システム工学 I 第 8 回
Jordan 標準形
固有値と固有ベクトル (1)
• A を n 次の正方行列とする.
• v 6= 0 で, あるスカラー λ に対して, Av = λv となるとき, λ を A の固有値, v を固有値 λ に 対応する固有ベクトルという.
• 固有値と固有ベクトルの定義はどのような係
数体に対しても適用可能であるが・ ・ ・
固有値と固有ベクトル (2)
• 係数体の取り方しだいで, 行列 A が固有値を 持つ場合と持たない場合が出て来る.
• 応用上重要なのは実行列であるが, 実行列は
実数に範囲では必ずしも固有値を持つとは限
らない. これは, 実数体が代数的閉体ではな
いという事実に起因する.
固有値と固有ベクトル (3)
• 固有値の重要な応用のひとつは線形連立微分 方程式であるが, たとえば正弦波を解として 持つ 2 次元の線形微分方程式は実数の固有値 を持たないため, 実行列への限定は不便
• そこで, 通常は, 取り扱いたい行列が実行列
であっても, 係数体を複素数体にまで拡張し
て考える.
固有値と固有ベクトル (4)
• 複素数体は代数的閉体であるため, 複素行列 は固有値と対応する固有ベクトルを持つ.
• 実行列は複素行列の特別な場合なので, 固有
値と, 対応する固有ベクトルを持つ. ただし,
固有値や固有ベクトルの要素が実数であるこ
とは保証されない.
固有値と固有ベクトル (5)
• 以下では, 特に断らない限り, A を n 次の複 素行列とする.
• λ が行列 A の固有値で, 対応する固有ベクト
ルが v であれば, (λ I − A ) v = 0 であり, 定
義より v 6= 0 であったから, (λI − A) は正
則ではなく, したがって det(λI − A) = 0 で
ある.
固有値と固有ベクトル (6)
• s を変数とし, Φ
A(s) = det(sI − A) と定義す る. Φ
A(s) を A の特性多項式という. なお,
det(A − sI ) を A の特性多項式と定義する流
儀もある (符号が違うだけ).
• 文献によっては, 固有値を「特性多項式の根」
と定義しているものもある (この講義の教科
書もそうである).
固有値と固有ベクトル (7)
• λ を A のひとつの固有値とし, V
λ= {v ∈ C
n: Av = λ v } とする. V
λは C
nの部分空間 である. この次元を λ に対応する固有空間の 次元という.
• 相異なる固有値に対応する固有ベクトルは一
次独立である (証明は次ページ).
λ1, . . . , λkをAの互いに相異なる固有値,v1, . . . ,vkを対応する固有ベ クトルとする. kに関する帰納法によって,v1, . . . ,vkが一次独立であ ることを示す. k= 1のときは主張は自明. よって,「k−1について 主張が正しければkについても主張は正しい」ということを示せばよ い. 「kについて主張が正しくなければk−1についても主張は正しく ない」という形でこれを示す. {v1, . . . ,vk}が一次従属であったと仮定 する. すると,∃j(1≤j≤k),∃cl(1≤l≤k, l6=j),vj=P
l6=jclvlで ある. この両辺にAを左から掛けると,λjvj=P
l6=jclλlvlとなる. 一 方,vj=P
l6=jclvlの両辺にλjを掛けると,λjvj=P
l6=jclλjvlとなり, これらの2式を引くと,0=P
l6=jcl(λl−λj)vlとなる.λj6=λlで,{cl} の中には少なくともひとつ零でないものがあるから,k−1について主 張が正しくないことが示された.この待遇を取ると,先の主張が証明さ れる.
固有値と固有ベクトル (9)
• A の固有ベクトル全体がつねに C
nの基底と なるのであれば話は簡単なのだが・ ・ ・
• 残念ながら, 必ずしもそうなるとは限らない.
• A の固有ベクトル全体が C
nの基底になって
いるときには, 固有ベクトルを集めて作った
行列により A を対角化することができる.
固有値と固有ベクトル (10)
• そうでない場合には, Jordan 標準形という概 念が必要になる.
• まず対角化可能な場合について見てゆく.
対角化 (1)
• A ∈ C
nが n 個の一次独立な固有ベクトル { v
1, . . . , v
n} を持つものとする. v
iに対応す る固有値を λ
iとする (1 ≤ i ≤ n). 固有値の 中には同一のものがあっても構わない.
• V = ( v
1, . . . , v
n) (固有ベクトルを横に並べ
て作った行列) とする.
対角化 (2)
• Av
i= λ
iv
iだから, AV = V diag(λ
1, . . . , λ
n)
である (順番に注意).
• したがって, V
−1AV = diag(λ
1, . . . , λ
n) で
ある. このようにすることを行列の対角化と
いう. なお, {v
1, . . . , v
n} が一次独立である
から, V は逆行列を持つ.
対角化 (3)
• 対角化可能のための十分条件を考える.
• まず, 行列 A の特性多項式が重根を持たなけ れば, n 個の 1 次独立な固有ベクトルを取れ るので, A は対角化できる.
• これ以外で応用上重要な対角化可能行列は,
対称行列および Hermite 行列である.
対角化 (4)
• 対称行列は A
T= A となる行列, Hermite 行 列は A
∗= A となる行列であった. ただし A
∗は A の共役転置 (各成分の複素共役を取って から転置). 対称行列は成分が実数の Hermite 行列である.
• 対称行列や Hermite 行列の固有値は実数であ
ることが示せる (次ページ).
• AをHermite行列とする. λをAの固有値,vを対応する固有ベク トルとする.v∗(Av) =λv∗vである.また,v= (v1, . . . , vn)Tとし たとき,v∗= (¯v1, . . . ,¯vn)だから(¯xはxの複素共役),v∗v=|v1|2+
· · ·+|vn|2>0である. 一方, A∗ =Aより, v∗Av = (v∗A∗)v であるが,v∗A∗= (Av)∗= (λv)∗= ¯λv∗,よってv∗Av= ¯λv∗v. v∗v>0だから,λ= ¯λ,よって固有値は実数である.
• Aが対称行列の場合には,A∗=ATとなるから,上記の証明は変 更なしで適用可能である.
• なお,固有ベクトルは, (A−λI)v=0の解だから,対称行列の固 有ベクトルは,その全要素が実数であるように選べる. この性質 を直交行列による対角化のところで使う.
対角化 (6)
• A を n 次の対称行列あるいは Hermite 行列と し, λ, µ を A の相異なる固有値, v , w を対応 する固有ベクトルとする. A が対称行列なら v
Tw = 0, Hermite 行列なら v
∗w = 0 となる.
対称行列については,µwTv=wTATv=wTAv=λwTvで,µ6=λ
だから,wTv= 0. Hermite行列については,上記の Tを ∗に置き
換えればよい.
対角化 (7)
• 対称行列は直交行列によって対角化できる.
• Hermite 行列はユニタリ行列によって対角化
できる.
証明はどちらもほぼ同じなので,対称行列について示す. Hermite行 列の場合の変更点は, (i)Tを∗に変更すること, (ii)ベクトルの内積を vTwからv∗wにすること, (iii)固有ベクトルの成分が複素数であるこ とを許容すること,の3点である.
対称行列の場合を示す. nに関する帰納法による. n= 1の場合は明ら か. n−1まで主張が正しいと仮定し,Aをn次の対称行列とする. λをA のある固有値,v1を対応する固有ベクトルとする.v1の全要素は実数に できる(既出).v1を正規化し,v1を含む正規直交基底{v1,v2, . . . ,vn} を取る. V = (v1, . . . ,vn)とする. これは直交行列である. すると, VTAV は対称行列であり, さらにVTAV = 1 0
0 An−1
! となる (An−1はn−1次の対称行列). さて,Wをn−1次の直交行列とする と, 1 0
0 W
!T
1 0
0 An−1
! 1 0 0 W
T!
= 1 0
0 WTAn−1W
! , よって帰納法の仮定によりAは直交行列によって対角化可能.
Jordan 標準形 (1)
• N =
0 1 0 0 0 1 0 0 0
とする.
• N の特性多項式は det(s I − N ) = s
3だから, 固有値は零のみ.
• 固有ベクトルは?
Jordan 標準形 (2)
• 固有ベクトルは, (λI − N )|
λ=0v = 0 の解
• よって, −
0 1 0 0 0 1 0 0 0
x
1x
2x
3
=
0 0 0
• 上記を解くと x
2= 0, x
3= 0 が出るから, 固有
ベクトルは (1, 0, 0)
Tの零でない定数倍のみ.
Jordan 標準形 (3)
• 「 A の固有ベクトルから成る C
nの基底があ れば A は対角化できる」のだが・ ・ ・
• そのような基底は必ずしも存在しない.
• 上記の N のような行列は, 純粋な積分器を含
む微分方程式系で出現するため, 応用上もこ
のような場合を無視するわけにはいかない.
Jordan 標準形 (4)
• 天下り的であるが, w = (0, 0, 1)
Tとすると, w =
0 0 1
, N w =
0 1 0
, N
2w =
1 0 0
よ
り, この例では w , N w , N
2w が基底になって
いる.
Jordan 標準形 (5)
• 行列 N の例では, 特性多項式が重根を持つこ とに注意する. 先に述べた理由によって, そ の特性多項式が重根を持たない行列 A は対 角化可能である. 一方, 重根を持つ場合には, 対角化はできることもできないこともある.
• 固有値 λ の特性多項式の根としての重複度を,
その固有値の重複度という.
Jordan 標準形 (6)
• 行列 A が対角化不能のときにも, 固有ベクト
ルから (対角化よりほ繁雑な手順によって) 基
底を作り, 対応する表現行列が望ましい性質 を持つようにできる. この典型例が, これか
ら述べる (Jordan 標準形) である.
• 行列 A の Jordan 標準形を J とする. これは,
次のような形の標準形である.
Jordan 標準形 (7)
• J は, k 個のブロックが対角線上にならんだ, 次のような形のブロック対角行列である:
J =
J
1. ..
J
k
Jordan 標準形 (8)
• 各 J
iは m
i次の正方行列で, P
ki=1
m
i= n で ある. J
iは次のような形になっている:
J
i= λ
iI
mi+ N
mi, N
mi= 0 I
mi−10 0
!
• λ
iは固有値である.
Jordan 標準形 (9)
• m
i≥ 1 であり, m
i= 1 のときには N
miの 部分は存在しないものと見倣す. すべてのブ ロックについて m
i= 1 となるのが, 対角化 可能な場合である.
• 例を示す.
• Jordan 標準形の例 (空白部分は零)
7 1
7 1 7
5 1 5 1
5 1 5
,
2 1
2 2 1
2 2 1
2
Jordan 標準形 (10)
• 以下では, f を線形写像とし, 変換 f の表現行
列が Jordan 標準形になるような基底を構成
する. 行列 A の Jordan 標準形を求めるとき
には, A に対応する線形写像を考えればよい.
• V を n 次元の複素ベクトル空間とし, f : V →
V を線形写像とする. 示すべきことは次の事
実である.
ある k > 0 と, k 個のスカラー λ
1, . . . , λ
kおよび各 λ
iに対応する m
i個のベクトル v
i,1, . . . , v
i,miが存在し (ただし m
i> 0, P
ki=1
m
i= n), {v
ij: 1 ≤ i ≤ k, 1 ≤ j ≤ m
i} は V の基底で, 各 i について次式を満たす:
f( v
i,1) = λ
iv
i,1f(v
i,2) = λ
iv
i,2+ v
i,1. . . ,
f( v
i,m) = λ
1v
i,m+ v
i,m−1Jordan 標準形 (12)
• f(v
i,j) に関する式を行列を使って書き直すと, f((v
i,1, . . . , v
i,mi)) = (v
i,1, . . . , v
i,mi)J
iとな る. よって,
f((v
1,1, . . . , v
1,m1, . . . , v
k,1, . . . , v
k,mk))
= ( v
1,1, . . . , v
1,m1, . . . , v
k,1, . . . , v
k,mk) J であり, したがってこの基底に関する f の表
現行列は Jordan 標準形である.
• 証明はVの次元nに関する帰納法による. n= 1の場合は,fの 表現行列はスカラーだから,証明すべきことは何もない.
• n−1まで主張は正しいと仮定して,nに対しても主張が正しいこ とを示す.
• (定義)f(W)⊂Wを満たすV の部分空間Wのことをf-不変部 分空間という.
• (補題)f:V →Vが線形写像であれば,V のn−1次元f-不変部 分空間Wが存在する.
(補題の証明)Vの基底v1, . . . ,vnを取り,この基底に関するfの表現行 列をAとする.A∗のある固有値をλとし,対応する固有ベクトルをw とする. X={x∈Cn:w∗x= 0}とおくと,XはCnのn−1次元部分 空間であり,よってW={(v1, . . . ,vn)x:x∈X}はVのn−1次元線 形部分空間である. (ただし(v1, . . . ,vn)xはv1x1+· · ·+vnxnを意味す る). また,f((v1, . . . ,vn)x) = (v1, . . . ,vn)Axで,w∗Ax=x∗A∗w= λx∗w=λw∗x= 0だから,Ax∈X. よってWはf-不変である.
• 先の補題により,Vにはn−1次元f-不変部分空間Wが存在する.
• 帰納法の仮定により,fをWに制限した写像については主張は正 しい. すなわち,あるk >0と,k個のスカラーλ1, . . . , λkおよび 各λiに対応するmi個のベクトルvi,1, . . . ,vi,miが存在し(ただし mi>0,Pk
i=1mi=n),{vij: 1≤i≤k,1≤j≤mi}はWの基 底で,f((vi,1, . . . ,vi,mi)) = (vi,1, . . . ,vi,mi)Jiとなる.
• Ω ={vi,j: 1≤i≤k,1≤j≤mi}とし, Ω∪ {v}がV の基底と なるようvを選ぶ.
• f(v) =λ0v+Pai,jvi,jとなる(λ0は固有値とは無関係)
• I(·)を恒等写像とし, f′(x) = f(x)−λ0I(x)とおく; すると f′(v) =Pai,jwi,j となる
• ある座標系でf′の表現行列がJordan標準形になれば,fの表現 行列はf′のそれにλ0Iを加えたものになるので,やはりJordan 標準形である. よって,f′について主張を示せばよい.
• fとf′の基底Ω∪ {v}(この順に並べる)に関する表現行列は,そ れぞれ,次のようになる. ただし,J′iはJiの対角要素をλi−λ1
で置き換えたもの.
f⇔
J1 ∗
. .. ... Jk ∗ λ
,f′⇔
J′1 ∗ . .. ... J′k ∗ 0
• λ′i=λi−λ1と定義する.
• 基底を取り直すことで,f′の表現行列を簡単にすることを考える.
• 先のページの∗の部分がはじめから零であれば,すでにJordan標 準形が得られているので,これ以上やるべきことは何もない.
• そうでない場合,∗の部分が零になるよう基底を取り直す.
• まず, ∀i, λ′i 6= 0の場合を考える. {pi,j : 1 ≤ i ≤ k,1 ≤ j ≤ mi}をパラメータとし, v′ =v+Pk
i=1
pi,1vi,1+Pmi j=2pi,jvi,j とする. Ω∪ {v′}は基底である. f′(v′) = P
i,jai,jvi,j + +Pk
i=1
pi,1λivi,1+Pmi
j=2pi,j(λivi,j+vi,j−1)
だから,各iに対 し, pi,mi = −ai,ji/λiとし, j = m−1, . . . ,1の順にpi,j =
−(ai,j−pi,j+1)/λiによってパラメータを計算すれば, ∗の部分
を零にできる.
• 次に∃i, λ′i = 0の場合を考える. 基底を並べ換えて, ∀j ≤ q, λ′j= 0,m1≥m2≥ · · · ≥mq,∀j≥q+ 1,λ′j6= 0のであるよう にする.
1. {pi,j:q+ 1≤i≤k,1≤j≤mi}を パラメータ とし,v(1)= v+Pk
i=q+1
pi,1vi,1+Pmi j=2pi,jvi,j
とする. Ω∪ {v(1)}は基 底である. 先と同様に,各i≥q+ 1に対し,pi,mi=−ai,ji/λi
とし,j=m−1, . . . ,1の順にpi,j=−(ai,j−pi,j+1)/λiとす れば,第q+ 1ブロック以降の∗の部分を零にできる.
2. i≤qであれば,f(vi,1) =0かつ∀j: 2≤j≤mi,f(vi,j) = vi,j−1である. v(2) = v(1)−Pq
i=1
Pmi−1
j=1 ai,jvi,j+1とする.
Ω∪ {v(2)}は基底である. さらに,f(v(2)) =Pq
i=1ai,mivi,mi となる.
• (∃i, λ′i= 0の場合,続き(1))
3. ∀i, ai,ji= 0の場合には∗の部分はすべて零になっているの で終了. そうでない場合には,r= min{j:aj,mj 6= 0}とす る. すると,f(v(2)) =Pq
i=rai,mivi,miとなる.
4. v(3;0)=v(2)とし,j≥1に対し,帰納的に,v(3;j)=f(v(3;j−1)) と定義する. 記法の 簡単のために,l≤0のときにはvi,l=0 と定義すると,v(3;1)=f(v(3;0)) =Pq
i=rai,mivi,miであり,J′i の構造より,v(3;j)=Pq
i=rai,mivi,mi−j+1となる.したがって, v(3;mr) =Pq
i=rai,mivi,mi−mr+1となり,i≥rならmr≥mi
であったから,f(v(3;mr)) =0である.
• (∃i, λ′i= 0の場合,続き(2))
5. 前段で構成したベクトルを逆順に並べると,
f((v(3,mi), . . . ,v(3,0))) = (v(3,mi), . . . ,v(3,0))Nmr+1 となり,
Jordan標準形の一部が構成されている. このステップにお
ける新しい基底の構成に関与したベクトルは, v(2)以外に は, {vi,j : r ≤ i ≤ q,1 ≤ j ≤ mi}のみなので, B1を {v(3;mr−j+1) : 1 ≤ j ≤ mr} ∪ {vi,j : r+ 1 ≤ i ≤q,1 ≤ j≤mi}をこの順に並べた基底の一部,B2を{vi,j:r≤i≤ q,1≤j≤mi}をこの順に並べた基底の一部としたとき,B1
とB2の張る空間が一致することを証明できれば, Jordan標 準形の構成が完了する.
• (∃i, λ′i= 0の場合,続き(3))
6. mr≥mr+1≥ · · ·geqmqであったことに注意する. r≤j≤q に対し,Dj=aj,mjImjとし,r+ 1≤j≤qに対してEj= (0mj×(mr−mj),Dj)とすると,B1はB2に以下の正方行列を右 から乗ずることで得られる.この行列は正則なので,我々が おこなったことが基底変換であることが示される.
Dr Er+1 Imr+1
... . ..
Eq Imq
Jordan
標準形(22)
• 以上の証明は, I. M. Gelfand (Translated by A. Shenitzer, Lec- tures on linear algebra, Dover, 1989の記述に手を加えたもので ある. 証明が長くて難しいことに驚いたと思うが,これでも相対 的には簡単な証明であり,線形代数の(きちんとした)教科書では,
Jordan標準形の導出に30ページ前後が費されているものもある.
• 以上の証明は相対的には簡単なのだが, Jordan標準形におけるブ ロックJiの大きさが行列(あるいは対応する線型写像)から一意 的に決まることが示せないという欠点がある.
線形連立微分方程式への応用 (1)
• 正方行列は, 基底の変換によって, 対角化可 能できる場合もあれば, できない場合もある
• 正方行列は, つねに, 基底の変換によって Jor- dan 標準形に変換できる
• これらの応用のひとつは, 線形連立微分方程
式の解法である
線形連立微分方程式への応用 (2)
• 微分方程式 x ˙ = Ax, x(0) = x
0を考える. た だし, x (t) ∈ R
nで, A ∈ R
n×nとする.
• この微分方程式の解は, x(t) = exp[At]x
0で あった.
• 行列が対角化されているか, Jordan 標準形に
なっていると, exp[At] を具体的に計算できる.
線形連立微分方程式への応用 (3)
• まず, ある正則行列 P によって, P
−1AP = D, D = diag(λ
1, . . . , λ
n) となっている場合 を考える. このとき, A = P DP
−1, このと き, A
2= (P DP
−1)(P DP
−1) = P D
2P
−1で, 以下帰納的に, A
k= P D
kP
−1.
• したがって, exp[At] = P
∞ k=01 k!
A
kt
k= P P
∞ k=0 1k!
D
kt
kP
−1線形連立微分方程式への応用 (4)
• D
k= diag(λ
k1, . . . , λ
kn) であるから, 以上によ り, A が対角化可能な場合には,
exp[At] = P
e
λ1t. ..
e
λnt
P
−1となる.
線形連立微分方程式への応用 (5)
• 次に, A の Jordan 標準形の特別な場合とし
て, P
−1AP = λI + N , N = 0 I
n−10 0
!
となっている場合を考える.
• A と B が可換な正方行列のときには, 通常の 指数関数と同様に, exp[A+B] = exp[A] exp[B]
が成り立つ.
線形連立微分方程式への応用 (6)
• A と B が非可換の場合は先の式は不成立.
• I と N は可換, よって
exp[(λI + N )t] = exp[λIt] exp[N t]
= e
λtexp[ N t].
• 帰納的に, N
k= 0
n−k×kI
n−k0
k×k0
k×n−k!
.
線形連立微分方程式への応用 (7)
• したがって, P
−1AP = λI + N の場合には
exp[At] = P
e
λtte
λt· · ·
(n−1)!tn−1e
λt. .. ... .. .
. .. te
λte
λt
P
−1• 一般の場合は上記の組み合わせ.
線形連立微分方程式への応用 (8)
• P
−1AP = diag( J
1, . . . , J
k), J
i= λ
iI
mi+ N
mi, N
mi= 0 I
mi−10 0
!
(1 ≤ i ≤ k) と すると・ ・ ・
exp[At] = P diag(exp[J
1t], . . . , exp[J
kt])P
−1• exp[J
it] は・ ・ ・
線形連立微分方程式への応用 (9)
exp[J
it] =
e
λitte
λit· · ·
(ntni−1i−1)!
e
λit. .. ... .. .
. .. te
λite
λit
線形連立微分方程式への応用 (10)
• 以上により, 任意の正方行列 Aに対し, exp[At]
が書き下せたので, 連立線形微分方程式の解
の具体的な形がわかったことになる.
Kronecker 積 (1)
• システム工学の分野では, 行列の Kronecker
積と呼ばれる演算が使われることがある. こ
れは, A = (a
ij) と B = (b
ij) という任意の 2
個の行列に対して定義され (型が合っている
必要はない), A ⊗ B という記号であらわさ
れる. A を m 行 n 列の行列とすると, A ⊗ B
は, 次のようなブロック行列である.
Kronecker 積 (2)
A ⊗ B =
a
11B · · · a
1nB
... ...
a
m1B · · · a
mnB
• B が p 行 q 列の行列であれば, A ⊗ B は mp
行 nq 列の行列になる.
行列値関数の微分と積分 (1)
• A (t) を各成分が時間 t の関数である行列とし たとき: A(t) = (a
ij(t))
1≤i≤m,1≤j≤n;
d A (t)
dt =
da
ij(t) dt
1≤i≤m,1≤j≤n
Z
t 0A(τ)dτ = Z
t0
a
ij(τ)dτ
1≤i≤m,1≤j≤n
と定義する.
行列値関数の微分と積分 (2)
• 各時刻 t における A(t) の逆行列 A
−1(t) が定 義され, かつ微分可能であると仮定する. この とき, A (t) A
−1(t) = I であるから, dA(t)
dt A
−1(t)+
A(t) d A
−1(t)
dt = 0, よって
dA
−1(t)
dt = −A
−1(t) dA(t)
dt A
−1(t) である.
多変数関数の微分 (1)
• システム工学では列ベクトルと行ベクトルを 使い分けることが普通.
• f : R
n∋ x 7→ f( x ) ∈ R が偏微分可能な実数 値関数であるとき, ∂f
∂ x は, 通常は,
∂f∂x1
· · ·
∂x∂fn
という行ベクトルとして定
義される.
多変数関数の微分 (2)
• f : R
n∋ x 7→ f (x) ∈ R
mが偏微分可能な ベクトル値関数であるとき, ∂ f
∂x は, 通常は,
∂f1
∂x1
· · ·
∂x∂f1... ...
n∂fm
∂x1
· · ·
∂f∂xmn
という行列として定義さ
れる.
多変数関数の微分 (3)
•
∂f
∂
x を f の Jacobi 行列あるいは Jacobian と 呼ぶ.
•
∂∂fx と
∂f
∂
x に定義が整合していたことに注意 する: すなわち,
∂f
∂
x は,
∂f∂x
1から
∂f∂x
mまでを 縦にならべたものになっている.
• ここまでは良いのだが・ ・ ・
多変数関数の微分 (4)
• f の偏微分を ∇f と書く流儀もある. ∇f は,
文献によって, 行ベクトルとして定義されて
いることもあれば, 列ベクトルとして定義さ
れていることもある.
多変数関数の微分 (5)
• 明示的には書かれていないが, 教科書では,
∇f を列ベクトルと定義しているらしい.
• 教科書では, ∂ f
∂x =
∂f1
∂x1
· · ·
∂f∂xm1... ...
∂f1
∂xn
· · ·
∂f∂xmn
と定義
している. この定義は ∇f を列ベクトルと定
義する流儀と整合性があるが, 少数派.
多変数関数の微分 (6)
• この講義資料の定義を使うと ∂
∂x (Ax) = A
• 教科書の定義を使うと ∂
∂x (Ax) = A
T• 多変数関数の微分では, ベクトルの型にバリ
エーションがあり, 混乱が発生しやすいので,
注意すること.
参考文献
• 笠原,線形代数と固有値問題,増補版,現代数学社, 2005
• 伊理,線形代数汎論,朝倉書店, 2009
• D. S. Bernstein, Matrix Mathematics, 2/e, Princeton University Press, 2009
• I. M. Gelfand (Translated by A. Shenitzer, Lectures on linear algebra, Dover, 1989
• 川久保,線形代数学,日本評論社, 1999
• 笠原,微分方程式の基礎,朝倉書店, 1982