絵画の中の「余白」ーその空間構造,機能,印象ー [ PDF
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(2) を代表とするネガティブな感情が見受けられた.第 3 グ. を用いて捉えた.絵画の印象を自由記述で尋ねる予備実. ループは,それぞれの絵の中で余白は必要か不必要か,. 験を行い,そこで得られた用語を中心に,また研究の内. 余分か不足か,といった観点から余白感をイメージする. 容から他にも新たに考慮し,21 語を選択した.. 余分な ,余白がないと余裕がなくて見難くなる 余 裕・見やすさ ,構図や対象の位置などを重視する バラ ンス などの記述が見られた.. 手続き ディスプレイ上に提示された刺激を見ながら,質問紙 の内容に回答してもらった.刺激は,1 枚ずつ提示され, 質問紙への回答も 1 枚ごとに行った.あらかじめ被験者. 本実験. には,刺激の鑑賞時間,質問紙への回答時間に制限はな. 目的. く自由なペースで進めるよう,しかしあまり深く考え込. 予備実験により得られた余白感の程度の違う絵画と,. まずに直感で答えるよう教示した.. 余白感のイメージとの関係性を検討することを第 1 の目 的とした.その際,イメージとして挙げられた 3 つのグ ループについて,尺度のかたちでそれぞれの絵画ごとに 数値化させることにより検討を行った. また,絵画の余白感以外の印象評価も行うことで,余 白感の程度,余白感のイメージ,絵画の印象という 3 つ の関係性についても検討することを第 2 の目的とした.. 結果と考察 評定尺度の因子分析(表1) 項目の構造を捉え,余白感のイメージを分類するため, 評定尺度の評定値について,因子分析を行った結果(最 小二乗法,プロマックス回転) ,3 因子が抽出された. 第 1 因子は, 空白として目立つ部分が多い , 白の 印象が強い , 余分な(不足な), ゆとりがある など. 方法. の項目に対して負荷量が高く,余白が刺激全体において. 被験者 大学生・大学院生 40 名が個別に参加した.. メイン(図)となっているという特徴があり,余白を常. 刺激. に意識させることから, 「意識的余白」と命名した.第 2. 予備実験 A の結果をもとに,余白感が高いとされた絵. 因子は, 続きがある , 変化がある , 広がりがある. 画 5 点,余白感が低いとされた絵画 5 点,余白感が中く. などの項目で負荷量が高く,余白を空間の中で背景(地). らいの絵画 5 点を選択した.その際,絵画の様式や物理. として捉えていると考えられるため,他の対象を引き立. 的要因についても考慮に入れ,余白感の各高さの順に必. たせ, 余白があることを意識させないことから, 「無意識. ずしも限定せずに選択し,刺激とした.. 的余白」と命名した.第 3 因子は, バランスが良い ,. 質問紙内容 ①余白感評定 絵画の「余白感」が,どのくらいか1∼10 の数字で判 断,記述させた. 「余白感」については予備実験と同様説. 見やすい という項目で負荷量が高く,これらは,余 白そのものと言うよりも,余白部分と対象における数や 配置などのバランス関係についての項目であると考えら れるため, 「余白部分と対象との関係性」と命名した.. 明せず,自由な感覚で答えてもらった.なお, 「余白感」 が,大きい,強い,高いと思うほど,大きな数字とした. 「余白感」がないと思う場合は 1 とした.また,質問紙 への全ての回答終了後に, 「余白感」 としてイメージした ことは何であったか記述させた. ②評定尺度 予備実験において,余白感としてイメージされたもの および余白と聞いて思い浮かぶこととして挙げられた記 述について,多次元尺度法で分類された3つのグループ をもとに,グループの中で代表的と思われたもの,複数 の回答があったものを主に選択し,余白感に関する尺度 項目として設定した.尺度項目は7段階で評定させた. ③記述選択 余白に関する印象以外の,絵画全体の印象について, あてはまる形容語を数に制限なく選択させる記述選択法. 表1.余白感の印象評定尺度についての因子分析の結果 (プロマックス回転後の因子負荷量). 尺度項目 因子1 因子2 第1因子:意識的余白(メインとなる余白) ・空白として目立つ部分が多い 0.786 0.031 ・ ゆとりがある 0.770 0.090 ・白の印象が強い 0.600 0.164 ・威圧感がある - 0.518 - 0.066 ・余分な - 0.473 0.246 ・余韻を感じる 0.455 0.262 ・ メイン以外のものが多い - 0.392 0.315 第2因子:無意識的余白(引き立たせる余白) ・続きがある 0.204 0.736 ・変化がある - 0.182 0.652 ・広がりがある 0.339 0.582 ・ 空虚感がある 0.436 - 0.444 第3因子:余白部分と対象との関係性 ・ バランスが良い - 0.172 0.008 ・見やすい 0.391 - 0.096 因子寄与 3.097 1.902. 因子3 - 0.313 0.198 - 0.079 - 0.140 0.062 0.180 - 0.219 - 0.048 - 0.007 - 0.046 - 0.198 0.803 0.635 1.566.
(3) 刺激のクラスター分析 評定尺度の因子分析の結果得られた因子得点を絵画. 表2.重回帰分析の結果(基準変数:余白感評定値,説明変数: 因子得点)なお,第2因子は,削除された項目であった.. ごとに平均した値に対し,階層クラスター分析(Ward 法,平方ユーグリッド距離)を行った結果,距離 10 の 点で 3 つのクラスターに分類された. 第 1 クラスターは,背景への書き込みが多く,またク ローズアップの手法により,対象のみが大きく描かれた 刺激からなっていた.そして,第1因子: 「意識的余白」 の因子得点が,他の因子や刺激に比べ,とても低く,余 白が絵のメインであると意識させる刺激ではなかったこ とになる. また, 余白感評定値についても低い値をとり, 余白感低群と分類された刺激で構成されていた.第 2 ク ラスターは,刺激の特徴として,人物画が多く見られ, 明るい色調のものが多かった.また背景への書き込みの 量としては少なく,主に余白部分と対象ひとつ,という ものからなっていた.そして,余白感評定値については 高群から中群を示し,余白感をとても感じる刺激で構成 されていた.第 3 クラスターは,主な特徴として静物画 が多く,また暗い色調であったために,重い印象を与え る刺激からなっていた.そして,第 2 因子: 「無意識的 余白」の因子得点が低く,広がりや動きを感じさせず, 他の対象を引き立たせる意味での余白の働きは見られな い刺激でもあったと言える.余白感評定値については, 高群から低群までまんべんなく含まれており,余白感を 感じるか否かの次元では分類されてはいなかった. 以上の分類は,余白感評定値の高さにより分類した結 果と相違が見られた.評定尺度での分類での,第 2 因子: 「無意識的余白」の影響が考えられた. 評定尺度が余白感評定値に与える影響−重回帰分析 評定尺度が余白感評定の結果に及ぼす影響を重回帰分 析により検討した.因子分析で得られた 3 因子の因子得 点の値を説明変数, 余白感評定の評定値を基準変数とし, 方法はステップワイズ法であった. その結果,自由度調整済み重決定係数(調整済みR2) は,0.491 で回帰式は有意となった(p<.001) .説明変 数として第 1 因子と第 3 因子が有意となり(p<.001) , それぞれ標準偏回帰係数(β)の値は,第 1 因子がβ =0.729,第 3 因子がβ=−0.232 であった.なお,第 3 因子は抑制変数であった. (表2) これより,余白感評定には評定尺度の第 1 因子: 「意 識的余白」と第 3 因子: 「余白部分と対象との関係性」 が影響を与えていることが確認され, 「意識的余白」 因子 の得点が高く, 「余白部分と対象との関係性」 因子の得点 が低いほど,余白感評定値は高くなると言えた.. 説明変数 標準偏回帰係数(β) 相関係数 偏相関係数 第1因子 0.729 * * * 0.666 0.702 第2因子 ‐0.029 * * * ‐0.036 第3因子 ‐0.232 * * * ‐0.034 ‐0.299 R=0.703,調整済みR2=0.491 * * * * * * p<.001 印象語と刺激を多次元空間に位置づける−多次元展開法 記述選択法により得られたデータから印象語と刺激 の関係性を検討するため,非計量的多次元展開法 ( nonmetric multidimensional unfolding method ) (例えば,齋藤,1980;中村,2000;岡本,2003)を 行った. 非計量的多次元展開法とは,多次元尺度法の一つであ り,データが刺激×変数という構造を持つ場合,刺激と 変数を同一空間内に位置づけることが可能になる (中村, 2000).そのため,それぞれの刺激の近くには,その刺 激に当てはまると評定された印象語が配置されることに なり,刺激と印象語の関係性を考えるひとつの手法とな りうると考えられ,今回は採用することとした. 次元の決定は,各座標値の初期値を求めるために行わ れた数量化4類の結果得られた各次元の固有値および寄 与率から行った.その結果,累積寄与率が 45%を超える 2 次元を採用した(距離と類似度の順位相関係数 R=− 0.920) . (図1) 印象語の観点から軸を解釈すると,次元 1(縦軸)は 正の方向に, 楽しい , 気ままな , あたたかい など のポジティブな印象語が多く見られ,負の方向に 悲し い , 緊張した , 寒い などのネガティブな印象語が 多く見られた.この次元は,印象の質を表す次元と考え られた.次元 2(横軸)は正の方向に, 騒がしい , 固 い などの印象語が見られ,負の方向に やわらかい , 落ち着く などの印象語が見られた.そのためこの次 元は,印象の強度を表す次元と考えられた. 刺激と印象語との関係性については, ゆったりし た , 落ち着く , あたたかい , 静かな の近くに, 評定尺度の評定値によるクラスター分析での第 2 クラス ターの刺激が位置していた.また, 静かな , 寒い , 悲しい の近くには,第 3 クラスターの刺激が位置し ていた.第 3 クラスターの刺激のうち,余白感が高群と された刺激については, 寂しい , 緊張した , 孤独 な の近くに位置された.第 1 クラスターの刺激は, 騒 がしい. 日常的な の近くに位置していた..
(4) これより,印象語と評定尺度の結果の対応が見られる. 余白部分が目立ち,絵画のメインとなるような余白を持. と考えられたため,次元の解と評定尺度の因子分析結果. っていると言えるだろう.. である各因子の因子得点および尺度項目の評定得点との. 第 2 の目的の,絵画の余白感以外の印象と余白感のイ. 相関関係を調べた.その結果,次元1は,因子1: 「意識. メージとの関係については,ポジティブであるか,ネガ. 的余白」と有意な負の相関が見られ(r=−0.654,p<.01) ,. ティブであるかといった絵画の印象の質に 「意識的余白」. 因子2:「無意識的余白」と有意な正の相関が見られた. とともに 「無意識的余白」 が関係していると示唆された.. (r=0.863,p<.01) .次元 2 は,因子1との相関は負の. ポジティブな印象の中には, 日常的な や ゆったりし. 有意傾向が見られ(r=−0.504,p<.1) ,因子 3: 「余白. た が含まれ,ネガティブな印象には, 時が止まった. 部分と対象との関係性」と有意な負の相関が見られた. や 緊張した が含まれており,ここでのポジティブな. (r=−0.874,p<.01) .. 印象は,現実の世界を想起させるものでもあった.刺激 の特徴についても,3 次元空間を感じさせるものが多か った. これらの点から考えられることとして, 「無意識的. 総合考察 本実験の第 1 の目的は,絵画における余白に関し,余. 余白」は現実の生活空間に存在する余白としての働きを. 白感評定値と余白感のイメージを対応づけることであっ. 持っているのではないだろうか.日常生活において「余. た. 余白感のイメージには, 「意識的余白」 , 「無意識的余. 白」は常に意識されるものではないために,余白感評定. 白」 , 「余白部分と対象との関係性」の 3 つがあり, 「意. 値とは結びつかなかったとも考えられるだろう.. 識的余白」は,対象の数は少なく,余白の部分が多く感. 絵画の中の余白には,余白への印象と絵画全体の印象. じられ,絵画を見た瞬間に余白が目に飛び込んでくるよ. に関係するものがあることが示され,加えて,現実の空. うな余白のことを表していると考えられた. 反対に, 「無. 間の中の余白の存在についても示唆される.. 意識的余白」は,対象の数は多く,一目見ただけでは, 引用文献. 余白があることや余白の果たす役割に気付かれないよう. 三井秀樹 1999 美のジャポニズム 文芸春秋. な余白のことを表していると考えられた.. 2000. 中村知靖. そして,余白感を感じるかどうかに直接影響を及ぼす. 多変量データ解析法を利用した心理. のは,余白があることに気付かれない「無意識的余白」. 測定法 行場次朗・箱田裕司(編著)知性と感性の心. の特性ではなく, 「意識的余白」 の有無であると示唆され. 理−認知心理学入門 福村出版 Pp.202-214.. た.すなわち,余白感が高い絵画であるということは, 1.5. 1.0 騒がしい. 楽しい あたたかい 気ままな. .5. 好きな やわらかい 日常的な. ゆったりした. 次 元 0.0 1. 落ち着く 静かな. 時が止まった 寂しい. 非現実的な 嫌いな 不安な 固い. 孤独な. -.5 寒い 悲しい 緊張した. -1.0. -1.5 -.6. -.4. -.2. -.0 次元2. .2. .4. .6. 図1.多次元展開法の結果 (縦軸は,次元1:印象語の質を,横軸は,次元2:印象語の強度を表す) ..
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