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平成22年度「HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究」報告書

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厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業

HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究

平成 22 年度 研究報告書

国立病院機構大阪医療センター

HIV/AIDS先端医療開発センター

白阪 琢磨

(2)

目 次

総括研究報告

1 HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究

………7

研究代表者:白阪 琢磨(国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS先端医療開発センター長) ■

分担研究報告

2 HIV 感染症治療の開始時期と治療終焉指標に関する研究

………21

研究分担者:渡邊 大(国立病院機構大阪医療センター エイズ先端医療研究部 HIV 感染制御研究室) 3 急性感染者の早期発見のための医療機関と社会とのコミュニケーションの形成

………27

研究分担者:渡邊 大(国立病院機構大阪医療センター エイズ先端医療研究部 HIV 感染制御研究室) 研究協力者:大北 全俊(大阪大学大学院文学研究科倫理学・臨床哲学研究室) 4 治療終焉のためのプロウイルス DNA 等臨床指標の開発に関する研究

………29

研究分担者:岩谷 靖雅(国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター) 5 HIV 検査相談所における HBV の分子学的研究

………33

研究分担者:杉浦 亙(国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター 感染免疫研究部) 6 服薬アドヒアランスの評価法の開発に関する研究

………39

研究分担者:加藤 真吾(慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室) 7 携帯を使った服薬支援“だ・メール”および検査予約システムの開発

………43

研究代表者:白阪 琢磨(国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS 先端医療開発センター長) 研究協力者:幸田 進(有限会社ビッツシステム) 8 抗 HIV 療法の実施状況と副作用調査に関する研究

………47

研究分担者:桒原 健(国立病院機構南京都病院 薬剤科) 9 Web サイトを活用した情報発信と情報収集、閲覧動向に関する研究

………69

研究分担者:桒原 健(国立病院機構南京都病院 薬剤科) 研究協力者:湯川 真朗(有限会社キートン) 10 抗 HIV 療法のガイドラインに関する研究

………83

研究分担者:鯉渕 智彦(東京大学医科学研究所附属病院 感染免疫内科)

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11 血友病患者における HIV 感染症の治療に関する研究

………87

研究代表者:西田 恭治(国立病院機構大阪医療センター 感染症内科) 12抗 HIV 療法に伴う心理的負担、および精神医学的介入の必要性に関する研究

………93

研究分担者:廣常 秀人(国立病院機構大阪医療センター 精神科) 13 HIV 陽性者の歯科診療の課題と対策

………99

研究分担者:中田たか志(中田歯科クリニック) 14 HIV の外来診療のあり方に関する研究

………105

研究分担者:高田 清式(愛媛大学医学部附属病院 綜合臨床研究センター・感染症内科) 15 エイズ看護の在り方に関する研究

………109

研究分担者:井端美奈子(大阪府立大学 看護学部) 16 セクシュアルヘルス支援体制のモデル開発と普及に関する研究

………117

研究分担者:井上 洋士(放送大学 教養学部) 17 HIV 陽性者の心理学的問題と対応に関する研究

………129

研究分担者:仲倉 高広(国立病院機構大阪医療センター 臨床心理室) 18 ケースマネージメントスキルを使った行動変容支援サービスに関する研究

………137

研究代表者:藤原 良次(特定非営利活動法人りょうちゃんず) 19 HIV 検査相談所における陽性告知からその後の当事者支援に関する研究

………147

研究分担者:桜井 健司(特定非営利活動法人 HIV と人権・情報センター) 20 長期療養者の受入における福祉施設の課題と対策に関する研究

………161

研究分担者:山内 哲也(社会福祉法人武蔵野会 八王子生活実習所) 21 長期療養患者のソーシャルワークに関する研究

………175

研究分担者:小西加保留(関西学院大学 人間福祉学部) 22 長期療養看護の現状と課題に関する研究

………191

研究分担者:下司 有加(国立病院機構大阪医療センター 看護部) 23 イベント検査等における予約システム利用促進について

………197

研究代表者:白阪 琢磨(国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS 先端医療開発センター長) 研究協力者:小野田敦乙(株式会社エフエム大阪)他 2 名

(4)
(5)

HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究

研究代表者:白阪 琢磨( 国立病院機構大阪医療センター HIV/AIDS先端医療開発センター長) 研究分担者:渡邊 大(国立病院機構大阪医療センター臨床研究センター HIV 感染制御研究室員) 岩谷 靖雅(国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター 室長) 桒原 健(国立病院機構南京都病院薬剤科 薬剤科長) 鯉渕 智彦(東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野 助教) 西田 恭治(国立病院機構大阪医療センター感染症内科 医長) 杉浦 亙(国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター 部長) 井端美奈子(大阪府立大学看護学部 准教授) 廣常 秀人(国立病院機構大阪医療センター精神神経科 科長) 仲倉 高広(国立病院機構大阪医療センター臨床心理室 主任心理療法士) 中田たか志(中田歯科クリニック 院長) 加藤 真吾(慶應義塾大学医学部 専任講師) 桜井 健司(特定非営利活動法人 HIV と人権・情報センター 全国事務局長) 藤原 良次(特定非営利活動法人りょうちゃんず 理事長) 井上 洋士(放送大学教養学部 教授) 山内 哲也(社会福祉法人武蔵野会八王子生活実習所 施設長) 小西加保留(関西学院大学人間福祉学部 教授) 下司 有加(国立病院機構大阪医療センター看護部 副看護師長) 高田 清式(愛媛大学医学部第一内科、総合臨床研修センター 教授)

研究要旨

HIV 感染症は抗 HIV 薬の多剤併用療法によって予後が著明に改善したが、抗 HIV 治療、ケア、患者支援のあり 方などで克服すべき課題が山積している。本研究では、研究分野を 1)治療と合併症、2)ケア、3)長期療養、 4)患者支援に大別し、それぞれの課題を明らかにし対策を検討する。最終年度の提言に向け研究を進める。抗 HIV 療法のガイドラインは毎年改訂され治療開始や終了時期など検討すべき点が残っており、プロウイルス量定 量などのウイルス学的臨床指標の開発を検討した。服薬継続支援とチーム医療の提供は引き続き必要であり、本 年度は外来のチーム医療の実際に関する研究や毛髪を用いた服薬アドヒアランスの評価法の開発に取りかかっ た。今年度も各拠点病院での採用薬剤、在庫状況、院外処方せん発行状況などのアンケート調査を実施した。薬 剤師の HIV 認定制度に次いでエイズ看護の在り方につき検討を行った。診療で経験される精神あるいは心理学的 問題の現状と対応に付き検討を行った。歯科診療ネットワークは国内で実施自治体が限られており開発が必要で ある。医療従事者へのセクシャルヘルス支援の知識と技能習得についての研修の研究を進めた。長期療養につい ては訪問看護ステーション研修の継続と、調査を継続した。さらに受け容れ経験社会福祉施設の累積事例研究と 受入れプロセスの検証を行い、社会福祉施設の受入れマニュアル作成の準備に取りかかった。患者支援では HIV 陽性者の受検、告知、受診まで一貫した支援症例の蓄積と検討を継続した。今年度も薬剤情報提供のホームペー ジの内容更新や服薬支援のための忘れちゃだメールの改良を継続した。抗 HIV 療法のガイドライン改訂を本年度 も実施した。最終年度には、各研究成果を基に、必要であれば提言を行う。 研究目的 HIV 感染症は HAART によって医学的管理ができる 慢性疾患となったが、HIV 感染症の治療の分野で克 服すべき課題が山積している。本研究では A.治療・

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合併症、B.ケア、C.長期療養支援、D.患者支援にお ける課題の抽出と解決方法の提示を目的とする。最 終年度に対策と提言を行う。 研究方法 目的達成のために実施した主な研究方法を以下に 示す。A-1)「HIV 感染症治療の開始時期と治療終焉 指標に関する研究(渡邊)」:残存プロウイルス量の 測定系の開発を行った。A-2)「治療終焉のためのプ ロウイルス DNA 等臨床指標の開発に関する研究(岩 谷)」:新規臨床指標としてケモカイントロピズムの 解析系を検討した。A-3)「抗 HIV 療法の実施状況と 副作用調査に関する研究(桒原)」:拠点病院 378 施 設にアンケート調査を実施した。A-4)*「服薬アド ヒアランスの評価法の開発に関する研究(加藤)」: 毛髪中の薬剤量の測定系を検討した。A-5)「抗 HIV 療法のガイドラインに関する研究(鯉渕)」:今年度 の改訂作業を進めた。A-6)「血友病患者における HIV 感染症の治療に関する研究(西田)」:治療の課 題を抽出した。A-7)「重複合併例の HBV の分子学的 研究(杉浦)」:ゲノタイプ解析を行った。A-8) 「HIV 陽性者の歯科診療の課題と対策(中田)」:歯科医療 従事者向け講習会を開催し課題を抽出した。A-9) *「HIV 外来診療のあり方に関する研究(高田)」:四 国のHIV診療実態を調査した。B-1)「エイズ看護の 在り方に関する研究(井端)」:エイズ担当看護師へ の聞き取り調査、大阪府の看護職にアンケート調査 (配付: 107 施設の看護職に 4077 通、回収:2374 通)を実施した。B-2)「抗 HIV 療法に伴う心理的負 担、および精神医学的介入の必要性に関する研究(廣 常)」:全国の診療施設 6376 施設にアンケート調査を 行った。B-3)「HIV 陽性者の心理学的問題の現状と 課題に関する研究(仲倉)」:HIV 陽性者の神経心理 学的検査の有用性の検討、マニュアル改訂作業を行 った。B-4)「セクシュアルヘルス支援体制のモデル 開発と普及に関する研究(井上)」:モデル研修を実 施し解析した。C-1)「長期療養者の受け入れにおけ る福祉施設の課題と対策(山内)」:長期療養者の社 会福祉施設の受入事例調査、受入のマニュアル作成 の検討を行った。C-2)「長期療養患者のソーシャル ワークに関する研究(小西)」:退院援助困難事例の 支援シートを検討した。C-3)「長期療養看護の現状 と課題に関する研究(下司)」:研修会参加者に調査 を実施した。D-1)「HIV 検査相談所における陽性告 知からその後の当事者支援に関する研究(桜井)」: 検査での受検者アンケート、検査前後のインタビュ ーを実施した。D-2)「ケースマネージメントスキル を使った行動変容支援サービスに関する研究(藤 原)」:基礎研修を実施し、ケースマネージャー(CM) の育成プログラムを検討した。さらに、携帯を用い た服薬支援ツール改良、検査予約システム開発、ホ ームページ開発を進めた。(*は1年目。) (倫理面への配慮) 研究実施で、疫学研究に関する倫理指針を遵守し た。研究対象者に対する人権擁護上の配慮、研究方 法による研究対象者に対する不利益、危険性の排除 に留意し、実施には十分に説明し同意を得た。個人 情報を含むデータを扱う研究では施設の倫理委員会 の承認を得た。 研究結果 今年度の主な結果を如何に示す。A-1)TaqManPCR 法とポワソン分布法を組み合わせ、良好な再現性を もって残存プロウイルス量測定が可能となった。A-2)臨床分離株の env 遺伝子の全塩基配列を決定し 発現クローン(72 クローン)を作製した。CCR-5 指 向性 Env の多く(24/27)が CCR3 指向性も示した。A-3)在庫金額は昨年より減少したが依然高い水準に あった。組み合わせは TVD+EFV と TVD+ATV+RTV の 2 処方が約 30%で RAL を含む処方が増加した(回収: 239 施設)。A-4)7剤の PI につき良好な直線性を 得た。5例の臨床検体中の 4 例で薬剤を定量でき、 処方日数と薬剤検出毛髪の長さは 4 検体中 3 例で対 応していた。A-5)ガイドライン改訂の作業を進め た。A-6)ブロック拠点病院通院中の患者 319 例に 配付し 294 例を回収した。副作用が「ある」と答え た患者は血友病群で 61%、非血友病群で 48%であっ た。A−7)重複感染 45 例の HBV genotype 解析で C が16.7%、83.3%はAであり、従来の分布と異なった。 A−8)地元歯科医師会や関係各方面の理解・協力(後 援)を得て講習会を開催した。A−9)外来診療にお ける問題点では①知識不足、②診療時間不足、③病 院間の連携などが挙げられた。B−1)エイズ看護の 担当者が感じているやりがい、とまどいが抽出され

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た。(アンケート調査結果は分析中。)B−2)診療経 験ありが約 1 割、今後の診療可能が約 4 割であった (回収:1255 施設)。不安上位にあった医学知識、 薬剤相互作用、社会資源などの情報不足と、診療経 験の有無、研修経験の有無との間に関連を認めた。 B−3)チーム医療マニュアルの改訂作業を進めた。 HIV陽性者での神経心理学的検査の実施でMMSEと国 際版 HIV Dementia 尺度の結果に乖離を認めた。B-4)アドバンスコース開発の方向性が抽出された。 C-1)昨年度の質・量的調査結果を裏付ける結果を 得、これに基づき、効果的マニュアルの作成検討を 開始した。C-2)修正シート作成と効果検証のため のアンケート票を作成し、送付した。C-3)1都5 県の研修会を受講した 181 名の研修終了後の回答で は、約 7 割が HIV 感染症に対する意識変化あり、54% が受け入れ可能、36%が準備必要、受け入れ不可能は 無かった。D-1)回収したアンケート 1580 件、検査 前後のカウンセリング時の聞き取りメモ 390 件を 解析中である。D-2)CMP 基礎研修、CM 育成研修を 実施し、研修参加者の評価から研修マニュアル、基 礎資料を修正した。 考察 残存プロウイルス量測定、トロピズムアッセイ、 毛髪薬剤濃度測定など臨床的実用性を視野に開発を 進め、臨床的有用性を含めた検討が今後、必要と考 えた。薬剤アンケートから在庫の問題があるが、新 規処方例では選択肢が狭まっている傾向が伺えた。 患者の副作用では血友病など長期服用例と最近の短 期服用例では相違が示唆された。治療ガイドライン とチーム医療マニュアルの改訂、受入支援マニュア ルの作成の必要性が示された。在宅看護、歯科診療、 精神科診療などでの研修参加者は研修後に HIV 診療 ケアへの積極的に取り組むという意識変化が示唆さ れ、今後の研修の進め方は重要と考える。その他、 多くの研究から重要な結果が得られたので、今後の 研究に活かしたいと考える。 自己評価 1)達成度について 当初計画を概ね実施でき目的を達成できた。 2)研究成果の学術的・国際的・社会的意義につい て 本研究は HIV 感染症治療の現時点での課題を明 らかにし、その対策につき検討を行うものであり、 必要性は高い。プロウイルス測定、トロピズムア ッセイ、毛髪の薬剤濃度測定は学術的意義も高く、 国際的にも新規性が高い。治療のガイドライン改 訂、外来チーム医療マニュアル改訂も必要性が高 く重要である。長期療養につき施設の受入に向け たマニュアル作成は社会的意義が大きいと考える。 本研究は学術的・国際的・社会的意義が高いと考 える。 3)今後の展望について 最終年度は今年度の研究結果を踏まえ対策を検 討し、必要であれば解決に向けた提言を行う。 結論 HIV 感染症の治療と関連分野(治療・合併症、ケ ア、長期療養支援、患者支援)で克服すべき課題を 抽出し現状を分析、検討した。ほぼ計画通りに研究 を実施できた。今後は、各研究を進め、最終年度に 対策の提示と提言を行う。 知的所有権の出願・取得状況 特になし。 研究発表 研究代表者

白阪琢磨 1)Watanabe D, Uehira T, Yonemoto H, Bando H, Ogawa Y, Yajima K, Taniguchi T, Kasai D, Nishida Y and Shirasaka T. : Sustained high levels of interferon-gamma during HIV-1 infection: Specific trend different from other cytokines. Viral immunology. 2010;23(6):619-25. 2 ) Taniguchi T, Ogawa Y, Kasai D, Watanabe D, Yoshikawa K, Bando H, Yajima K, Tominari S, Shiiki S, Nishida Y, Uehira T and Shirasaka T. : Three cases of fungemia in HIV-infected patients diagnosed through the use of mycobacterial blood culture bottles. Intern Med.49(19): 2179-2183, 2010. 3)Watanabe D, Taniguchi T, Otani N, Tominari S, Nishida N, Uehira T, Shirasaka T. : Immune reconstitution to parvovirus B19 and resolution of anemia in a patient treated with highly active antiretroviral therapy: A case report. J Infect Chemother. in press. 4) Shirasaka T, Tadokoro T, Yamamoto Y, Fukutake K,

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Kato Y, Odawara T, Nakamura T, Ajisawa A, Negishi M. Investigation of emtricitabine-associated skin pigmentation and safety in HIV-1- infected Japanese patients. J.Infection and Chemotherapy. in press

研究分担者

渡邊 大 1)Watanabe D, Uehira T, Yonemoto H, Bando H, Ogawa Y, Yajima K, Taniguchi T, Kasai D, Nishida Y and Shirasaka T. Sustained high levels of interferon-gamma during HIV-1 infection: Specific trend different from other cytokines. Viral immunology. 2010;23(6):619-25. 2 ) Watanabe D, Taniguchi T, Otani N, Tominari S, Nishida N, Uehira T, Shirasaka T. Immune reconstitution to parvovirus B19 and resolution of anemia in a patient treated with highly active antiretroviral therapy: A case report. J Infect Chemother. in press.

岩谷靖雅 1)Ibe S, Yokomaku Y, Shiino T, Tanaka R, Hattori J, Fujisaki S, Iwatani Y, Mamiya N, Utsumi M, Kato S, Hamaguchi M, Sugiura W. HIV-2 CRF01_AB: first circulating recombinant form of HIV-2. J. AIDS 54:241-247, 2010. 2)岩谷靖雅、 北村紳悟、吉居廣朗、前島雅美、横幕能行、杉浦亙: HIV-1 Vif 感受性及びウイルス粒子への取り込みに 関する APOBEC3C の機能ドメインの探索。 第 24 回日 本エイズ学会学術集会・総会、東京、2010 年 11 月 桒原 健 1)桒原健、畝井浩子、佐藤麻希、高橋 昌明、吉野宗宏、白阪琢磨:抗 HIV 薬の服薬に関す るアンケート調査結果。第 24 回日本エイズ学会学術 集会・総会、東京、2010 年 11 月。 2)桒原健、 小島賢一、日笠聡、白阪琢磨:拠点病院における抗 HIV 療法と薬剤関連アンケート調査結果(第7報)。 第 24 回日本エイズ学会学術集会・総会、東京、2010 年 11 月 鯉 渕 智 彦 1 ) Koga M, Kawana-Tachikawa A, Heckerman D, Odawara T, Nakamura H, Koibuchi T, Fujii T, Miura T, Iwamoto A. Changes in impact of HLA class I allele expression on HIV-1 plasma virus loads at a population level over time. Microbiol Immunol. 54(4):196-205, 2010. 2)鯉 渕智彦:現在の抗 HIV 治療のガイドライン、日本エ イズ学会誌 12(3): 129-136, 2010。

杉浦 亙 1)Hattori J, Shiino T, Gatanaga H, Yoshida S, Watanabe D, Minami R, Sadamasu K, Kondo M, Mori H, Ueda M, Tateyama M, Ueda A, Kato S, Ito T, Oie M, Takata N, Hayashida T, Nagashima M, Matsuda M, Ibe S, Ota Y, Sasaki S, Ishigatsubo Y, Tanabe Y, Koga I, Kojima Y, Yamamoto M, Fujita J, Yokomaku Y, Koike T, Shirasaka T, Oka S, Sugiura W. Trends in transmitted drug-resistant HIV-1 and demographic characteristics of newly diagnosed patients: nationwide surveillance from 2003 to 2008 in Japan. Antiviral Res. 2010 Oct;88(1):72-9. 2)Fujisaki S, Yokomaku Y, Shiino T, Koibuchi T, Hattori J, Ibe S, Iwatani Y, Iwamoto A, Shirasaka T, Hamaguchi M, Sugiura W. Outbreak of hepatitis B virus genotype A and transmission of genetic drug resistance in cases coinfected with HIV-1 in Japan. J. Clin Microbiol (in press)

加藤真吾 1)Shima-Sano, T., Yamada, R., Sekita, K., Hankins, R. W., Horr, H., Seto, H., Sudo, K., Kondo, M., Kawahara, K., Tsukahara, Y., Inaba, N., Kato, S., Imai, M. (2010) A human immunodeficiency virus screening algorithm to address the high rate of false-positive results in pregnant women in Japan. PLoS One 5(2):e9382. 2)須藤弘二、加藤真吾:LC-MS/MSを用いた毛髪中 および血液中の抗 HIV 剤の定量。第 24 回日本エイズ 学会学術集会・総会、2010 年 11 月、東京 西田恭治 1)矢倉裕輝、櫛田宏幸、吉野宗宏、米本 仁史、小川吉彦、坂東裕基、矢嶋敬史郎、笠井大介、 谷口智宏、渡邊大、西田恭治、上平朝子、白阪琢磨、 桒原健:Darunavir の 1 日 1 回投与法におけるトラ フ濃度と副作用に関する検討。第 24 回日本エイズ学 会学術集会・総会、東京、2010 年 11 月 中田たか志 1)中田たか志:NPO/NGO と歯科診療所 のネットワークによる HIV 陽性者歯科診療の提供に 関する研究 第 24 回日本エイズ学会学術集会・総会、 東京、2010 年 11 月. 2)中田たか志、小和瀬秀紀、 多田多美:歯科開業医としての風評被害・診療所経 営を視野に入れた、HIV 陽性者歯科診療における中 田歯科クリニックでの取組 第 24 回日本エイズ学 会学術集会・総会、東京、2010 年 11 月 高田清式 1)村上雄一、高田清式、井門敬子、田邉

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奈千、西川典子、永井将弘、川本裕介、薬師神芳洋、 長谷川均、安川正貴:HAART regimen の変更が有効 であった難治性HIV脳症の一例 -抗HIV薬髄液中濃 度測定を行った症例の検討-。 第 24 回日本エイズ 学会学術集会・総会、東京、2010 年 11 月. 2)村 上雄一、三好一宏、山之内純、東太地、薬師神芳洋、 羽藤高明、長谷川均、高田清式、安川正貴:愛媛大 学医学部附属病院における HIV 診療の現況。第 80 回日本感染症学会西日本地方会学術集会、松山、2010 年 11 月 井端美奈子 1)泉柚岐、井端美奈子、白阪琢磨、古 山美穂. 高校生対象の DVD 教材「本気で CONDOMING ~HIV/エイズの予防と最新治療~」の開発、第 24 回日本エイズ学会学術集会・総会、東京、2010 年 11 月 廣常秀人 1)大谷ありさ、仲倉高広、藤本恵里、森 田眞子、安尾利彦、倉谷昂志、宮本哲雄、垣端美帆、 下司有加、治川知子、東政美、白阪琢磨、廣常秀人: 初診時から 1 年後の HIV 感染症患者のメンタルヘル ス。第 24 回日本エイズ学会学術集会・総会、2010 年 11 月。 2)安尾利彦、仲倉高広、大谷ありさ、 倉谷昂志、森田眞子、藤本恵里、宮本哲雄、廣常秀 人、白阪琢磨:全国の精神科診療施設における HIV 感染症患者の診療状況に関する研究。第 24 回日本エ イズ学会学術集会・総会、2010 年 11 月。 仲倉高広 1)仲倉高広:「チーム治療」、『心理臨床 学事典』、日本心理臨床学会編集、(刊行予定)、丸善 (株)出版、 2)仲倉高広、宮本哲雄:第9章 HIV 看護とカウンセリング、菅佐和子編、看護・保育・ 介護の心理学シリーズ第 2 巻、新曜社:99-110、2010 小西加保留 1)清水茂徳、磐井静江、小西加保留: 要介護状態にある HIV 陽性者を支える地域の社会資 源・制度に関する研究-拠点病院ソーシャルワーカ ーに対するアンケート調査より-。第 24回日本エ イズ学会、東京、2010 年 11 月. 2)平島園子、岡 本学、小西加保留、白阪琢磨:訪問看護導入時にお ける制度利用について。第 24回日本エイズ学会、 東京、2010 年 11 月 下司有加 1)下司有加:自立困難な HIV 陽性者の家 族の支援ニーズに関する研究。第 4 回日本慢性看護 学会学術集会、北海道、2010 年 6 月. 2)下司有 加、垣端美帆、上平朝子、富成伸次郎、岡本学、安 尾利彦、白阪琢磨:訪問看護ステーションにおける HIV 陽性者の受け入れに関する研究。第 24 回近畿エ イズ研究会学術集会、大阪、2010 年 6 月 藤原良次 1)藤原良次、早坂典生、橋本謙、荒木順 子、坂本裕敬、山縣真矢、間島孝子、白阪琢磨 ケ ースマネージメントスキルを使った行動変容支援サ ービスに関する研究。日本エイズ学会、東京、2010 年 11 月

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HIV 感染症の治療の開始時期と治療終焉の指標に関する研究

研究分担者:渡邊 大(国立病院機構大阪医療センター エイズ先端医療研究部 HIV 感染制御 研究室) 研究協力者:白阪 琢磨(国立病院機構大阪医療センター エイズ先端医療研究部) 上平 朝子(国立病院機構大阪医療センター 感染症内科) 大北 全俊(大阪大学大学院文学研究科 倫理学・臨床哲学研究室) 岡本瑛理子(国立病院機構大阪医療センター エイズ先端医療研究部) 蘆田 美紗(国立病院機構大阪医療センター エイズ先端医療研究部) 鈴木佐知子(国立病院機構大阪医療センター エイズ先端医療研究部)

研究要旨

【目的】抗 HIV 薬を複数用いる多剤併用療法(highly active antiretroviral therapy; HAART)の登場によ って HIV 感染者の予後は改善した。しかし、長期服薬に伴う薬剤毒性の蓄積や、治療開始時期や治療終焉の目安 等、未解決の問題も多い。そして、急性 HIV 感染症に関しては国内での研究はほとんど行われていない。今年度 は、(1)薬剤の毒性としての血清 CK-MB の上昇の解析、(2)治療開始時期および終焉時期の指標として残存プ ロウイルス量の測定系の改良、(3)急性 HIV 感染症の早期発見のための倫理的な課題を明確にすることを目的 とした。【方法】(1)HAART 内服症例の血清 CK、CK-MB、ミトコンドリア CK 活性の定量を行い、投与薬剤との関 連性について検討した。(2)残存プロウイルス量は TaqMan PCR 法に加え、ポワソン分布法を実施し、その相違 について検討した。(3)急性 HIV 感染症の早期発見のための倫理的課題に関しては医療従事者に対するインタ ビュー調査を行った。【結果】(1)Tenofovir(TDF)の投与と血清 CK-MB の上昇との間に関連性を認め、この上 昇はミトコンドリア CK 由来であることを明らかとした。(2)昨年度に開発した TaqMan PCR 法とポワソン分布 法の結果の一致性は良好であった。(3)検査および告知の問題点の整理・急性感染者のサポートの状況・感染 源の特定およびパートナー告知の問題・急性感染に関する情報提供のあり方についての検討する必要性があげら れた。【考察】(1)血清ミトコンドリア CK 活性の上昇の臨床的意義を明らかにするためには、TDF 投与による 経時変化や臨床指数との相関等について、さらなる検討が必要である。(2)TaqMan PCR 法とポワソン分布法を 組み合わせることにより良好な再現性・定量性が得られたため、HAART を長期間継続している症例を中心に測定 を継続し、臨床経過との関連性について検討を行う。(3)海外文献、医療従事者へのインタビュー調査をもと に患者へのアンケート調査を実施し、総合的な結論を導きだすことを検討する。 研究目的 1990年代の後半から登場した複数の抗HIV薬を 用いる多剤併用療法(highly active anti- retroviral therapy;HAART)によって、HIV感染 症は致死の病から、コントロール可能な慢性疾患 となった。しかし、多くの課題は解決されずに残 されている。HAARTによって血中のウイルス量は 測定感度未満となるが、寿命の長い潜伏感染細胞 を除去することができず、一生、抗HIV薬を内服 する必要がある。このことから、抗HIV薬の毒性 の蓄積が危惧される。また、抗HIV薬の血中濃度 を保つために厳密な内服が必要とされ、飲み忘 れ・飲み遅れ等により薬剤耐性ウイルスの誘導が 引き起こされる。この事実はHAARTを内服する患 者に多大な精神的負担をかけることになる。最後 に、抗HIV薬の薬価が高いことがあげられる。一 人の年間の医療費は300万円、一生の医療費は1億 円と推定されている。このように、HIV感染症の 予後を劇的に改善したHAARTであるが、今後、解 決すべき“陰”の側面も残されており、治療を強 いられる患者にとっては、身体的・精神的・経済 的負担は多大である。

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HAARTによる解決すべき問題点の一つとして薬 剤の副作用があげられる。体内のHIVの増殖を抑 制し、免疫能の回復があったとしても、抗HIV薬 の毒性によるQOLの低下や平均寿命の短縮は避け るべきである。従って、毒性の蓄積を早期発見す るための指標開発が必要である。我々はこのよう な観点から、血清Creatine kinase(CK)活性に 注目し、平成21年度の成果としてTenofovir(TDF) 投与症例において血清CK、CK-MBが上昇している ことを明らかとした。そこで本年度は新規に開発 されたミトコンドリアCK活性を阻害する抗体を 用いた測定系により、CK・CK-MB活性に加え、ミ トコンドリアCKの活性の測定も実施した。 抗HIV療法をいつ開始するかについては多くの 議論がなされている。CD4陽性Tリンパ球数が350/ μlを上回った場合に計画的に治療を中断すると いう臨床試験(SMART Study; N. Engl. J. Med.355, p2283, 2006)に加え、大規模なコホート研究の 結果(N. Engl. J. Med.360, p360, 2009および Lancet 373, p1314, 2009)もこの1年の間に報告 された。結果は多少異なるものの、臨床試験とコ ホート研究の後者からはCD4数が350/μl以下で HAARTを開始すべきであり、治療を遅らせた場合、 心血管系イベント・腎疾患・肝疾患・非AIDS関連 悪性腫瘍が問題になるとされた。一方、Kitahata らのコホート研究(前者)はCD4数が500μl以下 で治療すべきと結論づけている。現在無作為割付 国際臨床試験(Strategic Timing of Anti- Retroviral Treatment, NCT00867048)が行われ、 開始すべきCD4数は350/μlなのか、それとも500/ μlであるべきかが検討されようとしている。一 方、治療の終焉に関する研究はあまり進歩が見ら れていない。2003年の報告(Nat. Medicine 9, p727, 2003)では、潜伏感染細胞の半減期は平均44ヶ月 と推定され、100万個の潜伏感染細胞をすべて駆 逐するのに平均73.4年かかるという結果であっ た。この仮説が正しければ、多くの症例で治癒は 困難であるが、抗ウイルス効果が際立って良好な 症例等では治癒する可能性も示唆している。我々 は先行研究で、残存プロウイルス量が臨床指数と して有効か否かを検討した。残存プロウイルス量 には以下の特徴があった。(1)HAART導入前の CD4陽性Tリンパ球数と逆相関を示した。(2)急 性期での治療導入例では低レベルに維持されて いた。(3)治療期間と逆相関を示した。(4) 残存プロウイルス量の比較的高い2症例から、非 AIDS関連悪性腫瘍が発生した。これらの観察から は、残存プロウイルス量が開始時期の検討および 治療終焉の指標となりうることが示された。しか し、先行研究で用いた方法では感度や再現性とい った点に問題があった。昨年度はTaqMan PCR法の 改良を行ったが、本年度は 他のプライマー・プ ローベによるTaqMan PCR法や競合的PCR法、ポワ ソン分布法との相違について検討し、昨年度の開 発したTaqMan PCR法による測定系の妥当性につい て検討した。 3つめの研究課題として急性感染に注目した。 急性HIV感染症は多くの症例で症状が出現してい るにも関わらず診断が困難であること、標準的な 治療指針がないことが臨床上の問題にあげられ る。それ以外にも、早期発見・早期診断・告知・ パートナー検診にも課題は残されており、国内で の研究も社会学としてはほとんど行われていな い。そこで本研究では、急性感染者の早期発見を めぐる倫理的な課題を明確にすることを目的と した。平成21年度は文献調査を行い、それらの結 果を踏まえて、国内の医療従事者を対象にインタ ビュー調査を行った。詳細(方法・結果・考察) については別項を用意したため、そちらを参照さ れたい。 研究方法 HAARTが導入されている症例もしくは導入予定 の症例より血清を採取し、CK・CK-MB活性を測定 した。CK-MB活性は通常法とミトコンドリアCKに 対する阻害抗体を含んだ2種類の測定を行った。 抗HIV療法が導入され血中HIV-RNA量が感度未満 で維持されている症例を対象とし、末梢血から CD4陽性Tリンパ球を分離し、DNAを抽出した。精 製したDNAを鋳型として、Lightcycler DX400を用 いてTaqman PCR法でコピー数を決定した。HIV-DNA 量は1μgに含まれるコピー数として算出した。ま た、競合的PCR法やポワソン分布法を用いてコピ ー数を決定した。

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(倫理面への配慮) 各研究について、院内の倫理委員会に相当する 受託研究審査委員会で倫理審査を行い、承認を取 得した(承認番号 0819、0973)。この審査委員会 で審査・受理された方法で研究を遂行し、具体的 には文書での同意の取得や、検体処理やデータ管 理の際の匿名化などを行った。 研究結果 TDFを含むレジメンで抗HIV療法が施行されて いる18例に対して血清のCK-MBの酵素活性を測定 した。16例(89%)で正常範囲の上限の25 IU/Lを 超えて上昇していた。一方、ELISA法では全例が 正常範囲内である5 ng/ml未満であった。CK-MBが 91 IU/Lと高値を示した1例に対して等電点電気泳 動法を行ったところ、CK-MMのピークの陰性側に 小さなピークを認め、ミトコンドリアCKに矛盾し ない位置であった。次にミトコンドリアCKの阻害 抗体を含んだ測定系でCKの活性値の測定を行っ た。全例で従来法より低い値を示し、16例(89%) で正常上限である6 IU/L以下となった。従来法と ミトコンドリアCK阻害抗体を含んだ新規法の差 が、血中ミトコンドリアCK活性として算出された。 以上のことから、TDFで加療されているHIV感染者 の血中ではミトコンドリアCKが出現しており、そ のミトコンドリアCK活性は定量が可能であるこ とが示された。次に対象症例を拡大してミトコン ドリアCK活性を測定した。治療未経験者15例 (naive群)、TDFを含んだ治療患者44例(TDF群)、 TDFを含まないレジメンによる治療患者51例(非 TDF群)を対象とした。TDF群ではミトコンドリア CK活性の平均は16.0 IU/Lとなり、非TDF群(平均 3.4 IU/L)およびnaive群(平均 4.8 IU/L)と 比 較 し て 統 計 学 的 有 意 に 上 昇 し て い た (Student's t test, p<0.0001)。非TDF群とnaive 群での差は認めなかった。同クラスの薬剤(ABC、 AZT、d4T、ddI)で非TDF群を分類し、TDF群との 比較を行った。TDF群でのみミトコンドリアCK活 性の上昇を認め、ABC・AZT・d4T・ddI群ではいず れも上昇を認めなかった(Student's t test, p<0.0001)。TDF群で併用された抗HIV薬について 検討を行った。TDF群における併用薬は3TC(15例)、 FTC(29例)、EFV(9例)、NVP(3例)、ATV(17 例)、LPV(12例)、DRV(1例)であったが、併 用薬によるミトコンドリアCKの活性の差は認め なかった。以上のことから、ミトコンドリアCK活 性の上昇はTDFに特異的であることが示された。 残存プロウイルス量の測定に関しては、平成21 年度に開発を行ったTaqMan PCR法による測定系 (gag)、文献で高頻度に引用されているTaqMan PCR法による測定系(SK)、gagを用いた競合的PCR 法、ポワソン分布法の4つについて比較検討した。 競合的PCR法のcompetitorは、gagのプローベ結合 部位をATCGの比率のみ一致させた別個の配列に 置換したものを昨年度に作製を行った。この cometitorを用いてTaqMan PCR法にて定量を行っ たが、低コピー数においてはcompetitorが加わる ことによりPCRの効率が上昇するという反応が認 められ、定量性に乏しいことが明らかとなった。 次にgag・SKの2種のTaqMan PCR法について検討し た。gagによるTaqMan PCR法の詳細は昨年度の報 告書通りであるが、プライマー・プローベともgag 遺伝子内に設計され、そのアンプリコンは108 bp (HXB2の核酸配列で1252-1359)、50 copies/tube まで定量が可能であり、そのCV値はintra-assay で35%、inter-assayで20%であった。一方、SKに よるTaqMan PCR法では、アンプリコンは131 bp (HXB2の核酸配列で1368-1498)、50 copies/tube まで定量が可能であり、そのCV値はintra-assay で28%、inter-assayで42%であった。臨床検体の gagによる測定では74~2050 copies/μgに分布し たものの、SKでは1620-5900 copies/μgと、SKに おいて高値を示した。ポワソン分布法によって算 出したコピー数は59-3172 copies/μgであり、gag による測定結果と良く一致したが、SKとは直線性 にも乏しかった(図1)。最後に、臨床検体にお ける希釈再現性について検討した。Inputを4分の 1としてTaqMan PCRで定量を行い、測定結果を4倍 して希釈しない時の結果との比較を行った(図2)。 gagでは希釈再現性は良好であったが、SKでは特 に低コピー数のサンプルで希釈再現性が不良で あった。

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考察 昨年度の研究でTDFの投与と血清CK-MBとの関 連性が見いだされた。ミトコンドリアCKの活性を 特異的に阻害するモノクローナル抗体が開発さ れたため、その測定系を用いてCK-MBの上昇がミ トコンドリアCKに由来するものであることを明 らかとした。この上昇は、TDF特異的であり、TDF 内服症例の8割以上で認められた。ミトコンドリ アCKは腎臓の尿細管に豊富に存在していること や、TDFによる尿細管細胞のミトコンドリア障害 が存在する可能性が報告されていること、TDFの 腎機能障害・近位尿細管障害が臨床で大きな問題 となっていることから、TDF内服症例における血 清ミトコンドリアCK活性の解析は副作用の解決 の糸口になる可能性もある。来年度はTDF投与後 の血清ミトコンドリアCK活性の変動、腎機能や TDFの血中濃度といった臨床指数との関連性につ いて解析を行いたい。 残存プロウイルス量はいまだstandard method が存在しない。これは残存プロウイルス量の測定 が困難であり、その原因としてはゲノムDNAと比 較してコピー数の少ないことや、HIVのシークエ ンスの多様性が関与していると考えられる。商業 ベースで行われている血漿中のHIV-RNA量の測定 も現在リアルタイムPCR法で行われており、現在 の主流のキットがロシュから販売されているコ バスTaqMan HIVである。その名の通りTaqMan PCR 法でコピー数の算出を行っているが、50-100 copies/mlあたりが他のキットとの差が大きく、 臨床の現場においても大きな問題となっている。 その原因としては、輸送や保管の問題に加え、プ ライマー・プローベミスマッチも関与している可 能性はある。本研究では、通常のTaqMan PCR法と ポワソン分布法による測定系の開発を行った。SK のプライマー/プローベセットでは希釈再現性 に劣ることが明らかとなったが、gagは希釈再現 性、ポワソン分布法との一致性の両者ともに良好 であった。我々の測定系では、ポワソン分布法の プライマーはgagのプライマーの近傍に位置し、 gagとは別個の配列を使用している。従って、こ の2種の測定系を同じサンプルに採用することに より、ミスマッチの存在やサンプルへのPCRの阻 害物質の混入のためにコピー数が過小評価とな ったとしても、識別は可能である(ポワソン分布 法はサンプルを高倍率に希釈するため阻害物質 の影響は少ないと考えられる)。実際、両者を行 い測定値が50倍異なるサンプルがあったが、 TaqMan PCR法のミスであることが容易に判明した。 以上より、臨床指数として計測可能な残存プロウ イルス量の測定系の開発は終了したと考えられ、 来年度はHAARTを長期間継続している症例を中心 に測定を継続し、臨床経過との関連性について検 討を加えたい。 結論 TDF の投与と血清 CK-MB の上昇との間に関連性 を認め、ミトコンドリア CK 活性の阻害抗体を用 いることによって、この上昇はミトコンドリア CK 由来であることを明らかとした。臨床的意義を明 らかにするためには、TDF 投与による血清ミトコ ンドリア CK 活性の特徴についてのさらなる検討 が必要である。治療開始時期および終焉時期の指 標として残存プロウイルス量の測定系の開発を 行い、TaqMan PCR 法とポワソン分布法を組み合わ せることにより良好な再現性・定量性が得られた。 来年度は HAART を長期間継続している症例を中心 に測定を継続する予定である。急性 HIV 感染症の 早期発見のための倫理的な課題を明確にするた めに、医療従事者に対するインタビュー調査を行 った。検査および告知の問題点の整理・急性感染 者のサポートの状況・感染源の特定およびパート ナー告知の問題・急性感染に関する情報提供のあ り方についての検討する必要性があげられた。こ れらの結果をもとに、来年度は患者へのアンケー ト調査を実施する予定である。 健康危険情報 該当なし。 知的財産権の出願・取得状況 該当なし。 研究発表 1)原著論文による発表 (予定を含む)

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Watanabe D, Uehira T, Yonemoto H, Bando H, Ogawa Y, Yajima K, Taniguchi T, Kasai D, Nishida Y and Shirasaka T. Sustained high levels of interferon-gamma during HIV-1 infection: Specific trend different from other cytokines. Viral immunology. 2010;23(6):619-25

Watanabe D, Taniguchi T, Otani N, Tominari S, Nishida N, Uehira T, Shirasaka T. Immune reconstitution to parvovirus B19 and resolution of anemia in a patient treated with highly active antiretroviral therapy: A case report. J Infect Chemother. in press. 2)口頭発表 渡邊大、米本仁史、坂東裕基、小川吉彦、矢嶋 敬史郎、谷口智宏、笠井大介、西田恭治、上平 朝子、白阪琢磨:血漿HIV-RNA量が測定感度未 満に到達するまで長期の日数を必要した初回 抗HIV療法導入例の解析。第24回近畿エイズ研 究会学術集会、大阪、2010年6月 渡邊大、伊部史朗、近藤恭子、上平朝子、南留 美、笹川淳、矢嶋敬史郎、米本仁史、坂東裕基、 小川吉彦、谷口智宏、笠井大介、西田恭治、山 本政弘、金田次弘、白阪琢磨:残存プロウイル ス量測定の臨床的意義について。第24回日本エ イズ学会総会・学術集会、東京、2010年11月 大北全俊、渡邊大、白阪琢磨:急性感染者の早 期発見の促進に関する倫理的な課題について。 第24回日本エイズ学会総会・学術集会、東京、 2010年11月

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急性感染者の早期発見のための医療機関と社会とのコミュニケーションの形成

研究分担者:渡邊 大( 国立病院機構大阪医療センター エイズ先端医療研究部 HIV 感染制 御研究室) 研究協力者:大北 全俊( 大阪大学大学院文学研究科倫理学・臨床哲学研究室)

研究要旨

本研究の目的は、急性感染者の早期発見を促進するにあたって、想定される倫理的な課題を明確にすることで、 早期発見の促進の是非およびその促進の方法(医療機関と社会とのより緊密なコミュニケーションのあり方な ど)について検討するための論点を提示することである。本年度は、初年度の文献研究によって析出された論点 に基づきつつ、HIV 診療の拠点病院で急性感染者に関わる医療関係者にインタビュー調査を実施し、急性感染者 の置かれている状況や医療機関の現状、および早期発見に対する考えなどについて調査した。早期発見それ自体 の意義は一致して認めつつも、早期発見を促進するにあたっては、医療機関の受け入れ体制や社会保障制度など の点で検討するべき点があるという指摘がなされた。今後は、医療関係者の調査に基づき、急性期に感染が判明 した患者に対して調査を行い、陽性者の視点からみた現状について調査をする必要があるものと考える。 研究目的 本研究の目的は、急性感染者の早期発見を促進 するにあたって、想定される倫理的な課題を明確 にすることで、早期発見の促進の是非およびその 促進の方法(医療機関と社会とのより緊密なコミ ュニケーションのあり方など)について検討する ための論点を提示することである。初年度は主に 関連する文献を分析することによって、検討する べき論点を析出した。本年度は、急性感染者を取 り巻く現状の調査のはじめとして、医療機関の関 係者の視点から見た現状について明確にするこ とを目的とした。 研究方法 HIV 診療の拠点病院の医療関係者(医師 1 名、 看護師 2 名、臨床心理士 4 名、メディカルソーシ ャルワーカー 3 名)に半構造化面接法によりイン タビュー調査を行い、トランススクリプトを作成 し分析した。 研究結果 1)急性感染者に関わるまでの経緯については、 何らかの身体症状によって他の一般の医療機関 を受診し、そこで感染が判明してから拠点病院に 転院するというケースが多かった。また、どこの 医療機関とは特定されないが、告知のあり方とし て、本人の了解を得ることなく本人以外の人物に 告知をするなど、倫理的に問題のある告知がなさ れているという場合もあった。2)急性感染者へ の十分なサポートを維持しながら早期発見を促 進する場合、現状の医療機関のマンパワーでは難 しいという指摘がなされた。3)感染源の特定に ついては、ごく限定されていてかつ不確かである という指摘があった。4)現行の身障制度は急性 感染での服薬治療に対応していないため、社会資 源の安定した利用という面で不安があるという 指摘があった。5)早期発見の促進自体の意義は 一致して認められていたが、これまでに指摘した ような懸念とコミュニティへの情報提供につい ては配慮も必要だという指摘があった。 考察 早期発見の意義は認めつつも、一般の医療機関 での告知のあり方や拠点病院のマンパワー、社会 保障制度などに検討するべき点があることが明 確になった。 結論 本年度の調査によって医療関係者の視点から 見た現状と問題点が明確になった。今後はさらに、

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コミュニティなどで啓発や支援に従事するNPO関 係者や急性期に感染が判明した陽性者自身に調 査をし、より多角的に現状を明確にする必要があ るものと考える。 健康危険情報 該当なし。 知的財産権の出願・取得状況 該当なし。 研究発表 大北全俊、渡邊大、白阪琢磨:急性感染者の早期 発見の促進に関する倫理的な課題について。第24 回日本エイズ学会総会・学術集会、東京、2010年 11月

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治療終焉のためのプロウイルスDNA等臨床指標の開発に関する研究

研究分担者:岩谷 靖雅(国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター)

研究要旨

HIV/AIDS 治療薬の開発によって HIV 感染者の予後は著しく改善され、既に満足できるレベルに達している様 に見える。しかし、終生にわたって服薬の継続が求められ、治療の長期化がより高まり将来的には様々な問題に 直面する可能性を考慮しなければならない。一方、インテグラーゼ阻害剤や CCR5 阻害剤等の新規な阻害機序に よる抗 HIV 薬剤の登場は、「治療の終焉」という期待を高めた。しかし、その可能性は、現状では厳しいと考え られる。このような状況をふまえると、長期的な視野に立った感染者の病態変化の的確なモニタリングが増々重 要になると考えられる。そこで、我々は、本年度においては、ウイルスのプロウイルス DNA 等の臨床指標を利 用して、病態と密接にリンクすると考えられているウイルス env の遺伝子情報配列と、そのケモカインレセプ ター (CR) 指向性との関連性について解析・研究を行った。 研究目的 長期化する HIV 感染症に対する多剤併用療法の投 薬効果と病態変化の的確なモニタリングするための プロウイルス DNA 等の臨床指標を開発する基礎的基 盤を構築することを目的とし、本分担研究課題にお いては、ケモカインレセプタートロピズムを判定す るGenotype Assay構築に関する研究に取り組んでい る。 HIV のケモカインレセプター(CR)トロピズムは、 感染者の病態進行と深く関連している。さらに、CR 拮抗薬マラビロック (MVC) の治療導入時には、その 有効性を予測するために感染者がもつウイルスの CR トロピズムの判定は必要不可欠な状態になって いる。しかし、その判定方法は、phenotype Assay を 利用した特殊であるため、時間とコストが大きいと いう問題が生じている。さらに、この判定は、海外 の検査会社に頼らざるを得ないのが現状である。も し、検体中のウイルスの遺伝型から CR トロピズム を判定 (Genotype Assay) できれば、本邦だけでな く、世界各国で、現場レベルでの迅速判定(検査) が可能になると考えられている。これを実現するた めには、ウイルスの env 遺伝子配列の情報から、CR トロピズムを判定するデータベース作りが必要であ る。現在、env 遺伝子の V3 近傍領域の配列情報か らトロピズムを判定するデータベースを利用した、 Geno2pheno[coreceptor](URL: http://coreceptor. bioinf.mpi-inf.mpg.de/index.php) が用い始めら れている。CR トロピズムでは、V3 領域のアミノ酸 配列が最も重要な決定因子であるが、その他の env 遺伝子領域にも影響されることが知られている。そ のため、現存のデータベースだけでは、トロピズム 判定の精度は低過ぎる。そこで、本研究では、env (gp120) 遺伝子配列の情報とそれに呼応する CR ト ロピズムデータの情報蓄積を行い、将来的な CR ト ロピズム Genotype Assay に向けたデータベースの 基盤構築を行うことを目的として研究を行った。 研究方法 (1)血漿ウイルスからの HIV-1 env 遺伝子のクロ ーニング HIV-1 陽性(サブタイプ B、血中ウイルス量 104 コピー/ml 以上)患者血漿 (200 µl) から、MagNA Pure Compact (Roche) により Total RNA を抽出し た。あらかじめ Los Alamos の HIV Databases を参 照し、サブタイプ B の env 遺伝子領域を効率よく 増幅できるプライマーセットを見出した。先に抽出 した RNA を One-step RT-PCR 法により cDNA に変 換し、Nested-PCR により env cDNA を増幅した。 RT-PCR に は 、 vpr primer (5830-5848) と U3 primer(9170-9146) を、Nested PCR には rev primer (5965-5982) と ppt primer (9058-9079) をそれ ぞれ用いた。rev primer には、5’側に CACC(4 塩 基)を付加した。増幅した env cDNA を pcDNA Gateway Directional TOPO cloning キ ッ ト

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(invitrogen)を用いて、env の orf が“一方向性” (特異的方向性)になるように Env 発現プラスミド に挿入した。得られた各クローン(1症例あたり4 クローンずつ)の遺伝子配列を決定した。さらに、 各クローンは培養細胞(HEK 293T 細胞)に導入する ように精製・調製した。

図1 血漿中 HIV-1 RNA からの env cDNA の増幅と発現プラ スミドへのクローニング (2)各クローンの HIV のケモカインレセプター (CR) トロピズムの判定 各 Env 発現プラスミドを HEK 293T 細胞に、 pNLuc Env(-) プラスミドと共導入し、培養上清 (Pseudo-Typed ウイルス)を作製した。内在性 CR を 発現していない NP-2 細胞に様々な CR を安定発現 する細胞(群馬大学、星野先生と清水先生より供与) に、Pseudo-typed ウイルスを感染させ、感染後 48 時間後に、感染細胞内の Luciferase 活性を測定し た。得られた Luciferase 活性の値を相対的に比較 することにより、各 Env クローンがどの CR に指向 性を示すか判定した。 図2 NP-2 細胞を利用したケモカインレセプター指向性の判定 (倫理面への配慮) ウイルス遺伝子配列解析に関して HIV-1 のウイルス疫学調査では全て検体が匿名化 されるため、万が一の情報漏洩の事態においても個 人情報の流出は起こりえない。また、調査にあたっ ては疫学研究に関する倫理指針(平成 19 年文部科学 省・厚生労働省告示第1号)で定めた倫理規定等を、 臨床研究に関する倫理指針(平成 20 年厚生労働省告 示だい 415 号)で定めた倫理規定等を遵守する。疫 学的研究を実施する研究施設、国立病院機構名古屋 医療センターにおける倫理委員会の承認は既に得て いる。 研究結果 (1)血漿ウイルスからの HIV-1 env 遺伝子の増幅 と発現プラスミドベクターへの挿入・クローニング Los Alamos の HIV-1 遺伝子配列情報より、サブ タイプ B 間で env orf を取り囲み、かつ高度に保存 されている遺伝子領域(連続した 18 塩基)を選択し、 プライマー設定領域とした。その中で、ランダムに 選択した検体(16 検体)より最も効率よく増幅する ことができたプライマーの組合せを検討した。その 結果、RT-PCR には、vpr primer (5830-5848)と U3 primer(9170-9146) を、Nested PCR には rev primer (5965-5982) と ppt primer (9058-9079) を組み合 わせが、16/16 の成功率で増幅することができ、こ れらのプライマーセットを env 遺伝子領域(全長) の増幅プライマーとした。増幅産物をダイレクトシ ークエンスにより遺伝子配列を確認した際に、エレ クトログラムから、特に、Env 可変領域に明らかな Quasi-species を示す結果(16 検体すべてが nonsynonymous substitution として3塩基置換以 上)が得られた。増幅できた env 遺伝子を、TOPO ク ローニング(invitrogen)に、方向性をもたせて遺伝 子挿入が可能な仕組みを組み入れた方法により、直 接、遺伝子発現プラスミドベクターに組み込んだ。 最終的に、上述 16 検体も合わせ、72 検体から Env を発現できるプラスミド(各 6 クローン)を作製す ることに成功した。さらに、これらの遺伝子配列を 決定した。

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(2)ケモカインレセプター(CR)トロピズムの判定 NP-2 ベースの CR 指向性を、図2に示す方法で 判定した。CR として、CXCR1、CXCR2、CCR1、CCR3 (R3)、 CXCR4 (X4)、CCR5 (R5)、CCR6、CCR8、GPR1、STRL33、 Duffy Blood Group Ag の 11 種について調べた。上 述 72 検体(各1クローンずつ)について指向性を 判定した結果を図3に示す。まず、R3、X4、R5 以 外の CR 指向性 Env は見出せなかった。X4 指向性 Env は2検体、X4 と R5 の両指向性(Dual Tropic) は2検体見出された。R5 指向性は、27 検体であっ た。興味深いことに 27 検体の R5 指向性 Env の内、 24 検体が R3 にも指向性を示す結果が得られた。R5 指向性を示す Env のアミノ酸配列を、Geno2Pheno を用いた指向性予測(V3 loop 領域のアミノ酸配列 のみから予測)を行った結果、27 検体、すべてが R5 指向性として判定された。以上のことから、R5 指 向性ウイルスの多くが R3 にも指向性があること が明らかになった。ちなみに、12 検体については、 いずれの細胞株においても Luciferase の活性が 検出できなかった。 図3 NP-2 細胞を利用した Env (72 検体)の CR 指向性判 定の結果を示す 考察 HIV-1 サブタイプ B においては、R5 指向性の Env は R3 に対しても指向性を示すケースが多いと いう結果は、最近、Dr. Mosier らによっても同様な 傾向があることが報告された (J. Virol 2009 83. 8353-8363)。しかし、彼らの報告では 18 検体のみの 解析であった。今後、解析検体数を増やし、R3 と R5 の両指向性を決定する Env のアミノ酸配列(領域) を解析する必要がある。さらに、HIV-1 サブタイブ B が、R3 指向性をもつ臨床的意義が全く分かってい ないため、病歴とも照らし合わせて、Env の CR ト ロピズムを解析することが重要であると考えられる。 また、R5 阻害剤投与により R3 指向性 Env がどの ように変動するのかについても詳細な解析をしてい きたいと考えている。 結論 Env 配列の情報を利用した基盤データベースは、 ケモカインレセプターの指向性を判定する目的だけ でなく、患者の病態把握や病態予測にも応用できる 可能性がある。例えば、患者の血球中のプロウイル ス DNA の env 情報と血中ウイルスの Env 情報を 比較することにより、ウイルスの免疫からの逃避状 況や体内でのウイルスの複製活動状況が的確に判断 することに応用できると考えられる。膨大な env 遺 伝子の情報データベース構築に向けて、次年度も継 続して env 遺伝子配列情報と CR 指向性情報を蓄 積して行きたいと考えている。 健康危険情報 該当なし 知的財産権の出願・取得状況 該当なし 研究発表 (1)原著論文による発表 (予定を含む)

Ibe, S, Yokomaku, Y, Shiino, T, Tanaka, R, Hattori, J, Fujisaki, S, Iwatani, Y, Mamiya, N, Utsumi, M, Kato, S, Hamaguchi, M, Sugiura, W: HIV-2 CRF01_AB: first circulating recombinant form of HIV-2. J Acquir Immune Defic Syndr. 54:241-247 2010

Fujisaki S, Yokomaku Y, Shiino T, Koibuchi T, Hattori J, Ibe S, Iwatani Y, Iwamoto A, Shirasaka T, Hamaguchi M, Sugiura W: Outbreak of hepatitis B virus genotype A and transmission of genetic drug resistance in cases coinfected with HIV-1 in Japan. J. Clin. Microbiol. (2011). in press

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朗、岩谷靖雅. HIV 細胞進入とその防御機序: 日 本エイズ学会誌 12:67-73 2010

(2)口頭発表

Iwatani Y, Liu L, Chan DS, Yoshii H, Levin JG, Gronenborn AM, Sugiura W: Structure-

guided mutagenesis of APOBEC3G reveals four lysine residues critical for HI V-1 Vif-mediated ubiquitination/degradation. Cold Spring Harbor Laboratory 2010 Annual Meeting on Retroviruses. New York, NY. USA. 2010. May Yoshii H, Kitamura S, Sugiura W, Iwatani Y: Constitutive activation of Stat1 causes spontaneous APOBEC3G expression, which determines permissive phenotype against vif-deficient HIV-1 replication in T-cell lines. Cold Spring Harbor Laboratory 2010 Annual Meeting on Retroviruses. New York, NY. USA. 2010. May

Iwatani Y, Chan DS, Liu L, Yoshii H, Shibata J, Levin JG, Gronenborn AM, Sugiura W: Structure-guided mutagenesis of APOBEC3G reveals four lysine residues critical for HIV-1Vif-mediated ubiquitination/

degradation near the C-terminal end. The 5th JAPAN-GERMANY HIV/AIDS Symposium, Tokyo, Japan. 2010. May 岩谷靖雅:宿主防御因子 APOBEC3 ファミリーと抗 レトロウイルス機序。 第 58 回日本ウイルス学会 学術集会、徳島、2010 年 11 月 松永智子、小島良績、澤崎達也、森下了、佐久間 龍太、岩谷靖雅、杉浦亙、山本直樹、梁明秀:コ ムギ無細胞タンパク質合成系を用いた新規ガンマ レトロウイルス XMRV プロテアーゼの解析。 第 58 回日本ウイルス学会学術集会、徳島、2010 年11 月 吉居廣朗、北村紳悟、前島雅美、杉浦亙、岩谷靖 雅:リンパ球由来細胞株における vif 欠損 HIV に 対する異なる感受性は Stat1 活性化状態に相関す る。 第 58 回日本ウイルス学会学術集会、徳島、 2010 年 11 月 北村紳悟、吉居廣朗、前島雅美、横幕能行、杉浦 亙、岩谷靖雅:APOBEC3C における HI V-1 Vif に対 する感受性を決定する領域の探索。 第 58 回日本 ウイルス学会学術集会、徳島、2010 年 11 月 岩谷靖雅、北村紳悟、吉居廣朗、前島雅美、横幕 能行、杉浦亙:HIV-1 Vif 感受性及びウイルス粒 子への取り込みに関する APOBEC3C の機能ドメイ ンの探索。第 24 回日本エイズ学会学術集会・総会、 東京、2010 年 11 月 吉居廣朗、前島雅美、北村紳悟、横幕能行、杉浦 亙、岩谷靖雅:抗 HIV 宿主因子 APOBEC3 ファミリ ーの細胞依存的な発現調節機構の解明。第 24 回日 本エイズ学会学術集会・総会、東京、2010 年 11 月 伊部史朗、横幕能行、服部純子、岩谷靖雅、加藤 真吾、杉浦 亙:抗レトロウイルス療法のモニタリ ングのための plasma HIV-2 viral load 測定系の 確立。第 24 回日本エイズ学会学術集会・総会、東 京、2010 年 11 月 横幕能行、今村淳治、平野淳、木下枝理、柴田雅 章、服部純子、伊部史朗、岩谷靖雅、杉浦亙:名 古屋医療センターにおける etravirine の使用状 況と効果および適応に関する検討。第 24 回日本エ イズ学会学術集会・総会、東京、2010 年 11 月 奥村かおる、横幕能行、三和治美、山田由美子、 杉浦亙、岩谷靖雅、平野淳、木下枝理:ベナンバ ックス吸入時の苦味の軽減に対するハッカ飴の使 用とその効果 第2報−他の有効な手段を探すため のハッカの有効性の検証—。第 24 回日本エイズ学 会学術集会・総会、東京、2010 年 11 月 今村淳治、横幕能行、服部純子、岩谷靖雅、杉浦 亙:新規 HIV/AIDS 診断症例におけるトロピズム に関する検討。第 24 回日本エイズ学会学術集会・ 総会、東京、2010 年 11 月

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HIV検査相談所におけるHBVの分子学的研究

研究分担者:杉浦 亙(国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター 感染•免疫研究部) 研究協力者:藤崎誠一郎(国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター 感染•免疫研究部) 伊部 史朗(国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター 感染•免疫研究部) 横幕 能行(国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター 感染•免疫研究部)

研究要旨

HBV は性交渉によって伝播することが知られており、HIV-1 感染者においても HBV の重複感染が報告されてい る。本研究では HIV-1 感染者における HBV の合併状況を明らかにすることを目的に国立病院機構名古屋医療セン ターを受診した新規 HIV/AIDS 感染者について HBV 感染の有無とそのジェノタイプの調査を実施した。今年度は 2009 年から 2010 年までの新規 HIV/AID 感染者 118 症例について調査を行った。その結果 118 例中 8 例(6.8%) に HBsAg 陽性が確認できた。これら 8 例は全て日本人の男性同性間性交渉者(Men who have Sex with Men: MSM) であった。8 例全例についてゲノム解析が可能であった。系統樹を基にジェノタイプを判定したところ、6 例が A、1 例が C、1 例が A/G リコンビナントであり、MSM 集団においてジェノタイプ A による感染拡大が継続して いる事が確認された。また系統樹上でジェノタイプ A は遺伝子的に近縁な集団を形成しており、tMRCA 解析でも 現在感染が拡大しているジェノタイプ A 株の起源が新しい事が推測された。HBV ジェノタイプ A は他の HBV ジェ ノタイプと比べて慢性化する率が高いと報告されていることからも、HBV 感染拡大を防止する策が求められる。 研究目的 日本では従来 B 型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus: HBV)は輸血および母子感染によって伝播し ていた。しかし、これらの感染経路に対する有効な 予防策がとられた結果、HBV 感染の疫学は急速に変 わりつつある。今日 HBV は性感染症として主に性交 渉を介して伝播しており、HIV-1 感染者の中には HBV に重複感染している例が散見される。我々は HIV-1 感染者における HBV の伝播状況を調べるため に、HIV/HBV 重複感染者の HBV および HIV のジェノ タイプ解析を行った。 研究方法 対象:独立行政法人国立病院機構名古屋医療センタ ーを受診した新規HIV/AIDS症例のうちHBV抗体検 査陽性の症例を対象とした。 解析方法:解析に使用した HBV および HIV-1 の遺伝 子領域 HBV ゲノム全長は L fragment (3167 bps) とS fragment (624 bps) の2本に分割してnested PCR にて増幅した(図 1)。ウイルスの核酸は、 MagnaPure(Roche)を使用して血漿から抽出した。 1st およびnested PCRに用いたポリメラーゼはそ

れ ぞ れ LA Taq(Takara), PRIME STAR HS DNA polymerase(Takara)である。HIV-1 については gag p17 (396bps), pol(1117bps), and env C2V3 (222bps) の 3 領域を nested PCR にて増幅した。

RT-PCR および nested PCR に用いたポリメラー ゼはそれぞれ SuperScript II for long template (Invitrogen),PRIME STAR HS DNA である。PCR 産 物は MultiScreenHTS PCR (Millipore) を用いて 精製した。精製した PCR 産物は BigDye ver.3 でラ ベリング反応を行った後、Sephadex G-25 (GE healthcare)で精製した。塩基配列は ABI 3130 (Applied Biosystems)を用いて決定した。 系統樹解析とジェノタイプ判定: 塩基配列はソフト

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ウェア MEGA4 を使用して Clustal W プログラムに よるアライメント処理を行った後に系統樹を作 成 し た 。 Evolutionary distances は maximum composite likelihood 法 、 系 統 樹 は neighbor-joining 法、replication 1,000 回の条件 で計算した。また、系統樹に標準株の塩基配列を入 れて解析することで、ジェノタイプ判定の基準とし た。HBV の標準株塩基配列は NCBI、HIV-1 標準株の 塩基配列はLosAlamosのウェブサイトから入手した。 さらに、2001 年に東京大学医科学研究所の鯉渕等が 報告した HIV/HBV 重複感染症例の 12 例の HBV 配列 を入手し名古屋で採取された配列との類縁関係に ついて解析した。収集した HBV 配列から各ジェノタ イプの発生年代(time of the most recent common ancestor: tMRCA)を類推するために Bayesian Markov chain Monte Carlo (MCMC) 法による解析を行った。 (倫理への配慮) 本研究は名古屋医療センターの臨床研究倫理委員 会において承認されている。研究の実施に当たって は疫学研究に関する倫理指針(平成 19 年 8 月 16 日 改定)で定めた倫理規定等を遵守する. 研究結果 2003 年から 2010 年の 7 年間に独立行政法人国立 病院機構名古屋医療センターを受診した新規 HIV/AIDS 症例は766 例であり、そのうち55 例(7.2%) が HBsAg 陽性であった。2010 年に限ってみると新規 HIV/AIDS 症例は 118 例であり、そのうち 8 例(6.8%) が HBsAg 陽性であった。年単位での HIV/HBV 重複感 染例検出率は、2003 年 3.1%、2004 年 2.7%と低く、 2005 年以降はバラツキがあるものの 5~12%と高い 頻度で推移している(図2)。 本研究で解析された54例は全員日本人MSMであり った。HBVの血中ウイルス量は、108.8以上が20 例、 101.8~108.8 が 19 例、101.8 未満が 2 例であった。 系統樹に基づいて HBV のジェノタイプを判定した結 果、A が 45 例、C が 7 例、A/G リコンビナントが 2 例であった(図 3)。 ジェノタイプ判定結果は、EIA 法による判定結果 と一致していた。また、ジェノタイプ C に分類され たサンプルは互いの遺伝子距離が遠い集団を形成し ていたのに対し、ジェノタイプ A の集団は遺伝子距 離が極めて近い関係にあった。このことから、HBV ジェノタイプ A はある特定の集団において、短期間 に感染が拡大した可能性が考えられた。一方、HIV-1 のサブタイプは全て B であった。次に、名古屋で検 出された HBV の塩基配列と、2001 年に東京で報告さ れている HBV の塩基配列を用いて作成した系統樹で は、名古屋の HBV ジェノタイプ A 集団と遺伝子距離 の極めて近縁な集団が形成された(図 4)。 系統樹を見ると 10 年前に採取されたサンプルと 比較しても遺伝子距離は近く、殆ど変化をしていな い事が明らかである。この事を踏まえて、Bayesian MCMC 法で tMRCA を計算すると A2 全体は 19 世紀末、

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