喘息発作時における自律神経系の関与
著者 細川 友和
雑誌名 星薬科大学紀要
号 28
ページ 21‑30
発行年 1986
URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000060/
Pr㏄. Hoshi Pharm. No.28,1986
喘息発作時における自律神経系の関与
細 川 友 和
星薬科大学 薬理学教室
Involvement of Autonomic Nervous System in Asthma
ToMoKAzu HOSOKAwA
Dθ♪αγ励e砿oプPゐαγ獅σεo↓09ツ,正『os砺ση⑫θγs赫夕
1. はじめに
喘息(asthma)という言葉は,すでに古代ギリ シャで使われていた.この時代でも喘息が呼吸困 難を意味する言葉として使われていたことは間違 いないが,その概念・原因・治療などは今日のも のとはだいぶ異なっていた1).
喘息の定義は,この疾患自体が長い歴史を持つ ことから,時代の変遷とともに変わってきたが,
1958年ロンドンで開催されたCiba Guest Sym−
posiumにおいて「喘息は気道の広範な狭窄によ るもので,その強さが自然にあるいは治療によっ て短時間のうちに変化し,しかも心脈管疾患によ
らないものである」と定義された2).その後,ア メリカ胸部疾患学会は広範な気道狭窄は他の疾患 でも起こることから,気道の過敏性に重点をおい て,「喘息とは種々の刺激に対して気管および気 管支の反応性が充進していることを特徴とし,自 然にあるいは治療によってその強さが変化する広 範な気道狭窄を症状とする疾患である」と定義づ けた3).したがって,喘息の概念は気道の過敏性 を基礎にして発症する疾患ということであり,ア レルギーの機序によるものだけでなく,感染によ るもの(感染型,内因型),aspirinにより誘発さ
れる型(アスピリン喘息)なども含まれる.
アレルギーの機序による喘息のほとんどはIgE 抗体の関与する1型アレルギー反応に基づいてい
るが,最近では,皿型,IV型アレルギー反応によ る喘息も注目されつつある.いずれにしても,喘 息のメカニズムは複雑であり,今日でも不明な点 が多く残されている.喘息の発症の多くはアレル ギー反応が関与しており,アレルギー説は今世紀 に至り重要視されるようになった.しかし,アレ ルギー説は外因性喘息のみに通用すること,ま た,内因性喘息やアスピリン喘息などについては アレルギーの関与が明らかでないことが指摘され てきた.したがって,アレルギー分野からのアプ ローチだけでは十分でないという考えが研究者の 間に広がるようになり,気管支の過敏性・反応性 の充進の解明が叫ぽれるようになると,必然的に 喘息発作(極度の気道収縮)に対する自律神経の 役割が問われるようになった.
気道に関する反射効果として,呼吸反射が古く から知られている.この反射が誘発されると呼吸 運動以外に,気道平滑筋,心臓・血管系活動,脊 髄反射にも同時に反射効果が出現する4−6).また,
これらの反射効果は咳噸反射時にも現われる7・8).
一般に,気道平滑筋の反射性調節として,9種類 本研究の一部は昭和60年度星薬科大学大谷研究助成の対象となったものである(紀要委員会).
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の反射性調節機序が知られている5).この中には,
気道粘膜上皮刺激による反射も含まれており,
ether,アンモニア, SO2などの刺激性化学物質お よび炭素微粒子の吸入あるいは気管粘膜の器械的 刺激によって気道の収縮が誘発される.一方,喘 息における抗原抗体結合からアレルギー反応の発 現にいたる機序には,histarnine, acetylcholine
(ACh), serotonin, bradykinin, prostaglandins,
leukotriensなどのchemical mediatorsの遊離 が関与している.したがって,アレルギー性喘息 発作時には,これらchemical mediatorsの遊離 による直接(一次)的な気道収縮以外に,chemト cal mediatorsの刺激性による自律神経を介した 間接(二次)的な反射性の気道収縮,すなわち chemical mediatorsが気道上の何らかの受容器 を刺激し,迷走神経求心路一中枢一迷走神経遠心 路の反射弓を介して,神経末端からACh遊離に
よる気道収縮が関与していることも考えられる.
このような観点から,本稿では,まず,気道上の 感覚受容器について述べ,喘息発作における副交 感神経反射(以後,迷走神経反射と表現する)お
よび交感神経系の関与,さらに非アドレナリン作 動性・非コリン作動性神経系の関与について,研 究の現況を展望する.
2. 気道上に存在する受容器
気道上に存在する受容器は古くから呼吸反射に 関連して研究されてきた9).多くの感覚受容器が 提唱されたが,Widdicombeにより1)irritant
recepter,2)stretch receptor,3)J・receptor,4)
cough receptorの4種類に集約された5).しか し,cough receptorについては,ほとんど研究 されておらず,この種の受容器が存在するという 証明も,また,存在しないという証明も行なわれ ていないため,とりあえず分類のなかに残してお かざるを得ない5)ことから上記の4種類に分類さ れたが,ここでは他の3種類の受容器について述
べる.
1) Irritant receptor
気道内における機械的および化学的な刺激に対 して反応するところから刺激受容器と呼ぽれてい る.以前,rapidly adapting tracheal receptor
(mechano−receptor)およびilltermediate recep−
tor(chemo・receptor)と呼ばれていた受容器を理 在では両老を合わせてirritant receptorと呼
ぶ10 11).1「「itant recePtorという表現はNade1
とWiddicombel2)が最初に用いたが,気道内全 面に分布するといわれており,刺激に対して速く 順応する性質があるところからrapidly adapting receptorに分類される13). Irritant receptorか らの求心線維はAδ線維群で伝導速度は4−26m/
secである5).
Irritant receptorに対する刺激としては化学的 な刺激性ガスの吸入,炭末のような機械的な刺 激14),肺のinHati皿およびdenationlo・15),気 胸16),pulmonary congestionや microembo・
Iism17)があり,反射効果としてはHering−Breuer reHexl8)やparadoxical reHex19・2°)などがある.
また,咳漱反射にもirritant receptorが関与し
ている2D.
2) Stretch receptor
Stretch receptorは肺のみでなく,気管および 気管支にも存在し22−26),気道の伸展により興奮す る.順応性が遅いことからslowly adapting re−
ceptorに分類され 5・27),求心性線維はAα, Aβ,
Aγ,Aδ線維群で伝導速度は14−59 m/secであ
る28).
反射効果としては,Hering−Breuer inflation reHex18)があり,肺に急に空気を入れて拡張させ ると呼吸停止を起こすが,動物種により反射効果
の強さが異なる29).
3) J−receptor
Paintalはphenyldiguanideの投与によって 興奮するstretch receptorとは異なる肺受容器 を見出し,specific deflation receptorと名づけ た3°).その後,種々の刺激に対する反応態度が明 らかとなり,その受容器が肺胞壁で毛細血管に近 接した部位に局在することからjuxta−pulmonary
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capillary receptor(J−receptor)傍毛細血管受容 器と改名された31).
求心性線維の伝導速度は0.8−7.Om/sec(大部 分は3m/sec以下)で,生体内でJ・receptorが 刺激を受ける状態としては,肺うっ血 肺の浮 腫,肺塞栓,塩素ガスのような刺激性の強いガス の吸入などが考えられる5).J−receptorは肺の収 縮以外に,強い拡張によっても興奮し3 ),反射効 果としては呼息位における呼吸停止とそれに続 く,浅く速い呼吸が挙げられる32).最近,J−re−
ceptorに類似した生理的特質を示し,伝導速度 2.5m/sec以下の迷走神経無髄線維求心路をもつ 受容器がイヌの気管支壁33),ネコの喉頭壁34)にも 見出され,C神経線維末端部(C一丘ber ending)と 名づけられたが,これらが肺胞壁以外の部位に存 在するJ−receptorであるかどうかは,今後の研 究課題である.
3. 副交感神経系(迷走神経)の関与
副交感神経の遠心性気道支配は,迷走神経を介 して行われる.この遠心路は延髄の迷走神経核か ら出て,節前線維として迷走神経内を走行し,気 道平滑筋近傍の迷走神経節に達する.その後,節 後線維となり気道平滑筋に至る.この副交感神経 の興奮により神経未端から化学伝達物質である AChが遊離され,気道平滑筋上のシナプス後部 の受容体に働き気道収縮が起こる.したがって,
頸部迷走神経を切断し,その末梢端を遠心性に電 気刺激することによって気道平滑筋の収縮がみら れる35)が,1eukotriensなどに比較するとその最 大効果の持続は一時的なものである36).この副交 感神経が,気道平滑筋緊張の調節において重要な 役割を果たしていることは,古くから知られてい たことであるが,最近,その支配様式について様 々な知見が得られている.
頸部迷走神経の遠心性電気刺激による気道収縮 は15−30秒で最大反応に達し,その後は刺激を持 続させても減少し,刺激の中止により数秒で気道 収縮はもとに戻る37).電気刺激を持続しても気道
収縮が減少することについて,迷走神経や平滑筋 の疲労も考えられるが,仇碗γoの実験で,気道 収縮時にprostaglandin E(PGE)が遊離される38)
ことが報告されており,このPGEがAChの遊
離に抑制的に働く可能性も示唆されている39).ま た,仇o藺oの系でも,indomethacinでPGEの 生成を阻害した後では,迷走神経の電気刺激によ
り気道収縮が増強し,反応も持続すること,さら に,leukotriensに対する気道収縮も増強される ことが認められている4°).さらに,histamineが 迷走神経末端を刺激し,AChの遊離を誘発する
ことも示唆されており4D,気道平滑筋に対する副 交感神経の支配については,今後さらに新しい知 見が現われる可能性がある.
近年,histamineにより誘発される気道収縮に 対する迷走神経の関与がウサギ42),イヌ43・44),ヒ
ト45−47)で報告されている.また,アレルギー性の 気管支収縮反応がatropine適用,あるいは迷走 神経遮断によって抑制されることが報告されてお
り48−51),これらの気道収縮に対する迷走神経の関 与が重視されている.気道収縮における迷走神経 の関与を検索するためには,神経遮断を行なう必 要性がある.そのためには,atropine適用,迷走 神経の切断および神経の冷却などが考えられる,
冷却法は,神経切断とは異なり可逆的な神経遮断 が可能である.迷走神経の冷却は,呼吸反射の研 究で古くから行われている13 52)が,本邦ではほと んど報告されておらず,欧米における報告でも詳 細な実験方法は記載されていない.神経冷却の実 験では,神経をすみやかに冷却する必要があると
ともに,冷却を中止した後に再びすみやかに温度 を上昇させ神経機能を回復させる必要がある.
上述の目的を達成するため,著者らはther−
modeを神経に装着し,これに冷却水あるいは温 水を灌流する方法を選択し,図1に示すような thermode(銅製でニッケルメッキした2つのブロ ックからなり,神経をはさみ込む形式になっいる.
図中の矢印の向きに冷却水を灌流する.両側迷走 神経冷却のために2個のthermodeが必要にな
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2→ト
⇒
→
一 一 一 一一 一
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〇
〇
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占〒
皿
Fig.1 Diagram of the thermode for vagal cooling.
る)を考案・作製した53).神経の冷却に使用され るthermodeは神経に対して装着の影響がなく,
さらに,完全な神経遮断が得られるものでなけれ ばならない.冷却法をもちいた迷走神経遮断によ
←
90 80
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10cmH.0
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R.Bronch.A.
Cooling Apparatus
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inhalation
i.v.
HLst ACh ∈←HT PGF2瓜 O、00125『ら O,00125●ノ』 0.OO125η. O.00010 o
祈P<0.05 昏苦P<0.01
Fig.3 Effects of vagal cooling on bronchocon−
striction induced by inhalations for 10 min of histamine(Hist), acetylcholine(ACh), sero−
tonin(5−HT), and prostaglandin F2α(PGF2α).
The vagus nerves were cooled to O°C(口)
and then rewarmed to 32°C([コ). Vagus nerves at 32°C before cooling(■■■). Each column is the mean value with S.E. for 丘ve experiments. The changes are signi丘cant at*P<0.05 and **P<0.01 against response before cooling vagus nerves.
ノ
8100d Pr●ssur6
H艶rt Ra佃
・Fig.2 Diagram of the preparati皿for perfusing the right bronchial artery沈s∂〃with the femoral arterial blood and for drug inhala−
tion to the airway in the dog. The right bronchial artery was perfused with blood at a constant pressure under arti丘cial respira−
tion. Airway musculature response was measured as a change in ventilation overHow with a皿odi丘cation of the KonzettR6ssler method. The vagal cooling was performed by circulating cold water through the ther mode attached to丘t snugly around the bila−
teral vagus nerves. Drugs were closely in・
lected into the rubber tubing lust proximal to the perfused artery or inhaled into the airway by an ultrasonic nebulizer.
り,迷走神経の機能を検討した報告では,心拍数 増加やHering−Breuer反射の消失等の間接的な 反応を神経遮断の指標としているに過ぎない.著 者らは,迷走神経より導出した求心性インパルス を指標として,冷却条件の検討を行なった.ま ず,thermodeを神経に装着するという操作自体 で神経機能に影響を及ぼしてはまずいため,この 点を小型電算機により神経インパルス波形の演 算・解析により検討した.その結果,thermode を装着する前と装着した場合で影響がみられない ことを確認した.さらに,冷却の温度条件の検討 により,0°Cにおいて完全な神経遮断が可能であ ることを確認した.0°Cの冷却を30分間行なった のち,冷却を中止し,thermodeに温水を灌流す ると,イソパルスは速やかに発現することから,
冷却による迷走神経の機能的な損傷はないことが 確認できた.このthermodeを用いて,図2に示 したような標本で,histamineを気管支動脈内あ
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るいは吸入適用させて,気道収縮を惹起させ迷走 神経の関与を検討した.その結果,histamine誘 発にょる気道収縮は迷走神経の冷却により抑制さ れた.吸入適用の場合の結果を図3に示したが,
histamilleのみでなく, ACh, serotoninおよび PGF2、による気道収縮においても迷走神経の関与 が認められた53).また,アスカリス抗原を用いた 実験的喘息の際にも迷走神経反射性の気道収縮が 存在する54).これらの末梢気道から反射的に誘発
される気道収縮における迷走神経の関与の程度に ついて,その程度は小さいという報告55)もある が,著者らの結果では,その程度はchemical mediatorによって異なっていたが,気道収縮全 体の4割近くを占めており,迷走神経反射性気道 収縮の占める割合がかなり大きなものであること が明らかとなった53).したがって,迷走神経を介 する反射性の気道収縮は喘息発作の際に気道収縮 の大きな要因となっていることが示唆される.迷 走神経反射性の気道収縮反応について,さらに詳 細な検討を行なうためには,反射性の収縮成分の みを直接的な収縮成分と分離して検出することが 必要となる.この目的を達成するため,著者ら
←
Cooling Apparatus
Fig.4 Diagram on the preparation for drug in−
halation to the airway and for evaluating vagal ref]ex tracheal constriction in the dog.
Tracheal musculature response was meas−
ured as a change in the intratracheal pres.
sure of an air一五11ed balloon. Bronchial mus・
culature response was measured as a change in ventilation overHow with a modi丘cation of the Konzett−R6ssler method. The vagal cooling was performed by circulating cold water through the thermode attached to fit snugly around the bilateral vagus nerves.
Drugs were inhaled in the bronchial side using an ultrasonic nebulizer or injected i.v.
into the cephalic vein.
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Fig.5 Effects of vagal cooling and section of the bilateral superior laryngeal nerves (S.LNJ on the bronchial and refiex tracheal constriction induced by histamine inhalation. A O.00125%histamine solution was inhaled for 10 min in the bron・
chial side. Each column is the mean value with S. E. for丘ve to six experi−
ments. The changes are signi丘cant at*P<0.05 and**P<0.01 against control vahles.
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は,咳漱反射の実験に用いた標本7)を改良し,気 管支側への刺激により誘発される迷走神経反射性 の収縮を気管の部位で検出できる標本を考案し
た56)(図4).
迷走神経反射性の気道収縮の反射経路の中で,
求心路は迷走神経求心性線維のみであると考えら れていたが,上記標本で検討した結果,受容器か
ら反回神経一上喉頭神経を介する求心路の存在を 確認することができた(図5).迷走神経反射性気 道収縮に関与している受容器としてirritant re・
ceptorが報告されているが,気道上には前述し たように種々の受容器が存在している.迷走神経 反射性の気道収縮に対して,irritant receptor以 外の受容器の関与については報告されていないた め,著者らはこの点について検討した.まず,
histamineを吸入する前にisoproterenolを気管 支側へ吸入し,histamineによる気管支収縮をま ったく起こさせないような条件で,気管における 迷走神経反射性収縮を観察すると抑制がみられた ことから,histamineによる気管支収縮それ自体 も迷走神経反射を引き起こしていることが明らか となった(図6).したがって,迷走神経反射性の
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Fig.6 Effect of isoproterenol(lso)on the bron.
chial and reflex tracheal costriction induced by histamine inhalation. A O,00125%hista−
mine solution was inhaled for 10 min in the bronchial side. Isoproterenol inhalation was carried out in the bronchial side. Each co1.
umn is the mean value with S.E.for five experiments. The change is signi丘cant at **P<0.01against the control value.
気道収縮にはirritant receptor以外の受容器も 関与しており,迷走神経反射性収縮は複数の受容 器が関与する複合効果であるといえる56).
今後の課題としては,迷走神経反射性の収縮に 対する化学受容器(頸動脈小体)の関与が挙げら れる.臨床上,喘息発作時には極度のハイポキシ ア状態に陥るが,血中の酸素レベルと迷走神経反 射性気道収縮との関連性については,まだ十分に 検討されていない.呼吸反射が頸動脈小体の化学 受容器を介して修飾を受けるという報告57)もあ り,この問題は喘息発作に対する迷走神経の関与 を検討する上で,今後の課題として重要であると
考える,
4. 交感神経系の関与
交感神経は胸髄または腰髄の側柱から発する.
これらの部位からでる節前線維は,脊髄の両側を 縦走する交感神経幹に入る.肺に行く交感神経
(節前線維)は,胸髄上部(第1−4胸髄)から出て 星状神経節でシナプスを形成し,節後線維とな る.組織学的には,肺血管や副交感神経節への交 感神経分布は認められているが,多くの種で交感 神経の気道平滑筋への分布は乏しい.例えば,モ ルモット,ネコ,イヌでは気管支平滑筋に交感神 経が分布しているが58),ラット59),ニワトリ58),
ウサギ58),ウシ6°),ヒト61)では気道平滑筋に対す る直接的な交感神経の分布は認められていない.
交感神経による気道平滑筋の直接支配の欠如にも かかわらず,交感神経の刺激で気管支が拡張する ことは臨床的にも確かめられている62)が,この機 序の詳細は明らかでない.考えられることとして は,副腎髄質よりのカテコールアミソの遊離,迷 走神経節の抑制63),迷走神経節後線維の前シナプ スレベルでの抑制(presynapticα一adren㏄ep−
tors),さらに,平滑筋に分布している血管の周囲 に分布する交感神経からのnorepinephrineの流 出などが挙げられる.
イヌにおいて胸部の交感神経の切断64),あるい は星状神経節と迷走神経間を走る交感神経である
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鎖骨下係蹄(ansa subclavia nerves)65)を切断す ると,気道抵抗のわずかな増加をきたす.このこ とは,交感神経によっても,軽度の拡張性緊張が 気道に存在することを示唆している.しかし,イ ヌの迷走神経を切断した後では胸部交感神経の刺 激で気道の大きさ66),および抵抗35)に有意の変化 は認められない.このことは,気道平滑筋の緊張 が迷走神経切断によってすでに消失していた結果 であることが老えられる.また,β一遮断薬である proprano工01は,動物において気道の収縮を起こ す66−68).この収縮は迷走神経切断あるいはatro−
pine投与で消失する69).
喘息発作の際に迷走神経反射性の気道収縮が存 在することは前述したが,その際に交感神経が収 縮を抑制するように働いているとすれば,生体防 御機構として大変都合が良いわけだが,この機構 に関しての検討は行なわれていない.著老らは,
前述の標本を用いて検討したところ,histamine 誘発による反射性収縮においても,また,アスカ リス抗原を用いた実験的アレルギー喘息の際の反 射性収縮においても交感神経系が抑制的に働いて いることを確認した(図7)7°).
近年,気道収縮におけるα一受容体の関与につ
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Fig.7 Effects of propranolol and transection of the spinal cord together with propranolol on tracheal and bronchial constrjctions induced by O.00125%histamine inhalation. Each co1−
umn輌s the mean value with S. E. for丘ve experiments、 The changes are signi6cant at *P<0.05and**P<0.01 against control value.
いて多くの報告がみられるようになってきた.ヒ トの気道平滑筋にはα一受容体が存在し,この刺 激により気道収縮を引き起こす71・?2).また,α一受 容体は正常老よりも肺疾患を有する患者の平滑筋 で著名に認められる73).α一受容体の気道過敏性に おける関与については,histamine74・75)や運動76)
によって誘発された気道収縮にα一遮断薬が有効 であることから,何らかの関与が考えられる.ま た,前シナプスのα2一受容体の刺激によって,気 道においてもAChの遊離が抑制されることがモ
ルモッド7),ヒト78)で認められている.
5. 非アドレナリン作動性・非コリン作動性神 経系の関与
自律神経系はコリン作動性とアドレナリン作動 性神経の二つの神経系から成っていることは従来 からの知見であるが,今日では胃腸管に第三の自 律神経支配のあることが明らかとなった.この神 経系は非アドレナリン作動性・非コリン作動性神 経と名づけられている.一方,気道系は発生上原 腸の前壁より生ずるので,気道系においても同様 の神経支配が考えられる79).Richardsonはヒト およびモルモットの気道平滑筋がatropine, pro・
pranolol, phentolamineなどで自律神経を遮断 した後でも電気刺激に応じて弛緩することをみい だし,これは腸管にみられる非アドレナリン作動 性神経と同様の神経であると報告した8°).最近で は,気道においても非アドレナリン作動性神経が ニワトリ81・82),モルモット83−87),ウサギ88),ネ
コ85−89),サル82・87),ヒト61 9°)に存在することが明
らかとなっている.しかし,イヌ89)やウシ6°)で はその存在が確認されていない.
非アドレナリン作動性神経の経路は沈物oの 実験でatropine,β一遮断薬投与後に頸部迷走神 経を刺激すると気道の拡張がみられることから,
この神経系は迷走神経内を走行していることが考 えられる.また,hexamethonium(C6)でこの拡 張が抑制されることから,非アドレナリン作動性 神経も神経節で線維をかえて,節後線維が平滑筋
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に分布していることが示唆される.しかし,気道 上での局在性や節前線維の細胞体の中枢神経系の 部位についても不明であり,知覚経路が迷走神経 反射の場合と同様であるか,また,反射経路の存 在も今後の検討が待たれるところである.伝達物 質については,ATPであるという意見もある91)
が,今日ではvasoactive intestinal peptide
(VIP)であるといわれている92).喘息発作におい て,この非アドレナリン作動性神経がどのような 役割を演じているかは不明であるが,この神経系 の欠如が喘息発作を悪化させることも考えられる ことから,このことは今後の研究課題として重要 である.
気道における非アドレナリソ作動性神経につい ては多くの報告がみられるが気道における非コリ ン作動性神経についての報告は少ない.Grund−
str6nら93)はモルモット気管の経壁刺激でatro・
pineに抵抗性をもつ収縮がみられることから,
気道においても非コリン作動性神経が存在するこ とを示唆した.その後,非コリン作動性神経は気 管支には分布するが,気管には分布しないことが 報告され94),さらに,初吻oの実験でも気道系 において非コリン作動性神経の存在が確認され た9り.この非コリン作動性神経による気道収縮が substance Pの拮坑薬で抑制される95−98)ことから 伝達物質はsubstance Pではないかと考えられ
ている.
喘息発作時の気道収縮に対する非コリソ作動性 神経の関与は不明であるが,迷走神経の遠心性電 気刺激による気道収縮をsubstance Pが増強す ることから,substance PはAChの遊離を促進 すると考えられている99).さらに,非コリン作動 性神経にょる気道収縮にα2一受容体が抑制的に作 用していることが報告1°°一 °2)されており,喘息発 作に対する非コリン作動性神経の関与が示唆され
る.
6. おわりに
喘息の発症においてアレルギー反応は重要な位 置を占めているが,自律神経系の関与も見逃すこ とができない.特に,喘息発作は精神的な影響を 受けやすいとされているが,中枢の影響を気道の 末梢に伝えるのが自律神経系である.自律神経系 は気道系に対しても複雑に関与しており,この作 用を解明することは喘息という非常に複雑な疾患 の解明において,その一助になると考える,
謝 辞
本研究を行なうにあたり,大谷孝吉理事長より昭和 60年度大谷研究助成金を賜わり,謹んで感謝申し上げ
ます.
また,本研究を行なうにあたり,御指導を頂きました 柳浦才三名誉教授に深く感謝申し上げます.
さらに,御協力を頂きました本学薬理学教室の皆様に 厚く御礼申し上げます.
文 献
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