民法九〇三条でいう特別受益者の範囲について
その他のタイトル Sur les debiteurs du rapport des dons et legs dans le droit civil Japonais
著者 千藤 洋三
雑誌名 關西大學法學論集
巻 39
号 4‑5
ページ 847‑884
発行年 1990‑02‑20
URL http://hdl.handle.net/10112/5228
千 藤 洋
民法九 0 三条でいう特別受益者の範囲について
目 次 は じ め に 一共同相続人 二代襲相続人
9
被代襲者が特別受益とみられる贈与を得ていた場合⇔代襲相続人が特別受益とみられる贈与・遺贈を得ていた場合
︱︱
︱包 括受 遺者
四受贈後に推定相続人となった者
五間接的受益者 お わ り に
民法
九
0 1
︱一
条で
いう
特別
受益
者の
範囲
につ
いて
特別受益を受けた共同相続人以外に︑誰が持戻し義務の主体となりうる者かについて主として問題となるのは︑ の持戻し免除の意思表示の解釈について生じる
C
ては遺産額にまだ含まれているので︑計算上の操作も不要である︶︒被相続人 九
0
三条が共同相続人間の具 民法九0 ‑
︱一条一項は︑共同相続人中に︑被相続人から︑遣贈を受け︑又は婚姻︑養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与︵遣贈と贈与を併せて特別受益とよぶ︶を受けた者を︑いわゆる特別受益者として︑これら特別受益
を受けなかった他の共同相続人との間での公乎をはかるべく︑生前贈与や遺贈がなかった状態にするために︑被相続
人が相続開始時に有した財産の価額にこれら特別受益財産額を計算上戻さしめている︵持戻しという︒遣贈額につい
この特別受益者になりうるのは︑相続人であって︑かつ遣贈又は生計の資本等の贈与を受けた者である︒相続放
棄をした者は︑最初から相続人にならなかった者と看倣されるので︵民法九三九条︶︑
体的相続分の算定に関する規定であることから︑特別受益者には該当しない︒したがって︑被相続人から生前に︑た
とえば生計の資本として被相続人の全財産を受贈した推定相続人が︑相続放棄をすれば︑遣留分減殺請求を受けるこ
とはあっても︑この者に持戻しの問題は生じない︒推定相続人でない者が包括受遺者になった場合には︑包括受遺者
としての地位に絡んで問題が残る︒ともあれ︑特別受益を受けた共同相続人については︑要件が明確であることから︑
特別受益者となるのか否かの判断はそれほど困難ではない︒この場合の問題は︑被相続人が持戻し免除の意思表示を
していたときに︑遣留分の規定に反しない限り︑持戻しをしなくてもよいことから︵民法九
0 1
︱ 一条 一 二 項
︶ ︑
は じ め に
︱ ︱ ︱ ︱
七
︵八
四九
︶
かし︑被相続人の持戻し免除の意思表示があれば︑ 遺贈や生計の資本等の贈与を受けた共同相続人は︑民法九
0 1
︱一条の原則によれば︑これら特別受益の財産価額を名目上︑遣産総体に持戻さなければならない︒
あったか否かが問題となる︒私は︑遣贈や贈与が行われたこと自体︑特別な利益の付与の意思が被相続人にあったも
のと推定されるので︑この持戻し免除を可能な限り認めていこうと思う︒代襲相続人の持戻しについては︑被代襲者
が特別受益を受けた場合と︑代襲相続人自ら受けた場合とで分けて考えられている︒私は︑代襲相続人が共同相続人
間の公平さを極端に破壊するほど現実に利益を受けたような場合を除いて︑この者に原則として持戻し義務が課せら
五 四
第三九巻第四•五号
被代襲者に特別受益があった場合の代襲者︑自らに特別受益があった場合の代襲者︑包括受遺者︑受贈後に推定相続
人となった者︑間接的に特別受益を得た者︑に関してであるしこれらの者が︑持戻し義務を負うのか否かについて︑
判例・学説上︑議論のあるところである︒
本稿は︑特別受益法理をめぐる諸問題のうち︑その法主体となる者について︑いいかえれば特別受益者に該当す
る者の範囲を明らかにしようとするものである︒特別受益者の範囲の確定問題は︑特別受益持戻し法理の解明におけ
るいわば入口ともいえるもので︑問題解決の重要性は︑十分に強調されるべきであろう︒しかし︑あえていえば︑理
論上の難問を解決する等といった興味を惹くテーマからは︑やや離れていることは否定しえない︒この意味では︑本
稿が扱う問題は︑今日的意義はそれほど大きくないともいえる︒だが私は︑ここ数年︑持戻し法理の解明に向けて︑
( 1 )
いくばくかのささやかな努力を傾けてきた︒本稿も︑その一環として位置づけられるものである︒
本稿で述べようとする点を︑あらかじめまとめれば︑以下のようになる︒ 関法
つまり︑これらの者は︑当然に特別受益者の範囲に入ることになる︒し
持戻す必要はないことから︵民法九
︱
0 1
一条
二項
︶︑
一三
八
︵八
0
五)
持戻し免除が
民法
九
0
三条でいう特別受益者の範囲について あって︑持戻し義務を免除されたものと解したい︒ と同様の地位が付与されている︵民法九九0
条︶ことから問題は複雑ではあるが︑この条文の歴史的由来等に配慮し 公乎という名目から持戻し義務者を決定することはできないのではあるまいか︒包括受遣者については︑法定相続人 ある︶持戻し義務者が決まるのであり︑代襲相続の性質から必然的に︑あるいは代襲相続人と他の共同相続人間での れるべきではないと思う︒要するに︑贈与・遣贈の趣旨によって︵そして︑その多くは特別の厚遇を付与することでたとしても︑今日的意味では︑包括遺贈が特別の利益のみの付与であることは否定しえない︒この意味から︑ここで
も原則として︑持戻し義務が課せられるべきではないと思う︒受贈後に推定相続人となった者︑並びに間接的受益者
結論として︑特別受益者として持戻し義務を負うか否かは︑遺贈.贈与の趣旨から決められることであり︑代襲相
続人とか包括受遺者とか受贈後の推定相続人等といったその者の法的地位から出てくる必然性によって決まるもので
はなく︑また共同相続人間の公乎性の維持といったあいまいな理念︵公平さは︑他の立場の人からみれば不公乎にも
つながり︑決め手にはならない︶によって決めるべきではない︒ひとえに︑贈与者・遺言者の意思もしくは意思推定
によって決められるべきであり︑原則として贈与・遺贈があったことは︑それを受けた者への相続分外の特別厚遇で
( 1 )
拙稿︑①﹁フランス法に於ける特別受益の持戻しに関する一考察ー相続人間の衡平手段としてーー
H
口﹂
関大
法学
論集
二九
巻六
号︵
昭和
五五
︶︱
︱
1 0
頁以下
・︱
︱
‑ 0
巻二号︵昭五五︶四一頁以下︒③﹁特別受益と遣留分減殺に関する一考察l
評価基準時を中心としてー﹂私法四三号︵昭五六︶二五二頁以下︒③﹁判例研究・無相続分証明書の有効性が否定された事例」法律時報五一ー一巻三号(昭五六)―-―-九頁以下。④「特別受益と遣留分減殺に関する一考察ー—評価基準を中心として
│ H ( 1
一・
完︶
﹂関
大法
学論
集一
=二
巻一
号︵
昭五
七︶
九一
頁以
下.
︱‑
三巻
二号
︵昭
五七
︶四
三頁
以下
︒⑤
﹁フ
ラン
ス法
に
のいずれも︑持戻し義務は免除されるべきである︒
l三
九
︵八
五一
︶
於け
る特
別受
益の
持戻
し財
産に
つい
て﹂
関大
法学
論集
三二
巻一
︱
‑ 1 1
四1 1
五合
併号
︵昭
五七
︶ニ
︱︱
︱︱
頁以
下︒
⑥﹁
﹃相
続分
不存
在証明書﹂に関する裁判例の研究﹂関大法学論集三六巻三
1 1 四
1 1 五合併号︵昭六一︶︱‑九頁以下︒⑦﹁民法九
0
三条
三項
でいう意思の表示について﹂関大法学論集三八巻二
1 1 三
合併
号︵
昭六
︱︱
‑︶
二九
五頁
以下
︒⑥
﹁寄
与相
続人
の特
別受
益と
寄与
分に
つい
て﹂
関大
法学
論集
一︱
八︱
巻五
1 1 六
合併
号︵
平元
︶二
五一
頁以
下︒
以上のうち︑①②⑤は︑後に﹃フランス相続法の研究
1
特別受益・遺贈﹄︵関大出版・昭五八︶に所収︒被相続人が︑共同相続人中の特定の者に︑遺贈や贈与を行うことは︑
本民法九
0
三条の構造を単純にみた限りでは︑遣贈は名目の如何を問わず︑るいは生計の資本として贈与された物について︑これらを特別受益とよび︑これを受けた共同相続人に持戻し義務を
課していることは︑間違いのないところである︵この共同相続人には︑単純承認者はいうまでもなく︑限定承認者を
( 1 )
も含むと解されている︒
て︑共同相続人の間での財産上の平等実現のため︑持ち戻させるのが被相続人の意思に適うものであるといわれてい
る︒そして︑被相続人が相続人の一人の生活等を慮って特別な利益を付与しようとしたり︑あるいは逆に相続人のう
ちのある者から相続による利益を奪取するために他の相続人にあらかじめ特別な利益を付与しようとした場合には︑
持戻し免除の意思表示を行うことが可能である︵民法九
0 1
︱一条
三項
︶︒
表示は︑明示的でも黙示的でもよいと解するのが︑すべての学説である︒しかし︑明示による意思表示は︑持戻し法
理が十分に国民に理解されていないこともあってか︑今日までほとんど例がなかった︒そこで︑黙示の場合に︑何を
関法
Jの点についての反対説は存在しない︶︒
いわゆる相続分外の先取りである︒ その理由として︑これらは相続分の前渡しであっ
共 同 相 続 人
第三九巻第四•五号
よくみられることである︒その場合に︑
また贈与は婚姻や養子縁組に際して︑あ
この意思
一四
〇
︵八
五二
︶
日
民法
九
0 1
︱一
条で
いう
特別
受益
者の
範囲
につ
いて
一四
私は従来から︑遺贈の場合はいうまでもなく︑生計の資本等の贈与の場合でも︑農業や中小企業の承継者等にす
るために︑あるいは高等教育を受けさせることが子の幸せに繋がることを期待して︑さらには老後の世話を望んで︑
などを理由として︑持戻し免除意思付で行われていると解するのが被相続人の真意に沿うのではないか︑との疑問を
抱いてきた︵今日的感覚でいえば好ましいことではないかも知れないが︑祭祀財産の承継者に特別の利益の付与とい
ったことも考えられよう︶︒婚姻や養子縁組に際しての贈与は︑家を離れた子に︑もはや家産についてくちばしを差し
はさませないという意味で︑確かに相続分の前渡し的性質を有し︑持戻しを当然の前提にしていたといえよう︒しか
し︑これらとて︑かつてはそうであっても︑今日では相続分外に特別な利益をあえて付与するというのが︑被相続人
( 2 )
の意思といえる場合もあろう︒こうした素朴な疑問を踏まえて︑最近の拙稿で︑被相続人が共同相続人の一人に生前
贈与や遺贈を行った場合には︑本来︑持戻し免除の意思で行ったもので︑免除を原則とすべきであるにもかかわらず︑
民法では逆に持戻しが原則となっているのではないか︑という視角のもとに︑民法九
0 1
︱一
条三
項で
いう
持戻
し免
除意
( 3 )
思の表示に関する判例・学説を整理した︵もっとも︑その後の拙稿では︑特別受益を得ていた相続人が同時に寄与分
権利者でもある場合に︑特別受益の持戻し︵免除︶制度と寄与分制度とを峻別すべきであるとの考えの下に︑この特
別受益に持戻し免除意思の推定を行うことは可能であるとしても︑寄与分として認定するために持戻し免除意思があ
ったと推定することには反対であるとの論旨を展開した︶︒
( 4 )
持戻し免除が原則ではないか︑という私の主張の根拠は︑まず第一に︑明治民法起草時の立案関係者の発言から
読み取れることだが︑贈与や遺贈をすることは︑贈与者・遺贈者の意識として相続人間に財産額の上で差異を設ける もって免除意思を推定するか︑という問題がでてくる︒
︵ 八 五 一
︱ ‑ ︶
を︑否定するものではない︶︒
そし
て︑
第三九巻第四・五号
ことであり︑持戻し免除の明確な意思表示をしなくても︑贈与行為等をもってして異なった意思表示
( 1 1
持戻しの免
除︶をしていると解しうること︑第二に︑具体的にも︑先述したように農業等の承継者にすることを目的として︑特
別の利益付与のために遺贈や生計の資本等の贈与が行われる事例が多いこと︑第三に︑日本民法の母法の︱つである
一八
0
四年法では贈与・遺贈のいずれも原則が持戻しで例外が持戻し免除の意思表示を要件としていたが︵つまり︑現在の日本民法九
0 1
︱一条
と同
じ構
造で
あっ
た︶
︑
贈与と遺贈とで
扱いを異にし︑遺贈については原則が持戻し免除で︑例外的に特別の意思表示により持戻させることに改めたこと︑
第四に︑持戻しが原則で免除が例外であるとする現行九
0 1
︱一条の説明として︑相続人間の公平をはかる被相続人の意思を推定したものであると一般に言われるが︑必ずしも十分な根拠づけになっていないこと︑などである︒そして︑
持戻し免除が原則であると解することにより︑わが国で︑持戻し規定と異なった意思表示の事例が極端に少ない理由
の説明が多少ともつくといえよう︒こうした点を踏まえれば︑持戻しを原則とする現行規定においても︑九
0
三 条 ︱ ︱
︱
項の意思表示を可能な限り肯定する解釈が要請されるといえよう︒例えば︑被相続人が再婚するに際して︑前妻との
間の子に生計の資本の贈与をしていた場合には︑特別受益性が消滅すると解してもよいように思われる︵そうはいっ
ても︑私は︑持戻させることが被相続人の意思にも適い︑また相続人間の公平という
錦の御旗に忠実となる場合
1 1
フランス民法では︑ 関法もしも被相続人の持戻し免除意思が表明もしくは推定されれば︑特別受益者
である相続人であっても持戻し義務を負わなくなることはいうまでもない︒
( 1 )
小石寿夫﹁相続分算定﹂判ク一四八号︵昭三八︶三六頁︵本論文は︑後に小山昇他編﹃遣産分割の研究﹄︵昭四八︶一五
五頁以下に所収︶︑島津一郎分担・中川善之助監修﹃註解相続法﹄︵昭二六︶ーニー頁︑園田格﹁相続分の算定﹂﹃家族法大
しか
し︑
一八
九六
年法
によ
り︑
一 四
︵八
五四
︶
民法
九
0 ‑
︱一
条で
いう
特別
受益
者の
範囲
につ
いて
9
被代襲者が特別受益とみられる贈与を得ていた場合 系V I ﹄
︵昭
三五
︶二
八一
頁︑
薬師
寺志
光分
担・
中川
善之
助責
任編
集﹃
注釈
相続
法︵
上︶
﹄︵
昭二
九︶
一七
四頁
︑他
︒
( 2 )
拙稿
﹁民
法九
0
三条三項でいう意思の表示について﹂関大法学論集三八巻二11
三合
併号
︵昭
六一
︱‑
︶二
九五
頁以
下︒
( 3 )
拙稿﹁寄与相続人の特別受益と寄与分について﹂関大法学論集三八巻五
11
六合
併号
︵乎
元︶
二五
一頁
以下
︒
( 4 )
拙稿
・注
( 2 )
論文
二九
九頁
以下
︒ 代 襲 相 続 人
した
がっ
て︑
被代襲者が被相続人よりも 代襲相続人は特別受益者の範疇に属するのかという問題については︑二つの場合に分けて検討する必要がある︒まず第一は︑被代襲者が被相続人から特別受益とみられる生計の資本等の贈与を得ていた場合に︑代襲相続人がこれらの額を持ち戻さなければならないのか︑という問題である︒この場合には︑被代襲者が遺贈を受けるということはありえない︒第二に︑代襲相続人自ら︑被相続人から特別受益とみられる贈与・遣贈を得ていた場合に︑これを持戻さなければならないのか︑という点である︒この場合には︑遺贈を受けることはありうる︒いずれも代襲相続人が持戻し義務を負うのか︑という問題ではあるが︑両者を峻別して考察する方が問題の本質に迫れるので︑場合分けして論じる︒まず︑学説を︑ついで裁判例を紹介し︑その後で︑この問題に関する私見を述べたい︒
この場合には︑被代襲者が遣贈を受けるということは︑通常ではありえない︒遺贈は︑遺言者の死亡以前に受遺者
が死亡したときは︑その効力を生じないからである︵民法九九四条一項︶︒
先に死亡した場合は︑被代襲者への被相続人の遺贈は効力を生じない︒被代襲者が被相続人と同時に死亡したときも
一 四 一
1 ‑
︵八
五五
︶
第三九巻第四•五号
同様である︒死亡以外の代襲原因である欠格の場合には︑欠格の効力が訴求するから︑欠格者は相続できず︑受遣者
相続関始前に廃除審判が確定すれば︑その時から廃除の効果は発生
し︑相続開始後に審判が確定すれば︑相続開始時に遡って廃除の効力が発生する︵民法八九三条︶︒結局︑
( 1 )
は受遺者とはなれない︒もっとも︑受遺欠格者であることを知りながら︑なおその者に遣贈がなされていたような場
( 2 )
合に︑欠格が宥恕されたものとみることができるならば︑被代襲者への遺贈ということもありうる︒
学説には︑持戻しを必要とする説︵積極説︶と不要とする説︵消極説︶︑並びに被代襲者の受益から代襲相続人
が現に利益を受ける限度においてのみ持戻しを必要とする説︵折衷説︶とがある︒
積極説は︑代襲相続人は実質的には被代襲者と同一の法的地位にたつもので︑被代襲者への特別受益は終局的に
代襲相続人に帰属することになるから︑共同相続人間の不均衡を是正するための持戻し制度の趣旨にしたがって︑持
戻しを必要と解する︒また︑このように解することが︑衡平という観点から順位を引き上げている代襲相続の制度の
( 3 )
趣旨にも適合する︑という︒そこでは︑代襲相続人は被代襲者が生存していれば受けることができる相続利益以上の
ものを取得すべきではないし︑また実際にも︑被代襲者に特別受益が行われていた場合には︑その代襲相続人も利益
( 4 )
を享受しているのではないか︑との現実を直視した考えに裏打ちされている︒フランス民法八四八条︑ドイツ民法ニ
0
五一
条︑
( 5 )
れよ
う︒
スイス民法六二八条など外国の立法例が代襲相続人による持戻しを認めていることも︑根拠として挙げら
これに対して消極説は︑民法九
︱一条一項の文理上︑同条は共同相続人が自ら特別受益を受けた場合だけの趣旨
0 1
(1)
学 説
になれない︵民法九六五条︶︒廃除の場合にも︑
関法
一四 四
︵八
五六
︶
被代襲者
民法
九
0 1
︱一
条で
いう
特別
受益
者の
範囲
につ
いて
@ 裁 判 例
よう
︒
l四
五
︵八
五七
︶
﹁代襲者が直接利益をうけている場合に限って︑その範囲 に読まれ︑被代襲者は相続開始時には相続人ではないことから被代襲者の持戻し問題は起こらないし︑しかも代襲相続は被代襲者の権利を承継するのではなく︑代襲相続人が固有の権利に基づいて被相続人を相続することから︑被代襲者が特別受益を受けていたとしても︑代襲相続人の相続分の算定とは別個に取り扱うべきであるとして︑被相続人
( 6 )
から特別受益を直接受けていない代襲相続人には持戻しの問題を生ずる余地がない︑と主張する︒
折衷説は︑共同相続人間の公平さと代襲相続人との立場に配慮し比較考量した上で︑代襲相続人が被代襲者への
( 7 )
特別受益から実際に利益を受ける限度で︑持戻しの必要性を肯定したものである︒立法例には︑直接又は間接に代襲
( 8 )
相続人が利益を受けているとみられる限度においては持戻しを認めるものがあり︑このことも根拠の︱つになってい
る︒学説の中には︑たとえば被代襲者に宅地が贈与されて︑それが代襲相続人に相続されているような場合には︑持
戻しの対象とする方が相続人間の公平に合するように見えるけれども︑被代襲者に対する高等教育のための学費を代
襲相続人の特別受益といってよいかは疑問であるとされ︑
で特別受益というべきであろうか﹂と論じる者がいる︒ともあれ︑折衷説は︑今日では︑支持者が増えているといえ
①鹿児島家審昭四四・六・ニ五︵家月二二巻四号六四頁︶は︑被代襲者と代襲相続人︑及び共同相続人のいずれ
もが特別受益を得ていたケースで︑高等教育を受けたことによる被代襲者の﹁特別受益は︑当該受益者のみが享受で
き︑かつこれを代襲相続人に移転することが不可能であって︑受益者の人格とともに消減する一身専属的性格のもの
であるから︑受益者が死亡したのちは︑代襲相続人に対し受益の持戻し義務を課すのは相当でない﹂︑と判示する︵同
四
対する特別受益については︑ 用の特別受益性を肯定する︒
つい
で︑
第三九巻第四•五号
そし
て︑
また
︑
この者が他の兄 他の共同相続人への大学教育に
外国留学の費用は一身専属的性格のもので︑代襲
審判は︑代襲相続人が推定相続人となる以前に被相続人から贈与されていた点についても判断する︒後述参照︶︒
お︑この審判は︑被代襲者への生計の資本としての不動産の贈与については︑代襲相続人に持ち戻させている︒
判旨は︑高等教育を受けることも生計の資本の贈与であるが︑
う︒しかし︑高等教育を受けたことによって生じた利益︑たとえば医者になって十分な財産を取得したなどについて は︑たとえば不動産を贈与し︑そのまま承継された場合と変ることがないように思われる︒
②徳島家審昭五ニ・三・一四︵家月︱︱
‑ 0
巻九号八六頁︶は︑まず︑一般論として︑被代襲者に対する外国留学費﹁被代襲者は被相続人から享受した特別受益を自ら消費してしまうこともある し︑被代襲者の特別受益について代襲相続人が常に持戻義務を課せられるならば時に酷な結果を生じ︑かえって衡平 を失なうおそれがあるので︑代襲者︵孫︶が被代襲者︵父︶を通して被代襲者が被相続人︵祖父︶から受けた贈与に よって現実に経済的利益を受けている場合にかぎりその限度で特別受益に該当し︑この場合には代襲者に被代襲者の
受益を持ち戻させるべきであると考える︒﹂と判示する︒
相続人らは︑それによる直接的利益を何ら受けないものであることが明らかであるとして︑結局︑代襲相続人に持戻 し義務を課さなかった︵ただし︑事案では米国留学は取り止められていた︶︒
﹁大学教育を受けたことは相応程度のもので︑他の兄弟と異なる特別の教育を受けさせ てもらったものではないと認められるので︑大学卒業のために要した学資の支出は親の負担すべき扶養義務の範囲内 に入るものと認められ︑従って生計の資本としての贈与にはあたらない︒﹂と判示した︒
弟に借金をし︑その分を被相続人が代位弁済した金額については︑生計の資本の贈与にあたるとした︒
関法
もっ
とも
︑
一身専属的性格により受益者のみが享受しうるとい
一四 六
︵八
五八
︶
な
民法
九
0
三条
でい
う特
別受
益者
の範
囲に
つい
て
性を
欠く
ので
はな
いか
︶.
o
また
︑
この問題について︑どのように考えるかであるが︑まず学説についてみていこう︒積極説では︑代襲相続人が固
有の権利として直接被相続人を相続するのに︑なぜ被代襲者の受益について責任を負うのかという批判を受けざるを
えない︵なお︑消極説での主張の一っとなっている﹁代襲相続人の固有の権利による被相続人への相続﹂が︑次節⇔
での積極説の理由付けの一っとなっている︒つまり︑逆の論理として用いられている︒論理としては︑代襲相続人の
固有の権利といったところで︑被代襲者の地位の承継に変わりはないから︑ここでの消極説からの批判のほうが妥当
消極説では︑代襲相続人は被代襲者が生存していれば受けることができる相続利益
以上のものを取得することにもなっておかしいとの批判を受ける︒折衷説では︑代襲相続人が被代襲者への特別受益
⑱ 小 括 ー 私 見
助を生計の資本の贈与として︑代襲相続人に持戻させている︒
四
9 0
>
ように︑
後述する③大分家審昭四九•五・一四(家月二七巻四号六六頁)は、
一四
七
︵八
五九
︶
一般的な大学教育費用は該当しないとした点が︑特徴的である︒被相続人
の資産状況や各家庭での教育意識等によって︑教育費の支出の意味が異なることは否定しえない︒しかし︑後述する
一身専属性を理由として外国留学費用の持戻しを否定することには︑疑問が残る︒
であり︑代襲相続人は当該被代襲者から当該財産を相続したにすぎない場合などは︑当該受益分について民法第九〇
三条を適用することはできない︒﹂と判示する︒もっとも︑判旨のように解する理由は︑本審判からははっきりしな
後述する⑧神戸家尼崎支審昭四七•―ニ・ニ八(家月二五巻八号六五頁)は、被代襲者への生活費及び学費の援 外国留学費用は特別受益に該当するが︑
﹁被相続人から贈与を受けたのが被代襲者
第三九巻第四•五号
の代襲相続人のみが相続するわけではないことからも︑それは困難であることは否定しえまい︒
は四囲の状況で判断すべきことになる︒
一身
専
から実際に利益を受ける限度をどのように算定するのか困難であるとの批判を受ける︒これらのうち︑代襲相続人が
実際に得る利益の算定さえ明確に決まれば︑折衷説がもっとも妥当と思われる︒しかし︑被代襲者を常にたった一人
私は︑この問題の解決は︑代襲相続人の法的地位から必然的に生じるものではなく︑また代襲相続人が被代襲者
を相続したときの利益がいくらであったかという観点からのみでは︑得られるものではないと思う︒別の視角から︑
つまり代襲相続人が特別受益者として持戻し義務を負うか否かは︑贈与がなされた本来の趣旨から決められるぺきこ
とであろう︒そして︑それは偏に贈与者の朋確な意思もしくは意思推定によるものであると考えたい︒原則として︑
贈与があった事実は︑それを受けた者への相続分外の先取りであり︑特別厚遇であって︑持戻し義務を免除されたも
のと解すべきである︒例外として︑持戻し義務が課せられる場合は︑贈与者の意思もしくはその推定により︑あるい
一般的には︑被代襲者への贈与は︑贈与者の反対の意思表示がない限り︑持
戻し免除付であって︑代襲相続人はその義務を負わないものと解したい︒このような見解にたって︑右の学説のうち
では︑折衷説を支持したい︒特別受益の持戻し制度にもっとも適合するからである︒もっとも︑私見は︑折衷説を支
持しつつも︑代襲相続人の現実の利益を可能な限り相続分外の先取りと評価するものである︵後述参照︶︒
審判例としてはわずか四例しかないが︑①鹿児島家審は︑高等教育費用は特別受益に該当するけれども︑
属的性格を理由として代襲相続人に持戻し義務が承継されないという︒①審判は︑被代襲者への生計の資本としての
不動産の贈与については︑代襲相続人に持ち戻させていることから︑高等教育費用を除く一般的な生計の資本等につ
いては︑積極説と同様であるといえよう︒②徳島家審は︑大学教育費用は特別受益に該当せず︑また留学費用も一身 関法
一四
八
︵八
六
0
)
民法
九
0 1
1
一条で
いう
特別
受益
者の
範囲
につ
いて
に該当し︑代襲相続人に持ち戻させるべきであるという︒
後者であれば該当性がないことになる︒しかし︑後者の場合でも︑
一四
九
︵八 六一
︶
専属的なものであるとの理由で︑これまた代襲相続人に持戻し義務が承継されないという︒③審判は︑代襲相続人が
被代襲者を通して被相続人から受けた贈与によって現実に経済的利益を受けている場合にかぎりその限度で特別受益
つまり︑学説でいう折衷説の考えが採用されている︒③大
分家審は︑消極説の考えにたつ︒⑧神戸家尼崎支審は︑積極説に拠る︒
上級教育を受けた費用が特別受益に該当するか否かは︑基本的には︑共同相続人中の一人のみが受けたのか︑他
の者も平等に受けていたのか︑といった共同相続人の間での事情によって結論が導き出されるべきであろう︒勿論︑
とえば医師の資格取得のためであり︑それによって後に財産を形成しえたような場合には︑この財産を承継した代襲
相続人に被相続人が持戻しを課したとも推測される場合がありえよう︒生計の資本としての学費は︑常に一身専属性
があるからといって持戻し義務が排除されることにはならないように思われる︒後述の⑧審判例では︑生計費をも含
んだものではあるが︑学費を持戻させている︒また︑類似の事例で︑たとえば生計のための資本として被代襲者がエ
場敷地の贈与を受け︑しかもそれが被代襲者の死亡時にも残っていた場合には︑①と③の審判例の考え方でも︑代襲
相続人に持戻し義務が課せられたのではなかろうか︒この意味では︑学説でいう折衷説の考え︑つまり高等教育費用
であっても︑代襲相続人が現実に経済的利益を受けていれば︑持戻しの必要を認める可能性を残しておく方が妥当な
もっとも︑もともと代襲相続が生じる事態そのものが予期せざることであり︑とりわけ学資のような贈与は確か
に一身専属性が強く︑受贈者が医師になり稼ぎ︑その結果︑不動産を取得し︑それが代襲相続人の手中に入ったとい
五 結論に到達しやすいように思われる︒
四
一人の受けた高等教育費用や外国留学費用が︑た
一般論としていえば︑被相続人の推定意思により︑被代襲者への贈与に持戻し 義務が課せられていたとしても︑代襲相続があるような場合には︑疑問を残しつつも特別受益性は消滅するものと解 したい︒この場合にまで被相続人の持戻し意思を推測することは︑社会通念上︑適切とは思えないからである︒
( 1 )
中川善之助
1 1
泉久
雄﹃
相続
法第
三版
﹄︵
昭六
一︱
‑)
一四
一頁
︑
(2)中川
11
泉•前掲書五二九頁は、肯定する。( 3 )
中川淳﹃相続法逐条解説︵上巻︶﹄︵昭六
0 )
ニニ七頁参照︒積極説を主張する学説には︑岩田健次﹁特別受益分の持戻に
について﹂福島四郎教授還暦記念︵昭三九︶ニ︱六頁︑風間鶴寿﹁特別利益の持戻ーとくにその持戻義務者について﹂大阪
府大経済研究一七号︵昭三五︶八一頁︑有地亨分担・久貴忠彦
1 1
谷口知乎編﹃新版注釈民法︵二七︶﹄︵平元︶ニ︱九頁︑内
.藤
頼博
1 1
加藤隆一郎﹁代襲相続と特別受益の持戻との関係﹂ジュリスト三二二号︵昭四
0 )
九九頁︵本論文ほ︑後に東京家
庭裁判所身分法研究会編﹃家事事件の研究い﹄︵昭四五︶一七二頁以下に所収︶︑我萎栄
1 1
唄孝一﹃判例コンメンクール暉相続法
﹄︵
昭四
一︶
一
0
四頁︑鈴木禄弥﹃相続法講義﹄︵昭六一︶二三七頁︒( 4 )
有地・前掲書ニ︱八頁︒
( 5 )
有地・前掲書
1 1
︱九頁︑小石寿夫﹁相続分の算定﹂小山昇他編﹃遣産分割の研究﹄︵昭四八︶一六二頁︒
( 6 )
小石寿夫﹁相続分の算定﹂小山昇他編﹃遣産分割の研究﹄︵昭四八︶一六二頁︵本論文は︑先に判タ一四八号︵昭三八︶︱︱︱
四頁ー四
0
頁で公表されたもの︒両者の間ではやや異なる部分があるものの︑以下では﹃遺産分割の研究﹄による︒︶︑中川淳•前掲書ニニ七頁参照。消極説に与する学説には、小石•前掲論文を含めて、近藤英吉『相続法論(下)』(昭―――-)五六四頁︑柚木馨﹃判例相続法論﹄︵昭二八︶二
00
頁︑島津一郎分担・中川善之助監修﹃註解相続法﹄︵昭二六︶︱ニニ頁︑薬師寺志光分担・中川善之助責任編集﹃註釈相続法︵上︶﹂︵昭二九︶一七四頁︑﹁全国家事審判官合同要禄﹂家庭裁判資料六
九号︵昭三六︶八七頁︑大阪高裁管内一1一回家事研究協議会決議昭二五・八・六家月二五巻七号八九頁︑などがある︒なお︑
久貴
1 1
谷口編・前掲書は︑園田格﹁相続分の算定﹂﹃家族法大系
V I ﹄
︵昭
一ー
一五
︶二
八八
頁を
︑こ
の説
の中
に入
れる
が︑
その
よ
では予想していなかったといえよう︒ ったところで︑これらは偶然的な要素が強すぎることであって︑もともと贈与者である被相続人は︑そうした事態ま
関法
第三九巻第四・五号
一四
四頁
︑五
二八
頁︒
一五
0
︵八
六二
︶
民法
九
0 1
︱一
条で
いう
特別
受益
者の
範囲
につ
いて
一 五
学
説
︵ 八 六 一
︱ ︱ )
うに
読み
込め
るか
は疑
問で
ある
︒ (7)この説は、内藤
11
加藤•前掲論文一七四頁に最初にみられたもので、公表された昭和四0年当時、この説を主張する学説ほみられなかったようである。今日では、中川淳•前掲書ニニ七頁、が支持する。また、中川11
泉•前掲書は、「代襲者が直接
利益
をう
けて
いる
場合
に限
って
︑そ
の範
囲で
特別
受益
とい
うべ
きで
あろ
うか
︒﹂
とい
う︵
同書
・二
五八
頁注
伯︶
︒
( 8 )
大塚
正之
﹁特
別受
益の
意義
と範
囲﹂
判ク
六八
八号
︵平
元︶
五一
頁︒
(9)中川
11
泉•前掲書二五八頁注囮゜代襲相続人自身が被相続人から直接特別受益とみられる贈与・遣贈を得ていたという場合には︑二つある︒第一は︑
代襲相続人が推定相続人でないときに贈与もしくは遣贈を得ていた場合である︵ここでの遺贈は︑被相続人と相続人
が同時に死亡し︑かつ代襲相続人に遺贈がなされていたという特殊な状況のケースで︑遺贈が効力を発生したとき︑
代襲相続人はすでに推定相続人ではないのであって︑贈与の場合のように通常生じうる︑代襲原因発生前の状況下の
ケースとは異なる︶︒たとえば︑推定相続人でない孫が贈与を受けた後に︑被相続人の子であるその父が被相続人よ
りも先に死亡し︑孫が代襲相続人となりうる地位についたという事例である︒この第一の場合は︑以下の第四章﹁受
贈後に推定相続人となった者﹂に含まれるはずであるが︑次の第二の場合と併せて議論されることが多いので︑便宜
上︑本節で検討することにしたい︒第二は︑推定相続人となってから贈与もしくは遺贈を得た場合である︒前例でい
えば︑子が死亡し孫が代襲相続人となりうる地位である推定相続人となった後に贈与を受けた場合である︒
学説には︑全面的に持戻しを要求する説︵積極説︶と代襲原因の発生の前後で区分する折衷説︵以下︑時期区分
⇔代襲相続人が特別受益とみられる贈与・遺贈を得ていた場合
第三九巻第四•五号関法
( 1 )
︵
2
)
説とよぶ︶の二説がある︒なお︑持戻しを要求しないとする説︵消極説︶は︑前節の場合とは異なり存在しない︒時
( 3 )
期区分説が通説としての地位を占めてきたといえよう︒
積極説は︑持戻し義務者は現実に共同相続人として相続する者であれば足り︑公平の親点から受益の時期を問わ
( 4 )
ないと解する︒積極説によれば︑持戻しに服する特別受益は相続分の前渡しとして与えられたものに限らないとする︒
その理由として︑持戻しが︑前渡しされた財産を受益者の相続分から差し引くものであるとすれば︑
でない者に特別受益が与えられても︑それは相続分の前渡しとしての意図をもってなされたものでないことが明らか
( 5 )
であるので︑持戻しの問題を生じえないとしなければならないからである︒相続分前渡しの決済的意義を強調せずに︑
持戻し義務を認めようとするのである︒また︑積極説は︑代襲相続人は自己の固有の権利で被相続人を相続するから︑
他の共同相続人との間で持戻し義務について区別すべき理由はない︑という︵この点は︑同じ積極説でも︑
以上のような理由の他に︑フランス民法が明文をもって︑
定相続人ではなかったけれども相続開始時に相続人となった受贈者に持戻し義務を課していること︵仏民八四六条︶
( 6 )
も︑根拠の一っとして挙げられている︒審判例には︑積極説を支持し︑代襲原因発生時の前後を問うことなくすべて
の贈与を持戻すべきだとするものがみられる︵後述︑①鹿児島家審参照︶︒
時期区分説は︑被代襲者の死亡または相続権の喪失により︑代襲相続人が現実に相続人としての資格を取得した
( 7 )
のちの受益のみに持戻し義務を限定し︑それ以前の受益については持戻しを要求しない︒たとえば︑
共同相続人の中の誰かになされたものでなければならないということである︒推定相続人でない孫に贈与をした後︑
子が死亡して︑その孫が代襲相続人になっても︑代襲相続人たる地位を有する以前にうけた贈与は持ち戻さなくても 者﹂についての理由付けの場合と異なる︶︒
一 五
︵八
六四
︶
﹁持戻し贈与は ︵推定︶相続人
贈与時には推
﹁被
代襲
民法
九
0 1
︱一
条で
いう
特別
受益
者の
範囲
につ
いて
相続人から贈与されていた点について︑
③ 裁 判 例
あた
らな
い︒
四
︵八
六五
︶
( 8 )
いい﹂︒その理由として︑代襲相続人となる以前︵より正確にいえば︑代襲相続人となりうる資格を取得した時より
以前
︶は
︑
いわゆる共同相続人として贈与を受けたものではないこと︑また持戻しを要する特別受益の法的性格は相
続分の前渡しにほかならない以上︑推定相続人の資格をもたない代襲相続人への贈与は相続分の前渡しの意義をもた
( 9 )
︵
1 0 )
ないこと︑が挙げられている︒最高裁家庭局や先例︵昭和三ニ・八
・ 1 1
八民甲一六
0
九号民事局長回答︶も︑こうした考えに立っているし︑審判例の中にも︵後述︑③大分家審参照︶︑これに依っているものがみられる︒
学説としては以上であるが︑前節けでみてきたような折衷説的な考え︑つまり代襲相続人が︑代襲原因の発生に
より推定相続人となる前後を問うことなく︑現実に相続分の前渡しとして利益を受け保持している限度で持戻し義務
を負うとする︑ことも成り立ちえよう︒この説の弱点は︑代襲原因の発生により代襲相続人となりうる地位に就いた
後に︑受贈した場合等にも︑必ずしも常に持戻し義務を負うとは限らないという点にあろう︒これに対しては︑受益
を得ている限度という要件により克服しうると思う︒いずれにせよ︑こうした説を唱えている学説は︑今のところみ
前述した①鹿児島家審昭四四・六・ニ五︵家月ニニ巻四号六四頁︶は︑代襲相続人が推定相続人となる以前に被
﹁特別受益持戻制度が相続開始時における共同相続人間の相互の不均衡を調
整することを目的としていることからすれば︑受益者が︑受益の当時推定相続人であったかいなかは重要でなく︑代
襲相続人は︑受益の時期いかんにかかわらず持戻義務を負うものと解すべきである﹂︑と判示する︒
学説でいう積極説を採用したものであるが︑持戻し制度の存在を共同相続人間の公平に求めている点が論拠となっ
一 五 一
︱ ︱