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ドイツにおける改善保安処分制度 : 制度と基盤についてのイントロダクション

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(1)

Instructions for use

Author(s)

リタ, ハーヴァーカンプ; 小名木, 明宏(訳)

Citation

北大法学論集 = The Hokkaido Law Review, 67(4): 358[69]-338[89]

Issue Date

2016-11-30

Doc URL

http://hdl.handle.net/2115/63735

Type

bulletin (article)

(2)

 科刑は行為者の責任を基盤とする。しかし、刑法の任務は贖罪、そしてそれ と結びついた規範の妥当性の明確化と強化にだけ制限されるわけではなく1、む しろ行為によって壊された秩序を回復し、確実なものとする予防的法益保護が 問題となるのである2。この予防的機能は、公共に対する行為者の予測される犯 罪の危険性をカバーするために、改善保安処分により(§§ 61-72 StGB)2つめ の独自の制裁の軌道を必要とするのである。予防的措置としての改善保安処分 は行為と行為者の無価値判断から引き離されているので、それを命令するにあ たっては故意の違法行為が実行されることで十分である。つまり、裁判所は例 えば責任能力なく(§ 20 StGB)、犯罪を実行した精神疾患の行為者に対しては、 自由刑を科するのではなく、精神病院での収容(§ 63 StGB)を命令することが できるのである。 1.基礎  刑法典は6つの改善保安処分を規定している(§ 61 StGB)。その場合、入院 の処分と在宅の処分に分けられている。自由をはく奪する処分には、最初に挙 げた精神病院での収容と並んで、アルコール中毒、薬物中毒患者に対する禁絶 1 Meier, Bernd-Dieter: Strafrechtliche Sanktionen, 4. Aufl., Berlin Heidelberg 2015, S. 269. 2 Ders., (Fußnote 1), S. 269.

ドイツにおける改善保安処分制度

── 制度と基盤についてのイントロダクション ──

リタ・ハーヴァーカンプ

小名木明宏

 訳

(3)

施設での収容(§ 64 StGB)および保安監置(§§ 66 ff. StGB)があり、自由のは く奪を伴わない処分には、行状監督(§ 68 StGB)、運転免許のはく奪(§ 69 StGB)、職業の禁止(§ 70 StGB)がある3。限定つきではあるが、処分によって 形成される二元主義のシステムは年少少年と年長少年の制裁についても妥当す る(§§ 7, 105 Abs. 1, 106 Abs. 3 bis 7 JGG)。

 処分は、それを命令するにあたって様々な端緒(例えば精神の疾患、アルコー ル中毒)があり、様々な刑事政策的な目的に資するが、再犯の危険性のある行 為者による犯罪行為を防止することが共通の目的であることでは一致してい る。改善保安処分は刑法第6章の項目に対応して特別予防の型式とされている。 保安の場合は犯罪行為からの公共の保護が問題であり、改善にあっては治療- 執行のレベル-が重要となる。  公共と個人の利益の間の必要不可欠な衡量は刑法(§ 62 StGB)に規定されて いる比例原則と関係する4。それによれば、行為者により実行された行為の重要 性、予測される行為、ならびに発生する危険の程度に比して均衡がとれていな い場合には、処分はなされてはならないのである。あらゆる状況を総合的に判 断して、命令によって科される侵害の重大性が、実行された行為、最も重要な 基準として、予測される行為、そして危険の程度とバランスが取れていなけれ ばならないのである。刑法62条の文言を越えて、比例原則は、様々な規範(例 えば、将来、予測される行為の「重要性」)における個々の命令の解釈に際して、 そして効果の判断(例えば、処分執行を停止するにあたっての判断)に際して 考慮されねばならないのである5 2.改善保安処分の拡がり  実務運用においては、運転免許のはく奪(§ 69 StGB)は他を引き離してもっ とも頻繁に科せられる改善保安処分である(図1、2参照)。2013年の処分全 体において97%を占めるその割合がこのことを示している。2002年以降の運転 3 特別法においてはさらに2つの特別な制裁が存在する。動物の飼育の禁止(動 物保護法20条)と狩猟免許のはく奪(連邦狩猟法41条)である。 4 法治国家原理に基づき、比例原則はついては、いずれにしても尊重されねば ならない 5 Vgl. BVerfG NJW 1995, 3048, Sinn, SK 2015, § 62 Rn. 2.

(4)

免許のはく奪の推移を見ると、有罪判決を受け、この処分を科された者6 2013年には94123件であり、これまでの最低であったことが解る(図1)。この ような減少傾向がどの程度継続的なものとなるかは、背景事情が解らなくては、 説明できない。  自由はく奪を伴う処分の重大性にかんがみれば、精神病院での収容(§ 63 StGB)、禁絶施設における収容(§ 64 StGB)、ならびに保安監置(§ 66 StGB) での収容が、運転免許のはく奪(図1)と比較して数が少ないことは、驚くべ きものではない(図2)7。禁絶施設での収容が最も重要な入院の処分であり、こ こ数年では明白な伸びを示していることが、2002年から2013年にかけての経過 から明らかになっている。2002年の有罪件数が1532名であり、この数字は2013 年まで継続的に上昇し、2457名に達している。これとは対照的に、精神病院で の収容の命令はこの期間では安定している。最も多くの命令が出た2008年には 1104名の有罪判決を受け、最高を記録したが、それ以降は下降しており、2013 年には813件で、最低を記録した。侵害が厳しいということで、保安監置は実 6 略式命令に処せられた被告人、あるいは、公判手続き開始後に判決または手 続き終了決定により効力が確定した被告人。 7 Meier, (Fußnote 1), S. 279. 0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 図1:2002年から2013年までの運転免許はく奪(§ 69 StGB)を伴う判決件数 Quelle: Statistisches Bundesamt, Fachserie 10 Reihe 3, Tab. 5.5; 2002-2013.

(5)

務運用では最も適用がさし控えられている。それでも、これまでの最高は2008 年の111名であった。増加しているのはおそらく適用範囲の拡大化を伴う立法 活動を反映しているのであろう8。2008年以降は、はっきりと減少傾向がうかが え、2013年には32件で最低を記録している。裁判官の命令による行状監督(§ 68 Abs. 1 StGB)と職業の禁止(§ 70 StGB)という2つの在宅の処分は、実務 運用においてはほとんど重要ではない。裁判官により行状監督が科せられた者 は2002年を除き二桁台(25から48名が判決を受けた)で動いており、他方、職 業禁止を科せられた者は少し上で動いている。しかし、2002年の137件から 2013年の62件へと常に減少しており、半数以下に減っている。  処分執行における収容(図3を見よ)は命令内容によって区別される。数値 としてはそれぞれ比べるべきではない。なぜなら、まず処分執行の統計は基準 日の統計に基づくものであり、他方、被収容者の人数は、数年から終身まで期 間に基づく命令の数を明らかに超過しているのである。この違いは精神病院で の被収容者数を見ると明確になる。この処分の命令件数は減ってはいるが、精 神治療の処分執行の件数は、2000年の4096人から2012年の6750人と明らかに増 8 Meier, (Fußnote 1), S. 367. 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 § 63 § 64 § 66 § 68 § 70 図2:2002年から2013年までの改善保安処分を伴う判決件数

Quelle: Statistisches Bundesamt, Fachserie 10 Reihe 3, Tab. 5.1 (§ § 63, 64, 66

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加している。それ以降は精神治療の被収容者数は軽く減少している。無期限の 処分は、長期、場合によっては終身の精神治療の処分執行になる。精神治療の 収容の場合とは反対に、禁絶処分の命令件数(図2を見よ)の増加と禁絶施設 での収容件数の増加は、被収容者数(2013年:3819人)が命令件数(2013年: 2457件)を上回っているものの、それぞれ呼応している。このような結びつき は、おそらく、禁絶施設では長くとも2年という明らかに短い収容期間となっ ていることに由来する。長い収容期間に関しては保安監置で収容されている者 の人数も命令の件数より多い。2000年から2010年まで保安監置されている者の 数は219人から最多の536人まで恒常的な増加が認められた。この増加は保安監 置の収容期間の長さを示しているのである。2011年から2012年にかけての明ら かな減少は、1998年1月31日以前に保安監置の関する最初の命令による10年の 収容を遡及的に破棄し、そのまま収容し続けたことが許されないとした欧州人 権裁判所(EGMR)の判決に基づく釈放と関係している9

9 Urteil des EGMR vom 17.12.2009.

10 Zahlen nur für das frühere Bundesgebiet inkl. Berlin; 2000 und 2001: Zahlen aus Rheinland-Pfalz stammen noch von 1999; 2009: Zahlen aus Rheinland-Pfalz

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 § 63 § 64 § 66 図3: 2000年から2013年(それぞれ3月31日現在)までの処分執行と保安監 置での被収容者数

Quelle: Statistisches Bundesamt, Fachserie 10 Reihe 4.1; Tab. 1 (bis 2012);

Statistisches Bundesamt, Strafvollzugsstatistik: Im psychiatrischen Krankenhaus und in der Entziehungsanstalt aufgrund strafrichterlicher Anordnung Untergebrachte 2013/2014; Tab. 2 (ab 2013).10

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 裁判官により命令された行状監督は異なり、法律に基づく行状監督(§ 68 Abs. 2 StGB)は実務運用で重要な役割を果たしている(図4を見よ)。ここ数 年では行状監督に付された者の数は継続的に増加していることが解る。2014年 には行状監督に付された者の数は36706人に達し、2008年から2014年にかけて は約50%の増加であり、これは今のところ最高値を示している11。2008年以降、 行状監督に関する全ドイツの数値が把握されるようになった。しかし、各州の ドイツ保護観察連盟によりまとめられてはいるだけで、正確な全体数が示され ているわけではない。

stammen noch von 2008; 2011 bis 2014: Zahlen aus Rheinland-Pfalz stammen noch von 2010; 2012: Zahlen aus Schleswig-Holstein stammen teilweise noch aus 2011.

11 ドイツ保護司連盟の発表による。http://dbh-online.de/unterseiten/themen/ fuehrung.php?id=654, zuletzt abgerufen am 27.01.2016.

12 2000: Nur Zahlen aus Niedersachen, Hessen, Berlin (Erwachsene), Hamburg und Bremen; 2003: nur Zahlen aus Niedersachen, Hessen, Berlin (Erwachsene), Thüringen, Hamburg und Bremen; 2004: nur Zahlen aus Nordrhein-Westfalen (NRW), Niedersachsen, Hessen, Berlin (Erwachsene); Thüringen, Hamburg und

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 2000 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 図4:2000年から2014年までの行状監督(§ 68 ff. StGB)の対象者数 Quelle: DBH-Fachverband;

http://www.dbh-online.de/fa/Zahlen-Laender_2011_DBH.pdf und http://www.dbh-online.de/fa/FA-Zahlen-Bundeslaender-2014.pdf; ab 2008: Gesamtdeutschland.12

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3.自由のはく奪を伴う処分 3. 1.精神病院での収容(§ 63 StGB)  精神病院での収容は、限定責任能力の状態(§ 21 StGB)で、あるいは、責任 無能力の状態(§ 20 StGB)で違法行為を実行し、その状態のために将来、さら に重大な行為を行うことが予想される行為者を対象としている(§ 63 StGB)。  「違法な行為」(§ 11 Abs. 1 Nr. 5 StGB)と法律上規定された概念はとくに秩 序違反をその前提から排除している。これは同様に、被害者が告訴しない親告 罪や中止犯(§ 24 StGB)にもあてはまる。これに対して故意行為か過失行為か は重要ではない(§ 15 StGB)。責任能力が著しく減少していることは、積極的 に確定されねばならず、限定責任能力が否定できない場合に、「疑わしきは被 告人の利益に」の原則により、処分を命令することはできない13。さらに、責任 無能力あるいは限定責任能力が長期にわたる精神の疾患に基づく場合だけ、収 容が考慮される14  命令の実質的な前提には、事実審裁判官の判断時における行為者の将来の行 動のネガティブな予測が含まれる15。重大な違法な行為の予測という要件は、 個人の自由の利益と公共の安全の利益との間で慎重な、個々のケースに関連付 けた、すべての情報を評価する衡量を前提とする。裁判所は63条の適用領域か ら軽微犯罪だけを除外している16。そこでは、予測される損害の重大性、一身 専属的法益への脅威、将来予想される行為の頻度が強調される。判例によれば、 命令を発するためには、「単なる可能性」では不十分で、「高度の蓋然性」を必

Bremen; 2005 und 2006: nur Zahlen aus NRW, Bayern, Niedersachsen, Hessen, Berlin (Erwachsene), Thüringen, Hamburg und Bremen; 2007: nur Zahlen aus NRW, Bayern, Niedersachsen, Berlin (Erwachsene), Thüringen, Hamburg und Bremen. 13 Heger, Lackner/Kühl 2014, § 63 Rn. 3. 14 従って一時的な酩酊や激情は該当しない。64条との区別について、判例は神 経過敏症という意味での病的なアルコール依存ないし薬物依存や依存症とは区 別される精神の疾患を63条において要求している。 15 Heger, Lackner/Kühl 2014, § 63 Rn. 8. 16 BGH 5 StR 626/91 StV 92, 571; KG Berlin JR 92, 390; .BGH 4 StR 6/08 StraFo 09, 164.

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要としている17。行為者の精神の状態と危険性の間の症候的な関連が、実行さ れた行為と予測される行為が行為者の病的な精神の状態に基づくという意味で 存在しなければならない18。公共に対する行為者の危険性という点では、命令 が具体的な個々のケース、例えば家庭内の対立において許されるかが問題と なっている。ある見解によれば他の収容の可能性があるとして命令は認められ ず19、他の見解は人的な関係とは別に個人を行為者から保護するので63条は適 用されるとする20。「行為者と行為の全体評価」とは行為者の現在の生活状況を 横断的に考察し、実行された行為と将来の行為に対する重要性を加味して精神 の疾患を結論付けるものでなければならない21  形式的要件と実質的要件が揃うと、63条による収容が必要となる。処分の目 的が他の方法で実現できる場合はここでは外される。民事法上の規定に基づく 収容や在宅治療がそれにあたる22。命令は地方裁判所に認められている(§§ 24 Abs. 1 Nr. 2, 74 Abs. 1 S. 2 GVG)。公判手続きにおいて鑑定人の尋問が行われ ねばならない(§ 246a Abs. 1 S. 1 StPO)。鑑定人は出来る限り捜査手続きの段 階ですでに鑑定書の準備をせねばならず(§§ 80a, 246a Abs. 3 StPO)、つまり は、書面の解析と並んで、被疑者の意思に反しても調査のための機会が与えら れねばならないのである(§§ 81a StPO)。 3.2.禁絶施設での収容(§ 64 StGB)  禁絶施設での収容には、アルコールまたはその他の薬物を過度に費消する性 癖を持った行為者が対象となり、それゆえ、さらなる重大な行為の危険性が存 在する(§ 64 StGB)。その命令は治療の成果への十分に具体的な見込みがある 17 BGH 1 StR 603/92 (LG Hof) NStZ 93, 78 und BGH 4 StR 269-99 (LG Bielefeld) NStZ 99, 611; BGH 3 StR 27/09 (LG Oldenburg) NStZ-RR 09, 169.

18 Schöch, LK 2006 ff., § 63 Rn. 101. 19 Pollähne, NK 2013, § 63 Rn. 70. 20 So Meier, (Fußnote 1), S. 320 f.

21 この点、詳細は Pollähne, NK 2013, § 63 Rn. 81 ff.

22 法的世話人の申請による民法1896条以下の民事法上の収容がなされる世話関 係(§ 1906 Abs. 1, 2 BGB, § 23c GVG i.V.m. § 312 Nr. 1 FamFG)。警察法上の 収容は、精神疾患患者のための保護に関する州法(PsychKG)や各州の収容法 に規定がある。

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場合にだけ認められる(§ 64 S. 2 StGB)23。この収容の上限は原則として2年で ある(§ 67d Abs. 1 S. 1 StGB)24  「性癖」の概念は中毒や依存に対応し25、「定着し、心理的な素質に基づき、あ るいは、行動により獲得された強い傾向で、アルコールその他の薬物26を摂取 すること」27である。これは、欲求へのコントロールが限定的いう意味での一 定のコントロールの喪失を含む心理的な依存で足りる28。通説によれば、アル コールや薬物の頻繁な費消が健康を害し、活動能力を低下させる場合に、過度 の消費は認められる29。処分は責任無能力(§ 20 StGB)や限定責任能力(§ 21 StGB)の場合のみならず、行為者が完全責任能力の場合にも科されうる。(違 法な)行為が酩酊状態で行われたか、その他の方法でその性癖により、症候的 な関連が必要である。  実質的にはその命令を科するためには裁判時において性癖のためにさらなる 重大な違法行為が実行される予測が必要である。精神治療の収容の場合とは異 なり、禁絶施設での収容についての命令の際に必要とされる重大性の程度をめ ぐって議論が対立している。禁絶施設での収容は時間的な限界がある(§ 67d 23 本命令による二重の目的設定については連邦憲法裁判所 BVerfGE 91, 1 (27 f.). を見よ。 24 § 67d Abs. 1 S. 3 StGB は、自由刑に先立って同時に命令の出された自由を はく奪する処分が執行される場合には、処分執行の期間が刑罰に算入される限 り、長期の収容を許容している。この関係で、3年を超える有期自由刑と同時 に出される禁絶施設での収容命令では、裁判所は刑の一部は処分に先立って執 行されなければならないということを決定しなければならないという § 67 Abs. 2 S. 2 StGB は考慮されねばならない。このようにして禁絶施設での長期 収容は避けられねばならないのである。 25 Schöch, LK 2006 ff., § 64 Rn. 45 f., 56 ff. 26 薬事法の附則Ⅰ~Ⅲに挙げられた原料と調合品、溶剤、接着剤、洗浄剤によ る「シンナー吸飲原料」、一定の薬剤、興奮剤を参照。van Gemmeren, MüKo 2011 ff., § 64 Rn. 18 f. を見よ。原料とは関係ない依存症(たとえば、ゲーム中毒) は64条の適用領域からは除かれる。 27 U.a BGH NStZ-RR 2011, 242 28 Nedopil 2007, 113 ff. は薬物を禁絶することにより、内的動揺、不安、気分の 落ち込みが認められるとする。 29 Schöch, LK 2006 ff., § 64 Rn. 51.

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Abs. 1 StGB)ので、侵害は重大なものとはみなされず、従って重大性の程度 が低くても支持されている30。同様に蓋然性の程度も2つの処分が異なる形式 で規定されているので、議論されている。時間的な限界があるので64条の「危険」 の概念からは63条の「予測される」の概念よりも低い程度の蓋然性が導かれて いる31。治療の効果への十分な見込み(§ 64 S. 2 StGB)については裁判所は積極 的に、そして具体的に、「中毒のこれまでの経過に照らし、および身体的、心 理的構造に照らし、場合によっては犯罪的特徴にもかかわらず(なお)行為者 は治療可能であるかどうか」32を判断しなければならない。そこでは事実に根 拠づけられた治療の効果の蓋然性が問題とされるのである33  性癖と具体的な治療の見込みという前提が認められた場合、それでも裁判所 は、強行規定にもかかわらず、処分の命令を例外的事例においてのみ、さし控 えてもよい34。立法者はこの点について3つの事例グループを展開した。第1 に、十分な語学力のない外国人、第2に、送還直前の外国人行為者、そして第 3に、人格性障害の行為者である35。精神治療の収容と異なり、区裁判所(§ 24 Abs. 1 Nr. 2, Abs. 2 GVG)が禁絶施設での収容のための命令の権限があり、こ こでもまた鑑定人が必要となる(§§ 80a, 246a StPO)。

3.3.保安監置での収容(§§ 66 ff. StGB)  保安監置処分(§§ 66 bis 66c StGB)は、刑法の制裁システムの「ウルティマ・ ラツィオ」である。これは危険な性癖の行為者を時間的に無期限に監置するこ とができ、重大な行為を実行する性癖のゆえに、重大な犯罪行為と継続的な危 険性を持った行為者から公共の安全を守ることに資する。  21世紀になって保安監置の拡大は学会において大規模な批判を引き起こし、 欧州人権裁判所(EGMR)(上記2参照)とドイツ連邦憲法裁判所(BVerfG)の 注目すべき判決により少なくとも部分的には支持された36。これにより段階的 30 Schöch, LK 2006 ff., § 64 Rn. 86 ff.; Fischer 2013, § 64 Rn. 15. 31 Meier, (Fußnote 1), S. 335. 32 BVerfGE 91, 1 (26 ff., 30). 33 BT-Drucks. 16/1110, 13. 34 BT-Drucks. 16/5137, 10. 35 BT-Drucks. 16/1344, 12. 36 これについて詳細は Kinzig 2010, S. 233 ff.; 最近の欧州人権裁判所の判決

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な法律改正が行われ、2013年には一応終了した。分離要請の侵害を連邦憲法裁 判所は2011年に保安監置の当時の規定において認定した37。それによれば、保 安監置の執行が刑事施設における自由刑の執行から十分に区別されていないと いうのである。この憲法違反の状態を解消するために連邦および州の立法者が 対応した。連邦の立法者はとりわけ強く特別予防的な方向(§ 66c StGB)を規 定し38、州の立法者は被保安監置者と受刑者の間に要請された分離を実現する ために刑事施設に大規模な改築をして憲法に合致するよう改善を指示した39  複雑でわかりにくい規定が保安監置の理解を困難なものにしている。簡単に 言うと、保安監置には3つの種類がある。複数の前科のある行為者の有罪判決 に際して、または前科のない行為者の重大犯罪の有罪判決に際して、本来的の 命令の場合(§ 66 StGB)、そして、有罪判決に際して判断が熟していないため 命令を留保する場合(§ 66a StGB)、最後に、精神病院での収容を終えること と関連して事後的に命令する場合(§ 66b StGB)である。 3.3.1.本来的保安監置命令  複数の前科のある行為者(§ 66 Abs. 1 StGB)に対する命令では、生命、身体、 自由、性的自己決定権(S. 1 Nr. 1 Buchst. a)、あるいはその他の特に重大な犯 EGMR vom 07.01.2016 (Az. 23279/14) は、ドイツの立法者による法改正が保安 監置を遡及的に延長する判断に重大な影響を与えているとしている。欧州人権 裁判所は当該事件においては欧州人権条約の第5条(自由と安全への権利)違 反も第7条(法律なければ刑罰無し)違反も認めていない。精神の障害に対す る必要な治療がなされるのであるから、当該事案においては刑罰が科されてい るのではないというように、法改正は保安監置の性格を変容させればよかった の で あ る。 こ れ に つ い て は http://www.lto.de/recht/nachrichten/n/egmr-23279-14-sicherheitsverwahrung-deutschland-zulaessig-rueckwirkung/(2016年 2月7日チェック)を参照。

37 BVerfGE 128, 326; 分離要請に批判的なのは Höffler, Katrin/ Kaspar, Johannes (2012): Warum das „Abstandsgebot“ die Probleme der Sicherungsverwahrung nicht lösen kann. Zugleich ein Beitrag zu den Aporien der Zweispurigkeit des strafrechtlichen Sanktionensystems. In: Zeitschrift für die gesamte Strafrechtswissenschaft 124 (1), S. 87-131.

38 2013年6月1日より施行。

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罪行為40が必要である。その他の特に重大な犯罪行為とは、自由刑の長期が少 なくとも10年以上の犯罪だけが対象となる41。さらに刑法に規定された最高刑 は基本犯の特に重い事情から生じるものでは足りず、独自の構成要件に規定さ れたものでなければならない。(S. 2 i.V.m. § 12 Abs. 3 StGB)42  形式的条件としては先にあげた故意行為により少なくとも2年以上の自由刑 に処せられる有罪判決(Abs. 1 Nr. 1)43と、特定の行為により少なくとも1年 以上の自由刑に処せられた2つの別々の前科(Abs. 1 Nr. 2)が必要である。前 科がそれぞれ5年以上経過している場合には考慮されない。しかし、この期限 は性犯罪にあっては15年に延長されている(Abs. 4 S. 3)。また、行政的監置の 期間も考慮されない。(Abs. 4 S. 4)。行為者は、少なくとも一つの従前の行為 により2年以上の自由刑を受け、あるいは自由のはく奪を伴う処分の執行を受 けていなければならない(Abs. 1 S. 1 Nr. 3)44  実質的な側面では、行為者と行為の包括的な全体評価から、被害者が精神的、 身体的に著しく害される重大な犯罪を行為者が行う性癖のために、有罪判決の 時点で、公共に対して危険であるということが明らかでなければならない(Abs. 1 S. 1 Nr. 4)。性癖とは「繰り返し新たな犯罪行為へと行為者を駆り立てる経 常的な状態」45と理解されている。それによれば、この性癖の行為者は、継続 的に犯罪行為へと決意するか、深く根付いた傾向のためにその機会に犯罪行為 を行うことになる46。そこではとくに再犯の危険があり、行為の危険性も明確 40 刑法典各則1部、7部、20部、28部、国際刑法典、薬事法のそれぞれの構成 要件。 41 さらに2つの事例が特別の行為者類型(Satz 1 Nr. 1 Buchst. c)と関係する。 第1に、同条1文1号aおよびbの犯罪行為を理由とする行状監督中の指示違 反(§ 145a StGB)、第2に、323a 条による可罰性のなかでの酩酊状態で、本条 1文1号aまたはbによる違法行為である。

42 それ故、保安監置は特に重大な恐喝罪(§ 253 Abs. 3 StGB als Straftat des 20. Abschnitts)には適用されない。 43 元の行為は無期自由刑でもよい。 44 同条1条1文3号での執行を受けた刑は、算入された未決拘禁やその他の自 由のはく奪も含まれる(Abs. 4 S. 2)。 45 BGH NStZ-RR 2009, 11. 46 BGH NStZ-RR 2009, 11

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な、自己統御能力が欠如している累犯者が問題となる。それでも、性癖と性癖 行為者という枠とメルクマールについてはなお不明な点が存在する47。先行す る行為と対象行為と将来予測される行為との間の性癖を根拠づけるために、症 候的な関連が認められねばならない。重大な犯罪行為の重大の程度は、精神治 療の収容や禁絶施設での収容よりも明白であり48、よって、限定的な解釈と適 用がなされ、原則として、重罪についてのみ命令がなされる(§ 12 Abs. 1 StGB)49。収容のための形式的要件と実質的要件が揃うと、保安監置命令が必要 となる。  これに対して、前科のない危険な再犯者(§ 66 Abs. 2 StGB)の場合、保安 監置命令は任意的なものとなる。形式的観点では、これらの行為者は1項1号 の意味で1年以上の自由刑に当たる3つの犯罪行為を行っている必要があ る50。有罪判決がなされるか、保安監置が問題となる刑事手続きにおいてこれ が科されると、刑が実現したことになる51。その他の条件としては、3つの犯 罪の一つでも3年以上の自由刑が科せられたことが必要となる52。ここでも公 共に対する行為者の危険性に関する性癖の確認は特に注意深くなされねばなら ない53  同様に保安監置命令が任意的なのは、前歴ありまたは前歴なしで2つの行為 を行っていた行為者(Abs. 3)の場合である。このより簡単な条件での命令は 性犯罪者とその他の危険な犯罪者について規定されている。そこでは重罪(im Sinne des Abs. 1 S. 1 Nr. 1 Buchst. a oder b)、児童、年少少年、従属者、無 抵 抗 者 に 対 す る 性 犯 罪 (§§ 174 bis 174c, 176, 179 Abs. 1 bis 4, 180, 182, 47 Meier, (Fußnote 1), S. 352 f. 48 同条1項1文4号における被害者の精神的、身体的障害を参照。 49 対象となる行為がたとえば子供の性的な虐待(§§ 176, 176a StGB)のように とくに重大な場合には、軽罪も命令の対象となる。BGH NStZ 1988, 496 und BGH NStZ 2010, 239 (240) を見よ。 50 66条2項は1項に対する補充的規定である。合一刑へ1項が適用できない場 合、2項が適用できることになる(vgl. Abs. 4 S. 1 StGB)。 51 Kinzig, Schönke/Schröder/Stree StGB, § 66 Rn. 51 m.w.N. 52 合一刑の形成には足りる。vgl. Kinzig, Schönke/Schröder/Stree StGB, § 66 Rn. 54. 53 Vgl. Kinzig, Schönke/Schröder/Stree StGB, § 66 Rn. 55.

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StGB)、重大な傷害罪(§§ 224, 225 Abs. 1 oder 2 StGB)、あるいは故意の酩酊 犯罪(§ 323a StGB)が先にあげた行為との関連で問題となる。命令の条件に関 しては、第1の事例群では3年以上の自由刑(Abs. 3 S. 1)の前科54で、第2事 例群では2年以上の自由刑(Abs. 3 S. 2)を形成する前科のない2つの行為55 足りる。

 本来的保安監置は州裁判所が命令する(§§ 24 Abs. 1 Nr. 2, Abs. 2, 74 Abs. 1 S. 2 GVG)。 3.3.2.保安監置の留保(§ 66a StGB)  留保つき保安監置は2つの手続きが特徴となる。なぜなら、有罪判決の時点 では公共に対する行為者の危険性は蓋然性が高いが、本来的保安監置を命令す るには十分か確実性がないからである。この法制度は、それゆえ、判決に留保 を認め、この判断を後の時点、すなわち自由刑の執行の最後の時点へと先送り することを裁判所に認めている(§ 66a Abs. 3 StGB)。  命令の留保については2つの事例群が規定されている。裁判所が確信する形 式的要件が存在する(§ 66a Abs. 1 StGB)ことと並んで、まず第1に、性犯罪 者と66条3項の意味でのその他の危険な犯罪者が問題となる。よって、この留 保は少なくとも前科がある行為者と前科がない再犯者が対象となる。他方、非 常に重大な行為を行ない、再犯の危険性が非常に高い初犯者も対象となる(§ 66a Abs. 2 StGB)56。重大な犯罪とは生命、身体、自由、性的自己決定権、刑法 各則20章(強盗と恐喝)、28章(公共危険罪)に対する犯罪である。  裁判所がネガティブな予測を確信した場合、つまり、被害者が精神的、身体 的に著しく害される重大な犯罪行為を行為者が行うことが予測される場合、執 行手続きにおいて、裁判所は保安監置を命ずる必要がある(§ 66a Abs. 3 S. 2 StGB)。しかし、裁判所は、性癖の要件を相対化して、それを認定せずに、単 なる蓋然性で十分であるとしている。これは行刑における技術的な条件であり、 コントロールと規制という面では、性癖に該当する事例はほとんどないことに 54 66条1項は、2回以上の自由刑の言い渡しを受けたことを必要とする。 55 66条2項は、3個の行為を前提とする。 56 連邦憲法裁判所(BVerfGE 131, 268 (286 ff.))は、66a 条2項は憲法に合致し ているとしている。

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なる57。それゆえ、予測条項の厳格な運用が必要と思われる。この判断は第1 審の裁判所が行う。 3.3.3.事後的保安監置(§ 66b StGB)  精神病院における収容(§ 67d Abs. 6 StGB)の終了が宣告されると、裁判所 は裁量で保安監置の事後的命令(§ 66b StGB)を出す58。「収容の理由となって いる責任能力を否定または限定する状態は終了の判断の時点では存在しない」 (§ 66b Abs. 1 S. 1 StGB)ので、この宣告が必要となる。形式的な観点では、 この命令は、複数の性犯罪、66条3項の意味でのその他の危険な犯罪行為、あ るいは全く別の対象行為を理由として、処分執行における収容(§ 63 StGB)を 要するものである。その他の対象行為とは、被収容者がすでに一度、66条3項 の意味での行為を理由に3年以上の自由刑に科せられるか、精神病院で収容さ れていたものでなければならない。実質的な観点ではさらなる重大な犯罪の予 測について高い蓋然性が必要となる59。まず、区裁判所が対象の有罪判決を出 した場合には、事後的保安監置では、上位の地方裁判所の刑事部の管轄となる (§ 74f Abs. 2 GVG)。 4.自由のはく奪を伴わない処分  在宅の処分に関しては、職業の禁止(§ 70 StGB)は実務運用ではほとんど重 57 BT-Drucks. 14/8586, 7. 58 事後的保安監置(§ 66b StGB a.F.)は、有罪判決を受け、刑を執行してみて 初めてその危険性が明らかになった者を公共の安全のために安全に監置するた めに2004年に導入された。まず最初に連邦憲法裁判所 (NJW 2006, 3483 und NJW 2009, 980)はこの法制度を憲法に合致しているとしたが、しかし、先にあ げた欧州人権裁判所の判決(Fn. 9)の結果、その立場を変えた。欧州人権裁判 所は保安監置を刑罰と考えたので、2段階の手続きが問題となったのである。 つまり、保安監置命令は事後手続きではなく、原審手続きにおいてのみ許され るのである。同様にすでに言及した連邦憲法裁判所の判決(Fn. 37)では、§ 66b Abs. 2 StGB a.F. の事後的保安監置は、さらに信頼保護原則(Art. 2 Abs. 2 S. 2 i.V.m. Art. 20 Abs. 3 GG)の侵害も認められ、憲法違反であるとされている。 全体像について詳細は Alex 2013, S. 18 ff.

59 66b 条がヨーロッパ人権条約5条および信頼保護原則に合致しているかは問 題となる。vgl. hierzu Meier, (Fußnote 1), S. 361 f.

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要ではない(上記2参照)。職業の禁止は、職業や営業活動の濫用からから生 じる特定の危険性を除去するために機能するものである60。行為者は禁止され た活動をすることはできず、よって職業の自由という基本権の侵害になる(Art. 12 Abs. 1 GG)が、これに対する憲法上の侵害は認められない61。以下では運転 免許のはく奪(§ 69 StGB)と行状監督(§ 68 StGB)について取り上げよう。 4.1.運転免許のはく奪(§ 69 StGB)  運転免許のはく奪により公共が道路交通の危険から保護される。運転免許が はく奪されると、自動車を運転する資格がなくなるので、それ以降、自動車運 転者は自動車を運転できない62。裁判所が命令した停止期間後は、自動車を運 転するための新たな能力があれば、運転免許が再交付される。交通犯罪が重大 であったり、繰り返されると、公認の医学・心理学検査機関の鑑定書の提出が 求められる(§ 11 Abs. 3 S. 1 Nr. 5 FeV)。加えて、一定の行為者集団には、補 習講習が義務付けられる。  この命令には、形式的に、違法な行為の実行で十分である(§ 11 Abs. 1 Nr. 5 StGB)。その他の条件は、有罪判決か責任無能力(§ 20 StGB)の認定である。 処罰されることは必要ではないので、有罪認定がされて、刑が免除されてもよ い(例えば § 142 Abs. 4 StGB)。行為が自動車の運転と関係するか、自動車運 転の義務違反の下で実行されたことが重要なメルクマールとなる(§ 69 Abs. 1 S. 1 StGB)。一般的には、犯罪行為の準備、実行、その他の直接的に必要なも ののために自動車を利用することと理解されている63。よって、対象行為、自 動車の運転、交通の安全の危殆化の間には交通に特化した危険連関が存在しな ければならない64。必要な連関とは、たとえば、銀行強盗に際して、行為者が 逃走用の自動車で危険運転をした場合に認められる65  実質的には行為者に自動車を運転する能力が欠如していることが必要にな 60 Meier 2015, S. 309. 61 BVerfGE 25, 88 (101). 62 Meier, (Fußnote 1), S. 280. 63 Meier, (Fußnote 1), S. 281. 64 Athing, MüKo 2011 ff., § 69 Rn. 37 f. 65 Meier, (Fußnote 1), S. 282.

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る。将来的に同じような違法な、交通の安全を阻害する行為が予測される場合 がそれである66 4つの典型事例(§ 69 Abs. 2 StGB)により能力の欠如が簡単 に認められる。すなわち、道路交通の危殆化(§ 315c StGB)、酩酊運転(§ 316 StGB)、重大な事故の結果を認識し、あるいは認識することをうべかりし場合 の事故現場からの逃走(§ 142 StGB)、そして完全酩酊(§ 323a StGB)、これら が、先にあげた3つの犯罪行為の一つとの関連で問題となる場合である。しか し、このような法律上の推定は、特別な事情または行為者の人格によって反証 可能である。例えば、自動車の駐車場所を変えることで交通を妨害する状態を 回避する場合、酩酊運転であっても軽罪になる。判例によれば、能力の欠如は 身体的、精神的、あるいは性格的欠陥によるとされる67。性格的な不適性を認 めるには控えめであるべきであろう。交通の危険に関して危機意識が欠如し、 責任感がない場合、そのような性格的な不適性が認められる68。この例として は、アルコールや薬物の摂取による運転能力、ひいては交通の安全に対するネ ガティブな効果を軽罪化することである69。補習講習への参加は法律上の推定 効果を否定するには十分ではなく、むしろ、行為と行為者の人格の全体評価が 必要となる70  形式的要件と実質的要件が充足されると、運転免許のはく奪の命令が必要と なる。命令の必要性についての検討は必要ない(§ 69 Abs. 1 S. 2 StGB)。命令 が出されると、判決確定により、運転免許は、全ての点で、継続的に失効する (§ 69 Abs. 3 S. 1 StGB)。裁判所は新しい運転免許の交付の停止を命令できる (§ 69a Abs. 1 S. 1 StGB)。これは2月から5年の間で、また、終生停止する こともできる(§ 69a Abs. 1 S. 1 und 2 StGB)。処分とは別に過料支払義務の ある道路交通法違反との関係で行政法上の運転免許のはく奪(§ 4 Abs. 3 S. 1 Nr. 3 StVG)や附加刑としての運転禁止(§ 44 StGB)もある。運転禁止では、 行為者は運転免許を保持しているが、1から3カ月にわたり運転をすることが できない。

66 Sinn, SK StGB 2012 ff, § 69 Rn. 14. 67 Vgl. nur OLG Stuttgart NJW 1987, 142. 68 BGHSt 15, 393 (396).

69 Meier, (Fuußnote 1), S. 284. 70 Geppert, LK 2006 ff., § 69 Rn. 99 ff.

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4.2.行状監督(§ 68 StGB)  行状監督は2つの目的を持っている。すなわち、一面では監視とコントロー ルであり、他面では扶助と監護である。保護観察のための刑の執行停止と異な り、行状監督は、行為者が将来さらなる犯罪行為を行うことが想定されるとい うネガティブな予測と結びついている。従って、監視機能は実務運用において は保護観察以上に重要である71。自由のはく奪からの釈放者が行状監督の重要 な対象グループであるので、この処分は閉鎖収容から自由への移行の重要な段 階であり、様々な問題状況を抱える再犯の危険性のある行為者グループにとっ ては司法のアフターケアとして機能する72。行状監督は裁判所が命令できる(§ 68 Abs. 1 StGB)のみならず、法律の規定によっても効力が発生する(§ 68 Abs. 2 StGB)唯一の処分で、後者は適用範囲が非常に広い(上の2を参照)。  裁判所の命令(§ 68 Abs. 1 StGB)の場合は、保護観察付き自由刑、あるい は保護観察なしの自由刑に対する付加的制裁である。形式的には6月以上の自 由刑が条件となる。行状監督は刑法典と特別刑法の様々な規範に規定されてい る73。実質的には将来における更なる犯罪行為の予測が基準となる。他の処分 におけるのと同様に、「犯罪的な継続性」74という意味での対象行為と予測され る行為の間に病状的な関連が存在する必要がある。同様にさらなる行為の実行 には高い蓋然性がなければならず、予測については行状監督の命令の時点が問 題となる。裁判所は裁量でこれを判断する。  法律による行状監督(§ 68 Abs. 2)は満期自由刑と終了を宣告された、もし くは保護観察のために執行を停止された自由のはく奪を伴う処分を対象として いる。満期釈放の場合は、行為者は故意行為で2年以上の自由刑に処せられ、 あるいは、性犯罪で1年以上の自由刑に処せられ、その刑を完全に満期受刑し たしたことが必要になる。対象者が満期後に処分執行で収容された場合(§ 68f Abs. 1 StGB)は、これにはあたらない。このような事例群では、行状監督は「保 71 Meier, (Fußnote 1), S. 292. 72 Meier, (Fußnote 1), S. 292. 73 性犯罪行為(§ 181b StGB)、恐喝的誘拐と人質(§ 239c StGB)、窃盗(§ 245 StGB)、強盗と恐喝(§ 256 Abs. 1 StGB)、贓物罪とマネーローンダリング罪(§ 262 StGB)、詐欺罪(§ 263 Abs. 6 StGB)、薬事法の重大な違反(§ 34 BtMG)。 74 Sinn, SK StGB, § 68 Rn. 8.

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護観察の代替」として機能する75。2重処罰の禁止(Art. 103 Abs. 3 GG)にはあ たらない。なぜなら刑罰と処分は別の目的を持っているからである76。比例原 則の侵害もほとんど問題にならない。なぜなら、行状監督は、行為者は釈放を 前にしてもはや再犯の危険はないと裁判所が確信した時に無効になる(§ 68f Abs. 2 StGB)。多くの事例グループについて法律による行状監督が規定されて いる。精神病院での収容命令や禁絶施設での収容命令に伴う保護観察の停止(§ 67b Abs. 2)、自由刑執行後に自由のはく奪を伴う処分による保護観察の停止(§ 67c Abs. 1 S. 1 HS 2 StGB)、判決確定後、3年経過しても執行されない自由 のはく奪を伴う処分による保護観察の停止(§ 67c Abs. 2 S. 4 HS 2 StGB)、期 限の定めのない自由をはく奪する処分による保護観察の停止(§ 67d Abs. 2 S. 3 StGB)、保安監置での収容が10年を経過し、終了したと宣告された場合(§ 67d Abs. 3 S. 2 StGB)、禁絶施設での収容の法律で定めた最長期限を経過した 場合(§ 67d Abs. 4 S. 3 StGB)、治療の見込みがないために禁絶施設での収容 が終了した場合(§ 67d Abs. 5 S. 2 StGB)、そして条件の欠如やその他のバラ ンスを失した執行を理由に精神病院での収容が終了したと宣告された場合(§ 67d Abs. 6 S. 2 StGB)である。  行状監督の実施には、行状監督所と保護観察所が責任をもって、様々な関係 者の協力がなされている(§ 68a Abs. 1 StGB)。行状監督所は多くの場合、地 方裁判所にあり、原則としてベテラン裁判官が統率している77。主たる監視業 務を履行するために監督所は広く情報捜査の手段を持っている。捜査強制権限 は通報義務違反に際して滞在捜査のための対象者の特定および実行命令の申請 をもカバーする(§ 463a Abs. 1 S. 2, Abs. 3 StPO)。監督所と保護観察所は連 絡して協力する義務を負っている(§ 68a Abs. 2, 3 StGB)。扶助と監護機関と して保護観察所は行状監督所に対して独立した地位を持っている78

 行状監督中に裁判所は公共の安全と釈放者の社会復帰のために指示(§ 68b

75 Kinzig, Schönke/Schröder/ Stree 2010, § 68f Rn. 1. 76 BVerfGE 55, 28 (30).

77 連邦国家としての構成のため、各州の行状監督機関の組織と構成は統一され たものではない。hierzu Dessecker BewHi 2011, S. 268 f.

78 Meier, (Fußnote 1), S. 298; 他には、裁判所、外来診療部門、警察が同様の役 割を果たす。

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Abs. 1 und 2 StGB)を出す。1項は完結した指示のカタログとなっている。 これに対する違反はその規定に従って処罰される(§ 145a StGB)。指示に従わ なかった場合の可罰性は、その機能に対する唯一の強制手段としてとくに満期 自由刑の釈放者に対して適用される79。刑罰で保護された指示に対する違反は 行状監督の保安目的を危うくするものである。刑罰で保護された指示はとりわ け移動の禁止(Abs. 1 S. 1 Nr. 1)、場所の禁止(Abs. 1 S. 1 Nr. 2)、接触と取 引の禁止(Abs. 1 S. 1 Nr. 3)、アルコールと薬物の禁止(Abs. 1 S. 1 Nr. 10)、 治療の実施(Abs. 1 S. 1 Nr. 11)、そして滞在場所の電子監視(Abs. 1 S. 1 Nr. 12)である。刑罰で保護されていない指示(§ 68b Abs. 2 StGB)は、列挙され ておらず、従って、裁判所が比例性と期待可能性の中で(Abs. 3)目的達成の ために必要なあらゆる指示を出すことができる。  期限付きの行状監督は2年から5年継続し、その都度短縮されうる(§ 68e Abs. 1 StGB)のに対して、期限の定めのない行状監督は3つの事例群に対し てネガティブな予測があった場合に適用される。まず第1に、対象者が身体へ の侵襲を伴う治療行為や禁絶療養に同意しなかったり、そのような措置や治療 の指示に従わず、そのために、さらなる重大な犯罪のおそれがある場合である (§ 68c Abs. 2 S. 1 StGB)。第2に、精神疾患のある対象者については、精神 病院での収容の停止ののちに、彼が再び責任無能力の状態に陥り、さらなる重 大な犯罪を実行するであろう場合である(§ 68c Abs. 3 S. 1 Nr. 1 StGB)。第3 に、性犯罪や粗暴犯の指示違反の際や、さらなる重大な犯罪の実行により公共 の危険が脅かされるおそれのある端緒の認められる際に、無期限に延期する場 合である(§ 68c Abs. 3 S. 1 Nr. 2 StGB)。事後的な停止は公共の危険が消失し た場合には考えられる(§ 68e Abs. 2 S. 1 StGB)。審査は少なくとも2年毎に 実施されねばならない(§ 68e Abs. 3 StGB)。 5.結語  いわゆる二元主義はドイツの制裁システムを特徴づけている。ここ数年、立 法者による様々な込み入った改正があり、これが改善保安処分の全体システム への理解を困難にしている。将来において予測される犯罪行為に基いて、公共 の安全のための行為者の危険性が基本的なキーとなる。処分の正当化は憲法上 79 Meier, (Fußnote 1), S. 302.

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規定された国家の保護義務80と優越的公共の利益の原則に依拠するのである。 しかし、比例原則(§ 62 StGB)の枠内で公共の利益との衡量が要求される当該 個人の基本権がなおざりにされてはならない。 【訳者あとがき】  本稿は、2016年2月4日に北大刑事法研究会特別例会で行われたテュービン ゲン大学ハーヴァーカンプ教授の講演「ドイツ連邦共和国における保安処分の 現状」(主催:北海道大学刑事法研究会、共催:科研費C「複合的視点からの保 安処分制度の再構築についての研究」(代表者:小名木明宏)、北海道大学法学 研究科附属高等法政教育研究センター)を訳出したもので、原題は “Maßregeln der Besserung und Sicherung in Deutschland -Eine Einführung in die Systematik und Grundlagen“ である。

 ハーヴァーカンプ教授は1988年からパッサウ大学とフライブルク大学で法律 学を学び、1993年からフライブルクのマックス・プランク外国刑法研究所で北 欧部門の助手をされ、2002年に電子的在宅監視に関する論文で博士号を取得し た。2008年までミュンヒェン大学のシェッヒ教授の下で助手として活動し、そ の後、再び、マックス・プランク外国刑法研究所で研究員をされ、2010年には、 シェッヒ教授の下で「ヨーロッパにおける女子行刑(Frauen im Strafvollzug vor dem Hintergrund der Europäischen Strafvollzugsgrundsätze)」で教授資 格を取得した。ミュンヒェン大学講師を経て、2013年10月にテュービンゲン大 学教授に就任し、主に刑事政策に関する数々のプロジェクトを手掛けている。  本講演のテーマである保安処分制度をめぐっては、わが国では改正刑法草案 以降、刑法上の議論は進展はほとんど見られない。これに対してドイツでは、 とくに保安監置をめぐる法制度について、今世紀に入って、欧州人権裁判所や 連邦憲法裁判所の判決が次々に出され、激しい議論と法改正がなされている。  保安処分制度を論ずることは、我が国では一種のタブーのような風潮がある が、世界的趨勢としては、これを人権侵害と一刀両断するものではない。これ を機に、この議論が進展することを望んで止まない。  なお、ドイツにおける保安監置の動きについては、渡辺富久子「ドイツにお ける保安監置をめぐる動向」外国の立法249号(2011. 9)51頁にも紹介されている。 80 BVerfGE 128, 326 (376 f.).

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