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平城京漆紙文書補遺

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奈文研紀要 2014

1 はじめに

 奈良文化財研究所では、平城宮・京跡から出土した漆 紙文書について、2005年に『平城京漆紙文書1』(奈良文 化財研究所史料第69冊)を刊行し、平城宮跡3件、平城京 跡8件、計11件の発掘調査で出土した漆紙文書計56点を 報告した(漆紙文書第1号~第56号)。

 その後の再調査の過程で、新たに2点の漆紙文書を確 認したので、ここに報告することとする。新たに確認し た漆紙文書2点は、いずれも既報告の漆紙文書が出土し た発掘調査で出土したものであり、以下、次数ごとに紹 介する。

2 左京二条二坊十三坪出土漆紙文書

(第₅₇号、

図Ⅰ︲₇₁・₇₂)

第₁₃₁︲₃₁次調査

(6AFF)

調査と遺構 この調査は1982年に実施したものである。

左京二条二坊十三坪ではこの調査の他に、第141-5次、

第151-11次(東区・西区)、の各調査が実施されており、

8世紀前半から10世紀末に至る6時期の遺構を検出して いる 1)

 漆紙文書は、遺物包含層から出土したもの1点(平城京 漆紙文書第8号)を既に報告している。これは、c手法の 土師器椀Aに付着して出土したもので、器高が低く杯に 近い(図Ⅰ-70)。付着する漆は黒褐色を呈し、恐らく顔料 を加えた黒漆であろう。時期は奈良時代後半である。

出土状況  今回報告する漆紙文書第57号は、調査区北 東隅に設けた調査用の排水溝の掘削時に、同じく土師器 椀Aの断片に付着した状態で出土した。所属遺構を明確 にはしがたく、第8号漆紙文書と同様に、遺物包含層の

可能性が高い。こちらの土師器椀Aは径高指数が44前後 で、奈良時代後半の椀Aとしては一般的なプロポーショ ンである。

墨書の状況  墨痕はオモテ面から1行2文字観察でき る。紙背文書は確認できない。文字の大きさは現状で約 1㎝四方であるが、遺存状態が悪く確定は困難である。

3  左京八条一坊六坪出土漆紙文書

(第₅₈号、図

Ⅰ︲₇₃・₇₄)

第₁₆₀次調査

(6AHL)

調査と遺構 この調査は1984年に実施したもので、六坪 から西隣の三坪にかけてを対象として調査した。漆紙文

平城京漆紙文書補遺

図Ⅰ︲₇₀ 平城京漆紙文書第8号土器実測図(1:2) 図Ⅰ︲₇₂ 平城京漆紙文書第₅₇号土器実測図(1:2)

図Ⅰ︲₇₁ 平城京漆紙文書第₅₇号可視光写真(上)と赤外線写真(下)(1:1)

(2)

Ⅰ 研究報告

51

書が出土した六坪の遺構は、A1、A2、B、Cの4時

期に区分できる 2)

 漆紙文書は、掘立柱建物SB3190の柱穴から出土した もの1点(平城京漆紙文書第9号)をすでに報告している。

SB3190は、B期(奈良時代代後半から末頃まで)に属する 南廂付き東西棟掘立柱建物で、漆紙文書は身舎西南隅の 柱抜取穴から、曲物に入った生漆の液面に付着した状態 で出土した。

出土状況  今回新たに報告する漆紙文書第58号は、遺 物包含層のもので、これも第57号と同様に、c手法の土 師器椀Aに付着した状態で出土した。曲物に入った生漆 から土師器椀などの器に小分けして、顔料と混ぜあわせ るなどしたのであろう。

 出土位置は、第9号が出土したSB3190の身舎中央部 で、第9号が出土した柱穴から5~8mの近接した位置 にあたり、関連する遺物の可能性がある。

 なお、漆紙文書第9号の出土地区を『平城京漆紙文書 1』の「漆紙文書番号・図版プレート・旧報告番号対照 表では「QL63」と報告したが、「QL43」に訂正する。

墨書の状況  墨痕はオモテ面から2行観察できる。界 線・紙背文書は確認できない。行間は約1.7㎝をはかる。

1行目本文が年齢を示し、細字双行部左行が「残疾」だ とすると、籍帳類の歴名文書とみられる。そうであれば、

細字双行部右行の字は、残画から判断して「耆」または

「老」の可能性がある。

 このほか左端に1文字分の墨痕があるが、字の向きが 他と異なるので、別の紙の文字が付着した可能性が高 い。

4 平城京出土の漆付着土器の概観

 平城京から出土した漆付着土器を概観すると、点数で は須恵器と土師器が拮抗しているものの、土師器では供 膳具が7割に対し、須恵器は壺類が6割を占める。運搬 に用いたものは須恵器長頸壺が多く 3)、パレットとして用 いたものは須恵器杯や杯蓋、土師器杯、椀が主体である。

 なお、文字は確認できないが、第8号漆紙文書と第57 号漆紙文書が出土した第131-31次調査や、第58号漆紙文 書が出土した第160次調査では、ほかにも漆が付着した 土器が出土しており、器高の低い椀Aや椀Cが多いとい う特徴がある。奈良時代後半の漆工に用いられた土器を 考える上で興味深い。

(渡辺晃宏・神野 恵・古尾谷知浩/名古屋大学

1) 奈文研『平城京左京二条二坊十三坪の発掘調査』1984。

2) 奈文研『平城京左京八条一坊三・六坪発掘調査報告書』

1985。

3) 玉田芳英「漆付着土器の研究」『文化財論叢Ⅲ』同朋社出 版、1995。

図Ⅰ︲₇₄ 平城京漆紙文書第₅₈号土器実測図(1:2)

図Ⅰ︲₇₃ 平城京漆紙文書第₅₈号可視光写真(左)と赤外線写真(右)(1:1)

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