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総 説 新潟リハビリテーション大学連携講座 健康講座「生活習慣病を学ぶ」

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Academic year: 2021

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(1)

― 3 ― 20世紀後半でわが国の平均寿命は世界で一,二を争 うまでになり,21世紀の現在では“寝たきり”になら ないで,かつ“呆け”ないで寿命を全うすることが課 題として求められている.健康・長寿を全うするには どうしたらよいか,医療に携わってきた立場から考 え,特に「運動習慣」の効果の理論的根拠を述べて,

この講座の序論としての責を果たしたい.

1 .ヒトの寿命の歴史的変遷

医学史研究家の酒井シヅ博士によれば

1 )

,この国で 平均寿命の統計をとり始めたのが明治になってからの ことであり,明治24(1891)年の平均寿命(正確に言 えば 0 歳児の平均余命)は男42歳,女44歳であった.

大正時代もほぼ同じ寿命で推移したが,昭和10(1935)

年には乳幼児の死亡が減少し,47〜50歳近くまで延長

Corresponding author:

新潟リハビリテーション大学

〒958-0053 新潟県村上市上の山 2 -16 Tel:0254-56-8292

Fax:0254-56-8291 E-mail:[email protected]

総 説

新潟リハビリテーション大学連携講座 健康講座「生活習慣病を学ぶ」

生活習慣と健康

大 澤 源 吾

新潟リハビリテーション大学

キーワード:平均寿命の推移,食習慣,運動習慣,内蔵肥満,脂肪細胞分泌物,筋肉細胞分泌物

要旨 第二次世界大戦の終戦を境にして日本人の平均寿命は急速に伸び,先進欧米諸国の仲間入りしたと

思ったら,今や世界一の長寿国と言われるようになった.その背景には医療や生活環境の改善の他に,“ 移

民 ” したことにも匹敵する食生活の欧米化が関わっている如く見える.確かに一部疾病罹患傾向が欧米化し

ているが,脳や心臓の血管疾患の増加は食事の欧米化だけによる現象ではなさそうである.メタボとよばれ

る肥満症の際限のない普及は実は “ 車社会 ” という便利さと引き換えに糖尿病・高血圧・高脂血症をヒトに

もたらし,動脈硬化症を促進することが明らかになったのである.メタボの脂肪細胞からはこうした病気を

おこす物質が分泌され,運動をするとこうした脂肪細胞の悪い作用を減らしてくれる分泌物が筋肉細胞から

出ることが分かってきた.運動習慣の持続が健康長寿をもたらすという証拠を識って,生活習慣を切り換

え,世界一の長寿を満喫して欲しい.

(2)

― 4 ―

大澤源吾

した.第二次大戦の終戦を境いにし,昭和22(1947)

年の平均寿命は男50歳,女54歳,昭和46(1971)年に は男70歳,女75.4歳となり,昭和60(1985)年には遂 に男75歳,女80歳と世界一の長寿国にのし上がり,平 成21(2009)年には男79.59歳,女86.44歳と長寿を謳 歌している

2 )

江戸時代,あるいはそれ以前の全国的なヒトの平均 寿命は勿論不明であるが,限定的な特殊地域に残され た記録によれば,例えば飛騨高山地方のお寺の過去帳 では徳川時代末期100年間の平均寿命が男27.8歳,女 28.6歳とされている

1 )

し,信州諏訪地方の宗門改め人 別帳の調査では徳川時代中期前半50年の平均的寿命が 男36.8歳,女29歳であり,引き続き徳川時代中期後半 50年のそれが男43歳,女44歳であったという

1 )

.つま り,極端に短命の時代もあれば,明治時代に近い数値 も混在している.この平均値での短命さは乳幼児の死 亡率が著しく高かったことによるものらしく,“痘瘡

(天然痘)”や“はしか”などの“流行り病い”による らしい

1 )

だから400年以上も前に信長が「人間五十年…」と 謠っていたように,乳幼児期の壁を通り抜けた“おと な”のもっていた寿命感覚はもっと違っていたと思わ れるし,事実,病気や災害を躱しながら長寿を全うし た人も決して稀ではなく,例えば「養生訓」の貝原益 軒も,「解体新書」の杉田玄白もともに85歳の長寿を 活躍しながら通り抜けた代表達であった.歴史上の人 物では,藤原道長61歳,平清盛63歳,豊臣秀吉62歳,

徳川家康74歳,松尾芭蕉50歳,伊能忠敬73歳などの記 録が残されている.

すなわち,ヒトの“平均”寿命の延長は19世紀後半 に始まった感染症への注目と,20世紀に入ってからの 抗生剤の発見や環境対策の進歩によってもたらされた ものであって,欧米先進諸国にも共通してみられた現 象であり,決してわが国のみの特異現象ではないので ある.

2 .戦後の日本人の病気の変遷

古くから「医食同源」という言葉が中国から伝えら れている.日本列島の中で米と野菜,魚を中心として 自給自足で作り上げられてきた“和食”に対して,麦 と牧畜に依存した欧米人の“洋食”がそれぞれの人種 の活動様式や健康に影響したのであろうことは,欧米 人との体格の違いからも想像に難くない.昔から長寿 者の多かった沖縄の人達で明治以降にハワイやブラジ ルに移住した人達を WHO との共同で追跡調査した

研究で,食生活を中心とした生活変化が疾病や寿命に 影響を及ぼすことが明らかにされた

3 )

のである.

そして,“移民”に匹敵する食生活の変化が20世紀 の半ばにこの国におこったのである.学校給食に対す る米軍援助粉乳に端を発した欧米食嗜好化の浸透であ る.20世紀後半には,高齢者人口の増加と相俟って,

疾病の欧米化傾向がうかがわれるようになったのであ る.結核や梅毒の減少は抗菌剤によるところが大きい と推定されるが,それに替わって糖尿病と共に,脳梗 塞や心筋梗塞が目立つようになったのである.がんも 胃がんに替わって大腸がんや前立腺がん,乳がん,肺 がんの割合が多くなってきたことが特徴であろう.戦 前から日本一の長寿県を誇っていた沖縄が近年,その 地位を長野に譲るようになったのもその表現かも知れ ない.

3 .メタボへの注目

こうして食習慣の欧米嗜好化に伴って働き盛りの壮 年期のヒトを殪す脳卒中や心臓疾患が成人病としてわ が国でも注目されるようになった.これらの疾病は何 れもからだの中の動脈硬化病変が基盤になっておこる ものであるから,はじめは洋食に潜む脂肪成分の摂り 過ぎが戒められたが,効果はなかなか挙がらず,その 上美食,過食が加わってさらに全身の動脈硬化を容易 におこしやすい糖尿病患者の増加が顕著になり出した のである.

こうした医学的現象は欧米先進諸国にも同時的にお こっており,1980年代の終わり頃に相前後して日本を はじめ先進欧米各国から警鐘が発せられるようになっ たのである

4 )

.それは,下っ腹の膨れた中年太りの体 型(医学的には内臓肥満という)に伴って高血圧,高 脂血症や軽い糖尿病状態が出現し,無症状のままで長 年月経過しているうちに全身の血管に動脈硬化性変化 が進んで,脳梗塞や心筋梗塞などで突然殪れるという 極めて危険性の高い状態なので,メタボリックシンド ローム(メタボ)と呼ばれた.このメタボの原因とし て,欧米食による過剰な栄養摂取に加えて,特に世界 的に普及した自家用車保有台数の増加からうかがわれ る生活習慣の変化が考えられるに至った

5 )

.つまり,

車社会がもたらした“便利さ”の代償としての“運動 不足による栄養消費量の減少”が浮かび上がってきた 訳である.

栄養素としてヒトが食べる糖質は消化管から吸収さ

れると,代謝されて筋肉を動かしたり神経を働かせた

りするためのエネルギー源となる.余分な糖分はグリ

(3)

新潟リハビリテーション大学連携講座 健康講座「生活習慣病を学ぶ」 生活習慣と健康

― 5 ― コーゲンとして肝臓や筋肉に蓄えられ,空腹時に備え るが,過剰に摂取された糖分は中性脂肪に転換され る.栄養素として摂られた脂肪も,糖分が少ないとき にはエネルギー源として利用されるが,余分なものは やはり中性脂肪となって消化管周囲の脂肪細胞に蓄え られ,糖分が無くなったときとか饑餓時にエネルギー 源として再利用されるという仕組みになっている.

栄養素の過剰摂取が続くと血液中のコレステロール や中性脂肪が高濃度になると共に,消化管周囲の脂肪 細胞に中性脂肪が蓄積して脂肪細胞がどんどん膨れて 大きくなり,さらに脂肪成分が貯えられると遂に脂肪 細胞が分裂して増え,それがまた大きくなる.こうし て内臓脂肪の蓄積がおこって,おなかがとび出してく るのである.これを「内臓肥満」と呼んでいる

5 )

正常な脂肪細胞からはアディポネクチンというホル モン様物質が分泌され

6 ), 7 )

,このホルモンが血管壁 に働いて動脈硬化がおきないように作用しているのだ が,大型に太った脂肪細胞からはこのアディポネクチ ンの分泌が減ったり,無くなったりして動脈硬化がお きやすくなる上に,替わってインスリンの仕事を邪魔 するようなほかのホルモン物質を分泌したり,糖尿病 をおこしたり,さらにインスリン分泌亢進を介して高 血圧をおこすようになり,動脈硬化が進行する,とい う不都合な桟構(カラクリ)が回り出すのである.

4 .健康長寿と運動習慣

20世紀後半の医療を通して人類が得た教訓は,食事 習慣の洋の東西を問わず,それぞれの食事内容の特徴 を理解しつつ,その過剰摂取(何が適量であるかにつ いては稿を改めて解説することにしたい)を避けつつ も,便利さを求めて人類が失いかけている“運動習慣”

をとり戻すことがさらなる健康長寿にとって重要であ るということであろう.筋肉運動の重要さについて は,数ヶ月の宇宙遊泳から帰還した屈強な宇宙士です ら地上に戻ったときにはすぐに自力で起きあがれない 様子をみるだけで納得していただけるであろう.具体 的な運動療法については後日の各講師のお話におまか せすることにして,ここでは細胞におこる“カラクリ”

について若干述べるにとどめたい.

内臓脂肪(メタボ)のヒトのおなかの中の大きく膨 れ上がった脂肪細胞から動脈硬化をおこす作用のある ホルモン様物質が分泌されて,これが長年の間にこっ そりと悪さをしていることは既に述べた.

また,ヒトには代謝の活溌な褐色脂肪細胞と,代謝 の不活溌な白色脂肪細胞との 2 種類の脂肪細胞がある

ことが分かっている.赤ちゃんの時には代謝の活溌な 褐色脂肪細胞が多いので栄養消費代謝が活溌で多量の 熱を発生し,筋肉の成長につながるのだが,成人以降 は代謝の不活溌な白色脂肪細胞が多くなってしまい,

エネルギー生産量が低下し,遂には寒がりの老人に なってしまうことはよく知られている.

さて,骨格筋細胞も運動によって収縮するとホルモ ン様物質(イリシン:Irisin と呼ぶ)を分泌し,周り の脂肪細胞に働いてエネルギー消費を増加させ,脂肪 細胞を正常の大きさに戻したり,インスリンが働きや すい状態に戻したりして,ひいてはアディポネクチン 分泌量を増加させて動脈硬化を抑える方向に向かうこ とが示唆されている.つまり,骨格筋の筋肉細胞が運 動によって収縮するとホルモン様物質のイリシンが分 泌されるので,運動の繰り返しや持続が脂肪細胞のエ ネルギー消費量を高めて肥満の解消と糖尿病改善につ ながり,ひいては動脈硬化の予防につながると考えら れている.そして,筋肉細胞への運動負荷が,イリシ ン物質を介して,成人の白色脂肪細胞の代謝を活溌に して赤ちゃんの持つ褐色脂肪細胞様に変化させる可能 性が示唆されている

8 )

5 .百寿者の生活習慣から学ぶこと

メタボの有無を簡単に知る手掛かりとして,臍の高 さで腹囲を測り,男性85cm 以上,女性90cm 以上の 場合には要注意なので,医療機関で血圧や空腹時血糖 値,血清の脂肪成分(中性脂肪やコレステロール値)

を検査してもらって判断するとよい.

あるいは,身長(メートル単位:m)と体重(キロ グラム:kg)から,体重 kg/ 身長(m)

として割り出 した体格指数(BMI)を求めて,成人では22前後が正 常,18以下が“やせ過ぎ”,25以上がメタボと判断す る方法も簡便である.

健康・体力づくり事業財団が35年以上も前から,こ の国の成人の健康状態とそのライフスタイルを追跡調 査している結果

9 ),10)

によると,総じて百歳まで元気 に過ごす人達(百寿者)は,①ご両親が長寿である,

②高齢期にも身体活動を続けている,③ 1 日 3 回の規 則正しい食事で,腹八分目に控え,緑黄色野菜の摂取 を心掛け,果物をとり,魚・肉・卵・大豆製品など内 容に偏りが少ない,④睡眠時間が 8 〜11時間と長い,

⑤ BMI では少しやせ気味である,⑥持病が少ない,

などの特徴があるという.①や⑥のあたりは体質ない

し遺伝性をも示唆するかも知れないが,②,③,⑤に

ついては本日お話申し上げた内容に合致するような気

(4)

― 6 ―

大澤源吾

がする.

“呆け”つまり“認知症”の予防や治療と生活習慣 や食習慣との関係も追究されているが,詳細は次の機 会に譲りたい.

文献

1 )酒井シヅ:病が語る日本史,講談社,2002.

2 ) 厚 生 統 計 協 会: 国 民 衛 生 の 動 向,2010/2011,57(9),

2010.

3 )家森幸男:日本の伝統食と世界の健康,岡本・井村編,全 人間的医学へ,岩波書店,2004,p.28

4 )松澤佑次:メタボリックシンドロームの概説,呼と循,55

(9):949-954,2007.

5 )日本医師会:メタボリックシンドローム,日本医師会雑誌,

136(特別号):2007.

6 )門脇 孝:メタボリックシンドロームとアディポネクチン,

Medical Practice,24(2):372-375,2007.

7 )前田和久,下村伊一郎:アディポサイトカインからみたメ タボリックシンドローム,呼と循,55(9):963-968,2007.

8 )山下敦史,亀井康富:骨格筋と脂肪組織にかかわる最近の 話題,ホルモン Irisin と白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞化,化 学と生物,53(1)5-6,2015.

9 )太田寿城,髙田和子:健康長寿と運動習慣,日医雑誌,

143(7):1534-1538,2014.

10)太田寿城,荻原隆二,増田和或,髙田和子:百寿者の遺伝 的素因,ライフスタイルと健康状態,日医雑誌,143(6):

1236-1240,2014.

本稿は,平成26年12月 3 日に村上市生涯学習推進セ

ンターで行われた講座内容に加筆・修正を加えたもの

である.

参照

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