建築の省エネ診断における空調システムシミュレーションプログラムの開発 [ PDF
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(2) 開口部の仕様変更の中で、ルーバー、エアバリヤ、 エアフローウィンドーなどは未対応である。. 日本のそれと異なり、機械分野のほうより発展してき たという背景がある。そのため、搬送系における計算. 蓄熱の方式のひとつである躯体蓄熱方式は、室全体. では細部にわたる模擬が可能である。. で熱の挙動を求める HASP/ACLD の計算方式では、一部. アメリカに手開発された空調システムシミュレー. 躯体における熱の備蓄を再現することができず、将来. ションプログラムのひとつに米国国立標準技術研究所. 的にも対応は難しく思われる。. ( NIST ) が 開 発 し た HVACSIM+ が 挙 げ ら れ る 。. (2) 計算モデルの準備されていない空調機器. HVACSIM+について検証したこところ、搬送系のプロ グラムは充実しているが、建物の熱挙動計算にて、短. 加湿機の計算モデルが準備できておらず、未対応で. い計算時間間隔では発散してしまう、大気放射の影響. ある。. が無考慮である、外界条件の風向を考慮に入れていな. 全熱交換器の計算モデルが準備できておらず、未対 応である。. いなどの建物の熱負荷計算における問題点が見つかっ. (3) 搬送系計算の細部にいたる模擬ができない. た。そこで、現在用いている空調システムシミュレー ションに HVACSIM+の搬送系計算を取り入れた。. 1 で述べたように、自動制御の最適化やシステムの 故障検知、診断を検討するには、細部にわたる搬送系. 今回取り入れた搬送系計算モデルは、ファン、ポン. の模擬が必要となる。しかし、現状の搬送系の計算で. プにより与えられる圧力とファン、ポンプ消費電力を. は、その再現が細部にまでは至っていない。. 計算するモデル、ダンパ、バルブにおける抵抗の変化. 4 計算モデルの追加. を求めるモデル、それらを総合して、各経路の流量と 圧力損失を算出する流量バランス計算モデルになる。. 3 で述べた問題点の改善のために、加湿器と全熱交. 5 流量計算モデルの精度検証. 換器の計算モデルの追加、詳細な搬送系計算の導入を. HVACSIM+ より取り入れた搬送系計算モデルの精. 行った。. 度検証を HVAC&R 実験解析システムにおける実測結. (1) 加湿器 加湿パンを用いる加湿方式と浸透膜気化式加湿器の. 果を用いて行った。図 5 に HVAC&R 実験解析システ. 計算モデルを追加した。加湿パンの内部にある温水の. ムに用いられている空調システムの概要を示す。一階. 水面より発生する蒸気により加湿する方式で、温水加. 吹出口の VAV 開度を様々な値で固定して、その際の給. 湿用には蒸気または電気ヒーターを用いる。パン形加. 気ファン、還気ファンの消費電力と各階吹出風量の実. 湿器の構造を図 1 に示す。浸透膜気化式加湿器は、水. 測を行った。実測結果を表 1 に示す。1 階のダンパを. 噴霧式の場合のような加湿水中に含まれる不純物が空. 閉じると他の階の吹出風量が増加していることが確認. 気中に放出され室内空気を汚染する心配がない、蒸気. できる。このような挙動は以前用いていた搬送系の計. 噴出し方式のように熱源を必要とすることがなく、省. 算手法で再現できなかった。. エネであるなどの理由により、近年、オフィス空調に 適しているとされている気化式加湿器の一種である。 構造と設置の例を下の図 2 に示す。 計算モデルは、設備設計参考書 3)に記載されている 計算式やカタログに記載されている特性を基に構成し、. 図1. パン形加湿器. 空調用システムシミュレーションに取り入れた。 (2) 全熱交換器. 図2. 浸透膜気化式加湿器. 全熱交換器の計算モデルの追加を行った。 全熱交換器には回転型と静止型の二種類がある。そ れぞれの構造を図 3、図 4 に示す。 加湿器の場合と同様に設備設計参考書に記載され ている計算式やカタログに記載されている特性を基に している。 (3) 搬送系計算 図3. アメリカにおける空調システムシミュレーションは 32-2. 回転式全熱交換器. 図4. 静止型全熱交換器.
(3) 水搬送は、給気温度が設定値になるように AHU へ. 示す。各室は中間階であるとし、その上下の室は空調. の流量を冷温水弁の開度で調整し、AHU 前での配管. 室としている。また、北側を除く各方位の立面を図 9. 内圧が設定値となるようにバイパス弁の開度を調整す. に示す。南側の開口部にだけ 1mの庇があるものとす. るという制御を行っている。冷温水弁の開度を固定し、. る。また、計算対象の空調システム図を図 10 に示す。. 設定圧力ごとのバイパス弁の開度と AHU 前の配管内. AHU を各階 1 台設置する各階ユニット中央方式によ. 圧力を調べた。図 3-8 に配管内圧力の計算結果と実測. って各室の空調を行う。熱源には空冷式ヒートポンプ. 値との比較を示す。調整を行っているにもかかわらず、. チラーを用い、送水温度が夏期 7 度、冬期 50 度とな. 圧力が高い範囲で実測結果と計算結果に大きな差異が. るように容量制御を行う。空気搬送は、室内温度に応. 生じている。ただ、システム自体の設定圧力は 160kPa. じて、還気経路、給気経路に設置した可動式ダンパ. となっており、その近傍に注目すると、ある程度の再. (VAV ユニット)を開閉させ、還気風量、給気風量を変. 現は出来ていることがわかる。先に述べたように水搬. 動させる変風量方式とする。設定外気導入量は在室人. 送の流量等のデータが入手できておらず、現状ではこ. 数より算出した 2700m3/h 一定とする。水搬送の制御. れ以上の検討は困難である。しかし、HVAC&R 実験. は、AHU 吹出空気温度に応じ空調機側二方弁を開閉. 解析システムに不足しているセンサー等は今後追加し. し、AHU に送る水量を調整する。また、その際に圧. ていく予定となっており、今後より多くのデータを利. 力計が一定の圧力を示すようにバイパス弁を調整する。. 用することでこの計算の精度も向上できると思われる。. (2) 省エネ手法や加湿器の効果 先に述べた空調システムを基本モデルとして、基本. 6 追加モデルを用いたシミュレーション (1) 計算対象モデル. モデルに浸透膜気化式加湿機の導入、全熱交換機の導 入、ファン回転数制御などを行った際にどのような効. 追加した計算モデルを用いて、簡単なモデルを対象. 果が現れるかを検討した。各パターンでの年間積算消. にシミュレーションを行った。 計算対象の建物条件を表 1 に示す。対象は、オフィ. 費電力を図 11 に示す。 冬期における加湿機の有無による室内相対湿度の. スビルを想定し、所在地は福岡市としている。 計算対象は同じ構成の 5 室とする。平面図を図 8 に. 違いを図 12 に示す。加湿器がない状態では約 25%とビ ル衛生管理法に定められる 40%∼70%の基準を満たせ. 200m3/h. 外気. 還気 ファン. VAVユニット (導入予定). 880m /h. /h 二次ポンプ. VAVユニット. 表1. 風量計 圧力計. /h エアハ ンドリン グユニット. 電力計. 還ヘッダー バイパス 一次ポンプ. VAVユニット (導入予定). 空冷 ヒートポンプ チラー. 320m3/h. 図5. 給気風量(計算値) 1F吹出風量(計算値) 2F吹出風量(計算値) 地階吹出風量(計算値). 1.0. 2000. 0.8. 風量[m3/h]. 消費電力[kW]. 2500. 1500 1000 500 0.2. 図6. 0.4 0.6 1階VAV開度[-]. 0.8. 0.4. 1,000 3,000. 2,000. 3,000. 2,000. 3,000. 図9. 0.2. 図7. 実測値(冷温水弁開度=0.0) 実測値(冷温水弁開度=0.2) 実測値(冷温水弁開度=0.4) 計算値(冷温水弁開度=0.0) 計算値(冷温水弁開度=0.2) 計算値(冷温水弁開度=0.4). 図8. 0.6. 0.2. 0.4 0.6 1階VAV開度[-]. 0.8. 2,000. 各階平面図. 3,000. 2,000. 3,000. 新 鮮 外. ファン消費電力の比較. 排気 ヘッダー. 排気. 実測値(冷温水弁開度=0.6) 実測値(冷温水弁開度=0.8) 実測値(冷温水弁開度=1.0) 計算値(冷温水弁開度=0.6) 計算値(冷温水弁開度=0.8) 計算値(冷温水弁開度=1.0). 給気. AHU. 還気 給気. 180. 給気. 160. AHU. AHU. 還気. 140. 給気. 120. 還気 給気. 図8. 0.2. 0.4 0.6 バイパス弁開度[-]. 0.8. 3,000 1,000. HP チラー. 1. 還気. 0. 2,000. 各階立面. 200. 100. 外気. 30,000. 給気ファン消費電力(計算値) 還気ファン消費電力(計算値) 給気ファン消費電力(実測値) 還気ファン消費電力(実測値). 0 0. 1. 給気風量の比較. 配管内圧力[kPa]. 0. 計算対象空調室. HVAC&R 実験解析システム空調システム図. 給気風量(実測値) 1F吹出風量(実測値) 2F吹出風量(実測値) 地階吹出風量(実測値). 0. 福岡市 3.0m 0.1 人/m2 20W/m2 20W/m2. 1,200 1,700 1,100. 地階. 空調室. 計算条件. 所在地 天井高 在室者数 照明 機器. インバーター (導入予定). バイパス弁. 往ヘッダー. 800m3/h. 1階. 給気ファン. 1800m3 2000m3 冷温水弁. 3. 2階. 30,000. パイプ ダクト バルブ 温度 計 湿度 計. 1. AHU. AHU. 還気. 図 10. 配管内圧力の比較 32-3. 空調システム図. バイパス. バイパス 配管内圧力計測点. ヘッダー.
(4) ていなかった。加湿器を用いることでそれが改善され. のとなり、設定した新鮮外気導入量を満たさないこと. ているが、夕方あたりから 40%を下回ることもある。. になる。. これは、冬期、立ち上がり後一時間以外は、外気導入. 7 まとめ. ファンのみの運転となり、通過空気温度が外気温度と. 本研究では、現在利用している空調システムシミュ. 同じである、通過風速が遅いなどの原因により、加湿. レーションの問題点を明らかにし、そのうちいくつか. 量が少なくなるためである。浸透膜気化式加湿機を採. について改善策としての計算モデルの追加を行った。. 用する場合は空調機の運用方法、加湿器設置位置など. しかし、問題点がすべて解決できたわけでなく、そ. の検討が必要となりそうである。また、年間消費電力. れの解決が今後の課題として残る。また、今回の改善. が増えているのは、加湿のための潜熱処理による空調. で性能検証に用いる空調システムシミュレーションと. 機処理熱量の増加に伴い冬期消費電力が増加しためで. してよりよいものになったと言えるが、制御最適化や. ある。. 故障、検知診断の検討手法自体が確立できていない。. ファン回転数制御によるファン消費電力の低下が大. そういった、シミュレーションプログラムをどのよう. きなものとなっている。ダンパの開閉による風量制御. な形で用いるかというのも今後の課題といえる。. では風量を絞った時にファンの効率が悪くなってしま. 【参考文献】 1) 建築設備技術者協会:HASP/ACLD/8501 解説,1986.2 2) 建築設備技術者協会:空調システム標準シミュレーションプログラム HASP/ACSS/8502 プログラム解説書,1986.2 3) 井上宇市編:空気調和ハンドブック,1996.1. うのに対し、回転数制御による風量調整ではファンの 効率がそのように低下することはない。ファン回転数 制御の効果が大きく現れていることから、風量を絞っ. C8D?@AB. 678?@AB. 2E?@AB. ての運転が多く見られたことが伺える。 678./9:;. (3)フォルトによって発生する問題 ./012345. 空調機のフィルタが汚れなどにより目詰まりを起 )*+,-!. こした場合、還気経路の VAV ユニットのひとつが動作 $%&'(. 不良にて常に全開になってしまった場合の 2 ケースに 50. 風量の比較を示す。フィルタの目詰まりによりフィル. JK*H. 100. FG*H[I]. タにおける圧力損失が定格風量に対し 1kPa 増加した ものとして計算を行っている。場空調機の定格風量 24450m3/h に対して最大でも 19000m3/h しか風量がで. 250. 300. 年積算消費電力の比較. 図 11. 図 13 にフィルタ目詰まりでの運転と正常運転での. #00 #50 200 <=>?@AB(GWh). $%&'(*H. )*5,-L*H. 100. 80. 80. 60. 60. 40. 40. 20 0. 20 0. 6. なくなっていることがわかる。これは、空調機での最. 図 12. 12 2月2日 JK*HMNOP*H. 18. 0. FG*H[I]. 0. ついて検討を行った。. 0 !"[!]. 室内相対湿度の比較. 大処理熱量が小さくなり、室温が設定温度になるまで 6Q(RSTUV!WXKYZ. 3. ファン消費電力が増加するなどの、問題を発生させる。. 20000 10000. ひとつの部屋の還気経路 VAV ユニットが常に全開に. 0. なる不具合が生じた時の正常な側と不具合の生じた部. 0. 図 13. 屋の搬送経路における風量を、それぞれ図 14、図 15. 6. 12 8月4日 空調機出入口空気温度・風量. 18. 0. !"[!]. フィルタ目詰まりと正常時での風量の比較 外気導入経路量. 30000. に示す。給気風量の変化に合わせて還気経路のダンパ. [\!WXKYZ. 風量[m /h]. 30000. にかかる時間が長くなる。余分な抵抗がかかることで. 給気経路風量. 還気経路風量. 3. 風量[m /h]. 20000. を調整することで室の外気導入量を調整していたため、. 10000. 不具合の生じた部屋における外気導入量に問題が生じ. 0. -10000. 0. 6. ている。今回の場合換気経路が常に全開であるとした. 12 8月4日 空調機出入口空気温度・風量. 図 14. ため不具合の生じた部屋において新鮮外気を取り入れ. !"[!]. 給気経路風量. 還気経路風量. 20000. 3. 風量[m /h]. られていない。これは室内空気環境の悪化につながる。. 0. 正常側風量. 外気導入経路量. 30000. 18. 10000. また、不具合の生じた部屋において給気量を還気量が. 0. -10000. 上回った際、他の室が外気導入経路より取り入れる空. 0. 6. 図 15. 気が外気と不具合の生じた部屋の空気との混合したも 32-4. 12 8月4日 空調機出入口空気温度・風量. 18. ダンパ動作不良側風量. 0 !"[!].
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