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博 士 ( 薬 学 ) 笠 原 義 典

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 笠 原 義 典

学 位 論 文 題 名

メ ソ ト レ キ セ ー ト の 小核 誘 発 性 に関 す る 研 究 学 位論 文 内 容 の要 旨

     環境中の化学物質の癌原性を 早期に検出することは社会的にも重要であり、変異原,

   性 試験 が その スク リー ニン グの 目的 に使 用されている 。小核試験は染色体の変化を検    出 す る 代 表 的 な in vivo 試 験 系 で あ り 、 特 に マ ウ ヌ 骨 髄 中 の 幼 若 な赤 血球 ( PCE )    の 変化 を 観察 対象 とす る試 験系 が広 く用 いられている 。骨髄中で赤血球が生産される    過 程に お いて 、赤 芽球 の最 終分 裂の 前に 染色体異常が 生じると、その断片は赤血球の    細 胞買 中 に小 核と して 残る ため 、そ れら を有する赤血 球の出現頻度を指標として化学    物 質の 染 色体 異常 綉発 性を in vivo で 評価 でき るの であ る。 小核 試験 は多くの化合物    の 評価 に 使用 され てき たが 、そ の中 で葉 酸代謝拮抗作 用を有する制癌剤メソ卜レキセ    ー ト ( MTX ) は 、 単 回 投 与 で は ほ と ん ど小 核誘 発 性が 認め られ ず多 数回 投与 で増 強    さ れる と 報告 され てい た。 一般 的な 化合 物の多数回投 与による小核誘発性は単回投与    の 反 応 を 加 算 的 に 累 積 す る と 予 測 で き るこ とが 報告 され てい るが 、MTX はこ の予 測    と 適合 せ ず、 何ら かの 未知 の機 構が 存在 するものと考 えられていた。このような物質    の 作用 の 本質 を調 ぺる こと によ り、 小核 誘発機構にお ける新たな知見を得ることがで    きると考え本研究を開始した。

    MTX の 骨 髄 に お け る 小 核 試 験 を 実 施 し た と こ ろ 、 小 核 頻 度 は 投 与 回 数 を 増 す (1   ‑4 回 ) こ と に よ り 有 意 に 増 加 し 、 4 回 投与 で最 大 に達 した 。ま た、 末梢 血を 用い た    小 核試 験 を実 施し たと ころ 、単 回投 与に おいても統計 的に有意な小核誘発を認めた。

   こ れ ら の 相 違 は 実 験 系 の 相 違 に よ る と 考え られ たが 、MTX の小 核誘 発機 構を 理解 す    るためには骨髄における小核誘 発機構を解析する必要があると考え以下の検吾寸を行っ    た。

    MTX4mg/kg を 単 回 あ る い は 4 回 腹 腔 内 に 投 与 し 、 骨 髄 細 胞 の 染 色 体を 直接 観察 し た と こ ろ 4 回 投 与 の 方 が 明 ら か に 染 色 体 異 常 頻 度 が 増 加 し て い た こ と か ら 、 MTX の 多 数 回 投 与 に よる 小核 誘発 はXPCE の 極度 の減 少に 伴 った 非特 異的 な反 応で はな く、 染 色 体 異 常 に 起 因 し て い る と 考 え ら れ た 。 また 、単 回あ るい は4 回 投与 後の 血液 中、 骨 髄 液 中 MTX 濃 度 変 化 を HPLC に て 追 跡 し た と こ ろ 、 投 与 回 数 に よ る 変 化 は 認 め ら れ ず 薬物の蓄積による濃度の上昇はなかった。しかし、骨髄細胞中の標的酵素であるシ゛ヒト.

ロ藁 酸還 元 酵素 (DHFR )の活 性は4 回投与の方が著しく減 少していた。さらに、骨髄細胞 中 の MTX 量 は 4 回 投 与 の 方 が 約 10 倍 多 く 、 上 記 DHFR 活 性 の 阻 害 は 骨 髄 細 胞 中 へ の MTX の 蓄 積 に よ る と 考 え ら れ た 。 骨 髄 細 胞 の 細 胞 質 画 分 を SephadexG ‐25 によ るゲ ル ろ 過 で 低 分 子 と 高 分 子 画 分 に 分 離 し そ れ ぞれ のMTX 量` を測 定し 蛋白 結合 率を 求め た と こ ろ 、 単 回 投与 では 13. 5X で あっ たが 4 回投 与で は25X にま で増 大し てい た。 以上 の こ と か ら 、 MTX の 多 数 回 投 与 に お け る 小 核 誘 発 は 、 細 胞 内 蛋 白 買 と の 結 合 率 の 上 昇 が ー つ の 要 因 と な っ た MTX の 細 胞 内 蓄 積 に よ る こ と が 明 ら か と な っ た 。

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(2)

  MTXはDHFRを 阻 害 す る こ と に よ っ て 細 胞 内 の テ ト ラ ヒ ト . ロ 葉 酸 を 枯 渇 さ せ 、 チ ミ シ ゛ ル 酸 合 成 や フ゜ リ ン合 成を 阻 害す る ため 、 細胞 内 テ. オキ シ リ*゛ヌヶ レオチト゛3リ ン酸(dNTPs) フ.−ルが減 少するも あ る がDHFR活性 が強 く 阻害 さ れる4回 投 与で は増 強 され て いる こ とがin vivoで のマ

ウ ス 骨髄 で 初め て明 ら かに な った 。

  次 に 、 DNAの 直 接 的 な 障 害 を 検 出 す る 実 験 系 の 「 ア ル カ リ 溶 出 法 」 に よ っ て マ ウ ス 骨 髄 細 胞DNAに 対 するMTX投与 回 数の 影 響を 調 ぺた 。そ の 結果 、 単鎖 切 断を 検出 す

る pH12.1で は 単 回 お よ び4回 投 与 と も 、 コ ン ト ロ ‐ ル と 比 較 し 溶 出 速 度 の 増 大 は な く DNA の 単 鎖 切 断 は 検 出 さ れ な か っ た 。 し か し 、 脱 塩 基 部 位 や り ン 酸 ト リ ェ ス テ ル 部 位 な ど の ア ル カ リ 感 受 性 部 位 を 検 出 で き る pH12.6で は 、 単 回 投 与 後 は 溶 出 速 度 の 増 大 は 認 め ら れ な か っ た もの の4回 投与 後で は 溶出 速 度が 増 大し た。 こ のこ と から 、MTXの4回投 与で

の マ ゥ ス 骨 髄 に お け る 小 核 誘 発 の 過 程 で ア ル . カ リ 感 受 性 部 位 ( お そ ら く 脱 塩 基 部 位 ) が 生 成 し てい る こと が明 ら かと な った 。

  次 に チ ャ イ : ‐ ス ゛nム ス タ ‐ 培 養 細 胞 (CHL) を 用 い てMTXの 染 色 体 異 常 誘 発 と ア ル カ リ 感 受 性 部 位 生成 に つい て解 析 した 。 その 結 果、MTX処理 に よっ て まず24時間 以 内に アル カ

リ 感 受 性 部 位 が 時 間 依 存 的 に 蓄 積 し 、 そ の 後 染 色 体 異 常 が 誘 発 さ れ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た 、 染 色 体 異 常 と ア ル カ リ 感 受 性 部 位 生 成 は チ ミ ヲ . ン の 添 加 に よ っ て 一 部 回 復 し た こ と か ら 、 こ れ ら の 生 成 過 程 で DNA中 へ の ウ ラ 、 宀 の 誤 取 り 込 み が 起 こ っ て い る 可 能 性 が考 え られ た。

  以 上 得 ら れ た 知 見 か ら 、 MTXの 多 数 回 投 与 に よ る マ ウ ス 骨 髄 に お け る 小 核 誘 発 機 構 の ー っ の可 能 性と して 以 下の よ うな 機 構を 推 定し た。a)MTXは 多数 回 投与 によ っ て、

マ ウ ス 骨 髄 細 胞 中 の 蛋 白 質 と の 結 合 が ー つ の 要 因 と な っ て 細 胞 内 に 蓄 積 す る 。b) 蓄 積 し た MTXは 標 的酵 素 であ るDHFRの活 性 を強 く 阻害 する 。c) 多数 回 投与 に よっ てDHFR活性

が 阻 害 さ れ る と 細 胞 内 dNTPsフ ゜ ー ル が 減 少 す る 。 d) dNTPsフ ゜ ‐ み の 減 少 はDNA複 製 あ る い はDNA修 復 の 際 に ウ ラ シ ル の 誤 取 り 込 み を 引 き 起 こ す 。e) 取 り 込 ま れ た ウ ラ シ み は ウ ラ シ ル‑DNA ク ゛ リ コ シ ラ ー セ . に よ っ て 塩 基 部 分 が 取 り 除 か れDNAに 脱 塩 基 部 位 が 生 じ る 。f) 生 じ た 脱 塩 基 部 位 は dNTPsの 減 少 の た め 修 復 さ れ ず に 残 存 し 蓄 積 す る 。 g) 蓄 積 し た 脱 強 基 部 位 は さ ら な る 誤 修 復 を 受 け る か 、AP‐ エ ン ト ゛ ヌ ク レ ア ー セ . な ど の 基 質 と な りDNA鎖 切 断 に い た る 。 h)結 果 とし て 染色 体異 常 を誘 発 し小 核 を形 成す る 。

  本 研 究 に よ り 、 MTXは 多 数 回 投 与 に よ っ て マ ウ ス 骨 髄 細 胞 内 に 蓄 積 す る こ と が 明 ら か と な り 、 こ の こ と が 結 果 と し て 小 核 を 誘 発 す る 要 因 で あ る こ と が 確 か め ら れ た 。 こ の 研 究 手 法 は い わ ゆ る ト キ シ コ ヵ イ ネ テ イ ク ス の 考 え 方 を 一 歩 進 め た も の と い え 、 今 後 の 毒 性 機 構 解 析 の ー つ の 方 向 を 示 し た も の と 考 え る 。 ま た 、 本 研 究 は 小 核 試 験 の 標 準 フ ゜ ロ ト コ ‐ ル と し て 複 数 回の 投 与を 推奨 す る現 在 の動 向 にー つ の根 拠を 与 える も のと 考 えら れる 。

    本 研 究 に よ り MTXは 多 数 回 投 与 に よ っ て dNTPsの 減 少 と ア ル カ ル 感 受 性 部 位 の 生 成 を 引 き 起 こ す こ と が 明 か と な っ た 。dNTPsの 細 胞 内 に お け る ア ンn. ラ ン ス はI外 ゛ ヌ ヶ レ ア ー セ ゛ 遺 伝 子 発 現 の 引 き 金 に な る こ と 、 あ る い は DNAホ ゜ リ メ ラ ‐ セ . aのDNA複 製 に お け る 正 確 性 を 減 少 さ せ る こ と が 報 告 さ れ て お り 、 こ れ ら と ア ル カ ル 感 受 性 部 位 と の 関 連 、 小 核 誘 発 / 変 異 原性 と の関 連を 明 らか に して い くこ と が今 後の 研 究課 題 であ る 。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

メソトレキセートの小核誘発性に関する研究

   医薬品として用いられる化学物質は、一般毒性、生殖毒性、癌原性の面 から安全性が検討されている。中でも、癌原性試験は重要な項目のーっで あるが、.実験動物を用いた癌原性試験は3 ー4 年という長期間と莫大な費 用を要する点に問題がある。近年、一般に癌原性物質は遺伝子や染色体に 変化を起こす性質、すなわち変異原性があることに着目した、いわゆる変 異 原 性 試 験 が 癌 原 性 の ス ク リ ー ニ ン グ 法 と し て 注 目さ れ っ っ あ る 。    小核試験法は変異原性試験法のーっで、染色体異常により生成した無動 原 体染 色体 (acentric fragment) が小核として細胞内に残留した幼若赤血 球の出現率を測定する方法である。この方法は多数の化合物にっいて、比 較的短期間で評価が下せることや判定が簡便なこともあって、広く用いら れつっある試験法である。しかし、小核形成に至る機構にっいて、詳細に 解析された報告は皆無に近い現況である。

   抗癌剤として広く臨床的にも使用されているメソ卜レキセー卜(lITX) を 多数回投与すると、小核誘発することが知られている。本研究では、先ず、

小 核試 験法 のためのコンピューターシステムを開発し、 ITX による小核形 成機構を動物レベル(マウス)並びに培養細胞レベル(チャイニーズハム ス タ ー 由 来 、 CHL ) で 詳 細 に 解 析 し 、 下 記 の よ う な 知 見 を 得 た 。 至!塑工 X の多数回マウス投与によ墨4 ニ嬢垂登圭:ジヒドロ葉酸還元酵素活 性堕低工。

  MTX は代表 的な 葉酸 代謝 拮抗 剤で 、そ の多 数回 マウ ス投 与に より小 核

治 也

彦 毅

授 授

授 授

   

   

(4)

が誘 発さ れる こと を見い だし た。 この 時、 MTX の血中や骨髄液濃度に関 しては有意な上昇は見られなかったが、骨髄細胞内に蛋白結合型として蓄 積さ れて いた 。さ らに、 MTX の標 的酵 素で あるジヒド口葉酸還元酵素活 性が 持続 的に 低下 してい るこ とも 見い だし た。これは、MTX がジヒドロ 葉酸還元酵素に結合することにより、その酵素活性を阻害する可能性を強 く示唆する知見である。

呈 ! M 工 X 多 数 回 投 与 に よ る dNTPs プ ー ル の 滅 少 と ァ ル カ リ 感 受 性 部 位の生成。ジヒド口葉酸還元酵素活性の阻害により、チミジル酸の生合成 が 低下 した。 さら に、 DNA がア ルカ リ処理により切断されやすくなるこ と、すなわち、アルカリ感受性部位が形成されていることを見いだした。

これは、チミジル酸の低下により、ウリジル酸プールが増加した結果、マ ウ スDNA に誤 って ウラ シル カミ 取り 込まれ 、さ らに ウラ シル ーDNA グリ コ シラ ーゼにより脱塩基部位が形成されたことによる機構を示唆する。

墨!Z !k 壷!壁量性部位の生成と染色体異常の誘発。染色体異常の試験に

は 、 チ ャ イニ ーズ ハム スタ ー由 来の 培養細 胞( CHL) が一 般に 用い られ

て い る 。 MTX は CHL 細 胞 に 切 断 型 異 常 を中 心 と し た 染 色 体 異 常 を 誘 起

や アル カリ 感受 性部位 を生 成さ れた 。こ のMTX による染色体異常誘発と

アルカリ感受性部位の生成はチミジル酸の添加により抑制された。これら

の 知見 はMTX の細 胞内 蓄積 によ るジ ヒド 口葉 酸還元酵素阻害が一連の染

色 体 異 常 の 引 き 金 を 引 く こ と を 支 持 す る も の で あ る 。

4 : 小 核 試験ー 染色 体異 常試 鑒恩 呈2 ピュニ 2 二 2 丕霊 L. の 開発 。医 薬品

の毒性試験の一環としての変異原性試験において、より客観的な評価や系

統的なデーター保存のためのコンピューターシステムの開発が望まれてい

た。本研究を始めるにあたり、測定者の主観排除と顕微鏡観察の疲労度を

軽減するための検出記録システムソフトとコンピューターシステムの開発

に着手し、パーソナルコンピューターを用いたシステムを完成した。本シ

ステムは染色体異常試験検討会においても注目されたシステムであり、今

後、我が国での小核試験法の実施において標準法として採用される予定で

ある。

(5)

   以上、 MTX の小核形成機構に関する多くの研究成果を挙げた。本研究 成果は、単に MTX というーっの薬剤の変異原性機構を解明したに止まら ず、 細胞内の dNTPs のプールのアンバランスをもたらす種々の薬剤の 作用あるいは副作用の理解を深めるうえでも大いに貢献するものである。

本研究成果は、医薬品の変異原性試験法の理論的な基盤を与えるものとい

え 、 博 士 ( 薬 学 ) の 学 位 を 受 け る に 値 す る 業 績 と 評 価 し た 。

参照

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