ファミリーホームにおける安心・安全な生活を保障するための基礎的研究―“暴力だけは絶対に許さない”Aホームへのフィールドワークを通じて― [ PDF
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(2) で理解してこそ,今後様々な FH でも援用可能な知見が得ら. 「最近ホームの様子はどうですか?(#5)」「H に本音を聴い. れる,と考えたからである。. といてもらえないだろうか?(#9)」など継続して関わるか. 2. 妥当性・信頼性の問題:本研究で得られたデータは,. らこそお願いされる事も多くなっていった。子どもたちと. 妥当性はあるが,低い信頼性を特徴とするものである。しか. の関係は,初めは歓迎してくれつつも,子どもたちも緊張. し、本研究の目的は,今後の研究に向けた基礎的な研究であ. して,あっさりとした関わり方が多かった。ただ,#3 では. り,一般化という事を論じる事を目的としていないため,妥. あだ名を付けられたり,一緒にゲームをして過ごすなど距. 当性の確保を優先的に考えられなくてはならないと判断し. 離が近くなっていく。ホームの仕事を任されるようになり,. た。. 養育者のような位置づけや,「何かあったら(危ない目に. 3.調査時期:2010 年 12 月〜2011 年 12 月(計 10 回). あいそうになったら)『小牧さん』って呼べば良いだけや. 4.調査対象の概要 :A ホームは,児童養護施設の指導員を約. (#7)」と守ってくれる大人としても機能していった。. 20 年勤めた B さんが,2009 年 7 月に自然豊かな P 地区に設. 7.分析手順と経過. 立した。子どもたちは,現在小学校2年生〜6年生までの. 以上のようなフィールドの状況や関係性の中で得られた. C,D,E,F,I,J という 6 人の男の子(Table1)であり,A ホー. データは,フィールドノーツにまとめられた。そして,その. ムに関わる職員は,5人である。ただ,その養育のほとん. 文字データは,佐藤(2002) ,箕口(2009) ,小田(2010). どを B さん一人で担っている(Table2)。. のフィールドワークの分析の方法を参考に以下のような3 つの手順で分析を行った。以下に,その手順と具体的な方 法について記述する。 ①データの読み込みを行い,オープンコーディングを行う オープンコーディングとは,分析対象となる文章ドキュ メントの1行1行を丹念に読み込みながら,その内容に小 見出しをつけていく作業である(佐藤,2008) 。コードをつ ける単位について箕浦(2009)は, 「最小の意味のあるまと まりであるフレーズごと」 「一文ごと」 「一つの主題で意味 的なまとまりのあるユニット(例えばパラグラフ)ごと」 の3つをあげているが,フィールドノーツの全記述にフレ ーズ単位ごとのコードを貼付ける作業は,膨大な時間を要 し,実際的でないばかりか,おおざっぱな流れを把握する. 5.調査方法:本研究では,フィールドワークを採用する。. ことを妨げる畏れがあるとしている。したがって,本研究. 具体的には,週末の2〜3日間泊まり込みでフィールドに. では#1〜3 では,フレーズごと,一文ごとの分析を行い,#4. 入り,参加しながらの観察を行なった。フィールドでは,. 以降は,基本的にユニットごとの分析を行い,研究設問に. ①フィールドでは完全な観察者として存在することは不可. 関係する部分は,フレーズごと,一文ごとの分析を行った。. 能で,筆者は現場で様々に意味付けられることになる,②. ②オープンコーディングを行いながら,研究設問を練り上. 現場での関係性に巻き込まれつつ,客観的な視点を忘れず. げる. に持っておく,③社会的養護の現場に入らせていただく. フィールドに入り,オープンコーディングをしていきな. ので,子どもたちの利益を最優先に振る舞う,の3つを基. がら,研究設問を練り上げていった。以下にその変遷の概. 本的なスタンスとして関わり,フィールドを離れた後,現. 要を示す。. 場メモと記憶をたよりにフィールドノーツを作成した。. #1 で,B さんが施設の指導員をしていたときに,施設で. 6. 筆者のフィールドにおける意味付けられ方の変化. の暴力を身を以て体験し, “暴力だけは絶対に許さない”と. 上記のような基本的なスタンスで,フィールドに入った. いう強い覚悟を持ち,暴力に対して様々な取り組みを行っ. 結果,私がどのように意味付けられたのかを示す。フィー. ていることが分かった。また,#2で,D,E,F の三人対 G の雪. ルドに入る際,Z さんには「何でも手伝いさせていい」,子. 合戦の最中に,F から雪玉を当てられ,エキサイトした G が F. どもたちには「遊びにくる大学生」と伝えられている。ま. を押さえつけ,手を出そうとしたとき,F がとっさに「それ. ず,Z さんは,初回から私に洗濯物を畳むように頼むなど,. やったら,おいちゃんに言うからね!」と言うと,G もそれ以. ホームの仕事を手伝う資源として活用していた。#3には. 上攻撃せず収まるという場面に遭遇した。この事から,何. 留守番をお願いされ,ご飯を作るなど,任される仕事も多. かあってもおいちゃんに言えば守ってもらえるという安心. くなり「居てくれて助かる」存在になる。また,後半には. 感を子どもが持っていること,その場に居ない“おいちゃ. 2.
(3) ん”という存在が暴力の抑止力になっていると感じた。以. らないように,得られたコードとカテゴリーの妥当性につ. 上のことから,①A ホームでは,暴力に対してどのような取. いて,臨床心理学を学ぶ大学院生2名によるチェックを受. り組みがなされているのだろうか,②そうした暴力への取. けた。. り組みが子どもたちに受け入れられ,何かあってもおいち. Ⅳ.結果と考察. ゃんに言えば大丈夫という安心感や,暴力を抑止するには. 分析の結果,78 個のエピソードや語りから 28 個のコード. 何が必要か。という2つの研究設問を立て,分析を行った。. が得られ,そして,6個のカテゴリーが抽出された(Table1)。. 分析を行う中で,A ホームにおける暴力に対する取り組み. それぞれのカテゴリー間の関係性を分析した結果を. の特徴として,より暴力が起こりにくい・何かあっても訴. Figure1 に示し,その概要を説明する。 Table3 カテゴリー・オープンコード一覧. えられる環境を指向して日々変化していくという特徴があ. カテゴリー Bさんの養育の原点. る事が明らかになり,それは B さんの並々ならぬ暴力に対 する覚悟が影響していることが考えられたことから,B さん Xホームにおける 暴力の取り組みを 支えるBさんの経験 や信念. の暴力に対する取り組みを支える思いや,背景についても 分析を行った。さらに,②に関しては,暴力の取り組みに よって子どもたちが様々な体験をし,それが積み重なった. Bさんの施設での経 験と暴力の理解. ホームを立ち上げる にあたっての決意. 結果として起こっていることが明らかになってきた。. オープンコード(エピソード・語りの数) 子どもたちの立場に立って気持ちを汲み取り、共感し、子ど もに絶対に嫌な思いをさせない(3) 前の施設の惨状(3) Bさん自身のストレス(2) 子どもたちのストレスの推測(2) 暴力の連鎖と根の深さの理解(4) 暴力の連鎖の種をまいたのは職員であるという理解(3) 暴力への指導が行われないことによる弊害(1) 暴力の発覚する場所の理解(1) 暴力が起こりやすい場所の理解(1) 暴力は絶対に許さないという強い思い(5) Bさん自身が暴力を絶対に振るわないという覚悟(4) 慎重な入所児童の選択(1). 以上のことから,①A ホームにおける暴力の取り組みを支. オリエンテーション(3). える B さんの経験や信念にはどのようなものがあるか,②A Xホームにおける暴 力に対する取り組 み. ホームでは暴力に対してどのような取り組みがなされてい るのだろうか,③暴力に対する取り組みによって,子ども. 暴力が起きにくい環 境・何かあっても訴え られる環境を作る. 生活の決まりごとの設定(2) トラブルの芽を摘む関わり(2) イライラさせない関係性の取り方を教える(2) 外部委員(4) ネットワーキング(4) 子どもたちの気持ちを汲み取り、愛情をもって接する(11). たちはどのような体験を積み重ねているのか,④①,②,. 暴力が起こったときの 対応. ③がどのように影響しあって,A ホームにおいて暴力に対 する取り組みが根付き,暴力が起こりにくい環境・何かあ. 暴力に対する取り 暴力に対する取り組 組みによって生ま みによって生まれる子 れる子どもたちの どもたちの体験 体験. っても訴えられる環境が作られるのか,という4つの研究. 暴力があったら必ず対応(4) 暴力を使わない激しい叱責(3) 他の子に見せる叱責(1) 同じようなことが起こったらどうするか教える(1) とりあえずの安心(1) 暴力があったら訴える(4) 暴力を振るってはいけないという感覚(2) 何かあっても訴えれば守られる経験と確信(3) 暴力の無い日常とその積み重ね(1). 設問を立てて分析を行った。 ③研究設問を念頭に置きながら,オープンコードをまとめ, より抽象度の高いカテゴリーを作る 箕浦(2008)や小田(2010)は,このプロセスに定まっ た道筋は無く,カテゴリー性が浮上する瞬間には,一種の ヒラメキのようなものが必要であると指摘している。た だ,佐藤(2008)は,KJ 法的手法や,章や節の構成をツ リーのようにして整理する方法が役立つとしており,本研 究でも,KJ 法的な手法を用い整理する作業や,図解する作 業を繰り返し,オープンコードをまとめ,より抽象度の高 いカテゴリーを作っていった。 ④カテゴリー間の関係を検討する この作業にも決まった道筋は無いが,小田(2010)は, 関係性を明らかにしていくために,複数の概念を書き出し て,一望の下に眺められるようにし,それぞれの間の関係 性を考える作業が役に立つとし,また,箕浦(2008)関係 文献に目を通したり,フィールドノーツを読み返すことも 助けになるとしているとしていることから,本研究におい ても,関係の文献に目を通し,フィールドノーツを読み返 しながら,得られたカテゴリーを図示し,それぞれのカテ ゴリーの間の関係性を検討する事を繰り返すことで,カテ ゴリー間の関係を検討した。 分析は基本的に筆者一人で行ったが,分析が恣意的にな. 3. Figure1 A ホームにおいて暴力が根付き,暴力の無い安全な環境が作られるまでのプロセス.
(4) 1. 暴力に対する取り組みが子どもたちに根付き,暴力が. (#1)」等,子どもの立場に立った気持ちの共感である。そし. 起こりにくい環境・何かあっても訴えられる環境が作られ. てこの軸が一切ぶれないことで,以下に挙げるような対応. るまでのプロセス. を可能にし,暴力の無い生活が作られていると思われる。. Figure1 を見ても分かるように,一番下で全体を支えてい. (2)暴力があったら必ず対応する. るのは, 【暴力に対する取り組みを支える経験と信念】であ. A ホームでは,暴力があったら必ず対応がなされ,その. る。B さんは, 「 (子どもたちが)親と離れて暮らす惨めさと. ことによって暴力があったら訴える行動が引き出され,反. か,絶対感じさないようにしようって思ってますね。それ. 対に暴力を振るう行動は消去されていく事が明らかになっ. が原点やわ(#9)」と語っているように,[子どもたちの立場. た。田嶌(2011)は,児童養護施設において,子どもたち. に立って,気持ちを汲み取り,共感し,子どもに絶対に嫌. は実際に暴力について職員に訴えているが,日常的に子ど. な思いをさせない]という強い思いが, 【B さんの養育の原. もを守る仕組みが無いためにこっぴどい仕返しを受け,訴. 点】となっている。そのような原点を持つ B さんは,A ホー. えなくなったと指摘しているように,暴力について訴えが. ムを立ち上げる前に,暴力の吹き荒れる O 園で働いていた. あったときに,子どもを守り抜かなければ,子どもたちは. が,そこでの経験は,暴力にさらされる子どもたちの大変. 暴力を受けても訴えなくなり,結果として暴力が潜在化し,. さに共感し, 「暴力だけは絶対に許さない」という強い思い. また過激化していく可能性がある。. と抱かせると同時に,暴力に関する理解をもたらした。そ. (3) 外部に開かれた養育. うした,強い信念と暴力に関する理解が,A ホームにおける. B ホームでは,[外部委員],[ネットワーキング]など,意. 暴力に対する取り組みを支えている。. 識的に外的な資源を取り入れている。その結果,外部委員. A ホームにおける暴力に対する取り組みには,[暴力が起. の聞き取りによって,B さんが本当は悪くない子どもを勘違. こりにくい環境・何かあったら訴えられる環境を作る]と. いして怒っていたということが明らかになった。このよう. [暴力が起こったときの対応]という二つの取り組みがある. に,どんなに気をつけても間違いは起こり得る。FH は,外. ことが分かった。まず,子どもたちには,入所時に,B さん. 的にサポートする体制が「まだ何もできていない(卜蔵・. からオリエンテーションが行われ,その強い覚悟から,子. 若狭,2010) 」状況であり,もし,A ホームのように意識的. どもたちは[とりあえずの安心]を持つことにつながる。ま. に外部に開かれていなければ,間違いが発覚することすら. た,暴力を振るわれたらどうすれば良いのかも教えられる. 無く,養育が続けられる可能性があった。B さんは, 「だっ. ため,実際に[暴力があったら訴える]という行動につなが. て,俺だって人間だから,感情的になって頭が真っ白にな. る。その他,様々な[暴力が起こりにくい環境・何かあった. ることもあるじゃん。だから,風通しだけは良くしようと. ら訴えられる環境を作る]取り組みによって,暴力の無い日. 思ってやってるよ(#5)」と語っているが,この姿勢は田嶌. 常が作られ,子どもたちの中に積み重なっていく。. (2011)の指摘する「自分だけは大丈夫と考えないこと」 ,. 暴力が起こったら,子どもたちは B さんに訴え,例外な. 「自分を例外としない姿勢」と同じであると思われる。自. く【暴力が起こったときの対応】が行われる。その結果,. 分の弱さや限界を認識したうえで,積極的に外的な資源を. ①訴えた子は訴えたら守られた経験,②訴えられた子は暴. 取り入れていくことが,FH における養育の透明性・妥当性. 力を振るったら怒られた体験,③それを見ていた子どもた. を保障することにつながると考えられる。 Ⅴ.本研究の限界と今後の課題. ちは,その二つを見た体験となり,[何かあっても訴えれば. 本研究では,A ホームへのフィールドワークを通じて,A. 守られる経験と確信]や,[暴力を振るってはいけないとい. ホームにおいて暴力に対する取り組みが根付き,暴力が起. う感覚]を生じさせる。その結果,暴力があったら訴える行. こりにくい環境・何かあっても訴えられる環境が作られる. 動が引き出され,反対に暴力を振るうという行動は消去さ. までの過程と,それに必要なものを,①取り組みを支える. れる。このような事が繰り返され,体験が積み重なること. 背景,②暴力の取り組み,③子どもたちの体験,という3. によって暴力に対する取り組みが根付き,暴力が起きにく. つを総合して考察した。一つのホームから得られた知見で. い環境・何かあっても訴えられる環境が作られていく。. あるので,他のホームに一般化することには限界があり,. 2. A ホームにおける暴力に対する取り組みの特徴と暴力. 今後の更なる実践と,その積み上げの中で「共有可能な知. の無い安全な生活を作る上で重要なもの. 恵」(田嶌,2011)を作り上げていく必要があると思われる。. (1)子どもたちを絶対に暴力から守るというぶれない軸. Ⅵ.主要引用文献:田嶌誠一(2011):児童福祉施設におけ. A ホームにおける暴力に対する取り組みの軸になってい. る暴力問題の理解と対応 続・現実に介入しつつ心に関わ. るのは, 「あの子らきついと思うわ。たらい回しにされたり,. る 金剛出版. 親から殴られたりさ。だから,暴力だけは絶対に許さん. 4.
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