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九州⼤学⼤学院 ⼯学府 エネルギー量⼦⼯学専攻

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(1)

博 ⼠ 論 ⽂

題 ⽬

原⼦分解能電⼦顕微鏡による⾦属ナノ粒⼦の 原⼦配列と局所格⼦ひずみに関する研究

年度

九州⼤学⼤学院 ⼯学府 エネルギー量⼦⼯学専攻

⿇⽣ 浩平

(2)

ii

⽬次

1

章 序論 ...

.

本論⽂の概要 ...

.

⾦属ナノ粒⼦ ...

. .

⾦ナノロッドの光学特性 ...

. .

原⼦配列制御に基づく物性の最適化 ...

.

材料構造解析 ...

. .

ナノ材料の構造解析 ...

. .

⾦属ナノ粒⼦の原⼦配列解析 ...

.

本研究の位置づけと⽬的 ...

2

章 透過電⼦顕微鏡による原⼦配置解析 ...

.

透過型電⼦顕微鏡 ...

. .

電⼦回折と電⼦顕微鏡像 ...

. . TEM

像でのコントラスト ...

.

⾛査透過電⼦顕微鏡法 ...

. .

環状暗視野法 ...

3

章 原⼦配列解析⼿法の開発と測定精度の評価 ...

.

標準試料

SrTiO

の原⼦分解能観察 ...

.

原⼦位置の決定⽅法 ...

. Sr

カラムと

Ti/O

カラムのクラスタリング ...

. Sr

原⼦間距離の計測と原⼦位置の測定精度 ...

.

スキャンの⾮等⽅性の⾒積もりと補正 ...

.

原⼦変位の算出と平滑化 ...

.

スキャン不安定性に由来する局所ゆがみの抽出 ...

.

本章の結論 ...

4

章 ⾦ナノ粒⼦の形状に起因する格⼦ひずみ ...

.

⾦ナノロッド試料 ...

(3)

iii

.

像の積算フレーム数と

S/N

⽐の関係 ...

.

⾦ナノ粒⼦の原⼦分解能像 ...

.

ナノ粒⼦全体としての格⼦ひずみ ...

. .

原⼦間距離の統計解析 ...

. .

分⼦動⼒学計算の計算条件 ...

. .

粒⼦アスペクト⽐と格⼦正⽅度の関係 ...

. .

ナノ粒⼦の体積に対する格⼦正⽅性の依存性 ...

. .

エネルギー収⽀式による正⽅性発現の考察 ...

.

⾦ナノ粒⼦中の局所的な格⼦ひずみ ...

. .

⾦ナノ粒⼦中の局所原⼦変位 ...

. . [ ]⽅向の局所格⼦ひずみ

eyy

...

. . [ ]⽅向の局所格⼦ひずみ

exx

...

.

本章の結論 ...

5

章 レーザー光照射による⾦ナノロッドの状態変化 ...

.

⾦ナノロッドのレーザー光照射「その場」観察 ...

. .

その場観察でのパルスレーザー光照射条件 ...

. .

レーザー光強度

J/m

下での⾦ナノロッドの変形挙動 ...

. .

レーザー光強度

J/m

下での⾦ナノロッド⾼分解能観察 ...

. .

レーザー光強度

J/m

下での⾦ナノロッド⾼分解能観察 ...

. .

単結晶を保持して変形した粒⼦の⽐較 ...

.

⾦ナノロッドの変形前後での原⼦分解能観察 ...

. .

レーザー光照射前後での同⼀領域の追跡 ...

. .

レーザー光照射前後での⾦ナノロッド原⼦分解能観察 ...

.

レーザー照射した⾦ナノロッドの原⼦分解能観察 ...

. .

倒⽴顕微鏡を⽤いたレーザー光照射 ...

. .

レーザー光照射後粒⼦の原⼦分解能観察 ...

.

本章の 結論 ...

6

章 本論⽂の結論 ...

(4)

iv

謝辞

参考⽂献

(5)

1章 序論

೗.೗ 本論⽂の概要

ナノ粒⼦はバルク状態と異なる物性を発現することから,様々な分野において 盛んに研究がなされている.ナノ粒⼦の特性は粒⼦内部や表⾯の原⼦配列に依存 するため,コア

-シェル構造や双晶などによって⾦属ナノ粒⼦に局所格⼦ひずみを

導⼊して光学特性や触媒特性を向上させる試みも進められている.⼀般に⾦属ナ ノ粒⼦表⾯では結合配位が内部より少ないために格⼦収縮が⽣ずる.そのため⾦

属ナノ粒⼦の局所格⼦ひずみは表⾯の結晶⽅位や形状に依存する可能性が考えら れるが,局所的な結晶格⼦状態とその変化を定量的に⼗分な精度で解析する⼿法 がなく,⾦属ナノ粒⼦の局所格⼦ひずみに関する理解は不⾜している.近年,透過 電⼦顕微鏡のレンズ球⾯収差を補正する技術が確⽴してその空間分解能が⾶躍的 に改善してきている.球⾯収差の補正によって試料上に電⼦線を収束させたとき のプローブ径も

. nm

以下に縮⼩することが可能となり,収束電⼦プローブを試 料上で⾛査して透過散乱電⼦の強度をディスプレイ上に描画して得られる⾛査透 過電⼦顕微鏡(STEM)像の空間分解能も⾶躍的に向上した.特に

mrad

程度の⾓

度に前⽅散乱した透過電⼦を環状検出器で捉える⾼⾓度散乱環状暗視野 (HAADF)

法では,

. nm

以下の⾼い分解能で原⼦位置を直接的に⽰す像が得られるため,

様々な結晶材料の原⼦配置の解析に広く⽤いられている.しかし,

HAADF-STEM

法では試料領域上をプローブ⾛査する時間内で⽣じた試料ドリフトや⾛査間隔の 不均質性などの影響によって像が局所的にひずみやすく,局所的な原⼦配置の定 量解析には⼤きな課題があった.

本研究では,原⼦分解能

HAADF-STEM

像のこれらの不安定性に伴うひずみを抑 えた取得法の検討を進めて,プラズモニクス材料として様々な応⽤が期待されて いる⾦ナノロッドの局所原⼦配列の定量解析を進めるとともに,パルスレーザー 光の照射に伴う⾦ナノロッドの形態と内部構造の変化を明らかにすることを主⽬

的とした.各章での構成と内容は以下の通りである.

1

章は序論であり,研究背景である⾦属ナノ粒⼦の構造解析に関する研究動 向をまとめて本研究の位置づけと⽬的を⽰した.

2

章では透過電⼦顕微鏡法を概説して,本研究で主に⽤いた

HAADF-STEM

(6)

の原理と特徴をまとめた.

3

章では,対称性の良い⽴⽅晶構造を有する

SrTiO

薄膜結晶を標準試料に⽤

いて,本研究で使⽤した球⾯収差補正器を有する

JEM-ARM CF

STEM

で得ら

れる

HAADF-STEM

結晶構造像に含まれる画像ひずみの定量評価を進めた.SrTiO

薄膜結晶の

[001]⽅向から電⼦線を⼊射して,試料ドリフトの影響を抑えるために 1

μs/pixel 程度の⾼速の電⼦プローブ⾛査速度で取得した同⼀視野の画像を

10

フレ

ーム以上重ねることで,像強度の定量解析が可能な

S/N

⽐を有する

HAADF-STEM

結晶構造像を得た.電⼦線⼊射⽅向に投影した原⼦列像プロファイルに2次元ガ ウス関数を適⽤してそのピーク位置から求めた原⼦間距離の統計分布では数

pm

の標準偏差が得られ,同程度の精度で原⼦列位置が決定できることが⽰された.

4

章では,第3章での検討結果を基に, [001]⽅向に⻑軸を持つ単結晶の⾦ナ ノロッドの局所原⼦配列に関する定量解析を進めた.直径が

nm

でロッドの⻑軸 と短軸の⻑さの⽐(アスペクト⽐

: AR)が異なる3種類の⾦ナノロッドについて,

[ ]⽅向から電⼦線を⼊射して原⼦分解能 HAADF-STEM

結晶構造像を得て原⼦

配列の解析を⾏った.

AR

が異なる3種類の粒⼦ともに表⾯では

1 %程度の内向き

の収縮ひずみが発⽣しているが,ナノロッドでは先端の部位で

0.7 %程度の⻑軸⽅

向への膨張ひずみが局所的に発⽣していることが⽰された。分⼦動⼒学計算では,

この⻑軸⽅向への局所膨張ひずみは

AR>

の回転楕円体形状では発⽣せず、半球形 の先端部を有する円筒に近似できる形状に特徴的であることが⽰され,表⾯の局 所的な曲率の変化に伴って発⽣した応⼒が原因であることが⽰唆された.

5

章では,波⻑が

nm

の近⾚外パルスレーザー照射によって引きこされ る⾦ナノロッドの形態と内部構造の変化について検討した.レーザー照射下での その場観察で,単結晶状態を維持して次第に表⾯が

(001)⾯や {111}⾯に配向してロ

ッド状から樽形に変形していく過程が観察された.その変形量に着⽬したところ,

原⼦の蒸発や表⾯拡散,粒⼦内部での再結晶を伴いながら形状変化していること が⽰された.強く照射した場合では,⼤きく球状に変形し内部は多重の双晶ドメイ ンに分割されて多重双晶界⾯付近で原⼦が⼤きく変位しており,照射の過程で粒

⼦がより広範囲で溶融して再結晶したことが⽰唆された.また,レーザー光照射を

⾏った⾦ナノロッド試料の原⼦分解能解析から,⻑軸⽅向と

[001]⽅向が⼀致する

照射前の初期構造を⼤部分とし,それに対して双晶関係にあるドメインが挿⼊さ れた部分双晶ロッド状粒⼦が観察された.これらの結果から,近⾚外パルスレーザ

(7)

ー光照射による⾦ナノロッドの変形過程には,原⼦蒸発,表⾯拡散,部分双晶挿⼊,

および再結晶化の素過程が存在することが明らかとなった.

第6章に本論⽂の結論がまとめて述べられている.

೗.೘ ⾦属ナノ粒⼦

⾦属ナノ粒⼦は,バルクでは⾒られない物性を⽰すことから,精⼒的な研究の対 象となっている.例えば,バルク⾦属中の⾃由電⼦は外部から照射される光と相互 作⽤しない⼀⽅で,ナノ粒⼦では相互作⽤が起こる.バルク状態での⾦は化学的に 不活性であるが,ナノサイズにすることで触媒機能が現れる.また,ナノ粒⼦にす ることで体積あたりの表⾯積を⼤きくできることから,燃料電池や排ガス触媒と して実⽤されている.本研究と関連した⾦属ナノ粒⼦の物性について以下に概説 する.

೗.೘.೗

⾦ナノロッドの光学特性

⾦や銀,アルミニウムといった負の誘電率を有する⾦属のナノ粒⼦は,局在プラ ズモン励起と呼ばれる光学的特性を有する.局在プラズモン励起とは,⾦属ナノ粒

⼦内の⾃由電⼦と外部からの光電場が相互作⽤することにより起こる光学現象で あり,ある特定の波⻑の光に対して⾦属ナノ粒⼦中の⾃由電⼦が共振する.この特 定波⻑を局在プラズモン共鳴波⻑ (周波数)という.⾦属ナノ粒⼦の局在プラズモ ン共鳴波⻑は,⾦属の種類,ナノ粒⼦の形状や配列,周囲媒質といった状態に依存 する.紫外〜近⾚外域の光と相互作⽤する球状ナノ粒⼦では粒⼦の⼤きさの変化 による共鳴波⻑のシフトはほぼ現れないが,球以外の形状の異⽅性⾦属ナノ粒⼦

では,形状を制御することで共鳴波⻑を⼤きくシフトさせることが可能である.例 えば,球状の⾦ナノ粒⼦は

nm

付近の波⻑の光を吸収し,⼀⽅で,棒状の⾦ナ ノロッドでは,その形状異⽅性に由来して

2

つの⾃由電⼦の振動様式を⽰す.1つ は⾦ナノロッドの短軸⽅向に振動するモードで,もう

1

つは⾦ナノロッドの⻑軸

⽅向に振動するモードであり,後者の共鳴波⻑はそのアスペクト⽐ (⻑軸⻑/短軸

⻑)に⼤きく依存する(1).例えば,短軸が約

nm,⻑軸が約 nm

の⾦ナノロッ ドでは,短軸⽅向モードの共鳴波⻑は

nm

であり,⻑軸⽅向モードの共鳴波⻑

nm

に現れる.⻑軸⽅向に由来する共鳴波⻑は,⾦ナノロッドのアスペクト

(8)

⽐を変えることで

700〜 nm

と幅広く調節することができるため様々な分野へ の応⽤が期待されている(2).様々なアスペクト⽐の⾦ナノロッド吸光スペクトルを 図

. a

に⽰す(3).図

. a

において,吸光度の⼩さく波⻑

nm

付近で極⼤値とな る吸光ピークが短軸⽅向のプラズモン振動に起因するピークで,吸光度の⼤きく アスペクト⽐に応じて変化するピークが⻑軸⽅向の電⼦振動に起因する.吸光ス ペクトルの変化はすなわち⾊の変化であり,図

. b

に⽰すように⾦ナノロッド溶液 はアスペクト⽐に応じてそれぞれの鮮やかな⾊を呈する.

1.1:アスペクト⽐の異なる⾦ナノロッドの吸光度スペクトル(a).横軸は波⻑(nm),

縦軸は吸光度(任意定数).アスペクト⽐に応じ異なる⾦ナノロッド溶液の⾊の変化 (b)(3)

⾦属ナノ粒⼦を⽤いることで,ナノスケールで温度を制御する応⽤にもまた注

⽬が集まっている.局在プラズモン励起下において,外部からの光電場は集団的な

⾃由電⼦振動に変換され,電⼦−フォノン相互作⽤により⼀部の⾃由電⼦は⾦属 陽イオンに衝突し熱として⾦属ナノ粒⼦に吸収され,この熱はやがて周囲に散逸

される(4,5).したがって,レーザー光を⾦属ナノ粒⼦に照射することで外部から容

易に加熱量を制御でき,理想的なナノ熱源としての役割を果たしうる.

この特性の応⽤として,フォトサーマル治療,ドラッグデリバリー,フォトサー マル・イメージングといった技術が考えられている.先に述べたとおり⾦ナノロッ ドの共鳴波⻑は

700〜 nm

の近⾚外域にある.⼈体は

700〜 nm

の波⻑の光 をほとんど透過するため,近⾚外レーザー光照射により体内の⾦ナノロッドのみ を選択的に加熱することが可能である.また,⾦ナノロッド表⾯はチオール鎖に対

(9)

し静電気的に結合するため,種々の化学的 ・⽣物学的機能性分⼦で⾦ナノロッド表

⾯を容易にコーティングすることができる.フォトサーマル治療では,がん細胞を 選択的にターゲットとするような分⼦により⾦ナノロッド表⾯をコーティングし た上で体内に投与し,近⾚外レーザー光を照射することでがん細胞付近の⾦ナノ ロッドのみを加熱させ,がん細胞のみを選択的に熱死させることができる.ドラッ グデリバリーでは、⾦ナノロッド表⾯を移送したい薬剤でコーティングして体内 に投与し,⽬的とする部位で近⾚外レーザー光照射し適度に⾦ナノロッドを加熱 することで,薬剤を効率よく⽬的部位周辺に散布できる.これらの応⽤において,

⾦ナノロッドは薬剤の移送とナノ熱源の⼆つの役割を担っている(5)

近⾚外パルスレーザー光照射下によって⾦ナノロッドは加熱され,ときにナノ ロッド⾃⾝の形状変化を引き起こし,結果として光学特性の変化につながる(6,7)

例えば,図

1.2

は,⾦ナノロッド溶液にパルス幅

ns,波⻑ nm,強度

mJ/pulse,周波数 Hz

のパルスレーザー光を照射した実験結果を⽰している(7)

⾦ナノロッド溶液の吸光スペクトルは,照射前は

nm

付近にピークを持つ⼀⽅,

s, s

の照射によってピークは

2

つに分離している (図

. b).近年では,フェ

ムト秒レーザー光の照射強度や周囲環境などを微細に調整することで,⾦ナノロ ッドの吸光スペクトルのピーク幅をより狭めて光学特性を制御する⼿法も報告さ れている(8).これら吸光特性の変化は,透過型電⼦顕微鏡(Transmission Electron

Microscopy: TEM)観察から,Φ

状 (図

. d),球状もしくは初状態よりも短い棒状

(図

. e),初状態よりも伸⻑した形状 (図 . f)への⾦ナノロッドの変形に起因し

ていることが⽰されている(7)

(10)

1.2: ⾦ナノロッド溶液へのレーザー光照射の模式図(a).レーザー光照射の時間に 対する吸光スペクトルの変化(b),⾚い垂直線はレーザー光の波⻑を⽰す.照射前(c),

照射によってΦ型(d),球状もしくは短い棒状(c),伸⻑した棒状(d)にそれぞれ変形し た⾦ナノ粒⼦の TEM(7)

臭化セチルトリメチルアンモニウム (hexadecyltrimethylammonium bromide: CTAB)

界 ⾯ 活 性 剤 を ⽤ い て 合 成 さ れ た ⾦ ナ ノ ロ ッ ド は , ⾯ ⼼ ⽴ ⽅ 構 造 (

Face-Centered

Cubic: fcc

)の単結晶である(9).⼀⽅で,パルスレーザー光照射によって⾦ナノロッ

ドの形状変化が誘起されるとともに,双晶といった構造的な⽋陥が導⼊されるこ とが実験的に確かめられている(10).波⻑

nm,パルス幅 fs

のフェムト秒レ ーザー,ならびにパルス幅

ns

のナノ秒レーザーを⾦ナノロッド溶液に照射した 後の粒⼦の

TEM

像が図

1.3

である(10).球状(図

. c

左)や,Φ状(図

. d, e)へ

の形状変化とともに,照射後の粒⼦には点状のコントラストで観察される⽋陥 (図

. a, b)や,積層⽋陥や双晶といった⾯⽋陥(図 . c-e)が観察される.

(11)

1.3: ⾦ナノロッド溶液にフェムト秒(a-c),ならびにナノ秒(d,e)のレーザー光を照 射して得た粒⼦の TEM(10)

パルスレーザー光照射により起こる⾦ナノロッドの格⼦⽋陥を伴う変形は,分

⼦動⼒学(

Molecular Dynamics: MD)法を⽤いた計算から考察されている

(1 – ).実 験に近いサイズである幅

nm

,⻑さ

nm

の単結晶⼋⾓柱状の原⼦モデルに対し てフェムト秒レーザーを照射した状況を模擬した,⼆温度モデル (

Two-Temperature

Model: TTM)と MD

を組み合わせた計算の結果を図

1.4

に引⽤する(11).図

1.4

おいて,⻘⾊の原⼦は

fcc

構造,⻩⾊の原⼦は最密六⽅ (

Hexagon Close-Packed: hcp)

構造をそれぞれ意味する.照射後約

ps

で表⾯に転位核が形成し (図

. a),それ

が内部へ伝搬していく(図

. b, c).このような転位核は,熱応⼒の結果として⽣

じるとされている.変形の途中では複数の⽅向への双晶境界が⾒られる⼀⽅で,こ の計算における変形の最終段階では互いに平⾏な双晶境界のみが残っており(図

. d),実験結果の⼀部と対応している(図 . c

左,中央).

(12)

1.4: フェムト秒レーザー光による⾦ナノロッドの結晶構造変化を模擬した TTM- MD計算(11).⻘⾊,⻩⾊の原⼦はそれぞれfcc, hcpに対応する.

レーザー光照射下での⾦ナノロッドの変形挙動について,原⼦スケールでの計 算がなされている⼀⽅で,これに対応する実験はなされてこなかった.原⼦スケー ルで実験観察を⾏うことで,変形に伴う原⼦配列変化に対する新たな考察が得ら れるものと期待できる.

೗.೘.೘

原⼦配列制御に基づく物性の最適化

原⼦間距離を変化させて格⼦ひずみを導⼊することで電⼦状態を変化させ,光 学特性や触媒特性を最⼤化する⼿法が提案されており,近年 「ひずみエンジニアリ ング」として認識されつつある.

格⼦ひずみの導⼊によるナノ粒⼦物性の向上の例として,⾦ナノワイヤに格⼦

ひずみを導⼊することによる光学特性の変化を計算した研究が挙げられる(15).無 限⻑で直径

nm

の⾦ナノワイヤについて軸⽅向に

1~5%の膨張ひずみを導⼊し

た際の,表⾯プラズモンの伝搬⻑𝐿の改善率

𝜂 𝐿 𝐿

𝐿

を波⻑ごとに計算し たプロットが図

1.5

である(15).格⼦ひずみが⼤きくなるにつれて,

nm

付近の

(13)

波⻑での導波⻑が改善しており,

5%の膨張ひずみで 70%以上にまで伝搬⻑が伸び

ている.格⼦ひずみの導⼊は⾃由電⼦,内殻電⼦の両⽅の密度を低下させる.⾃由 電⼦密度の低下は表⾯プラズモンの励起確率の低下を引き起こす.⼀⽅で,内殻電

⼦密度の低下によってバンド間遷移の抑制,すなわち光エネルギーの吸収が抑制 される.両者の効果を⽐較すると,格⼦ひずみの導⼊は後者の光エネルギーの吸収 抑制に⽐較的⼤きく影響するため,伝搬⻑の改善につながると考えられている.

1.5: ⼀様な軸⽅向膨張ひずみを加えた無限⻑で直径120 nmの⾦ナノワイヤにつ

いて,波⻑に対するプラズモン伝搬⻑の改善率 ηの波⻑依存性(15)

最適な格⼦ひずみの導⼊によって触媒機能もまた向上する.⽩⾦ (

Platinum: Pt)

やパラジウム (

Palladium: Pd)は,燃料電池のアノード極における酸素還元反応の

触媒や,排ガス浄化装置における⼀酸化炭素酸化反応の触媒として⽤いられる.こ れらの元素は産出量が限られその価格は⾼く,レアメタルに区分されており,

2019

12

20

⽇において⽩⾦,パラジウムはそれぞれ税抜の買取価格にしてグラムあ

たり

3,361

円,

6,945

円程度である(16).したがって,同じレアメタル使⽤量での触

媒特性を上げることは産業的にも重要である.そのために,⾦属をナノ粒⼦化する ことで質量あたりの触媒活性,すなわち質量活性を向上させる⼿法が広く使われ ている.

触媒反応は⾦属表⾯で起こる原⼦レベルの現象である(17).例として,Pt 表⾯で 起こる酸素還元反応 (

Oxygen Reduction Reactivity: ORR)を挙げると,酸素分⼦ O

Pt

表⾯で酸素原⼦

O

に分離し,そこに⽔素イオン

H

+と電⼦

e

-が供与されること で

OH

となり,さらなる⽔素イオンと電⼦の供与で最終的に⽔

H O

となる.この

(14)

ような反応は

4

電⼦反応と呼ばれる.このように,触媒反応では⽬的分⼦を吸着さ せて結合を切り,さらに反応後の⽣成分⼦を解離させるプロセスが存在する.

触媒反応の効率を向上するには,これら吸着と解離がスムーズに進む必要があ り,⾦属と分⼦の結合⼒が最適である必要がある.結合⼒が強すぎると分⼦が吸着 している時間が⻑くなり,その間触媒表⾯を分⼦が覆うことになるため,反応が停 滞してしまう(解離律速).⼀⽅で,結合⼒が弱すぎる場合には分⼦が吸着しづら く反応が進みにくい(結合律速).元素それぞれについて,酸素や

OH

の結合エネ ルギーに対する酸素還元の活性をプロットすると,

Pt

付近で最⼤値を⽰す (図

1.6)

( ).このプロットはその形状から 「⽕⼭型プロット」と呼ばれる.このような分⼦

との結合⼒を考察する上で電⼦状態,特に d 電⼦軌道の重⼼位置が重要と考えら れている.この d電⼦軌道の重⼼位置が⾼エネルギー側にシフトすることで,反結 合性軌道に近いエネルギーレベルの電⼦密度が増加し,結合⼒が弱くなる傾向に ある.逆に d電⼦軌道の重⼼位置が低エネルギー側にシフトすることで,反結合性 軌道に近いエネルギーレベルの電⼦密度は低下し,結合⼒が強くなる傾向にある.

1.6 (a): Oとの結合エネルギーの関数としての酸素還元反応活性.(b): Oならびに

HOとの結合エネルギーの関数としての ORR活性(18)

Pt

ORR

活性が⾼い元素であることが図

1.6

から分かるが,さらなる最適化を

⽬指し,Ptに収縮ひずみを導⼊する試みがなされている(19).室温での

Pt

の格⼦定

数が

. pm

であるのに対して,銅 (Cupper: Cu)の格⼦定数は

. pm

である

( ).したがって,

Pt

ナノ粒⼦のコアを

PtCu

合⾦に置き換えることで

Pt

シェルに収 縮ひずみを導⼊でき,コアで

Cu

組成⽐を系統的に変化させることで

Pt

表⾯の格

⼦収縮を系統的に変化させることげできる.純

Pt

に対する格⼦収縮量と

ORR

質量

(15)

活性の関係を⽰したのが図

. a

であり,ナノ粒⼦のコア部分の

Cu

含有量が増加す るに従って質量活性が向上している.X 線回折 (X-Ray Diffraction: XRD)法によっ て測定した格⼦ひずみに対する

ORR

活性を図

. b

に⽰す.ここで

ORR

活性は

𝑘 𝑇

ln

𝑗

, /𝑗,

(eV)で定義され, 𝑘

はボルツマン定数,

𝑇 = (K)は室温, 𝑗

電極単位⾯積あたりの電流量を⽰し,その添字で合⾦か純

Pt

かを区別する.図

. b

中の⿊の破線は密度汎関数法(Density Functional Theory: DFT)に基づく電⼦状態 計算の結果であり,先述の⽕⼭型プロットを⽰している.実験的に計測された値は,

計算で⽰されたような⽕⼭型プロットを⽰していない.理論と実験の違いは,サイ ズ効果や,コアシェル構造の形成具合によるものと考えられる.しかし,図

. b

の グラフの左に向かって収縮ひずみが増加するとともに触媒活性が向上している.

. a

に⽰されているように,Pt は理想と⽐べてわずかに結合律速である.

Pt

へ の収縮ひずみの導⼊により反結合性軌道付近の電⼦状態密度が増加して結合⼒が 弱まり,結合律速から改善されたためと考えられている.

1.7 (a): Ptシェルナノ粒⼦の格⼦ひずみ量と ORR質量活性の関係.(b): Ptの格

⼦に対するひずみの関数としての酸素還元反応活性.⾚⻑破線,⻘⻑破線,⿊破線 のプロットはそれぞれ熱処理条件の温度 800ºC,950ºC,DFT計算に対応する(19)

⼀⽅,⾦は化学的に不活性な元素として知られているが(21,22),極微粒⼦や(23,24), 酸化チタンに担持,または多孔質(25)にすることで⼀酸化炭素 (

CO)還元の触媒機

能が発現する.このような新規物性の発現もまた電⼦状態と密接に関わるとされ ている.このように触媒機能と電⼦状態は密接な関係を有し,この電⼦状態を制御 する⼿法の⼀つに格⼦ひずみが挙げられる.

⾦属ナノ粒⼦の格⼦ひずみは表⾯状態に依存するため,格⼦ひずみの粒⼦形状

(16)

への依存性が予測される⼀⽅で,そのような観点からの研究はない.粒⼦形状と格

⼦ひずみの関係を明らかにすることは,⾦属ナノ粒⼦の原⼦配列に対する基礎物 理的な理解を深めるともに,材料物性を最⼤化するための電⼦状態制御に対して 粒⼦形状という新たな観点を与えられると考えられる.

೗.೙ 材料構造解析

೗.೙.೗

ナノ材料の構造解析

材料構造解析に広く⽤いられている⼿法の⼀つが

X

線法である(26).利点として,

透過性が⾼く,試料ダメージが少ない,広範囲の情報を得られる,といった点が挙 げられる.また,

X

線吸収端付近の微細構造に着⽬することで電⼦状態を観察する こともできる.平均構造の意味では

. nm

オーダーの分解能が可能な⼀⽅で,

X

線 集光素⼦を⽤いたとしてもビームが収束される領域は数⼗

nm

程度に限られるた め,数ナノメートルオーダー以下での局所的な構造解析はできない.

X

線と⽐べて波⻑が短い電⼦線を⽤いる透過型電⼦顕微鏡 (

Transmission Electron Microscopy: TEM

) や ⾛ 査 透 過 電 ⼦ 顕 微 鏡 (

Scanning Transmission Electron

Microscopy: STEM

)などの電⼦顕微鏡法では,最⾼で

. nm

オーダーの分解能で

の観察が可能であり,特に数ナノメートルスケール材料の局所構造に威⼒を発揮 する(26).原⼦スケールのプローブを物理的に作りこれを試料表⾯上で⾛査して観 察する⾛査プローブ顕微鏡と⽐べて,(S)TEMでは電磁レンズの励磁を変えること で電⼦線プローブを⾃在に収束 ・発散と制御できるため,⽇常的な観察が可能とな っている.

これまでは,. nm オーダーの分解能が必要な原⼦分解能観察には

~ kV

程度の⾼い加速電圧が必要であったが,近年では

~ kV

の加速電圧帯でも原

⼦分解能が⽇常的に達成されるようになった.これは球⾯収差補正器によるもの であり,試料ダメージを抑え,球⾯収差が低減することでより容易に解釈できる

TEM

および

STEM

像が得られるようになった.2019年

11

⽉現在,ADF-STEM の 最⾼分解能(27)

TEM

の最⾼情報限界(28)はそれぞれ

. pm, pm

に達しており,

さまざまなナノ材料の原⼦配列観察や組成分析のために広く使⽤されている( – )

(17)

೗.೙.೘

⾦属ナノ粒⼦の原⼦配列解析

先述のように⾦属ナノ粒⼦の物性と格⼦ひずみは密接な関係をため,格⼦ひず みを精密に解析することは物性向上や機能発現のさらなる理解に向けて重要と考 えられる.局所構造の観察が可能な電⼦顕微鏡によって,ナノ粒⼦中の原⼦配列が

⾼い精度で明らかにされつつある.例えば,⾦ナノ粒⼦の局所領域からのナノ電⼦

ビーム回折(Nano Beam Electron Diffraction: NBED)パターンについて,計算と⽐

較することで表⾯付近での格⼦収縮が明らかにされている(32)

粒⼦中⼼からの距離に対する原⼦間距離のプロットは,実験と

MD

計算で良い

⼀致を⽰しており,いずれも表⾯近くで格⼦が収縮している(図

. a).図 . b

は 表⾯原⼦について,その配位数と,1層内側の原⼦との距離の関係をプロットして いる.モデルと

MD

計算は良い⼀致を⽰し,どちらも配位数が減少するにつれて原

⼦間距離が低下している.

1.8 (a): ⾦ナノ粒⼦の中⼼からの距離に対する原⼦間距離の変化. (b): ⾦ナノ粒

⼦の原⼦の配位数に対する原⼦間距離の変化(32)

このような配位数依存の原⼦間距離の低下の理由としては,(a)バルク中の原⼦

は等⽅的に周囲の配位原⼦から引⼒を受ける⼀⽅で,表⾯原⼦はバルク側からの み引⼒が働くために格⼦が収縮する,あるいは

(b)⾦属表⾯には原⼦ステップの凹

凸がある⼀⽅で,⾃由電⼦雲はこの凹凸を避けて滑らかに再構成して,陽イオンで ある原⼦核もまたバルク側に引きつけられる,といった説明がなされている(33)

回折⼿法はある領域の平均構造が得られる⼀⽅で,電⼦顕微鏡像からはナノ粒

⼦内部での局所格⼦ひずみがより直接的に得られる.球⾯収差補正された⾼分解

TEM( High-Resolution TEM: HRTEM)観察によって得られた像の幾何位相解析

(18)

Geometric Phase Analysis: GPA)により, 5

つの双晶ドメインで構成される五重 双晶⾦ナノ粒⼦において,各ドメインに回転ひずみが⽣じることが明らかにされ ている(34).理想的な

fcc

格⼦

2

つの{111}双晶⾯の間の回転⾓は

70.53°であるた

め,双晶の五重接合は

360º−70.53º×5 = 7.35ºの⾓度不⾜が⽣じてしまう.そのた

め,各ドメインに回転ひずみが⽣じるものと考察されている.

HRTEM

法では試料を透過した散乱電⼦線の⼲渉によって結像される.球⾯収差

補正

STEM

における⾼⾓度散乱環状暗視野 (

High-Angle Annular Dark-Field: HAADF)

法は

HRTEM

法と異なり⾮⼲渉性結像であり,原理的に原⼦配列像と原⼦位置の対

応が

HRTEM

像よりも優れている(35).実際は,STEM観察中の試料ドリフトやプロ

ーブ位置の不規則性などといった装置不安定性による像ゆがみが⽣じる問題があ るが,近年の画像処理の適⽤によってこの問題が低減され,分解能よりもはるかに

⼩さいピコメートルオーダーの精度で原⼦位置を決定できるようになりつつある

( ).ここで,分解能は

2

つの物体間を区別できる最⼩距離を意味し,精度は複 数回もしくは複数の原⼦間について測定した原⼦間距離のばらつきの程度を意味 する.それら画像処理⼿法の⼀例として,⾼速でスキャンした複数枚の画像シリー ズにおいてランダムに画像ゆがみが⽣じると仮定して,各画像の像ゆがみを推定 して補正した後に積算する補正⾮剛体位置合わせ⼿法が開発されている(図

. a, b)

(40).これにより

1〜 pm

の精度で原⼦位置が決定され,⽩⾦ナノ粒⼦の解析か ら,図

. c

A-D

の原⼦カラムに⽰されているような{111}表⾯での粒⼦外側への 変位,および図

. c

G-L

の原⼦カラムのようにエッジ付近での粒⼦内側への変 位が明らかにされている。

1.9 剛体位置合わせ(a)と⾮剛体位置合わせ(b)の模式図.(c): Ptナノ粒⼦の表⾯で の原⼦変位.図 c中のスケールバーは500 pm.

(19)

しかし,HAADF を⽤いた原⼦配列の解析について,装置の不完全性に由来する ひずみを精密に⾒積もった例は少ない.ナノ材料の精密解析を⾏う上で,装置の測 定誤差を⾒積もることは重要と考えられる.また,画像を積算する過程で⾮剛体位 置合わせを⽤いるなどのデータ処理が⾏われている⼀⽅で,得られた原⼦配列に 対して解析の⼯夫を⾏っている例はない.

೗.೚ 本研究の位置づけと⽬的

以上述べたような研究背景を基に,本研究の位置づけと⽬的を以下に記述する.

 原⼦配列の解析においてデータ処理⼿法を⽤いることでより⼩さな局所格⼦

ひずみを検出できる可能性がある.そこで,本論⽂の第

3

章では,チタン酸ス トロンチウム (

SrTiO

)を標準試料としてスキャンの不完全性を⾒積もること,

数理⼿法に基づくデノイズをプロセスに含めた原⼦配列の解析⼿法を開発す ることを⽬的とする.

 本論⽂の第

4

章では,等しい幅で⻑さの異なる単結晶⾦ナノ粒⼦について第

3

章で開発した⼿法から

HAADF

解析を⾏い,さらに系統的な

MD

計算を併せて 考察を進めた.これらの実験と計算により,⾦属ナノ粒⼦の形状と格⼦ひずみ の関係を解明することを⽬的とする.

 本論⽂の第

5

章では,レーザー光照射装置を付設した超⾼圧電⼦顕微鏡,なら びに原⼦分解能

STEM

による

HAADF

観察から,⾦ナノロッドの変形挙動につ いてレーザー光の照射前後で同⼀粒⼦を追跡し,かつ原⼦スケールで観察する ことで,変形における物理的な素過程を解明することを⽬的とする.

これらの研究により,STEM による原⼦配列解析の発展,⾦属ナノ粒⼦中の局所格

⼦ひずみの解明,およびレーザー光照射下における⾦ナノロッドの形状 ・構造変化 過程の物理的な理解といった成果が得られるものと期待できる.

(20)

2章 透過電⼦顕微鏡による原⼦配置解析

೘.೗ 透過型電⼦顕微鏡

透過型電⼦顕微鏡 (Transmission Electron Microscope: TEM)のレンズ構成を図

2.1

に⽰す.透過型電⼦顕微鏡は,透過光を利⽤する光学顕微鏡と対⽐できる.光源の 代わりに電⼦源である電⼦銃を⽤い,凸レンズには電磁⽯による電磁レンズを⽤

いる.光学,電⼦顕微鏡のどちらにおいても集束レンズ,対物レンズは同じ名称で あるが,光学顕微鏡の接眼レンズに対応するものが投影レンズである.集束レンズ は試料に対し電⼦線の照射条件を整える役割を果たす.対物レンズは初段の拡⼤

レンズであり,電⼦顕微鏡の性能はほぼこのレンズで決定される.中間レンズ,投 影レンズは⾼倍率の拡⼤像や回折図形を得るためのものである(41)

2.1: 透過型電⼦顕微鏡のレンズ構成の模式図.

೘.೗.೗

電⼦回折と電⼦顕微鏡像

単結晶試料にある⽅向から平⾏な電⼦線が⼊射したとする (図

2.2).電⼦線は結

晶内を直進して結晶を透過する電⼦線 (透過波)と,結晶内でブラッグ回折を起こ し⼊射電⼦線に対し 2𝜃 (𝜃

:ブラッグ⾓)の⾓度で回折される回折電⼦線 (回折

波)に分かれる.透過波,回折波のいずれも対物レンズの後焦点⾯で焦点を結んだ 後,像⾯で試料の像を結ぶ.

(21)

対物レンズの下⽅に置かれている中間レンズの焦点距離 (すなわち,中間レンズ の電磁⽯の励磁電流)を対物レンズの後焦点⾯あるいは像⾯に合わせることで,電

⼦顕微鏡の下⽅に置かれた画像取り込み⽤カメラに電⼦回折図形と電⼦顕微鏡像 を選択して取得できる.

2.2: 透過型電⼦顕微鏡における電⼦線の経路.

೘.೗.೘ TEM

像でのコントラスト

結晶試料の透過型電⼦顕微鏡像でコントラストが現れる機構を⽰す.電⼦をほ とんど透過させるほど薄い⽀持膜上の結晶試料に電⼦線が⼊射したときの電⼦線 の経路を図

2.3

に⽰す.対物レンズの後焦点⾯に対物絞りが挿⼊されている.図

2.3

では,回折波 (破線)を対物絞りでカットし,透過波 (実線)だけを対物絞りの下

⽅に通過させる.ここで,透過波と1つの回折波のみを考える.結晶試料に⼊射し た電⼦線 (⼊射波)の振幅を

1

とし,回折波の振幅を

𝜓

,透過波の振幅を𝜓 とする

と,𝜓 と

𝜓

の間には

𝜓 𝜓

1の関係がある.⽀持膜に⼊射した電⼦線はほとん

ど回折されずほぼすべてが透過するため,そこでは

𝜓

0 である. 図

2.3

で対物 絞りを通過する透過波の強度

𝜓

(=1

𝜓

) は試料領域では𝜓 1 で弱くな るため,結晶試料は暗く,⽀持膜は明るく⾒える.この⽅法により得られる像を明 視野像という.⼀⽅,透過波でなく結晶試料から得られる回折波のみを対物絞りに 通過させる⽅法を暗視野観察法と⾔い,この⽅法により得られる像を暗視野像と いう.結晶状態が局所的に変化していたならば,そこでのは他の領域と異なるため,

(22)

明視野,暗視野像は格⼦⽋陥に伴うコントラストが現れる.

2.3:回折コントラストによる明視野観察法.

⾼分解能電⼦顕微鏡法 (

High Resolution TEM: HRTEM)は,薄い試料からの透過

波と回折波を⼲渉させて像を結像する⼿法であり,物質の構造や微⼩⽋陥などを 原⼦レベルで観察することができる.⼲渉の結果,⼀次元あるいは⼆次元の格⼦間 隔に対応する縞が⾒られる像を格⼦像と呼ぶ. 図

2.4

に格⼦像の電⼦線経路と対 物絞りの関係をそれぞれ⽰す.

透過波と⼀つの回折波が対物絞りを通過する場合を考える.試料下⾯のある場 所から出た両⽅の電⼦波は,像⾯上で再び出会い,像を作る.像⾯上の位置

𝑥

に おける,透過波および回折波の寄与をそれぞれ

𝜓 𝑥

および

𝜓 𝑥

として,両 波がお互い⼲渉する波であるとき,合成波の強度

𝐼 𝑥

𝐼 𝑥 𝐼 𝑥 𝐼 𝑥

Re

𝜓 𝑥 𝜓

𝑥

で表される.ここで,

𝐼 𝑥

|𝜓 𝑥 | ,𝐼 𝑥

𝜓 𝑥

であり,

Re

は括弧内の実数部を取ることを意味する.

𝜓 𝑥

および

𝜓 𝑥

には位相項が 含まれるので,右辺第

3

項から格⼦間距離に対応する間隔で並ぶ縞状の模様が⽣

じることがわかる.このように,像コントラストは両波の光路差に起因する位相差 によるので,位相コントラストと呼ばれる(42)

(23)

2.4: 格⼦像(a),構造像(b)における電⼦線経路と対物絞りの関係.

೘.೘ ⾛査透過電⼦顕微鏡法

⾛査透過電⼦顕微鏡法(Scanning Transmission Electron Microscopy;

STEM)は,

微細な電⼦プローブを⾛査し,試料を透過した電⼦,もしくは散乱された電⼦を⽤

いて結像する⽅法である (図

2.5).電⼦銃と検出器のジオメトリを逆転させて考え

ることにより,

TEM

STEM

の明視野像の結像は同等であることが証明されてお り,相反定理と呼ばれている(43).したがって転位の回折コントラスト像,格⼦像お よび構造像は明視野

STEM

と等価と考えられており,像コントラストの点で

TEM

STEM

は共通している.

しかし,

TEM

は観察領域全体に電⼦線が照射されるのに対し,

STEM

では

pm

程度に細く絞ったプローブを

1

点ごとに⾛査して情報を得るため,結像⽤以外に も検出器などを組み合わせることで,原⼦レベルの空間分解能で局所情報を得る ことができる.元素ごとに特性

X

線のエネルギー値は固有であるため,STEM の 試料ステージ近くに

X

線検出器を配置すれば組成分析が可能であり,これをエネ ルギー分散型

X

線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy : EDS)と呼ぶ.ま た,透過電⼦をエネルギーごとに振り分けることで⼊射電⼦が試料に与えたエネ ルギーを測定することができ,これを電⼦エネルギー損失分光法 (

Electron Energy Loss Spectroscopy : EELS)と呼ぶ.

後に詳述する環状暗視野 (

Annular Dark-Field : ADF)STEM

は,⼤きな注⽬を集 めている.この⽅法を⽤いて触媒中の重⾦属イオンの同定や結晶中のドーパント

(24)

原⼦の観察,および結晶界⾯に析出した元素の単原⼦レベルでの同定が実現して いる.近年では,像シミュレーションと併せることで,

ADF-STEM

像から試料の 奥⾏⽅向の原⼦個数や,ドーパント単原⼦の奥⾏⽅向の位置が同定されるに⾄っ

ている(44,45),また,

ADF, EDS,EELS

は同時に取得することができ,⼀度の観察

で多くの情報が得られるのも

STEM

の利点の⼀つである.

⼀⽅で,STEMは電⼦線を試料上で⾛査していくため,⼀般的に時間分解能が必 要な動的観察においては

TEM

に劣る.また,その結像特性に起因して,像取得中 の装置不安定性による像ゆがみもまた問題の⼀つと⾔える.

2.5: 球⾯収差補正器つき⾛査透過電⼦顕微鏡の装置構成.

೘.೘.೗

環状暗視野法

STEM

による結像の模式図を図

2.6

に⽰す(46).試料表⾯上でおよそ

pm

程度に

(25)

フォーカスした電⼦プローブは結晶 (ここでは⽔素化イットリウム :YH )を透過 し,検出⾯に収束電⼦線回折図形(

Convergence Beam Electron Diffraction: CBED)

を形成する.このうち,光軸直下の円形検出器で結像した像を

BF-STEM

像,光軸 に対し内半径約

mrad,外半径約 mrad

の環状検出器で結像した像を環状明視

野 (

Annular Bright-Field, ABF)STEM

像,内径約

mrad,外径約 mrad

の環状

検出器から結像した像を

ADF-STEM

像と呼び区別する.

BF-STEM

は転位のコント ラスト観察などに⽤いられ,通常の明視野

TEM

と相反定理が成り⽴つ.

ABF-STEM

像は

BF-STEM

像と同様に,主に電⼦波同⼠の⼲渉に起因するコントラストを呈し,

軽元素の観察により⼤きな威⼒を発揮する(47).図

2.6

において,

ABF

検出器の領 域では,イットリウムの

CBED

Y-CBED)積算強度に対し⽔素の CBED

H-CBED)

積算強度が⼤きく,両元素を明確に区別できる.つまり,

ABF-STEM

では

CBED

の 透過波成分を遮ることで,両元素間の信号強度⽐を

BF-STEM

よりも⼤きくできる.

⼀⽅,

ABF/BF-STEM

像と異なり,

ADF-STEM

像中の輝点は原⼦位置に直接対応

することから解釈が容易で,原⼦直視型のコントラストとも呼ばれる.また,図

2.6

から,

ADF

検出器の領域では,

Y-CBED

の積算強度に⽐べ,

H-CBED

積算強度が極 めて⼩さい.このように,ADF-STEM 像では重い元素ほど明るいコントラスト,

軽い元素ほど暗いコントラストとして表れ,⼀般的には原⼦番号の

1.5〜 1.7

乗に

⽐例するコントラストを呈するとされている.したがってナノ粒⼦の観察では,⽀

持膜のコントラストがナノ粒⼦のコントラストに対し⾮常に⼩さくなる.

光軸から外側の

ADF

検出器上では,多数の回折波の円板が重なる.このとき,

多数の回折波の⼲渉について,ADF 検出器の上でこれらが重なることから互いに 打ち消しあい,像信号は各回折波の強度のほぼ単純和になる.したがって,検出器 の内側の⾓度を⼤きくし,検出器に対して多くの散乱波を取り込むことで,電⼦波 の⼲渉項は互いに打ち消し合う⾮⼲渉条件を満たし,像強度は原⼦カラム位置を 直接に投影したものとなる(48).このように形成された像は環状暗視野像 (

ADF

像)

と呼ばれる.

特に検出器の内⾓を

mrad

超の⾼⾓側に設定した場合を⾼⾓度散乱環状暗視 野法(High-Angle Annular Dark-Field;HAADF)と呼び区別する.奥⾏⽅向に原⼦

が連なる結晶を,その晶帯軸に沿って電⼦線を⼊射し観察する場合,HAADF像コ ントラストは,

A)

ラザフォード散乱によるもの(Z コントラストの成因)

(26)

B)

弾性散乱であり,多重回折効果によるもの

C)

⾮弾性散乱であり,格⼦振動に由来する散乱 によって決定される(49)

A

について,結晶の晶帯軸に沿って⼊射した電⼦は,原⼦核が作るクーロンポテ ンシャルに引きつけられ,原⼦核の列の近くを多数の細いパイプの中を⽔が別々 に流れるように伝播する.これを電⼦チャネリング現象という.1個の原⼦コラム 中で電⼦波の多重散乱が起こり,これを動⼒学的回折効果または多重散乱効果と いう.また,チャネリングの過程で電⼦の⼀部は隣の原⼦カラムへと散乱される場 合があり,これをマルチチャネリングという.

C

について,⾮弾性散乱には,第⼀に原⼦内の電⼦の励起によるもの (内殻電⼦

励起やプラズモン励起など)と,格⼦振動であるフォノンの励起によるもの,すな わち熱散漫散乱(

Thermal Diffused Scattering : TDS)が挙げられる.電⼦励起によ

るものは,透過波のまわり

mrad

以下の⼩⾓散乱であるので,HAADF 像の強度 の要因としては無視できる.⼀⽅で

TDS

は⾼⾓側に⼤きな寄与をもっており,⾼

⾓側であるほど弾性散乱に対する割合が⼤きくなる.

ADF

の⾮⼲渉性の起源は回 折ディスクを多く取り⼊れることによる電⼦線⼲渉効果の打ち消し合いであった

が,

HAADF

の⾮⼲渉性は結像に⼤きく寄与する

TDS

が⾮⼲渉であることに起因

している(35).このような結像の⾮⼲渉性により,TEM像と異なり双晶界⾯には回 折コントラストが表れず像解釈が容易となり,HAADF 像において輝点で表される コントラストは原⼦位置に直接対応する.さらに,原⼦番号の

1.5〜 1.7

乗に⽐例 す る コ ン ト ラ ス ト か ら 炭 素 ⽀ 持 膜 は 無 視 で き る ほ ど ⼩ さ な 増 強 度 を ⽰ す た め ,

HAADF

観察はナノ粒⼦の原⼦構造同定に⼤きな威⼒を発揮する.

(27)

2.6: ADF-STEMにおける結像の模式図(46).Y-CBED,H-CBEDはそれぞれイットリ ウム,⽔素の原⼦カラムからの収束電⼦線回折図形を表す.また,光軸に近い2つ の緑⾊の円で囲まれた領域が ABF 検出範囲,桃⾊の円より外側の領域がADF検出範 囲である.

(28)

3章 原⼦配列解析⼿法の開発と測定精度の評価

೙.೗ 標準試料 SrTiO

の原⼦分解能観察

チタン酸ストロンチウム (SrTiO )の標準試料を使⽤して,電⼦線スキャンの直 交性や局所ゆがみを評価した.SrTiO 薄膜試料は,⾛査型電⼦顕微鏡 (

FEI Quanta

D i)に装備された集束イオンビームによって切り出され,イオンビームミリ

ング (

Gatan PIPS II)によって薄⽚化された.汚染と損傷を減らすために,Ar

イオ

ンビームの加速電圧を

keV

から

keV

に下げ,次に

. keV

へと段階的に下げた.

⾛ 査 透 過 電 ⼦ 顕 微 鏡 観 察 に は , 九 州 ⼤ 学 超 顕 微 解 析 研 究 セ ン タ ー の

JEM-

ARM F ACCELARM

を使⽤した(図

3.1).電⼦顕微鏡としての分解能を向上さ

せるには,対物レンズのギャップを狭めるのが有利であるが,本装置ではワイドギ ャップの対物レンズ,冷陰界型電界放出電⼦銃,照射系球⾯収差補正器の搭載によ って⾼い分解能を維持している.原⼦分解能観察では,試料の結晶⽅位と電⼦線⽅

向を合わせること,かつ⾼い分解能が必要であり,本装置はそれらの要求を同時に 満たす.

3.1: ⾛査透過電⼦顕微鏡JEM-ARM200F ACCELARM

(29)

試料ホルダーには⽇本電⼦社製 強化仕様試料

2

軸傾斜ホルダー EM-

RSTH

を⽤い,試料を傾斜させることで低次晶帯軸条件での観察を⾏った.

⾛査透過電⼦顕微鏡による観察では,細い電⼦プローブをスキャンするという

⼿法の性質上,画像取り込み時の試料ドリフトや電⼦プローブ⾛査の不均質性と いった装置の不安定性による影響を受けやすい.図

. (a)は画像サイズ 1

ピクセル あたりのスキャン時間

30 μsec/pixel

の条件で得た

HAADF-STEM

像である.試料ド リフトの影響により本来直交すべき

(110)⾯と (001)⾯が直交しておらず,像にゆが

みが⽣じている.⼀⽅,図

. (b)は 1

μsec/pixelの条件で得た

HAADF-STEM

像で

ある.図

. (a)

と異なり試料ドリフトの影響は低減されているが,信号対雑⾳⽐

S/N

⽐)が低い.取得速度

1

μsec/pixel では各ピクセルに

1

回で取り込まれる電

⼦数の統計的変動が無視できないために,ショットノイズと呼ばれるノイズが顕 著であり,原⼦カラムの位置を判別することが難しい.ショットノイズを改善する には,1ピクセルに対する電⼦数を多くとる必要があるが,単純に

1

枚の像を⻑時 間かけて取得すると,先述の試料ドリフトに起因する像のゆがみが⽣じる.

この問題を解決するために,複数枚の像を連続で⾃動取得し,相互相関法により 各画像を位置合わせした後これらの像を重ね合わせた.これにより,実質的なピク セルあたりの取得時間は像の枚数分だけ倍増し,ショットノイズの低減が期待さ

れる.図

. (b)と同様,1

ピクセルあたりのスキャン時間

1 μsec/pixel

の条件で取得

した

10

枚の像を重ね合わせたものを図

. (c)に⽰す.図 . (b)や図 . (a)の重ね

合わせを⾏っていない像と⽐べ,S/N ⽐が改善され,原⼦カラムを⽰す像強度のピ ークが明瞭に判別できる.⾦ナノ粒⼦を⽤いた積算フレーム数と

S/N

⽐の関係の量 的⾒積もりを,「

4.2

像の積算フレーム数と

S/N

⽐の関係」に後述する.

3.2 (a): スキャン速度 30 μsec/pixel,(b): スキャン速度 1 μsec/pixel の条件で得

HAADF像.(c): (b)と同様の条件で取得した 10枚の像の重ね合わせ.

(30)

スキャンの直交性や局所ゆがみを測定するには,試料ドリフトによる⾮直交性 や像ゆがみを除去する必要がある.そこで,試料ドリフトの速度が約

pm/frame

未満となった条件で,原⼦分解能

HAADF

像シリーズを取得した.また,装置の条 件は

 加速電圧:

kV

 電⼦線銃の電流量:

(A) pA, (B,C) pA

 収束半⾓:

. mrad

ADF

検出範囲:

– mrad

 温度:

室温(RT)

 画素サイズ: (A)

pixel × pixel, (B,C) pixel × pixel,

 倍率:

(A) × ( M), (B) × ( M), (C) × ( M)

 積算フレーム数: (A)

, (B,C)

とした.これらの取得条件

(A, B, C)は,後述の⾦ナノ粒⼦ NP , NP , NP

の取得条 件にそれぞれ対応している.ここで,スキャン⽅向には,電⼦線が連続的に移動す る⾼速⽅向 (緑⾊の⽮印)と,⾼速⽅向に沿ったスキャンが完了した後に電⼦ビー ムがジャンプする,⾼速⽅向と垂直な低速⽅向 (紫⾊の⽮印)が含まれる.スキャ ン回転⾓の影響を調べるために,スキャン回転⾓を変化させながら連続的に像を 取得した.各画像の上部に模式的に⽰されているように,90ºの⾓度ステップで

から

270ºへと回転させて各⾓度で 10

フレームずつ像を取得した.これらの連続像

シリーズは,ドリフトによるひずみを補正した上でスキャン⾓度ごとに積算され た(50)

結晶⽅向

[001]に投影した SrTiO

HAADF

原⼦分解能像の典型的な例を図

3.3

に⽰す.図

3.3

の原⼦模型で⽰すように,明るいスポットは

Sr

原⼦列に対応し,

暗いスポットは

Ti

O

原⼦が重なる原⼦カラムに対応する.HAADF コントラス トは軽い原⼦に対して敏感ではないため,酸素原⼦のみから構成される原⼦カラ ムは観察できない.

(31)

3.3: 結晶⽅位[001]に投影した標準試料 SrTiO3の原⼦分解能像.スキャン回転⾓

度とスキャン⽅向の概略図を各画像の左上に表⽰している.図の右上に対応する原

⼦モデルを表す. 右下のスケールバーは 500 pmに相当する.

೙.೘ 原⼦位置の決定⽅法

HAADF-STEM

像からサブピクセル精度で原⼦カラム位置を検出するため,像中

で輝点として表される各原⼦カラムの像強度を,バックグラウンド強度

𝜁

,頂点 強度

𝜂

,頂点座標

𝑥

,

𝑦

,標準偏差

𝜎

2

次元ガウス分布関数と仮定する.実 際に像強度に対するガウス分布フィッティング⼿法として,

ROI

(region of interest : 関⼼領域)内でのフィッティングの⼿順を以下に述べる.ROI 内に

1

つの原⼦ (も しくは原⼦カラム)のみを考えるとき,座標が

𝑥

,

𝑦

で表される

𝑘, 𝑙

番地のピクセ ルでの,原⼦に起因する像強度は,

で表される.

𝑘, 𝑙

番地のピクセルの実験像の強度を

𝐻

, とする.

ROI

フィッティ ン グ で は ,

𝜂, 𝑥

,

𝑦

,

𝜎

を 変 数 と して , 頂 点 座 標

𝑥

,

𝑦

の 初 期 値 周 辺 の

ROI (𝑘

𝐽

,

𝜁 𝜂exp 𝑥 𝑥

𝑦 𝑦

2𝜎 (3.1)

(32)

𝑘

,

𝑘

1,

𝑘

2, … ,

𝐾, 𝑙 𝑙

,

𝑙

1,

𝑙

2, … ,

𝐿)

にわたって実験像強度

𝐻

, とガウ ス分布像強度

𝐽

, の差の⼆乗和を最⼩化

することで,フィッティングを⾏う.しかし,上述したとおり,ROI 内において1 つのガウス分布の存在を仮定しており,隣り合う原⼦カラム同⼠の像強度ピーク のオーバーラップは考慮されない.2つの⾼さの異なるピークが隣り合い,低いピ ークに⾼いピークの裾がオーバーラップする場合,⾼いピークの裾によって⼀⾒

すると低いピークが⾮対称的に分布しているようになる.このような場合,

ROI

フ ィッティングでは低いピークの極⼤値位置が実際よりも⾼いピーク側に誤評価さ れてしまい,正確な原⼦位置を求められない.

この問題を解決するため,像の輝点に関して,後述する⼿法によってガウス分布 の重なりを考慮してフィッティングを⾏う

ADF

像の解析ソフトウェア

StatSTEM

を⽤いた(51).複数のガウス分布関数を考慮するために,添字

𝑖

で順番付けて式を 書き換えて,

𝑖 𝑖

,

𝑖

1,

𝑖

2, … ,

𝐼

までのガウス分布関数を考慮にいれた場合の

(𝑘 , 𝑙 )番地の単⼀ピクセルにおける強度は複数のガウス分布関数の影響の⾜し合わ

で表される.そして,

ROI

領域

𝑘 𝑘

,

𝑘

1,

𝑘

2, … ,

𝐾, 𝑙 𝑙

,

𝑙

1,

𝑙

2, … ,

𝐿

の実験像強度

𝐻

, とガウス分布像強度

𝐽

, の強度差が各ピクセルで得られ,領域 について⼆乗和をとり,複数のガウス分布のパラメータに関して最⼩化

𝑚𝑖𝑛𝑖𝑚𝑖𝑧𝑒 𝐻

,

𝐽

, (3.2)

𝑝𝑎𝑟𝑎𝑚𝑒𝑡𝑒𝑟𝑠: 𝜂, 𝑥

,

𝑦

,

𝜎

𝐽

,

𝜁 𝜂

exp

𝑥 𝑥

𝑦 𝑦

2𝜎 (3.3)

𝑚𝑖𝑛𝑖𝑚𝑖𝑧𝑒 ∶ 𝐻

,

𝐽

, (3.4)

(33)

することで,像強度ピークに対応する

2

次元ガウス関数のフィッティングを⾏う.

複数のガウス分布の重なりを考慮にいれることで,

ROI

フィッティングで問題と なるピークの誤評価が解消される.したがって,⾦ナノロッドのように,奥⾏き⽅

向の厚さが変化した試料の原⼦構造像について,より正確に原⼦位置を取得でき る.実際のフィッティングでは,何番⽬の近接原⼦カラムまでが影響を及ぼし合っ ているか確かめ (すなわちガウス分布関数の番号

𝑖

の範囲を決定する),それをも とに適切なセクションに画像を分割する(すなわちフィッティングを⾏うピクセ ル

𝑘

𝑙

の領域範囲を決定する)ルーチンが組み込まれており,ピーク同⼠のオ ーバーラップを考慮しつつ,フィッティングパラメーターの収束に要する時間の 最⼩化を図っている.

ナノ粒⼦の動径もしくは[110]⽅向に横切る像強度のラインプロファイルを図

3.4

に⽰す.それぞれの強度は⽮印ラインの幅

pixel

にわたって平均されている.実 験像強度およびガウス分布像強度のラインプロファイルをそれぞれ緑⾊の棒,⻘

⾊の線として⽰す.図

3.4(a)は⽮印の横切る領域における粒⼦全体のプロファイル,

3.4 (b)は図 3.4(a)の領域(1)すなわち粒⼦中央部分のプロファイル,図 3.4(c)は図

. (a)の領域(2)すなわち粒⼦表⾯付近のプロファイルを⽰す.図 3.4(b)から,粒⼦

の中央付近では全ての原⼦カラムに対応してガウス分布関数がフィッティングさ れていることが分かる.表⾯近傍では⾮対称的に⾒える実験強度ピークが⾒られ,

3.4(a)および図 3.4(c)中の⽮印(A)で⽰す.これは,先述したとおり隣接する⾼い

ピークの裾の影響を受けているためである.図

3.4(c)中の点線は,横軸 1650

から

pixel

までを

ROI

として,1 つのガウス分布関数を

ROI

フィッティングした結

果である.フィッティングには

Microsoft Excel

に組み込まれた数値解法処理 プログラムであるソルバーアドインを⽤い,ROI 範囲について像強度と

ROI

フィ ッティング⽤ガウス分布関数の残差⼆乗和を最⼩化した.この

ROI

フィッティン グでは,⽮印

(A)の ROI

フィッティングピークが,隣り合う⾼い実験強度ピークの 裾の影響を受け,シフトしている.これに⽐べて,図

3.4(c)中に実線で⽰す StatSTEM

で得たガウス分布強度のピークは

ROI

フィッティングピークのようにシフトして いない.したがって,

ROI

フィッティングの場合と異なり,

StatSTEM

で求めたガ

𝑝𝑎𝑟𝑎𝑚𝑒𝑡𝑒𝑟𝑠: 𝜂 𝜂

,

𝜂

, … ,

𝜂

,

𝑥 𝑥

,

𝑥

, … ,

𝑥

,

𝑦 𝑦

,

𝑦

, … ,

𝑦

,

𝜎 𝜎

,

𝜎

, … ,

𝜎

(34)

ウス分布関数のピークには,オーバーラップによる誤評価は⽣じていない事がわ かる.

3.4(a)および図 3.4(c)中の⽮印 (B)で⽰すように,実験強度プロファイルには微

細なピークが⾒られるものの,それに対応するガウス分布強度プロファイルが⾒

られない.実際のフィッティングルーチンでは,周辺ピクセルと強度を⽐較して得 られた極値座標を初期値としフィッティングを開始する.したがって,隣り合うピ ークの裾によって原⼦カラムの存在を⽰す低いピークが平坦化し極値が判定され ない,像シリーズの取得時間内で表⾯の原⼦位置が定まっておらずピークが平坦 化する,表⾯を構成する原⼦の個数が少なく信号強度が低下し,信号対雑⾳⽐が⼤

きくなりノイズに埋もれて極値として認識されないといった理由が考えられる.

以上を踏まえて,最表⾯からおよそ第

1〜 2

層の原⼦の⼀部を除くナノロッド全体 の原⼦カラム像強度に対して

2

次元ガウス分布がフィッティングされていると⾔

える.

図 1.2:  ⾦ナノロッド溶液へのレーザー光照射の模式図(a).レーザー光照射の時間に 対する吸光スペクトルの変化(b),⾚い垂直線はレーザー光の波⻑を⽰す.照射前(c),
図 1.3:  ⾦ナノロッド溶液にフェムト秒(a-c),ならびにナノ秒(d,e)のレーザー光を照 射して得た粒⼦の TEM 像 (10) .  パルスレーザー光照射により起こる⾦ナノロッドの格⼦⽋陥を伴う変形は,分 ⼦動⼒学( Molecular Dynamics: MD)法を⽤いた計算から考察されている (1 – ) .実 験に近いサイズである幅  nm ,⻑さ  nm の単結晶⼋⾓柱状の原⼦モデルに対し てフェムト秒レーザーを照射した状況を模擬した,⼆温度モデル  ( Two-Temperature
図 1.4:  フェムト秒レーザー光による⾦ナノロッドの結晶構造変化を模擬した TTM- TTM-MD 計算 (11) .⻘⾊,⻩⾊の原⼦はそれぞれ fcc, hcp に対応する.   レーザー光照射下での⾦ナノロッドの変形挙動について,原⼦スケールでの計 算がなされている⼀⽅で,これに対応する実験はなされてこなかった.原⼦スケー ルで実験観察を⾏うことで,変形に伴う原⼦配列変化に対する新たな考察が得ら れるものと期待できる. ೗.೘.೘  原⼦配列制御に基づく物性の最適化 原⼦間距離を変化させて格⼦ひずみ
図 2.3:回折コントラストによる明視野観察法.
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