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幼児における言語的抽象能力の分析

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

幼児における言語的抽象能力の分析

著者 杉村 健, 清水 益治

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 25

ページ 79‑85

発行年 1989‑03‑01

その他のタイトル Analyses of Verbal Abstraction Ability in Kindergarden Children

URL http://hdl.handle.net/10105/6668

(2)

幼児における言語的抽象能力の分析

杉村 健・清水益治

       (心理学教室)

要旨:2つの事例に共通する概念名を言語化させる方法を用いて、幼稚園年長 児の言語的抽象能力を20の概念について調べた。全体の平均正答数は5才児 よりも6才児の方が多く、中でも玩具、野菜、道具、楽器の概念の正答率には 有意差があった。飲物、花、動物は正答率が高かったが、道具、木、形、楽器 は低く、概念間で著しい相違があることが示された。同じ生き物という上位概 念に属するものでも、動物は鳥、虫、魚よりも正答率が高く、同じ植物という 上位概念に属するもので、花は木よりも正答率が著しく高かった。

キーワード 言語的抽象能力、概念名、上位概念

 子どもの言語的概念能力を測定するには大きく分けて2つの方法がある。1つは概念名から事 例を引き出させる方法で、もう1っはいくつかの事例に共通する概念名を抽象させる方法である

(杉村・寺尾,1975)。前者に属するものには、例えば、マッカーシー知能発達検査(小田地,19 81)の下位テストで ことばの流暢さ がある。このテストでは・食べ物や動物などの名前を30 秒間にどれだけ言えるかを測定す乱後者に属するものには・例えば・杉村(1969)が考案した 抽象語検査がある。この検査では、 そうとライオンは両方とも何かな。何の仲間がな。 と問 い、 動物 と答えた場合を正答とみなす。本研究では後者の方法によって言語的抽象能力を測 定する。

 この方法はいくつかの事例に共通する概念名の言語化を求めると言う点で、Brunerら(1966)

の言う名義的属性による等価反応、K1ausmeierら(1974)の言う形式的水準の概念を測定して いるといえる。このような方法を用いて幼児の言語的抽象能力を測定した研究には杉村・寺尾

(1975)、杉村・矢吹(1978)、および国立国語研究所(1982)がある。

 杉村・寺尾(1975)は、4才児と6才児に3つの選択事例の中から見本事例と同じ概念に属す る事例を選択させ、その後で これとこれはどちらも何ですか と概念名の言語化を求めた。

抽象する概念は動物と食べ物(上位概念)・または鳥・虫・野菜、果物(下位概念)であった。

その結果、6才児は4才児よりも多くの概念名の言語化が可能であり、上位概念名よりも下位概 念名の方が言語化しやすい傾向が見られた。杉村・矢吹(1978)は4才から6才の子どもに生き

. Ana1yses of Verbal Abstraction Abi1ity in Kindergarden Chi1dren

Takeshi SUGIMURA and Masuharu SHIMIZU

  (Dゆα・肺刎。∫p・ツ・ん・Z・飢Mα・α胴リ…吻・ナ〃μω亡1・π,Mα・α)

(3)

物と食べ物の概念について、杉村・寺尾と同じ手続きで調べたところ、概念名の言語化の年齢差 は食べ物よりも生き物で顕著であった。このことから、幼児期における言語的抽象能力は抽象す る概念によって異なることが示唆され乱

 国立国語研究所(1982)は動物、乗物、車、食べ物、果物、入れ物、身につけるもの、何かを 測定するもの、時を知らせるものの9個の概念について、2つの事例を提示して、 これとこれ

は何の仲間がな と質問した。その結果いずれの概念についても、年齢と共に概念名を正しく 言語化できる者が増加した。しかしこの研究ではそれぞれの概念間の比較は行っていない。

 そこで本研究では、表1に示したような20の上位概念について幼児の言語的抽象能力を測定 し、年齢差、性差を調べるとともに、概念闇の相互関係を調べることを目的とした。

方     法

調査対象  調査対象は奈良県下の幼稚園年長児287名あり、5才児は男児91名と女児94名、

6才児は男児、女児ともに51名であった。

表1抽象能力検査

事    例 ぞう

いちょう チョコレート 電車

すずめ キャベツ 鉛筆 金づち

100円玉 かぶと去

りんご くつ 積木

たい ジュース ズボン たいこ

チュ}リップ

ライオン

アイスクリーム バス

はと

にんじん クレヨン のこぎり 1,000円札 蝶々 バナナ つっかけ 人形 さけ 牛乳

セーター ピアノ 三角

ひまわり

正答(正答と見なした回答)

動物

お菓子(おやつ)

乗物 野菜

文房具(書くもの)

道具(大工さんが使うもの)

お金(銭)

虫(昆虫)

果物

履物(履くもの)

玩具

飲物(飲むもの)

着物(服、洋服)

楽器(鳴るもの、音の出るもの)

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 抽象能力検査  杉村(工969)が作成した抽象語検査と国立国語研究所(198王)の連想語彙表 を参考にして、表1に示す20問を作成した。左側にある2つの事例に共通する概念名を求める 検査であり、右側の正答欄には正しい概念名と正答とみなした応答(括弧内)が示してある。本 調査ではこの表に示してある応答のみを正答とした。

 手続き  調査は幼稚園の1室で個別に行われた。調査者は子どもと向かい合って座り、名前 を聞くなどしてラポートを形成した後、次のような教示を与えた。

  これから・お姉さんとことぱ遊びをしましょう・○○ちゃんの思った通りにお姉さんに言っ て下さいね。○○ちゃんは みかん 知ってるねぺいちご も知ってるね。それでは・ みかん

いちご は両方とも何の仲間がな?

 子どもが 果物 と答えた場合は、 そうですね。 と言い、無応答であったり、.間違った答 えをした場合は みかんもいちごも果物ですね と言って正答を教えた。続いて、 そうとライ オンは両方とも何の仲間ですか? いちょうと松は両方とも何の仲間ですか? というよう にして、20項目について質問した。無応答の場合はもう1度その質問を繰り返したが、誤答の 場合は、 はい と言ってうなずくだけで、正答は教えなかった。

結 果 と 考 察

 表2は正答数の平均と標準偏差を年齢別、性別に示したものである。表2に基づいて重みをか けない平均法による分散分析を行ったところ、年齢の主効果のみがF(1,283)=3107,MSθ=

21.2,一ρ<.1Oで有意であった。表から明らかなように、5才児よりも6才児の方が正答数が多 く・言語的抽象能力が高くなるといえ乱標本値では女児の方が高いが・統計的には有意ではな かった。

表2 正答数の平均 (標準偏差)

男児 女児

5才児 6才児      平均

7.89 (4.94)      8,76 (3.75)

8.35 (4.35)      9.47 (5.19)

平均     8.12

8,33 8.91

9,12      8.62

 表3は各項目の年齢別、性別の正答率を5才児全体の正答率の高いl11頁に示したものである。項 目ごとに行った色変換法による分散分析の結果、おもちゃと野菜の概念では年齢の主効果が、そ れぞれパ(1)=9.52,ρ<、O1とパ(1)=4.48,ρ<.05、また、道具と楽器の概念では、それ ぞれパ(1)=3.69と2,97,いずれもρ<.10で有意であった。表3からわかるように、これ

らの概念では6才児の方が5才児よりも正答率が高く、5才から6才にかけて言語的描象能力が 発達する。しかし、標本値でみると、木、形、お菓子、色、乗物、文房具、動物、花及び飲物で

は年齢差はほとんどなく、履物では6才児の方が低くなっている。

 お菓子の梗念だけで性の主効果がパ(1)=6.88,ρ<.01で有意であり、男児よりも女児の

(5)

方が正答率が高かった。女児の方が男児よりもお菓子に興味を持っていることによるのかもしれ ない。有意ではないが標本値を見ると、楽器と野菜では男児の方が、乗物と果物では女児の方が 正答率が高かった。花の概念では交互作用がパ(1)=7.16,ρ<.01で有意であった。単純効 果の検定を行ったところ、男児では5才児よりも6才児の方がパ(1):8.03,ρ<.01で有意

に正答率が高かったが、女児ではパ(1)=O.63で有意差がなく、標本値ではむしろ逆に5才 児の方がわずかに高かった。

表3各問題の正答率(%)

5 才 児 概念  男児  女児

道具   6.6  木    8.8  形   12.1 楽器   16.5 玩具   16.5 お菓子  28.6  色   31.9  魚   34.1  鳥   37.4  虫   36.3 乗物   40.7 文房具  47.3

野菜   53.8 お金   51.6 着物   48.4 果物   51,6 履物   61.5 動物   70.3  花   61.5

飲物   73.6

6,4 6,4

11,7 10,6

19,1

35,1 34,0 37,2 36,2 40,4 50,0 46,8 50,0 53,2 57,4 64,9 56,4 64,9 76,6 77,7

6 才 児       平  均 平均  男児  女児

6.5 7,6

11,9 13,6 17,8 31,9 33,0 35,7 36,8 38,4 45,4 47,1 51,9 52,4 52,9 58,3 59,0 67,6 69,1 75.7

9.8 7,8 5,9

25,5 33,3 21,6 33,3 35,3 47,1 47,1 41,2 43,1 68,6 56,9 58,8 68,6 45,1 62,7 84,3 80.4

17,6 11,8 15,7 17,6 35,3 45,1 39,2 49,0 45,1 47,1 49,0 51,0 60,8 60,8 58,8 66,7 58.8

7016

70,6 76,5

平均  男児  女児

13.7

9,8

10,8 21,6 34,3 33,4 36,3 42,2 46,1 47,1 45,1 47,1 64,7 58,9 58,8 67,7 52,0 66,7 77,5 78.5

8,2   12.0

8.3   9.1 9,0   13,7

21.O     14,1 24,9     27,2 25,1     40,1 32,6     36,6 34,7     43,1

42,3     40,7 41,7     43,8 41,0     49,5

45,2   48,9

61.2    」55,4 54,3     57,0

53,6     58,1

60.工    65,8 53,3     57,6 66,5    67,8 72,9     73,6

77,0     77.i

表4は年齢別、性別に正答率の高いものから5っ、低いものから5つの概念を示したものであ る。高い正答率では飲物、花、動物の3つの概念が共通しており、この3つがこの年齢の幼児に とって抽象しやすい概念であり、他方、道具、木、形、楽器は共通して正答率が低く、これらは また十分に獲樗されていない概念である。正答率の高い概念には6才児では男女ともに果物と野 菜があり、性差はないが、5才児では男児は履物と野菜、女児は果物と着物というように性差が

(6)

みられる。正答率が低い概念には6才の男児以外で玩具が含まれている。これは個々の名前は知っ ていてもそれらに共通する上位概念として玩具を知らないのか、積木と人形という事例が適切で なかったのかも知れない。

表4 正答率の高い概念と低い概念 5 才 児

男児    女児

6 才 児 男児    女児

1 飲物 飲物 飲物

2 動物 飲物

3 動物 果物 動物

4 履物 果物 野菜 果物

5 野菜 着物 動物 野菜

1 道具 道具

2

3 楽器 道具 道具

4 楽器 お菓子 楽器

5 玩具 玩具 楽器 玩具

 20項目のうち、動物、鳥、虫、魚は生き物という 上位概念で、お菓子、野菜、果物、飲物は食べ物とい

う上位概念でまとめられる。表5はこのような上位概 念ごとに5才児と6才児の正答率をまとめたものであ る。まず生き物では、動物が7割近くでかなり高い正 答率であるけれども、鳥、虫、魚では3〜4割であり、

しかもこの3っは同程度の正答率である。食べ物では 飲物の正答率が最も高く、ついで、野菜と果物がほぼ 同率であり、お菓子は最も低い。植物では、木の正答 率が1割以下とかなり低いのに対して、花は5才児で

7割、6才児で8割とかなり高い。

 このように上位概念が同じであっても、その下位概 念については言語的抽象能力の程度は一致しないよう である。大人の考える概念の階層構造が幼児には当て はまらないことが示唆される。

 視覚的概念である色と形にっいては、色は3割程度 の正答率であるのに対して、形は1割程度の正答率で あった。このことは子供の興味が色から形へと発達的 に変化するという従来の研究を支持するものである・

表5 上位概念ごとの年齢別正答率

上位概念 概念

生き物

食べ物

植物

衣類

視覚

動物 お菓子

野菜 果物 飲物

  正答率 5才児  6才児

67,6 36,8 38,4 35.7 31,9 51,9 58,3 75.7

66,7 46,1 47,1 42.2 33,4 64,7 66,7 78.5

木   7.6  9.8

花69.工77,5

履物  52,0  52,O 着物  52,9  58.8

色33,036.3

形11,910.8

(7)

 次に年齢を込みにして、性別に四分相関を用いて概念間の相関を求めた。表6は各概念と高い 相関(r〉.70)があった概念を男女別に示したものである。男児において、花の概念は他の11 個の概念と、野菜の概念は他の7個の概念と高い相関を示し、女児でも花の概念は他の6個の概 念と高い相関があった。したがって、少なくとも本研究で調べた20の概念については、花(お よび野菜)という概念名を抽象する能力が中心をなしていると考えられる。

 男児では動物、着物、乗り物、楽器、女児でも動物と玩具は高い相関を持っ概念がなかった。

これらの概念は、他の概念と比較的独立して獲得されるといえる。

 男児では生き物に属する鳥と虫、食べ物に属するお菓子と野菜、野菜と果物、植物に属する花 と木、視覚的概念に属する色と形の間にそれぞれ高い相関があった。これに対して女児では、食 べ物に属するお菓子と果物、果物と野菜、視覚的概念に属する色と形の間に高い相関があったが、

生き物と植物に属する概念内では高い相関を示すものはなかった。食べ物と視覚的概念は男女と もに比較的まとまりのある概念であり、生き物と植物は男児でのみ比較的まとまりのある概念で あると考えられる。

表6 高い相関(r。>.70)があった概念

上位概念 概念 男   児 女   児

動物 O 0

生き物 虫、花 2 お菓子、野菜、果物、楽器 4

鳥、花、お金 3

1

野菜、木、花、色、形 5 1

お菓子 野菜 1 鳥、果物 2

食べ物 野菜 魚、お菓子、果物、木、花、色、道具 7 鳥、果物、形 3

果物 野菜 1 鳥、亭菓子、野菜、形 4

飲物 1 履物、乗物、文房具 3

魚、野菜、花、お金、形 5 形、道具、楽器 3 植物 鳥、虫、魚、野菜、果物、木、 11 虫、魚、形、道具、お金 5

色、形、道具、お金、玩具

衣類 履物 文房具 1 飲物、乗物、文房具 3

着物 0 楽器 1

視覚 魚、野菜、花、形 4 花、形 2

魚、木、花、色 4 野菜、果物、木、花、色 5

乗物 0 飲物、履物 2

文房具 飲物、履物 2 飲物、履物 2

その他 道具 野菜、花 2 木、花、楽器 3

お金 虫、木、花 3

1

玩具 1 0

楽器 0 鳥、木、着物、道具 4

(8)

要      約

幼稚園年長児287名に2つの事例に共通する概念名を言語化させる方法で、20の概念につい て言語的抽象能力を測定し、年齢差、性差、概念間の相互関係を分析した。主な結果は次の通り である。

l1)全体の正答数は6才児の方が5才児よりも多かった。道具、楽器、玩具、野菜の概念では   6才児の方が5才児よりも正答率が高かった。お菓子の概念では女児の方が男児よりも正答   率が高かった。

12〕全体的に正答率の高い概念は飲物、動物、花であり、全体的に正答率の低い概念は道具、

  木、形、楽器であった。

13〕生き物に属する動物は・同じく生き物に属する鳥・虫・魚よりも正答率が高かっれ食べ   物に属する概念の中では飲物が最も正答率が高く、次いで野菜と果物であり、お菓子は最も   低かった。植物に属する花は正答率が非常に高かったが・木の正答率は低かっれ

 14)概念間の相関を求めたところ、花の概念は男児、女児ともに高い相関を持つ概念が最も多   く・動物は高い相関を持っ概念が1っもなかった。

引 用 文 献

Bruner,J.S.,O1ver,R.R.&Greenfie1d,P.M.et a1.19668亡滅e8加。ogπ捌口θgroω肋、

   New York:John Wi1ey&Sons(岡本夏木他訳「知識能力の成長」東京 明治図書)

Klausmeier,H.J.,Ghata1a,E,S、,&Fryer,D.A,197400πc印亡ムeα用i昭απd曲リθゐp肌腕亡.

   New York:Academic Press、

国立国語研究所 1981幼児・児童の連想語彙表東只書籍 国立国語研究所 1982幼児・児童の概念形成と言語東京書籍

小田信夫・茂木茂八・池川三郎・杉村 健 1981マッカーシー知能発達検査手引 日本文化科     学社

杉村健 1969幼児の逆転移行学習と抽象能力 教育心理学研究,17,23−27.

杉村健・寺尾容子 ユ975抽象検査と識別検査による幼児の概念 教育心理学研究,23,

    97−i03.

杉村健・矢吹典子 1978幼児における生きものと食べものの概念近畿大学教育研究所紀要,

    4, 21−27.

参照

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