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精神遅滞者の文理解についての心理学的研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 教 育 学 ) 松 本 敏 治

学 位 論 文 題 名

精神遅滞者の文理解についての心理学的研究 学位論文内容の要旨

言語 障害 は, 精神 遅 滞者 にお いて 広 範にみられる問題のーつであ る.精神遅滞者における言 語の問題は,

構音,文理解・産出,語彙 ,言語の行動調整,文字読み ・書きなどさまざまな側面 にわたる.本論文では,

このうち文理解の側面に焦 点を当てることとする.具体 的には,精神遅滞者の文理 解ストラテジーの発達的 変化とそのメカニズム,精 神遅滞者において発達的変化 を阻害している要因を明ら かにすることを目的とし ている.

研究1: 札幌 市内 の施 設に 入 所お よび 通所 中の 精 神遅 滞者 を対象 に文理解ストラテジーを調 査した.第一 に幼稚園および保育園に通 う幼児を統制群として,精神 遅滞者の文理解ストラテジ ーと比較検討した.課題 は,fクマがブタをおいかけ るJのような文を聞き,文に 従ってミニチュアを動かす というものであった,結 果は,精神遅滞者において 蓋然性ストラテジーおよび格 助詞ストラテジーを使用す る被験者が確認された.

一方,健常児において一貫 して見られた語順ストラテジ ーを示す精神遅滞者は少数 であった.精神遅滞者に おい ては ,低io. 低MAの 被験 者が 蓋 然性 スト ラテ ジー を 高io.高MAの 被験 者 が格 助詞スト ラテジーを多 用することが明らかとなっ た.

研究2:研 究1の文 理解 スト ラ テジ ー実 験は っぎ の よう な問 題を 含 んで いた ,研 究1では,文 理解ストラテ ジーを確定するため提示さ れたミニチュアを動かすとい う課題が与えられた.この 方法では,蓋然性ストラ テジーと分類された反応が 文処理から生じたのか,ミニ チュアを動かすという操作 の段階において生じたか 分離出来なかった.そこで ,蓋然性ストラテジーが反応 の特異性によって生じたか 否かを確定するため,動 作法(ミニチュアを動かす)とカード法(文の内容に一致するカードを選ぶ)を用いた文理解課題を行った.結 果:語順ストラテジーおよ び格助詞ストラテジーを用い た被験者は動作法・カード 法ともに同様の文理解ス トラテジーを用いたが,動 作法において蓋然性ストラテ ジーを示した被験者はカー ド法では特定のストラテ ジーを示さない.このこと から,蓋然性ストラテジーは 文の処理によってではなく 動作法という課題によっ て生じたものであることが 明らかとなった.

  研 究3:精神 遅滞 者 の文 理解 と文 模 倣を調査し,文保持が文理解 においてどのような役割を 演じているか を検 討し た. 研究は2つの実験からな る.実験1では以前の研究2と 同じ方法で各被験者の文理 解ストラテジ ーが 確定 され た. 実 験2で は ,実 験1で用いたのと同じ刺激文を記 憶し直後再生するという課 題が被験者に 与えられた.実験2では,各 被験者が示した文型をもと に心的文型(被験者自身の言語レパートリ一内にある 文型)を確定した.結果は っぎの通りであった. (1)文理解において蓋然性ストラテジーを示した被験者のほ ぽ半数が,文模倣において 非文法的な文型を示した. (2)文理解において語順スト ラテジーを示した被験者 の中には,倒置文の格助詞 を入れ替えて正序文の文型と して模倣をおこなうものが 存在した. (3)文理解に     一63−

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おいて格 助詞ストラテジーを示した 被験者は全員が正序文・倒置 文ともに正確に模倣が可能 であった,これ ら の 結 果 は , 統 語 的 文 理 解 に 先 立 っ て , 心 的 文 型 の 獲 得 が 必 要 で あ る こ と を 示 し た , 研 究4:精 神遅 滞者 の 文理 解・ 文模 倣・ 文 産出 の間 の関 係 を検 討し た.文理解においては文理解 ストラテ ジーが, 文模倣では各被験者が有し ている心的文型が確定された .文産出では,各被験者が 示した文を文型 の 側面 から 分 析し た, 文産 出 課題 は, 被験 者に一方の動物が他方の 動物を追いかけている絵カー ドを提示 し,その 内容を言語的に表現させる というものであった.結果は ,格助詞ストラテジーの被 験者は文産出に おいてfがJfをjの格助詞を的確に使 用することが可能であること を示した.語順ストラテジ ーを示した被験 者の一部 も同様に格助詞「がJ「を」を的確に使用することが可能であった.格助詞が的確に使用できない被験 者でも語 順にしたがって動作主・被 動作主を表現した.また,文 理解において語順を利用で きない蓋然性ス ト ラ テ ジ ー を 示 す 被 験 者 が 文 産 出 課 題 に お い て は 動 作 主 ・ 被 動 作 主 を 語 順 に 割 り 当 て て表 現し た .   研究5: 研究3お よび4の結果は,文模倣 において精神遅滞者が多く の誤りを示すことを明らかに した.こ のような あやまりは,精神遅滞者の もつ乏しい短期記憶のためと も考えられた.そこで短期 記憶を数唱課題 および項 目記憶選択課題を用いて調 査し,文理解ストラテジーな らびに心的文型との関係を 明らかにした,

結果は次 のようであった. (1)文模倣における正答率は,蓋然性ストラテジーく語順ストラテジーく格助詞ス トラテジ ーと上昇する. (2)蓋然性 ストラテジーの被験者の短期 記憶は,語順ストラテジー ・格助詞ストラ テジーの 被験者に比べて有意に少な いが,語順ストラテジーと格 助詞ストラテジーの間に有 意な差異はみと められな い,

  研究6: 蓋然 性ス トラテジーを示す被験 者は,文理解処理から特定 の文理解ストラテジーを引き 出すよう な 情報 を獲 得 して いないことは研究2によ って明らかであった.一方 ,蓋然性ストラテジーを示す 被験者は 動作主・ 被動作主という命題自体を 保持できないのではないかと の疑問も残った.視覚的に 動作主・被動作 主関係を 提示した場合に正確に記憶 再生が可能であるか否かを調 査した.課題は,被験者に 「一方の動物が 他 方を 追い か けて いるj絵カードを提示し ,その後その内容をミニチ ュアを用いて再現するよう求 めるもの であった .結果は,次のことを示し た.文理解において蓋然性ス トラテジーを示した被験者 であっても,視 覚的に動 作主・被動作主関係が提示 された場合は,語順ストラテ ジーや格助詞ストラテジー の被験者と同程 度にミニ チュアによる再生が可能で あった.

  研究7: 上述 の一 連 の研 究は ,ほ ぽ類 似 の実 験状 況の 下 ,各 被験 者ごとの文理解ストラテジー を確定し た.次に ,課題の負荷の増大や減少 にともなって被験者の用いる 文理解ストラテジーが変化 するかを実験的 に検証し た.文の長さ,動詞の種類 ,動詞の変動性,項目数を独 立変数として文理解ス卜ラ テジーとの関係 を 調べ た. 結 果は ,っぎの通りであった . (1)被験者30名中,7名の みが一貫して同一の文理解を 示した.

(2)10名の 被験 者は2つ以上の異なる文理 解ストラテジーを示した.(3)試行ごとに動詞が変動する 条件と動 詞が一定 である条件でもっとも文理 解ストラテジーが顕著に変動 した,これらの結果をもと に文理解ストラ テジーと 課題負荷および作動記憶の 役割を議論した.

  松本 の提 出 した モデルは文理解を大き く2つに分ける,一っは自ら の獲得している心的文型に従 い文を保 持する過 程,もうーっは保持された 文の中から被験者が利用しう る情報を用いて動作主・被 動作主を同定す る 過程 であ る .精 神遅滞者の文理解を阻 害する要因としてっぎのよう なものがある.1つは心的文 型の獲得 が不十分 であるため,文保持の段階 で格助詞のような統語的情報 が欠落するというもの,も うーっは心的文 型を適切 に獲得していたとしても含 まれる情報を適切に利用でき ない場合である,また,精 神遅滞者の文理     ―64―

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解における問題が,精神遅滞者の認知的処理資源の問題と関連していることも示唆された 総括において,この研究の臨床的意義について議論した.

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(4)

学位論文審査の要旨 主査    教授    諸冨    隆 副査   助教授   石黒広昭

副 査   教 授   古 川 宇 一 ( 北 海 道 教 育 大 学 旭 川 校 ) 副 査   教 授   古 塚  孝 ( 藤 女 子 短 期 大 学 )

学 位 論 文 題 名

精神遅滞者の文理解についての心理学的研究

精 神 遅 滞 者 ( 以 下 , 知 的 障 害 者 ) の 約8割 が 何 ら か の 言 語 障 害 ( 言 語 発 達 遅 滞 , 構 音 障 害 , 吃 音 等 ) を 示 し て お り , 知 的 障 害 者 の 言 語 障 害 の 特 徴 と 言 語 発 達 を 阻 害 し て い る メ カ ニ ズ ム ( 要 因 ) の 解 明 は , 知 的 障 害 者 の 治 療 教 育 に と っ て 極 め て 重 要 で あ る . 本 論 文 の 主 題 は , 知 的 障 害 者 の 文 理 解 に 焦 点 を あ て , 知 的 障 害 者 の 文 理 解 の 特 徴 と 発 達 的 変 化 及 び そ の メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る こ と で あ る . 本 論 文 は3部 か ら 構 成 さ れ て い る . 第1部 は , 文 理 解 及 び そ れ に 係 わ る 諸 領 域 の 研 究 の 概 観 , 特 に 第2部 の 実 験 的 研 究 の 理 論 的 背 景 と な る 知 覚 の ス ト ラ テ ジ ー 論 に つ い て 詳 述 さ れ て い る . 第2部 は , 著 者 の 行 っ た 知 的 障 害 者 の 文 理 解 に 関 す る 実 験 的 研 究 に つ い て 述 べ ら れ , 第3部 は , 研 究 の 総 括 で あ る . 第2部 が 本 論 文 の 主 要 部 分 で あ り ,7つ の 実 験 的 研 究 か ら 構 成 さ れ て い る . こ れ ら の 実 験 的 研 究 の う ち の4っ は , 知 的 障 害 者 の 文 理 解 ス ト ラ テ ジ ー の 発 達 的 変 化 ( 蓋 然 性 ス ト ラ テ ジ ー ・ 語 順 ス ト ラ テ ジ ー ・ 格 助 詞 ス ト ラ テ ジ ー ) と そ の 特 徴 を 明 ら か に し た も の で あ り , 残 り の3つ | ま , 知 的 障 害 者 の 文 理 解 に お け る 短 期 記 憶 ( 作 業 記 憶 ) の 役 割 に つ い て 追 究 し た も の で あ る . こ れ ら の 実 験 的 研 究 を 通 し て , 心 的 文 型 を 中 心 概 念 と す る 文 理 解 と そ の 発 達 メ カ ニ ズ ム に つ い て の モ デ ル が 提 出 さ れ , 第3部 の 総 括 に お い て 本 モ デ ル の 治 療 教 育 上 の 有 効 性 に つ い て 論 議 さ れ て い る . 尚 , こ れ ら の7つ の 実 験 的 研 究 は , 全 て 論 文 と し て 公 表 さ れ て お り , そ れ ら の う ち の3つ の 実 験 的 研 究 は , 審 査 制 の あ る 学 会 誌 ( 教 育 心 理 学 研 究 , 特 殊 教 育 学 研 究 ) に お い て 原 著 論 文 と し て 掲 載 さ れ , 客 観

一 ー66 ‑

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的な評価を受けている,

   本論文における研究において評価される点の第1 は,日本語を母語とする知的障害者 の文理解ストラテジーとその発達的変化に関する初めての組織的研究であるということ である,文理解ストラテジーについての研究は,健常児や健常成人を対象とするものが 中心であり,知的障害者における文理解ストラテジーの特徴や発達的変化に関しては全 く未開拓の領域であった.知的障害者の文理解ストラテジーの発達的変化を知能指数・

精神年齢の関数として見た場合,健常児の発達的変化と類似の傾向を示すことが,本研 究において初めて明らかにされるとともに,知的障害者に見られる文理解の阻害要因の ーつに短期記憶(作業記憶)容量の不足カi あることが明確に示されたことは,評価され る事実である.第2 は,中・重度の知的障害者の文理解ストラテジーの変化の順序性と その基底にある認知メカニズムを追究していく研究方法の独創性である.本研究におい ては,多くの研究が採用している知能指数や精神年齢等を指標にして知的障害者を群に 分類するという方法でt よなく,個々の知的障害者の文理解ストラテジーを簡便だが洗練 された技法によって確定し,用いられた文理解ストラテジーによって知的障害者を分類 するという方法を取っている.この方法によって同一群内に異なる文理解ストラテジ―

の知的障害者の混入を防ぐことに成功し,各文理解ストラテジーの基底にある認知メカ ニズム(文理解に係わる諸要因)の析出を容易にしている.第3t ま,まだ解明されなけ ればならない問題を含みながらも,治療教育の観点から文理解モデル〔心的文型に従っ て文を作業記憶内に保持し,そこから自らが文理解に利用し得る手がかり(蓋然性,語 順,格助詞)を見出し反応を行う〕を大胆に提起していることである.このモデルの構 築によって知的障害者の文理解を阻害している要因を除去するための治療教育モデル

(学習ブログラム)の設定が可能となることの臨床実践に与える意味は大きいと考えられ る,

   よって著者は,北海道大学博士(教育学)の学位を授与される資格があるものと認め る.

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