博 士 ( 薬 学 ) 笠 原 義 典
学 位 論 文 題 名
メ ソ ト レ キ セ ー ト の 小核 誘 発 性 に関 す る 研 究 学 位論 文 内 容 の要 旨
環境中の化学物質の癌原性を 早期に検出することは社会的にも重要であり、変異原,
性 試験 が その スク リー ニン グの 目的 に使 用されている 。小核試験は染色体の変化を検 出 す る 代 表 的 な in vivo 試 験 系 で あ り 、 特 に マ ウ ヌ 骨 髄 中 の 幼 若 な赤 血球 ( PCE ) の 変化 を 観察 対象 とす る試 験系 が広 く用 いられている 。骨髄中で赤血球が生産される 過 程に お いて 、赤 芽球 の最 終分 裂の 前に 染色体異常が 生じると、その断片は赤血球の 細 胞買 中 に小 核と して 残る ため 、そ れら を有する赤血 球の出現頻度を指標として化学 物 質の 染 色体 異常 綉発 性を in vivo で 評価 でき るの であ る。 小核 試験 は多くの化合物 の 評価 に 使用 され てき たが 、そ の中 で葉 酸代謝拮抗作 用を有する制癌剤メソ卜レキセ ー ト ( MTX ) は 、 単 回 投 与 で は ほ と ん ど小 核誘 発 性が 認め られ ず多 数回 投与 で増 強 さ れる と 報告 され てい た。 一般 的な 化合 物の多数回投 与による小核誘発性は単回投与 の 反 応 を 加 算 的 に 累 積 す る と 予 測 で き るこ とが 報告 され てい るが 、MTX はこ の予 測 と 適合 せ ず、 何ら かの 未知 の機 構が 存在 するものと考 えられていた。このような物質 の 作用 の 本質 を調 ぺる こと によ り、 小核 誘発機構にお ける新たな知見を得ることがで きると考え本研究を開始した。
MTX の 骨 髄 に お け る 小 核 試 験 を 実 施 し た と こ ろ 、 小 核 頻 度 は 投 与 回 数 を 増 す (1 ‑4 回 ) こ と に よ り 有 意 に 増 加 し 、 4 回 投与 で最 大 に達 した 。ま た、 末梢 血を 用い た 小 核試 験 を実 施し たと ころ 、単 回投 与に おいても統計 的に有意な小核誘発を認めた。
こ れ ら の 相 違 は 実 験 系 の 相 違 に よ る と 考え られ たが 、MTX の小 核誘 発機 構を 理解 す るためには骨髄における小核誘 発機構を解析する必要があると考え以下の検吾寸を行っ た。
MTX4mg/kg を 単 回 あ る い は 4 回 腹 腔 内 に 投 与 し 、 骨 髄 細 胞 の 染 色 体を 直接 観察 し た と こ ろ 4 回 投 与 の 方 が 明 ら か に 染 色 体 異 常 頻 度 が 増 加 し て い た こ と か ら 、 MTX の 多 数 回 投 与 に よる 小核 誘発 はXPCE の 極度 の減 少に 伴 った 非特 異的 な反 応で はな く、 染 色 体 異 常 に 起 因 し て い る と 考 え ら れ た 。 また 、単 回あ るい は4 回 投与 後の 血液 中、 骨 髄 液 中 MTX 濃 度 変 化 を HPLC に て 追 跡 し た と こ ろ 、 投 与 回 数 に よ る 変 化 は 認 め ら れ ず 薬物の蓄積による濃度の上昇はなかった。しかし、骨髄細胞中の標的酵素であるシ゛ヒト.
ロ藁 酸還 元 酵素 (DHFR )の活 性は4 回投与の方が著しく減 少していた。さらに、骨髄細胞 中 の MTX 量 は 4 回 投 与 の 方 が 約 10 倍 多 く 、 上 記 DHFR 活 性 の 阻 害 は 骨 髄 細 胞 中 へ の MTX の 蓄 積 に よ る と 考 え ら れ た 。 骨 髄 細 胞 の 細 胞 質 画 分 を SephadexG ‐25 によ るゲ ル ろ 過 で 低 分 子 と 高 分 子 画 分 に 分 離 し そ れ ぞれ のMTX 量` を測 定し 蛋白 結合 率を 求め た と こ ろ 、 単 回 投与 では 13. 5X で あっ たが 4 回投 与で は25X にま で増 大し てい た。 以上 の こ と か ら 、 MTX の 多 数 回 投 与 に お け る 小 核 誘 発 は 、 細 胞 内 蛋 白 買 と の 結 合 率 の 上 昇 が ー つ の 要 因 と な っ た MTX の 細 胞 内 蓄 積 に よ る こ と が 明 ら か と な っ た 。
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MTXはDHFRを 阻 害 す る こ と に よ っ て 細 胞 内 の テ ト ラ ヒ ト . ロ 葉 酸 を 枯 渇 さ せ 、 チ ミ シ ゛ ル 酸 合 成 や フ゜ リ ン合 成を 阻 害す る ため 、 細胞 内 テ. オキ シ リ*゛ヌヶ レオチト゛3リ ン酸(dNTPs) フ.−ルが減 少するも あ る がDHFR活性 が強 く 阻害 さ れる4回 投 与で は増 強 され て いる こ とがin vivoで のマ
ウ ス 骨髄 で 初め て明 ら かに な った 。
次 に 、 DNAの 直 接 的 な 障 害 を 検 出 す る 実 験 系 の 「 ア ル カ リ 溶 出 法 」 に よ っ て マ ウ ス 骨 髄 細 胞DNAに 対 するMTX投与 回 数の 影 響を 調 ぺた 。そ の 結果 、 単鎖 切 断を 検出 す
る pH12.1で は 単 回 お よ び4回 投 与 と も 、 コ ン ト ロ ‐ ル と 比 較 し 溶 出 速 度 の 増 大 は な く DNA の 単 鎖 切 断 は 検 出 さ れ な か っ た 。 し か し 、 脱 塩 基 部 位 や り ン 酸 ト リ ェ ス テ ル 部 位 な ど の ア ル カ リ 感 受 性 部 位 を 検 出 で き る pH12.6で は 、 単 回 投 与 後 は 溶 出 速 度 の 増 大 は 認 め ら れ な か っ た もの の4回 投与 後で は 溶出 速 度が 増 大し た。 こ のこ と から 、MTXの4回投 与で
の マ ゥ ス 骨 髄 に お け る 小 核 誘 発 の 過 程 で ア ル . カ リ 感 受 性 部 位 ( お そ ら く 脱 塩 基 部 位 ) が 生 成 し てい る こと が明 ら かと な った 。
次 に チ ャ イ : ‐ ス ゛nム ス タ ‐ 培 養 細 胞 (CHL) を 用 い てMTXの 染 色 体 異 常 誘 発 と ア ル カ リ 感 受 性 部 位 生成 に つい て解 析 した 。 その 結 果、MTX処理 に よっ て まず24時間 以 内に アル カ
リ 感 受 性 部 位 が 時 間 依 存 的 に 蓄 積 し 、 そ の 後 染 色 体 異 常 が 誘 発 さ れ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た 、 染 色 体 異 常 と ア ル カ リ 感 受 性 部 位 生 成 は チ ミ ヲ . ン の 添 加 に よ っ て 一 部 回 復 し た こ と か ら 、 こ れ ら の 生 成 過 程 で DNA中 へ の ウ ラ 、 宀 の 誤 取 り 込 み が 起 こ っ て い る 可 能 性 が考 え られ た。
以 上 得 ら れ た 知 見 か ら 、 MTXの 多 数 回 投 与 に よ る マ ウ ス 骨 髄 に お け る 小 核 誘 発 機 構 の ー っ の可 能 性と して 以 下の よ うな 機 構を 推 定し た。a)MTXは 多数 回 投与 によ っ て、
マ ウ ス 骨 髄 細 胞 中 の 蛋 白 質 と の 結 合 が ー つ の 要 因 と な っ て 細 胞 内 に 蓄 積 す る 。b) 蓄 積 し た MTXは 標 的酵 素 であ るDHFRの活 性 を強 く 阻害 する 。c) 多数 回 投与 に よっ てDHFR活性
が 阻 害 さ れ る と 細 胞 内 dNTPsフ ゜ ー ル が 減 少 す る 。 d) dNTPsフ ゜ ‐ み の 減 少 はDNA複 製 あ る い はDNA修 復 の 際 に ウ ラ シ ル の 誤 取 り 込 み を 引 き 起 こ す 。e) 取 り 込 ま れ た ウ ラ シ み は ウ ラ シ ル‑DNA ク ゛ リ コ シ ラ ー セ . に よ っ て 塩 基 部 分 が 取 り 除 か れDNAに 脱 塩 基 部 位 が 生 じ る 。f) 生 じ た 脱 塩 基 部 位 は dNTPsの 減 少 の た め 修 復 さ れ ず に 残 存 し 蓄 積 す る 。 g) 蓄 積 し た 脱 強 基 部 位 は さ ら な る 誤 修 復 を 受 け る か 、AP‐ エ ン ト ゛ ヌ ク レ ア ー セ . な ど の 基 質 と な りDNA鎖 切 断 に い た る 。 h)結 果 とし て 染色 体異 常 を誘 発 し小 核 を形 成す る 。
本 研 究 に よ り 、 MTXは 多 数 回 投 与 に よ っ て マ ウ ス 骨 髄 細 胞 内 に 蓄 積 す る こ と が 明 ら か と な り 、 こ の こ と が 結 果 と し て 小 核 を 誘 発 す る 要 因 で あ る こ と が 確 か め ら れ た 。 こ の 研 究 手 法 は い わ ゆ る ト キ シ コ ヵ イ ネ テ イ ク ス の 考 え 方 を 一 歩 進 め た も の と い え 、 今 後 の 毒 性 機 構 解 析 の ー つ の 方 向 を 示 し た も の と 考 え る 。 ま た 、 本 研 究 は 小 核 試 験 の 標 準 フ ゜ ロ ト コ ‐ ル と し て 複 数 回の 投 与を 推奨 す る現 在 の動 向 にー つ の根 拠を 与 える も のと 考 えら れる 。
本 研 究 に よ り MTXは 多 数 回 投 与 に よ っ て dNTPsの 減 少 と ア ル カ ル 感 受 性 部 位 の 生 成 を 引 き 起 こ す こ と が 明 か と な っ た 。dNTPsの 細 胞 内 に お け る ア ンn. ラ ン ス はI外 ゛ ヌ ヶ レ ア ー セ ゛ 遺 伝 子 発 現 の 引 き 金 に な る こ と 、 あ る い は DNAホ ゜ リ メ ラ ‐ セ . aのDNA複 製 に お け る 正 確 性 を 減 少 さ せ る こ と が 報 告 さ れ て お り 、 こ れ ら と ア ル カ ル 感 受 性 部 位 と の 関 連 、 小 核 誘 発 / 変 異 原性 と の関 連を 明 らか に して い くこ と が今 後の 研 究課 題 であ る 。
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