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一つの言葉によって私たちの視点が被っていることとは

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Academic year: 2021

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一つの言葉によって私たちの視点が被っていることとは いかなることか

槇野 沙央理(Saori MAKINO)

千葉大学大学院人文社会科学研究科

日常的な言葉使いにおいて、ある著者によって作られたひとまとまりの物語、特に史 実を元にすることとは異なる手法で制作された物語は、フィクションと呼ばれる。その フィクションと呼ばれる物語には、人が何をもってある事柄が成立しているとみなすか を考えるヒントが豊富に詰まっている。

人が何をもってある事柄が成立しているとみなすかという問題を、フィクションを通 じて考えるために、ここで「世界観」という言葉を導入することにしよう。ここでは「世 界観」という言葉を、何がリアルであるか、何がリアルなことであるかの設定のことだ と定義しよう。何がリアルなことであるかの設定とは、言い換えれば、私たちが何を確 かだと考えるか、何をもってしてある事柄を知っていると考えるかにまつわる、私たち の信念体系のようなものである。例えば、私たちがある人について痛みをもっていると みなすとき、私たちがその人のどこに(顔の表情・声のトーン)・どのように着目する か(特定の顔の表情や声のトーンがどんな環境において立ち現れているか)を考えるこ とによって、私たちの他人の痛みにまつわる信念体系があぶり出されるだろう。

何がリアルなことであるかの設定を「世界観」と呼ぶとき、世界観を構築するという ことは、人が、何がリアルなことであるかについて、自由に構想することができるとい うことを意味するのではないだろうか。つまり、人は何をもってリアルとするかを、創 造することができるのではないだろうか。このように宣言したい理由は、もしある人が 何をもってリアルとするかを創造する際に用いる材料が、その人がこれまでの学習を通 じて獲得したものであるとしても、何をもってリアルとするかについてその人が最初に 決めた方向性こそが、その人が何を前提し・どんな諸規則を利用するかの「環境」を作 ると考えられるからである。何をもってリアルとするかについてその人が最初に決めた 方向性を、ここでは「視点」と呼ぶことにしよう。

以上のように「フィクション」という語に対する本稿の態度を示した上で、本稿の目 的を述べるならば、「視点」の動きに着目することによって、世界観の構築、すなわち 何がリアルなことであるかについて構想することがスムーズにできるようになる、とい うことを訴えることにある。視点の動きに着目するとは、ある一つの言葉によって言葉 の受け手の視点が被っていることとはいかなることであり、そのことを言葉の受け手が どのように積極的に受け止め、言葉の受け手自身の視点の変更、言葉の受け手から言葉 に対する働きかけへの移行等、一つの言葉とそれを受け入れる視点(もしくは働きかけ る視点)の関係する内容について考察することである。

本稿の目的を達成するために、晩期ウィトゲンシュタインの遺稿における「として見 る(sehen als)」という表現に着目する。というのも、「として見る」という表現を用い

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ることが、一人称の働きを見えやすくするだろうと期待できるからである。

以上の試みにより、本稿はフィクションを母体とする哲学に少しでも寄与することが できればと考えている。フィクショナルな場面で言葉を考察することで、私たちが何を リアルだとみなしているかを考えるだけではなく、特に視点の動きに着目することで、

あることが成立しているということについて人が自身の方向性に応じた分節化を行っ ているということ、それどころか人は自身の方向性に応じて諸規則を採用しあることが 成立しているとみなしているのだ、ということを示したい。

参考文献

Wittgenstein, L., 2009, Philosophical Investigations, 4th edition, P.M.S. Hacker and Joachim Schulte (eds. and trans.), Oxford: Wiley-Blackwell.

参照

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