清代に於ける性を巡る法秩序とその司法的保護
著者 森田 成満
雑誌名 星薬科大学一般教育論集
号 20
ページ 63‑82
発行年 2002
URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000218/
清 代に於ける性を巡る法秩序とその司法的保護
森田 成満
目 次
序言:⁝⁝⁝⁝・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝−⁝・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・⁝⁝六三
第一節 性を巡る法秩序の内容とその成り立ち⁝⁝⁝・⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝:⁝・⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・⁝・⁝六五
第一款 性を巡る法秩序の内容⁝⁝⁝・⁝⁝⁝・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝・六五
第二款 性を巡る法秩序の成り立ち・⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝・⁝⁝⁝七二
第二節 性を巡る法秩序の司法的保護⁝⁝⁝⁝⁝⁝・・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝・⁝⁝七五
結 語 ⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・八二
序言
63 本稿は準則の立体的な仕組みに留意しながら清代に於ける性を巡る法秩序とその司法的保護のあり方を明らかにするこ
64 とを目的とする︒
まず︑準則の内容に着眼して︑官が性交渉はどのような男女の間でなすべきであると考えており︑性的感情を損ねる狼
褻な行為をどこまで容認しているかという性を巡る法秩序の内容を見る︒そして︑働きに着眼して法と礼の関係を見るこ ω働 とを通して︑その法秩序の成り立ちを解明する︒
次いで︑この秩序を司法上実現するための仕組みを見る︒侵された秩序をもとに戻し︑侵したものを処罰した︒
どのような男女の性交渉を容認するかはどこまで個人の意思に沿って自由に行動できるかということを性交渉という限
られた具体的な事柄に着眼して見るものである︒その制約は主に身分と関係しているのであって︑そこから逆に身分秩序
の 特徴の一端を垣間見ることもできる︒
関連する事柄を巡る論稿は数多いけれども︑本稿のような問題関心からする先学の業績はない︒史料は律例を軸にする︒
註 ω 法と礼の関係と役割を巡る儒家と法家の考え方の対立と融合については︑既に法思想史の観点からなされた先学による業績があ
る︒︷例えば︑聖同祖﹃中国法律与中国社会﹄︵龍門書店︑一九六七年︶二一四頁以下︸︒
儒家は人は礼に沿って行動するべきであり︑政治は自ら徳を積んだ人がなすいわば人治により︑内容的には徳治主義をとるべきで
ある︒礼は教化によって実現され︑そこに法は必要ないとする︒法家は厳罰主義をとる法をすべての人に等しく適用すると主張する︒
この儒家と法家の対立が解消する形で法は変容していく︒漢代には︑まずは教化により礼に従わせ︑それを助けるものとして刑罰
を背景とする法を整備するいわゆる儒法融合が進んだという︒︷中村茂夫﹁不応為考1﹁罪刑法定主義﹂の存否をも巡ってー﹂︵金
沢 法学巻二六の一︶二三頁︸︒
② 官が定めたものではない自然の行為規範という点では礼を道徳と呼ぶこともできる︒ただ︑通常の意味に於ける道徳が内心に着眼
するものであるのに対して︑礼はそれが外面的行為として現れたものに着眼しているという特徴はある︒
第一節性を巡る法秩序の内容とその成り立ち 第一款性を巡る法秩序の内容
性を巡る法秩序は誰のどのような行為を認めるかという形でできている︒
ど の ような男女の間の性交渉を許すかは人をどのように位置付けるかということと関係する︒
万 人 を自由︑平等︑独立したものとして措定する現代法は人間の主体性を軸にして︑性交渉は男女の自由な意思の合致
護 解 に 基つくべきであ唾する︒それ故︑強姦は違法である︒+三歳未満のものは畠意思が確立していないとしてそれとの
誠 性交渉は強姦になる︒
⑳ また︑私法上︑夫と妻は互いに貞操義務を負い︑配偶者のあるものとの性交渉はその配偶者に対する不法行為となる︒
と 序 ﹁夫﹁婦制度をとり︑重婚を犯罪とする︒原則として︑後婚は取り消すことができる︒優生学的配慮や倫理的見地から 秩
法 一定範囲の近親者間の性交渉を認めなかったり︑肉体的あるいは社会的な成熟の程度を考慮して幼少年者の性交渉を認め る 巡 ないという考えが︑それらのものの婚姻を取り消し得るとする制度に現れている︒
碓 未婚のもの同士の自由意思に基づく性交渉を一般的に排除する法はない︒同性間の関係も法は関知しない︒ただ︑金銭
し
ブ ぬ
於 を対価として性交渉をなす売春の契約は良俗に反して無効であるしそれは男女ともに犯罪となる︒
に 齢 性 交 渉 を認める男女の範囲に関する清代法の仕組みの特徴は︑内容の異なる複数の準則が併存し︑その中に軸となる準
則があるところにある︒複数の準則が存在し時に調整されることは︑刑事重案の準則が調整されないのを原則とするのと
5 ー
ハ
リ ほ は対照的であり︑軸となる準則の準則としての力が弱いことを示している︒そして︑どこまでどのように調整しているか
66 に よってその時代の法秩序のあり方は決まる︒
準 則にはそれぞれ目的がある︒身分秩序は人々を上下の関係の中でそれぞれの役割をもつものとして有機的に関連付け
る︒そして︑身分秩序を守りながら男系の血の連続を保持するという目的から︑性交渉は限られた範囲の男女の結合制度
で ある夫婦間にのみ認めるという準則が軸となる︒
婚約がなされれば輿入れして婚姻が成立する前でも女に妻という呼称を与えるけれども︑性交渉をなすことは容認され ④ ない︒輿入れし童養していれば輿入れしていないよりは違法性が小さくなるけれども︑その間の性交渉は許されない︒道 ⑤⑥ 光二年広東司現審の案がある︒
提督の杏送︒胡六五は戴張氏の娘の紐見と婚約して妻とし︑輿入れして童養とした︒その犯人はほしいままに妊見と姦をなした︒た
だ︑調べると紐見は既に輿入れして童養としている︒輿入れしていないものとは距離がある︒胡六五を男女が婚約はしたけれどもまだ
輿 入れせずに密かに通じて姦したとき子孫違犯教令に比依して杖一百とする律に依って勘酌して一等を減じて杖九十に定擬する︒
正 妻は一人に限られる︒婚姻をなし得ない男女の間では性交渉はあってはならない︒婚姻は近親相姦にならないように
ア 男系の血のつながりのない男と女の間でなされなければならない︒身分秩序を反映して︑尊卑間︑良賎間では婚姻できな
ゆ リカエ ロ ロロ い︒僧道は婚姻できないし︑官員は管轄地の婦女とは婚姻できない︒
そ して︑子が生まれないときは離婚できる建前であって︑夫婦は性交渉を認められるだけではなく︑性交渉をなす義務 ⑭ が 存
在 する︒夫婦は同居して協力するべきである︒
準 則の併存は第一に︑軸となる準則の目的の達成が困難なときに目的が成就するように補充することに起因する︒妾制 08㈹ 度 が
果 たす役割の一つに庶子を生むことにより男系の血の連続を保持するということがある︒
⑰
妾については律や条例に規定され︑それなりに強い準則として官が承認する制度となっている︒
妾にも男系の血のつながりがあってはならない︒そこには男子が生まれたとき父子関係の存在がはっきりするだけの共
同生活がある︒ 08 妾は︑通例︑宗への帰属は拒まれるけれども︑家族員の一人とされる︒そこから夫婦間にのみ性交渉を認めるという準
則は調整されて︑夫と妾の間の自由な意思に基づく性交渉は容認されることになる︒
第二に︑軸となる準則が目指す目的の成就を妨げなければ︑他の目的を遂げようとする行為がそれ程の悪性がない限り
放 任 されたために︑準則の併存が起ることがある︒その目的には︑例えば︑家族の生存を維持するためとか社会的威信の ⑳
誇 示のような社会経済的な要因や性欲の充足がある︒
護 ⑳ 解 家 族の生存の維持を計るために貧しい夫婦がなす招夫養夫のようないわば事実上の期限付きの婚姻があり︑妻と招夫養
誠 夫との性交渉が時に容認される︒
初 雍 正 年 間まで§民に姦とい曇忌はなく治安を悪化させる現実の恐れがなければ売春をなす・・とは認められてい輌
と 序 そして︑男はそこで春を買い欲望充足の目的を遂げることができた︒ 秩 ㈱
法 ところが賎民を解放して良民となし︑売春を姦になるとして禁止するようになる︒売春する婦女や相手方の男子を処罰 る o 巡 する嘉慶+五年に制定して盛三年に改正した条例があ勧︒
生 剤 ただ︑良俗とか自由の内容が現代法とは異なるのであって︑性交渉をなす対価として金銭の授受をなしても良俗に反す
け
於 る程の違法な行為とは考えていないし︑売春をなすに至る段階で強制されていても直接に身体を拘束しなければ︑それ程
に 猷 畠を制約するものともとらえない.賎民の曙は賎民︑い身分をなくして皇帝と畠で平等な人民が対峙する云万
民 的秩序にしたところに意味があるのであって︑管理売春は男女間に共同生活がないたあ︑秩序を破壊する恐れはないと
67 ㈱
してその後も往々容認されたらしい︒
官は狼褻な行為を排斥する︒ただ︑現行刑法の狼褻物頒布等の罪に相当するものが主であって︑行為そのものに着眼す 8 6 ⑳ る現行刑法の公然狼褻罪に当たる例は少ない︒物の頒布等と異なり︑行為は継続性に乏しく違法性も小さかったらしい︒
卑 狼な言葉をかけられて恥じらって自殺した人がいたときに言葉をかけたものを処罰する刑律威逼人致死条に付された次
の ような条例がある︒
およそ︑いなかの愚民がもともと姦を図る心はないし︑また︑手足をつかんで誘惑したり押さえ付けてせっばつまり辱める情況がな
く︑口に出して馴々しくしただけであるのにその婦人が一旦汚い言葉を聞いてすぐに命を軽んじたときは︑強姦未成本婦毒念自蓋例に
照 らして一等を減じて杖一百流三千里とする︒
しかし︑卑狼な言葉をいっただけのものに関する規定はない︒親属がなす一般的な教令や︑あるいは道徳により規制し
たのであろう︒
註
ω 特に児童を保護する法律として︑児童買春︑児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律が制定されている︒︵平
成二年施行︶︒
② 金銭の授受が伴う合意に基づく男色行為を処罰する法規はない︒不可罰ということになるのであろうか︒
③ 民事的分野は準則が併存していることが少なくない︒土地所有権を巡り準則が併存する仕組みについては︑拙稿﹁清代に於ける民
事
法 秩序の構造再論﹂︷﹃混沌のなかの所有﹄︵国際書院︑二〇〇〇年︶所収︸を参照︒
ω 刑案睡覧巻七︑戸律婚姻男女婚姻条﹁提督 杏送張雪見聴定趙氏之女二紐為妻⁝道光二年広西司現審案﹂︒
⑤
同右書同巻同条﹁提督 杏送胡六五見聰定戴張氏之女紐見為妻⁝道光二年広東司現審案﹂︒
⑥
滋賀秀三博士はこの事案等から定婚中の男女の情交を教令違犯の罪に問い姦罪には問わないとされる︒︷滋賀秀三﹃中国家族法の
原 理﹄︵創文社︑一九七六年︒以下滋賀著書と記す︒︶四七三頁︸︒しかし︑姦は姦であって処罰のみ減じているものとして説明するべ
きである︒ m 大清律例︷﹃大清律例彙輯便覧﹄︵光緒二九年︑成文出版社影印︶を使用︸巻十︑戸律婚姻︑同姓為婚条︒同右書同巻嬰親属妻妾条
を参照︒
⑧
同右書同巻尊卑為婚条︒
⑨ 同右書同巻良賎為婚姻条︒同右書同巻嬰楽人為妻妾条を参照︒
ω 同右書同巻僧道嬰妻条︒
ω 同右書同巻要部民婦女為妻妾条︒
03 婚姻できない場合として︑他に同右書同巻逐婿嫁女条︑同右書同巻居喪嫁姿条︑同右書同巻父母囚禁嫁要条を参照︒
03 家
族 員は上下の身分秩序の中でそれぞれ果たすべき役割をもつ︒それ故︑具体的な場合ごとに各人の役割を解明していくのが至当
である︒
万 人を権利能力と原則として行為能力をもつ自由︑平等︑独立なものとして位置付ける現代法の意思表示は︑制約の少ないところ
護 で 個 人 が 自由な意思に基づいて主体的になすものである︒
保 清代に於ける家族という身分秩序の中でなされる法的な働きをする意思表示は︑制約された枠の中の各人の役割として見ていかな ㎜ ければならな・︒・・には身分秩序の中の意思表示であ・・とを反映す・い〜かの特徴がある︒竺・︑・も・も身分の変動・果
司 たす意思表示の役割が小さいということである︒自由意思で形成できるところが少ない︒第二に︑意思表示だけで効果が発生するの 初 ではなく︑意思表示と妻が一体として効果を生む・とが多人それ故︑変動は時間に幅をと・てとらえるべきである︒第三に︑身
と 分の差異をきめ細かく考慮して意思表示の要件や効果が多様であるということである︒意思表示をなすものと効果を受けるものとが 糖 異なる場合もある︒
法 法と事実が渾然一体となっていることとも関係して︑進んで法律関係を形成することはできない人でも︑事実上︑その形成を阻止 巡 する・とは・きる・とがあるし︑同意をしぶしぶか志からかに分けて効果を異にする・ともある︒︷親が子を婿として売却する を とき︑子が情願すれば合法であるけれども︑和売は処罰しているのは後者の例である︒︵清国行政法巻二︑八五頁︑八六頁︶︸︒ 雄 法の仕組みに三ては・法律関係を形成するためには︑実際に手続きが進まなければならない・手続き法が整備され・法を璽に
け 実現できることを原則とする現代とは異なり︑清代の法のあり方を明らかにするには法を事実と関係付けながら立体的に見ていく必 讃 要があることがある︒
代 婚姻は主婚が主導する︒︵大清律例巻十︑戸律婚姻︑嬰違律主婚媒人罪条︒同右書同巻男女婚姻条︶︒ただ︑手続きが終了すればし 清 ぶしぶにせよ同意があ・たことになるけれども・主婚が息子や娘が納得しないのに婚姻させようとしても多くの人の眼前に於ける儀
9 式を伴う手続きを進行させることは困難であったであろう︒ 6 夫からの離婚は夫が主導する︒妻があくまで離婚を受け入れなければ裁判によるしかない︒教令権をもつ尊属の意思に夫が公然と
背くときは紛議が収まらず離婚は難しくなることもあったと思われる︒婚姻と夫からの離婚では主導するものと阻止できるものに於
7 けるいわば本人の位置が逆になっている︒
権 利の変動の仕組みを身分秩序の中で法と事実が作り出す過程として見なければならないのは家産の処分についても同じである︒
台湾私法︑中田薫博士︑滋賀秀三博士とも兄弟同居型の家の家産は兄弟の合有であるとする︒
父 子 同居型の家の家産について︑台湾私法は父の単独所有とする︒滋賀博士は父子同居型の家に於いて売却意思を決める内のプロ
セ ス は事実的なものであって︑買主との関係が法的なものである︒そして︑父は家産に対する処分権をもつ故︑所有者であるとされ
る︒︵滋賀著書一五九頁︶︒中田博士は合有であるけれども父が教令権に基づく管理権をもつとする︒︵滋賀著書一五二頁︑一五三頁︶︒
留意しなければいけないのは︑いずれの説も父子同居型の家に於ける父は家産の処分権をもつとしていることである︒しかし︑息
子の利益を害さず︑先買権者がいるときにはそれを考慮し︑必ず立会人の下でなす手続きに沿うという契約内容も契約の相手方も契
約 手
続 きも制約される枠の中でしかいわば家の代表者として名を出す父は家産を処分できない︒父には限られた枠の中の家産に対す
る処分権はあるけれども︑それを自由な処分権はいえない︒
特 に︑このような手続きを踏まない契約は考えられない︒実体面では父と息子が合意していないと処分できない訳ではないけれど
も︑教令に従い息子がしぶしぶにせよ同意しているか︑父に息子の反対を封じる力と立会人の信頼を得るだけの信望があることが必
要 で あって︑息子がそれでも反対するときは多くの人の眼前でなす立契手続きは進みにくい︒処分手続きをなしおえるには教令が実
行 される必要がある︒
︷さらに︑そもそも処分権をもてば所有者であると常にいえる訳ではないし︑家族員個人を所有者ととらえるべきではないことに
つ い て は︑拙稿﹁清代刑法に於ける窃盗罪﹂︵星薬科大学一般教育論集=二輯︶一九頁︑二〇頁︑﹁清代家族法に於ける教令の秩序と
その司法的保護﹂︵同右書一五輯︶五九頁を参照︸︒
家 産の支配の仕組みは社会や家族に於いて各人の役割を定める身分秩序を反映している︒強いていえば︑所有権はいわば権利能力
なき社団に似た家にある︒それを家の型によって父︑あるいは︑兄弟が代表し︑その利用や処分は家の型によって父が主導し︑ある
い は︑兄弟が合意してなす︒父一人の意思だけでは手続きが事実上進まないことがある仕組みになっているのであって︑手続きに着
眼 して︑まさに主導という表現がふさわしい︒
ω 滋 賀著書四七六頁︒
09 準則は競合しながら併存している︒
律 条は妻の典売を禁止する︒︷岸本美緒﹁妻を売ってはいけないか? 明清時代の売妻・典妻慣行 ﹂︵中国史学8︶一七七
頁︸︒売買婚は人倫に反するものとして一般的に排斥する告示も散見する︒﹁夫婦は永く保たれるべきである︒夫婦は人倫の始まりで
ある︒故に︑礼は婚姻をたっとび︑法は売買婚に厳しく︑それによって人倫を大事にしている︒﹂︵誠求録巻一︑一=二頁a︑告示︑
郷 族 規 条︶︒
しかし︑競合する他の準則によって律条を修正することがある︒夫婦は永続しなければいけないという準則よりも家族の生命の維
持を計るということの方を優先して妻の典売が貧困のとき等に於いて容認された︒
留
意 しなければいけないのは︑人間を尊厳なものとして位置付けず︑物として構成して取引の客体とすることがあるということで
ある︒夫婦という身分を巡る離婚法とは異なる取引法の中に婚姻を解消したり︑復縁条件付きで婚姻を解消するものが存在してい
る︒
㈹ 子が生まれない夫婦は︑離婚するか養子をとるか妾をもつことになる︒
⑰
大清律例巻十戸律婚姻の同姓為婚姻条︑僧道嬰妻条︑姿親属妻妾条︑要部民婦女為妻妾条︑嬰楽人為妻妾条︑居喪嫁嬰条︑父母囚
禁嫁嬰条等︒ 騰 ⑱
滋 賀著書五六八頁・
的 09 男を軸とする人間観と関係して︑通例︑女は男と対等な個人としてとらえられていない︒女は権利の享受や義務の負担が少ないし︑ 礁 刑事的・処罰規定も少⁝
初 ⑳ 妾 制度の存在する原因としては子を得る・︑と以外・も性的欲求の満足や社会的威信の誇示︑家族内労働力の鷹︑姻縁を増やす・︑
と と等が考えられるのであって︑妾をもつことを容認するのは軸となる準則の目的が成就するように補充するためだけではなく︑軸と 辮 ¢D な籠籔鰭竃蕊尋る︒とにも起因する
巡 ㎝大清律例巻+︑戸律婚姻︑強占良家妻条の総註は︑良家の妻の中に娼家と売姦の家は含まれないとする︒彼女たちは強占され
を ても法によって保護されない︒恐らく彼女たちとの性交渉の違法性も小さかったのであろう︒ 碓 ㈱ ・ シ ・ −・⁝了︑寺田浩明訳﹁晩響制中国法・おける売春一八世紀・おける身分パ・・←・スからの離脱l﹂
け ︷﹁中国 社会と文化﹂︵中国社会文化学会︑一九九七年︶一二号︸三〇九頁︒ 讃 ⑭ 大 清律例巻十︑戸律婚姻︑強占良家妻妾条条例一︒
代
09 岸本美緒﹁明清時代の身分感覚﹂︷﹃明清時代史の諸問題﹄︵汲古書院︑一九九七年︶︸︒
清⑳大清律例巻三三・戸律犯姦・︒・昌為娼条条例四・例えば・光緒年間北京市の管理娼妓規則や管理楽戸規則は官の厳しい統制の下に
1 管理売春を認めている︒︷田涛︑郭成偉整理﹃清末北京城市管理法規﹄︵北京燕山出版社︑一九九六年︶︸︒ 7 閻
戯 館を作って淫戯をなすことを禁止する告示として︑撫呉公噛巻二︑四頁b﹁札行示禁開設戯館鮎演淫戯﹂がある︒もっとも︑こ
こでいう淫戯がどの程度性的な行為かははっきりしない︒ 7 ⑳ 大清律例巻二六︑刑律人命︑威逼人致死条条例一一︒この条例は乾隆五十一年の条例によって︑その言葉をいうに際して理由が
あったか等に分けて一層細かく規定されるようになる︒
第二款性を巡る法秩序の成り立ち 礼は時と所にふさわしく行動することを求める儒教に基づく行為規範である︒特に身分や家族を巡ってその存在を意識
する︒
官は礼によって積極的に人民を教化している︒できる限り法を適用することを避け︑まずは礼によって自らを律するこ
とを求めた︒︷﹁不専以法令為事・而以教化為先﹂︵法令で処理するだけにはしないで教化を先にする︒︶︸礼に沿って行動す
ることにより︑法に基づく刑罰による強制を必要としないことを理想とする︒
もっとも︑人民を規律する法は人民に告知すること等によってそれを人民が知れば行為規範の働きをする︒例えば︑官
②
は 吏 律 公 式 購 読 律
令 条にあるように律を官員に対してだけではなく人民に講読して周知させようとしている︒︷﹁設立購約
処 所・棟選老成者一人・以為約正⁝宜読聖諭広訓・欽定律例・務明日購解﹂︵購約所を作って老練なものを一人選んで約
ヨ る
正 とし︑⁝聖諭広訓︑欽定律例を読んで講釈する︒︶︸性風俗に関係する告示も少なくない︒印刷業者に対して通知を出し
⑤ て 印刷した隈褻な小説を差し出すように命じている例がある︒それを受けた業者団体がその通知に沿って行動している︒
特に︑官の権威を背景とする法と自律的な礼の内容が等しいとき︑二つは互いに支えあって強い行為規範になる︒
それにも拘らず違法な行為をなした者は裁判を通して法により処断する︒法は官が依拠する準則であって裁判規範とな
る︒
性を巡る法を内容に着眼して見たとき︑礼と一致するときとしないときがある︒
官は法に礼の多くを取り込んでいる︒それ故︑性を巡る法秩序の多くは礼に沿って成り立っている︒性交渉は夫婦の間
⑥
で なすべきであるというのはその例である︒ m 例外的に法が礼と一致しない第一は︑法がないときである︒そして︑法がないときは裁判を通した官による強制はなく ⑧
行 為を礼が規制するに止どまる︒
第二は︑礼とは異なる内容の法があるときである︒例えば︑売春は官によって往々容認された︒そのときは姦を排斥す ⑨ る礼が売春を抑圧する行為規範として働く︒
護 保 的 註 融 ω 欽定大清会典事例巻三九七責・︑礼部風教︑讃一︒
の
② 大清律例彙輯便覧巻七︑吏律公式︑購読律令条︒
そ と ③ 欽定大清会典事例巻三九七︑一頁b︑礼部風教︑購約一︒ 編 ④ b理難撲鷺露籠鐘篭硫竃曙髄籔竃竃鷲雪飾っ霞賢纂
巡 公自治官書巻九︑五六頁a︑土︑示﹁禁売淫詞董目示﹂い撫呉公憤き︑九頁a﹁札纂熾淫詞小説﹂︒同誓目巻一五︑二頁a﹁崇明 を 県詳奉筋査禁収買淫書拠董稟辮議罰各情由﹂等を参照︒ 碓 ⑤ 得 轟巻=︑責三収熾馨局章程L︒
け ⑥ 礼には裁判規範となるものが多い︒︵視巳成事斉官書巻一︑六頁a﹁申明礼制示﹂︶︒ 讃 性秩序に関するものではないけれども︑如東判語所載の次の一案は︑礼と律文が一致している例である︒︷如東判語巻四︑七頁b 代 ﹁劉金元等控案判﹂︸︒ 清 若死にした子に養子を取らないことは礼経に載・ているし・律文を覆ても・また・若死にした子は立継できない等々とある・
3 これが古今の一貫した意味である︒劉開元は数歳で若死にした︒どうして後を立てられようか︒劉金元は母姉の言に従って妄りに 7
劉早興を立てて継子とし︑早興の本とした︒生父の坤元は分を越えてごたごたをなし訴訟が数年続く︒自分で憂いを残したといえ
る︒事は既に官にもたらされている︒ただ︑定例に照らして更生させる︒劉早興は宗に帰らせ︑以前承受した田地や山塘について 7 もとの契拠に記載の畝分はすべて返還し︑劉金元の父の明行の祀産とさせる︒坤元父子は再び分があるといってはならない︒金元
もまた変売し︑祀を廃止させてはならない︒本年既に耕種したものは坤元に与えて収穫させる︒今年の丁漕は︑また坤元に帰して
完 納させる︒十月中を待って田を返還して名義を書き換えさせて永久に葛藤を絶たせる︒もと立てた継約は法廷で廃棄させ遵結状
をとって二つの紙を巻に付して事案は終結させる︒かく判決する︒
礼について︑滋賀秀三博士は経義と礼は古典の言葉という形あるという意味で実定性をもち情理一般の手がかりになるとされる︒
﹇滋賀秀三﹁法源としての経義と礼︑および慣習﹂︷﹃清代中国の法と裁判﹄︵創文社︑一九八四年︶所収︸﹈︒ただ︑礼は本来︑行為規
範である︒それ故︑その中のどの規範が裁判規範として取り込まれているかという観点から見ていくべきであって︑礼一般をとらえ
て 裁判規範か否かを問題にするのはよくない︒
m
本稿六八頁︒
⑧ 礼の多くは家族秩序を巡るものである︒例えば取引法のように礼の存在が余りはっきりしないところは法が規律する︒
⑨ 法は礼を補ったり修正することもある︒時代や地域による違いを考えて礼を修正して妥当な解決をすることもある︒︵汝東判語巻
三︑一九頁b﹁桂如緑呈詞判﹂︶︒
明文の法にはない事柄について︑古い礼を修正している事案である︒法秩序が明文の法のほかに情理から成り立っていることをも
示 している︒
⁝大清律例を解釈するに︑凡そ婚姻が法に違反するものについて︑その説明は極めて詳しい︒しかし︑冥婚を禁止する考えはな
い︒楊升篭の丹鉛総録によると明もまたこの禁止はない︒直省の風俗は東西は違うし南北でも異なる︒冥婚については︑方々にそ
の ことがある︒国法が禁止しないところは人民はそれを習い見︑また︑習い用いる︒昔の天子の礼服は今は抱掛であり︑昔の食器
は今は薬椀である︒現在の世の中は古礼を援用して妄りに王章を改めることはできない︒どうして古制をとって今律を補えよう
か︒おまえの伯兄の子は十七歳で若死にし︑彼のために冥配して祖山に埋葬した︒礼にははっきりしないけれども︑しかし︑また
民 間ではいつもあることである︒かつまた︑律文は禁止していないことである︒おまえは卑幼でどうして周礼に固執して勝手に阻
止 で きるか︒一門のうち兄は家督であり︑いやしくも法令に違反していなければどうしてあえて従わないのか︒荘子のいわゆる命
を兄に受けるというのはその意味である︒おまえは学官につきいささか理に明るい︒いつまでもそれをいい︑偏った理屈で争いの
端緒を開いてはいけない︒これを慎め︒これを慎あ︒もとの書類は返還する︒
逆 に︑礼が法を取り込むことはないという意味で︑礼と法は相互的ではない︒清末のいわゆる礼法争議は礼のうちの特にどこまで
を法によって定めるかを巡る争いであったという︒︷松田恵美子﹁清末礼法争議小考﹂︵法学論叢=二七の二︑一三七の五ご︒
第二節性を巡る法秩序の司法的保護
性 を巡る法秩序の司法的保護は︑侵された秩序をもとに戻すいわば民事的な処理と︑法を侵したものを処罰する刑事的
な処理によってなされる︒刑罰の軽重は身分秩序に対する侵害の大きさや自由の抑圧の程度のような違法性のほか責任の
大 きさによって決まる︒損害賠償のような金銭の授受をなしている例を検索できない︒
誰にどういう行為を認めるかという点からできている性を巡る法秩序の仕組みに対応して︑その司法的保護の第一は︑
護 解 夫 婦 や 妾︑招夫養夫のような性交渉が容認される男女の結び付きを保護するものであり︑それを遭て間接的に性秩序を
誠 保護する︒同じ男系の血を引いていない同耳分︑亘世代の男女の結合である等の枠に背く婚姻鍵効であ・てもとに
初 戻させて法を侵したものを処罰する︒
と ぼ
序
子が生まれないとき夫は妻を離婚できる︒ただ︑夫婦は性交渉を拒めないという義務に対する違反があっても刑事罰は
秩 法 科さないし︑それが即座に離婚原因になる訳ではない︒ る 巡 性 を巡る法秩序の司法的保護の第二は︑性交渉や翼行為のような性的行為そのものに着眼するものである︒違法な性
生 剤 的交渉を姦と呼ぶ︒夫婦ではないけれども︑招夫養夫や妾との性交渉は姦にはならない︒また︑姦は男女間のみに存在す
ユ
ノ ぶ 於 る概念ではない︒男色も姦として処罰する︒
こ
え る献 姦 をとりえた法秩序の司法的保護は︑竺に︑男女を問わず姦を犯したものを処罰する・﹂とによってなさ㌢︒ただ︑
律条は性交渉に於いて女を受け身にとらえて男を中心に規定している︒
75
男女が情願し和同の上で姦するのが和姦である︒未婚の男女の和姦は杖八十であり︑刑罰は決して重くない︒和姦の悪
76 性は男と女で同じであって同じように処罰する︒格別の身分をもたない男女は刑事的秩序の維持という点に於いては上下
関係になかったことを窺わせる︒相手がいないとできない犯罪ではあるけれども︑一人一人の行為としてとらえるので
あって︑二人で一つの犯罪行為を共同でなす共犯として考えて従犯を首犯より一等減刑するという処理をしない︒
姦を犯す罪には違法性や責任に着眼する特別罪がある︒第一に︑相手方の意思形成の自発性の程度を基準にして姦を和
姦︑ヨ姦︑強姦の三つに分ける︒自由を束縛して行う姦は違法性が大きい︒姦夫が姦婦を誘い出して姦するのがヨ姦であ
り︑いずれも相姦に入る︒ヨ姦の主な責任は姦夫にあるとしても︑姦婦も恥知らずであるので同罪となる︒ヨ姦は和姦よ
り一等重く処罰する︒強いて姦するのが強姦であり︑婦女は処罰しない︒強姦をなすものは男に限るけれども︑鶏姦も姦
の 一 種であるので相手は男のこともある︒十二歳以下の幼女は︑まだ淫心はないし︑だまされやすい︒それ故︑同意して 倒⑥
い て も強姦となる︒
第二に︑官民︑僧俗︑夫婦︑親属︵﹁尊卑長幼﹂︶︑良賎等の身分秩序と関連して姦の違法性や責任が違い処罰の軽重が異
なる︒姦に対する処罰の仕組みは身分秩序に対する侵害の大きさと関係しているので︑それを見ることによって身分制度
の 特徴の一端を窺える︒誰と誰が姦をなしたかによって男女土ハに凡人間の姦に対する刑罰を加減するときと︑特定の身分
に あるものの刑罰を加減するときがある︒
刑 律 親 属相姦条は︑服制︑名分︑恩義の関係が濃い近親者同士の姦程重く処罰する︒同宗無服の関係でも尊卑長幼の名 m 分はある故︑杖一百に処し︑同母異父姉妹等との姦は無服でも義が重い故︑杖一百︑徒三年に処する︒
良 賎 相姦に於いては︑男から見た良賎の身分差によって違法性が異なるのであって︑姦をなした男が奴であれば違法性
は 大 きく良人であれば違法性は小さい︒刑律親属相姦条とは異なり︑姦をなした男の身分に着眼して違法性を評価してい
る︒奴が良人の婦女を姦したら男女ともに一等を加え︑良人が他人の脾を姦したらともに一等を減じるとする良賎相姦条
⑧ が ある︒総註は︑奴が良人の婦女と関係するのは分不相応であるし︑良人の婦女は自分を大切にしていないから︑ともに ⑨
凡 姦より刑は重い︒良人が賎人と姦したとき︑奴は良人とは比べものにならないのでともに刑は軽いと記している︒ oo 刑 律 奴 及 雇 工 人 姦 家長妻条は︑奴や雇工人が家長の一定の親属と上下の分に背いて姦をなしたときの規定である︒奴に
つ い て は︑良賎相姦条のさらに特別規定ということになる︒近親の男女間の姦程違法性が大きいという親属相姦に於ける
考え方と男の身分が女に比べて高いか︑低いかによって違法性を異にする良賎相姦に於ける考え方の二つが取り込まれて
い る︒
護およそ︑奴および雇工人で家長の妻女を姦したものはそれぞれ斬決とする︒家長の期親もしくは期親の妻を姦したものは絞監候とす 継 る︒婦女竺等姦じる︒家長・穏麻以上の親および紹麻以上の親の妻藁したものはそれぞれ杖言流二重︑強は斬監候とする︒
法
妾はそれぞれ一等を減じ︑強はまた斬監候とする︒軍から官が遣わした弓兵や門皇のような官にあって役使する人はみな雇工人として
呵 とらえ勧︒
そ と ⑫ 序 監臨の官員や僧尼道士女冠には特に高い性倫理を要求し重く処罰する︒ 秩 法 妻には夫よりも厳しい倫理が求められる︒妻は夫に従うべきであるとされて姦の違法性は大きい︒妻の姦淫のみ離婚原 る 3 0 巡 因になるレ︑夫の姦は処罰が軽い︒男に貞操観念が乏しく売春が7ならなか・たのは︑これとも関係するであろえ
生 剤 婦 女 に つ い て は︑責任を減じて刑を軽くすることもある︒親属間や奴︑雇工人と家長の妻女との間あるいは良賎間の姦
キノ う 於 は︑男女を同じ刑罰に処する原則であるけれども︑留意しなければいけないのは︑奴あるいは雇工人が家長の期親や期親
に 献 の 妻と姦をなしたとき婦人を蘂減刑するという.﹂とである︒刑律奴及雇天姦家長妻条の総註は婦女を﹂ういう行為で
死 刑にするべきではないとする︒さらに︑輯註は律条が杖一百︑流二千里の刑に処すると記す奴や雇工人が家長の紹麻以 7 θ ロ 上の親やその妻と姦をなしたときについても︑婦女については収贈するのであって︑実際は婦人は減刑されると解説する︒
78 ⑰ 第三に︑輪姦や死亡事件を引き起こしたときのように行為のなし方や情況︑結果を見て刑を加減する︒
刑律居喪及僧道犯姦条は父母や夫の喪に服しているときに姦をなすと刑を二等加えるとする︒特に︑厳しく身を律しな
⑱ ければならないときであるからである︒相手方は刑を加えない︒
また︑売春を違法とするとき︑姦であるということだけではなく性を巡る風俗の浄化や治安の維持という社会的な面も
考慮する︒そこでは売春するものとその相手方の双方を処罰しその刑罰は等しい︒
姦をとらえた法秩序の司法的保護は︑また︑他人に姦を唆したものや売春を帯助したものを処罰することによって行う︒
妻 妾︑あるいは娘や子孫の妻妾の姦を容認すること︑即ち︑彼女達の不倫を放任したり︑さらには不倫を唆してはいけな ⑳ い︒ただ︑婦女を処罰はせず離婚させるに止どめる︒刑律縦容妻妾犯姦条は次のように規定している︒
およそ︑容認して妻妾に人と通姦させたとき︑本夫︑姦夫はそれぞれ杖九十︒妻妾及び乞養女を抑勒して人と通姦させたとき︑本夫︑
義 夫はそれぞれ杖一百︒姦夫は杖八十︒婦女は処罰せず離婚して宗に帰らせる︒
自分の娘及び子や孫の婦妾を容認したり抑勒して人と通姦させたものは︑罪はこれと同じである︒
財を使って妻を売買しそして合意して人妻を姿ったものは︑本夫︑本婦及び妻を買ったものはそれぞれ杖一百︒婦人は離婚して宗に
帰 らせ︑財礼は官に入れる︒⁝
夫の姦通を容認したり唆した妻妾に対する処罰規定はない︒夫の姦通は違法性が小さかったということや妻妾の弱い立
場を考慮しているのであろう︒
売 春 行 為を有助する者を処罰する立法が見られる︒嘉慶十九年に制定された条例は︑売春の場所として家を貸したもの の田
や 事情を知っていながら反対しない近隣のものを処罰するとする︒
姦 をとらえた法秩序の司法的保護の第三は︑直接的な保護ではないけれども︑姦をなすものに対して攻撃したものの処
㈱ 罰を減免する形でなされる︒違法性と責任の二つが減少するととらえている︒
現 行 刑法は公然と狸褻な行為をしたり狸褻なものを頒布等したもの︑淫行の常習性のない婦女を営利の目的で勧誘し姦 20
淫 させたものを狸褻の罪として処罰する︒
㈱ 刑 律 造 妖 書 妖 言 条は︑狸褻な文書を造ったもの︑売ったもの︑買ったものを処罰の対象としている︒この順に原因行為
か ら離れるについて刑は軽くなり︑例えば売春するものとその相手方を同じ刑罰に処する売春罪とは行為の悪性の評価の
仕 方が異なる︒
姦 や 狼 褻 行 為 を とらえた法秩序の司法的保護のあり方を見ていくときに︑留意しなければいけないのは︑姦をなしたり︑
護 保
あるいは狼褻な行為をなしても違法性の小さなときは不応為条を適用したり︑あるいは︑処罰しなかったりするというこ
的 誠 とである︒姦をなしても両者の身分関係によ・ては姦に対する条項を適用しない︒夫がいる自家の饗と情交したものを ロ 初 処 罰する条例はあるけれども︑紛争となる恐れの少ない自家の独身の脾女と関係したときの条例はな勒︒そのとき︑輯註
と 伽 序 は刑律犯姦条ではなく不応為律を適用するとする︒ただ︑不応為律は必ず適用するものではなかったであろう︒ 秩 法 性を巡る法秩序の司法的保護の手続き面に於ける特徴の第一は︑手続きが慎重であるということである︒訴訟の開始に る 巡 於いて︑姦は誕告も多いので単な重口発だけでは追及しないし︑姦の現場を捕らえない限り問責しない︒刑律犯姦条の﹁其
碓 非姦所捕獲及指薯゜勿論﹂という文言についてその総註は次のように記してい㎞・
制 撒 警は欝な﹂とであ.て︑よるべき跡がなければ楚口になり易いので姦を誓るものは必ず姦所にいなければならない︒その姦所 清 ではなくて捉えたときはそのことは証拠がない︒また︑誰と誰が姦通したと指さすのはその説は証拠がないのですべて追及しない︒
79 第二に︑ただ︑売春宿を巡る事実の認定はかなり間接的である︒性交渉そのものを証明しなくても間接事実の立証があ
80 29 れ
ば 姦を推定する︒
註
ω 本 稿 六 六 頁︒
② 本稿同右頁︒
③ 同姓不婚が男系の血を引く男女の性交渉を嫌う原則であるのに対して︑姦は血がつながっていないもの同士の性交渉も嫌う︒
ω 妻が姦を犯すと夫は離婚できる︒逆に夫が姦を犯しても妻から離婚は請求できない︒妻が離婚を請求できるのは︑夫が妻を典売し
たときや夫が失踪したときである︒
⑤
刑律犯姦条に次のように記されている︒︵大清律例巻三三︑刑律犯姦︑犯姦条︶︒
およそ︑和姦は︑杖八十︒夫あるものは︑杖九十︒ヨ姦したものは︑夫がいても夫がいなくても杖一百︒強姦したものは︑絞監
候 とし︑未遂のものは︑杖一百︑流三千里とする︒⁝幼女の十二歳以下を姦したものは︑和といっても強と同じように扱う︒その
和姦︑弓姦したものは︑男女とも罪を同じくする︒⁝強姦は︑婦女は処罰しない︒もし︑人が姦を犯してすでに露見し代わって姦 のことを示談したものは︑それぞれ和︑ヨ︑強の二等を減じる︒その姦の現場で捕らえられたものでなかったり︑姦を告発された
ものは︑問題としない︒もし︑姦婦が妊娠したときは︑姦婦は証拠があるといっても︑姦夫は証拠がない︒罪はその婦人に科する︒
同右書同巻同条総註︒同右書同巻同条条例二︑条例六を参照︒
⑥
夫婦の間の強姦の例を検索できない︒夫婦間の性交渉は合意の下でなされていると推定するのであろう︒
m 大清律例巻三三︑刑律犯姦︑親属相姦条︒
⑧
同右書同巻良賎相姦条︒寺田隆信﹁雍正帝の賎民解放令について﹂︵東洋史研究巻↓八︑三号︶︒
⑨ 大 清
律 例巻三三︑刑律犯姦︑良賎相姦総註条︒
⑩
同右書同巻奴及雇工姦家長妻条︒
ω 輯註は家長が自分の蝉を姦したときの刑罰は軽いし︑また︑相手となった碑は処罰しないと解説する.︷同右書同巻同条輯註︵影印
本 四 六 三 〇 頁︶︸︒
⑫ 官吏が所部の人民の妻女と姦したときは︑官吏という地位に伴う威圧力を考えて︑官吏の刑を二等加え職役を免じる︒男女同罪と
はならない︒︵同右書同巻姦部民妻女条︶︒僧尼道士女冠が清規を稜乱して姦をなしたときも︑刑を二等加える︒そして︑還俗させる︒
相手方は凡姦として扱う︒︵同右書同巻居喪及僧道犯姦条総註︶︒
03
滋 賀著書四七八頁︒
ω 本註5︒
個 本註10︑12︑13︒
06
大 清律例巻三一.一︑刑律犯姦︑奴及雇工人姦家長妻条輯註︵影印本四六二九頁︶︒
師 人 命犯罪とその処罰の仕組みに性秩序が関連することが少なくない︒性に絡む人命犯罪が多く︑また︑構成要件が具体的であった
こと等と関係する︒性秩序を巡る犯罪の史料には︑強姦殺人や強姦致死のような犯罪類型が多い︒
性 秩 序と関係して自殺者が出ることがある︒子孫の姦を恥じて親が自殺したり殺されたりすることがある︒︵大清律例巻三〇︑刑律
訴訟︑子孫教令条条例三︶︒また︑狸褻な言葉を聞いて困惑して自殺するものがいる︒︵本稿六八頁︶︒
そ して︑その事実認定の仕組みや違法性︑責任のとらえ方に特徴がある︒刑律殺死姦夫条は︑夫が姦夫を殺したとき刑を減免する︒
︵大清律例巻二六︑刑律人命︑殺死姦夫条︶︒夫のいわば正当防衛︑あるいは︑私的懲戒のような行為をそれなりに認容することにな る︒ただ︑刑事的にも民事的にも妻の姦に対する刑罰は軽いのであるから︑結果としての法益侵害だけではなくて︑緊迫した情況で 羅 あ・た・とによ・責任の減少が大き萎因と三てい・︒董の関係を侵されたと感じたとき︑人・動揺す・︒・殺姦と殺害の 的時間と場所が近接していることが要件となる︒もっとも︑時間と場所の近接性が要件になるのは︑そのときこそ事実がはっきり認定 誠 でき・・ととも関係していたと思われ・︒犯姦条が姦の現場で捕らえたときのみ姦と認定するとしてい・・とと等し・.︵大清律例
の 巻二六︑刑律人命︑威逼人致死条︶︒ 授 因みに・妻や妾が姦婦を殺したときには・れに類似する規定はない・実際上・そのような事実が少なか・たからであろう・
紺 咽 大清律製三三︑刑律犯姦居喪及僧道犯姦条
法 佃 同右書同巻買良為娼条条例一︒
過 oo同右書同巻︑縦容妻妾犯姦条︒ を ⑳ 同右書同巻買良為娼条条例四︒ 雑 ㎝ 同右書同巻馨妻妾犯姦条︒刑律買良為娼条は竃︑楽戸が臭の子女を買.て覆にする・とを禁じて・る︒
け 03 本稿註17︒
こ