Deterioration Investigation of Reinforced Concrete Hangar for Airship in Italy
-Distribution of Chloride Ion Content in Hangar-
Noboru YUASA, Hitoshi Hamasaki, Takayoshi AOKI, Yasuo TANIGAWA and Hidenori TAKAHASHI
イタリア国宝RC造飛行船格納庫における劣化現況調査
-建物における塩化物イオン量分布-
日大生産工 ○湯浅 昇 (独)建築研究所 濱崎 仁 名古屋市立大 青木孝義 名 城 大 谷川恭雄 日大生産工(院)高橋英孝
1.はじめに
イタリアのシチリア島アウグスタにある RC造の飛行船格納庫は,1917年頃に建造さ れた,現存する最古の飛行船格納庫である
(写真-1,写真-2)。この飛行船格納庫は,
不同沈下による大きなひび割れや経年劣化 による鉄筋腐食,かぶりコンクリートの剥落 等が多く見られ,構造的な安定性も危惧され ている。筆者らは,この飛行船格納庫の保 存・修復方法を検討するために,主に非破壊 試験による劣化現況調査,建物の変形状況の モニタリング、強度性状、劣化状況等を実施 してきた
1)、2)。
本報告では,同建物調査で採取したコア及 びドリル削孔粉の塩化物イオン量を試験し た結果について報告する。
2.調査概要 2.1 建物概要
飛行船格納庫は, 16本の鉄筋コンクリート バットレス,水平方向の繋ぎ梁と壁で構成さ れ,正面には高さ約31.0m,14枚からなる折 り畳み式の鉄製大扉がある(写真-2(a))。規 模は,外形長さ約105.5m,幅約45.2m,高さ 約37.0mで,内法は長さ約100.0m,幅約 26.0m,高さ約31.0mである(図-1)。海岸 からの距離は約1000mであり、その間に障害 物はない。
W19B W19C E19C E19B
E10C
W14B E15B
N
0 10m
写真-1 建設当時の様子
3)写真-2 現在の飛行船格納庫
図-1 飛行船格納庫平面図および試験位置
対象とした バットレス
W14B
b)内部 a)外部
(a) 建設途中(1918 年)
(b) 完成(1920 年)
(b) 完成時(1920年)
は試験の方向を示す
2.2 試料の採取と調整
測定を行ったコア試料は、図-1に 示す場所からE10C及びW19Bにつ いては、φ95mmコアとドリル削孔 粉を、他の場所については、ドリル 削孔粉を採取した。W14Bについて は、高さが塩化物イオン量分布に及 ぼす影響を検討するため、高さ1.0m
(W14B-1)、5.3m(W14B-2)、14.1m
(W14B-3)22.9m(W14B-4)、31.8m
(W14B-5)の位置から採取した。コア試料 は、表面に近い部分は15mm間隔、中心部は 30mm間隔に切断したもの、ドリルの削孔粉 は、文献4)に従い0-15、 15-30、 30-45、 45-60、
60-90mmの深さから採取したものについて、
その全量を0.15mmふるいに全通するまで微 粉砕し、塩分分析用の試料とした。
なお、中性化深さは、NDIS3419(ドリル 削孔粉を用いたコンクリートの中性化深さ 試験方法)によって行った。
2.3 試験方法
塩化物イオン量の測定は、 JIS A 1154に規 定される電位差滴定法により測定し、全塩化 物イオン量(以下、全塩分量)を測定した。
3.結果及び考察
表-1は、測定高さ、モルタル厚さ、中性化 深さ、モルタル及びコンクリートの深さごと の全塩化物イオン量(ドリル削孔粉による結 果)を示している。
3.1 ドリル削孔粉とコア試料による相違 本研究では、主にドリル削孔粉により、調 査を進めている。そこで、2箇所については、
ドリル削孔粉とコアを試料の比較を行った。
図-2は、 W19B及びE10Cにおいて、ドリル削 孔粉による塩化物イオン量分布とコア試料 による塩化物イオン分布を比較したもので ある。塩化物イオン量が小さいE10では、そ
の両者が極めて近いことがわかるが、 W19B では、傾向は似ているもののドリル削孔粉の 塩化物イオン量は小さい結果となった。図 -3 は、この結果をもとに両者の相関をとったも のであるが、ドリル削孔粉で得られる塩化物
0~15 15~30 30~45 15~60 60~90 E10C 1.0 10.0 61.8 1.57 0.47 0.46 0.54 0.52 0.48
E15B 1.0 - 22.6 - 2.51 3.93 2.95 4.31 3.33
E19C 1.0 - 62.1 - 1.90 1.35 1.63 2.96 5.40
E19B 1.0 - 56.8 - 3.69 1.77 2.42 2.00 2.76
W19C 1.0 - 55.1 - 0.86 0.67 1.91 3.32 1.51
W19B 1.0 5.0 43.1 2.23 0.51 2.00 1.54 1.28 0.66 W14B-1 1.0 4.2 24.6 0.95 1.38 1.01 1.27 0.73 0.47 W14B-2 5.3 3.0 40.9 1.02 0.26 0.35 0.59 0.56 0.29 W14B-3 14.2 1.5 33.6 0.26 0.28 0.67 0.46 0.77 0.51 W14B-4 22.9 2.0 83.2 0.12 0.69 0.84 0.17 0.23 0.27 W14B-5 31.8 7.0 48.6 2.23 2.23 0.91 1.23 1.76 3.00
※コンクリート部分
採取位置 モルタル
厚さ
(mm)
中性化 深さ※
(mm)
高さ
(m)
全塩化物イオン量(kg/m3) コンクリート表面からの距離(mm)
モルタル
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0
0 50 100 150 200 250 300
全 塩 化 物 イ オ ン 量 (k g/ m 3 )
コンクリート表面からの距離(mm) W19B(コア)
W19B(ドリル採削孔粉)
E10C(コア)
E10C(ドリル削孔粉)
全塩化物イオン量(kg/m3)
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
ドリル採取試験体全塩化物イオン量(kg/m3)
コア採取試験体全塩化物イオン量(kg/m3)
y=0.68x
R=0.86
W19B(0-15)
W19B(15-30)
W19B(30-45)
W19B(45-60)
W19B(60-90)
E10C(0-15)
E10C(15-30)
E10C(30-45)
E10C(45-60)
E10C(60-90)
ド リ ル 削 孔 粉 塩 化 物 イ オ ン 量 ( k g / m
3)
コア試料塩化物イオン量(kg/m
3) 表-1 採取した削孔粉の概要と塩化物イオン量
図-2 ドリル削孔及びコア試料の塩化物イオン分布
図-3 コアとドリル削孔粉との対応
W19B(0-15)
W19B(15-30)
W19B(30-45)
W19B(45-60)
W19B(60-90)
E10C(0-15)
E10C(15-30)
E10C(30-45)
E10C(45-60)
E10C(60-90)
全 塩 化 物 イ オ ン 量 ( kg / m 3 )
全塩化物イオン量(kg/m3)イオン量はコアによる場合に対し0.68倍程 度であった。文献4)では、ドリル削孔粉はド リルの刃が骨材から逃げるため、セメントペ ーストがより多く含まれることからドリル 削孔粉による塩化物イオン量はコアに比し 大きくなる傾向にあるとしているが、今回の 結果は、逆の結果となっているが、その理由 は定かでなく、更に検証を要する。
3.2 塩化物イオン量の平面上の分布 図-4は、地上1mの塩化物イオン量を示して いる。飛行船の内側であるE10Cは、塩化物イ オン量が平均0.49kg/m
3でほぼ一定であるが、
他の地点の多くのデータは、塩化物 イオン量の腐食限界量と言われてい る1.2kg/m
3をはるかに超えている。
飛行船格納庫の南側正面よりも東側 バットレス南面の塩化物イオン量は 大きく、西側バットレス南面の塩化 物イオン量は小さい。これは、格納 庫東側には障害物なく海岸からの風 が抜け易い一方、西側は2007年まで の長い間(いつからなのかは不明)、
高さ5~6mの木・雑草が生い茂り風通りのな い場所であった(写真-2 a)参照)ことが影 響しているものと思える。
なお、多くの地点の塩化物イオン量分布は、
深さ方向に統一した傾向が見られず、歪んで いるが、これは中性化が深い層まで及んでお りフリーデル氏塩の分解が起こることと塩 分の浸透、塩分の流出が同時に複雑に起きて いるからと考えられる。図-5により、中性化 によるフリーデル氏塩の分解に伴う塩化物 イオン固定化率の低下及び中性化領域の少 し内側における塩化物イオンの濃縮現象を 確認できる。
3.3 塩化物イオン量の高さ方向の分布 図-6、図-7は、図-1上の西側バットレス W14Bについて、塩化物イオン量の高さ方
向の分布を示したものである。最も高い位置 W14B-5の測定値は、他に比し最も高い値を 示し、地上1mW14-1の値が次に高く、 W14-2、
0 1 2 3 4 5 6
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
全 塩 化 物 イ オ ン 量 ( kg / m 3 )
コンクリート表面からの距離(mm)
測定 範囲
測定 範囲
測定 範囲
測定 範囲
測定 範囲
E19C
W19B W19C E19B
E10C
E15B
W14B
全塩化物イオン量(kg/m3)0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 南側表面からの深さ(mm)
塩化物イオン量(kg/m3 )
0 25 50 75 100
固定化率(%)
全塩分 温水抽出塩分 固定化率
中性化領域 中性化領域
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
全 塩 化 物 イ オ ン 量 ( kg / m 3 )
コンクリート表面からの距離(mm)
測定 範囲
測定 範囲
測定 範囲
測定 範囲
測定 範囲 W14B-1(1.0m)
W14B-2(5.3m) W14B-3(14.2m) W14B-4(22.9m) W14B-5(31.8m)
全塩化物イオン量(kg/m3)
図-4 塩化物イオン分布の平面上の相違(地上1m)
図-5 塩化物イオン分布(W19Bコア試料)
図-6 塩化物イオン分布の高さ方向の相違(W14B)
全 塩 化 物 イ オ ン 量 ( kg / m 3 )
全塩化物イオン量(kg/m3)W14-3、W14-4の値は概ね低い値で推移して いる。3.2で検討したように、地上1mにおけ る値としてW14-1は小さい方であったこと を考えると、現地の状況を鑑みて、次のよう に推論する。格納庫西側周辺は海を望む方向 に、W14B-4の高さ程度の樹木が立ち並びで いる。従って、W14-1、W14-2、W14-3、
W14-4の位置では、W14B-5程、飛来塩分が 多くはなかったと推定される。更に、分布が 歪になったのは、3.2と同様、中性化の進行 に伴うフリーデル氏塩の分解に起因した一 連の現象と考える。
4.まとめ
建築後約90年を経過したRC造飛行船格納 庫の塩化物イオンの分布について、以下のこ とが明らかとなった。
(1)今回の調査では、ドリル削孔粉で得られ る塩化物イオン量は、コアによる場合に対 し0.68倍程度であった。
(2)塩化物イオン量は、屋外か屋内か、海と の位置関係、周辺の樹木、風の流れ方等に より影響を受ける。
(3)対象コンクリートは、中性化が深い層ま で及んでおり、フリーデル氏塩の分解、塩 分の浸透、塩分の流出が同時に複雑に起き ており、多くの箇所で塩化物イオン量分布 は、深さ方向に統一した傾向が見られず、
歪んだ結果となった。
(4)本調査では、最も高い位置において、塩 化物イオン量が高かったが、高さ方向の相 違は、海を望む方向に立ち並ぶ樹木等の影 響とともに考えることが妥当である。
謝辞
飛行船格納庫の調査の実施にあたっては,
アウグスタ市,AMATA ALBERTO氏および補強 工事関係者の協力を得ました。ここに厚く御
礼申し上げます。なお本研究は,平成18年~
平成20年度文部科学省科研費補助金基盤研 究(A)「イタリアにおける歴史的な組積造建 築とRC建築の構造・材料と修復に関する調 査」(課題番号:18254004)の助成により進 められた研究成果の一部である。
参考文献
1)青木孝義,濱崎仁,込山貴仁,湯浅昇,谷 川恭雄:アウグスタの飛行船格納庫の劣化 現況調査,日本建築学会技術報告集,
Vol.23,pp.53-58,2006.6
2) 青木孝義、谷川恭雄、湯浅昇、濱崎仁:
イタリアRC造飛行船格納庫における劣化 現況調査、日本建築学会大会学術講演梗概 集、pp.247-252、2007年
3) T. Marcon : Quarant’anni due idroscali – Augusta, Siracusa e l’aviazione, Ediprint, Siracusa, 1992
4)湯浅昇、笠井芳夫、松井勇:ドリル削孔粉 を用いたコンクリート中の塩化物イオン 量の現場試験方法の提案、日本コンクリ-
ト工学協会、コンクリ-ト工学年次論文報 告集、第21巻、第2号、pp.1303-1308、平 成11年7月
0 5 10 15 20 25 30 35
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
地 面 か ら の 高 さ ( m )
全塩化物イオン量(kg/m3)
W14B-1 W14B-2 W14B-4 W14B-5
W14B-3 0~15
15~30 30~45 45~60 60~90
全塩化物イオン量(kg/m3)