度が T&E額構想である T&E額 は,実体的な教育内容を実現している学校教育をモデルして算定されるものであり,理論上では適切 妥当な数字が算出されるはずである。しかしながら,すでに述べたように本件においてはモデル学区 は,貧困な都市学区に限っていえば 非現実的な学区であり,したがってT&E額も適切妥当なもの
となっていない。判決は.そうした問題点を指摘しているがモデル学区選定への再考を促してはいな い。実体的な教育内容を確保するのがT&E額であるとするならば モデル学区の変更を迫る論を述 べるべきであろう。
第3に 判決の法理の特徴点は,アポット第4判決で暫定的な措置と断っているが.貧困な都市学 区(アポット学区)の生徒1人あたり教育費の裕福な学区のそれと均等にするように命じていること である。学区間の同一の教育費という考え方は,アメリカ学校財政制度訴訟のなかでは.ほとんどの 州の裁判所が否定している,あるいは疑問視している考えであるO というのは各学区の事情は,人口 構成,屠住環境.生活水準などさまざまであり,学区間の教育費を同一にしても,それは実態を反映
したものとならないと考えられているからである。また,教育費が問題になるのは,それが教育の質 に関係していると考えられるからであるが,教育費と教育の質の関係についての研究は多くあるもの の,両者の相関関係を肯定する見解と否定する見解は措抗しているおり,明確な結論が出ていないの が実情であるO
そうしたなかで本判決は,限られた学区の聞とはいえ教育mの同一を命じたのである。こうした命 令は,貧困な都市学区の教育を財政面から支援し,教育活動を改善させるのに役立つことはもちろん である。ただ判決は,学区閏の教育費を同一にしなければならない理由を明確に示しておらず,教育 費と教育の質の関係の吟味は,いわば先送りした形となっている。
以上のように,その法理や見解にいくつかの疑問があることは否定できないが.上で述べたような 判決と財政制度改革の過程を辿ったニュージャージー州の学校財政制度訴訟と判決は,第1の波から 第3の波にかけて.リーディング・ケースの1つとなっていることは間違いない。
‑;主
1) Abbott byAbbottv. Burke (Abbott TV ), 693 A.2d ∠129 (N.J.1997), p. 429.
2) Rose v. Council for Better Education, Inc. 790 S.W.2d l86 (Ky.1989).
3) Edgewood Indepent School District v. Meno (Edgewood IV), 917 S.W.2d 717 (Tex.1995).
4) Abbott byAbbottv. Burke (Abbott IV), op.cit., p. 426.
5) Ibid., p.427.
6) Margaret Goertz and Malik Edwards, "In Search of Exellence for All: The Courts and New Jersey School
Finance Refonli Journal of Education FiプIance 25 (Summer 1999), p. 20.
7) Ibid., pp. 20‑21.
8) Abbott by Abbot‡ v. Burke (Abbott IV"), op.cit.
9日判決があげているモデ)i,学区の非現実性の例として.たとえは モデル学区では生徒数900名につき1名の 警備員配置の想完がある。この割合によれば,生徒数3000名のトレントン・ハイスクールには3.3名の警備 員が配置されることになるが,アポット学区の同校には17名の警備員が配置されている。また.モデル学区
60 アメリカ学校財政制度訴訟と財政制度改革‑ニュージャージー州の事例(2)一 白石)
では施設修繕費用として生徒1人あたり133ドルを計上しているが.学校の施設が老朽化して多くの修繕を 必要としている特別ニーズ学校ではこの額では足りない。 AbbottbyAbbotev. Bur・蝣ke (AbbottIV), op.citリp,431.
10) Ibid.
ll) Ibid., pp. 431‑432.
12) Ibid., p.430, p.440.
13) Ibid., pp. 435‑439.
14) Ibid., p. 445, 15) Ibid., p.417.
16) Abbott by Abbott v. Burke (Abbott V), 710 A.2d 450N.J.1998), pp. 457‑468.
17)州教育長の提案では.生徒は読解力のレベルに従って(年齢.学年に関わりなく) 15のグループに分けられ, 毎日90分の読解の授業を受ける。また読解力に問題のある第1学年から箪3学年までの生徒に対してはチェ一
夕一による1対1の授業(20分)が.それより高学年の生徒に対しては生徒数の割合が少し高くなる。 8週 間ごとに生徒の進歩を評価し,必要があればチューターを追加するIbid.,p.457.
18)提案によれば 常勤の警備員については初等学校では生徒数535名につき1名の苧苧備員,ミドルスクールと ハイスクールでは生徒数225名につき1名の警備員の配置。 Ibid.,p.467.
19) Ibid., p.450.
20) Ibid., p. 459.
21) Ibid., p.469.
22) Ibid., p.455.
23 Ibid.
24) Abbott v. Burke (Abbott VI), 751 A.2d 1032 (NJ.2000). Abbott v. Burke (Abbott W), 790 A.2d 842 (N,J.2000).
25) Bari Anhalt Erlichson arld Margaret Goertz, "Wもole School Reform and School‑Based Budgeting in New Jersey' in Fiscal Policy in Urban Educuation Edited by Christopher Roellke and Jennifer King Rice, Infomation Age Publishing Inc. 2000, pp. 38‑40.