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1. ミャンマーの概況 図 1. ミャンマー国内地図 (1) ミャンマーの基礎データミャンマーの国土はイギリスの植民地時代に形づけられた 南北に長く 面積は 67.7 万km2と日本の 1.8 倍である 東南アジアの大陸部においては 最も大きな国土を有している 国土の東北部を中心に約半分が山林地帯と

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●調査レポート

アジア最後のフロンティア ミャンマーの経済及び社会情勢分析

~埼玉産業人クラブ ミャンマー経済視察団参加報告として~

ミャンマーは1988 年以来の軍事政権下で 1997 年 5 月に経済制裁に踏み切ったアメリ カを始め西側諸国からの経済制裁を受けていた。2010 年 11 月の 20 年ぶりの総選挙を経 て翌年3月現テイン・セイン大統領就任により軍政から民政に移管された。2011 年 12 月 に民主化の進展を評価したアメリカのヒラリー・クリントン国務長官(当時)の訪問をき っかけに国際社会復帰への第一歩を踏み出した。 その後、2012 年4月にはイギリス・キャメロン首相、同年 11 月にはアメリカ・オバマ 大統領が訪問している。日本政府も 2012 年4月にはテイン・セイン大統領が訪日、また 2013 年新年早々、麻生副総理がミャンマーを訪問し新たな円借款を約束するなど本格的な 支援再開を表明している。また政府主導で大規模な経済ミッションを送り込み、同国の社 会インフラの整備や経済発展へ積極的に関わっていこうとの意向を示している。 これらの一連の動きに拍車をかけているのが、沖縄県の尖閣諸島の問題を発端に改めて 顕在化した中国のカントリーリスクと、「チャイナ・プラス・ワン」として海外進出してい たタイ、ベトナム、インドネシア等の各国の人件費の高騰である。ミャンマーは日本政府 関係者には新たな東南アジアの経済発展地域として、また既に中国やタイなどに進出した 多くの企業経営者にとっての「アジア最後のフロンティア」や「タイ・プラス・ワンの好 適地」などと考えられている。ミャンマーは今や日本の政財界から最も熱い眼差しが向け られている地域となっている。 今般2 月 20 日~24 日に埼玉産業人クラブの経済ミッションの一員として、埼玉県内の 中小企業経営者の皆さんとミャンマー(ヤンゴン市を中心)を訪問した。ジェトロ・ヤン ゴン事務所の話では、「財界の大型経済ミッションよりも、最近は地方の商工会議所や地域 金融機関の経済ミッションも非常に目立つようになった。」ということで。ヤンゴンを訪れ る日本人の数は大幅に増加している。しかしながらミャンマー政財界からは、日本からの 経済ミッションは、「NATO (No Action Talk Only)」や「4L(Look, Listen, Learn and Leave)」などと揶揄されていることも多くのマスコミが報道するところである。確かに日 本人の視察団は増えたが、実際のビジネスまで結びつく話がほとんどないというのが、彼 らの実感なのである。 本レポートは、その視察報告として、現地で見聞きしたこと、三菱商事ヤンゴン駐在員 事務所、ジェトロ・ヤンゴン事務所、ミャンマー工業省等からのレクチャーやヤンゴン商 工会議所連合会とのビジネスマッチング、また現地の中小企業への訪問等で得られた題材 や入手した各種資料をもとにミャンマーの経済及び社会情勢について取りまとめてみた。 はじめに

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2 / 34 1.ミャンマーの概況 図1. ミャンマー国内地図 (1)ミャンマーの基礎データ ミャンマーの国土はイギリスの植民地時 代に形づけられた。南北に長く、面積は 67.7 万㎢と日本の 1.8 倍である。東南アジ アの大陸部においては、最も大きな国土を 有している。国土の東北部を中心に約半分 が山林地帯となっている。 陸側は、中国、タイ、ラオス、インド、 バングラデシュの5か国と国境を接し、海 側はアンダマン海の北部となるマルタバン 湾のほか、ベンガル湾、インド洋に面し、 東南アジアの最西端に位置している。 国土の中央部は全長1,600 ㎞を超えるエ ーヤワディ(イワラジ)川が縦に流れる。こ の大河は河口部のヤンゴンから960 ㎞遡っ た古都マンダレーを越えてなお外洋船の航 行が可能で、南部の流域に肥沃なデルタ地 帯を作り出している。国土の多くは熱帯、 亜熱帯地域に属するが、地勢の多様さゆえ に、気候も変化に富み、気温や降水量は地 域によって大きく異なる。 季節は西南モンスーンによる雨季(5月 頃から10 月頃)と東北モンスーンによる 乾季(11 月から翌年 4 月まで)にわかれる。 観光などは10,11 月から 2,3 月ころがベストと言われている。人口は 6,000 万人を超え、 その7 割弱がビルマ族であるが、135 の民族で構成されている多民族国家である。宗教は 9割が仏教徒である。(出所:図1三菱商事ヤンゴン駐在員事務所) 表1. ミャンマーの基礎データ 面積 67 万 6,578 ㎢ 首都 ネーピードー(2006 年にヤンゴンから遷都、人口約 60 万人) 人口 約 6,200 万人(2011 年) 民族 ビルマ族(68%)、シャン族(9%)、カレン族(7%)、他 宗教 小乗仏教(89%)、キリスト教(5%)、イスラム教(4%) 通貨 KYATS = チャット (出所:各種統計資料より当研究所作成)

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3 / 34 (2)ミャンマーにおける為替レートの課題 テイン・セイン政権が進めている様々な経済分野での施策のなかで、象徴的なものが 2012 年 4 月からの為替レートの一本化であろう。これまでは、公定レート(1 ドル=約 5.5 チャット)、政府公認レート(同 450 チャット))や市場レート(約 800 チャット)な ど複数の為替レートが併存し、不透明な為替制度となっていた。実際のビジネス・貿易取 引は1 ドル=約 5.5 チャットの公定レートではなく、市場レートで行われていた。 しかし2012 年 4 月 1 日から管理変動相場制に移行され、中央銀行が毎日公表する為替 レートが基準となった。従来からある市場レートに近い水準となった。為替レートが一本 化されてからは、チャット安になっているものの、安定して推移している。 表2 チャットの為替レートの推移 為替レート 2009 年 2010 年 2011 年 ①年度平均公定レート 5.455 5.545 5.399 ②年度平均市場レート 1,076 970 814 注:1 米ドル/チャット (出所:①はミャンマー中央統計局、②はジェトロ) 1,000KYATS(1,000 チャット)紙幣 (3)ミャンマーの政治体制 ミャンマーでは、1988 年以降軍事政権が続いていた。1990 年に実施された総選挙にお いて野党 NLD(アウン・サン・スー・チー女史率いる)が圧勝するも軍事政権が政権移 譲を拒否した。2003 年に当時のキン・ニュン首相が民主化への7段階の「ロードマップ」 を制定し、08 年には国民投票により新憲法を採択、10 年 11 月に 20 年ぶりの総選挙を成 功裏に実施した。翌11 年 3 月に一部保守派の影響力が残るものの民主的に選ばれた現テ イン・セイン政権が誕生した。次期総選挙は2015 年に予定されている。

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4 / 34 表3. ミャンマーの政治・社会 政体 大統領制、連邦共和制 元首 テイン・セイン大統領(2011 年 3 月就任、任期 5 年) 憲法 2008 年 5 月軍政起草の新憲法草案を国民投票で承認・公布 議会 二院制:上院(民族代表院 224 議席) 下院(国民代表院440 議席)*軍指定議席 25% 政党 与党:連邦団結発展党(USDP) 野党:国民民主連盟(NLD)、国民統一党(NUP)等 (出所:各種統計資料より当研究所作成) ヤンゴン中心部(写真・上がヤンゴン川) ヤンゴン中心部(路地の風景)

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5 / 34 2.東南アジアにおけるミャンマーの地理的な意味 ミャンマーは周囲を中国、ラオス、タイ、インド、バングラデシュの5 か国に囲まれて おり、国境は6,000 ㎞に及んでいる。ことにミャンマーがこれからの“2 大経済大国”中 国とインドと国境を接し、両国の中間に位置していることと、日本の自動車関連産業の進 出が多く、“アジアのデトロイト”として成長しているタイの隣国であることが、地政学的 観点から、よりその存在意義を高めていると考えられる。 (1)隣国との経済的な関係 表4. 主な周辺国の思惑とミャンマーの関係 中国 ◆ミャンマーは、海に面していない雲南省へのエネルギー供給地や物流の経由地 として重要性が高い。ミャンマー西部のチャオピュー港から雲南省の昆明まで全 長1,000 キロに及ぶパイプライン(ガス・石油)を中国石油(CNPC)等が敷設 している。 ◆ガスは貴州省、広西壮族自治区まで延伸計画があり、石油パイプラインは重慶 まで延伸の予定がある。 タイ ◆マラッカ海峡を通過しない、インド洋への物流経路として重要である。 南部経済回廊(ホーチミン~バンコク~ダウェイ:全長1,380 ㎞) 東西経済回廊(ダナン~ラオス~タイ~ミャンマー:全長1,450 ㎞) ◆南部のダウェイ経済特区は、労働集約的産業や環境負荷が高い産業の移転先と してイタルタイ社が開発を計画しているが、資金不足により遅延している。 インド ◆インド政府はミャンマー内の道路整備に対する援助を表明している。この整備 により2016 年までには、タイとアジアハイウェイで接続されることになる。 (出所:各種資料をもとに当研究所作成) 中国のミャンマー経済における存在は大きい。軍政下における西側諸国の経済制裁の状 況下でも、ミャンマーの天然ガスなどの資源を中心にしたたかに関係を構築してきている。 海に面していない中国 雲南省へのエネルギー供給地としてのミャンマー国内からパイプ ラインを敷設し、さらなる延伸を目論んでいる。タイにとってはマラッカ海峡を通過しな いインド洋への物流経路の確立として、ミャンマーは重要な地域である。またタイ政府の 政策として、自国の労働集約型産業構造転換を図ろうとし同国の労働集約型産業の“移管 先”としてミャンマーが好適地であるとしている。インドもミャンマー国内での道路整備 に対する援助を表明し、タイからインドへの高速道路網の構築へ意欲を燃やしている。 (2)消費マーケットとしてのミャンマー ミャンマーの地理的な意味を東南アジアの消費マーケットや物流という観点から見てみ たい。図2 はミャンマー及び周辺国の人口を表したものである。地図中央の 61Million と 書かれたところがミャンマーである。そして中国やインドなど国境を接する国々の人口を 合計すると人口は2.839Billion(28 億 3,900 万人)、世界の人口の 40.6%にまで及ぶことが 分かる。その巨大マーケットの中心にミャンマーが位置している。

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図2. ミャンマーを中心とする周辺国との人口規模

(出所:U Aung Khin Myint 氏の講演資料)

図3. 東南アジアの物流とミャンマー 図3 は、東南アジアの物流の動脈 となっている「東西経済回廊」と「南 部経済回廊」とミャンマーの存在価 値を見たものである。 図3 の右下のタイから南北にミャ ンマーを突き抜ける赤い線が東西経 済回廊である。東西経済回廊はベト ナムのダナン港を始点として、イン ドネシア半島を1,500 ㎞横断してミ ャンマーまで繋がる。これをミャン マー国内に北上させインドまでアジ アハイウェイとして延伸させたいイ ンドの思惑がある。南部経済回廊は、 ベトナムのホーチミン市からバンコ クに繋がる。タイ政府はミャンマー のダウェイ港まで延ばしてアンダマ ン湾側に物流拠点を作りたい考えだ。 (出所;三菱商事ヤンゴン駐在員事務所)

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7 / 34 3.ミャンマー経済の現状 (1)ミャンマーの経済環境 ミャンマー経済の現状について概観してみたい。ミャンマーは1997 年に ASEAN に加 盟し、同年加盟のラオス、99 年加盟のカンボジアとともに最後発組となる。最近はこの3 国を“CLM諸国”と括る場合もある。しかしながら最近の国際的な注目度は他の2国と 比較にはならない。ASEAN 諸国にすれば、2015 年に予定されている経済統合、ASEAN ECONOMIC COMMUNITY の発足を成功させなければならない。経済統合とは、域内 10 か国の関税、投資や人の流れを自由にしようとするもので、現在は加盟国6か国の間で 統合が進んでいる。ミャンマーなどの後発組の4か国は 2015 年に域内関税を撤廃するこ とになっている。この経済統合の進展によってミャンマー経済は、これまで以上に加速度 的にアセアン経済圏の中に取り込まれていく。 またミャンマーはASEAN 統合と歩調を同じにするように、2013 年は ASEAN 版オリ ンピックと言われている SEA Games を首都のネーピードーでの開催、2014 年には ASEAN 議長国、2015 年は総選挙を控えている。これらがヤンゴン市内での開発の追い風 となり国内経済の成長を押し上げている側面も感じられる。 表5. 経済状況の概観 名目GDP 39.8 兆チャット(519 億ドル)(2011 年) 一人当たりGDP 832 ドル(2011 年) GDP 構成 農業36.4%、鉱工業 26%、サービス業 37.6% 貿易品目 輸出:天然ガス、豆類、縫製品、魚類 輸入:原油、機械部品、卑金属、食用油 (出所:各種ミャンマー経済関係資料より当研究所作成) ミャンマー経済は、名目GDP が 519 億ドル、一人当たり GDP が 832 ドルと 1,000 ド ルにも満たない。また名目GDP は、人口が拮抗している隣国タイの 6 分の 1 程度となっ ている。この点から見れば、ミャンマー経済の成長については、まだまだ伸びシロは大き いと言えよう。 GDP 構成では、農業が 36.4%と大きなウエイトを占めていることがわかる。GDP に占 める鉱工業の26%より 10 ポイント大きく、政権としては鉱工業のウエイトを増加させる ことが命題となっている。 (2)テイン・セイン政権の経済政策 次にテイン・セイン政権の経済政策を概観してみたい。2012 年 6 月のテイン・セイン 大統領の経済政策の施政方針演説から見てみたい。 2011 年~2015 年までの5か年計画では、GDP の年平均成長率を 7.7%と高い目標を掲 げ、一人当たりGDP を 1.7 倍まで引き上げるとしている。また努力目標としては、3 倍ま で引き上げるとも表明している。高い経済成長を続けるとともに、産業構造の転換を図り、

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8 / 34 GDP に占める工業の割合を 26.0%から 32.1%程度まで引き上げるとしている。その他に は、ミャンマー経済にとって最大の課題となっている社会インフラ整備の推進、農業の近 代化、国営事業から民営化へ、積極的な外資の導入や国内雇用の創出など多岐に亘ってい る。これらの施策によって現在の貧困率26%を 2015 年に 16%まで低下させるとしている。 表6. 経済政策に関するテイン・セイン大統領施政方針演説(2012 年 6 月)

5 か年計画

( 2011 ~

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◆GDP年平均成長率を 7.7%

◆GDPに占める工業の割合を 26.0%⇒32.1%

◆一人当たりGDPを 1.7 倍成長とし、

(努力目標として、5 年間で 3 倍まで引き上げる)

インフラ 整備 産業育成 ○外国からの援助資金を教育・医療・電力・通信・道路等の長期間に亘り 恩恵を受けられる社会インフラ整備に充当する。 ○水力主体の電力源を見直し、多様化(天然ガスや石炭)を推進する。 ○農業分野への投資、マイクロファイナンスの活用による農業開発を推進 し、農業関係者の収入増加を図る。 民営化 国営事業比率の高い通信・電力・エネルギー・林業・教育・保険及び金融 の分野での民営化の比率を高める。 外国投資 外国投資法、ミャンマー経済特区法の改正、土地管理政策・土地利用方針 の改善により、国内外からの投資を促進させる。 人材 国内雇用の創出によって海外へ出ている優秀な人材の帰国を推進させる。 (注)海外在住ミャンマーは約300 万人と言われている。 (出所:三菱商事ヤンゴン駐在員事務所) (3)中長期的に成長が期待されるミャンマー経済 図4.ミャンマーGDP成長率予測 ミャンマー経済を GDP 成長率から中 長期に予測したのが図4 である。先述の ように政府は2015 年まで平均 7.7%とし ていることもあり横棒グラフとなってい る。 その他は、ADB(アジア開発銀行)が 2011 年 5.5%、12 年 6.0%、13 年 6.3% の成長率を予測し、IMF においても 5% 後半から 6%以上とミャンマー政府ほど ではないが、安定的な高度成長が期待さ れるとしている。 (出所:三菱商事ヤンゴン駐在員事務所)

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9 / 34 開発が進むヤンゴン市内 新築のコンドミニアム (4)ミャンマーの経済成長を支える要因 次に今触れたミャンマーの経済成長を支えている要因について考えてみたい。その要因 として4つが上げられる。まず他の新興国と同様に生産年齢人口の増加である。図5 が示 しているように生産年齢人口が増加する人口構造にあることだ。 図5-1,2 ミャンマーにおける人口構造 (出所:三菱商事ヤンゴン駐在員事務所) ミャンマーは、まさに人口ボーナス期を迎えており平均年齢も 27 歳となっている。ま

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10 / 34 たその状況はまだまだ継続できる。図5-2 にあるように生産年齢人口比率の未来推計では、 タイが2015 年をピークに減少に転じ、それ以後 2020 年からは大幅な減少となるのに対し て、ミャンマーは2015 年ピークの生産年齢人口比率は少なくとも 2030 年までは横ばいで 推移することがわかる。 また現時点では不明確な部分も多いが、今後ミャンマーの経済発展につれて300 万人と も言われる海外労働者が帰国しミャンマーの労働市場に入ることも期待されている。比較 的に知的レベルの高い人たちが帰国することで、全体的な労働市場の底上げにもつながる と思われる。 2つ目として、社会インフラ整備や都市部での再開発にともなって外国資本の急激な増 加が期待できる。ミャンマーの課題は一にも二にも社会インフラの整備である。日本を含 めた海外からの投資の多くがその分野に向けられている。 3つ目として外資の直接投資、国営事業の比率が高い分野での民営化の推進、教育の充 実などのテイン・セイン政権の進めている政策の波及効果が期待されている。 最後に経済成長に伴う個人所得の増加による消費活動の活発化、経済活動全体の押し上 げである。ヤンゴン市内では既に大型ショッピングセンターが出来ており、中間層以上を 中心に活況を呈している。また日本のコンビニエンスストア・チェーンも進出を計画する など消費機会の増加もある。またこれまで遅れていたクレジットなどの金融制度の整備も 期待できるなど周辺整備も進められている。

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11 / 34 4.ミャンマーの注目産業と日本企業の動向 ミャンマーの注目産業の動向とそれに関する日本企業に考察してみたい。 (1)社会インフラ(電力、交通、通信等) ミャンマー進出について最大のリスク要因は社会インフラである。特に電力不足は早急 に解決しなければならない。現状,発電の主力で電力不足の要因となっている水力からの転 換とガス火力発電の老朽化対策、送配電ロス(25%程度と言われる)の軽減など多岐にわた る。その他交通、通信等の社会インフラの整備も急務である。これらの需要は高く、投資 は急激に増加すると見られる。まさに日本企業、日本の高度な技術が得意とする分野であ る。 (2)農業 ミャンマーは国土が縦に長く、広さはタイの約2 倍であり農業に適している。寒冷で乾 燥している山岳地域が多い北部では、ゴマや果物の生産が適している。またヤンゴン周辺 などの南部では、降水量も多く肥沃なデルタ地域も多く稲作が盛んである。農産物の柱は コメ、 3,320 万t(2010 年)でベトナムに続いて世界第 6 位の生産高である。ミャンマーは 第二次世界大戦前までは、世界最大のコメの輸出国であったが、現在は世界で 10 位程度 まで落ち込んでいる。 ミャンマー政府は、コメの民間輸出を経済成長の一つの柱に据えている。民政移管後、 最初に育成すべき産業は農業であるが、一次産品として出荷するにとどまり付加価値を加 えた加工品として技術、設備は乏しく効率化も大きな課題となっている。 そこでミャンマーの農業分野での潜在能力に目をつけ複数の日本の総合商社が事業開拓 に走っている。例えば、三井物産がコメ事業、丸紅がコメ、天然・養殖エビの対日輸出、 伊藤忠商事のゴマ調達などが既に報じられている。三菱商事ヤンゴン駐在員事務所でもミ ャンマーのゴマ事業が有望であるとの話もあった。またミャンマー北部ではバナナなど果 実栽培が盛んで伊藤忠商事がアメリカ企業と提携し事業拡大を検討している。またミャン マーのコメ事業などには、欧米の穀物メジャーも出遅れていることも日本企業には好条件 と言えるかもしれない。 ミャンマー進出の大きな足かせとして電力とインフラ整備、また遅れている国際水準に あった工業団地の整備などがあげられ、製造業の進出意欲が殺がれている。本格的な製造 業の進出に時間がかかる現在、農業分野からの進出で現地での足掛かりを作りたいという のも商社を中心に農業関連分野へ進出している理由でもある。 (3)農業資材・機械 ミャンマーでは全人口の75%となる約 4,500 万人が農村部に住んでいると言われている。 その多くが農業に従事し、多くは貧困層に属している。テイン・セイン政権は貧困層の減 少を国家レベルの命題として位置づけ、農民の生活向上の政策によって、来る 2015 年の 総選挙での支持につなげようとしている。農民の生活向上と農業の生産性の向上や近代化 の促進に向けた農業資材や機材の分野での日本の技術を待望しており、先進的な農機具の

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12 / 34 需要も高まると予測される。また農薬や肥料の需要も可能性が大きいとみられる。 (4)天然ガス ミャンマーでは、1999 年からタイ向けのパイプラインによってガス輸出を始め,天然ガ ス生産が2000 年ごろから急伸した。この数年の生産量は 4,000 億立方フィートとなって いる。現在では品目別輸出額のトップで輸出金額の約4 割となっている。またアジア開発 銀行の推計によると埋蔵量は、11 兆 8,000 億立方フィート(日本の年間消費量の3倍に当 たる)となっている。ている。天然ガスについては、中国の進出が目覚ましく中国石油が パイプラインを敷設し、雲南省へのエネルギー供給地としている。 (5)縫製業 縫製業はミャンマー初の本格的輸出型製造業である。天然ガス輸出が本格化する前の 2000 年時点では、衣料品が全輸出の半分を占めていた。さらにその過半、54%がアメリカ 向けであった。しかし2003 年にアメリカがミャンマー製品の全面的な輸入禁止に踏み切 ったことから、壊滅的な打撃を受けた現地縫製業を救ったのが日本向け輸出であった。 2010 年には、国・地域別で日本がトップにたった。既に日本が大きなプレゼンスを持ち、 図6. 日本の東南アジアからの衣類輸入の推移 (出所:「ミャンマーの産業と企業」(JETRO 海外調査部荒木義忠氏資料))

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13 / 34 今後も拡大が期待できるのが縫製業である。 2010 年度の縫製品輸出額は、約3億 5,000 万ドル(約280 億円)と前年からほぼ倍増している。中でも日本向けが 45%、韓国向けが 30%である。図 6 は 2000 年から 2011 年までの東南アジア各国からの日本の衣類輸入の推 移を見たものである。ミャンマーからの輸入量は2000 年から確実に増加していたが、2008 年頃から急激に増加していることがわかる。インドネシアに次ぐ金額となっている。 (6)金属資源 ミャンマーは豊富な埋蔵資源を有している。現在は治安や技術、資金不足などの理由に より開発は停滞気味と言われている。主な金属資源は銅、亜鉛、鉛である。銅生産は2005 年には3 万tを超えていたが外資の撤退もあり減少している。2011 年には 1 万tまでに 落ち込んでいる。亜鉛と鉛も伸び悩んでいる。金属資源に関しては鉱業公社との合弁等に より日本企業など外資企業も参入可能で、最近は中国企業の参入が増加している。 (7)素材産業(セメント等) 今後、インフラ整備が進展するに従い、基礎素材であるセメント需要の拡大が見込まれ る。2010 年のセメント消費量がベトナムは 5,020 万t、タイは 2,450 万tであるのに対し てミャンマーは470 万tにとどまっている。今後は水力発電所や既設プラントの改修工事 (数十年前に作られたものが多く、低効率)が見込まれ、セメント不足は深刻である。 またヤンゴン市内の環状線は老朽化、鉄道整備も喫緊の課題(ヤンゴンから中部のマン ダレーまで621 ㎞鉄道は 30 ㎞程度しか運行できていない)で、このインフラ整備の他に も、ヤンゴン市内ではマンションやホテル等の建設が進んでおり、民間部門においてもセ メント等の需要は高まっている。 (8)自動車 ミャンマーでの日系メーカーのシェアは極めて高い。今回の視察においてヤンゴン市内 で見たクルマの大半は日本車で欧米製のクルマを探すのは非常に難しかった。また日本車 の中でトヨタ製が80%程度を占めているように見えた。他には三菱、ホンダ、スズキの各 社のクルマが目を引いた。親日的な国民性もあり日系メーカーにとって非常に有望なマー ケットとなっている。 ヤンゴン市内の交通事情

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14 / 34 現政権が 2012 年秋から自動車輸入制限の規制緩和を段階的に進めたため中古車の輸入が 拡大している。しかしながら組立や部品などの周辺産業は、未発達である。多くの日本企 業が進出しているタイ国内に集積した自動車関連産業の延伸地域として期待は大きい。 (9)サービス業 社会インフラの未整備もあって製造業の日本からの進出には現時点で高いハードルがあ り、あまり進んでいない。 反面、比較的身軽なサービス業の進出のスピードが速い。大手広告代理店、弁護士事務 所や不動産業者など、今後の日本からの製造業等のミャンマーへの本格参入を見込んで、 当地での業務展開を開始している。その他、ソフトウエア開発やデータ入力会社が当地で の女性を中心に人気の高いIT関連学部出身者の雇用を当て込んで進出している。最近で はNTT データが対日オフショア開発拠点を 500 人規模で設立する。 ミャンマー国内の大学で医学部に次ぐ人気があるのが、IT関連学部だそうだ。その9 割が女性である。ミャンマーでは、子供を大学へ行かせることができる裕福な家庭で生ま れた男性の多くは医学部などに進学し、国外で就職してしまうそうである。しかしながら 女性の場合は、国内のIT関連学部に進学させるそうである。ミャンマーの女性雇用の促 進という観点からも大きな意味があると思われる。 また通信サービス関連では携帯電話市場も大きな魅力となる。国際電気通信連合の調査 によると2010 年ミャンマーにおける携帯電話普及率は 1.24%だそうだ。カンボジアの 58%、 ラオスの65%に比べると非常に低い。 (10)リテール産業 小売市場規模は年平均 17%という高い成長率で急速に成長している。小売市場では、 いわゆるパパ・ママストアなど伝統的な小売が9割を占めている。しかしながら都市部、 ことにヤンゴンではショッピングセンターが進出し盛況となっている。日本のコンビニエ ンスストア・チェーンも進出を計画しており、中産階級の消費活動のパワーアップが期待 できる。

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15 / 34 5.ミャンマーの貿易の現状 (1)ミャンマーの輸出・輸入の現状 表7. ミャンマーの主要品目別輸出入【通関ベース】(単位:100 万チャット) 2010 年度 2011 年度 2010 年度 2011 年度 金 額 金 額 金 額 金 額 輸出総額(FOB) 49,106.8 49,287.7 輸入総額(CIF) 35,508.4 48,763.5 天然ガス 13,946.8 18,860.2 精油 7,711.3 10,403.5 豆類 4,449.8 5,312.3 一般・輸送用機械 6,660.8 9,846.2 縫製品 2,100.1 2,685.4 卑金属・同製品 3,065.8 5,112.1 魚類 1,168.3 1,900.7 電気機械 1,928.4 2,514.7 チーク 1,709.4 1,673.7 食用植物油 1,122.2 2,130.7 堅木 1,595.8 1,592.6 プラスチック 1,371.5 1,684.3 コメ 1,091.9 1,438.5 合繊織物 1,150.6 1,371.1 ゴム 848.9 707.2 医薬品 1,002.9 1,176.7 エビ 367.2 444.3 セメント 774.5 810.7 ごま 250.7 312.5 紙・同製品 389.9 531.3 その他 21,577.9 14,360.3 ゴム製品 338.1 425.5 その他 9,992.4 12,756.7 (出所:ミャンマー中央統計局) 表8. ミャンマーの主要国・地域別輸出入【通関ベース】 (単位:百万チャット) 2010 年度 2011 年度 2010 年度 2011 年度 金 額 金 額 金 額 金 額 輸出総額(FOB) 49,106.8 49,287.7 輸入総額(CIF) 35,508.4 48,763.5 タイ 16,065.2 20,598.5 中国 12,005.1 15,038.4 中国 6,662.9 11,984.0 シンガポール 9,116.9 13,556.5 インド 4,858.1 5,638.8 タイ 3,938.6 3,733.6 シンガポール 2,499.9 2,917.1 日本 1,427.1 2,723.8 日本 1,314.0 1,729.7 韓国 1,683.4 2,434.0 韓国 820.9 1,160.3 インドネシア 1,526.1 2,341.8 マレーシア 2,445.9 823.2 インド 1,079.9 1,762.1 ドイツ 213.1 228.6 マレーシア 805.0 1,636.4 香港 10,530.6 223.7 米国 327.5 1,425.7 インドネシア 228.0 221.4 ドイツ 287.2 511.1 (出所:ミャンマー中央統計局)

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16 / 34 ミャンマー貿易の現状を見てみたい。2011 年度(2011 年 4 月から 2012 年 3 月、日本 と同じ)の貿易は、輸出額は前年度比ほぼ横ばいの492 億 8,770 万チャット、輸入は 37.7% と増加して487 億 6,350 万チャットとなった。ミャンマーは、「輸出第一主義(Export First Policy)」(輸出で稼いだ外貨の範囲でしか輸入を認めない貿易政策)の政策や天然ガスなど の輸出増加もあり、2002 年度以降黒字を記録している。しかしながら輸出が増えない状況 で、規制緩和策により輸入が大幅に増加したため、黒字額は96.1%減と大きく落ち込んだ。 ①輸出 ミャンマーの主要な輸出品目は、天然ガス、豆類と縫製品が上位となっている。天然ガ スは、輸出額の約4 割を占め、そのほぼ全てがタイへの輸出となっている。インドへ輸出 している豆類は豊作だったため輸出額を伸ばしている。ただ輸出額第2位となっている豆 類を始め、コメやゴマなどは、ミャンマー国内での加工設備や技術がないことで、ほとん どが付加価値をつけられないまま輸出せざるを得ない状況で、これからは農業の近代化と も相まって解決すべき課題と言える。 縫製品の輸出も堅調で前年度比27.7%の伸び率を示した。ことに日本からの受注が好調 で、紳士服、ワイシャツなどが増加している。 またその他の143 億 6,030 万チャットの内で、半分程度は宝石類、特に翡翠の輸出と言 われている。 国・地域別では、タイが205 億 9,850 万チャットで最も大きく、次いで中国とインドで、 この3か国で輸出額全体の8 割を占めている。主な輸出品目は、タイへは天然ガス、中国 へは翡翠など宝石類、ゴム製品や水産品、インドへ豆類となっている。ちなみに日本へは 縫製品や靴類の増加が寄与し、輸出額は対前年度比31.7%と伸びている。 ②輸入 輸入については、石油製品(主にディーゼル油)が最も多く、次いで建設機械、乗用車・ トラックなどの輸送用機械などが上位を占めている。建設機械は新しい首都、ネーピード ーの開発需要や宝石類の採掘機械需要が寄与している。また乗用車は2011 年 9 月に始ま った中古車輸入の規制緩和が大きく影響している。その大半が日本からの輸入と見られて いる。日本側の統計によると、2010 年でミャンマーへの輸出車は 4,534 台であったが、 2011 年で 16,858 台、2012 年は 93,177 万台まで増加した。 国別・地域別では、中国が150 億 3,840 万チャットと最も大きく、2007 年以来トップ を守っている。以下、シンガポール、タイ、日本、韓国の中国を含めた5 か国で輸入額全 体の75%程度となっている。注目すべき点としてアメリカからの輸入が前年度比 4.4 倍を 記録したことがある。政府及びミャンマー航空などが天然ガス採掘機械や航空部品等を輸 入したことが要因となっている。 (2)ミャンマーにおける縫製業と委託加工貿易 ミャンマーでは縫製品が主要な輸出品目であることは既に触れた。ここでミャンマーの 縫製業の輸出に関する特徴である、CMP Business と呼ばれる委託加工貿易について紹介 しておきたい。

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17 / 34 CMP とは、「裁断(C:カッティング、加工(M:メイキング)、梱包(P:パッキング)」 を意味している。これは自ら製造しているものの、委託を受けて加工しているという形態 をとるものである。対価は委託加工賃(CMP Charge)として受け取る。商品を製造して 自ら販売をする形態とは異なる。CMP 型で企業登記することで、原材料の輸入免税が受 けられる特典は非常に大きい。原則として完成品はすべて輸出することになる。日本の企 業はこの仕組みを活用してきている。加工料に原材料費を含まないため、原油高などによ るコスト上昇分は発注側が全て被るリスクはあるものの、自ら投資した場合に比べリスク は限定的である。 縫製品以外にもデジカメのレンズ工場、医療用針工場など付加価値の高いCMP ビジネ スも見られる。CMP ビジネスにおける輸出額は、2010、2011 年に急増している。これは 中国での製造委託をミャンマーに移転する事例が多く、特に日本や韓国向け輸出が増加し ている。 (3)日本・ミャンマー貿易の現状と推移 日本とミャンマーへ貿易統計をドル換算(出所:日本貿易振興機構資料)すると、2011 年(暦年)のミャンマーへの輸出は、対前年比 92.9%増で 5 億 971 万ドル、ミャンマーから の輸入は同52.5%増の 5 億 9,305 万ドルと共に大幅に増加している。 輸出を品目別で見ると乗用車やトラックなど輸送用機械が最大で全体の43%を占め、金 額は2 億 1,912 万ドルで前年比の4倍に跳ね上がっている。中古自動車については、2011 年9月に政府が買い替えを奨励し、輸入ライセンスの発給を増やすなどの規制緩和を行い 前年比7倍と急激に伸びている。次いで建設機械などが前年比25.5%増で 1 億 4,672 万ド ルとなっている。建設機械の多くは翡翠など鉱山開発用が占めている。日本からミャンマ ーへの輸出は、輸送用機械類と建設機械類で全体の71.8%と大宗を占めている。 日本のミャンマーからの輸入は、1位が縫製品(布はく類)で、3 億 4,236 万ドルと前年比 87.1%と大幅な増加を見ている。続いて靴・履物が 8,883 万ドルとなっている。これらの 労働集約型産業(衣類と履物)の軽工業品で対日輸出の70%以上を占めている。その他で は、エビなどの魚介類(6,381 万ドル)や世界的な主産地となっているゴマ(2,920 万ドル) や豆類(2,231 万ドル)などについても輸入額が堅調に伸びている。 注目すべき点として、2011 年にはニット製品が 609 万ドルとなった。これは前年比約 13 倍と大幅に増加している。これまでポロシャツなどのニット製品は、特恵関税の条件(一 国内での2工程作業)をミャンマーが満たすことができず、ほとんど生産されていなかっ た。しかしながらASEAN 包括的経済連携協定を利用し、ASEAN 域内で生産されるニッ ト生地をミャンマーで加工することによって、(域内での2工程作業)と認められる免税措 置を受けることができる仕組みを活用したものである。ミャンマー縫製業の新たな展開が 期待できるものと考えられる。

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18 / 34 6.ミャンマーの優位性 ミャンマーとの貿易や投資を考えた場合のメリットや周辺諸国と比較したミャンマー の優位性について考えてみたい。 (1)地理的優位性 先述のように東南アジアの中心に位置し、中国とインドという経済大国と国境を接して いる。また東南アジアの「ハブ」的な機能を果たしてきているタイとも隣接している。東 南アジアの交通の要衝に位置し、今後の東西経済回廊や南部経済回廊(詳細P5)の整備に よりその優位性は一段と高まる。 (2)豊富な天然資源 ミャンマー最大の輸出産業である天然ガスを始め、銅、ニッケル等の天然資源, 翡翠な どの宝石類もが豊富に採取できる。(詳細はP31 )これらの関連産業に対して事業参入の 機会が期待される。 (3)広大で肥沃な国土と豊かな農林漁業産品 先述のようにミャンマーの国土は農業に適している。乾燥している山岳地域が多い北部 では、ゴマや果物の生産、またヤンゴン周辺などの南部では、デルタ地域も多く稲作が盛 んである。農業だけでなくチーク材などの林業製品やエビなどの漁業関連も輸出競争力が 強い。 (4)旺盛なインフラ需要 ミャンマーの課題は電力、港湾、道路などインフラ整備が遅れていることである。また 通信や物流、金融といったビジネスインフラも未整備である。そのため政府は積極的に外 資を導入し、強い意思で施策を展開している。インフラ需要に向け日本企業のビジネスチ ャンスは広がっている。 (5)ビジネスは英語で ミャンマーはイギリスの植民地であったという歴史的経緯もあり、英語教育は根付いて いる。英語教育は、幼稚園から始まり、高校の授業の一部は英語で行われている。このよ うな社会であるから大学卒のミャンマー人であれば、ほぼ英語でコミュニケーションがで きる。今回の視察においても多くの中小企業経営者と会ったが、ほぼ全員と英語で会話が できた。ビルマ語はほぼ必要としなかった覚えがある。 また教育制度として義務教育はないが、小学校の進学率は93%と高く、教育レベルは東 南アジアでも相対的に高い方に入る。 (6)良好な対日感情と仏教徒の価値観 ミャンマー人は「東南アジアで最も日本人に似た気質」と言われるそうだ。事実、今回 の視察旅行中に会ったミャンマー人、ホテルの職員、通訳や現地ガイドやレストランの店

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19 / 34 主なども含めて気のせいか何となく昔からの知り合いのような感じを受けた。また現地の 日系縫製工場の責任者は、「ミャンマーに来る前はインドネシアに赴任していたが、ここは イスラム教の決まりを気にしないで済むので、それだけでも気が楽です。」と言っていた。 日本人と同じ仏教徒が多いというのも何となく落ち着ける要因であろうか。 (7)内需拡大による消費マーケットの拡大 ミャンマーについては、“安価な労働力”について日本でも話題となっているが、今回 の視察を経て、消費市場としてのミャンマーも注目すべきだと感じた。依然としてパパ ママ・ストアが多いが、ヤンゴン中心部には大型ショッピングモールが開業し始めている。 何より一人当たり名目GDP1,000 ドル未満でありながら、ヤンゴン市内は日本車があふれ ており、公表以上に購買力が感じられた。都市部では、国際社会への復帰・輸入品の流入 増による消費の刺激、中間層の勃興などによって耐久財消費も広がってきている。 総人口6,000 万人は ASEAN 後発国であるカンボジアやラオスと比較しても圧倒的な存 在感がある。この消費マーケットは日本企業のみならず大いに魅力的である。 一方でやや慎重に見る意見もある。「6,000 万人の国民が一律に消費マーケットに登場は していない。多く見ても10%程度、ヤンゴン市民 600 万人の中でも 60 万人に限られる。」 (ジェトロ・ヤンゴン事務所)という考えである。図7 からも、この慎重な考えも的外れ ではないことは推察できる。いずれにしても今後の潜在性は大いに期待できるが、日本で 報道されている内容よりも冷静に見る目も必要である。 図7 消費市場としてのミャンマー 各所得層ボリューム (出所:2012 年 8 月 24 日付「ヤンゴン市民生活最新事情とマーケットポテンシャル」 株式会社日経リサーチ) (8)安価な労働力 ミャンマー経済の魅力は、その安価な労働力である。最近は高くなっているとは言え ASEAN 最低レベルの賃金水準は日本企業にとって大きな魅力である。識字率も 90%以上

Upper

2%

Middle

Upper 12%

Middle 25%

Middle Lower 29%

Lower 32%

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20 / 34 と高く、勤勉で手先の器用な労働力として評価されている。 また温和な国民性から、他のアジア諸国と比べ労務管理がしやすい。2011 年 10 月に制 定された労働組織法に基づきスト権が認められ緩やかではあるがストライキが多発したが、 今回の視察では、その状況もかなり落ち着いているとの話であった。 表 9,10 はミャンマーの民間会社が調べたミャンマーの最近の縫製業と貿易業の役職別 賃金支払額を明らかにしたものである。 現地通貨であるチャットで表示での数値の約 10 分の1 が円表示として考えていただければ大凡の賃金相場を把握することができる。 (例)縫製業Production Worker(新人)の最低賃金 35,000 チャット≒3,500 円となる 表9 ミャンマーの縫製業役職別賃金支払額(単位:チャット) 表 10 ミャンマーの貿易業役職別賃金支払額(単位:チャット) (出所:ミャンマー民間調査会社作成資料) 肩書き 縫製業 最 低 中 間 最 高 Manager(Local Staff) 120,000 200,000 300,000 Accountant 70,000 100,000 150,000 Production Supervisor 70,000 100,000 200,000 Production Worker(経験2年) 55,000 65,000 80,000 Production Worker(経験1年) 50,000 60,000 70,000 Production Worker(新人) 35,000 40,000 45,000 Office Staff 45,000 60,000 80,000 Security Guard 40,000 50,000 70,000 Cleaner 35,000 45,000 65,000 肩書き 貿易業 最 低 中 間 最 高 Director 320,000 500,000 1,800,000 General Manager 150,000 400,000 1,400,000 Manager 120,000 300,000 800,000 Accountant 80,000 150,000 400,000 Secretary 100,000 150,000 320,000 Office Staff 60,000 85,000 250,000 Sales Staff 65,000 80,000 200,000 Driver 80,000 100,000 250,000 Security Guard 45,000 75,000 150,000 General Worker 45,000 60,000 90,000 Cleaner 35,000 42,000 80,000

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21 / 34 7.ミャンマーのリスク(課題) ミャンマーの優位性は非常に大きいことが分かったが、一方リスクもそれなりに存在し ている。ここではそれらを整理してみたい。 (1)インフラの未整備 本稿で何度も触れており、ここでは簡単に書くが、電力、交通インフラ、通信、上下水、 工業団地など社会インフラが極めて未整備、脆弱である。 (2)電力供給 社会インフラの中でも停電、電力不足が極めて大きなリスク要因だ。乾季(10 から2月) では水力発電の水不足となる。実際に今回、訪問した現地工場でも、「電力供給は1日たっ た5時間しかない」との話であった。ミャンマーでは自家発電装置を必ず置かなければな らない。自家発電用の燃料コストもばかにならない。 工業団地内の道路 ヤンゴン市内を走る鉄道 (3)未発達な金融システム ミャンマーではまだまだ“現金主義”である。写真のようにヤンゴン市内の銀行ではお 札が溢れていた。またホテルなど一部を除いてクレジットカードは使えない。例え使えた としても数%程度の手数料も取られる。ミャンマーへの送金規制やミャンマーからの送金 規制など総合的に金融システムの整備には、かなり時間がかかりそうだ。 お札が積まれたヤンゴン市内の銀行 袋にお札を詰め込んで来た預金者

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22 / 34 (4) 対日貿易での物流 ヤンゴンへ大型コンテナ船が入港できない。ヤンゴン港は河川港であるため、同港に入 るためには貨物をシンガポールでフィーダー船に積み替える必要がる。これらの作業日数 を含めたヤンゴンから日本(東京港)まで 21 日以上のリードタイムを見ていなければな らない。そのため短期納入が必要なアイテムの生産が難しい状況にある。 (5)各種法整備の遅れ 新外国投資法が2012 年 11 月から発効したものの、輸出入手続きに関連した実務や経済 特区に関する法整備が遅れている。また税法の不透明さも拭いきれていない。 (6)民政の進展と2015 年総選挙の行方 民政へ移行して2年が過ぎた。2012 年 4 月補欠選挙でアウン・サン・スー・チー女史 が率いる国民民主連盟(NLD)の圧勝によって民主化が大きく前進しているように日本では 報道されている。しかしながら現地では必ずしもそうでないような話も聞いた。「かつての 軍部は表面には出ていないが、その既得権益や利益構造は全く変わっていない。むしろ民 政化によって後ろに隠れてしまったので事態は複雑になった。」(現地企業経営者) ジェトロ・ヤンゴン事務所では、「2015 年の総選挙は NLD が大勝するだろう。」と言っ ている。しかし現憲法下では、軍での経験がなく、外国籍の肉親がいるアウン・サン・ス ー・チー女史は大統領になる資格はない。政権与党の連邦団結発展党(USPD)は、総選 挙前に選挙制度を変え、議席確保に走るとも予測されている。 仮に総選挙後に国民民主連盟(NLD)が政権を取ったとしても、その政権担当能力を疑問 視する人達も少なくないのが現実だ。 2015 年の総選挙がミャンマー民主化の証となると同時に、新たな混乱のトリガーになる リスクは否定できない。 アウン・サン・スー・チー女史 の自宅

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23 / 34 8.外国投資の環境整備 外国投資法改正の動向を簡単に触れておきたい。テイン・セイン大統領は、経済政策の 柱として積極的な外国資本の導入を念頭に2012 年 11 月に新外国投資法を成立させた。政 権が進める「改革への3本柱(民主化勢力との和解、少数民族との和解、経済成長の為の 外資導入)」の一つのとして政策を進めている。 図8 外国投資法改正までの道のり (出所:「ミャンマーの産業と企業」(JETRO 海外調査部荒木義忠氏資料)) 今回の外国投資法改正のポイントは、以下の通りである。 ポイント①~最低資本金に関する数値は削除~ 旧法では最低資本金50 万ドルと規制されていた、2012 年8月に 500 万ドルと可決され たが、経済発展を目指す規制緩和に逆高するとして数値は削除された。 ポイント②~優遇税制の拡大~ 旧法では事業開始から3年間、所得税が免税とされていた。新法では5年間に延長され た。ただ免税期間のスタートが事業開始である点に留意が必要(設立間もない一定の期間 に利益が出なければ十分な恩典を受けることができない)また利益を1年以内に再投資す る際の所得税免税や3年間の原材料の輸入関税の免税が明記されている。(ミャンマー投資 委員会の承認事項であるため注意) ポイント③~施行細則に関する規定~ 新外国投資法成立11 月2日から 90 日以内に施行細則が公布(1 月に公布された)

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24 / 34 表11 新外国投資法の特徴 最低資本金 ミャンマー投資委員会が投資事業や外国企業の業態から政府の承認 を得て決定 100%独資による投資 ミャンマー投資委員会が認める分野で可能 合弁による投資 旧法の外資35%以上という規制は廃止された。35%以下でも可能。 (出資比率は個別に企業同士で決定する) 出資比率上限制限につ いても明示なし。ただし規制分野がある。 大型投資の連邦議会へ の報告 国及び国民に甚大な影響を与える安全保障、経済、環境、社会分 野の大型投資については、ミャンマー投資委員会から連邦議会に 報告がある。 土地利用 国有地及び国民が使用権を持つ土地の利用ができる。 期間:当初50 年+10 年+10 年(計 70 年) 外国送金 外為ディーラーライセンスを取得した銀行を利用すれば、送金通 貨の為替レートに応じてミャンマー投資委員会の認可を得たうえ で海外送金が可能 法人所得税の免税期間 5 年間 雇用義務 会社設立後、2 年以内にミャンマー人労働者数を最低 25%、次の 2 年以内に 50%、次の 22 年以内に 75%にしなければならない。 未熟練労働者の雇用をミャンマー人に限定。 保証 契約期間内に国有化することはない。 (出所:ジェトロ・ヤンゴン事務所資料をもとに当研究所作成) 表12 ミャンマーへの国別外国直接投資額 ミャンマーへの外国投資額について見 ると中国とタイの2国が飛びぬけて大き いことがわかる。中国は軍事政権下での 大型投資案件を反映した数字となってい る。日本からの投資は主に 1995 年以降 ミャンマーの安価な労働力を背景として 増加した。しかし間もなく 97 年のアジ ア通貨危機やミャンマーの外貨送金制限 の強化を受けて低迷していた。今後の直 接投資額の増加が期待される。 (出所:ミャンマー中央統計局) 注:ミャンマー投資委員会(Myanmar Investment Commission)とは、国家計 画・経済開発省の投資・企業管理局によ り該当する投資関係閣僚を招集して組織 されている。新外国投資法については、NGO や民間からのメンバーを加える予定。 順位 国名 投資件数 投資額計 (US 百万$) 1 中国 35 13,961 2 タイ 62 10,367 3 香港 38 6,308 4 韓国 49 2,944 5 イギリス 51 1,961 6 シンガポール 71 1,741 7 マレーシア 41 1,027 8 フランス 3 470 9 インド 8 293 10 アメリカ 15 244 13 日本 24 223

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25 / 34 9.期待されるティラワ工業団地 ミャンマーの課題は社会インフラ整備と同様に製造業の進出が期待できる工業団地が極 めて限定的であることだ。現時点では皆無と言っても過言ではない。20 数か所の工業団地 はあるが、給排水、通信、団地管理サービスなど国際標準を充たす工業団地は、かつて三 井物産が中心となって整備したミンガラドン工業団地のみだ。しかしながらここは完売さ れており、新たな進出先はないのが現状である。 そこで今、ティラワ経済特区開発案件となる総合開発プロジェクトの中でティラワ工業 団地に期待が集まっている。この巨大プロジェクトは日本が担うことに基本合意され、 2012 年4月にマスタープラン策定に係る覚書が締結された。日本・ミャンマー両政府が推 進している重点プロジェクトである。大手総合商社を中心とする日本企業連合や国際協力 機構(JICA)を中心に日本政府が、電力や上下水道などのインフラ整備する計画となって いる。 ティラワ経済特区構想 ヤンゴンの南東部、中心市街地から約23 ㎞に位置し、人口 600 万人のヒンターランド 的な存在となる。開発面積は 2,400ha と実に東京ドーム 500 個分の広さで、本稿で触れ る工業団地の他に、商業施設、住宅開発等を含む総合開発事業である。ティラワ港とも隣 接していることから国際物流の基点となる潜在能力は大いに期待されており雇用創出 20 万人と見込んでいる。全体の2,400ha の中で日本の企業連合は 2015 年までに第1段階と して440ha 程度の開発を目指している。ミャンマー政府当局は、この第1段階での開発で、 約10 万人の雇用創出が可能と考えている。 ティラワ開発の強みは、ヤンゴンに近く、国際港、道路といったある程度のインフラが 既に実働している点にある。しかしながらアンダマン海に注ぐヤンゴン川の河口から 16 ㎞北にある河川港のティラワ港は全長 1,000m、5バースある。深海港と言っても水深は 10m であるので大型のコンテナ船は入港できない。しかも河口は浅瀬があって、満潮時し か出入港でしかない。フィーダー(近距離)航路しかなく、シンガポールなどのハブ港で コンテナを積み替える必要がある。 近年、日本からの中古車輸入が合法的に認められ、価格も大幅に低下したため、港の隣 接地には多数の輸入された日本車が見受けられる。 現時点では、ミャンマーへの日本企業進出に関する候補地としては、このティラワ工業 団地が最も大きな可能性を持っている。ミャンマー政府も次期総選挙の 2015 年までには 何らかの実績を上げることを目指しており、その意味でも第1段階での開発に期待がされ ている。

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26 / 34 図9 ティラワ工業団地の所在地

(出所:三菱商事ヤンゴン駐在員事務所)

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27 / 34 10.ミャンマー(ヤンゴン)の社会情勢 (1)ミャンマー、来て、見て、知って~ヤンゴンの街かど~ ヤンゴン滞在中に経験したことを中心にエッセイ風にまとめてみたい。 ①携帯電話~メールが通じない~ 日本と連絡を取る場合の必需品、携帯電話については通話は何とか通じるもののメール はdocomo, AU, ソフトバンク共に利用できない。 ②クレジットカードは使えない クレジットカードはホテルなどを除いて使えない。ただ利用できるホテルなどでも数% の利用手数料を取られるので要注意だ。 ③タクシー料金は事前交渉 ホテル等からタクシーを利用する場合、ドライバーに行き先を告げ、乗る前に料金交渉 する。料金はヤンゴン中心部なら概ね 10 ドル以内で済む。ドル紙幣が利用できる。チッ プはいらない。 ④意外と使えるUSドル~但し新札を用意~ 日本円は使えないので、ドルを持参し着いたら空港やホテル等でドルから現地通貨チャ ットへ両替する。ただタクシー同様、案外ドルがそのまま使える場合が多かった。注意と して持っていくドル紙幣は“新札”をお勧めする。古いドル紙幣は受け取りを拒否される ケースもあるそうだ。 ⑤オフィス賃料の高騰 再開発が進むヤンゴン市内だが、各国からの進出意欲に対してオフィスやホテル、外国 人向けのマンションなど建設が遅れている。現地の企業経営者の話では、ヤンゴン市内の オフィスの賃貸料が、2010 年1㎡=12 ドルだったものが、2013 年 1 ㎡=70 ドルまで跳 ね上がっている。ヤンゴンからネーピードーへ首都移転し、各省庁もヤンゴンから移転し た。省庁の跡地の再開発が相次いでいる。 ⑥マック、スタバにコンビニがない 日本では当たり前のマクドナルド、スターバックス、ケンタッキー・フライドチキンが 見当たらない。それに日本では当然の街の風景であるコンビニのサインも全く見られない。 聞けばコーラの輸入が正式に認可されたのが2012 年9月からと、まだ最近の話だ。 ⑦バイクが走らない街 東南アジアの大都市の映像を見ると、大量のバイクが大通りを占領している姿がよく見 られる。これが各地の交通渋滞を引き起こす大きな要因とも言われている。しかし当たり 前のバイクがヤンゴン市内では全く見られない。理由は・・・かつて軍事政権が「バイク

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28 / 34 は反体制派に機動力を与える」ということでヤンゴン市内の乗り入れを禁止したからだそ うだ。ちなみに郊外部やヤンゴン川の対岸地区ではバイクが住民の貴重な移動手段となっ ている光景を見た。 ⑧クルマは右ハンドルで右側通行 ヤンゴン市内を走る乗用車、バス、トラック等は大半が日本車の中古車である。日本で 使われていた時の企業名なども消さずにそのまま使われているものも多い。であるから当 然、クルマは右ハンドルとなる。しかし左側通行ではなく右側通行なのである。これまで の右ハンドルの場合は左側通行、左ハンドルの場合は右側通行というのが当り前と思って いたが・・・ ⑨店先の自家発電機 ミャンマーは水力発電が主流であるため、乾季のこの時期は水量不足となり、十分な電 気が来ないのが当り前。聞けば、この時期電気が供給されるのは、1日5時間程度で残り の時間は自家発電機を使用して賄うほか手立てはない。商店や町工場では、軒先に自家発 電機が当然のごとく鎮座している。 映画館前の自家発電装置 (2)ヤンゴンの駐在員生活 ヤンゴンの在留邦人は700 名程度で、日本人会のメンバーは 450 名程度で組織されてい る。日本人学校もあり、幼稚園から中学部まで約70 名が学んでいるそうだ。1964 年 6 月 建てられたヤンゴン日本人学校はバンコクに次いで世界2番目に古い日本人学校である。 日本食は限られているがヤンゴン市内でも手に入る。しかしながらバンコクへ日本食の 買出しツアーにも行くことがある。病院は診断程度で、手術の場合はバンコクなどへ・・・ ビジネスマンの余暇の楽しみであるゴルフは、1ラウンドが約3,000 円程度で出来るそ うだ。(以上、ジェトロ・ヤンゴン事務所)

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朝、托鉢をする少年僧 すっきりとした喉越しのミャンマービール

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11.日本企業に求められるもの投資事業 ~ヤンゴン商工会議所連合会のプレゼンから

今回の視察団では、ヤンゴン商工会議所連合会事務局長 U Aung Khin Myint 氏の 「Investment Environment in Myanmar」と題しての講演を聞いた。ここでは同氏の講 演からミャンマーで日本からの投資について何を期待しているのかを紹介したい。

U Aung Khin Myint 事務局長 50 人以上の現地中小企業経営者も参加

(1)ミャンマーが期待する中小企業向けの投資事業 図10 ミャンマーの外国投資の優先順位

(出所:U Aung Khin Myint 氏の講演資料)

Indutries with

simple technology

Value added finished

goods productions

Production of minerals

(Natural Resources)

Establishment of IT and

Telecommunication

industries

Investment

priority

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ヤンゴン商工会議所連合会事務局長のU Aung Khin Myint 氏は、講演の冒頭において 「投資の優先順位」として4つのパターンを紹介した。ミャンマーの SME(Small and Medium Enterprise、中小企業)を育成する上で彼らが日本企業など外国資本に期待す るところである。 前項の図 10 に書かれているように、1.単純な技術の産業、2.付加価値のある最終 消費財、3.天然資源の生産、4.IT関連産業の設立 の4つであるとしている。講演 の後に意見交換した中で、「ミャンマーは中小企業の成長なくして、経済の発展はあり得な い。」と熱く語っていた。また「経団連などの財界の使節団が話す、電力や港湾整備などへ の支援はミャンマーの中小企業にとってはほとんど関係ない話である。」とも・・・ (2)求めるのは日本の中小企業 彼らが求めるビジネスパートナーは、“技術を持った日本の中小企業”なのである。表 12 が示すようにミャンマーの製造業の大半が従業員 50 人未満、資本金 100 万チャット(約 10 万円)未満の小企業である。それらの企業を対象にかれらが受け入れられるレベルの技 術、また製品にできるだけ高い付加価値を付けられる技術や設備を日本の中小企業に期待 している。 表13 ミャンマーの製造業の規模別内訳 (出所:2009 年 9 月 29 日 ミャンマー産業開発作業委員会資料) 注)ミャンマーでの企業規模の定義:大企業(従業員 100 人以上、資本金 500 万チャット以上)、中企業(従業員 50 人以上 100 人未満、資本金 100 万 ~500 万チャット未満)、小企業(従業員 50 人未満、資本金 100 万未満) 業 種 企業規模 合計 占有率 (%) 大企業 中企業 小企業 1 食品・飲料 1,867 3,931 23,053 28,851 65.89 2 建設資材 446 499 2,117 3,062 7.00 3 衣料 275 370 1,256 1,901 4.34 4 石油製品 174 310 1,200 1,684 3.85 5 日用品 267 299 452 1,018 2.32 6 家庭用品 113 69 125 307 0.70 7 印刷・出版 18 69 190 277 0.63 8 工業用原材料 92 254 407 753 1.72 9 農業機械 13 27 45 85 0.19 10 一般機械 12 82 170 264 0.60 11 輸送用機械 139 12 78 229 0.52 12 電気機械 29 10 21 60 0.14 13 その他 165 809 4,324 5,298 12.10 合 計 3,610 6,741 33,438 43,789 100.00

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またU Aung Khin Myint 氏との話の中で、ミャンマーでの SME 育成事業に関する“不 安”も見えた。始まったばかりの SEM 育成事業がなかなか進展しないことと、ASEAN 統合でミャンマーの中小企業がどのような影響を受けるのか予想ができないことである。

(3)日本企業へ期待する産業分野

表14 U Aung Khin Myint 氏が推薦するミャンマー投資と産業の状況

業 種 現 状 林業 国土の50%が山林、世界のチーク材市場の 75%を占める 全輸出の8%を占める 竹、籐などに潜在成長性あり オイル・天然ガ ス 天然ガス埋蔵量2,512 兆㎥、石油埋蔵量 320 億バレル 最大の輸出品目(25 億ドル)、ミャンマーでの投資額の 40%を占める 天然資源 西部:ニッケル、クロム 中央地帯:水晶、銅、金、石炭、天然ガス 東部高地:鉛、亜鉛、銅、銀、タングステン、アンチモン、鉄 翡翠は輸出品目で第2位、金額は22 億ドル 観光業 2011~12 年の観光客数が対前年比 30%増加、タイ人観光客が全体の 22.8%を占めている 漁業 棚面積は23 万㎢、海岸線は 3,000 ㎞、産出額 390 万t(2010) 外国投資は25 企業で合計 3 億 2,400 万ドル、輸出額 3 億 8,000 万ドル 農業 農地面積12 万㎢、農業関連は GDP の 35.6%、 外国投資は 7 企業で 合計1 億 7,300 万ドル

(出所:U Aung Khin Myint 氏の講演資料より当研究所作成)

講演の後半部分でミャンマーでの外国投資が有望な産業を紹介した。表 14 に書かれた 6業種である。日本でも既に紹介されている業種が多いものの、林業と観光業も大いに将 来性があるとの話であった。 その他、ミャンマー製造業の中心となっている縫製や製靴、おもちゃなどの労働集約型 産業はまだまだ伸びシロが大きいということ。現状は、“ほぼそのまま”輸出せざるを得な い農業製品に加工し、付加価値を加えた輸出産業の将来性にも期待を寄せていた。 講演の後、同氏は、一中小企業経営者(製菓業を経営)としてアセアン経済統合への不安 を隠さなかった。「アセアン統合によって隣国のタイなどの資本によって、ミャンマーの圧 倒的に多い中小企業が大きな影響を受ける(淘汰される)のではないか」ということであ る。これもあながち間違いではあるとは思えない。 しかしながら、ミャンマー経済をマクロで見れば、旺盛な輸出市場としてのアセアンの 成長をより簡単に取り込むことができることも、もう一つの側面であろう。隣国タイはア セアンの中核国であり、中間所得層は拡大を続けている。ミャンマーの企業がこれらをタ ーゲットにした安価な消費財を提供できるようになれば、ミャンマー経済成長への大きな 力になろう。

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33 / 34 12.工場見学から 最後に視察で訪れた現地の製造業の現場の中から2社について紹介したい。 (1)現地アイスクリーム工場 ヤンゴン中心部から北へ 30 分ほど行ったところにあるアイスクリーム工場である。約 40 年前に創業した、現在は 80 人を従業員を雇い、1 日 10 万本のアイスキャンディを作り 国内のスーパー等に販売している。製造しているアイスキャンディの価格は1本100~300 チャット(約10~30 円)程度だそうだ。製造機械は中国製で 2 年前に 100 万ドル(約 9,000 万円)で購入した。日本製の半額の値段であり、また輸送が便利だったため中国製に決めた そうだ。この日は訪問時が停電中だったため機械は動かしていなかった。昔ながら薪を使 って牛乳を煮詰めていた。 中国製のアイスクリーム製造装置 薪で牛乳を煮詰める従業員 (2)日系縫製工場 縫製工場全景 商品のサンプル 日系のワイシャツ工場である。紳士服量販店のアオキやはるやま等へ納品するワイシャ ツを製造している。日本での定価が 4,000~5,000 円程度。中国にも進出していたが、チ ャイナ・プラス・ワンということでミャンマーに進出。350 人の若い女性が、それぞれの 担当に別れて私語もなく黙々と作業をこなしていた。従業員は全員、社員寮で生活してい る。 やはり電力不足は深刻で、今は乾季のため電気は1 日 5 時間しか来ない。自家発電は 1 日でドラム缶3 本の燃料を使うとの話であった。

表 14              U    Aung Khin Myint 氏が推薦するミャンマー投資と産業の状況

参照

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