オーストラリアの教育実習における大学と 実習校の連携に関する一考察
本 柳 とみ子
はじめに
本論文の目的は,オーストラリアの教員養成で実施されている教育実習において,大学と実習校の 連携がどのように構築されているかについて考察し,その特質と課題を明らかにすることにある。
教育実習は,教員養成課程の学生が学校現場での実習を通して,大学で学んだ理論を実践に統合さ せる上で非常に重要な体験であり,教員実習を重視している国は多い(1)理論と実践の統合以外に ち,教員としてのアイデンティティの形成,教育現場の実態の把握,教員の職務に対する理解など, その効果や意義については多くの研究で明らかにされている(2)。オーストラリアにおいては教育実 習が教員養成の主要な要素となっており,カリキュラムの核として位置づけている大学は多い。また, オーストラリアの教員養成が過去においては学校内の見習い制度(apprenticeship)により行われ, その後は教員養成を専門とする教員カレッジ(teachers'college)が中心的役割を担ってきたという 歴史的経緯から,教員養成では実践的指導力が重視され,学校現場での経験を通してそれを育成する
という認識が一般的である。
教育実習の効果を高めるには大学と実習校との連携が不可欠であり, OECDが行った調査でも, 両者の連携・協力がなされているほど実習の効果が高まることが明らかにされている(3)。その一方 で,教育実習における両者の連携には課題も多く存在する。それらは,実習に対する大学教員と学校 現場の教員の期待や認識のずれ,大学教員の実習への関与の少なさ,大学での学習内容と実習内容と の乗報(4)など実習内容に直接関わる課題から,実習校確保の難しさ,多様な実習場面の欠如,学校 現場での支援体制の不備などといった実施運営面の課題まで様々である(5)。オーストラリアにおい ても,教育実習に関わる課題は各種の報告書で指摘されているが,その中で,実習校の確保や指導教 員の割り当て,日程調整などの面で多くの困難があることが明らかにされており(6)教育実習を円 滑に実施するためには大学と実習校との密接な連携が不可欠とされている。そこで本論文では,オー ストラリアの教育実習における大学と実習校の連携について具体的な事例を考察し,連携の構築方 演,およびその特質と課題について明らかにしたい。
オーストラリアでは,初等・中等教育および教員養成に関しては各州および準州(以下, 「州」)の 管轄であり,教員養成に関しても州ごとに独自の制度が確立している。それゆえ,本稿では州の中で も教育実習期間を最も長く設定しているクイーンズランド州に焦点を当てる。まず,オーストラリア
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の教員養成における教育実習の特質について考察する。次に,州の大学の中で教員養成課程の学生が 最も多く在籍しているクイーンズランド工科大学を事例として,大学の教育実習担当オフィス,大学 教員,実習校の指導教員(以下, 「指導教員」),実習生それぞれの観点から教育実習における大学と 実習校の連携の実態を考察し,その特質と課題を明らかにする。ここでは特に大学が作成し,学生や 実習校に配布している教育実習に関する各種資料に基づいて考察する。また,本研究のため,筆者は 2005年から2006年にかけて3回現地調査を行い,教育実習に携わる大学教職員と実習校の教員,お よび学生にインタビューを実施しており,それらの調査結果も含めて考察する。なお,教員養成では 学校以外の幅広い分野での実習も行われているが,本論文では原則として学校現場における実習のみ
を考察対象としており,社会体験などは含めていない。
1.オーストラリアの教員養成における教育実習の特質
オーストラリアにおける教員養成機関は主として大学である。教員養成のみを行ういわゆる教員養 成系大学というものは存在せず,大学の教育学部あるいは教育学科が教員の養成を行っている。大学 の予算については連邦政府の管轄であるが,設立その他については州政府が権限を有しており,教員 養成プログラムの認可や教員の資格要件も州政府の管轄である。
現在,オーストラリアで初等・中等学校の教員資格を取得するためには, 4年間の教育学の課程で 学士号(Bachelor of Education)を取得するか(7)または, 3年間で教育学以外の分野の学士号を取 得したあと, 1年間の大学院レベルの教員養成課程で教員資格を取得するかのいずれかが一般的な方 法である(8)。ほとんどの州が教員登録を実施しており,教職に就くためには教員としての登録を行 わなければならない。登録の条件は認可された教員養成課程を修了するか,それと同等の資格を有す ることである。クイーンズランド州の場合は,法的権限を有する独立行政機関であるクイーンズラン
ド教師会(Queensland College of Teachers,以下, 「教師会」 (9)が教員登録および教員養成課程の認 可に関する責任を担っている。教師会は養成課程の認可基準(10)を作成し,それをもとに各大学の敦 貞養成プログラムを審査し,認可を決定している。
教師会が提示する認可基準には州の教員に求められる資質・能力,養成機関の特質,養成プログラ ムのデザイン方法,教育実習の条件などが示されている。履修科目や単位数,科目の配列,教授方 演,評価などについての規定はなく,大学はその独自性を尊重されており,制約を受けることはな い。認可基準では,カリキュラムは教職専門分野,教科専門分野,および実習体験から構成され,敬 育実習については,学部レベルでは実習体験(professional experiences)を最低100日行い,そのう ち80日間は学校またはそれに準ずる教育機関において指導教貞のもとで行う教育実習(supervised professional experiences)とされている(ll)残りの20日間は学校以外の場を含めた幅広い社会体験 (wider field experiences)であり,企業での実習やボランティア活執 成人教育,学校でのインター ンシップなどがこれに充当する。インターンシップは学校における実習であるが,一般の教育実習と は異なり指導教員を伴わずに授業を行うことができ,準教員の資格で教育活動に従事する。教育実習
では大学から指導教員に指導料が支払われるが,インターンシップでは学生が自立して授業等をおこ なうため,指導料は支払われない。
各大学は,認可基準に基づいてカリキュラムを編成するが,ほとんどの大学が教育実習をカリキュ ラムの核として位置づけており,そこには以下のような特質が見られる(12)まず,教育実習がカリ キュラム上の主要科目として各学年に設定されており,学年,あるいは学期ごとに教職専門科目の配 列に合わせて実践を積み上げていくように構成されている。それによって,理論学習と実践学習がカ
リキュラムの中で統合される。また,実習ごとに理論学習の科目と連結した目標が設定されており, 実習を通して何を習得すればよいかが明確にされている。
次に,大学の授業との連続性,整合性が見られることである。教育実習は教職専門科目としてカリ キュラムに組み込まれており,他の科目と連結している。ある大学では,個々の教育実習と教職専門 科目の間で学習テーマや課題が共有され,教職専門科目で学習した理論を実践の中で検証しながら両 者を融合させるように設定されている。また,別の大学では,すべての教職専門科目それぞれが何ら かの観点で教育実習と連結し,すでに学習した理論については教育実習で実践化し,教育実習の後に 学習する理論については,実習での経験をもとに理論化していくという機能を兼ね備えている。
また,教育実習の質と量に関しても顕著な特徴が見られる。オーストラリアでは,州によって教員 養成の基準が異なるため,実習の期間や形態は異なる(13)。しかしながら,実習期間が最も短い州で
も最低4週間は必要とされており,最も長いクイーンズランド州では先述のように現職教員のもとで 行う教育実習は80日以上と決められている。それでもなお実習期間の不十分さを指摘する声がある が(14)実習校の確保や実習の経費等の問題もあり,期間をこれ以上延長するのは難しい。そのため 多くの大学では,教育実習を教員養成の最も重要な要素と位置づけた上で, 80日間の教育実習を効 率的,かつ有意義に実施するべく工夫と質の向上に努めている。
さらに,大学と学校の連携が密接である。実習生の指導は,実習校の教員が主導的に行うが,大学 教員も実習には深く関わり,必要に応じて指導教員と連絡を取り合いながら,実習生の相談や指導に あたっている。実習の評価は,指導教員による実習内容の評価と,大学教員による課題の評価を総合
して行い,指導教員と大学教員のいずれもが実習生の評価に関わっている。これは,大学教員と指導 教員の間に教育実習に対する共通認識を醸成し,期待や認識のずれの解消にも役立つと考えられる。
また,大学には教育実習を専門に担当する部署(以下, 「教育実習オフィス」)が設置され,実習校の 確保や調整,実習生の配置,実習校と大学との連携など実習に関わる事務的な業務をすべて担ってお
り,大学と実習校のパートナーシップを構築する上で重要な役割をはたしている(15)
オーストラリアでは,学生が自分で実習先を決めることはできず,学生の希望をもとに教育実習オ フィスが実習枚の割り振りを行う。これほどの学生にも平等な実習機会を与えると同時に,縁故など による利害関係をつくらないためでもあるが,そのためにも大学と学校の連携が不可欠となる。
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2.クイーンズランド州における大学と実習校の連携の事例 2‑1カリキュラムにおける教育実習の実施方法
事例とするクイーンズランド工科大学は,ブリスベン市内の三つのキャンパスに約40,000人の学 生を抱える州最大の大学である。教員養成は教育学部で行われているが,認可された教員養成課程の 種類は多い。 2つの学位を同時に取得することも可能なため,他学部の学生も教員養成課程で多数学 んでおり,その総数は約5,000人である。これはオーストラリアの大学の中では最も多い。また,ク イーンズランド州では2006年度から大学院レベルの教員養成課程がそれまでの2年間から1年間に 短縮されたため,同大学でも履修生の数が大幅に増加している。
学部レベルの実習は2年次から始まり, 5回のブロックに分けて20日間(4■週間)ずつ行われる。
実習は教職専門科目として設定されており,実習に先行する数週間は大学で事前学習が行われる。 4 年次にはインターンシップが必修とされているO実習科目は各年次に履修する教職専門科目の中の教 授学習に関する科目と連結しており,両方の科目がテーマを共有し,教授学習に関する科目で学んだ 理論を教育実習の実践の中で検証しながら理論と実践を続合させていく。両方の科目にまたがる課題 が実習ごとに課せられ,教授学習に関する科目で学んだ理論を教育実習でどのように実践に統合させ たかについて小論文としてまとめ,教育実習終了後大学に提出するようになっている。実習は教科専 門科目とも連結しており,特に教科カリキュラムの学習で学んだ理論を実習中の授業で応用し,その 効果を確認することが重要な課題となっている。
実習は,実習校の指導教員による評価と大学教員による評価がそれぞれ合格または不合格で示さ れ,両方合格しなければ単位を取得することができない。そのため,評価の前提となる指導は綿密に 行われる。実習2週目には指導教員により中間評価のレポートが出され,改善すべき点や問題点など の指摘がなされる。実習生はそれをもとにして後半の実習を改善していくが,特に,実習前半に問題 が多く見られ,中間評価で不合格の可能性がある(atrisk)と判断された場合は,実習校は大学に連 絡し,指導教員と大学教員が両者で指導にあたることになっている。
同大学では,教育実習の実務的業務はすべて教育実習オフィス(Field Experience Office)が担当 している。オフィスには専任のスタッフが常駐し,実習校や他の教育関係機関との連絡調整等を行い, 実習校との連携において重要な役割をはたしている。教育実習には同オフィスの職員をはじめとして 大学,実習校その他複数の機関が多面的に関わっており,以下においてそれぞれの側面から連携の実 態を考察することとする。
2‑2 教育実習オフィスの機能と業務
2007年現在,オフィスでは所長以下6名のスタッフが,幼児教育 初等教育,中等教育,成人お よび社会教育に分かれて教育実習の事務的業務を行っている。教育実習オフィスの機能は大きく3つ ある。第一は,実習生の配置等に関わる連絡調整であり,学生の希望,居住地,実習校が提示する条
件等を考慮して学生の実習先を決定する。第二は,実習に関わる学生や大学教員,実習校の教員との 連携構築であり,特に実習校の教員と大学教員のコミュニケーションの促進は重要な業務である。第
三は,実習プログラムの向上であり,教員養成課程の教員と協働でプログラムをコーディネートし, また,他の大学や学校,教育関係団体ともパートナーシップを構築して,実習に関する調査,研究を 行いながらプログラムの改善を行っている。
教育実習の実施に関わる教育実習オフィスの具体的な業務としては以下のものがある。まず,対外 業務として, ①実習に関する資料の送付と実習生受け入れの要請, ②実習校からの希望聴取, (参実習 校と学生のマッチング, ④プログラムの調整, ⑤実習校‑の必要書類送付, ⑥実習校との各種連絡,
⑦実習評価レポートの回収,などがある。一方,学内業務としては, ①実習科目登録学生数の把握,
②学生の希望収集, ③実習校への学生配置と調整, ④実習校担当教貞の配置, ⑤各種説明会の実施,
⑥科目担当者との連携による実習成績の査定および単位の認定, ⑦実習に関わる資料の作成と配布, などがある。そのほか,新入学生対象のワークショップ,関係者‑の助言,各種オンライン情報の提 供なども行い,さらに他大学と連携して情報交換を行うことも重要な業務となっている。
教育実習オフィスが現在抱える最大の課題は,実習校の確保である。これは,オーストラリアの すべての大学に共通する課題でもあり,各大学は実習校を少しでも多く確保できるように努めてい る。クイーンズランド工科大学は,現在,州全域に1,000校近い実習協力校を確保しているが,年間 約5,000人の実習生を配置しなければならないため,その数は依然として不足している。特に,同大 学のある州都ブリスベン近郊は大学が集中しており,近隣の学校に実習希望が集中するため,実習 校の絶対数が大幅に不足している。そのため,州内の大学は教育実習コンソーシアム(Queensland Consortium for Professional Experiences in Preservice Teacher Education)を設立し,学校,行政機関, 教員組合,その他の教育関係機関等との連携を深めながら,大学間で実習棟を融通し合ったり,実習 生の数を調整し合ったりしている。
また,クイーンズランド州では州全体に人口の稀少な遠隔地が散在しているが,そうした地域の学 校での実習を希望する学生はほとんどいない。また,たとえ遠隔地での実習を希望しても,交通費や 滞在費など費用の負担が大きい上に,遠隔地には実習中の滞在場所がほとんど見つけられないのが現 状である。そのため,オーストラリア遠隔地保護者協議会(Isolated Children's Parents'Association of Australia)と連携し,滞在先の確保や費用の面などにおいて援助を受けながら遠隔地における実習 の向上に努めている。
2‑3 実習校の対応
実習校は各大学からの要請を受けて実習生を受け入れるが,その窓口となるコーディネーター (site coordinator)を配置しており,一般には副校長がこれにあたる。実習生の受け入れ人数は学校 事情によりまちまちであるが,指導教員のわりふりはコーディネーターが中心となって行い,教科, 校務分掌,経験年数などを考慮して決定する。指導教員(supervising teacher)は教科指導のほか指
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導を全般的に行うが,指導教員の他にも必要に応じて校長や教科主任など他の教員が指導に加わる。
実習内容は授業での教科指導が中心となるが,他にも教員の職務について幅広く体験することが求め られている。実習の評価は,指導教員とコーディネーターが中心となって行う。先述のように,実習 のなかばに中間評価が出されるが,これは前半の実践を省察し,後半の実践を改善させることを主た る目的としており,学生は評価内容について指導教員と協議し,助言等を得ながら,後半の実践を向 上させていく。ここで「要指導」の評価をされた学生について,実習校は指導を強化するとともに, すぐに大学に連絡をとらなければならない。それは,できる限りの指導を行って,不合格の学生を極 力出さないためである。実習終了時点で,実習校は最終評価表を大学に提出する。これは,各評価項
目についての評定と所見から成り,総合的に見て合格,不合格の評定がつけられる。
最終学年の実習生は最後の実習終了時に面接を行う。これは,州教育省による採用のための能力審 査を目的とする面接であり,現役教職学生の場合は最終実習校で実施する。面接官は実習校の指導教 員,校長,副校長などである。
① 実習校コーディネーターの役割と責務
実習校コーディネーターは大学と実習校とのパイプ役であり,職務内容は,年間の受入条件等に関 する学校側の情報提供と大学との各種協議,実習プログラムのコーディネート 実習生に対するオリ エンテーションの実施および学務に関する指導,指導教員の意識の向上 指導教員の職務管理と負担 の軽減などである。最終学年の実習生については学校長や指導教員とともに面接を行い,面接評価報 告書を作成するのもコーディネーターの仕事である。
② 実習指導教員の役割と責務
指導教員は原則として2年以上の教職経験が必要である。大学から送付される資料すべてに目を通 し,実習内容や関係者の役割を理解し,実習生に関する情報を大学関係者や実習生と共有する必要が ある。大学での学習内容についてもできる限り理解しておくことが望まれる。実習開始前に実習生と 打ち合わせを行い,実習内容,目標,実習生の個別の情報について確認するとともに,学校や教職員 の説明,教員の職務内容,生徒の情報等についても説明する。
実習開始後は,実習生が生徒や教職員などと健全な関係が築けるように努める。指導教員は,必要 に応じて実習校コーディネーターや大学関係者と実習生に関する情報交換を行いながら,実習生の指 導を毎日行う。授業の際は必ず参観することが義務づけられており,実習生のみで授業をさせること
は認められていない。自らも指導のモデルを示し,授業のガイダンスや,指導方法についての助言を 与えながら,実習生が自立的に授業を行えるように導く。教材の選定,指導案の作成,授業中の生徒 管理,教授法等の指導,授業後のフィードバックなどを行い,授業以外の職務などについても指導を 行う。また,大学から出されている課題への助言も求められている。
筆者が調査をしたブリスベン市内の州立中等学校では2005年度には3大学から計18名の実習生を 受け入れており,内訳は学部生16名,大学院生2名であった。コーディネーターは2名いる副校長 のうちの1名が担当している。実習生の指導は3年以上の教職経験を持つ教員が担当することになっ ており,中等学校の場合は2教科について授業実習を行うため(16)各教科1名ずつの教員が指導教 員となる。コーディネーターによれば, 「実習生の指導を行うことについて教職員はおおむね肯定的 であり,指導も熱心に行っている。教職員にとっては実習生の受け入れにより仕事が増すことは事実 であるが,自分たちも実習指導を受けてきており,後進を指導するのは当然のことである。教員の養 成は現場での体験が重要であることはどの教職員も理解しているので,不満などの声は聞かれない。」
ということである。教員養成は大学と学校の連携で実施するという理念が学校現場にも浸透している ように感じられた(17)。
2‑4 大学教員の役割と責務
大学では実習科目担当教員の他に各教員が実習校を数校ずつ担当し,実習生の指導を行っている。
実習科目担当教員は教職専門科目として設定されている教育実習の科目を担当しており,実習前の授 業では事前の学習と指導を行う。事前学習では,文献講読による理論学習,実習の心得,個別指導, ワークショップなどが行われ,実習課題が課せられる。
実習開始前,実習期間中および最終週には必ず実習校コーディネーターに連絡を取り,実習状況に ついで情報を得たり,実習レポートや実習課題等について確認したりすることが求められている。ま た,学校側の実習に対する疑問や懸念を吸い上げて,教育実習オフィスに伝達することも重要な任務 である。実習校が大学近郊の場合はできるだけ訪問することが望ましいとされているが,その際は必 ず実習校コーディネーターを通さねばならない。筆者がインタビューをした教員は,実習期間中に実 習生を訪ねて実習状況を聞くとともに,授業や面接についての助言を与えていた(18)。しかしながら, 指導はそれぞれの教員によって異なる。同じ大学であっても,こうして実習枚を訪れ実習生への助言 や指導教員との情報交換を行う者や,実際に授業を参観する者もいれば,実習校コーディネーターと 電話で連絡を取るだけの者や,大学で事前と事後の指導しか行わない者もおり,統一はされていない。
実習校担当教員の重要な役割のひとつに,実習校から大学への研修実施希望の把握がある。大学は 現職教員対象の研修プログラムを各種設定しており,教員の職能開発の一翼を担っているが,特に実 習生を受け入れている学校に対しては特別な研修機会を提供するなどの配慮をしている。このことが 両者の連携をさらに強めることにつながるからであり,大学は現場の教員のニーズを把握し,有益な 研修プログラムを開発するように努めている。
2‑5 実習生の責務
実習校が決定すると,必要な資料とともに教育実習オフィスから学生にメールで連絡がとられる。
学生は実習校に関するその他の情報を各自で収集し,同時に実習校コーディネーターに連絡をとり
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実習に対する事前の準備を行う。実習前には各学校でオリエンテーションが行われる。クイーンズ ランド州では,青少年の福祉と権利を保護する目的から2000年に「青少年および保護者委貞会法」
(Commission for Children and YoungPeople and Child Guardian Act 2000)が制定され, 18歳以下の青 少年に関わる活動に従事する者には犯罪歴等の審査が行われ,その結果発行される許可証(通常「ブ ルーカード」と呼ばれる)の所持が義務づけられている。さらに実習生は,職務に関しては現職教員
と同じ法規走が適用され,また,教育省の倫理規定にも従うことが義務づけられている。
実習方法は実習校の事情や大学の方針により異なることもあるが,クイーンズランド工科大学では 原則として20日間の実習期間を5日ごとの4ブロックに分け,最初の5日間は指導教員の授業等を 参観し, 6日目から個人あるいは小グループに焦点を当てた調査活動を行う。 11日目からは授業の一 部を担当し, 16日目以降は授業すべてを担当する。実習期間中は,授業だけでなく職員会議や課外 活動などへの参加も奨励され,学校現場の状況や教員の仕事について幅広く学ぶことが求められてい
る(19)。
3.教育実習における大学と実習校の連携の特質と課題
以上見てきたように,オーストラリアでは教育実習における大学と実習校との連携がきわめて重要 であり,その現状を考察するとその特質として以下の点が明らかになる。第一は,実習に関わる業務
を担当する大学の教育実習オフィスが,連携を構築する上できわめて重要な役割をはたしていること である。オーストラリアでは,学生個人が実習校を選定することはできず,すべて教育実習オフィス が学生の希望をもとに決定する。そのため大学は実習生を全員配置できるだけの学校数を確保する必 要があり,その業務を担っているのが教育実習オフィスである。具体的な業務内容としては,州内外 の学校への実習生の受け入れ要請,実習校についての情報収集,大学側の情報提供,大学と学校の提 示条件の調整などである。また,大学と学校が1対1で連携するだけでなく,複数の大学および学校 が協力して実習校の開拓や実習プログラムの向上などに努めている。具体的には,先述の教育実習コ
ンソーシアムに参加する大学と教育関係機関が協力して実習校を開拓し,情報を共有しながら配置す る学生の数を大学間で調整し合っている。教育実習オフィスを通じたこうした取り組みにより,大学 と学校,また大学と大学の間で年間を通じて情報交換が行われ,実習運営が円滑に行われるような努 力がなされている。
第二は,実習に関わる各教職員の役割が明確にされていることである。大学と実習校の渉外事務は それぞれ教育実習オフィスおよび実習校コーディネーターが担当し,窓口が一本化されているOその ため情報交換が行いやすく,情報の遺漏や食い違いなどの起きる心配が少ない。また,実習に関わる 担当者の役割が明確にされており,各担当者は自分の責任範囲を認識して指導を行うことができる。
大学からは実習校に求める指導内容が事前に提示されるが,大学からの一方向的な要請ではなく,実 習校の意見も取り入れながら実習プログラムの内容を改善しており,両者の意見を反映させた内容と
なっている。そのために大学は日頃から学校側の意見を収集しており,特に実習終了段階で実習校か
ら送られるフィードバックは改善のための貴重な意見となっている。
第三は,大学と実習校が共に実習生の指導に関わっていることである。実習中の指導は,実習校の 指導教員が中心となって行うが,大学数員も実習には深く関わっている。教員養成を行う大学教員は ほとんどが学校現場を経験しており,学校の事情を把握していることも積極的に指導が行える理由と なっている。大学では実習科目を担当する教員の他に,各教員が実習校ごとに複数の実習生を担当し, 必要に応じて実習先の指導教員と連絡を取り,実習生の相談や指導を行っている。場合によっては, 実習校を訪れ,実習の様子を観察することもある。特に中間評価で「要指導」とされた学生について は,ただちに大学に連絡が取られ,指導教員と大学教員の両者による連携した指導を行うことになっ ている。実習の最終的な評価も,指導教員よる評価と,大学で課せられる課題の評価を総合して行う ため,指導教員と大学教員のいずれもが実習生の評価に深く関わっている。こうした双方からの指導 は,大学教員と実習指導教員,あるいは大学教員の間に教育実習に対する共通認識を醸成し,期待や 認識,あるいは指導内容のずれを解消することにも役立つと考えられる。
第四は,連携を維持するための努力が日常的に行われていることである。まず,大学は年間を通し て各学校と連絡を取り合い,連携の維持に努めている。実習生の受け入れを依頼するためには各学校 の事情を日常的に把握し,大学側の条件等についても早めに提供する必要があるからである。さらに, 実習が始まる前には実習生のプロフィールや大学側の要望,評価方法等についての情報が送付され, また,大学での学習内容と実習内容の乗離をなくすために,大学のカリキュラム内容についても指導 教員に知らせることが重要とされている。一方,大学は現職教員向けのプログラムを多数提供してい るが,これが実習における連携の強化につながることが少なくない。大学は実習を依頼するかわりに 現職教員に研修を提供し,そこにいわゆる「ギブ アンド テイク」の関係が成立するのである。大 学は効果的な研修を提供するため,各校のニーズを把握し,現場の要請に応える努力をする。このこ
とは,実習校の研修希望を把握して実習オフィスに伝えることが,大学の実習校担当教員の責務のひ とつとされていることからも明らかである,また,現職教貞をチューターとして大学の授業で活用す ることも一般に行われており,連携は教育実習の実施に関わることばかりでなく,様々な面で行われ ている。さらに,優秀な学生を実習校に送ることが,次年度以降の継続的受け入れにつながるため, 大学では実習生の指導もきめ細かく行っている。
教育実習における大学と実習校の連携に関しては以上のような特質が見られる一方で,課題として は次の3点を指摘することができる。まず,実習校の慢性的な不足があげられる。特に州都を中心
とする地域には大学が集中しており,全大学の学生を合わせるとかなりの数にのぼるため,学校数が 足りない状態である。大学はコンソーシアムを設立し,協同で実習校の確保に向けた努力をしている が,依然としてその絶対数は不足している。大学教員を対象とした調査(20)辛,筆者が教育実習オフィ スの担当者に行ったインタビュー(21)でも,大学にとっての最大の課題は実習校の確保とされている。
実習校の不足は,多様な実習場面の欠如や質の低下にもつながるため,改善が求められている(22)。
次に,受け入れ体制が不十分な学校が存在することである。実習を指導する教員は各学校で決定さ
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れる。指導教員は指導力のある教員が望ましく,一般には教職経験2年以上の教員とされるが,時間 割や校務分掌など学校事情により,十分な指導が行えない教員が担当する場合もある。また,本人の 意に反してやむを得ず指導教員となる者や,負担増から指導を引き受けたがらない教員がいることも 事実である(23)。教員の実習指導力向上とともに,受け入れ体制の整備や教員の意識向上が求められ
る。
さらに,大学教員の実習への関与のしかたにも差異があり,十分な関与がなされない場合がある。
たとえば,実習に向けた指導があまり行われず,実習校に任せきりという例も少なくない。また,敬 員養成に携わる大学教員には学校現場を経験した者が多いが,その中には現場の経験が何年も前にさ かのぼるため,最近の現場事情を十分把握していない教員もおり,実態にそぐわない実習指導が行わ れる例も見られる(24)これらの課題のほかにも,実習にかかる費用が大学の予算を圧迫するなど運 営上の問題もあり,大学と実習校の連携はさまざまな面で改善が求められている。
おわりに
オーストラリアの教員養成における大学と実習校の連携について,クイーンズランド州の大学を事 例とし,教育実習に関わる様々な立場から考察した。その結果,オーストラリアでは教育実習を実施
する上で大学と実習校の連携が不可欠であり,大学は連携の構築と維持に努めていることが明らかに なった。さらに,教育実習における連携では,教育実習オフィスが重要な役割をはたしていること, 実習に関わる教職員の役割が明確であること,大学も実習校も共に実習生の指導に深く関わっている こと,連携を構築し維持するための努力が日常的に行われていることなどが特質として明らかになっ た。その一方で,実習校が慢性的に不足していること,受け入れ体制が十分でない学校が存在するこ と,大学教員により実習への関与がまちまちであること,さらに実習の経費の問題などが課題として 浮かび上がった。
教員の実践力育成を重視するオーストラリアでは,教育実習が教員養成の中心となっていることは カリキュラムの考察から明らかである。また,教員養成課程最終学年の学生を対象とした調査では, 教員養成の中で教育実習が最も有意義で効果があるという結果が出ており,教育実習の重要性が裏付
けられている(25)実習をさらに有意義なものにし,その効果を高めるためには,大学と実習校の連 携を強化することが重要であることが本研究を通して明らかになった。大学と実習校の間に緊密な連 携が構築され,両者が協同で実習生の指導を行うとその効果は増大する。それは,教職という仕事が 実践の中で培われる要素の大きい職種だからであり,教育実習は教員養成においてさらに重視される と思われる。教育実習における大学と実習校の効果的な連携のあり方について今後も研究を深めてい きたい。
注(1) 0 E C D (2005) Teachers Matter, Attracting, DevelopingAnd Retaining Effective Teachers, p. 108.
(2) Groundwater‑Smith S. et al. (2003) Secondary Schooling in a Changing World, Melbourne, Thomson, p. 144.
(3) Ibid., pp. 108‑109.
(4) Ramsey, G. (2000) Quality Matters, Revitalising teaching: Critical times, critical choices, Report of the Review of Teacher Education, New South Wdes, p. 60.
(5) Ibid., pp. 108‑109.
(6) Ramsey, G. (2000) op.cit, pp. 60‑64.
(7)このコースでは,教育学以外に他の分野も同時に履修し, 4年または5年かけて2つの学位を同時に取得 することも可能である。
(8) Commonwealth Department of Education, Science and Training (2002) Teacher education courses and comple‑
tions, initial teacher education courses and 1999, 2000 and 2001 completions, p. 27.クイーンズランド州では, 大学院レベルの教員養成は2005年度までは2年間とされていたが, 2006年度からは最低1年間に短縮された。
(9)教員登録および教員養成課程の認可に関する責任を負う法令上の行政機関である 2005年度までは教員登 録委員会(Board of Teacher Registration)として業務を行っていたが, 2006年度より名称をクイーンズラン
ド教師会に変更し,その機能を新たにしている。
Queensland Board of Teacher Registration, (2002) professional standards for graduates and guidelines for pre‑
service teacher education programs, 2002.
(ll)大学院レベルの課程ではそれぞれ75日と55日とされている。なお,教育実習の名称は「フィールド体験」
(field experiences) , 「教職実習」 (professional practices in teaching) , 「教職体験」 (professional experience) などというように大学により異なる。
(12)カリキュラムにおける教育実習の位置づけとその特質については,本柳とみ子(2006) 「オーストラリアの 教員養成カリキュラムにおける教育実習の位置づけとその特質」早稲田大学大学院教育学研科紀要(別冊) 14号‑1, pp.221‑231を参照されたい。
Australian Government Department of Education, Science and Training (2003) Australia's Teachers:
Australia's Future, Advancing Innovation, Science, Technology and mathematics, pp. 137‑139.
(14) Australian Government, Department of Education, Science and Training (2002) An Ethic of Care, Effective
蝣s, h仕p://www.dest.gov.au/archive/schools/publications/2003/beginningteachers.
pdf(2007年4月6日)
(15)大学により教育実習の呼称が異なるため,担当する部署の名称も異なる。それゆえ,ここでは総称して「教 育実習オフィス」と記すこととする。
(16)オーストラリアでは中等学校の教員は原則として2教科の教授資格を取得する。
(17)学校訪問は2006年3月15日に行い,インタビューは,学校長,実習コーディネーター,指導教員の3者 に対して計2時間行った。
2006年9月4 B,筆者による実習校での調査。
Queensland University of Technology, Faculty of Education (2006) Field Experience Handbook Bachelor of Education (Secondary).
Skilbeck, M. & Connell. H. (2004) Teachers for the Future, The Changing Nature of Society and Related hues for the Teaching Workforce, MCEETYA, p. 43.
(2B 筆者による教育実習オフィス担当者へのインタビュー。 2006年3月17日実施) Ramsey G. (2000) op.cit., p. 60.
Ramsey G. (2000) Ibid., p. 60.
RamseyG. (2000) Ibid., p. 60. 0 ECD (2005) op.cit,p. 46.
Australian Government, Department of Education, Science and Training (2006) Survey ofFinal Year Teacher Education Students, pp. 10‑14.