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座談会 新教育課程における 英語 に関する指導法 新課程では教科書の活動が充実進度を緩やかにして 生徒が活動する時間を増やす 小森本日は 新課程に伴って 高校の英語教育に 大きな変化が求められている中で どのような指導の工 夫をされているのか 意見交換をお願いしたいと思いま す まず 新課程に移行し

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全文

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新教育課程における

「英語」に関する

指導法

 

新教育課程(以下、新課程(注))の英語では、「 聞く 」「話 す」「読む」「書く」の4技能の統合を意識した指導をめざ して、科目構成や指導方法の見直しが行われた。主な変更 点として、すべての文法事項をコミュニケーション英語Ⅰ で扱うことを明確化した点や、指導する語数を充実した点 などがあるが、なかでも注目されているのは学習指導要領 の「第3款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱 い」に 「 授業は英語で行うことを基本とする 」 と記載され ていることだ。和訳に頼らずにどのように授業を構成して いるのか、生徒が話したり書いたりする活動をどのように 取り入れているかなど具体的な指導方法を中心に、5校の 先生方に意見交換をしていただいた。 ■司会

河合塾英語科講師  小森清久

河合塾英語科講師  柴田卓也

岡島岳暁

先生

飯田実

先生

野々村正

先生

十亀有紀

先生

伊藤久美子

先生

茨城県立竹園高等学校

茨城県立緑岡高等学校

東京都立国立高等学校

東京都立八王子東高等学校

文京学院大学女子高等学校

(本文中、敬称略)

参加者

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座談会

 新教育課程における「英語」に関する指導法

――小森 本日は、新課程に伴って、高校の英語教育に 大きな変化が求められている中で、どのような指導の工 夫をされているのか、意見交換をお願いしたいと思いま す。まず、新課程に移行して 1 学期を経た現時点での 各校の取り組みやご感想をお聞かせください。 岡島 竹園高校は「All English」型の授業を完全実施 して7年目に入りました。そのため、新課程になっても 教授法や教材に大きな変更はなく、教員の間でも混乱は 生じていません。とはいえ、新課程への移行に関係なく、 どのような授業が望ましいのか、常に試行錯誤の日々が 続いています。 飯田 緑岡高校では、1年生の英語を担当する3名の教 員で話し合い、英語の音声に多く触れさせようという共 通の方針のもと、授業を進めています。優れたデジタル 教材も登場していますから、iPad を活用するなど、さ まざまな方法を試して、生徒の反応を見ながら授業を進 めています。 野々村 新課程の1年生の教科書を見て驚いたのは、か なり高度なものも含めて語彙が大幅に増えていることで す。それに加えて生徒がテーマに沿って話したり書いた りする活動も多く掲載されています。そこで、国立高校 では、教科書の内容をしっかり定着させるため、従来よ りも進度を少し緩やかにするように配慮しています。 十亀 本校も同じような状況です。私は昨年度3年生を 担当していたので、「コミュニケーション英語Ⅰ」の教 科書を見るとかなり簡単に感じて、半年で終えられるレ ベルだと軽く考えていました。ところが実際に授業を始 めてみると、教科書では、新課程の理念を踏まえて、活 動がうまく組み込まれているため、予定の3分の2しか 進んでいません。 伊藤 文京学院大学女子高校は、伝統的に英語教育に力 を入れており、特に中高一貫コースでは、以前からネイ ティブの教員による英語会話教育を充実させてきました。 今年から始めた取り組みとしては、中学校で取り組んで きた「多読」を、高校の授業でも行うようにしたことです。 「多読」では生徒がそれぞれ自分のレベルにあった本を 読みます。中学校での様子を見ていると、物語的な文章 には慣れていくのですが、大学入試で出されるような評 論文が読めるレベルまで達する生徒は少なく、どのよう にその壁を超えるのかが今後の課題です。また、最近の 原書はCDがついているものが多いので、「多読」の授 業では、読むだけでなく英語を聞かせて、「多聴」も進 めています。さらに重視しているのが 「 多書 」 で、クラ スで共通のテーマに沿ってエッセイを書かせます。英作 文のような厳密さは求めず、文法は多少間違っていても よいのでたくさん書くよう指導しています。こうした実 際に英語を使って活動する時間を多く設けています。 ――小森 緑岡高校では 「 コミュニケーション英語Ⅰ 」 でデジタル教材を活用しているということでしたが、ど のように使用されているのですか。 飯田 各教室に設置されているプロジェクターを使用し て、新出語をフラッシュカードでチェックしたり、スク リーンに映し出された本文に書き込みを加えながら説明 したり、サマリーの空所補充問題をさせたり、そのほか 本文の内容理解のための資料の提示など、さまざまな利 用をしています。今まで板書に割いていた時間を有効に 活用できます。ただ、ほかの教員はデジタル教材を使用 していますが、私は部分的にしか使っていません。とい うのも、個人的には英語教員は生の音声で勝負しなけれ ばという思いがあるからです。CDの音声では、会話中 での音の省略、連結が多く、そのルールがわからない生 徒は戸惑ってしまいます。実際に私が発音し、その際に 口やアゴの動きをきちんと見せると、生徒は発音自体に 興味を持ち、一生懸命に真似をしようとします。新しい 単語やイントネーションを強調して読んだり、あえてイ ギリス系の発音で読んで地域性の違いに気づかせたりす ることもできます。その後、生徒に読ませて、ほかの生 徒に 「 今の読み方はどうだったか 」 と英語で質問します。 ほかの生徒から「おかしい」という指摘があると、発音 した生徒本人も自覚していますから、皆で一緒に練習し ようという雰囲気が生まれます。ほかの教員と比較する と、音声にかける時間が長くなっていますが、発音が伴 わなければ英語は読めない、理解できないというのが私 の持論であり、それでよいと考えています。 野々村 国立高校の 「 コミュニケーション英語Ⅰ 」 では、 まず教科書に付属しているCDを最初から最後まで通し 新課程では教科書の活動が充実 進度を緩やかにして、生徒が活動する時間を増やす 読解は音声や活動を重視した指導と 日本語も用いて精読させる指導のすみわけを明確に

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しています。授業で精読する英文は生徒に事前に通告し、 細かいところまで学び、定期考査でもそれに沿った問題 を出します。精読する場合、4~5行を丹念に読むこと に1時間かけることもあるほどです。 飯田 活動の部分については、指導だけではなく評価方 法を工夫することも大切です。例えば従来のように減点 法で英作文を採点するとすぐに0点になってしまいます。 それでは生徒が最初から書かない、話さない方がましと 思ってしまいます。そこで、緑岡高校では、キーワード を3つぐらい設定して、それを満たしていれば加点する ようにしました。新課程では、そうして、間違っていて もいいから積極的に英語を使ってみようという意欲を高 めることも重要だと思います。 ――小森 新課程になって語彙が大幅に増えたというご 指摘がありましたが、どのような指導をされていますか。 大幅に増えた語彙にどう対応するか 繰り返しスパイラル的に行いながら文章の内容を理解さ せます。時間はかかりますが、それが不可欠なことだと 思います。逆に教科書の本文以外に掲載されている補助 教材の英文は、英語で教えるには難度が高いので、徹底 して精読させ、和訳をします。こうした「この力をつけ るために今日はこういう方法で読む」というすみわけを はっきりさせることが新課程では重要になると考えてい ます。 伊藤 同感です。私も教科書をいろいろな切り口で使う ことを心がけており、多少進度が遅くなってもいいと割 り切って、授業の中に精読と和訳も取り入れています。 また、2~3日に1回の課題として、軽めのストーリー の原書を読ませます。その際には精読しなくていいから、 大きな流れをつかみ、自然な英語の表現に慣れるように 指導しています。大学入試がどうなるのか、まだ見えな い中で、あまりにも極端に授業内容を変えるのは危険が 大きく、結局のところ、活動や音読を用いて育てるコ 高校名 茨城県立竹園高校 茨城県立緑岡高校 各科目の配当単位数 (2013 年度) コミュニケーション 英語Ⅰ 3単位 4単位 英語表現Ⅰ 2単位 2単位 採用している教科書 コミュニケーション 英語Ⅰ 「ELEMENT」(啓林館) 「PROMINENCE」(東京書籍)

英語表現Ⅰ 「POLESTAR」(数研出版) 「VISION QUEST (ADVANCED)」(啓林館)

6月末までの進度 コミュニケーション 英語Ⅰ Lesson 4まで Lesson 3まで 英語表現Ⅰ Lesson 4まで Lesson 3まで 主な授業の進め方と、 生徒が英語を使う活動 について コミュニケーション 英語Ⅰ All English による授業を完全実施して7年目。 新課程になっても授業構成に大きな変化はない。 担当者間共通のワークシートに沿って授業を行 う。予習を前提とし、内容理解はQ&A、パラフ レーズ、要約によって確認。そのほか、関連教材 を読ませる。 英語を「声に出して読む」「聞く」機会を増やして、 書き言葉としてでなく音としての学習を重視。 単語(アクセントや派生語なども調べる)を予習 して、音読。ワークシートを使って、言い換えや 順序入れ替え、内容真偽問題、要約を書かせる。 英語表現Ⅰ 文法事項を扱う授業と、ネイティブ教員が単独で 行う授業に分かれている。 文法事項を扱う授業では、基礎的文法事項につい ては一部日本語で行う。 ネイティブ教員が行う授業は All English で多様 な言語活動が行われる。 文法の指導中心の授業と、ALT とのティーム・テ ィーチング(TT)の授業に分かれている。 文法の指導中心の授業は、文法を解説後、生徒の ボランティアを募って演習問題を黒板で解かせ る。文法用語の英訳一覧を配付し、可能な範囲で 文法解説も英語で行う。 ALT との TT は教科書を中心に行う。本文を読み、 ペアワークをさせ、プレゼンテーションなどのア クティビティを行う。 <図表>参加高校の状況

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座談会

 新教育課程における「英語」に関する指導法

野々村 国立高校は「POLESTAR」を採用しましたが、 各ページに新出単語がたくさんありますし、その中には 大学入試問題の読解問題に入ってから出てくるような難 度の高い単語も含まれています。今年 3 月の卒業生まで は市販の単語帳を使っていましたが、これだけ教科書の 語彙数が増えたのなら、それを活用しない手はないとい うことで、現在は教科書が1レッスン終わるごとに単語 テストを実施しています。また、本校では、英語を英語 で理解させる方針で、今年度から、ケンブリッジやオッ クスフォードなどの英英辞典を持たせて、語彙の定義を 英語で考えさせるようにしています。最近の生徒は電子 辞書に走りがちですが、紙の辞書を購入するよう指導し、 最初の頃の授業で辞書の引き方を指導する時間も設けて います。 飯田 緑岡高校では、市販の単語帳を使って、2週間に 1回、古文単語と一緒に小テストを実施しています。昨 年までは1回の範囲を 40 語にしていたのですが、今年 から 100 語に増やしたところ、280 名の生徒のうち約 200 名が不合格になるなど、追試受験者が大幅に増えて しまいました。単語を覚えるには、目で見て、自分の口 で発音して、耳で聞き取って、手で書いてみるという、 時間をかけた地道な積み重ね、経験値が必要になります。 しかし最近の生徒は目だけで覚えようとしがちで、意味 やスペルはわかっても、発音がわからないことが少なく ありません。地道に努力する習慣を養うことが大切だと 考えています。 岡島 竹園高校では、単語の意味は授業中に英英辞典で 調べさせるなどして、英語の文脈の中で単語を理解する よう指導しています。日本語で単語の意味を書かせるよ うな指導をしては、こうした授業の意味が薄れます。そ こで授業内で行う単語テストは、教科書で学んだ単語を、 別の文脈の中で理解できるかを問うオリジナルの問題を 作成しています。手間がかかりますが、「All English」 を貫徹するためには必要なことだと思っています。 十亀 八王子東高校では、単語に関して、市販の単語帳 を活用し、週1回小テストを実施しています。その際、 単語の意味を単独で問うことはなく、必ず長文の文脈を 重視して出題するようにしています。単語は文章の中で 覚えるのが鉄則というメッセージですね。また、発音し ながら覚える習慣を身につけさせるために、小テストの 前日の授業では、ペアを組んでゲーム形式で、テスト範 囲の単語を音読させます。ペアワークにすることでパー 東京都立国立高校 東京都立八王子東高校 文京学院大学女子高校 4単位 3単位 5単位 2単位 2単位 2単位(※)

「POLESTAR」(数研出版) 「ELEMENT」(啓林館) 「PRO-VISION」(ピアソン桐原)

「UNICORN」(文英堂) 「POLESTAR」(数研出版) 「My Passport」(文英堂)(※)

Lesson 4まで (Lesson 6は後で扱う)Lesson 7まで Lesson 4まで

Lesson 7まで Lesson12 まで ― 新課程になり、訳読中心から4技能を使う授業に 変えた。 教科書に沿って進行。スパイラル的に何度も英文 に触れさせることを重視。複数回リスニングをし て内容がつかめているかを言い換えなどで確認し たり発音練習を行う。シャドウイング(注1)やサイ トトランスレーション(注2)で、英文の語順のまま 理解できるようにする。 従来から4つの技能を盛り込む授業を行ってお り、新課程になっても大きな変化はない。 教科書に沿って進行。授業では1時間で必ず4技 能を使わせることをめざす。音読やリスニング、 言い換えや要約などによるライティング、ペアワ ークでリテリング(注3)、辞書を引くなどの活動を 行う。 ①教科書を扱う授業を2単位、②文法指導を2単 位、③多読の授業を1単位実施。新課程から文法 を直接的な解説でなく本文から自然に学べるよう な指導に変更。 ①は音読や Q&A、新出単語を使った文章作成、 暗唱など。②は問題集が中心。③は今年から全校 実施。前半は文章を読み、後半はテーマを決めて エッセイを書く。 文法の指導中心の授業と、ALT とのティーム・テ ィーチング(TT)の授業に分かれている。 文法の指導中心の授業は「コミュニケーション英 語Ⅰ」と共通で使う問題集を中心に進め、文法事 項の定着を図る。 ALT との TT の授業は教科書に沿って進行。ALT が中心で日本人教員が補足をする。英文を読み、 それについて英語で質疑応答、英訳を書かせるな どの取り組みを行う。 問題集に沿って進行し、導入および最後のチェッ クとして教科書の問題で演習。「英語表現Ⅰ」で は文法の指導が中心だが、4技能を取り入れるよ う工夫している。教員だけが英語を話すのではな く、文法事項定着のため、半分以上の授業で英作 文やスピーチなどのアウトプットを行うことなど に取り組んでいる。 リスニングが中心になった副教材も活用して、「聞 く」「話す」を中心にしたアクティビティを行う。 定期テストはリスニングテストとインタビューテ ストから成る。(※) (※)文京学院大学女子高校では、「英語表現」は2年生以降に履修するため、ここでは1年生で履修する「英語会話」の授業について記入している。

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でも同じ質の授業を実現することをめざしています。横 だけでなく、縦の共通化を図るために次の学年にも教材 を引き継いでいきます。次の学年に引き継ぐ際には、授 業での反省を生かして、修正を加えていきます。 ――小森 黒板は使わないのですか。 岡島 まったく使わないわけではありませんが、パワー ポイントを使うと板書の時間を減らせるので、活動を 多く行うことができます。「All English」の導入当初は、 授業中の発話のほとんどが教員で、日本語の講義を英語 にしただけといった雰囲気でしたが、現在ではこうした 工夫の成果で活動が活発化しています。授業中に、教員 と生徒が話す割合は大幅に改善されました。 ――小森 「All English」の授業を展開するためには、学 年を1~2学年下げた教材を使用する方がいいというのが 定説になっています。その点は配慮されているのですか。 岡島 実はこれまで教科書は「CROWN」を使用してい たのですが、4技能を統合させた授業を行うには難易度 が高いと判断し、今年度から「ELEMENT」に変えま した。「All English」の難しさの1つは、日本語で解説 できない分、扱う英文のレベルを下げざるを得ないこと です。解説だけではなく、生徒の関心を高めるような ちょっとしたしかけや余談を取り入れにくいことも気に なっています。これは今後の課題かもしれません。 伊藤 「All English」の授業では、岡島先生が指摘され た複数の設問や取り組みを行うことで理解を深めるとい う相互補完性が重要なポイントになると思います。生徒 の理解度に応じて、何をどう問いかけ、理解させるのか、 質問の組み合わせを考え、緻密に授業の構成を考えるこ いう効果も生まれています。 ――小森 意外に市販の単語帳を活用している高校が多 いようですね。ただ、大学入試を見据えると、単語で最 も重要になるのが意味を類推する力です。合格する生徒 に共通するのは、それほど語彙力が高くなくても、文脈 の中で意味を類推する力に優れているということです。 その背景には日本語力も関係してきます。「All English」 への移行を迫られる一方で、大学入試を突破するために は日本語力も必要であるという点で指導の難しさがあり ますね。 ――小森 今までのお話で出てきた各校の取り組みにつ いて詳しくお聞かせください。竹園高校は「All English」 を導入されて7年目ということですが、どのような授業 を展開されているのですか。 岡島 教科書は題材を提供するものと位置づけており、 授業は主に、教科書の内容に基づいたオリジナルのワー クシートを使い、解説や活動にはパワーポイントを使い ます。授業の冒頭ではウォームアップとして重要な表現 を含む映画やドラマの1シーンをパワーポイントで見せ ます。暗唱させ、さらに活動でアウトプットさせること によって定着を図っています。その後、本文の内容理解 を確認するために英語による質疑応答や、言い換え、要 約などを行います。いろいろな角度の設問から相互補完 的に英語力を高めるようにしています。文法については 明示的に扱わないようにしています。 「All English」の授業では、複数の設問で 相互補完的に学べるしかけを作ることが重要

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座談会

 新教育課程における「英語」に関する指導法

とが必要です。本校では中学校からの一貫生をはじめ、 コースによって英語力に差があるため、複数の指導法を 用意することが大切になります。 ――小森 文京学院大学女子高校では、先ほど 「 多読 」 「多聴」「多書」に力を入れているというお話でしたし、「All English」の授業に対応できる生徒も多いのではありません か。 伊藤 確かに英語で授業をしても概要を理解できる生徒 もいます。しかしそうした生徒でも、必ずしもすべての 内容を短期間で正確に理解できているわけではありま せん。ですから、定期的に日本語できちんと文法を学 ばせることは重要です。英語での指導だけで大学入試 程度の文法まで理解できる生徒は、一部の学力上位層 の生徒か、「All English」の環境で長く過ごした生徒で はないかと思います。ですから、本校ではまだ完全に 「All English」の授業を行うところまでは至っていませ ん。その代わりに、放課後に 「 国際塾 」 を実施していま す。ネイティブの教員が外国の教材を使って教える講座 です。そこで「All English」の環境に触れることができ ます。こうした授業と、日本語も使った文法指導をうま く関連づけて指導することができるとよいと思います。 岡島 本校でも同様の課題を抱えています。「All English」 で授業を行っていますが、正確性、緻密性を担保するた めの課外講座も実施しています。 ――小森 生徒のコミュニケーションの意欲を高めるこ とも重要なテーマですし、一方で最終的には正確性も求 められるわけで、悩ましいところですね。 岡島 新課程の理念は、従来の英語教育がインプット偏 重で、アウトプットとのバランスが図られていないとい う問題意識に立脚しています。けれども、私はむしろ、 特に高校1年生に対して、きちんとした型を学ばせる教 育が不足しているという印象をもっています。型をきち んと身につけさせれば、アウトプットもできるようにな ります。ただ自由にたくさん話したり書いたりするので はなく、学んだ型を使うことを意識して、その上で書い たり話したりする活動に取り組むよう指導しています。 ――小森 型を学ばせることの重要性が指摘されました が、文法についてはどのように扱われていますか。新学 習指導要領では1年次に文法を一通り習得させることを 目標にしていますが。 野々村 いわゆる文法の授業はきちんと行う必要がある と考えています。そこで、市販の文法問題集を購入させ て、1年次に1冊終わらせる予定です。そのために、週 2回の 「 英語表現Ⅰ 」 の授業は、1回は ALT とのティー ム・ティーチング、もう1回は伝統的な文法の授業を実 施しています。 十亀 八王子東高校でも市販の文法問題集を使用してい ます。ただし、それを単独で学ばせているわけではな く、「 英語表現Ⅰ 」 の教科書で扱った文法を、市販の文 法問題集で確認しています。文法をきちんと理解するこ とは、「All English」で授業をするための不可欠なステッ プと捉えており、重要な文法事項は日本語で教えていま す。新学習指導要領でも、文法を英語で教えることは要 求していないと思います。また、市販の文法問題集の例 文を使って、約5分間、生徒でペアを組ませて、英会話 スキット(寸劇)を作らせる、つまり自然に会話を続け る訓練を授業に取り入れている先生もいます。高校1年 生は、小学校の英語活動など、さまざまな活動を体験し ているので、こうした取り組みには積極的です。市販の 文法問題集でも、このような方法をとれば日常会話につ なげていくことが可能で、使い方次第だと思います。 ――柴田 「All English」の竹園高校では、文法はどの ように指導されているのですか。 岡島 昨年度までは文法を日本語で教える授業はありま せんでした。それでも「All English」導入前後で、模擬 試験の成績や大学合格実績に大きな変化はなく、問題は なかったと思います。ただし今年度からは新しい試みと 文法は日本語も使って きちんと習得させることが重要 文京学院大学女子高等学校

伊藤久美子

先生

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扱う英文は極力オーセンティックなものにすることで生 徒のやる気を維持するように努めています。授業の内容 に応じて、日本語で教えるのか、「All English」で教え るのか判断して、バランスを図ることが重要だと考えて います。 飯田 緑岡高校でも同様に、「 英語表現Ⅰ 」 を2つに分 けて、ALT とのティーム・ティーチングと、日本語に よる文法授業を実施しています。試しに ALT に英語で の文法授業を行ってもらったこともあるのですが、あま りうまくいきませんでした。私自身も英語で文法を教え ようとして、名詞は英語で何というのかなど品詞の一覧 表を事前配付したのですが、文法用語まで無理して英語 で教える必要はないと思い直しました。1年生から2年 生の初めにかけて総合的に文法を学習し、各文法事項の イメージを捉えさせたいと考えています。 ――柴田 新課程は、大学を卒業しても英語が使えない 学生が多いという反省があるようです。ここでいう英語 は、教養としての英語ではなく、日常会話ということで しょう。スピーキングの指導についてはどの程度意識さ れているのですか。 伊藤 新課程ではコミュニケーションの力が重視されて いますが、個人的には、従来の英語教育がそんなに悪かっ たとは思っていません。格調の高い英文を読解し、高い 英語表現力を駆使できるといった、教養的な英語力は十 分に鍛えられてきたと考えています。しかし、あまりに もバランスがとれておらず、大学入試レベルの長文が 読めるのに、日常会話が話せないというギャップが問題 視されているわけです。そこで、「 聞く 」「話す」力の 向上が重視されているのですが、正直なところ、コミュ ニケーションに力を注ぎつつ、現在の大学受験にも対応 できる読解力を養成するのは、生徒に相当な負荷がかか ります。正課の授業だけですべてに対応するのは困難で す。そのため、日常会話をはじめ、最終的には海外の大 学でも通用するようなコミュニケーション力をさらに重 岡島 重要なのはバランスですよね。高校がビジネスス クール化してはいけないわけで、スキルだけでなく、ア カデミックな部分にも目配りすることが大切です。特に 難関大学をめざす生徒が多い進学校にはそれが求められ ると思います。 野々村 新課程の教科書は、発信力、表現力を鍛える活 動が豊富です。1 冊きちんと消化すれば、日常会話に困 らない程度まで持って行けると思います。もちろん、口 に出してみる機会を多くすることが重要なので、「 コ ミュニケーション英語Ⅰ 」 の授業では、どんなに細かな 質問でもいいので、毎回の授業で 40 人全員を指名して 話をさせるように努力しています。 伊藤 でも本音をいうと、語学教育で 1 クラス 20 名を 超える生徒を教えるというのはなかなか難しいですよね。 野々村 本校では、3 年生の英作文だけは、添削のサイ クルを早くするために、クラスを 2 分割しています。理 想をいえば、すべての授業で 20 名以下にした方がよい のですが。 ――柴田 特にスピーキングの指導は難しいですね。 伊藤 発信力、表現力は養成に時間がかかるアウトプッ トの部分なので、少人数制でないと十分な指導は難しい と思います。飯田先生が指摘された音読の大切さについ ては私も痛感していますが、教員の後に続いて生徒 40 人一斉に音読させていたのは、従来の英語教育が編み出 した苦肉の策だったのかもしれません。 ――小森 スピーキングの評価はどうされていますか。 伊藤 前期の中で 1 回、ネイティブの教員がインタビュー テストを1対1で行っています。一人ひとり呼んで、数 項目の質問を行い、点数化しています。かかる時間は一 人あたり約2~3分ですね。 十亀 前任校では 「 オーラルコミュニケーション 」 の授 業で、1対1のスピーキングテストを実施していました。 選択科目で受講する生徒が少なかったから可能でした。 八王子東高校ではスピーキングの活動は行いますが、評 価が難しいです。上智大学などでは入試でスピーキング の導入を表明していますが、どのような評価方法をとる のか、早めに情報がほしいですね。 スキルと教養の バランスのとれた授業をめざして

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座談会

 新教育課程における「英語」に関する指導法

――小森 私は、スピーキングはインタラク ティブでなければいけないものであり、英検 のように個別対応で直接対面する方法が望ま しいと考えます。ただし、現実に入試でどの ような方法が可能なのか、まだ不透明です。 伊 藤 TOEFL の iBT テストでは、30 秒間 考えた後にテーマに沿って話すといった種類 の問題があります。話す内容も大事でしょう が、それ以上に即座に自分の考えを表明する という特別なスキルが問われています。これ はスキルの一例ですが、めざす方向が狭義の コミュニケーション力の向上のみに偏らない よう注意する必要があると感じています。 ――柴田 これまでお話しいただいたように、各校でさ まざまな工夫が凝らされているようですが、3年後の大 学入試に向けてのご意見をお聞かせください。 岡島 企業などの社会的ニーズから英語教育が無関係で いられないのは確かで、例えば 「 使える英語 」 を重視し た出題をする大学が出てきてもよいと思います。ただし、 特に難関大学を中心として、アカデミックな、観念的、 抽象的、哲学的内容が問われる大学も引き続きあってほ しいと思います。 飯田 新課程になって、指導方法が変わることで、当然、 生徒が身につける英語力も変わっていきます。4技能す べてを盛り込むのは難しいとしても、大学入試センター 試験にはできるだけ新課程の理念をくみ取った出題を望 みたいですね。一方で、個別試験は多様化してよいと思 います。それぞれの出題の特色が鮮明になっていけば、 それに適した生徒が受験するようになり、生徒も目標を 持って頑張れるようになるはずです。 野々村 国立高校では、3年生になると、オリジナル教 材を編んで、社会科や理科で学ぶような多様な内容の文 章を読解するトレーニングに入ります。東京大学教養学 部の英語の教科書が読めるような読解力や、京都大学、 大阪大学の個別試験で出題される高度な英作文、和訳問 題に対応できる柔軟な思考力などを高めることを目標に しています。 十亀 個別試験は、各大学のアドミッションポリシーに 新課程の理念をくみとった 大学入試の出題を望む 則って作成しているのでしょうが、ある程度は新課程に 配慮した問題を作ってもらわないと、高校現場が混乱す るでしょう。今年の東京大学の入試問題を見ると、英作 文の問題数は増えたものの、スピーチレベルに少し難度 が下がっていると感じました。このように、おそらく 全体的にはコミュニケーションを重視して、文章自体の 難度は下げる方向に移行していく気がします。とはいえ、 まだ出題の方向性がわからない以上、これまでの大学入 試問題、また大学入学後を考えると、日常会話レベルで はなく、教養を身につけ、必要な文章を読みこなせる力 も養わなければなりません。ですから、本校でも、最終 的には「CROWN PLUS」のレベル3まで読めるように することを目標にしています。ただし、本校の採用し た「ELEMENT」からいきなり「CROWN PLUS」に移 行するのはハードルが高いので、前段階の指導として 「UNICORN CLASSICS」を採用しました。難関大学入 試の実状を踏まえると、読解する英文の難度を下げるの はリスクが大きい気がしています。 伊藤 生徒にとって大学入試は1つのゴールですから、 それをおろそかにしたのでは高校の使命は果たせません。 そして、大学は高度な教育を行い、日本を担う優秀な人 材を育てる学府であり続けてほしいので、実践的なコ ミュニケーションの力だけでなく、高い教養を培うこと ができる教科としての英語の側面も大切にしてほしいで すね。 ──小森 本日は、さまざまな指導の工夫をご披露いた だき、ありがとうございました。

参照

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