高齢者福祉と地方財政 : 市区町村の規模の観点か ら
著者 吉村 弘
雑誌名 同志社商学
巻 57
号 6
ページ 29‑52
発行年 2006‑03‑15
権利 同志社大学商学会
ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007339
高 齢 者 福 祉 と 地 方 財 政
──市区町村の規模の観点から──
吉 村 弘
蠢 はじめに
蠡 都市規模と高齢化率
蠱 都市規模と高齢者福祉サービス 蠶 都市規模と高齢者福祉施設定員数 蠹 都市規模と高齢者福祉関連地方財政 蠧 都市規模と(高齢者福祉/老人福祉費)比率 蠻 都市規模の指標としての面積
衄 高齢者福祉サービス間,及び,高齢者福祉施設定員間の関係 衂 おわりに
Ⅰ は じ め に
本稿の目的は,平成11年度のデータに基づいて,地域における高齢者福祉の実態,
とりわけその地域間格差の実態,福祉関連地方財政の状況,及び高齢者福祉と地方財政 との関係について,都市規模の観点から一般的に考察し,それら高齢者福祉,福祉関連 地方財政,及びそれら両者の関係がいずれも都市規模と極めて密接な一般的関係を有す ることを示すことである。
ここに都市とは,行政単位としての市区町村を意味し,平成11年現在の全国3,252 の市区町村すべてを対象としている。また,都市規模は主として人口数で表し,他に面 積を規模の指標とすることについても検討する。この点については拙稿[1]を参照さ れたい。
周知のように,戦後の社会福祉は生活困窮者の保護・救済を中心として開始され,戦 災復興から高度成長を経て「豊かな社会」へと進むにつれて,保護・救済以外に,広く 国民を対象とする幅広い領域のサービスが求められるようになった。それにともなっ て,我が国の社会福祉は飛躍的に拡大し,未だ十分とはいえないまでも世界に誇り得る ものとして発展してきた。ちなみに平成18年度予算案では,一般会計歳出総額79兆
6,800億円のうち,社会福祉関係費は20兆5,700億円であり,一般会計歳出総額の25
%強を占める。しかしながら,成熟社会としての日本が「活力ある福祉社会」を目指し て,多様化高度化する福祉需要に対応し,利用者の信頼と納得の得られる質の高い福祉 サービスを効率的に提供していくためには,社会福祉の基礎構造全体を見直す必要があ
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るとの認識のもとで,いわゆる「社会福祉基礎構造改革」が進められている。これによ って,福祉制度は,その考え方において「措置」から「契約」へと変わり,利用者主体 の福祉サービスへの転換が図られつつある。とりわけ高齢者福祉においては介護保険制 度が導入され,それまでとは大きな変化が起こっている。
この間,筆者は厚生労働科学研究費補助金などを受けて,高齢者福祉サービスと地方 財政について主として都市規模の観点から一連の研究(拙稿[3][4][5][6][7]
[8])を行ってきたが,介護保険制度以前の到達点として介護保険開始直前の平成11年 度について高齢者福祉の状況を明らかにしておくことが必要であると考える。そのた め,本稿では,前制度の締めくくりの意味と,加えて,かつて筆者が平成6年度につい て行った同様の分析(拙稿[4][5])と比較することに備えるために,さらに介護保険 制度による高齢者福祉の変容を探るための基礎として,分岐年である平成11年度につ いて分析する。
Ⅱ 都市規模と高齢化率
最初に高齢化の実態を都市規模との関連でみておく。厚労省「人口統計資料集(2005 年版)」によれば,2000年における高齢化率(人口に占める65歳以上 人 口 の 割 合)
は,世界全域で6.92%,そのうち先進地域14.33%,発展途上地域5.12% である。さら に地域別にみると,先進地域のうちヨーロッパ14.75%,北部アメリカ12.37% であ り,発展途上地域のうちアフリカ3.27%,ラテンアメリカ5.57% である。これに対し て,アジアは中間的位置にあり,アジア全体で5.88%,そのうち日本の属する東部アジ
アは7.75% であり,高齢化率が高くなる。
これら世界の高齢化状況の中で,日本の高齢化は著しい。2000年の日本の高齢化率 は17.4% であり,2003年には19.0% と推計されており,2005年国勢調査ではおそら
く20% を超えることになろう。
世界の中で日本の高齢化は確かに進んでいるが,それは一様ではなく地域間の高齢化 率格差は極めて大きい。とりわけ市区町村のような小さな区域でみれば格差は大きく現 れる。第1表によると,市区町村別にみた高齢化率の上位及び下位10市区町村の違い は,最高の東和町(山口県)50.02% から最低の浦安市(千葉県)7.25% まで多様であ る。最高では2人に1人は高齢者であり,その高齢化率は最低の7倍に近い。概ね,大 都市から離れた小規模市町村で高齢化率が高く,大都市周辺の中小規模の市で高齢化率 が低い。
そこで,市区町村の規模と高齢化率の関係を一般的にみるために,平成11年度のデ ータに基づいて,3,252市区町村を人口規模別に23階層に区分し,それぞれの階層ごと
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に単純平均値を求めたのが第2表であり,それを図示したのが第1−1図である。全体 として,市区町村の規模が大きくなれば高齢化率は急激に低下し,やがて大きな変化は なくなる。その転換点は第1−2図にみられるように,人口5〜10万人程度の都市であ る。したがって,高齢化の点からみると,一般的には人口5万人未満の都市について,
とりわけその中でも小さければ小さいほど,深刻であるといえよう。それ以上の規模に ついては大きな違いは一般に認められない。
第1−3図は,第1−1図を縦横両軸とも対数表示に改めて示したものである。このよ うにすれば全体としての傾向性をよりよく知ることができる。すなわち,人口規模5〜
10万人程度まで高齢化率が急激に低下し,その後は大きな変化はみられないが,200万 人を超えるとわずかに増加傾向すら見られる。高齢化は現在主として小都市で顕著であ るが,やがて巨大都市が高齢化問題に直面することを予想させるものである。
人口と高齢化率の両変数の対数をとれば,都市規模と高齢化率は「下に凸の2次回帰
第1表 高齢化率及び高齢者100人当たり高齢者福祉サービス・施設定員の上位10市区 町村・下位10市区町村(平成11年度)
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式」がよくフィットする。第3表の参考欄に示すように,この回帰式(12)(13)はとも に有意水準0.01で十分有意であり,また係数も定数項も有意水準0.01で十分有意であ る。第3表の(12)(13)から分かるように,1次式よりも2次式の方が断然有意性が高 い。
第3表 市区町村の人口規模と高齢者福祉 第2表 市区町村の高齢者福祉(平成11年度)人口規模別
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Ⅲ 都市規模と高齢者福祉サービス
以上のような都市規模と高齢化の関係を前提として,以下で都市規模と高齢者福祉の 関係をみる。高齢者福祉のうち,まず「在宅」福祉サービスに焦点を合わせ,ここで は,そのうち主要なサービスである訪問介護(ホームヘルプサービス),日帰り介護サ ービス(デイサービス),短期入所生活介護(ショートステイ)を取りあげる。
高齢者100人当たり年間利用回数について,高齢化率と同様に,まず全市区町村のう ち上位・下位それぞれ10都市をみる(第1表)。ここで,利用回数は,その年における 年間の利用者延べ数を意味し,それを当該地域の高齢者(65歳以上人口)100人当たり に換算したものである。
ホームヘルプサービス,デイサービス,ショートステイのいずれのサービスについて も,市区町村ごとにみれば,上位と下位の格差が極めて大きいことが分かる。とりわ け,第1表の「参考」に示したように,市区町村単位でみると,サービスが提供されて いない(値が0の)市区町村があることに注意しなくてはならない。この点は,拙稿
[5]で扱ったように,地域の単位を市区町村ではなく福祉圏域とすることによって緩和 されるであろう。これについては続稿に譲る。
サービスが提供されていない市区町村の平均人口をみると,必ずしも人口数が極少数 であるいうわけではないので,小さい市区町村であるから高齢者福祉サービスが提供さ れていないとはいえない。(ただし,ホームヘルプサービスのサービスが提供されてい ない市区町村の平均人口は53,395人で,極めて大きいが,この3都市のうち津市を除 くと,他の2村の平均人口は282人となり,津市が例外的となっている。したがって津 市を除く2村は極小の規模となる。)
以上のように,高齢者福祉サービスを個々の都市についてみると格差は大きいが,都 市規模との関連でみると,上位10都市は下位10都市よりやや規模が小さいようにみえ るものの,傾向性は定かではない。
そこで,都市規模階層別にサービス利用の平均をとったのが第2表である。ここで,
平均値は,当該サービスが提供されていない市区町村(値が0の市区町村)を除いた平 均値である。この点は,他のサービスや後述する施設についても同様である。
まずホームヘルプサービスについては,第2−1図に全体像を示す。都市規模の増大 とともに100人当たり利用回数は急激に低下し,第2−2図に示すように,人口2万人 程度を境として,以後はやや上昇気味である。その点は,両対数グラフでみると第2−3 図のようによく理解できる。すなわち,都市規模の増大につれて,ホームヘルプサービ ス利用は,人口2万に程度まで急激に低下し,その後は緩やかに上昇する。第3表の
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第1−1図 市区町村の人口規模と高齢化 率(平成11年度)
第2−1図 市区町村の人口規模と高齢者100人 当たり年間利用回数(平 成11年 度)
ホームヘルプサービス
第1−2図 市区町村の人口規模と高齢化 率(平成11年度)
第2−2図 市区町村の人口規模と高齢者100人 当たり年間利用回数(平 成11年 度)
ホームヘルプサービス
第1−3図 市区町村の人口規模と高齢化 率(平成11年度)
第2−3図 市区町村の人口規模と高齢者100人 当たり年間利用回数(平 成11年 度)
ホームヘルプサービス 同志社商学 第57巻 第6号(2006年3月)
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(1)(2)によれば,両対数回帰式は1次式も2次式もともに,回帰式及び係数の全てに ついて有意水準0.01で有意であるが,2次式の方が1次式よりも,回帰式も係数もとも に問題なく有意性が高い。
次にデイサービスについては,第2表及び第3−1図・第3−2図・第3−3図に示すよ うに,ホームヘルプサービスに似た傾向性を示す。すなわち,人口2万人程度まで急激 に低下し,その後は大きな変化はなく,やや上昇気味のところがみられる。第3表の
(3)(4)双方とも,回帰式及び係数は有意水準0.01で十分有意であるが,ホームヘル プサービスとちがって,2次式の方が1次式よりもややフィットがいいという程度であ り,1次式と2次式の違いはあまり大きくはない。そのことは,第3−3図の2次式にお いて,右上がりの部分がないわけではないが,わずかしかみられないことと符合してい る。
ショートステイについても,太宗はホームヘルプサービス及びデイサービスと同様で ある。す な わ ち,第4−1図・第4−2図・第4−3図 の よ う に,都 市 規 模 の 増 大 と と も に,高齢者当たり利用は,人口2万人程度まで急激に低下し,その後は大きな変化はみ られない。ただし,ショートステイについては,両対数回帰式のうち1次式の方が2次 式よりもややフィットがよい。すなわち,第3表の1次式(5)では確かに決定係数は 2次式(6)より低いがF 値は大きい。
第3表に示した,都市規模と高齢者福祉サービス及び定員数についての回帰式を通常 の正方目盛で示したのが付図1−1〜5で あ る。こ れ は,第1−3図,第2−3図,第3−3 図,第4−3図,及び後述の第5−3図,第6−3図に示した回帰式を図示したものである が,このように正方目盛で表すと,直観的に理解しやすいであろう。
以上のように,都市規模と高齢者福祉の関係は,高齢者当たりのサービス利用回数で みるとき,ホームヘルプサービス,デイサービス,ショートステイのいずれについて も,ほぼ同様の関係を認めることができる。すなわち,都市規模の増大につれて,いず れのサービスについても人口2万人程度までは急激に利用回数が低下する。その後は,
概ね大きな変化はない(デイサービス,ショートステイ)か,あるいは,都市規模とと もに若干利用回数が増加する(ホームヘルプサービス)が,いずれにせよ大きな違いは 見られない。その関係は,両対数回帰式で表すと,「下に凸の2次式」がよくフィット し,回帰式も係数も有意水準0.01で十分有意である。ただし,下に凸ではあるが,右 上がりの部分は巨大都市規模についてわずかにみられるだけであり,右下がりの部分が 太宗を占める。
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第3−1図 市区町村の人口規 模 と 高 齢 者100 人当たり年間利用回数(平成11年 度)デイサービス
第4−1図 市区町村の人口規模と高齢者100人 当たり年間利用回数(平 成11年 度)
ショートステイ
第3−2図 市区町村の人口規 模 と 高 齢 者100 人当たり年間利用回数(平成11年 度)デイサービス
第4−2図 市区町村の人口規模と高齢者100人 当たり年間利用回数(平 成11年 度)
ショートステイ
第3−3図 市区町村の人口規 模 と 高 齢 者100 人当たり年間利用回数(平成11年 度)デイサービス
第4−3図 市区町村の人口規模と高齢者100人 当たり年間利用回数(平 成11年 度)
ショートステイ 同志社商学 第57巻 第6号(2006年3月)
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Ⅳ 都市規模と高齢者福祉施設定員数
次に,都市規模と高齢者福祉のうち「施設」福祉に焦点を合わせ,ここでは,そのう ち主要な施設である特別養護老人ホームと老人保健施設の両施設を取りあげる。第1表 には,両施設について,高齢者当たり定員数の上位と下位の10市区町村が示されてい る。福祉施設については,先にみた在宅サービスとは違って,人口規模の小さな町村が 上位にあり,大きな市区が下位にある傾向が明確である。これは,第1表の「参考」に 示した「値が0の市区町村」が多いことと関連があると考えられる。とくに老人保健施 設についてはその傾向が顕著である。
第2表及び第5−1図・第5−2図によれば,高齢者100人当たり特別養護老人ホーム 定員数は,やはり人口2万人程度まで都市規模とともに急激に減少し,その後は大きな 変化はみられない。その屈折点が人口2万人程度である点は福祉サービスの場合と共通 である。第3表(7)(8)及び第5−3図のように,下に凸の2次回帰式がよくフィット する。
同様に,第6−1図・第6−2図・第6−3図のように,高齢者当たり老人保健施設定員 数も,特別養護老人ホームの傾向と同じであり,人口2万人程度で屈折している点も同 様である。ここでも第3表(9)と(10)の比較から分るように回帰式は2次式の方が 適合性が高い。
したがって,高齢者福祉施設定員数についても,在宅福祉サービスとまったく同様の 傾向性を認めることができる。高齢者当たり福祉は,在宅サービスについても施設定員 数についても,人口規模と高齢者当たり福祉指標の両者を対数表示で表すとき,「下に 凸の2次回帰式」が良くフィットし,回帰式も係数も有意水準0.01で十分有意であ る。都市の人口規模が増大するとき,はじめは福祉指標は急減し,ある規模(臨界規 模)以後は大きな変化はないか,変化がある場合でもわずかに上昇する程度である。そ の転換点となる臨界規模は人口2万人程度である。したがって,高齢者福祉を都市の人 口規模との関連でみると,人口2万人程度より大きな都市か,小さな都市かが,重要な 論点となる。福祉圏域や市町村合併及び高齢者福祉施策に際して,念頭に置かれるべき 事柄である。
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第5−1図 市区町村の人口規 模 と 高 齢 者100 人当たり定員数(平成11年度)特 別養護老人ホーム
第6−1図 市区町村の人口規 模 と 高 齢 者100 人当たり定員数(平成11年度)老 人保健施設
第5−2図 市区町村の人口規 模 と 高 齢 者100 人当たり定員数(平成11年度)特 別養護老人ホーム
第6−2図 市区町村の人口規 模 と 高 齢 者100 人当たり定員数(平成11年度)老 人保健施設
第5−3図 市区町村の人口規 模 と 高 齢 者100 人当たり定員数(平成11年度)特 別養護老人ホーム
第6−3図 市区町村の人口規 模 と 高 齢 者100 人当たり定員数(平成11年度)老 人保健施設
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Ⅴ 都市規模と高齢者福祉関連地方財政
この節では,高齢者福祉関連地方財政を都市規模との関連でみる。都市規模と地方財 政の一般的関連は拙著[2]等で考察したので,ここでは,そのうち福祉とくに高齢者 福祉に限ってやや詳しく考察する。
第4表は,高齢者福祉関連地方財政を都市の人口規模別にみたものである。とくに,
民生費,社会福祉費,老人福祉費などについては,今までの考察(拙稿[4][5][6]
[7][8])は市区に限られていたが,今回は全国の全町村を含む分析である。
都市規模と人口当たり歳出(総額),民生費,社会福祉費,及び高齢者当たり老人福 祉費の関係は,第7−1図・第7−2図・第7−3図・第7−4図に示す。人口規模及び人口 当たり歳出(費用)を対数表示すると,いずれも,「下に凸の2次回帰式」が良くフィ ットし,人口規模10〜15万人程度まで人口(又は高齢者)当たり歳出は急激に低下し て,その後緩やかに増大する。前節までの高齢者当たり福祉については,同じく「下に 凸の2次回帰式」ではあるが,その右上がりの部分は殆ど範囲の外となっていたが,歳 出の場合には右上がりの部分も明確に含まれる。拙著[2]で示したように,市区の多 くの歳出項目については,人口当たり歳出が最小となるのは人口規模20〜30万人規模 であったが,今回の町村を含む福祉関連歳出では,その規模はもっと小さくて,人口10
第4表 市区町村の高齢者福祉関連財政(平成11年度)人口規模別
高齢者福祉と地方財政(吉村) (431)39
万人余りで人口当たり歳出が最小となる。
歳出に占める割合でみると,第4表及び第8−1図・第8−2図・第8−3図のように,
都市規模とともに次第に増大し,やがてピークを迎えて,その後減少する。そのターニ ングポイントは,民生費では人口37万人,社会福祉費では18.9万人,老人福祉費では 3.7万人である。中規模都市において福祉関連歳出が多くなされていることが分かる。
第4表の参考及び第9−1図〜第9−6図に示すように,都市規模と地方財政は密接な 関係がある。自主的財源比率は人口規模とともに上昇し,逆に依存的財源比率はほぼ一 方的に減少する。従って,予想されるように,財政力指数は小規模市区町村では極めて 低く,人口千人未満では0.12(対数表示で−2.12)にすぎない。財政力指数が最大とな るのは人口97.5万人である。他方,経常収支比率は,人口規模が増大するにつれて,
人口9千人まで徐々に低下し,それ以後ずっと増大する。経常収支比率の上昇は財政の 硬直化を意味するので,全体としてみれば,大きな市区は硬直化が進んでいる。地方債
第7−1図 市区町村の人口規模と人口当たり 歳出(平成11年度)歳出(総額)
第7−3図 市区町村の人口規模と人口当たり 歳出(平成11年度)社会福祉費
第7−2図 市区町村の人口規模と人口当たり 歳出(平成11年度)民生費
第7−4図 市区町村の人口規模と人口当たり 歳出(平成11年度)老人福祉費 同志社商学 第57巻 第6号(2006年3月)
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現在高を歳出(総額)と比べると,小 規模町村で高く,市部になると低下す るが,しかし巨大都市では再び上昇す る。ちなみに,人口千人〜2千人未満 町村では,地方債現在高は歳 出(総 額)の1.1倍であり,人口200万人以 上では,1.42倍である。それが最小で あるのは人口3〜4万人の0.91倍であ る。しかしながら,地方債現在高を自 主的財源と比べると,状況は変わる。
人口千人未満の小規模町村では,その
比は22.04倍にもなり,その後人口規
模が大きくなるにつれて,この比は低 下し,それが最小となる都市規模は人 口32.1万人である。中規模都市は財 政上比較的良いが,特に小規模市町村 は自主的財源は少なく,依存的財源に 頼り,財政力指数も低く,地方財政も 歳出や自主的財源に比べて大きく,厳 しい状況にある。
以上のような福祉関連地方財政指標 と都市規模との関係は,第5表にまと めてある。いずれの回帰式も有意水準 0.01で有意であり,また,極少数の例 外を除いて,殆どの係数及び定数項に ついて,有意水準0.01で有意である。
第8−1図 市区町村の人口規模と歳出に占める割 合(平成11年度)民生費
第8−2図 市区町村の人口規模と歳出に占める割 合(平成11年度)社会福祉費
第8−3図 市区町村の人口規模と歳出に占める割 合(平成11年度)老人福祉費
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第9−1図 市区町村の人口規模と自主的財 源比率(平成11年度)
第9−4図 市区町村の人口規模と経常収支 比率(平成11年度)
第9−2図 市区町村の人口規模と依存的財 源比率(平成11年度)
第9−5図 市区町村の人口規模と(地方債 現在高/歳出)比率(平成11年 度)
第9−3図 市区町村の人口規模と財政力指 数(平成11年度)
第9−6図 市区町村の人口規模と(地方債 現 在 高/自 主 的 財 源)比 率(平 成11年度)
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Ⅵ 都市規模と(高齢者福祉/老人福祉費)比率
高齢化福祉の費用とサービスの関係は把握するのが難しい。経費とサービスの間に明 確な関連を付けることが難しいからである。とりわけ,この関係を市区町村間で比較で きるようなかたちで入手することは困難である。そこで,1次接近として,費用とサー ビスの関係が必ずしも明確でないが,関連する項目を比較する。なお,このデータは介
第5表 市区町村の人口規模と高齢者福祉関連財政
第6表 市区町村の高齢者福祉と老人福祉費(平成11年度)人口規模別
高齢者福祉と地方財政(吉村) (435)43
護保険開始前のものであることに注意しておく必要がある。
第6表は,高齢者福祉のサービスと施設定員数について,老人福祉費との比率をみた ものである。この比率は,サービスと費用の比として,何らかの効率性を意味するもの と解する。老人福祉費がこれらにぴったり使用されたわけではないので,この比率に厳 密な意味を持たせることはできないが,全体的なイメージを描くことはできるであろ う。
第10−1図・第10−2図・第10−3図・第10−4図は,高齢者福祉サービスについて老 人福祉費との比率をみたものである。その回帰式の関係は第7表に示す。第7表(1)〜
(5)から分かるように,回帰式はすべて有意水準0.01で有意であり,また係数及び定 数項もすべて有意水準0.01で有意である。
次に,高齢者福祉施設についてみる。第7表(6)〜(12)及び第11−1図・第11−2図
第10−1図 市区町村の人口規模と(年間利用 回数/老人福祉費)比率(平成11 年度)ホームヘルプサービス
第10−3図 市区町村の人口規模と(年間利用回 数/老人福祉費)比率(平成11年 度)ショートステイ
第10−2図 市区町村の人口規模と(年間利用 回数/老人福祉費)比率(平成11 年度)デイサービス
第10−4図 市区町村の人口規模と(年間利用回 数/老人福祉費)比率(平成11年 度)ホームヘルプサービス・デイサ ービス・ショートステイの合計 同志社商学 第57巻 第6号(2006年3月)
44(436)
・第11−3図 は い ず れ も 右 下 が り で あ り,高齢者施設定員と老人福祉費の比率 は都市規模が大きくなるにつれて急激に 低下し,やがて緩やかに低下することが 分かる。
第7表に示した,都市規模と(高齢者 福祉/老人福祉費)の比率の回帰式を通 常の正方目盛で示したのが付図2−1〜5 である。これによれば,一般的に,小規 模な市区町村ほど老人福祉費に対する高 齢者サービスや高齢者福祉施設定員数は 高い傾向が見られる。ただ,ホームヘル プサービスについてのみ,人口13.8万 人で最低となって,それより都市規模が 大きくなるにつれて,その比率は緩やか に上昇するが,それ以外のサービスや定 員については,都市規模の増大ととも に,その率は低下する。このことは,こ の比率が何らかの効率性を表すものと理 解できるとすれば,高齢者福祉について は都市規模が小さいほど効率的といえ る。
こ の 付 図2−1〜5を,付 図1−1〜5と 比べると,人口が増大するにつれてはじ めに急激に縦軸の値(利用回数や定員 数)が低下するが,その低下が収まっ て,都市規模の増大にもかかわらず縦軸 の値が殆ど変化しなくなるような臨界的 な都市規模について,両者に違いが見ら れる。すなわち,付図1では,臨界的な 都市規模は上述のように人口2万人程度 であったが,付図2では,それよりかな り大きく,いずれのサービスや施設定員 についても,都市規模3〜5万人程度で
第11−1図 市区町村の人口規模と(定員数/
老人福祉費)比率(平成11年度)
特別養護老人ホーム
第11−2図 市区町村の人口規模と(定員数/
老人福祉費)比率(平成11年度)
老人保健施設
第11−3図 市区町村の人口規模と(定員数/
老人福祉費)比率(平成11年度)
特別養護老人ホーム・老人保健施 設の合計
高齢者福祉と地方財政(吉村) (437)45
ある。
Ⅶ 都市規模の指標としての面積
今まで,都市規模としては人口のみを採用してきた。それは十分な説明力があること が分かったが,都市規模としては面積も有力な指標である。そこで,面積と上述の高齢 者福祉指標との関係をみたのが第12−1図〜第12−6図である。いずれについても,L 字型となって,面積は高齢者福祉指標の説明変数として優れたものではないことが分か る。
念のために,上記の人口規模に加えて,面積を説明変数として追加する場合の回帰結 果を示したのが,第8表である。これを第3表及び第5表と比較すると,第8表では回 帰式のF 値は一般に低下し,しかも面積についてのt値は0.01では有意でなく,一般
第7表 市区町村の人口規模と高齢者福祉および老人福祉費
第8表 市区町村の人口規模・面積と高齢者福祉 同志社商学 第57巻 第6号(2006年3月)
46(438)
第12−1図 市区町村の面積と高齢化率(平成 11年度)
第12−4図 市区町村の面積と高齢者100人当 たり年間利用回数(平成11年度)
ショートステイ
第12−2図 市区町村の面積と高齢者100人当 たり年間利用回数(平成11年度)
ホームヘルプサービス
第12−5図 市区町村の面積と高齢者100人当 た り 定 員 数(平 成11年 度)特 別 養護老人ホーム
第12−3図 市区町村の面積と高齢者100人当 たり年間利用回数(平成11年度)
デイサービス
第12−6図 市区町村の面積と高齢者100人当 た り 定 員 数(平 成11年 度)老 人 保健施設
高齢者福祉と地方財政(吉村) (439)47
に有意性は低下し,面積を説明変数に加えることはむしろ妥当性を欠く。
Ⅷ 高齢者福祉サービス間,及び,高齢者福祉施設定員間の関係
以上のように,高齢者福祉の諸指標について人口規模との関係をみてきたが,いずれ についても,かなり似た傾向性をもつことが分かった。そこで,それら諸指標の間の関 係 を み た の が,第13−1図・第13−2図・第13−3図・第13−4図 で あ る。こ れ に よ れ ば,第13−2図と第13−3図の唯1個の例外(人口千人未満の極小町村のショートステ イ)を除くと,ホームヘルプサービス,デイサービス,ショートステイの3サービスの 間には全体として密接は直線的関係があることが分かる。また,高齢者施設については 例外なしに直線的関係が認められる。第9表の回帰式にみられるように,以上の関係は
第13−1図 市区町村の高齢者100人当たり年 間 利 用 回 数(平 成11年 度)ホ ー ムヘルプサービスとデイサービス
第13−3図 市区町村の高齢者100人当たり年間 利用回数(平成11年度)デイサー ビスとショートステイ
第13−2図 市区町村の高齢者100人当たり年 間 利 用 回 数(平 成11年 度)ホ ー ムヘルプサービスとショートステ イ
第13−4図 市区町村の高齢者100人当たり定員 数(平成11年度)特別養護老人ホ ームと老人保健施設
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有意水準0.01で十分有意である。このことは,高齢者福祉を都市規模との関係でみる と,何かの指標が優れていれば他の指標も同様に優れており,劣っていれば他も劣って いるということを推測させる。したがって,前節までの結果を踏まえると,高齢者福祉 については,小規模都市の方が一般にサービスに恵まれていると考えることがでる。
Ⅸ お わ り に
本稿の目的は,平成11年度のデータに基づいて,都市規模の観点から,地域におけ る高齢者福祉の実態を明らかにすること,とりわけその地域間格差の実態,福祉関連地 方財政の状況,及び高齢者福祉と地方財政との関係について一般的に考察し,それら高 齢者福祉,福祉関連地方財政,及びそれら両者の関係がいずれも都市規模と極めて密接 な一般的関係を有することを示すことであった。その主要な結果は次の通りである。
(1)高齢者福祉は,高齢者当たり在宅サービス指標についても高齢者当たり施設定員 数指標についても,説明変数である人口規模と被説明変数である高齢者当たり福祉指標 の両者を対数表示で表すとき,「下に凸の2次回帰式」が良くフィットし,回帰式も係 数も有意水準0.01で十分有意である。都市の人口規模が増大するとき,はじめ福祉指 標は急減し,ある規模(臨界規模)以後は大きな変化はないか,変化がある場合でもわ ずかに上昇する程度である。その臨界規模は人口2万人程度である。したがって,高齢 者福祉を都市の人口規模との関連でみると,人口2万人程度より大きな都市か,小さな 都市かが,重要な論点となる。福祉圏域や市町村合併及び高齢者福祉施策に際して,念 頭に置かれるべき事柄である。とくに,高齢者福祉の観点から市町村合併をみるとき,
2万人を臨界規模として,その前後で高齢者当たり福祉の程度に大きな違いがあるとい うことは,市町村合併の最小人口規模を2万人程度と想定することは一定の説得力をも つ。
第9表 高齢者福祉のサービス間の高齢者100人当たり利用状況・福祉施設間の高齢者 100人当たり定員状況
高齢者福祉と地方財政(吉村) (441)49
(2)高齢者関連地方財政を人口当たり歳出(総額),民生費,社会福祉費,及び高齢 者当たり老人福祉費の指標でみるとき,説明変数である人口規模及び被説明変数である 人口当たり(又は高齢者当たり)歳出(費用)を共に対数表示すると,いずれの指標に ついても,「下に凸の2次回帰式」が良くフィットし,人口規模10〜15万人程度まで人 口(又は高齢者)当たり歳出は急激に低下して,その後緩やかに増大する。前節までの 高齢者当たり福祉については,同じく「下に凸の2次回帰式」ではあるが,その右上が りの部分は殆ど範囲の外となっていたが,歳出の場合には右上がりの部分も明確に含ま れる。拙著[2]で示したように,市区の一般的歳出項目については,人口当たり歳出 が最小となるのは人口規模20〜30万人規模であったが,今回の町村を含む福祉関連歳 出では,その規模はもっと小さくて,人口10万人余りで人口当たり歳出が最小とな る。
(3)(高齢者福祉/老人福祉費)の比率は,それを効率性の指標と解すれば,一般的 に,小規模な市区町村ほど老人福祉費に対する高齢者サービスや高齢者福祉施設定員数 は高い傾向が見られる。ただ,ホームヘルプサービスについてのみ,人口規模と共には じめこの比率は低下し,やがて最低点を迎えて,それより都市規模が大きくなるにつれ て,その比率は緩やかに上昇するが,それ以外のサービスや定員数については,都市規 模の増大とともに,その率は低下する。このことは,この比率が何らかの効率性を表す ものと理解できるとすれば,高齢者福祉については都市規模が小さいほど一般的には効 率的といえる。ただし,費用とサービスが明確に関連づけられているわけではないので 一次接近と解されるべきである。
(4)面積は高齢者福祉指標の説明変数として優れたものではなく,人口の他に面積を 説明変数に加えることはむしろ妥当性を欠く。
(5)高齢者当たり利用回数でみるときホームヘルプサービス,デイサービス,ショー トステイの3サービスの間には全体として密接は直線的関係があり,また,高齢者当た り定員数でみるとき,特別養護老人ホームと老人保健施設の間にも密接な直線的関係が 認められる。したがって,高齢者福祉を都市規模との関係でみると,何かの指標が優れ ていれば他の指標も同様に優れており,劣っていれば他も劣っているということが推測 できる。
本稿は,巻末の拙稿論文と同様に,高齢者福祉と地方財政の関係を都市規模との関連 で明らかにしようとするものである。今回の平成11年度の結果を,拙稿[4][5]にお ける平成6年度の分析と比較すること,及び,その後導入された介護保険制度のもとで の高齢者福祉と地方財政の関連と比較することを,今後の当面の課題としたい。
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(二村先生には大学院時代,神戸六甲道の下宿にお邪魔して以来,大変お世話になりました。御礼申し上げ ますとともにますますのご健勝をお祈り申し上げます。2006. 1. 21)
関連拙稿文献
[1]吉村 弘「都市領域と都市規模」『地域経済研究』(広島大学)第5号,1994年,25−41ページ。
[2]吉村 弘『最適都市規模と市町村合併』東洋経済報社,1999年,1−313ページ。
[3]吉村 弘「都市規模と福祉・医療サービス水準−市町村合併の福祉・医療サービス水準への効果」
『山口経済学雑誌』(山口大学)第50巻第5号,2002年,1−20ページ。
[4]吉村 弘「都市規模と高齢者保健福祉」『山口経済学雑誌』(山口大学)第51巻第3号,2003年,
29−57ページ。
[5]吉村 弘「福祉圏域の規模と高齢者保健福祉」『山口経済学雑誌』(山口大学)第51巻第4号,2003 年,1−27ページ。
[6]吉村 弘「都市規模と社会福祉行政のコスト・サービス・効率」『山口経済学雑誌』(山口大学)第 52巻第3号,2004年,215−242ページ。
[7]吉村 弘「市町村合併の社会福祉行政への効果−コスト・サービス・効率の都市モデル・シミュレ ーション−」『山口経済学雑誌』(山口大学)第52巻第4号,2004年,91−126ページ。
[8]吉村 弘「社会福祉に係るコスト及びサービスに対する,市町村合併の効果に関する実証的研究]
厚生労働科学研究費補助金(政策科学推進研究事業)(H 13−政策−024)『総合研究報告書』,2004 年,1−152ページ。
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付図1−1 市区町村の人口規模と高 齢者100人当たり年間利 用 回 数(平 成11年 度)
ホームヘルプサービス
付図1−2 市区町村の人口規模と高 齢者100人当たり年間利 用 回 数(平 成11年 度)
デイサービス
付図1−3 市区町村の人口規模と高 齢者100人当たり年間利 用 回 数(平 成11年 度)
ショートステイ
付図1−4 市区町村の人口規模と高 齢者100人当たり定員数
(平成11年度)特別養護 老人ホーム
付図1−5 市区町村の人口規模と高 齢者100人当たり定員数
(平成11年度)老人保健 施設
付 図2−1 市 区 町 村 の 人 口 規 模 と
(年 間 利 用 回 数/老 人 福 祉 費)(平 成11年 度)ホ ームヘルプサービス
付 図2−2 市 区 町 村 の 人 口 規 模 と
(年 間 利 用 回 数/老 人 福 祉 費)(平 成11年 度)デ イサービス
付 図2−3 市 区 町 村 の 人 口 規 模 と
(年 間 利 用 回 数/老 人 福 祉 費)(平 成11年 度)シ ョートステイ
付 図2−4 市 区 町 村 の 人 口 規 模 と
(定 員 数/老 人 福 祉 費)
(平成11年度)特別養護 老人ホーム
付 図2−5 市 区 町 村 の 人 口 規 模 と
(定 員 数/老 人 福 祉 費)
比 率(平 成11年 度)老 人保健施設
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