身柄拘束被疑者の取調べ受忍義務について (福田雅 章教授退職記念号)
著者名(日) 三神 正一郎
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 65
ページ 113‑136
発行年 2010‑03‑10
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000374/
論
身
説柄 拘 束 被 疑 者 の 取 調 べ 受 忍 義 務 に つ い て
三 神 正 一 郎
目 次 はじ めに 第一 節 取調 べ受 忍義 務否 定説 と捜 査実 務 第二 節 刑訴 法一 九八 条一 項但 書と 取調 べ受 忍義 務否 定説 第三 節 取調 べ受 忍義 務と 包括 的黙 秘権 まと め
はじ めに 逮捕
・勾 留さ れた 被疑 者は 取調 べに 応じ る義 務が ある のか
︒い わゆ る﹁ 取調 べ受 忍義 務﹂ につ き︑ 通説 がこ れを 否定 する 一方
︑実 務で は︑ 取調 べ受 忍義 務を 当然 のこ とと して 認め てい る︒ 学説 と実 務と の間 の︑ およ そ正 反対 と
も言 える 認識 の違 いは
︑ど こか ら来 るの か︒ この 疑問 の答 を求 める には
︑ま ず︑ 平野 博士 が提 唱し た弾 劾的 捜査 観 を検 討す るこ とか ら始 めな けれ ばな らな い︒ 平野 博士 は︑ その 著書 にお いて
︑﹁ 捜査 の構 造に つい ては
︑全 く対 照的 な考 があ る︒ 一つ は︑ 糺問 的捜 査観 とも いう べき もの で︑ 他は
︑弾 劾的 捜査 観と もい うべ きも ので ある
﹂と 述べ
︑糺 問的 捜査 観と 弾劾 的捜 査観 との 対比 に よっ て︑ 捜査 構造 論を 展開
( )
した
︒
平野 博士 が提 唱し た弾 劾的 捜査 観か ら︑ まず は︑ 令状 が命 令状 であ ると いう 帰結 が論 理的 に導 き出 さ
( )
れた
︒さ ら
には
︑被 疑者 の逮 捕・ 勾留 と取 調べ との 関係
︵取 調べ 受忍 義務 の否 定︶ が論 理的 に明 らか にさ れる
︒﹁ 糺問 的捜 査 観で は︑ 捜査 は被 疑者 の取 調の ため の手 続で ある から
︑供 述を 直接 に強 要す るこ とは でき ない にし ても
︑そ れ以 外 の強 制は
︑こ の取 調を 目的 とし て行 われ る﹂
︒逮 捕・ 勾留 はま さに 取調 べを 目的 とし て行 われ る強 制だ とい うこ と にな る︒ とこ ろが
︑﹁ 弾劾 的捜 査観 から すれ ば︑ 逮捕
・勾 留は
︑将 来公 判廷 へ出 頭さ せる ため であ って
︑取 調の た めで は
( )
ない
﹂︒ 平野 博士 は︑ この よう に述 べて
︑弾 劾的 捜査 観か ら取 調べ 受忍 義務 を導 き出 した ので ある
︒
弾劾 的捜 査観 が出 てき た背 景に は︑ どの よう な思 潮が あっ たの か︒ この 点に つい ては
︑松 尾教 授が
︑適 切に も次 のよ うに まと めて いる
︒﹁ 現行 刑事 訴訟 法が 制定 され たと き︑ その 特色 がた だち に﹃ 当事 者主 義化
﹄と して 理解 さ れ︑ 職権 主義 と当 事者 主義 とい う一 対の 概念 が脚 光を 浴び た﹂
︒﹁ しか し︑ この よう な態 度は
︑間 もな くそ の限 界を 見出 すこ とに なる
︒そ れは 職権 主義 対当 事者 主義 とい う考 え方 自体 が︑ 公訴 提起 以後 の手 続段 階に 主眼 を置
︹い て︺
⁝⁝ 論ず るも のに すぎ なか った ため であ る︒ これ では
︑起 訴前 の段 階︑ とく に︑ 捜査 に対 する 配慮 は希 薄化 し てし まう
﹂︒ そこ で︑
﹁も っと 直接 に︑ 捜査 その もの の支 配原 理を 探求 しよ うと する 努力
﹂が なさ れ︑ その 努力 が結
実し たも の︑ これ がま さに 弾劾 的捜 査観 だっ たの で
( )
ある
︒
思う に︑ 被疑 者の 取調 べは
﹁密 室﹂ で行 われ
︑い わば 闇の 領域 にあ った と評 して も︑ 必ず しも 過言 では なか ろう
︒ 弾劾 的捜 査観 の功 績は
︑こ のよ うな 取調 べの 過程 を白 日の 下に さら すた めの 論理 的枠 組み を提 供し たこ とに ある
︒ 捜査 の段 階こ とに 被疑 者の 取調 べは
︑取 調べ の主 体︵ 捜査 官︶ と取 調べ の客 体︵ 被疑 者︶ とが 織り なす 二面 関係
︑ すな わち 糺問 的な 関係 にあ る︒ 弾劾 的捜 査観 とは
︑判 断者
︵裁 判官
︶を 加え た三 面関 係に よる 弾劾 的な 関係 とし て 把握 しよ うと いう 試み であ って
︑ひ とつ の論 理モ デル だと 言え よう
︒も っと も︑ その 原理 を打 ち出 した 功績 は高 く 評価 しな けれ ばな らな いと して も︑ 弾劾 的捜 査観 がこ のよ うな 論理 モデ ルで ある 以上
︑糺 問的 捜査 観と 弾劾 的捜 査 観と の﹁ 対比 が理 想型
⁝⁝ ない し﹃ モデ ル論
﹄だ とい うこ とに 留意 する 必要 が
( )
ある
﹂︒ 平野 博士 自身
︑﹁ もち ろん
⁝⁝
︑こ こに 述べ たの は︑ いわ ば考 え方 にす ぎな いの であ って
︑こ うい う前 提を とっ たか ら︑ 形式 論理 に従 って す べて の点 で一 貫し た結 論が 出る べき だ︑ とい うほ ど機 械的 な原 理で は
( )
ない
﹂と 述べ て︑ この 点を 認め てい る︒
弾劾 的捜 査観 の存 在意 義を 上述 のよ うな 趣旨 で把 握し たう えで
︑以 下で は︑ 弾劾 的捜 査観 から 派生 する 原理 であ る取 調べ 受忍 義務 につ いて 考察 し︑ いわ ゆる 取調 べ受 忍義 務を 否定 する 学説
︵以 下︑
﹁取 調べ 受忍 義務 否定 説﹂ と 呼ぶ
︶を 批判 的に 検討 して ゆき たい
︒ 第一
節 取調 べ受 忍義 務否 定説 と捜 査実 務 弾劾
的捜 査観 に立 脚す ると
︑将 来の 公判 を維 持す るこ と︵ 被告 人の 出廷 確保 と証 拠の 保全
︶こ そが
︑被 疑者 の身
柄を 拘束
︵逮 捕・ 勾留
︶す る目 的だ とい う理 解に 連な る︒ この よう な理 解を 前提 にす れば
︑被 疑者 の逮 捕・ 勾留 の 目的 は︑ あく まで 逃亡 と罪 証隠 滅の 防止 であ るか ら︑ 捜査 機関 は︑ 被疑 者の 身柄 拘束 を利 用し
︑被 疑者 を取 り調 べ るこ とは でき ない
︑と いう 帰結 が論 理的 に導 き出 され る︒ この よう な思 考に そっ て︑ 取調 べ受 忍義 務否 定説 が主 張 され てき た︒ 取調 べ受 忍義 務否 定説 は今 日の 通説 と言 える が︑ しか し︑ 平野 博士 が弾 劾的 捜査 観を 提唱 した 時点 では
︑少 数説 に過 ぎな かっ たし
︑今 日で も︑ 捜査 実務 では 受け 入れ られ てい ない
︒捜 査実 務が 取調 べ受 忍義 務否 定説 を受 け入 れ てい ない 要因 は︑ いく つか 考え られ るが
︑重 要な のは
︑次 の二 点で あろ う︒ 一つ は︑ 捜査 実務 にお いて
︑被 疑者 の 取調 べが 不可 欠だ と認 識さ れて いる 点で ある
︒も う一 つは
︑刑 訴法 が被 疑者 の取 調べ を禁 止し ては いな いと 解さ れ てい る点 であ る︒ 後者 は︑ 第二 節で 検討 する
︒ま ずは
︑捜 査実 務に おい て︑ 被疑 者の 取調 べが 不可 欠だ と解 され て いる 点に つい て︑ 見て みよ う︒ 捜査 関係 者の 多く が︑
①被 疑者 にと って 有利
・不 利を 問わ ず︑ 被疑 者の 供述 を得 て︑ 客観 的証 拠と 付き 合わ せる こと は︑ 捜査 の効 率化 と適 切な 処分 のた めに 不可 欠で
( )
あり
︑② 事案 によ って は︑ 被疑 者の 供述 がな けれ ば真 相の 解
明が でき ない 場合 が
( )
ある
︑そ して
︑③ わが 国の 司法 はい わゆ る﹁ 精密 司法
﹂で あり
︑ま た真 実究 明を 求め る国 民の 意識 が高 いた めに
︑被 疑者 の取 調べ は不 可欠 で
( )
ある
︑さ らに は④ 被疑 者が 真犯 人で ある 場合 は︑ 取調 べの 過程 が犯
!
罪行 為に 対す る悔 悟の 念を 醸成 する のに 役立 ち︑ 刑罰 の感 銘力 も強 くな って 刑事 政策 的効 果が 期待 で
( )
きる
︑と いっ
10
た認 識を 共有 して いる
︒ この よう な︑ 被疑 者取 調べ が不 可欠 だと いう 捜査 官側 の認 識を
︑む げに 否定 する こと は妥 当で ない
︒も っと も︑
右に 掲げ た認 識は
︑被 疑者 の包 括的 黙秘 権の 実質 的な 保障 をど うす るの か︑ とい う観 点か ら厳 しく 検討 して ゆく 必 要も ある
︒こ れま での 議論 は︑ 後に 見る よう に︑ 取調 べ受 忍義 務否 定説 と︑ それ を根 拠づ ける ため の刑 訴法 一九 八 条一 項但 書の 解釈 論に 軸足 を置 きす ぎて きた よう に思 われ る︒ そう いう 視点 から 見る と︑ 後に 述べ るよ うに
︑三 井 教授 の
( )
見解 は正 鵠を 射て いる もの と思 われ る︒
11
本稿 では
︑︵ 一︶ 取調 べ受 忍義 務論 と刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の解 釈論
︑︵ 二︶ 被疑 者取 調べ の必 要性 と被 疑者 の 包括 的黙 秘権 を実 質的 に保 障す るこ とと の対 比︑ の二 つの 側面 を区 別し て考 察す るこ とが 重要 だと いう 観点
( )
から
︑
12
論を 進め てゆ く︒ まず
︑刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の解 釈論 をめ ぐる 議論 を俯 瞰し よう
︒ 第二
節 刑訴 法一 九八 条一 項但 書と 取調 べ受 忍義 務否 定説 さき
に述 べた よう に︑ 弾劾 的捜 査観 に立 てば
︑被 疑者 を逮 捕・ 勾留 する 目的 は︑ 将来 の公 判維 持︵ 被告 人の 出廷 確保 と証 拠の 保全
︶に ある
︒そ して
︑逃 亡の 虞れ と罪 証隠 滅の 虞れ とが 逮捕
・勾 留の 要件 であ るこ とに は異 論が
( )
ない
︒し かし なが ら︑ その こと が必 ずし も︑ 逮捕
・勾 留さ れて いる 被疑 者を 取り 調べ ては なら ない とい う結 論に 結 び 13
つく わけ では ない
︒被 疑者 の身 柄拘 束状 態を 利用 して 捜査 機関 が取 調べ を行 うこ とを
︑刑 訴法 は禁 じて はい ない
︑ とい うの が捜 査実 務の 一般 的な 理解 であ る︒ した がっ て︑ 逮捕
・勾 留さ れて いる 被疑 者に は︑
①居 房か ら取 調べ 室 へ出 頭す る義 務が あり
︑出 頭し た後
︑取 調べ 室に とど まる 義務
︵以 下︑
﹁出 頭・ 滞留 義務
﹂と いう
︶が ある し︑
② 取調 べに 応じ る義 務が ある
︑と 解す るの であ る︒
取調 べ受 忍義 務否 定説 が被 疑者 には 取調 べ受 忍義 務が ない と言 うと き︑
①出 頭・ 滞留 義務 だけ でな く︑
②取 調べ に応 じる 義務 をも 含め
︑両 者を 実質 的に 一体 のも のと して 捉え るこ とが 多い
︒な ぜな ら︑ 出頭
・滞 留義 務を 認め れ ば︑ 実質 的に 取調 べに 応じ る義 務を 肯定 する こと にな るか らで あっ て︑ 多く の論 者は
︑① と② とを 区別 しな いの で ある
︒し かし
︑私 見に よれ ば︑
①出 頭・ 滞留 義務 を認 めた うえ で︑
②取 調べ に応 じる 義務 を否 定す るこ とは
︑理 論 的に 可能 で
( )
ある
︒問 題は
︑後 に述 べる よう に︑
﹁取 調べ に応 じる 義務
﹂の 内容 をど のよ うに 理解 する のか
︑に かか
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って いる
︒ さて
︑取 調べ 受忍 義務 否定 説と 肯定 説と の違 いは
︑刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の解 釈を めぐ って
︑明 瞭に なる
︒刑 訴法 一九 八条 一項 は︑ 本文 で︑ 捜査 機関 は﹁ 被疑 者の 出頭 を求 め︑ これ を取 り調 べる こと がで きる
﹂と 定め
︑但 書 にお いて
﹁被 疑者 は︑ 逮捕 又は 勾留 され てい る場 合を 除い ては
︑出 頭を 拒み
︑又 は出 頭後
︑何 時で も退 去す るこ と がで きる
﹂と 規定 する
︒こ の但 書を 反対 解釈 すれ ば︑ 逮捕 また は勾 留さ れて いる 被疑 者は
︑取 調べ 室へ の出 頭を 拒 むこ とが でき ない し︑ 取調 べ室 へ出 頭し た後
︑取 調べ 室を 勝手 に退 室す るこ とは でき ない
︑と いう こと にな る︒ こ のよ うに 読む のが 素直 な解 釈で あ
( )
ろう
︒
15
この 解釈 は︑ かつ ての
( )
通説 であ った し︑ 捜査 実務 では
︑い まで も一 般的 な理 解で ある
︒平 野博 士の 弾劾 的捜 査観
16
が学 説の 主流 とな った 今日 では
︑し かし
︑学 説の ほと んど が取 調べ 受忍 義務 を否 定し てい る︒ とは 言え
︑刑 訴法 一 九八 条一 項但 書︵ の反 対解 釈︶ は︑ 取調 べ受 忍義 務否 定説 にと って
︑論 理的 障碍 とな る︒ そこ で︑ 多く の学 説が
︑ 取調 べ受 忍義 務を 否定 する 観点 から
︑こ の但 書を 様々 に解 釈し てき た︒ まず
︑平 野博 士は
︑つ ぎの よう に述 べる
︒刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の反 対解 釈に よっ て︑ 逮捕 また は勾 留さ れて
いる 被疑 者に 取調 べ受 忍義 務を 認め る理 解も ある が︑ その よう に解 する と︑ 実質 的に 黙秘 権が 侵害 され る︒
﹁こ の 規定 は︑ 出頭 拒否
・退 去を 認め るこ とが
︑逮 捕ま たは 勾留 の効 力自 体を 否定 する もの では ない 趣旨 を︑ 注意 的に 明 らか にし たに とど まる
︒し たが って
︑検 察官 は︑ 拘置 所の 居房 から 取調 室へ 来る よう に強 制す るこ とは でき ない し︑ 一度 取調 室へ 来て も︑ 被疑 者が
︑取 調を やめ 居房 へ帰 るこ とを 求め たと きは
︑こ れを 許さ なけ れば なら
( )
ない
﹂と 言
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うの であ る︒ しか しな がら
︑逮 捕・ 勾留 され てい る被 疑者 が刑 事施 設の 外に 出ら れな いの は当 然だ から
︑こ れを
﹁注 意的 に明 らか に﹂ する まで もな いと 言わ なけ れば なら
( )
ない
︒
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また
︑鈴 木教 授は
︑被 疑者 が﹁ 逮捕
・勾 留さ れて いる 場合 につ いて は明 文を おか ず︑ 解釈 に委 ねた 趣旨 に解 すべ きで ある
﹂と
( )
言う
︒つ まり
︑逮 捕・ 勾留 は取 調べ を目 的と して いな いか ら︑ 逮捕
・勾 留さ れて いる 場合 であ って も︑
19
在宅 の場 合と 同様
︑被 疑者 には 取調 べ受 忍義 務︵ 取調 べ室 へ出 頭・ 滞留 し︑ 取調 べを 受け る義 務︶ はな い︑ とい う ので ある
︒し かし なが ら︑ 刑訴 法一 九八 条一 項に は︑
﹁逮 捕又 は勾 留さ れて いる 場合 を除 いて は﹂ と明 記さ れて い る︒ すな わち
︑被 疑者 が逮 捕・ 勾留 され てい る場 合は
︑在 宅の 被疑 者と 異な った 取り 扱い をす るこ とを 明ら かに し てい るの であ って
︑﹁ 逮捕
・勾 留さ れて いる 場合 につ いて は明 文を おか ず︑ 解釈 に委 ねた
﹂と は言 えな い︒ しか も︑ 百歩 譲っ て﹁ 解釈 に委 ねた
﹂と して も︑ 解釈 をす るの であ れば
︑反 対解 釈が 妥当 であ
( )
ろう
︒
20
さら に︑ 田宮 博士 は︑ 刑訴 法一 九八 条を 単な る﹁ 出頭 要求 にか かわ る規 定で あり
︑ま た在 宅被 疑者 に主 眼を 置い たも の﹂ だと
( )
見る
︒つ まり
︑同 条一 項の 趣旨 は︑ 捜査 機関 が被 疑者 を取 り調 べる ため に﹁ 取調 室﹂ へ出 頭す るよ う
21
要求 でき ると 定め たも ので はな く︑ 単に
︑在 宅の 被疑 者を
﹁執 務場 所﹂ へ出 頭す るよ う要 求で きる と規 定し たに 過 ぎな い︒
﹁① 捜査 のた めに 出頭 要求 がで きる こと と︑
⁝⁝
②そ れが 任意 の処 分で ある こと
︑を 明ら かに した 規定 で
あり
︑そ うで あれ ば︑ 逮捕
・勾 留の 場合 のこ とで はな いの で︑ その 旨が 付言 され てい る﹂ と言 うの であ る︒ しか し なが ら︑ 刑訴 法一 九八 条は まさ しく 取調 べに 関す る規 定で ある
︒こ のこ とは
︑同 条二 項以 下を 見れ ば容 易に 理解 で
( )
きる
︒ 松 22
尾教 授は
︑さ きに 紹介 した 諸説 とは 少し 異な った 説明 をす る︒
﹁捜 査機 関は
︑被 疑者 を﹃ 取り 調べ る権 限﹄ を 有す るが
︑こ れは 義務 づけ を伴 わぬ
﹃複 雑な 内容
﹄の 権利
﹂だ とい う認 識を 示し た上 で︑ 刑訴 法一 九八 条一 項但 書 の解 釈と して
︑﹁ 身柄 拘束 中の 被疑 者に は︑ 出頭 拒否 およ び退 去の 自由 はな いの で⁝
⁝︑ 求め られ れば 取調 室へ は 出頭 する こと にな る﹂ と言 う︒ もっ とも
︑被 疑者 が取 調べ を拒 んだ 場合 には
︑捜 査機 関は
︑被 疑者 を翻 意さ せる た めの 説得
︵被 疑事 実を 裏づ ける 資料 の存 在を 指摘 して 弁解 を促 すな ど︶ を試 みな けれ ばな らず
︑し かも 長時 間に わ たる こと は許 され ない
︑と 述べ て
( )
いる
︒松 尾説 は︑ 少な くと も表 面的 には
︑被 疑者 の出 頭・ 滞留 義務 を認 めて いる
︒
23
この 点で
︑右 で検 討し てき た諸 説と はス タン スを 少し 異に する もの と言 えよ う︒ とは 言う もの の︑ 取調 べに 対す る
﹁被 疑者 の拒 否の 意思 が確 認さ れて しま えば
︑そ れ以 上取 調べ の場 に滞 留さ せる 合理 的理 由は なく なる
﹂と 述べ
︑ また
︑引 き当 り捜 査に つい ても
︑同 様に
︑﹁ やは り拒 否の 自由 を前 提と しな けれ ばな らな い﹂ と述 べて いる から
︑ 基本 的な 姿勢 は右 記の 諸説 と共 通な ので ある
︒も っと も︑ 刑訴 法一 九八 条一 項但 書の 文言 との 整合 性を 意識 し︑ そ れと 抵触 しな いよ うな 解釈 を導 き出 した 点で は︑ これ まで の学 説に はな い明 解さ があ る︒ これ らの 所説 とは 異な り︑ 三井 説は
︑つ ぎに 指摘 する 二者 を区 分け しよ うと した
︒つ まり
︑刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の文 言解 釈に 必ず しも 拘泥 する こと なく
︑① 取調 べ受 忍義 務を 否定 する 論拠 とし ての 条文 解釈 と︑
②取 調べ 受 忍義 務を 否定 しな けれ ばな らな い実 質的 な必 要性 はど こに ある のか
︑と いう 二者 を意 識的 に区 分け しよ うと した も
のが 三井 説だ と評 して もよ かろ う︒ 三井 教授 は︑ 被疑 者は
﹁身 柄拘 束さ れて いる 場合 も原 則的 には
︹在 宅の 被疑 者 と︺ 同様
﹂に
︑﹁ 不出 頭・ 退去 の自 由が ある
﹂︒
﹁た だ︑ 例外 的に 相当 の根 拠が ある 一定 の場 合に は︑ 被疑 者に は出 頭・ 滞留 義務 が肯 定さ れる こと もあ る︑ それ が同 項但 し書 の﹃ 逮捕 又は 勾留 され てい る場 合を 除い ては
﹄の 趣旨 だ﹂ と
( )
言う
︒三 井説 は︑ 一見 する と︑ 原則
︵取 調べ 受忍 義務 の否 定︶ と例 外︵ 一定 の場 合に 肯定
︶と の区 別論 のよ
24
うに 見え る︒ その よう に表 面的 に見 る限 りは
︑例 外の 要件 たる
﹁﹃ 一定 の場 合﹄ が不 明確 であ る﹂ とい う
( )
批判 も妥
25
当す るよ うに 思わ れる
︒し かし なが ら︑ 取調 べ受 忍義 務を めぐ る議 論の 核心 は﹁ いか にし て取 調べ の適 正化 を図 る か︑ 供述 の任 意性 を担 保で きる か﹂ に
( )
ある と喝 破し た点 にこ そ︑ 三井 説の 真骨 頂が ある ので はな かろ うか
︒も し︑
26
その よう な評 価が 正し いと すれ ば︑
﹁問 題の 核心 は︑ 実は
︑刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の解 釈に は
( )
ない
﹂と いう 寺崎
27
教授 の指 摘も うな ずけ るの であ る︒ この 点に つい ては
︑第 三節 で詳 述す る︒ この ほか にも
︑右 に紹 介し た諸 説と は異 なる 見地 に立 って
︑取 調べ 受忍 義務 を否 定す る論 者が いる
︒た とえ ば︑ 井戸 田教 授は
︑弾 劾的 捜査 観を 採ら ず︑ いわ ゆる 訴訟 的捜
( )
査観 を前 提に して
︑論 理を 展開
( )
する
︒﹁ 訴訟 的捜 査の 構
28
29
造論 によ れば
︑本
︹一 九八
︺条 はむ しろ 被疑 者の 弁解
・主 張を 捜査 機関 が聴 取す る機 会を 与え るた めの もの であ る
︹か ら︺
⁝⁝ 取調 べは
︑起 訴・ 不起 訴を 決定 する ため の前 提を なす 被疑 者の 権利 でさ えあ る﹂
︒﹁ この 考え 方は
︑被 疑者 を公 判段 階に おけ る被 告人 と等 しく 考え る﹂ もの であ る︒ 同条 一項 但書 を反 対解 釈し
︑被 疑者 に出 頭・ 滞留 義 務を 負わ すこ とは
︑さ きに 述べ た︵
﹁被 疑者 を⁝
⁝被 告人 と等 しく 考え る﹂
︶﹁ 被疑 者の 地位 と矛 盾す る﹂
︒し たが っ て︑ 被疑 者は
﹁捜 査機 関の 捜査 に積 極的 に協 力す る義 務は ない
︒⁝
⁝被 疑者 はこ れら の要 求に 応ず る必 要は なく
︑
︹刑 訴法 一九 八条
︺一 項但 書の 規定 は当 然の 規定 であ る﹂ と言 うの であ る︒ だが
︑但 書を 反対 解釈 すれ ば︑ 逮捕
・
勾留 され てい る被 疑者 に出 頭・ 滞留 義務 があ るよ うに 読め る点 をど う説 明す るの か︒ 井戸 田教 授は
︑﹁ 逮捕
・勾 留 は︑ 積極 的に 被疑 者の 口か ら証 拠を とる ため に認 めら れる もの では ない
︒し たが って
⁝⁝ この
﹃除 いて は﹄ とい う こと は︑ 逮捕
・勾 留の 効力 が生 きて いる こと を示 した にす ぎな い﹂ と言 う︒ これ は︑ 逮捕
・勾 留さ れて いる 被疑 者 が任 意で 弁解 をす る場 合︑ 弁解 を聴 取す るこ とは でき るが
︑任 意に よる 弁解 を超 えた
﹁取 調べ
﹂は 許さ れな いと い う趣 旨の よう であ る︒ しか しな がら
︑弁 解の 聴取 と﹁ 取調 べ﹂ とを どの よう に区 別す るの か︑ 実際 には 困難 であ る
︵被 疑者 が弁 解を する とき
︑捜 査官 はこ れに 質問 をす るこ とが 許さ れな いの か︒ ある いは 弁解 の内 容に つい て詳 し く問 いた だす こと はで きる のか
︒弁 解の 聴取 と﹁ 取調 べ﹂ の境 界は 明確 では ない
︶︒ しか も︑ 井戸 田教 授の 理解 を 前提 にす れば
︑む しろ 弾劾 的捜 査観 より も︑ より 強く 取調 べ受 忍義 務が 否定 され るこ とに なる もの と推 測さ れる が︑ 結論 は弾 劾的 捜査 観に 依拠 した 場合 と︑ さほ ど違 いが ない
︒訴 訟的 捜査 観は
︑少 なく とも 取調 べ受 忍義 務に 関し て は︑ 独自 の意 義を 持っ てい ない もの と考 えら れる
︒ さら には
︑黙 秘権 の保 障と 取調 べ受 忍義 務の 否定 とを ダイ レク トに 結び つけ る見 解も ある
︒高 田教 授は
︑﹁ 被疑 者に つい ては
﹃取 調官 の質 問に さら され なが ら沈 黙を 続け る﹄ とい うよ うな こと を︑ もと もと 刑事 訴訟 法は 考え て いな いは ずで ある
︒被 疑者 が黙 秘権 を行 使す る場 合︑ 取調 べは 直ち に終 えら れな けれ ばな らな い﹂ と言 う︒ そし て︑
﹁黙 秘権 は︑
﹃何 の制 約も 受け ない 自由 な意 思の 行使
﹄と して 供述 でき るフ ォー ラム を求 め︹ る︺
⁝⁝
︒そ のフ ォ ーラ ムを 用意 する こと は国 家の 責務 であ り︑
⁝⁝
﹃取 調べ を行 うこ と﹄ 自体 が国 家に 許さ れて はな らな い﹂
︒﹁ 黙秘 権は
︑こ のよ うな 脈絡 にお いて も︑ 取調 べ受 忍義 務を 排除 する 権利 だと いえ る﹂ と結 論づ
( )
ける
︒こ の主 張は
︑要 す
30
るに
︑被 疑者 には 黙秘 権が ある から 取調 べ受 忍義 務が 否定 され る︑ と言 って いる に過 ぎな い︒ もは や条 文解 釈と は
言え ず︑ 立法 論の 域を 出な い︒ 百歩 譲っ て︑ たと え立 法論 であ ると して も︑ 取調 べ受 忍義 務の 問題 にお いて 議論 す べき は︑ 被疑 者の 取調 べは 不可 避だ とす る捜 査実 務の 要求 に一 定の 限度 では 応じ なが ら︑ しか し︑ 被疑 者の 包括 的 黙秘 権を 実質 的に 保障 する には
︑ど うす れば 良い か︑ なの であ る︒ 第三
節 取調 べ受 忍義 務と 包括 的黙 秘権 すで
に見 たよ うに
︑刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の解 釈だ けか ら︑ 逮捕
・勾 留さ れた 被疑 者に は出 頭・ 滞留 義務 がな いこ とを 導き 出す こと は困 難で ある
︒た しか に︑ 黙秘 権を 憲法 上の 権利 とし て保 障し
︑大 正刑 訴法 の下 で行 われ て いた 被疑 者訊 問を 廃し た
( )
経緯 に照 らせ ば︑ 刑訴 法一 九八 条一 項但 書を
︵文 言と 若干 離れ るこ とは わか って いて も︶
31
被疑 者の 取調 べ受 忍義 務を 否定 した もの と読 み解 くの が正 しい 方向 だ︑ とい う主 張の 趣旨 は理 解で きる
︒し かし な がら
︑文 言に 逆ら って まで
︑刑 訴法 一九 八条 一項 但書 が取 調べ 受忍 義務 を否 定し たも のと 解釈 しな けれ ばな らな い もの か否 かは
︑ま た別 の問 題で ある
︒ 取調 べ受 忍義 務否 定説 は︑
①取 調べ によ って 被疑 者の 包括 的黙 秘権 が実 質的 に侵 害さ れる のを 防止 する ため には
︑ 取調 べ受 忍義 務の 否定 が不 可欠 であ る︑
②取 調べ 受忍 義務 の肯 定・ 否定 は︑ 接見 交通 の問 題︑ 自白 の証 拠能 力論 な どに 直結 する もの であ り︑ 取調 べ受 忍義 務の 否定 は︑ これ ら諸 問題 の解 決に 有効 に結 びつ く︑ とい う︑ 政策 的配 慮 に立 った 法解 釈論 だと 言え
( )
よう
︒
32
まず
︑① につ いて 考え よう
︒刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の解 釈か ら出 頭・ 滞留 義務 の否 定を 導き 出す こと さえ でき
れば
︑被 疑者 の包 括的 黙秘 権が 十全 に保 障さ れる と︑ はた して 言う こと がで きる のだ ろう か︒ この 問題 は︑ 刑訴 法 一九 八条 一項 但書 の解 釈論 その もの とい うよ りは
︑供 述の 任意 性を 担保 する ため には どう すれ ばよ いの か︑ とい う 視座 から 検討 する のが 有効 であ ろう
︒な ぜな ら︑ 出頭
・滞 留義 務の 否定 ある いは 肯定 は︑ しか し︑ 実務 家に とっ て は︑ 必ず しも 不可 欠な 議論 と見 られ てい ない から で
( )
ある
︒
33
この よう に考 えて くる と︑ 問題 の本 質は
︑刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の条 文解 釈そ れ自 体︑ ある いは 取調 べ受 忍義 務を 否定 する か肯 定す るか には ない こと がわ かる
︒被 疑者 の包 括的 黙秘 権を 侵害 して はな らな いと いう 点に こそ
︑ 問題 の核 心が 存在 する
︒被 疑者 の包 括的 黙秘 権を 実質 的に 担保 した いの であ れば
︑む しろ 取調 べの 可視 化こ そが 早 道で あろ う︒ 寺崎 教授 は︑ 右の 趣旨 を述 べ︑
﹁問 題の 核心 は︑ 実は
︑刑 訴法 一九 八条 一項 但書 の解 釈に はな い﹂ と 明言 し︑ その 上で
︑立 法に よっ て取 調べ の可 視化 をは かる べき だと 主張
( )
した
︒つ まり
︑﹁ 解釈 上の 問題 点を 意識 し
34
なが らも
︑こ れま で多 くの 論者 が﹃ 取調 べ受 忍義 務﹄ を否 定し てき たの には
︑理 由が ある
︒捜 査機 関の 側に 真実 解 明の 志向 が根 強く あり
︑そ の志 向が
︑取 調べ を自 白獲 得へ と傾 斜さ せる 一つ の要 因と なっ てい るこ と︑ さら に︑ 身 柄を 拘束 され た被 疑者 と捜 査官 とだ けの 密室 で取 調べ が行 われ
︑事 後的 に客 観的 な検 討が でき ない 状況 にあ るこ と︑ など 実際 上の 問題 が重 くの しか かっ てい るの で
( )
ある
﹂と 述べ て︑ 取調 べの 可視 化を 主張 した ので ある
︒こ れに 対し
35
ては
︑白 取教 授が
﹁緻 密な 議論 から 一気 に立 法論 に変 化す る論 旨は つか みに
( )
くい
﹂と 批判 した が︑ 取調 べの 可視 化
36
論は
︑刑 訴法 の解 釈論 では ない
︒そ もそ も取 調べ の可 視化 に関 する 規定 は存 在し ない し︑ 取調 べの 可視 化は
︑規 定 の有 無に かか わり なく 運用 で対 処で きる ので
( )
ある
︒
37
刑訴 法一 九八 条一 項但 書を めぐ る解 釈論 のレ ベル だけ で言 えば
︑取 調べ 受忍 義務 否定 説と 肯定 説と の間 には
︑一
見埋 めら れな い溝 があ るよ うに 見え る︒ しか しな がら
︑そ れは
︑必 ずし も本 質的 な溝 では ない
︒被 疑者 取調 べに よ って 包括 的黙 秘権 が侵 害さ れる 危険 を事 実上 どの よう に防 ぐの か︑ とい う問 題は
︑必 ずし も同 条但 書の 解釈 論か ら︑ 直接
︑導 き出 され るも ので はな い︒ した がっ て︑ 刑訴 法一 九八 条一 項但 書の 解釈 論と は︑ さし あた り切 り離 して 議 論す る必 要が ある と思 われ る︒ もっ とも
︑私 見の よう な理 解と は異 なり
︑弾 劾的 捜査 観に 立脚 する こと によ って
︑様 々な 問題 を一 貫し た解 決に 導け るの だ︑ とい う見 解が ある こと も確 かで ある
︒ そこ で︑ つぎ に︑ さき に指 摘し てお いた
②取 調べ 受忍 義務 の否 定は
︑接 見交 通の 問題
︑自 白の 証拠 能力 論な どの 解決 に有 効に 結び つく
︑と いう 議論 につ いて
︑検 討し よう
︒そ の代 表的 な主 張に
︑後 藤教 授の 所説 があ る︒ 後藤 教 授は
︑取 調べ 受忍 義務 を否 定す るこ とに よっ て︑
︵一
︶﹁
﹃取 調べ を強 制す るこ とは
︑供 述を 強制 する こと にな る﹄ とい う経 験則 を承 認す るこ と﹂ につ なが り︑ 被疑 者の 取調 べ拒 否権 の強 化に なる
︑︵ 二︶
﹁取 調べ 受忍 義務 否定 説を 前提 とし た場 合に は︑ 論理 必然 的に
︑少 なく とも 一定 の範 囲で は︑ 被疑 者取 調べ への 弁護 人立 会権 が保 障さ れる 結 果に なる はず であ る﹂
︑さ らに は︵ 三︶ 自白 排除 の基 準を 厳格 にで きる
︑︵ 四︶ 接見 指定
︵刑 訴法 三九 条三 項︶ に関 する 解釈 につ いて も︑
﹁取 調べ 受忍 義務 否定 説に 立て ば︑ 改め て憲 法を 援用 する まで もな く︑
⁝⁝ 接見 交通 権優 位 説と ほぼ 同様 の結 論が 導か れる
﹂な どと 主張
( )
する
︒
38
しか しな がら
︑取 調べ 受忍 義務 の否 定に よっ て論 理的 に︵ 一︶ の結 論が 導き 出さ れる もの でも ない
︒取 調べ 受忍 義務 否定 説も また
︑被 疑者 が任 意に 取調 べに 応じ る場 合に は︑ これ を許 容す る︒ しか しな がら
︑そ もそ も︑ 捜査 機 関が 被疑 者の
﹁弁 解を 聴取 する こと
﹂と 被疑 者を
﹁取 り調 べる こと
﹂と を︑ 実際 上︑ 厳密 に区 別す るこ とが でき る
のだ ろう か︒ 捜査 官が 手持 ちの 資料 を被 疑者 に示 して
﹁弁 解を 聞く こと
﹂も 禁じ る趣 旨な のだ ろう か︒ また は︑ 捜 査官 が被 疑者 と信 頼関 係を 結ぶ 目的 で︑ 捜査 官が 被疑 者と 雑談 をす るこ とを も︵ 被疑 者が
︑雑 談に は任 意で 応じ て いる にも かか わら ず︶ 禁じ る趣 旨な のだ ろう か︒ もし
︑後 藤教 授の 主張 が︑ どん な場 合で あれ
︵被 疑者 が望 んで も︶
︑お よそ 被疑 者を 取調 べ室 へ出 頭さ せて はな らな い︑ とい う趣 旨で ある なら
︑立 法論 とし ては 了解 でき る︒ と は言 え︑ それ でも なお
︵お よそ 刑訴 法一 九八 条そ のも のを 廃止 する 議論 でな い限 り︶
︑刑 訴法 一九 八条 の解 釈論 は 残る ので ある
︒ つぎ に︑
︵二
︶は
︑要 する に取 調べ の可 視化 を認 める か否 かの 問題 であ る︒ すで に述 べた よう に︑ 取調 べの 可視 化は 運用 でま かな うこ とが でき るも ので ある
︒手 続の 詳細 を規 定す るこ とは 望ま しい とし ても
︑必 ずし も立 法を 要 する もの では ない
︒そ して
︑取 調べ 受忍 義務 を否 定す れば
︑﹁ 論理 必然 的に
︑⁝
⁝弁 護人 立会 権が 保障 され る結 果 にな る﹂ わけ では ない
︒立 法論 ある いは 運動 論と 法律 解釈 論と を不 用意 に混 同し てい るも のと 評す るほ かは ない
︒ さら に︑
︵三
︶自 白排 除の 基準 を厳 格に でき る︑ とい う主 張は
︑無 条件 に首 肯で きる もの では ない
︒こ の主 張は
︑ まず 自白 法則 につ き︑ 違法 排除 説を とる こと が前 提と なっ てい る︒ つぎ に︑ 自白 の獲 得手 段に つい て必 ずし も重 大 な違 法が 見ら れな い場 合で あっ ても
︑自 白を 排除 しな けれ ばな らな い事 例が ある こと を前 提と して
︑そ の事 例に つ いて
︑違 法排 除説 に立 って
︑ど のよ うに 論理 構成 する のか
︑と いう 議論 であ る︒ まず
︑判 例は 違法 排除 説を 採用 し てい ない
︒ま た︑ 全て の学 説が 違法 排除 説を 採っ てい るわ けで はな い︒ 違法 排除 説は
︑い わゆ る違 法収 集証 拠排 除 法則 の自 白ヴ ァー ジョ ンだ と言
( )
える
︒だ が︑ 違法 収集 証拠 排除 法則 につ いて
︑刑 訴法 には 規定 がな い︒ これ と異 な
39
り︑ 自白 法則 は刑 訴法 三一 九条 一項 の解 釈論 であ る︒ した がっ て︑ 自白 法則 の議 論︵ 刑訴 法三 一九 条一 項の 解釈
︶
につ いて 違法 排除 説︵ 違法 収集 証拠 排除 法則 の自 白ヴ ァー ジョ ン︶ を採 らな けれ ばな らな い論 理的 必然 性は
( )
ない
︒
40
さら に︑
︵四
︶接 見指 定の 問題 は︑ そも そも
﹁接 見交 通権 優位 説﹂ が妥 当か が問 題で ある
︒通 説で ある 限定 説は
︑ 接見 交通 権が 優位 に立 つと 主張 する もの では ない
︒捜 査権 と接 見交 通権 の﹁ 調整
﹂の 問題 だと 捉え てい ると 解す る のが 妥当 であ
( )
ろう
︒最 高裁 もま た︑ 一貫 して
︑接 見交 通権 が﹁ 憲法
︹上
︺の 保障 に由 来す るも ので ある
﹂こ とを 認
41
めた う
( )
えで
︑﹁ 接見 交通 権が 憲法 の保 障に 由来 する から とい って
︑こ れが 刑罰 権な いし 捜査 権に 絶対 的に 優先 する
42
よう な性 質の もの とい うこ とは でき ない
︒⁝
⁝接 見交 通権 の行 使と 捜査 権の 行使 との 間に 合理 的な 調整 を図 らな け れば なら ない
﹂と 判示 して いる ので
( )
ある
︒
43
この よう に検 討し てみ ると
︑弾 劾的 捜査 観を 前提 とし て取 調べ 受忍 義務 を否 定す れば
︑諸 問題 が論 理一 貫し て解 決で きる とい う主 張は
︑お よそ 首肯 しか ねる 議論 なの であ る︒ すで に紹 介し たよ うに
︑そ もそ も平 野博 士自 身が
︑ 弾劾 的捜 査観 は﹁ いわ ば考 え方 にす ぎな いの であ って
︑こ うい う前 提を とっ たか ら︑ 形式 論理 に従 って すべ ての 点 で一 貫し た結 論が 出る べき だ︑ とい うほ ど機 械的 な原 理で はな い﹂ と述 べて いる ので ある
︒ まと
め これ
まで 検討 して きた こと から 明ら かな よう に︑ 弾劾 的捜 査観 に立 てば
︑論 理必 然的 に取 調べ 受忍 義務 の否 定が 導き 出さ れる もの では ない
︒ま た︑ 現行 刑訴 法は
︑被 疑者 の身 柄拘 束を 利用 した 取調 べを 必ず しも 禁じ てい るわ け では ない
︒も ちろ ん︑ 被疑 者の 包括 的黙 秘権 が取 調べ によ って 侵害 され ては なら ない こと は言 うま でも ない
︒だ が︑
刑訴 法一 九八 条一 項但 書の 解釈 だけ で︑ 被疑 者の 包括 的黙 秘権 の侵 害を 防ぐ こと はで きな い︒ 被疑 者の 包括 的黙 秘権 を実 質的 に保 障す るた めに は︑ より 総合 的な 考察 が必 要な ので ある
︒た とえ ば︑ 現行 法が 許容 して いる 期間 より も更 に長 期に わた る身 柄拘 束を 認め るか わり に︑ 被疑 者の 取調 べを 一切 許さ ない
︑と いっ た 制度 の創 設も また
︑立 法論 から はあ り得 るだ ろう
︒し かし なが ら︑ その よう な法 制度 改革 をし なく とも
︑現 行法 の 下で 運用 によ る改 善は 可能 であ る︒ 近年
︑い わゆ る富 山事 件︑ 志布 志事 件が 発端 とな って
︑警 察段 階で の取 調べ のあ り方 に対 する 世間 の批 判が 高ま った こと から
︑警 察で は取 調べ の適 正化 のた めの 取り 組み がな され て
( )
いる
︒平 成一 九年
︑国 家公 安委 員会 は︑
﹁警
44
察捜 査に おけ る取 調べ の適 正化 につ いて
﹂︵ 平成 一九 年一 一月 一日 国家 公安 委員 会決 定︶ とい う文 書を 公表 し︑
﹁被 疑者 の取 調べ につ いて
︑⁝
⁝裁 判員 裁判 に適 合す るも のと なる こと が必 要﹂ であ って
︑① 取調 べに 対す る監 督の 強 化︑
②取 調べ 時間 の管 理の 厳格 化︑
③そ の他 適正 な取 調べ を担 保す るた めの 措置
︑④ 捜査 に携 わる 者の 意識 向上
︑ の諸 点に つい て検 討し 対策 を講 じる よう
︑警 察庁 に要 請し た︒ これ を受 けた 警察 庁は
︑七 人の 有識 者か らな る﹁ 警 察捜 査に おけ る取 調べ の適 正化 に関 する 有識 者懇 談会
﹂を 三回 にわ たり
︵平 成一 九年 一二 月一 二日
︑同 二〇 年二 月 二六 日︑ 同年 四月 二三 日︶ 開催 し︑ 右記 懇談 会は
︑① 被疑 者取 調べ 監督 制度 を実 質的 に機 能さ せる こと
︑② 取調 べ の機 能を 損な わな いよ うに 配慮 しつ つ︑ 取調 べの 一部 録音
・録 画の 試行 を慎 重に 実施 する こと
︑③ 捜査 員の 資質 や 能力 の更 なる 向上 に努 める こと
︑を 警察 庁に 強く 求め てゆ く旨 の﹁ 緊急 提言
﹂を 行っ た︒ また
︑警 察庁 は︑
﹁富 山 事件 及び 志布 志事 件に おけ る警 察捜 査の 問題 点等 につ いて
﹂と 題す る調 査報 告書 を作 成し
︑﹁ 今一 度︑ 憲法
︑刑 事 訴訟 法及 び犯 罪捜 査規 範等 にお いて 定め られ た捜 査の 基本 を深 く胸 に刻 み︑ 個々 の捜 査活 動を 適正 に行 い︑ 引き 続
き取 調べ を含 む捜 査の 適正 化の ため の不 断の 取組 みに 努め てい かな けれ ばな らな い﹂ と結 んだ
︒ この よう な取 組み を踏 まえ て︑ 警察 庁は
﹁警 察捜 査に おけ る取 調べ 適正 化指 針﹂ を定 め︑ これ を具 体化 する ため
︑ 国家 公安 委員 会に よっ て﹁ 被疑 者取 調べ 適正 化の ため の監 督に 関す る規 則﹂
︵平 成二
〇年 国家 公安 委員 会規 則第 四 号︶ が制 定さ
( )
れた
︒
45
なお
︑取 調べ の可 視化 につ いて は︑ 平成 一八 年か ら︑ 検察 官に よる 取調 べの 一部 をD VD で録 音・ 録画 する 試み がな され てい る︵ 平成 二〇 年四 月か らは
︑全 国の 地検 で試 行さ れて いる
︶︒ もっ とも
︑検 察庁 は︑ 裁判 員裁 判を 念 頭に 置い て︑ 自白 調書 の任 意性 をわ かり やす くす る手 段だ と位 置づ けて おり
︑こ れに 対し て︑ 日本 弁護 士連 合会 は
﹁取 調べ の一 部の 録画
・録 音だ けで は不 十分 であ り︑ 一部 に止 める こと はか えっ て被 疑者 の権 利を 侵害 する 危険 が あ﹂ ると 批判 して
( )
いる
︒こ の取 調べ の一 部に つい て録 音・ 録画 した DV Dに つい て︑ 東京 地裁 は︑ 被告 人が 否認 か
46
ら自 白に 転じ た経 緯が 問題 とな った 事案 で︑ 当該 DV Dを
﹁検 察官 調書 の任 意性 につ いて の有 用な 証拠 とし て過 大 視す るこ とは でき ず︑
⁝⁝
︹警 察官
︺の 証言 の信 用性 を支 える 資料 に止
( )
まる
﹂と 限定 的に 解し た︒
47
警察 庁も
︑平 成二
〇年 四月
︑警 察に おけ る取 調べ の録 音・ 録画 を試 行す る旨 を表 明し た︒ 取調 べの 録音
・録 画は
︑ 警視 庁︑ 埼玉 県警 察︑ 千葉 県警 察︑ 神奈 川県 警察
︑大 阪府 警察 で試 行さ れ︑ 同年 九月 から 平成 二一 年二 月末 まで に︑ 合計 六六 件︵ 被疑 者五 八人
︶の 取り 調べ につ いて 録音
・録 画が なさ
( )
れた
︒も っと も︑
﹁裁 判員 裁判 にお ける 自白 の
48
任意 性の 立証 方策 のた めに 行う もの であ るか ら︑ その 対象 は裁 判員 裁判 対象 事件
⁝⁝ であ って
︑か つ被 疑者 が自 白 して いる もの
﹂に 限ら れて いる
︵し かも
︑﹁ 組織 犯罪 等︑ 録音
・録 画を する こと によ り︑ 取調 べの 真相 解明 機能 が 害さ れた り︑ 関係 者の 保護 や協 力確 保︑ また 以後 の捜 査等 に支 障を 生じ るお それ があ る﹂ もの 等は 除外 され る︶
︒
さら に﹁ 任意 にし た供 述で ある こと など を確 認し てい る状 況に つい て録 音・ 録画
( )
する
﹂も ので ある から
︑さ きに 紹
49
介し た日 本弁 護士 連合 会の 批判 が︑ これ につ いて も当 ては まる
︒ 取調 べの 適正 化に 関す る運 用︵ 試行
︶の 状況 は以 上の よう にな って いる
︒す でに 述べ たよ うに
︑単 に取 調べ 受忍 義務 を否 定す るか 肯定 する か︑ ある いは
︑刑 訴法 一九 八条 一項 但書 をど う解 釈す るの か︑ とい う側 面だ けで は十 全 な解 決に は結 びつ かな い︒ 当該 条項 は素 直に 反対 解釈 した 上で
︑被 疑者 の取 調べ の適 正化 をは かっ てゆ くこ とこ そ︑ 今後 の課 題で はな かろ うか
︒
︵ 注 ︶ 平野 龍一
﹃刑 事訴 訟法
﹄︵ 一九 五八 年︶ 八三 頁以 下︒ 平野 博士 は言 う︒ 糺問 的捜 査観
﹁に よれ ば︑ 捜査 は︑ 本来
︑捜 査機 関が
︑ 被疑 者を 取り 調べ るた めの 手続 であ って
︑強 制が 認め られ るの もそ のた めで ある
︒た だ︑ その 濫用 をさ ける ため に︑ 裁判 所ま た は裁 判官 によ る抑 制が 行わ れる
︒こ のよ うに して
︑捜 査は ある 程度 法律 化さ れ︑ 当事 者主 義の 萌芽 がみ られ るこ とに なる
︒こ れ に対 し︑ 弾劾 的捜 査観 では
︑捜 査は
︑捜 査機 関が 単独 で行 う準 備活 動に すぎ ない
︒被 疑者 も︑ これ と独 立に 準備 を行 う︒ 強制 は︑ 将来 行わ れる 裁判 のた めに
︵す なわ ち被 告人
・証 拠の 保全 のた めに
︶︑ 裁判 所が 行う だけ であ る︒ 当事 者は
︑そ の強 制処 分の 結 果を 利用 する にす ぎな い﹂
︒
︵
︶ 平野
・前 出注
︵
︶八 四頁
︵﹁ 憲法 が令 状主 義を とっ たの は︑ 裁判 官だ けが 強制 処分 がで きる とし たも ので
︑令 状は 当然 に命 令状 であ るこ とが 予定 され てい る﹂
︶︒ 令状 は命 令状 だと 解す るこ とに よっ て︑ 強制 処分 の個 別具 体的 な必 要性 を判 断す る権 限が 裁判 官に ある とい うこ とを 論理 的に 導き 出し た点 で︑ 高く 評価 しな けれ ばな らな いだ ろう
︒逮 捕状 につ いて は︑ 明文 規定 があ る
︵刑 訴法 一九 九条 二項 但書
︶︒ しか し︑ 差押 えの 必要 性に つい て諸 般の 事情 を考 慮し たう えで
︑明 らか に差 押え の必 要が ない と 認め られ ると きに
︑裁 判所 が差 押え 状の 請求 を却 下で きる とい う明 文規 定は ない
︒弾 劾的 捜査 観は
︑こ の点 を論 理的 に明 らか に した ので ある
︒最 高裁 判所 は︑ 後に
︑刑 訴法
﹁四 三〇 条の 規定 によ り不 服の 申立 を受 けた 裁判 所は
︑差 押の 必要 性の 有無 につ い