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Research Report Research Report ロシアの WTO 加盟後 5 年間の総括 みずほ総合研究所 調査本部欧米調査部上席主任エコノミスト金野雄五 はじめに 2012 年 8 月 22 日にロシアがWTO( 世界貿易機関 ) に加盟してから5 年が経過したことを受け 本稿では

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はじめに

2012年8月22日にロシアがWTO(世界貿易 機関)に加盟してから5年が経過したことを受 け、本稿では、ロシアのWTO加盟後5年間の総 括を行う。まず、加盟交渉において主要な争点 となった問題を中心に、ロシアの加盟時の約束 と、その加盟後の履行状況を概観する(第1節)。 次に、ロシア政府がWTOに加盟することで得 られると期待していたメリットと、その実現状 況について検討する(第2節)。そして最後に、 ロシア政府が近年取り組みを強めている産業 政策とWTO協定との関係性について、簡単な 考察を行う(第3節)。 結論を先取りして言えば、第1に、ロシアの WTO加盟後5年間において、部分的な約束違 反は生じているものの、全体として見れば加盟 時の約束は概ね履行されていると見なされる。 第2に、WTOに加盟することで得られると期 待されていたメリットは、アンチダンピング措 置と対内直接投資について見る限り、ロシアは 享受できているとは言い難い。第3に、ロシア 政府が取り組みを強めている産業政策は、これ までのところWTO協定違反とはならない範囲 に留まっているとみられる。

1.WTO加盟条件とその履行状況

ロシア政府はWTO加盟に際して、輸入関税 率の引き下げをはじめとする様々な約束を行 っている。以下では、ロシアの輸入関税率の引 き下げに関する約束に加え、加盟交渉において 重要な争点となった天然ガスの内外価格差、農 業分野、工業アセンブリ措置に関するロシア政 府の約束と、それらの履行状況を概観する1) (1)輸入関税率の引き下げ ロシアは、WTO加盟後に他の全ての加盟国 からの輸入に対して適用することができる輸 入関税率(MFN税率)の上限(譲許税率)を、 全品目(HS10桁分類で合計11,557品目)に関し て約束している(WTO, 2016)。新規加盟国の場 合、最終的な譲許税率(最終譲許税率)を達成 するまでに数年間の移行期間が設けられるこ とが多く、ロシアの場合も、加盟後即座に譲許 税率の達成を義務付けられた品目数は全体の 約4割に過ぎない。その他の品目については、 最終譲許税率の達成までに最大で8年間の移 行期間が設けられた(図表1)。 ロシアで実際に適用されてきたMFN税率と 最終譲許税率について、22の生産物グループ別 の平均税率と全品目の平均税率をまとめたも のが図表2である。全品目のMFN税率平均は、

ロシアのWTO加盟後5年間の総括

みずほ総合研究所㈱ 調査本部 欧米調査部 上席主任エコノミスト 金野 雄五 ■ Research Report ■

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図表1 ロシアの最終譲許税率の達成スケジュール 最終譲許税率 の達成品目数 (件) 全品目数に 占める割合 (%) 2012年 4,529 39.2 2013年 5,030 43.5 2014年 6,344 54.9 2015年 9,339 80.8 2016年 10,737 92.9 2017年 11,409 98.7 2018年 11,486 99.4 2019年 11,533 99.8 2020年 11,557 100.0 (出所)WTO (2016, p. 45) より、みずほ総合研究所作成。 図表2 生産物グループ別のMFN税率と最終譲許税率 (単位:%) MFN税率 最終譲許 税率 2011年 2012年 2016年 全品目 9.4 10.0 7.1 7.6 農産物 14.3 13.3 11.0 11.0 畜産物 24.7 23.7 23.7 23.0 乳製品 17.7 18.4 15.2 15.1 果物・野菜・植物 11.0 11.7 8.2 8.4 コーヒー・茶 7.7 9.1 5.9 6.3 穀類 18.7 12.9 9.7 10.1 脂肪種子・油 8.7 8.5 6.7 7.1 砂糖・糖菓 13.3 12.9 10.4 11.1 飲料・タバコ 35.2 29.2 22.8 22.5 綿 0.0 0.0 0.0 0.0 その他農産物 5.8 5.6 4.9 5.3 非農産物 8.7 9.4 6.5 7.1 水産物・同加工品 12.3 12.4 7.6 7.6 鉱物・金属 9.8 9.9 7.8 8.0 石油 4.4 4.5 4.4 5.0 化学 6.3 6.4 5.0 5.2 木材・紙 12.8 12.8 8.7 8.0 繊維 10.7 10.9 8.0 7.7 衣類 13.2 19.6 7.5 8.6 皮革・靴 7.6 10.3 6.2 6.2 機械 3.4 3.4 2.8 5.8 電機 7.3 7.3 4.6 6.2 輸送機器 10.4 10.8 7.5 8.9 その他製造業品 9.9 11.4 8.1 8.4 (出所)WTO (2012, 2013, 2017) より、みずほ総合研究所作成。 WTO加盟年(2012年)に10.0%と、前年の9.4% からわずかに引き上げられたものの、その後は 引き下げられ、2016年のMFN税率平均(7.1%) は最終譲許税率平均(7.6%)を下回っている。 また、生産物グループ別にみると、5つのグル ープ(畜産物、乳製品、飲料・タバコ、木材・ 紙、繊維)を除く17のグループで、2016年の MFN税率平均が最終譲許税率平均を下回って

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おり、ロシアでは大半の品目に関して、最終譲 許税率の達成スケジュールを前倒しする形で MFN税率の引き下げが進められてきたことが 示されている。 ただし、個別品目でみると、いくつかの品目 に関して、最終譲許税率を上回るMFN税率が 適用されている可能性があることが指摘され ている(WTO, 2016, p. 48)。具体的には、プラ スチック製品、紙製品、冷蔵庫、乗用車車体の 計6品目2)に関して、2017年10月時点において、 譲許税率表に記載されているのと同じ従価税 によるMFN税率が適用されているものの、同 時に、譲許税率表には記載されていない従量税 が併記されているため、当該品目の価格と容量 によっては譲許税率を超えた関税が課されて いる可能性がある3) なお、日本からロシアへの主要な輸出品目で ある乗用新車(シリンダー容量1,500~1,800cc) について見ると、譲許税率を加盟時に25%(た だし、シリンダー容量1ccにつき1.25ユーロを 下回らないこと)とした上で、それを2016年: 同23%(同0.83ユーロ)、2017年:同20%(同0.42 ユーロ)、2018年:同17%と引き下げ、2019年 以降は同15%とすることが約束されており、実 際にもこれまでに3度、譲許税率に基づいた MFN税率の引き下げが行われたことが確認で きる4) 図表3 ロシアの天然ガス輸出価格と国内価格の推移 (ドル/1,000m3) (%) (注) 1. 天然ガス輸出価格はIMF公表のロシア産天然ガスのドイツ国境価格(年平均)。単位換算は1,000㎥=35.7 百万BTMUを使用。 2. 天然ガス国内価格は国内企業による購入者価格(Rosstat)。当該年の年末価格と前年末価格の平均(ル ーブル/1,000㎥)を公定為替レート(WDI)でドル換算。 (出所) IMF,Rosstat, WDI より、みずほ総合研究所作成。 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 天然ガス輸出価格 123 138 95 125 134 211 293 291 469 316 294 378 428 400 374 261 155 天然ガス国内価格 15 18 22 30 38 46 55 67 84 80 96 113 124 137 121 81 77 国内/輸出価格(右軸) 12 13 23 24 28 22 19 23 18 25 33 30 29 34 32 31 49 0 10 20 30 40 50 60 0 100 200 300 400 500 600

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図表4 ガスプロムの天然ガス国内販売価格の引き上げ率の推移 (前年比:%) (注) 1. ガスプロム国内販売価格は、ルーブル表示価格の引き上げ率。 2. 2003-07年のガスプロム国内販売価格は家計向けを含む。その他の期間は企業向けのみ。 3. 2017-19年はロシア政府による予測値。 (出所)ガスプロム国内販売価格はMineconによるロシア社会経済発展予測(各年版)、CPI上昇率はRosstatより、 みずほ総合研究所作成。 (2)天然ガスの内外価格差 ロシアのWTO加盟交渉において最大の争点 となったのは、天然ガスの内外価格差の問題で あった。 2000年代のロシアでは、ガソリンや重油など の石油製品については、国内価格(企業向け販 売価格)と輸出価格が概ね同水準で推移してい たのに対して、天然ガスについては、国内価格 が輸出価格を著しく下回る状態が続いていた (図表3)。天然ガスに関してこのように著し い内外価格差が生じていた直接的な原因は、そ の価格決定メカニズムの違いにある。すなわち、 ロシアの天然ガスの輸出契約価格は、石油製品 の過去6~9ヵ月間の国際市場価格に基づい て決定される一方、国内価格については、ロシ アの天然ガス生産量の大半を占める国営企業 ガスプロムによる販売価格が政府によって政 策的に決定され、しかも国内産業への配慮から 輸出価格よりも低く抑えられていた5)。その結 果、ロシアでは2000年代平均の天然ガス国内販 売価格が、輸出価格の4分の1以下に留まると いう、著しい内外価格差が生じたのである。 こうした天然ガスの内外価格差は、ロシアの WTO加盟交渉の過程で、特にEUと米国によっ て問題視されるところとなった。EUおよび米 国は、ロシアの天然ガスの国内価格が輸出価格 よりも著しく低く抑制されていることが、天然 ガスを主要な原材料とする一部の産業(金属、 農業化学など)の輸出競争力を不当に高めてい るとして、内外価格差の解消を求めたのである。 この問題については、2004年5月にロシア政府 がEUとの間で「ガスプロムによる天然ガスの 20.0 20.0 23.0 11.0 15.0 25.0 15.9 26.7 15.0 7.1 15.0 7.6 3.5 0.0 3.9 3.4 3.1 12.0 11.7 10.9 9.0 11.9 13.3 8.8 8.8 6.1 6.6 6.5 11.4 12.9 5.4 4.0 4.0 4.0 0 5 10 15 20 25 30 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 ガスプロム国内販売価格 CPI上昇率

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国内産業向け販売価格が、将来的にコストや利 益、新規ガス田開発のための投資資金をカバー することを約束」し、それが天然ガス内外価格 差問題に関するロシアの最終的な加盟条件と なった(WTO, 2011b, p. 32)。この加盟条件は、 事実上、ロシア政府がガスプロムによる天然ガ スの国内販売価格の引き上げを通じて内外価 格差を縮小させることを約束したものと考え られる。 実際のガスプロムによる国内販売価格の引 き上げ率の推移をみると、2013年まではCPI (消費者物価指数)上昇率を上回って推移して いたが、2014年以降はCPI上昇率を下回って推 移するようになっている(図表4)6)。一方、 内外価格差は2000年代初めから概ね縮小傾向 を辿っており、2016年時点のガスプロムによる 国内販売価格は、輸出価格の約50%の水準にま で接近している(図表3)。2014年以降、ガス プロムによる国内販売価格の引き上げ率が抑 制されたにも関わらず、内外価格差が縮小した のは、天然ガスの輸出価格の下落によるところ が大きい。従って、今後もガスプロムによる国 内販売価格の引き上げ率の抑制が続き、かつ、 天然ガスの輸出価格が上昇に転じると、内外価 格差は拡大し、再びEUや米国によって問題視 されるようになる可能性があると考えられる。 (3)農業分野 農 業 分 野 に 関 し て は 、 AMS ( Aggregate Measurement of Support)という、WTOの定義上、 貿易歪曲性が高いとされる補助金の上限と、そ の削減スケジュールが主要な争点となった。ロ シア政府が加盟時に約束したAMS削減に関す るスケジュールは、加盟年の2012年とその翌年 にAMSの上限を年間90億ドルとし、その後、 2014~2017年の4年間でこの上限額を毎年9 億ドルずつ、年間54億ドル(2017年)にまで引 下げ、2018年以降は年間44億ドルとするという ものである(WTO, 2011b)。一方、ロシアの実 際のAMSの推移をみると、2012年以降、常に約 束された上限を下回っており、特に2013年以降 は上限をはるかに下回る水準で推移している (図表5)。ここで重要なのは、AMSを算定す る際に用いられるデミニミス・ルールである。 このルールは、性質上はAMSとみなされる補 助金であっても、①特定の品目に対する補助金 で、金額が当該品目の生産額の5%以下である 場合や、②品目を特定しない補助金で、金額が 農業全体の生産額の5%以下である場合には、 それらの補助金額がデミニミスとしてAMSか ら除外されるというものである。ロシアの場合、 2013年からのAMSの急減は、品目を特定しな い補助金がデミニミスとしてAMSから除外さ れるようになったことが大きく、デミニミス除 外前の補助金の規模は、2012年以降、2,000億ル ーブル前後で概ね安定的に推移している。ロシ ア政府は、デミニミス・ルールをうまく活用す ることで、AMSを大幅に削減しつつ、実態とし ては農業補助金の規模を維持することに成功 していると言えるだろう。 農業分野に関して、補助金問題と並ぶ困難な 交渉課題となったのが、食肉の関税割当制度の 問題である。関税割当制度は、一定の輸入数量 (関税割当量)の枠内においては低税率(一次 税率)の関税が適用されるが、これを超える輸 入分についてはより高い税率(二次税率)の関 税が適用される制度であり、ロシアでは2003年 から食肉(牛肉・鶏肉・家禽肉)の輸入に関し て導入されていた。加盟交渉においては、ロシ ア向け輸出を増やしたいEUや米国が、一次・ 二次税率の引き下げや関税割当量の拡大を要 求する一方、ロシア政府は国内農業保護の観点 からこれに難色を示すという対立の構図があ ったが、最終的には、加盟前の税率と関税割当 量が概ね踏襲される形で交渉が妥結した。ロシ アの食肉輸入に関する合意内容と、実際の輸入

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図表5 ロシアの農業補助金(AMS)の推移

(単位:100万ドル) 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 AMS上限 9,000 9,000 8,100 7,200 6,300 5,400 4,400

AMS 5,800 65 53 50 n.a. n.a. n.a.

非特定品目 5,718 0 0 0 n.a. n.a. n.a.

特定品目 81 65 53 50 n.a. n.a. n.a.

AMS:デミニミス適用前 6,902 6,892 5,008 3,306 n.a. n.a. n.a.

(10億ルーブル) 214 219 190 201 n.a. n.a. n.a.

特定品目 1,184 1,438 1,127 752 n.a. n.a. n.a.

非特定品目 5,718 5,454 3,881 2,554 n.a. n.a. n.a.

(出所)WTOより、みずほ総合研究所作成。 図表6 食肉の関税割当量と輸入量の推移 (単位:1,000t) 2013 2014 2015 2016 関税 割当量 一次税率 二次税率 牛肉 輸入量 n.a. 473 276 225 570 15% 55% 割当枠内輸入量 495 461 265 209 豚肉 輸入量 n.a. 300 256 244 400 0% 65% 割当枠内輸入量 398 300 256 244 家禽肉 輸入量 n.a. 252 69 51 364 25% 80% 割当枠内輸入量 314 251 68 51 (注) 輸入量は、関税割当制度の対象品目のみ。 (出所)輸入量はFTS、その他はWTOより、みずほ総合研究所作成。 量の推移をまとめたのが図表6である。いずれ の食肉についても、2014年から2015年にかけて、 輸入量が大きく減少しているが、これには、ロ シア政府が2014年8月、欧米諸国による制裁へ の対抗措置として、欧米諸国からの農畜産物の 輸入を禁止したことが影響している。なお、牛 肉と家禽肉に関しては、関税割当枠に余裕があ るにもかかわらず、関税割当枠外での輸入が行 われているが、この枠外輸入の大部分はベラル ーシ、残りがカザフスタンからの輸入である。 この背景には、CIS(独立国家共同体)諸国か らの輸入には関税割当制度が適用されず、無税 での輸入が行われているという事情がある。 (4)工業アセンブリ措置 工業アセンブリ措置とは、生産能力や現地調 達率に関してロシア政府が定める基準を満た すことを条件に、自動車(完成車および部品) の現地組立プロジェクトに対して、組み立てに 用いられる部品もしくは原材料の輸入関税率 を、通常の5~20%から0~5%に引き下げる という特典を供与する措置である。2005年に導 入された旧工業アセンブリと2010年に導入さ れた新工業アセンブリの2つのタイプがあり、 特典の供与を受けるための条件は、新工業アセ ンブリ措置の方が厳しくなっている。具体的に は、プロジェクト(以下はすべてグリーンフィ

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ールド投資による乗用車組み立ての場合)の最 終的な年間生産能力は、旧工業アセンブリ措置 では2万5,000台以上とされていたのが、新工 業アセンブリ措置では30万台以上とされた。ま た、現地調達率については、旧工業アセンブリ 措置では、自動車1台あたりの組み立てに用い られる部品・原材料の価額合計に占める国産品 の割合を段階的に30%にまで引き上げること が特典供与の条件とされていたが、新工業アセ ンブリ措置では、新たな算定式:[(1-部品・ 原材料の輸入価額/VAT・物品税を除く販売価 格)×100%]から導かれる現地調達率を、段 階的に60%にまで引き上げることが条件とさ れた7) 新旧工業アセンブリ措置の条件の1つであ る部品・原材料の現地調達義務は、WTOの TRIM(貿易関連投資措置)協定によって明示 的に禁止されていることから、ロシア政府は WTO加盟に際して、その是正を余儀なくされ、 次の3点を約束した。第1に、上記の新工業ア センブリ措置の現地調達率の算定式に関して、 販売価格を「VAT・物品税を含む販売価格」と した上で、そこから導かれる現地調達義務が 25%を上回らないようにすること。第2に、新 旧工業アセンブリ措置を、WTO協定に整合的 な措置によって置き換えることについて、2016 年6月末までに他の加盟国と協議を行い、新し い措置を導入する場合は、導入の6ヵ月前まで に通知すること。第3に、新旧工業アセンブリ 措置ともに、2018年6月末までに廃止すること、 である(WTO, 2011b, p. 281)。新旧工業アセン ブリ措置に代わる新しい措置については、これ までに協議は行われた模様だが、どのような措 置が導入されるのかは明らかにされていない。 しかし、上記のスケジュールから見て、新旧工 業アセンブリ措置の廃止期限の6ヵ月前に該 当する2017年末までには、新しい措置の概要が 明らかになると見込まれる。

2.WTO加盟によって期待されたメリット

の実現状況

WTOに加盟する前のロシア国内においては、 ロシアがWTOに加盟することで得られる経済 的なメリットとして、アンチダンピング措置の 被発動件数の減少と、対内直接投資の増加とい う2点が最も強く期待されていたとみられる。 以下では、これら2つの期待されたメリットの 実現状況を検討する。 (1)アンチダンピング措置の被発動件数 WTO加盟前のロシアでは、ロシアはWTOに 加盟していないために諸外国から差別的な方 法でアンチダンピング(AD)措置を発動され、 多額の損失を被っているが、WTOへの加盟に よって同紛争解決制度を利用できるようにな ることで、AD措置の被発動件数の抑制や、AD 税の税率の低減が可能になるという期待があ った8) ロシアが実際に発動されているAD措置の件 数(AD税を賦課されている品目数)の推移を まとめたのが図表7である。AD措置の被発動 件数は、2003年をピークに減少傾向を辿ってい たが、ロシアがWTOに加盟した2012年以降は、 むしろ増加傾向に転じている。また、世界全体 のAD措置の発動件数に占めるロシアの割合を みると、2004年以降、継続的な低下傾向にあり、 ロシアの加盟前後で目立った変化は生じてい ない。AD措置の被発動件数の推移からみる限 り、ロシアはWTO加盟によるメリットを享受 できていないとみられる。 (2)対内直接投資 WTO加盟によるメリットとして、もう1つ 期待されていたのは、WTOに加盟することで ロシアの貿易・投資制度の予見可能性が高まり、 それによってロシアへの直接投資が増加する

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図表7 ロシアのアンチダンピング(AD)措置の被発動件数 (件) (%) (注) AD税を賦課されている品目数。 (出所)WTOより、みずほ総合研究所作成。 図表8 ロシアの対内直接投資額の推移(投資国別) (10億ドル) (注) 国名は、2011年の対ロシア直接投資額における上位10カ国について表示。 (出所)CBRより、みずほ総合研究所作成。 35 37 39 52 43 47 47 47 43 39 41 36 38 39 39 40 41 4.0 4.0 3.7 4.4 3.6 4.0 3.8 3.8 3.4 3.0 3.1 2.8 2.9 2.8 2.8 2.7 2.6 0 1 2 3 4 5 6 7 0 10 20 30 40 50 60 70 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ロシアのAD措置被発動件数(左軸) 世界全体に占める割合(右軸) ▲ 20 ▲ 10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 キプロス オランダ 英領バージン諸島 アイルランド ルクセンブルグ ドイツ スウェーデン 英国 バハマ オーストリア その他

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という効果であり、当時のナビウリナ経済発展 大臣がしばしばそういった主旨の発言をして いた。 ロシアの対内直接投資額の推移を、投資国別 にまとめたのが図表8である。ロシアの対内直 接投資額は、リーマンショックの翌年の2009年 に、前年比で約半減となる366億ドルにまで減 少した後、2013年までは増加傾向を辿ったもの の、2014年には再び急減し、その後も低迷が続 いている。2014年以降の対内直接投資額の低迷 は、同年7月の欧米諸国による経済制裁の発動 の影響によるものとみられる。WTO加盟前後 の推移をみると、2012年の対内直接投資額は前 年比45億ドル減の506億ドルとなったが、2013 年には英国からの直接投資額の急増により、 692億ドルに増加している。ただし、2013年の 英国からの直接投資額の急増は、BP(英国籍) によるロスネフチ株の取得という、やや特殊な 要因によるところが大きく、ロシアのWTO加 盟に伴う効果であるとは考え難い9)。このよう に、ロシアは対内直接投資の増加という点でも、 WTO加盟によるメリットを享受できていると は言い難い状況にある。

3.ロシアの産業政策とWTO協定

ロシアでは、2014年5月に、輸入代替政策を 主眼とする産業政策の遂行を政府に命じる大 統領令が公布された10)。この大統領令を契機に、 ロシアでは産業政策への取り組みが本格化し、 同年末にはロシアの産業政策の法的基礎とな る「産業政策法」が制定された11)。本節では、 産業政策法において主要な産業政策ツールと して規定されている、補助金の公布と、政府調 達における国産品の優先について、WTO協定 への違反となっていないかという点を中心に 考察する12) 補助金(農業補助金以外)については、WTO の「補助金及び相殺措置に関する協定」により、 輸出補助金が禁止されるほか、補助金によって 他の加盟国の国内産業に損害がもたらされた 場合は、損害を受けた国が補助金交付国からの 輸入に対して相殺関税措置を講じることが認 められている。一方、ロシアでは、前述の産業 政策法により、輸出支援策として公的な輸出保 険や輸出信用等が規定されているが、これらは 先進国でも広く導入されているものであり、 WTO協定が禁止する輸出補助金には該当しな いとみられる。また、その他の補助金について も、これまでのところ補助金に関する紛争案件 は生じていない。つまり、WTO加盟後のロシア では、WTO協定への違反となるような補助金 の存在は確認されていない。このことは、ロシ アの補助金政策がWTO協定に準拠したもので ある可能性を示唆する一方で、ロシアでは補助 金の交付によって、他の加盟国の国内産業に損 害を与えるほどの輸出の急増が生じていない ことの証左でもあると考えられる。 政府調達については、WTOの「政府調達に関 する協定」(以下、政府調達協定)は、政府機 関による物品やサービスの購入において、他の 加盟国の産品やサービスに対して、国内の産品 やサービスに与えられる待遇よりも不利でな い待遇(内国民待遇)を与えることを義務付け ている。ただし、この政府調達協定は、WTOへ の加盟に際して全ての国が加入を義務付けら れるものではなく、ロシアも同協定には加入し ていないため、ロシアの政府調達に関しては内 国民待遇付与の義務は適用されない。こうした 状況下、ロシアの政府調達に関する国内法13) は、国防・国家安全保障のほか、国内市場の保 護や国内経済の発展等を目的として、外国原産 の物品やサービスの購入を禁止または制限す ることができるとされ、同規定に基づいて、 2014年7月以降、建設機械や軽工業品、医薬品 などに関して、外国産品の政府調達への参入を

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制限する政府決定が相次いで出されている14) 外国産品の政府調達への参入制限は、3つの文 書(①当該産品がロシアまたはロシア以外のユ ーラシア経済連合加盟国15)で生産されたこと の証明、②当該産品の類似品がロシアまたはロ シア以外のユーラシア経済連合加盟国で生産 されていないことの証明、③当該産品が「特別 投資契約」に基づいて生産されたことの証明) のいずれかの提出を義務付けるという方法に よって行われている。ここで、特別投資契約と は、2015年7月の政府決定16)によって新たに導 入された制度であり、ロシア企業(外国企業が 設立した現地法人を含む)が総額7.5億ルーブ ル以上の投資を行うこと等を条件として、連 邦・地方・市の各政府と特別投資契約を締結す ることによって、税制上の優遇措置や土地の供 与等の支援措置を、最長10年間受けることがで きるという制度である。 このように、現在ロシアで進められている産 業政策は、少なくとも補助金の交付、政府調達 における国産品の優先に関してみる限り、 WTO協定違反を問われるような状況にはない とみられる。

【参考文献】

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WTO (2013) World Tariff Profiles 2013

[https://www.wto.org/english/res_e/booksp_e/tariff _profiles13_e.pdf].

WTO (2016) Trade policy review: Russian federation, Dec. 6.

WTO (2017) World Tariff Profiles 2017

[https://www.wto.org/english/res_e/booksp_e/tariff _profiles17_e.pdf].

【注】

1)ロシアのWTO加盟交渉の経過と、交渉におけ る主要な争点については、金野(2012)参 照。 2)これら6品目の関税分類コードは、HS 3921 13 100 0、HS 3921 13 900 0(以上、プラスチック 製品)、HS 4810 92 300 0(紙製品)、HS 8418 21 510 0、HS 8418 21 910 0(以上、冷蔵庫)、 HS 8707 10 900 0(乗用車車体)。いずれも最終 譲許税率達成までの移行期間は2015年までに 終了した品目である。 3)例えば、容量250リットル以下の小型冷蔵庫 (HS 8418 21 910 0)の場合、MFN税率は「通 関価格の12%、ただし容量1リットルあたり 0.07ユーロを下回らないこと」とされている。 なお、ロシアの譲許税率表はWTO (2011a)、実 際に適用されているMFN税率表はEEK (2017) による。 4)乗用新車のMFN税率の引き下げは、2012年7 月16日付ユーラシア経済委員会評議会決定 No.54、2016年5月16日付同決定No.40、2017 年6月23日付同決定No.41による。 5)なお、ロシアの天然ガス生産量に占めるガス プロムのシェアは近年、低下傾向にあり、 2003年時点で88%に達していた同シェアは、 2016年時点では65%にまで低下している(坂 口、2017)。 6)2014年以降、ガスプロムによる天然ガスの国 内販売価格の引き上げ率が抑制されたのは、 同年以降、インフレの抑制が最も重要な政策 課題の一つとされ、そのためにインフラ部門 (天然ガス、電力、鉄道貨物輸送、原油パイ プライン輸送など)の国家規制価格の凍結や 引き上げ率の抑制が行われていることによる (田畑、2015)。 7)旧工業アセンブリ措置は、2005年4月15日付 経済発展貿易省・産業エネルギー省・財務省 共同指令No.73/81/58n、新工業アセンブリ措置 は、2010年12月24日付経済発展貿易省・産業 エネルギー省・財務省共同指令No.678/1289/ 184nによる。 8)例えば、経済発展貿易省は2002年の時点で、 AD措置によるロシアの損失額が年間35億ドル に達しているとし、WTOに加盟することで、 この損失額を30~40%削減できると見込んで いた(RAN-NIS, 2002, pp. 8-9)。 9)2013年のBPによるロスネフチ株の取得は、同 年に実施されたロスネフチによるTNK-BP買収 に関連して行われた取引である。この詳細は 本村(2012)参照。 10)2014年5月14日付「経済成長促進の追加的措 置に関する指示リスト」(President rossii, 2014)。 11)2014年12月31日付連邦法No.488「ロシア連邦 の産業政策について」。 12)産業政策法では、主要な政策ツールとして、 補助金の交付、政府調達における国産品の優 先の他にも、輸出支援、特別投資契約、国家 工業発展基金による支援、情報コンサルテー ション支援などが挙げられている。 13)2013年4月5日付連邦法No.44「政府調達にお ける契約制度について」。 14)建設機械については2014年7月14日付政府決 定No.656、軽工業品については2014年8月11 日付政府決定No.791、医薬品については2015 年11月30日付政府決定No.1289による。なお、 当該製造業品の類似品がロシア国内で製造さ れていないことを証明する要件は、2015年7 月17日付政府決定No.719による。 15)ユーラシア経済連合の加盟国は、ロシア、ベ ラルーシ、カザフスタン、キルギス、アルメ ニアの5カ国。 16)2015年7月16日付政府決定No.708。

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