• 検索結果がありません。

10口★y ★同志社法学第379号★土田【横通し】.indd

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "10口★y ★同志社法学第379号★土田【横通し】.indd"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

◆同志社大学労働法研究会◆

派遣労働者の引抜き、派遣先との

契約締結妨害行為の違法性

――U 社ほか事件・東京地判平成26・3・5労経速2212号3頁――

土 田 道 夫 

Ⅰ 事案の概要  X 社は、建設業の施工管理技術者の派遣を主たる事業とする会社である。  Y 社は、平成 24 年4月 17 日に設立された X 社と同業の会社であり、訴 外 Z 社の 100%子会社である。Y1 は、X 社の管理社員(派遣社員の管理や 派遣先との契約交渉等に従事する社員)であり、A 営業所の所長であったが、 同年6月 15 日に X 社を退職し、同月 16 日から Y 社に入社し、勤務している。 Y2 は、X 社 A 営業所において Y1 に次ぐ地位にある管理社員であり、派遣 契約の管理および技術社員の管理に従事していた。Y2 は、平成 24 年6月 30 日に X 社を退職し、7月1日から Y 社に入社し、勤務している。  E は、X 社 A 営業所に所属し、期間の定めのない労働契約で雇用された 派遣技術社員(派遣先の建設現場で就労する施工管理技術者)であり、平成 24 年5月末日までは H 社の建設現場に派遣され、6月1日以降は次の派遣 先が決定されるまで待機中であったが、同月4日、Y2 とともに、技術派遣 の要請があった甲ハウスの職場見学に行った。その後、同月 30 日に X 社を 退職、7月1日から Y 社に入社し、技術社員として甲ハウス(9月 30 日ま で)に派遣され、その後、甲ハウスの別の現場に派遣された。  F は、X 社 A 営業所に所属し、期間の定めのある労働契約で雇用された

(2)

技術社員(平成 24 年6月1日から平成 25 年5月 31 日)であり、同期間、 UA 社に派遣されていたが、平成 24 年6月 30 日に X 社を退職した。その後、 同年7月1日から Y 社に入社し、技術社員として UA 社に約3か月間派遣 され、その後、別の現場に派遣されている。また、F は同年 5 月 25 日に Y 社の会社説明を受けたが、Y2 はその説明時に同席しており、6月6日には、 UA 社を訪問し、その際、Y 社の K マネージャーを同行させた。

 X 社は、Y1・Y2 が X 社に在職中でありながら、Y 社と共謀して、E・F の引抜き等を行い、また、甲ハウスと UA 社に派遣契約を切り替えること の要請をしたこと等を理由に、Y1・Y2 に対して、雇用契約上の秘密保持義 務、競業避止義務および誠実義務に違反したとして、債務不履行ないし不法 行為責任に基づく損害賠償を請求し、Y 社に対して、雇用契約上の債権を侵 害したものとして、不法行為責任に基づく損害賠償を請求した。  なお、X 社の就業規則 4 条(「服務心得」)は、従業員の守秘義務を規定 するとともに、従業員が「職務上知り得た情報や、職務上の立場を利用して 自己または第三者のために利用しないこと」を規定している(2項 11 号)。 Ⅱ 判旨 請求一部認容 1 派遣労働者の引抜き・顧客奪取行為の違法性(争点1) ⑴ 判断枠組み(規範)  本件の争点は、「① Y2 らによる E 又は F に対する違法な引き抜きが行わ れたといえるかどうかと、② Y2 らが E 又は F の派遣先会社(甲ハウス又 は UA 社)に対して営業活動などを行い、X とこれらの派遣先会社との間 の契約締結あるいは契約継続を妨げ、Y 社が派遣先会社と E と F を派遣す る労働者派遣契約を締結した点が、違法な顧客の奪取といえるかどうか」で ある。  「在職中の従業員は、使用者に対し、誠実義務として、使用者の正当な利 益を不当に侵害してはならないよう配慮する義務を負っており、具体的にい

(3)

えば、使用者の営業上の秘密を保持すべき義務や使用者の利益に著しく反す る競業行為を差し控える義務を一般的に負っている」。また、「X 社の就業規 則で、従業員が当然に負っている守秘義務や競業避止義務といった労働契約 上の付随義務が明確に規定されている」。  「上記①の問題については、引き抜きが、単なる勧誘の範囲を超え、著し く背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱しているといえる場合に初め て違法になると解される。また、②の問題については、顧客の奪取が、社会 通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものといえる場合に違法となると解 される。ところで、本件では、問題となっている行為が、Y1・Y2 両名が X 社在職中に行われており、もともと従業員が労働契約上の誠実義務を負って いることを踏まえれば、引き抜きや顧客の奪取が退職後に行われた場合に比 して、より厳しく違法性の有無が判断されるべきと解する。……本件では、 Y2 らの E に対する引き抜きと甲ハウスとの契約締結妨害、F に対する引き 抜きと UA 社との契約継続妨害はそれぞれ一連の行為として行われている ことから、このことを前提に違法性の有無を判断する」。 ⑵ E の引抜き・契約締結妨害行為  ア E の引抜き  Y2 は、「自分自身が Y 社に転職することを話した際、転職したいのであ れば Y 社を紹介できることを告げたことや、従前から E に転職の相談を受 けていたことから、Y 社に E を紹介したことは認められるものの、それ以 上に、E に対して積極的に転職を働きかけるような行為をしたことは証拠上 認められ」ず、E は、「もともと X 社における待遇に不満を持っており、Y 社の I 社長から労働条件を聞いて魅力を感じる等したため、転職を決意した にすぎない」。以上から、「E の転職については、E 自身の意思で判断したも のにすぎず、Y2 や Y 社から強引な勧誘を受けたような事実も認められず、 いわんや Y1 の関与などは認められないことからすれば、Y 社らに何らかの 法的責任が発生するとは認めがたい」。

(4)

 イ 甲ハウスとの契約締結妨害行為  「Y2 は、甲ハウスの職場見学の際、既に Y 社への転職を決意していたと ころ、かかる状況にありながら、Y 社に転職するかどうか確定的に決めて いなかった E の転職の可能性を甲ハウスに伝えて、X 社と甲ハウスとの契 約締結を阻止した点については、X 社の利益を無視して、Y 社の利益を図 るために行われたものと言われてもやむを得ないところである。また、実際 に E は X 社を退職して Y 社に転職した後、Y 社から甲ハウスに派遣されて いる」。また、「Y2 は、X 社に対して、E の都合で甲ハウスと契約できなかっ たと告げるだけで、X 社のために甲ハウスと Y 社との契約を存続させるた めの何らかの対応策を講じたような事実も証拠上認められない」。  以上から、「Y2 が甲ハウスに対して、E の転職の可能性を伝え、X 社に 対して、甲ハウスとの契約はEの都合により締結できなかったとのみ報告し、 何らの対応策も講じなかったことは、X 社と甲ハウスとの契約締結を妨害 するもので、X 社の利益を犠牲にして Y 社の利益を図る行為であり、労働 契約上の付随義務である競業避止義務に反するといわざるを得ない」。一方、 Y1 については、E の転職を知っていた事実はないから、その点に関する Y2 の報告をそのまま X 社に伝えたことについて債務不履行責任または不法行 為責任が発生する余地はないとして否定し、Y 社についても同様に判断した。 ⑶ F の引抜き・契約継続妨害行為  ア F の引抜き  「確かに、X 社在職中の Y2 が、Y 社の F に対する会社説明に同席したの は、Y2 が X 社に対して労働契約上の誠実義務を負っている以上、かかる労 働契約上の誠実義務に反し得る行為といえる」が、「Y2 は、Y 社による会 社説明の際、特に F に対して積極的に勧誘行為を行った事実は認められず、 F も Y 社に転職する決意を固めたのは、Y 社の労働条件に魅力を感じたた めであると明確に述べており、Y2 からも勧誘を受けたことが原因とは認め がたい。そもそも、X 社も Y 社も人材派遣会社であり、有期雇用の派遣社

(5)

員の場合は、正社員に比べ不安定な地位に置かれることから、より良い勤務 状況を求めて、転職するのは当然のことであり、優秀な人材を引き留めたい のであれば、まずもって労働条件を改善すべきである」。  以上から、「Y2 の行為については、X 社に在職中でありながら、Y 社の 会社説明に同席した点において、不相当なところはあるものの、F に対する 勧誘行為が、単なる勧誘の範囲を超え、著しく背信的な方法で行われ、社会 的相当性を逸脱しているとまで言い難く、違法な引き抜きを行ったとは認め がたい」。また、Y 社および Y1 についても、Y 社から強引な勧誘をうける 等の事実はないことから、Y 社への転職について何らかの法的責任が発生す るとは認め難いと判断した。  イ UA 社との契約継続妨害行為  「Y2 は、UA 社訪問時には、X 社の従業員であることを意識し、自ら Y 社の説明を行うことはなく、Y2 が F の契約について Y 社への切換えを要 請したような事実を認めることはできない」が、「X 社に在職中でありなが ら、退職時の挨拶の際に、X 社とは競合関係にある転職先の Y 社の K マネー ジャーを伴い、その営業活動を容易にした点については問題があると言わざ るを得ない。実際に、Y 社の K マネージャーは、UA 社に対して、営業活 動を行っており、また、X 社を退職して Y 社に転職した後、直ちに Y 社か ら UA 社に派遣されている。また、Y2 は、X 社において自己の業務を引き 継ぐことになる G を UA 社に同行することもしていない」。以上から、「Y2 の行為は、X 社と UA 社の契約継続を妨害したものといえ、X 社の利益を 侵害し、Y 社の利益を図る行為といわざるを得ず、債務不履行責任ないしは 不法行為責任を負う」。  「Y1 は、Y2 が Y 社の K マネージャーを同行させたことを知っており、 Y1 も Y2 と同様、X 社を退職して Y 社に転職する予定であったということ からすれば、UA 社に対する対応については、Y1・Y2 両名には共同不法行 為が成立する。さらに、Y 社についても、Y2 が X 社に在職中であることを 知りながら、Y2 から、UA 社の顔つなぎをしてもらうなどの便宜を実際に

(6)

受けている以上、共同不法行為が成立する」。 2 損害(争点2)  「労働者は、職業選択の自由の一環として、退職し又は他社に転職する自 由があり、企業は、労働者が自由な意思に基づいて退職ないし他社に転職す ることを認めなければならないし、これによって従前勤務していた企業に損 失が生じたとしても、これを甘受しなければならないし、ことに、X 社の ように労働者派遣を業として行っている会社において、派遣労働者は労働条 件が有期であったり、派遣先が決まらない間は待機中として有給休暇の消化 をやむを得なくされるなど、正社員と比べるとその労働条件が不安定になっ ており、派遣労働者がより良い労働条件を求めて、転職することは当然の理 である」。また、X 社のような派遣会社において、「派遣労働者の退職によっ て損失を生じる可能性がある場合には、当該派遣労働者の労働条件を改善し て引き留めを図ったり、他の派遣労働者を適宜補充するなどの自助努力によ り損失を最小限にとどめることができるし、取引先の喪失についても、同様 に新たな契約締結交渉等の努力を行うことができる……。本件において、X 社が、かかる自助努力をどの程度行ったかは定かではないが、本来であれば 自助努力によって回避可能な損失を漫然と Y2 らに負担させることは相当で ない」。  本件の場合、E の引抜き・甲ハウスとの契約締結妨害については、「引き 抜きについては転職の勧誘にとどまるもので違法性がなく、X 社と甲ハウス との契約締結を妨害した点が問題になるにすぎないことや、E が Y 社から 甲ハウスに派遣された当初の現場も3か月程度で終了していること」からす れば、Y2 が賠償すべき損害は、月額の基本派遣料金から E の給与および社 会保険料 X 社負担分を差し引いた額の「3か月分の 64 万 3269 円……とみ るのが相当である」。  F の引抜き・UA 社との契約継続妨害については、「F に対する転職の勧 誘にとどまるもので、引き抜きについては違法性がなく、UA 社との契約継

(7)

続妨害が問題になることに加え、妨害態様としても、X 社在職中の Y2 が退 職挨拶の際に Y 社の従業員を伴うなどして、その営業活動を容易にした点 が問題になるにすぎず、特に詐術などを用いたわけでもないし、F が Y 社 に派遣された当初の現場も3か月程度で終了していることからすれば、Y2 らが賠償すべき損害としては、3か月分の 102 万 6672 円……とみるのが相 当である」。 Ⅲ 研   究  判旨1に一部疑問。  1 本判決の意義と特色  本件は、派遣会社に在職中の従業員が行った派遣労働者の引抜きと顧客奪 取行為(派遣先との契約締結・継続妨害行為)の違法性が争われた事案であ り、在職中の誠実義務・競業避止義務違反の有無が争点となっている( 1 )。  本判決の意義と特色としては、以下の3点が挙げられる。第1に、従来の 引抜き事案の多くは、従業員の一斉かつ大量引抜きに関する事案であり、そ うした引抜きについて、悪性の強い行為として誠実義務違反ないし不法行為 (民 709 条)が肯定されてきた( 2 )。この点は、派遣労働者の引抜き事案につい ても同様である( 3 )。これに対し、本件は、2名という少数の、しかし、建築現 場の施行管理業務に従事する技術社員という高度人材(高度派遣人材)の引 抜きに関する事案であり、この点に事案上の特色が見られる。このことは、 (1)従業員の引抜きについては、土田道夫『労働契約法』(有斐閣・2008)623頁、同『労働法 概説[第3版]』(弘文堂・2014)285頁参照。 (2)先例は、ラクソン等事件・東京地判平成3・2・25労判588号74頁。同旨、アイメックス 事件・東京地判平成17・9・27労判909号56頁、アイビーエス石井スポーツ事件・大阪地 判平成17・11・4労経速1935号3頁、ソフトウエア興業事件・東京地判平成23・5・12労 判1032号5頁等。 (3)東京コンピュータサービス事件・東京地判平成8・12・27判時1619号85頁、フレックスジャ パン・アドバンテック事件・大阪地判平成14・9・11労判840号62頁。

(8)

派遣労働者の引抜きの違法性に関する判断枠組みとしても、大量引抜き事案 を前提とする従来の判例法理をストレートに適用することへの疑問を生じさ せる要因となる。  第2に、本判決は、派遣労働者の引抜きの違法性を否定する一方、顧客奪 取の意味をもつ契約締結・継続妨害行為の違法性を肯定している。この判断 は、派遣労働者の引抜きの違法性が否定された場合も、派遣先との契約締結 妨害による顧客の奪取を違法と解することで、派遣会社従業員や競業派遣会 社による不当な引抜き行為に対する責任追及の途を拡大した点で重要な意義 を有する。一方、派遣従業員の引抜きと派遣先との契約締結妨害行為を一連 の行為としながら、その違法性を区別して検討し、前者の違法性を否定しつ つ、後者の違法性を肯定した判断には疑問がある。  第3に、従来の裁判例の多くは、従業員の引抜きの違法性および損害の判 断において労働者の転職の自由を考慮し、特に派遣労働者の引抜きの場合は、 違法性判断に関して、従業員の引抜き一般に関する判断枠組みを採用しつつ も、損害の判断において、派遣であることの特性(派遣労働者の代替性と企 業間の流動性)を考慮して判断していた( 4 )。これに対し、本判決は、引抜きの 違法性の判断において、派遣労働者の労働条件や地位の不安定性といった派 遣労働者の特殊性を考慮している点に特色がある( 5 )。 (4)前掲(3)フレックスジャパン・アドバンテック事件等。 (5)派遣労働者の引抜き・大量退職に関する紛争としては、本件のような派遣会社在職中の幹 部従業員による引抜き事案のほか、①派遣会社従業員が会社退職後、派遣労働者を大量に 引き抜くケースや、②派遣労働者が自発的に派遣会社を一斉退職するケースがある。この うち①については、裁判例は、派遣会社の元従業員が競業他社に転職後、派遣労働者に転 職を勧誘する行為は原則として違法性を有しないが、引抜き行為が著しく社会的相当性を 欠く方法・態様で行われた場合に例外的に不法行為が成立し得ると判断しており、引抜き の違法性を限定的に解している(前掲(3)フレックスジャパン・アドバンテック事件[た だし傍論]。同旨、コスモス事件・東京地判平成25・4・16[LEX / DB25512445])。一方、 ②の自発的退職は、派遣労働者が期間の定めのない労働契約で雇用されている場合は解約 の自由によって許容されるが(民法627条1項)、期間の定めのある労働契約で雇用されて いる場合は、「やむを得ない事由があるとき」にのみ中途解除が許される(民法628条)。

(9)

2 派遣労働者の引抜きおよび契約締結・継続妨害行為 ⑴ 従業員の引抜きの違法性  本判決は、労働契約上の誠実義務・競業避止義務を根拠に、派遣労働者の 引抜きおよび契約締結・継続妨害行為による顧客の奪取の違法性について検 討している。在職中の従業員による引抜きは、前掲ラクソン等事件(注2) 以降、労働契約上の誠実義務違反を構成するものと解されているところ、本 判決も、引抜きが単なる勧誘の範囲を超え、著しく背信的な方法で行われ、 社会的相当性を逸脱したといえる場合に違法と評価されるとの判断枠組みを 示しており、判例法理に依拠したものと解される( 6 )。    本判決の特色は、こうした誠実義務から派生する義務として在職中の守秘 義務や競業避止義務を掲げるとともに、競業避止義務がX社就業規則に規定 されていること(「事案の概要」の就業規則4条2項 11 号)を根拠として援 用し、さらに、在職中の引抜きや顧客奪取行為について、労働契約上の誠実 義務を根拠に、退職後よりも厳格に判断すべきものと判示した点にある。従 来、在職中の引抜きは、主として誠実義務違反の問題とされ、競業避止義務 との関係は必ずしも十分に認識されてこなかったが( 7 )、引抜き行為が競業他社 への引抜きである場合は、誠実義務違反と同時に競業避止義務違反の問題と なるものと解される。また、在職中の労働者は使用者との間で労働契約関係 にあり、信義則(労契3条4項)に即した行動(誠実義務・競業避止義務) を求められるのであるから、その引抜き・顧客奪取行為が退職後(労働契約 終了後)より厳しく違法性を問われることは当然であり、この点に関する判 派遣労働者の一斉退職について、この「やむを得ない事由」を否定して不法行為に基づく 損害賠償責任を認めた裁判例として、エイジェック事件・東京地判平成24・11・29労判 1065号93頁がある。 (6)同旨の裁判例として、前掲(3)東京コンピュータサービス事件、前掲(3)フレックス ジャパン・アドバンテック事件、サンワコーポレーション事件・大阪高判平成14・10・11 [LEX / DB28073029――派遣労働者の引抜きの違法性を否定]。 (7)ただし、前掲(2)ラクソン等事件が想定する従業員の大量引抜き事案については、競業 避止義務違反と構成して判断する裁判例もある(日本コンベンションサービス事件・大阪 高判平成10・5・29労判745号42頁、前掲(2)アイメックス事件)。後述3⑴アも参照。

(10)

旨は妥当と解される( 8 )。  一方、従業員の引抜きの違法性については、従業員の退職の自由・転職の 自由(憲法 22 条)が考慮される。この点、前掲ラクソン等事件(注2)は、 引抜きの違法性について、従業員の転職の自由を考慮して、単なる転職の勧 誘にとどまる場合は誠実義務に違反しないと判断しつつ、引抜きが「社会的 相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われた場合」に誠実義務違反となると 解した上、社会的相当性については、転職する従業員の地位・待遇・人数、 転職が会社に及ぼす損害、引抜きの態様・方法(退職時機の予告の有無、秘 密性、計画性)等の事情を考慮すべきものと判断している( 9 )。本判決も、労働 者の退職の自由・転職の自由について明言していないものの、同旨の判断枠 組みによって違法性を一定の範囲に制限しており、退職の自由・転職の自由 を踏まえた判断と解される。 ⑵ 派遣労働者の引抜きの違法性   次に、派遣労働者の引抜きの違法性については、従来、前掲ラクソン事件 (注2)の判断枠組みを踏襲しつつ、派遣労働者の大量引抜きについて、派 遣会社に重大な影響を及ぼすとの評価を基本とする判断が行われてきた。た とえば、前掲東京コンピュータサービス事件(注3)は、派遣会社の幹部社 員による派遣労働者の大量引抜き事案(幹部社員が競業他社の設立計画を立 て、派遣会社の経営体制を批判した上で約 200 人もの大量の派遣社員を引 き抜いた事案)につき、上記幹部社員は、人材が唯一の資産であるコンピュー タ技術者の派遣業において派遣先事業所全部の従業員を一斉に引き抜けば、 派遣会社に対し従業員とともにその取引先を失うなど会社の存立に深刻な打 撃を与えるものであることを十分知悉した上で、派遣会社の経営体制を厳し (8)前掲(5)で述べたとおり、退職後の従業員による引抜き行為の違法性は在職中より限定 的に解されている(前掲(5)コスモス事件)。 (9)同旨、前掲(3)東京コンピュータサービス事件、前掲(3)フレックスジャパン・アド バンテック事件、前掲(6)サンワコーポレーション事件。

(11)

く批判するなどして派遣従業員に対して勧誘行為を行っていることから、誠 実義務に違反する違法な引抜きと評価して損害賠償責任を肯定している。同 様に、前掲フレックスジャパン・アドバンテック事件(注3)も、幹部社員 による派遣労働者の大量引抜き事案(幹部社員の働きかけにより、2営業所 で 80 名の派遣社員が一斉に退職し、同業他社に移籍し、そのほとんどが従 来と同じ派遣先に派遣された事案)につき、上記幹部社員は派遣労働者に対 して派遣会社営業所が閉鎖される等の虚偽の情報を伝えたり、金銭を供与す るなど、派遣会社が派遣労働者の喪失により受ける影響に配慮することなく 引抜きを行っており、きわめて背信的な引抜きと評価して、債務不履行ない し不法行為に基づく損害賠償責任を肯定している。   これに対し、本件は、派遣労働者が2名(E・F)のみの引抜きが問題となっ た事案であり、派遣会社従業員(Y2)による勧誘が上記2事件ほど計画的 かつ大規模でなかった点に特色があるが、本判決(判旨1⑵ア)は、①大量 引抜き事案に関するラクソン等事件(注2)等の判断枠組みに依拠して判断 している。また、本判決は、② E と F が Y 社の労働条件に魅力を感じ、自 ら転職することを決めたという点で引抜きの違法性を否定するとともに、有 期雇用の派遣労働者 F が正社員に比べ不安定な地位に置かれている点を考 慮している。この点は、違法性判断として目新しいものがある。  しかし、①の判断には疑問がある。第1に、本件は、2名という少数の、 しかし技術社員という高度派遣人材の引抜きに関する事案である。それにも かかわらず、派遣労働者の引抜きの違法性に関する判断枠組みとして、大量 引抜きを前提とする従来の判例法理をストレートに適用し、かつ、この判断 枠組みによってのみ引抜きの違法性を判断することには疑問がある。この点、 本判決は、前記のとおり、引抜きの違法性の根拠として在職中の競業避止義 務を掲げているのであるから、上記判断枠組みとは別に、Y2 の競業避止義 務違反の観点から引抜きの違法性を判断すべきであったと考える。  第2に、本判決は、派遣会社の利益への配慮を欠くものと解される。すな わち、本件のような技術者派遣のように、専門性の高い労働者の引抜きは、

(12)

大量引抜きとは別の意味で派遣会社に大きな影響を及ぼす可能性がある。こ の点からも、本件引抜きについては、競業避止義務ないし誠実義務の視点か ら別途検討すべきであろう。  第3に、有期雇用の派遣労働者 F に関する②の判断のように、派遣労働 者が正社員に比べて不安定な地位に置かれていることを違法性の段階で考慮 することはあり得ない解釈ではない。しかし、そうした違法性判断を行うの であれば、上記第2点のように、派遣会社の利益も考慮しなければバランス を欠くし、第1点のように、事案の実質に即した違法性判断を行う必要があ ると考える。  一方、本判決は、派遣会社従業員による派遣会社の顧客奪取行為(派遣先 との契約締結妨害行為)については、顧客の奪取が社会通念上自由競争の範 囲を逸脱したものといえる場合に違法となるとの判断枠組みを示している。 しかし、この判断枠組みは、退職後の競業行為について競業避止特約が存在 しない場合について、顧客奪取類型の競業行為の不法行為該当性を判断する ための枠組みであり(10)、本件のように、在職中の誠実義務・競業避止義務違反 が問題となる場合に整合的な枠組みではない。判旨は、競業避止義務違反(債 務不履行責任)に関する判断と不法行為責任に関する判断を混同するものと 思われる。また、判旨は、Y2 による顧客奪取行為の違法性に関する具体的 判断の箇所(1⑵イ・⑶イ)では、どういうわけか、この判断枠組みを適用 していない。以上から、この一般論は適切でないと解される。 3 具体的判断 ⑴ E の引抜き・契約締結妨害行為  ア E の引抜き行為  従来の裁判例(2⑴)によれば、引抜きの違法性は、転職する従業員の地 位・待遇・人数、転職が会社に及ぼす影響、引抜きの態様・方法等を考慮し (10)先例は、サクセスほか[三佳テック]事件・最判平成22・3・25労判1005号5頁(結論 は不法行為を否定)。

(13)

て判断される。この点、判旨1⑵アは、Y2 が E を Y 社に紹介したことは 認められるものの、それ以上に、E に対して積極的に転職を働きかける行為 をしたとは認められない一方、E はもともと X 社における待遇に不満を持っ ており、Y 社から労働条件を聞いて魅力を感じる等したため転職を決意した にすぎないとして違法性を否定している。  しかし、この判断には疑問がある。確かに、引抜きに関する前掲ラクソン 等事件(注2)の判断枠組みによれば、E の転職は、上記のように評価され ることになろう。しかし、本件では、Y2 は、Y 社に E を紹介した後、E に 対して派遣先の職場見学に行くよう指示し、E とともに派遣先の J 課長を訪 問し、J に対して E の退職の可能性を伝え、そのため、派遣元企業・派遣先 間の派遣契約の不締結をもたらしている。これら一連の行為は不即不離の関 係にあるとともに、その発端となったのは Y 社への E の紹介にあり、かつ、 本判決自身も、派遣労働者の引抜きと派遣先との契約締結妨害行為を一連の 行為と評価している(判旨1⑴)。それにもかかわらず、① Y 社への E の紹 介と、②派遣先との契約締結妨害行為を切り分けて、②についてのみ違法性 を肯定するのは、本件事案の法的評価としては妥当性を欠く。むしろ、①② については、文字どおり一連の行為と捉えた上で法的評価を行うべきものと 考える。  そこで検討するに、本件については、②(契約締結妨害行為)のみならず、 ①(Y 社に E を紹介する行為)についても、競業避止義務違反と評価する ことが可能と解される。この点、競業避止義務違反の類型としては、ⅰ)競 業他社での現実の就労、ⅱ)競業他社の設立・設立準備行為、ⅲ)競業他社 への従業員の引抜き・顧客奪取行為のほか、ⅳ)競業他社の利益を図る行為 (競業他社図利行為類型)がある(11)ところ、ⅳ)の例としては、会社の取引先 に競業会社を紹介したり、競業会社が協力会社であるかのように装って発注 させた行為について雇用契約上の忠実義務違反を認めた裁判例(12)や、競業他社 (11)土田・前掲(1)書(『労働契約法』)111頁参照。ⅲ)の引抜き類型に関する裁判例とし ては、前掲(7)日本コンベンションサービス事件等がある。 (12)エープライ事件・東京地判平成14・5・25労判853号22頁。

(14)

の設立を前提に、取引先が会社に商品の供給停止を通知することを知りなが ら報告しなかったことについて競業避止義務違反と判断した裁判例(13)がある。  本件は、まさにこのⅳ)の競業他社図利行為類型に属する事案と評価する ことができる。この点、判旨は、②(Y2 の契約締結妨害行為)について、 競業他社図利行為と位置づけた上で競業避止義務違反を肯定しているが(本 項イ)、①(Y 社に E を紹介する行為)自体、競業他社の利益を図る行為と して競業避止義務違反を構成するものと解される。判旨がこのような判断を 行わなかったのは、引抜きに関する従来の判例法理(前掲ラクソン等事件[注 2]等)の判断枠組みに依拠したためと思われるが、前記のとおり、この判 断枠組みは、一斉かつ大量の引抜き事案を想定した判断枠組みであり、本件 のような引抜き事案にストレートに適用し、この判断枠組みによってのみ違 法性を判断することは適切でない。また、そうした判断は、派遣元企業(X 社) が E・F という高度派遣人材の確保について有する利益を不当に軽視する結 果をもたらすことになる(前記2⑵)。さらに、判旨が Y2 ら X 社従業員の 競業避止義務の根拠として認定する X 社就業規則4条2項 11 号(「職務上 知り得た情報や、職務上の立場を利用して自己または第三者のために利用し ないこと」)は、まさに競業他社図利行為類型を念頭に置いた規定である。 以上の点を踏まえると、Y2 が Y 社に E を紹介した行為については、端的に、 競業避止義務違反と評価することが適切と考える(14)。  もっとも、これに対しては、競業避止義務を厳格に解釈し過ぎているとの 批判がなされるかもしれない。確かに、ある労働者が競業他社に転職しよう とする場合、在職中に一定の積極的準備行為(本件であれば、Y2 が Y 社に E を紹介する行為)を行うことは自然であるし、そうした行為を競業避止義 務違反として封じることは、労働者の職業選択の自由(憲法 22 条1項)を (13)協立物産事件・東京地判平成11・5・28判時1727号108頁。 (14)他方、X 社就業規則4条2項11号は、よりオーソドックスな競業避止義務違反(本文のⅰ) ~ⅲ)類型)を念頭に置いた規定ではないため、仮にⅳ)の競業他社図利行為類型を競業 避止義務違反から除外した上、Y2の①の行為をⅲ)の引抜き類型と把握する立場に立てば、 判旨が説くとおり、違法性を肯定することは困難となろう。

(15)

過度に萎縮させる結果となるとも考えられる。私自身は、競業行為について は、在職中(労働契約継続中)と退職後(労働契約終了後)で明確な一線を 引き、前者については、労働者はこれを控えるべきものと考えているが、な お検討していきたい。  イ 契約締結妨害行為  本判決(判旨1⑵イ)は、E の派遣先となる甲ハウスとの契約締結妨害に ついては、a)Y2 が派遣先に対して派遣労働者の転職の可能性を伝える一方、 b)X 社に対しては、派遣先との契約は派遣労働者の都合により締結できな かったことのみ報告し、何らの対応策も講じなかったことについて、X 社の 利益を犠牲にして競業他社(Y 社)の利益を図る行為であり、X 社に対す る競業避止義務違反に当たるとして損害賠償責任を肯定している。  この判断は積極的に評価されており、派遣労働者の引抜きに関する従来の 判例法理(前掲東京コンピュータサービス事件[注3]、フレックスジャパン・ アドバンテック事件[注3]等)によれば、派遣労働者の引抜きの違法性が 否定された場合、不当な引抜きを行った派遣会社従業員や競業派遣会社の法 的責任を追及する途が失われるのに対し、派遣先との契約締結・継続妨害行 為の違法性を肯定することによって、そうした責任追及の途を開いた判断と 評価されている(15)。私も、この評価には賛成であり、Y2 による契約締結妨害 行為は、競業他社図利行為として競業避止義務違反に該当するものと考える。  もっとも、判旨のうち a)の判断には疑問の余地がある。判旨は、Y2 が 甲ハウスの職場見学の際、Y 社に転職するかどうか確定的に決めていなかっ た E の転職の可能性を甲ハウスに伝えて、X 社が予定していた甲ハウスと の契約締結を阻止したものと判断しているが、「Y2 が E の転職の可能性を 甲ハウスに伝え」ることと、「X 社と甲ハウスとの契約締結を阻止した」こ ととの因果関係に関する論証が不十分と解される。もっとも、「認定事実」 (15)熊隼人「派遣社員の引き抜きに関する一考察」経営法曹184号(2015)頁。

(16)

の箇所では、Y2 が E とともに甲ハウスの J 課長を訪問し、E が退席後、J 課長に対して E の退職の可能性を伝え、そのため0 0 0 0 、派遣元企業・派遣先間 の派遣契約が締結されなかったと認定されており、この事実認定を前提とす れば、判旨のような評価も可能であろう。いずれにせよ、派遣労働者の転職 の可能性を伝えること自体を契約締結妨害と評価し、競業避止義務違反と解 することは適切でないが、本件については、上記事実認定を前提に判旨に賛 成する(16)。  次に、b)については、判旨は、Y2 が X 社に対して、E の都合で甲ハウ スと契約できなかったと告げるだけで、X 社のために甲ハウスと Y 社との 契約を存続させるための何らかの対応策を講じていないことを理由に競業避 止義務違反を肯定している。問題は、労働者は、このような積極的な対応策 を講ずることまで労働契約上の誠実義務および競業避止義務として負うもの と解すべきか否かである。私は、本件のように、Y2 に事前の競業避止義務 違反(上記 a)の行為)が存在する場合については、この点を積極に解し、 判旨に賛成したい。この点、裁判例の中には、本件と同様の派遣会社従業員 の事後的対応義務について、派遣労働者の他社転籍希望を知った場合は派遣 会社の利益維持のために転籍を思いとどまるよう対処し、派遣先が派遣契約 移転を希望している場合は、派遣会社の利益維持のために移転を思いとどま るよう対処すべき義務を想定した上、これを誠実義務として否定した例があ る(注6)サンワコーポレーション事件)。確かに、一般論としてはそうで あろうが、本件のように、派遣会社の管理社員である Y2 が競業避止義務違 反と評価される行為を行った事実が先行する場合は、その事後的対応義務と して、判旨が説くような対応義務を競業避止義務として肯定することは可能 (16)この点、裁判例の中には、派遣会社の営業社員が自身および派遣契約継続中の派遣労働 者の退職可能性を派遣先に告げたことにつき、当該派遣社員の退職を前提にすれば必然的 に生じる事態であり、それ自体は事実であって虚偽ではないため、詐術ではないとした例 がある(前掲(6)サンワコーポレーション事件)。しかし、この裁判例は、派遣会社従 業員が派遣労働者の退職可能性を派遣先に伝えることと、派遣契約の頓挫の因果関係が立 証されていないケースであり、本件とは事案が異なると解される。

(17)

と考える。また、Y2 のこのような行為は、労働義務としての報告義務違反 ともなると考える(17)。  このように、判旨は一応、妥当であるが、前記のとおり(2⑵)、判旨は、 本件顧客奪取行為に関する判断枠組みとして、顧客の奪取が社会通念上自由 競争の範囲を逸脱したものといえる場合に違法となるとの枠組みを示しなが ら、具体的判断において適用しておらず、規範と当てはめが整合していない。 仮に、本件契約締結妨害行為について上記判断枠組みを適用して判断した場 合、甲ハウスとの契約締結妨害について社会通念上自由競争の範囲を逸脱す る行為とまで評価できるかは相当に疑わしい。判旨は、競業避止義務違反(債 務不履行責任)に関する判断と不法行為責任に関する判断を混同するととも に、法的整合性を欠く判断と思われる。本件についていえば、Y2 について、 競業避止義務違反(債務不履行)は成立するものの、不法行為まで成立する ものとは解し難い。 ⑵ F の引抜き・契約継続妨害行為  ア F の引抜き行為  F の引抜き行為に関する判断(判旨1⑶ア)については、E の引抜きに関 する判断と同様(それ以上)の疑問がある。判旨は、X 社在職中の Y2 が Y 社の F に対する会社説明や転職勧誘の場に同席したのは、労働契約上の誠 実義務に反し得る行為としながら、Y2 は F に対して積極的に勧誘行為を行っ た事実はなく、F が Y 社に転職したのは Y 社の労働条件に魅力を感じたこ とによるものであり、Y2 から勧誘を受けたことが原因とは認め難いと述べ、 F に対する勧誘行為は社会的相当性を逸脱した引抜き行為に当たらないと判 断する。  しかし、この判断には疑問がある。E の場合と同様、① Y2 が F に対する Y 社の会社説明・転職勧誘に同席したことと、②その後の UA 社との契約 (17)土田・前掲(1)書(『労働契約法』)93頁参照。

(18)

継続妨害行為は密接な関係にあるため、①②については、一連の行為と捉え た上で法的評価を行うべきである。しかも、F の場合は、Y2 は、Y 社の F に対する会社説明や転職勧誘の場に同席しているのであり、E の場合以上に 競業避止義務違反(前記ⅳ)の競業他社図利行為類型)の程度が高い。X 社 に在職し、同社に対する労働契約上の誠実義務・競業避止義務を負う身であ りながら、敢えて競業他社である Y 社による自社派遣労働者(しかも高度 人材)の転職勧誘の場に同席することは、これら義務違反と評価されてもや むを得ないものと考える。判旨は、ここでも、大量引抜きに関する従来の判 例法理(前掲ラクソン等事件[注2]等)に依拠した判断を行っているが、 繰り返し述べるとおり、この判断枠組みによって本件のような引抜きの違法 性を判断することは適切でなく、Y2 の行為については、端的に、競業避止 義務違反と評価することが適切である。  イ 契約継続妨害行為  この点について、本判決(判旨1⑶イ)は、Y2 の行為について債務不履 行責任ないし不法行為責任を肯定しているが、債務不履行責任を肯定する限 りにおいて妥当と解する。この点、X 社に在職中でありながら、退職時の挨 拶に際して、X 社において自己の業務を引き継ぐことになる G を UA 社に 同行しない一方、X 社と競合関係にある転職先の Y 社の K マネージャーを 伴い、その営業活動を容易にした点については、X 社の利益を積極的に侵害 する行為として、競業他社図利行為類型による競業避止義務違反と解すべき である。これに対し、Y2 の行為について不法行為とまで評価できるかは疑 問であり、まして判旨のように、顧客奪取行為について、顧客奪取が社会通 念上自由競争の範囲を逸脱したものといえるか否かを基準とするのであれ ば、その違法性を肯定できるかは疑わしい。判旨は、ここでも、競業避止義 務違反(債務不履行責任)の判断と不法行為責任の判断を混同するものと思 われる。また、Y 社の責任について、雇用契約上の債権侵害の不法行為を主 張した X 社の主張に応えることなく、漠然と共同不法行為責任を肯定した

(19)

判断にも疑問が残る。 4 損害  本判決(判旨2)は、Y2 らの本件契約締結・継続妨害行為による損害と しては、X 社の逸失利益(月額の基本派遣料金から E・F の給与・社会保険 料負担分等を差し引いた額)の3ヶ月分に限定して認容している。判旨は、 その理由として、労働者が退職・転職の自由を有している以上、企業は、労 働者が自由な意思に基づいて退職・転職したことによる損失を甘受すべきで あること、特に、X 社のような派遣会社の場合は、派遣労働者が正社員に比 べて有期であり、労働条件も不安定であるため、より良い労働条件を求めて 転職することは当然の理であること、派遣会社が派遣労働者の退職によって 損失を被る可能性がある場合は、当該派遣労働者の労働条件を改善して引き 留めを図ったり、他の派遣労働者を適宜補充するなどの自助努力により損失 を最小限にとどめることができること、契約締結妨害行為も軽度であること の4点を掲げている。  この点、大量引抜き事案に関する従来の裁判例も、従業員の引抜き行為と 相当因果関係にある損害については、労働者の転職の自由および引抜きに対 抗するための企業の自助努力の必要性を強調して、損害を限定的に認定する 例が多数である。たとえば、前掲ラクソン等事件(注2)は、従業員の自由 な意思による退職・転職に伴って会社に発生する損害については、会社が甘 受し、引き抜いた従業員に損害賠償を請求できないのが原則と述べた上、引 抜き行為により生じた損害のうち、相当因果関係にあると認められるのは1 か月分に限られるとして厳しく認定している。  この点は、派遣労働者の大量引抜き事案についても同様であるが、従来の 裁判例は、派遣業における人材の代替性と企業間の流動性を考慮して損害の 評価を行う傾向にあった。たとえば、前掲東京コンピュータサービス事件(注 3)は、コンピュータ技術者派遣会社における違法な引抜き行為について、 派遣業は定着性のある業種とは言い難く、現に本件派遣元企業でも従業員の

(20)

定着性が低いことから、仮に引抜きがなくても長期間在籍する可能性は極め て少ないことや、人材派遣業では、人材の代替性と企業間流動性が著しく高 いことを考慮すると、その補充に長期間を要するものとは考えられないとし て、損害の認定を2か月分の逸失利益に限定している。また、前掲フレック スジャパン・アドバンテック事件(注3)も、同様の考慮を行った上、「違 法な方法により派遣スタッフだけでなく、派遣先企業を喪失し、あるいは派 遣先企業における派遣スタッフ数の減少という結果が生じた場合には、当該 人材派遣事業者が新たな派遣先企業を獲得し、あるいは派遣先企業における 派遣スタッフ数を回復するまでの期間に生じた損害(失った派遣先企業から 得られたであろう派遣料)」について、違法な引抜きと相当因果関係がある 損害と判断した上、引き抜かれた派遣労働者の3か月分に当たる粗利額につ いて損害を肯定している。本判決は、損害の認定方法について最も明確な指 針を示した判断といえる。  これに対し、本判決は、労働者の転職の自由や、派遣業における人材の代 替性・流動性に加えて、派遣労働者の不安定な地位や労働条件を考慮し、労 働条件を改善して引き留めを図ることが可能との理由によって損害を限定的 に認定した点に特色がある。もっとも、損害の具体的算定に関する判断を見 ると、上記2つの裁判例の損害の認定方法との間に大きな違いは認められな い。むしろ、従来の派遣労働者の大量引抜き事案と比較すると、高度派遣人 材とはいえ2名の派遣労働者の引抜きを契機とする契約締結・継続妨害行為 について3ヶ月分の逸失利益を損害として認定した点は、引抜きを受けた派 遣会社(X 社)に対してやや甘い判断と評価できるように思われる。本件の ような高度派遣人材の引抜きをめぐるケースについては、逸失利益を機械的 に算定するのではなく、E・F の能力・成績や派遣先企業からの評価等を個 別的に評価し、より綿密に認定する必要があると考える(もっとも、この点 に関する当事者の主張立証は明確でないため、判旨はやむを得ない判断とも いえる)。

参照

関連したドキュメント

この基準は、法43条第2項第1号の規定による敷地等と道路との関係の特例認定に関し適正な法の

諸君には,国家の一員として,地球市民として,そして企

3 当社は、当社に登録された会員 ID 及びパスワードとの同一性を確認した場合、会員に

○ 4番 垰田英伸議員 分かりました。.

〔問4〕通勤経路が二以上ある場合

2 当会社は、会社法第427 条第1項の規定により、取 締役(業務執行取締役等で ある者を除く。)との間

① 新株予約権行使時にお いて、当社または当社 子会社の取締役または 従業員その他これに準 ずる地位にあることを

非正社員の正社員化については、 いずれの就業形態でも 「考えていない」 とする事業所が最も多い。 一 方、 「契約社員」