◆つるべ落としのからくり◆
秋の夕暮れ
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月ごろの夕暮れどきは、あっという間に暗くなることから釣瓶(つるべ)落としにたとえられます。つ まり釣瓶—
井戸水をくみ上げるときに使う桶—
が滑車によって勢いよく落ちるように一気に暗くなることを 意味しています。夏の夕暮れどきがいつまでも明るいのに比べ、確かに秋の夕暮れが早いことは実感している のではないでしょうか。冬は昼の時間が短いから夕暮れが早いことは自然に感じるかもしれません。それはある意味自然には違いな いのですが、それなら昼の時間が最も短くなる冬至のころ
—12
月下旬—
がつるべ落としを最も実感できるは ずです。でも、実際の感覚はそうではないでしょう。これは気のせいでも何でもなく、きちんとした仕組みが あるのです。仕組みの解明には面倒な計算が必要ですが、計算に頼らず目で見て理解できるように頑張ること にします。夏至の頃
公転面
冬至の頃 N
自転軸
S
N 自転軸
S
薄暮の時間帯が生じるのは、地球が丸い形をして自転をしていることが主な理由でしょう。問題は自転軸が 公転面に対して垂直でないことです。鉛直方向に対して約
23.5°
傾いているようです。下の図はこれを北極方 向から見下ろした様子です。宇宙ではどっちが上か下かわかりませんが、ここでは北極面が上面と見ました。太陽 公転方向
春分の頃
公転方向
秋分の頃
N 自転方向
夏至の頃
夜 薄暮帯
L
sN 自転方向
冬至の頃
薄暮帯 夜
L
w夏至の頃と冬至の頃の光の当たり方が図示されているものとして見てください。北極点(
N
)周りの破線円 は北極圏を、その外側の楕円は東京の緯度—
北緯35°
線—
を表しているとします。さて、夏至の頃・冬至の頃を並べた図に戻って、薄暮帯となっている部分が薄明るい領域です。太陽は見え ないけれど、まだ明るい時間帯であるところです。正確に計算したわけでなく、およそのイメージで描いてあ ります。それでも十分でしょう。夏至の頃、
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度線が薄暮帯を通過する長さL
sと、冬至の頃のそれL
wを比 べてください。明らかにL
s> L
wとなっています。地球の自転速度は一定ですから、長さL
が短いほど薄暮 帯にいる時間が短い—
すなわち早く暗くなる—
ことになります。したがって、冬至の頃は夏至の頃より日暮れ は早く進むのです。では冬至の頃が最短の長さ
L
かというと、そうではありません。一定幅の領域が円周にかかったとき、弧 の長さをいちばん短く切り取るのは薄暮帯—
正確には薄暮帯の中心線—
が円の接線に直交するときです。別 の言い方をすれば、薄暮帯の中心線が円の中心を通るときです。下図ではたしかにL
a> L
fとなってますね。N 自転方向
太陽光
薄暮帯
L
a秋分の頃
N 自転方向
太陽光
薄暮帯
L
f秋分〜冬至の頃
では、
L
が最短となる日はいつでしょうか。それは秋分から冬至の間のどこかですが、この日!と特定する のは難しいものがあります。というのは図に示した薄暮帯において、実線側が日没であることはよいとしても 薄暮と夜の境目である点線側の特定が困難だからです。薄暮と夜の暗さの違いは人それぞれ感じ方が異なるで しょう。よって、この幅の取り方によって薄暮帯が弧の接線に直交する時期が異なります。秋分と冬至の中間 を目安とするならば、それは11
月5
日前後ですから、この時期の夕暮れがつるべ落としを最も実感できる頃 ではないでしょうか。ところで、いまは薄暮帯にかかる
L
の長さについて考えていますが、夜明け側でも夕暮れ側と同じ長さL
が薄暮帯にかかっているはずです。夜明け側では、つるべ落としの逆の状況—
明るくなり始めたらすぐ日の出 になる—
が生じていると思われます。しかし、明け方は夕暮れと違って活動している人は多くありません。そ れに、急に暗くなると—
特に照明が十分に整っていなかった昔は—
何かと不都合なこともあったと思われます が、急に明るくなって困るのは良からぬことをしている輩(やから)ぐらいでしょうから、つるべ落としのように話題に上らないのも頷けます。
日没の早さと夜の長さ
冬は日没が早く夜の時間が長い。夏は日没が遅く夜の時間が短い。このように一年は日の出・日の入の時刻 が早くなったり遅くなったり、また、夜の時間が長くなったり短くなったりしています。すると自然な考えと して、夜の時間が最も長いのは日没が最も早く、日の出が最も遅いからと思うでしょう。でも実際は少し違っ ています。
夜の時間が最も長い(日中の時間が最も短い)のは、これまで見てきた図からもわかるように冬至の頃で す。なぜなら、影の部分に含まれる
35
度線の弧がいちばん長くなるからです。逆に夜の時間が最も短い(日 中の時間が最も長い)のは夏至の頃です。実際、東京における夜の時間を(
日の入時刻) − (
日の出時刻)
で調 べてみると、12
月20
日あたり(冬至の頃)が14
時間15
分ほどで最も長く、6
月20
日あたり(夏至の頃)が9
時間25
分ほどで最も短くなっています。しかし、日の出・日の入の時刻に関してはそうではありません。東京において、日没が最も早いのは冬至よ り前の
12
月初頭で、おおむね4 : 30 p.m.
。冬至よりさらに数分早く日が沈みます。一方、日の出が最も遅い のは冬至より後の1
月初頭で、おおむね6 : 50 a.m.
。冬至よりさらに数分遅く日が昇ります。夜の長さが最長 である冬至の頃とは2
週間ほどずれが生じています。どうして、そんなことになるのでしょうか。おそらく私たちは、日の入時刻と日の出時刻は同じような割合で早くなったり遅くなったりするものと思っ ているのでしょう。そのため夜の時間が最も長いときは、日の入は最も早く、日の出は最も遅くなると感じる のです。
0:00 6:00 12:00 18:00 24:00
春分 夏至 秋分 冬至 (春分)
16:30
6:50
日の入
(夜)
(昼)
(夜) 日の出
たとえば秋。日の入時刻が徐々に早くなると同時に日の出時刻は遅くなります。しかし実際は、早くなる割 合と遅くなる割合は同じではなく、日の入時刻の進み具合と日の出時刻の進み具合は異なっているのです。こ のことは、日々の日の入時刻と日の出時刻をグラフに表したとき、完全な上下対称にならないことを意味しま
す。なぜでしょうか。
地球は一定の速度で一日
1
回転しているわけですから、1
時間あたりの回転量は一定です。ただ、地球は同 時に公転もしているので、太陽を真正面に見た位置から360°
回っても再び太陽は真正面に見えません。公転 によって地球は1°
ほど動きますから、361°
ほど自転しないと再び真正面に太陽は来ないのです。このことは 時刻の進み具合に少なからず影響を与えるかもしれません。でも、自転軸が公転面に対して約23.5°
傾いてい る影響の方が大きいでしょう。そこで、もう一度地球を上方向から見下ろした図を見ることにします。図は、冬至の昼夜境界線とその前後 数週分の昼夜境界線を重ねて描いたものと考えてください。
N 自転方向
冬至(
T
) 数週後(A
) 数週前(B
)日の出時刻B 日の出時刻T
日の出時刻A
(真昼B)
(真昼T)
日の入時刻B
日の入時刻T
日の入時刻A
さて、
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度線が境界線と交差するところが日の出◦
と日の入•
にあたります。図で、日の出時刻B → A
と 日の入時刻B → A
を通して見ると、移動量—
すなわち弧の長さ—
は等しいようです。しかし、冬至を中心に 分割して見れば少し違った様子を見ることになります。まず、日の出時刻の移動量
B → T
(日の出⌢
BT)と日の入時刻の移動量 B → T
(日の入⌢
BT)を比較してみま
しょう。日の出時刻・日の入時刻は共に地球の自転方向に移動していますが、日の出時刻・日の入時刻が共に 遅くなるわけではありません。なぜなら、同時に真昼の時刻も円周上を真昼時刻の移動量
B → T
(真昼⌢
BT)
だけ移動するからです。図では、日の出
⌢
BT
が日の入⌢
BT
より大きいことが読み取れますが、これが真昼⌢ BT
より大きければ時刻は遅くなり、もし真昼⌢
BT
より小さければ時刻は早まるのです。それは次の理由からです。真昼時刻
B
、T
がたとえば12 : 00
とすると、日の出時刻B
、T
は12 : 00
より何 時間か前になります。もし(真昼⌢
BT) <
(日の出⌢
BT)であれば、日の出時刻 B
は日の出時刻T
よりさらに前になるはずです。
冬至前で比較する限り、(日の入
⌢
BT) <
(日の出⌢
BT)のようです。では、真昼時刻の移動量はどのように変
化するでしょうか。真昼が日の出と日の入の中央だとすれば、真昼⌢
BT
が(日の入
⌢
BT) <
(真昼⌢
BT) <
(日の出⌢ BT)
と考えて差し支えないと思います。つまり(真昼
⌢
BT) <
(日の出⌢
BT)が言えますから、日の出時刻 T
はB
よ り遅くなります。その上、冬至前後の比較で(日の出⌢
TA) <
(日の出⌢
BT)になっているので、日の出時刻の変
化量は減少傾向にあるようです。
このことは、いま(真昼
⌢
BT) <
(日の出⌢
BT)であっても、いずれ(真昼 ⌢
BT) =
(日の出⌢
BT)になるときが
来るということです。すると、そこが日の出時刻の遅れが止み、日の出時刻の移動量が増えていく転換点とな ります。しかし、この図だけでは的確にその日を示すことはできません。
別方面からも考える必要がありそうです。今度は冬至後において、日の出時刻の移動量
T → A
(日の出⌢ TA)
と日の入時刻の移動量
T → A
(日の入⌢
TA)を比較してみましょう。この場合は(日の出 ⌢
TA) <
(日の入⌢ TA)
であり、真昼
⌢
TA
との比較で、冬至後は日の出時刻は早くなる方向にあることがわかります。結局、冬至前に遅くなり続けた日の出時刻がどこかの時点で転換し、冬至後は日の出時刻が早くなり始める わけです。だったら冬至が転換点ですよね? いいえ、ちょっと違うんです。
説明のために、注意すべきことがあります。真昼
⌢
BT
が日の出⌢
BT
と日の入⌢
BT
の中央だとしても、(日の出BT) ⌢ =
(真昼⌢
BT) + α
、(日の入⌢
BT) =
(真昼⌢
BT) − α
、“
ではない”
からです。なぜなら、冬至における日中 の長さ—
一年でもっとも短い—
よりその前後の日中の長さの方が確実に長いので、日の出⌢
BT・日の入 ⌢ BT
は 真昼⌢
BT
に対して相殺される± α
を加味したものより“
若干長い”
はずだからです。したがって、日の出⌢ BT
が減少して真昼⌢
BT
に等しくなるまでには若干余分な時間が必要で、そのために遅進が止まる時点が冬至後に なるのです。N 自転方向
(冬至)冬至の少し後
日の出B 日の出A
(真昼)B
(真昼)A
N 自転方向
冬至の少し前(冬至)
(真昼)B
(真昼)A
日の入B
日の入A
イメージとしては左図のように、冬至の少し後の日における日の出
⌢
BA
が、対応する真昼⌢
BA
に等しくなり ます。つまり、このあたりが日の出時刻が遅くなり続けて、移動の変化量が0
になった時点、すなわち日の出 時刻が一年で最も遅くなった時点です。実際は1
月初頭がこの時期にあたります。日の入時刻についても同様です。(日の入
⌢
BT) <
(真昼⌢
BT)なので、日の入時刻 T
はB
より早くなります。また、(真昼
⌢
TA) <
(日の入⌢
TA)なので、日の入時刻 A
はT
より遅くなります。冬至前に早くなる方向から 冬至後に遅くなる方向に転じるわけですから、冬至付近で(日の入⌢
BT) =
(真昼⌢
BT)となって遅進が止まりま
す。この場合も、日の入⌢
BT
は真昼⌢
BT
に対して相殺される± α
を加味したものより若干多めなので、日の入 時刻の移動量が増加して真昼時刻の移動量に等しくなるまでには、若干少なめの時間で十分ということになり ます。少なめの時間でよいために遅進が止まる時点は冬至前です。イメージとしては右図のように、冬至の少し前の日における日の入
⌢
BA
が、対応する真昼⌢
BA
に等しくなり ます。つまり、このあたりが日の入時刻が早くなり続けて、移動の変化量が0
になった時点、すなわち日の入 時刻が一年で最も早くなった時点です。実際は12
月初頭がこの時期にあたります。以上のことは夏至の前後においても当てはまることで、昼の時間がいちばん長くなるのは夏至の頃であって も、日の出時刻が最も早い時期と日の入時刻が最も遅い時期は少し前後にずれるのです。
もっとも、これらのことをきちんと正確に計算しようとすると大変です。なぜなら、自転や公転には少々の ぶれがあったり一年が
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日強であったりと、細かな補正がたくさんあるからです。実際、日の出時刻や日の 入時刻を調べてみると、日の出・日の入の時刻はサインカーブのように変化するものの、夏至・冬至の頃の昼 や夜の長さは多少ぶれる傾向があるようです*1。夏至・冬至の頃は、時刻の進み・遅れの変化が少ないことが 原因でしょう。以上、直感に頼る部分が多いものの、つるべ落としにまつわる理屈を数式抜きで試みてみました。なんとか なったのでしょうか。
*1日の出/日の入の時刻は太陽の