分枝過程モデルによる1/!分布数列の発生*
滋賀医科大学物理教室小林隆幸
(1989年5月 受付)
1/!雑音(!は周波数)に関する理論は多数発表されている(Pe11egrini(1980.1981.1982),
Ramme1et a1.(1985),Furukawa(1986),Geise1et al.(1988))が,その大部分は1/∫ス ペクトノレを十分に広い周波数帯域で再現できなかったり,余りにも技巧的であったりする.本 研究では,広い周波数帯域で1/!スペクトルを持った数列を発生することのできるモデルを提
唱する.
パワースペクトル密度(PSD)が1/∫ア(γ≧O)の形をしている場合,γが大きい程,事象間 の相関がいつまでも残る.相関のある事象を考える場合,原子炉中で連鎖区応によって生まれ る中性子,あるいは中性子検出器からの信号を考えると分かり易い.それぞれの中性子は独立 ではたく,連鎖反応を通じて他の中性子と相関を持っているので,中性子の数や検出器からの 信号の分布もポアソン分布をしてはいたいが,これらの分布に関する統計は分枝過程モデルに よってよく記述できることが分かっている(Kobayashi(1968)).そこで,分枝過程モデルを使っ て互いに相関のある事象を多数発生させ,これから得られる数列のスペクトルを計算してみる.
いま,粒子が吸収されてたくたったり,分枝を起こして増えるような体系を考える.体系中 にランダムに粒子を放出する源がある時,時刻広=Oに々個の粒子があったとして,時刻C>Oに
m個の粒子が存在する確率P。(m,云)は,Kobayashi(1988)より n
(1) P尾(m,≠)=ΣK差n一七)・QS{)
{=O
となる.ここで,K三η■{)および研〕はそれぞれ,時刻才=0に体系中に存在している尾個の粒子,
および(0,左)問に粒子源から放出される粒子の寄与を示していて,
η一{
(2) K三η一{〕=Σ力(Z,左)・K㌫H〕
工=o
(2・) が.{〕=δ。,、.、
である.(2)式において力(Z,彦)は,時刻左=Oに1個の粒子があったとして,時刻左>OにZ個 の粒子が存在する確率である.力(Z,左)と(1)式の研〕は,粒子が2個に分枝する過程(binary branching)の場合には厳密に計算でき,β=λ。/λ椛≠1(λ。,λmはそれぞれ吸収および分枝の割 合)の時は
(3)
州∵∴三三、ニニ…二,二 (Z=O)
(Z≧1)
ま本稿は,統計数理研究所共同研究(63一共会一51)における発表に基づくものである。
100
(4)
統計数理 第37巻 第1号 1989
中㍗二∵
(ク=0)(ク≧1)
とたる.ここで,∫はランダムに粒子を放出する粒子源の強度で,α=λ、一λmである.一方,β
=1の時は,
(3 )
(4 )
■1二、ド
(Z=0)(Z≧1)
(タ=O)
(グ≧1)
である.
モンテカルロ法を使い,(1)式から体系中に存在する粒子数を次々と計算して時系列を発生さ せた.この時,一番初めに体系中に存在する粒子数(M。)を10に固定した.また,粒子数を有 限の値に保つためにβ>1ではS=αN。とし,β=1ではS=Oとした.β=1の時,∫>0とす ると,粒子数の平均値は時間と共に増大する.粒子数の時系列のPSDを図1および2に示す.
図の中で増殖率μはβの逆数を表している.図から分かるように,μ=1の時はPSDは1/!2の 分布をする.μ<1の時は,高周波領域では1/!2の変化をするが,周波数が小さくなると一定 値に近づく.これは時問的に離れた粒子間の相関が,μ<1の場合には非常に弱いからである.
上に示すように,分枝過程が起こっている体系中での粒子数の時系列は1/!2分布をし,1/!
分布とはたらない.これは,粒子数の時系列では事象間の相関が強いからである.それに対し て個々の事象が起こる時間問隔(例えば,粒子検出の時間間隔)にはそれほど強い相関がたい であろうと予想される.この場合,個々の事象は物理的な時間間隔とは異なった連鎖に添うパ スを通じて相関を持っているから,時間間隔が短い事象が,長いものと比べて必ずしも強い相 関を持っているとは限らたい.そこで次に,体系中に粒子の検出器があると考え,粒子検出と いう事象の時間問隔を計算する.
時刻広=0に后個の粒子があり,(0,広)間にm個の粒子が検出され,時刻広>Oにm個の粒 子が存在する確率P尾(m;m,広)の一般的な形を示すのは困難であるが,m=0の場合には(1)式
と同様た形で表すことができ,
n
(5) P尾(O;・,広)=ΣKポ1{〕・鮒{〕
{=O
とたる(Kobayashi(1988)).ここで,粒子が2個に分枝する過程を考え,検出器が吸収型のも のであるとすると
10o
10−1
ト10−2 壱
8冒
10−3
む 幸
◎
〜 10−4
津
{
産10−5
10−6
10 7
\
\
\x・
\㌦
\拠
100 Mu1tiplication:1.00
λ刑f:0.01000 Efficiency:0.000
\
\㌦
\洩
\
\一
\ .
\ 一
\・
\ ・
100 101 102 103
Frequency
μ:1,λ伽オ=0.01の場合における存在する
粒子数からたる時系列のPSD.点線は
1/!2分布を表す.
10−1
> 窒
810 2
む 幸
ε 実10−3
{ 冗 串
10■4
図1.
Mu1tiP1ication:O.90 0.000
へ
\ ㍗
10o 101 102 103
Frequency
図2.μ=O.9,α才=0.01の場合における存在す る粒子数からなる時系列のPSD.点線は 1/!2分布を表す、
(6)
一1㌃1∵与
z
(ゴ=0)
(ク≧1)
1−e■θf γ= η一ζe■θ±
であり,θ,η,ζは
θ一
タ竺1紙
1
η=噤iβ十1+(β一1)2+4βε)
1ζ=T(β十1■(β一1)2+4βε)
(ε=λ。/λ。)
である.上の式で,んは粒子が検出される割合を示す.β=1ならば,これらは
θ=2〉τ(λm), η=1+κ, ζ=1一〉τ
となる.一方,(5)式のK三〇・ 一{〕は
102 統計数理 第37巻 第1号 1989
(7) K㌘・・一1〕一三{力(0;/,左)・雄、・一1−1)
王=O
(7 ) Klo・n一{〕=δ。,、.、
と表される.ここで,力(O;Z,C)は,時刻C=Oに1個の粒子があったとして(0,左)問に粒子が 検出されず,時刻広>OにZ個の粒子が存在する確率で,
一イ十∴ハlllll
によって与えられる.P尾(0;m,才)が1に非常に近い場合には,(1)式,(5)式から (8) P尾(1;m,左)≒P庇(m,才)一p冶(0;m,オ)
と近似することができる.m≠0,1の時はPゐ(m;m,≠)〜0としてよい.
(1),(5),(8)式から次々と続いた微少た時間間隔での粒子検出の有無を計算し,これより粒 子検出の間隔からたる数列を作った.その際,粒子源の強さ∫の扱いは前の計算と同じにした.
石
ヒ 占8
盲 き
O
Co岬t
(a)
』
①
ρ……
zコ
些
.2
t釣
{
Time (b)
図3。μ=1,λ伽彦=O.0015,ε:1の場合における粒子検出の間隔からなる数列(a),
および図1と同じ条件での時系列(b)、
10o
10−1
メ ω仁
ρ①
①10−2
> 勺 石 田
10−3
\
\鬼\㌔
\
100 Multip1ication:1,000
λ刑C:O.00150 E冊iciency:1.00000
\㌻乳
○も
も《。。㌦
oo 3 電
100
10−I
>、
ω
⊆
ρ①
①10−2
>
〜
冗 崖
10凹3
\
\ ■
\目 \ 〜
\ 目
・へ
Multiplication:1,000 λ冊f:O,00020 Efficiency:1.00000
\
\\o \ ・駕 貞
\塙。
へ、
\o06〈。 。。
oo榊ゴ。機 〜 ○も ○も。
図4.
10工 !02 103 100 10I l02 10・
Frequency Frequency
(a) . (b)
μ:!,λm左二〇.0015,ε:1の場合(a),およびμ=1,λ腕玄=0.0002,ε=1の場合(b)における
粒子検出の間隔からたる数列のPSD、×印で表した点は数列から計算したPSDで,◇印で 表した点はそれからホワイトノイズ成分を差し引いたものである.点線は1/!分布を表す.
10o
1011
.首 貿
8
』妻10■2
8
掌
{ 司 由!0一・
10 4
Multiplication:0.90 αC:O.00030
く㍉句胱iciency:1・000 ♂ \
\さ
\ \ 3 \ \も \0、
\鴛多撃
\○oo \00●
\●○㌔o。。ooo \呼θ。。
\o .o \。べ。
ンい。。
、o o3 〃。
10o
10o
10■I
メ ω
⊆
ρ① お
実10 2
{0
①
>
∫ 由①
10■3
10 4
Multiplication:1.00 λ㎜C:O.00300
\ ■ Efficiency:O.500 \\㌔
\
\δ
\ x
\箪ゴ 曳 o
o o o o o
.y
図5.
101 102 100 100 10− 102 103
Frequency Frequency
(a) (b)
μ=O.9,α乏=O.OO03,ε=1の場合(a),およびμ=1,λ㎜彦=O,O03,ε=0.5の場合(b)におけ る粒子検出の間隔からたる数列のPSD.×印,◇印で表した点の意味は図4と同じである.
点線は1/!分布を表す.
104 統計数理 第37巻 第1号 1989
数列の一部が図3に粒子数の時系列と比較して示されている.前者は後者に比べてより間欠的 であることが分かる.粒子検出間隔からたる数列のPSDを図4に示す.・高周波領域でPSD は一定値(ホワイトノイズ)に近づく.そこで,PSDがほぼ一定にたっている部分のスペクト ル密度を平均し,元のPSDから差し引いたものも図に示してある.これから三桁以上の範囲に わたって1/ア分布をしているのが分かる.図5には,高周波領域では1/!のように振る舞う が,低周波領域では一定値に近づく場合の例が示してある.μ<1の場合,一定値に近づく理由 は粒子数の時系列の場合と同様であろうが,μ=1,ε<1の時にこの様だことが起こる理由は,
M。≠1であるために相関を持たない連鎖が体系中にいくつか存在し,これによって粒子検出 の間隔に相関を持たたいものが混ざってくるためであろうと思われる.ε=1の時には粒子が 吸収される事象をすべて見ているが,ε<1の時にはそれらの一部だけを見ているので,二つ の並んだ粒子検出事象が異なった連鎖に属することが多くなるのであろう.
上のシミュレーションでは,存在している多くの粒子の中から検出される粒子のみに注目す ることによって,1/!スペクトルを持った数列を発生することができた.この場合,吸収型の 検出器を考えたが,分枝を起こした時検出されるような式を組立て,上と同様の計算をしても 同じようた結果が得られるものと予想される.従って,1/!スペクトルを持つ現象は互いに相 関関係を持った多くの事象の中から特定の事象を一つ一つ観測した時に見られる,と一般化す
ることができるであろう.
参考文献
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Geise1,T.,Zacher1,A.and Radons,G.(1988).Chaotic d雌usion and1/プーnoise of particIes in two−
dimensional so1ids,Z P物∫.3,71,117−127.
Kobayashi,T.(196ε).Astudyonthezero−probabi1itymethod,∫Mmc乙∫cえTec乃.,5,145−152.
Kobayashi,T.(1988)。Branching processes in the presence of random immigration and representa−
tions for time series,∫P妙s.λ,21.3723−3737.
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Pe11egrini,B.(1981).One model of冊。ker,burst,and generation−recombination noises,P妙∫.Re仏B,
24,.7071−7083.
Pe11egrini,B。(1982).Diffusion,mobi1ity Huctuations,and is1and models of拙。ker noise,肋侭沢e肌B,
26.1791−1797.
Ramme1,R.,Thannous,C.,Breston,P,and Tremblay,A.一M.S.(1985).Flicker(1/ア)noise in perco1a−
tionnetworks:Anewhierarchyofexponents,P物∫.Reo.工e材.,54.1718−1721.
Time Series with a1/!Distribution Generated by Using the Branching Process Mode1
Takayuki Kobayashi
(Department of Physics,Shiga University of Medica1Science)
The branching process mode1was app1ied to generate the time series for number of partic1es existing in a system and for counts recorded by a detector p1aces in the system.
The power spectra1density of the time series for particle number is characteristic of a1/∫2 distribution,whi1e the series made by time interva1s between the adjacent counts has a1/!
spectrum in a wide range of frequency.
Key words: Time series,1/!distribution,branching process.