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スーパー母体搬送システムについて

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742 (742’s’745) 小児保健研究

視 点

スーパー母体搬送システムについて

相澤まどか1),板橋瀬頭夫1),松岡 隆2)

1.はじめに

 新生児医療とは,何らかの異常を持つ新生児 を新生児集中治療室(MCU)に収容し治療す ることである。新生児期に起こる問題の多くが,

出生前および出生時にあるため,あらかじめ出 生前から異常が予測される場合はNICUの整っ た施設へ母体搬送されることが望ましく,多く の地域でそのシステムは整ってきている。

 平成8年度から始まった周産期医療対策事業 と周産期医療に対する診療報酬改善により施設 としての整備が進み,現在は母体搬送を中心 とするハイリスク新生児医療が行われている。

平成9年に開始した周産期医療整備事業では,

入口約100万人の地域を周産期医療圏として考 え,中心となる総合周産期母子医療センターを 整備した。総合周産期母子医療センターとは,

N工CUとMF工CU(母体胎児集中治療室)を整 備し,地域に生じた合併症のある重症妊婦や新 生児を治療する施設であり,ハイリスク妊婦や ハイリスク新生児を中心に受け入れを行ってい る。この周産期医療整備事業の実施により,多 くの重症新生児がNICUで治療を受けられる ようになったが,次第にNICUの病床不足と,

NICUが満床の場合,母体搬送を受け入れられ ないなどの問題点が生じてきた。

 平成18年および平成19年に奈良県で,平成20 年に東京都で,妊婦の救急搬送受け入れ医療機

関の選定困難症例が発生した事態を受け,消防 庁と厚生労働省が救急搬送における医療機関の 受け入れ状況の実態調査を行ったところ,現場

に到着してから医療機関選定までに30分以上を 要していることや,選定困難症例は首都圏や近 畿圏などの大都市部に多くみられることが判明

した1)。また,周産期母子医療センターが近く に複数存在することで,自分たちが最後の砦と の認識が乏しい施設もあり,他の医療施設の対 応に依存する傾向があり,その結果,責任所在 が曖昧となりやすく,受け入れ医療機関の選定 に時間がかかる結果となることがある。

 今後,各地方自治体で周産期医療と一般救急 医療の協調による患者搬送および受け入れに関 するルール作りがされていくと思われるが,東 京都は比較的早く新体制作りに着手し,母体救 命搬送システムを平成21年3月25日よりスター

トさせた2)。

皿.東京都母体救命搬送システム

 東京都母体救命搬送システム(略称:スーパー 母体搬送)とはt既存の周産期ネットワークで は,搬送先選定困難となる重症症例を速やかに 高次施設に収容し治療を開始するためのシステ ムである。診療体制としては,産科・新生児科 の病床を確保し,産科・新生児科医師の24時間 体制に加え,麻酔科,脳外科などの当直(オン コール)体制等を確保し,救命処置が必要な妊

Super Maternal Transport System

Madoka AエzAwA. Kazuo ITABAsHI, Ryu MATsuoKA 1)昭和大学小児科

2)昭和大学産婦人科

別刷請求先:相澤まどか 昭和大学小児科 〒142-8666東京都品川区旗の台1-5-8      Tel:03-3784-8565 Fax:03-3784-8362

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第69巻 第6号,2010 743 産婦の受け入れに対応する。また,診断が確定

されていないが重篤な症状を呈する妊婦も対象 に含んでいる(表)。搬送元の一次,二次施設 の担当医師もしくは現場にいる救急隊により症 例が対象症例かどうか判断される。受け入れ側 の施設は,搬送元の医師が“スーパー母体救命”

と判断した症例(スーパー症例)について,そ れが実際に対象症例かどうかの議論は一切行わ ない。この段階で,症状の議論をすることで時 間を要することが多いので,この時間をなくす ための約束事である。

表母体救命搬送システム対象症例

・妊産褥婦で,緊急に母体救命処置が必要なもの 1 妊産褥婦の救急疾患合併

①脳血管障害 ②急性心疾患 ③呼吸不全

④重症感染症,敗血症性ショック ⑤重症外傷熱傷

⑥多臓器機能障害・不全 2 産科救急疾患(重:症)

①羊水塞栓症 ②寸寸,妊娠高血圧症候群重症型

③HELLP症候群,急性妊娠脂肪肝④出血性ショック

⑤産科DIC

3 重篤な症状(診断未確定)

①意識障害 ②痙攣発作 ③激しい頭痛 ④激しい胸痛

⑤激しい腹痛⑥原因不明のバイタルサイン異常 以上を呈し重篤な疾患が疑われる症例

4 その他1~3に準ずるもので緊急に母体救命処置が必 要なもの

皿.搬送先選定の手順と協力病院

 患者受け入れ施設に,総合または地域周産期 センター,周産期ネットワークまたは周産期連 携病院中の22の医療機関が協力病院として参加 しており,この中の3病院(昭和大学病院 日 本赤十字社医療センター,日本大学医学部附属 板橋病院)がいわゆる“母体救命対応総合周産 期センター(以下スーパー総合)”に指定され,

搬送先選定困難症例の最終受け入れ施設を輪番 制で担当している。図1に一次・二次産科医療 機関からの転院搬送の手順を示す3)。スーパー 母体救命症例と判断した場合,協力病院のうち で直近または普段から患者の搬送を行っている 病院に搬送依頼を行う。直近の協力病院が受け 入れ不能の場合には,消防庁に母体救命症例で 直近が受け入れ困難である旨を連絡すれば,消 防庁が当日のスーパー総合当番病院に連絡を入 れるのと同時に,搬送元近くの協力病院にも受 け入れの可否の問い合わせを行う。搬送中に,

スーパー総合よりも近くで受け入れがみつかっ た場合には,そちらに収容し,選定にかける時 間を短くしつつも,なるべく直近の施設に重症 患者を搬送するためのものである。

母体救命 と判断

 直近の 救急医療機関

騒連携 懇雛

産科施設

①要請 ②119番

1直近で受け入れられない場合、こ・

1速やかに受け入れ先を確保1 東京消防庁指令室等

③要請

④救急車搬送

スーパー総合周産期センター

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  一灘第癖。tS 。 s脳

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図1 一次・二次施設からの母体救命搬送

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744 小児保健研究

1V.実

 平成22年3月31日までで,スーパー症例は51 件(転院搬送33件,一一般通報18件)であった。スー パー総合に搬送されたのは約半数の25件でその 他は直近の協力病院に搬送されていた(図2)。

搬送先選定にかかった平均時間は転院搬送10.9 分,一般通報6.8分であり,システム運用はお おむねうまくいっていると思われた。スーパー 症例として搬送された後,最終的に中等症・軽 症と判断されたのは11症例(21.5%)であった。

これらの症例はオーバートリアージであるが,

その数はシステム開始前に予想していたよりも 少なかった。

 51例中22例が産科的疾患で,残り29例が救急

合併症および重篤な症状による搬送であった

(図3)a出血性ショック,脳血管障害,産科 DICが多かった。母の転帰を図4に示す。母体 死亡例は7例あり,心肺停止,多臓器不全,出 血性ショック・王畿子宮,劇症A型溶連菌感染 症,脳出血・脳梗塞であった。症状の発生から 病院到着までの時間は25~45分であり,時間が かかったというわけではなく,いずれも重篤な 症例であり,母体死亡例を完全に防ぐことはで

きない。

V.NICU不足・医師不足

 母体の搬送システムが整備されたとしても,

新生児を受け入れるNICUが不足していては 児の救命に繋がらない。近年,多胎やハイリス

30 25  20 籔15  10 5

o スーパー 総合  地域  連携 ネット救命救急

…ゴ妻篠麟一騨I  一二 圖転院搬送

。一般通報

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図2 スーパー母体救命の受け入れ病院(51件)

40

30

籔・・

10 口軽症 署中等症

■重症

■重篤

  入院中

鞭 ①心肺停止(肺塞栓)

睡磁  ②多臓器不全

  ③出血性ショック・副角子宮   ④心肺停止

  ⑤劇症A型溶連菌感染症   ⑥脳出血・脳梗塞

退院   転院 図4 母の転帰(51例)

死亡

112

10

8

籔・

4

2

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…      il産科救急疾患

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~急合併症    i      i       }       1

□軽症 嵐剌ヌ 酪d症 d篤

。重篤(死亡)

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重症外傷

呼吸不全

急性心疾患

脳血管障害 子痛発作羊水塞栓症多臓器機能障害 出血性ショック 切迫早産・流産激しい痛み痙攣発作意識障害産科DIC

図3 妊産褥婦の疾患(診断名)

その他

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第69巻 第6号,2010 745 ク妊婦の増加によるNICU入院患者の増加や,

新生児医療の高度化と救命率の改善による入院 期間の長期化により病床数不足が目立つように

なった4)。

 東京都には全国で80ある特定機能病院のうち 6分の1にあたる12病院があり,そのうち8施 設に周産期センターがある。このように高度医 療機関が集中しているため,施設数も医師数も 比較的恵まれているとはいえ,近隣の県から高 度な周産期医療を求めて受診されるケースも多 い。都内の周産期センターに入院した児の26%

は他県からの患者が占めており,いまだ病床は 不足気味であるのが現状である5)。今後は,スー パー母体救急を受け入れ,出生児に対する初期 対応を施行した後にやむを得ず新生児を他院に 搬送する必要が生じた場合のネットワークシス テムを整備する必要がある。また,スーパー 母体救急を受け入れたために,一時的にNICU がオーバーベッドとなった時診療報酬加算の 返還を求められないような対応措置も必要であ

る。

 産科・小児科に従事する医師が不足している ことも課題の一つであり,過酷な労働とそれに 見合わない安い報酬が問題であると指摘されて いる。システムの整備とともに,人員不足によ る過酷な勤務環境の改善にも目を向けなければ

ならない。

VI.おわりに

 スーパー母体搬送により,今まで移送に時間 がかかっていた重篤な母体を,より速やかに高 次施設に移送することができ,現在までに一定 の効果を上げていると考えられる。ただ,現在 のシステムは,多くの関連科医師の献身的な努 力の上に成り立っていると言える。今後は,先 に示した,NICUベッド不足や産科・小児科の 医師不足の問題とともに,過酷な勤務環境を強 いられることのないシステム作りを目指すこと が重要である。

        文   献

1) http : //www.fdma.go.jp/neuter/topics/hou-

 dou/2103/210319一 2 houdou.pdf

2) http : //www.metro.tokyo.jp/INET/

 OSHIRASE/2009/03/20j 3 j300 . htm

3) http : //www . fukushihoken . metro , tokyo . jp/

 iryo/kyuukyuu/syusankiiryo/21kyougikai4/

 files/shiryou6.paf # search

4)多田 裕.母体搬送と新生児搬送.周産期医学

 2006 ; 36 : 1481-1484.

5)近藤昌敏:.周産期医療整備 都市型.日本周産期・

 新生児医学会雑誌 2007;43:960-963.

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参照

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