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論文審査の結果の要旨
氏名:田 島 洋 輔
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:東京臨海部における水上交通の魅力向上に資する事業方策と空間要件に関する研究 審査委員: (主査) 教授 轟 朝 幸
(副査) 教授 小早川 悟 教授 岡 田 智 秀 名誉教授 横 内 憲 久
東京臨海部の都市観光に資する水上交通は,これまで水上交通事業者が個別の創意・工夫の中で事業 を運営してきた一方で,10 年以上にわたって継続的に事業を運営しているケースはきわめて僅少であ る。その要因の一つとして,水上交通の事業継続に資する事業計画要件が明確になっていない点ととも に,人流の拠点となる船着場が単なる乗降の用にとどまっており,内陸の交通ターミナルと比して賑わ いや文化醸成の場となるにはほど遠い現状にあることなどが指摘できる。
これらの点に関し,これまでの水上交通事業に関する既往研究をみると,水上交通事業の航路・乗船 料金等の計画的配慮事項をはじめ,水上交通の魅力的体験に資する船上景観を対象とした景観特性や構 図特性に関する研究,船着場周辺の魅力向上に資する計画・空間的要件に関する研究などがみられるが,
本申請論文が意図するような,東京臨海部を対象として水上交通事業の「計画段階」から「運用段階」
「新規計画・更新段階」といった,事業計画の一連のプロセスに対する諸要件について論考した研究は みられない。
このような背景のもと,本申請論文は,戦後の東京臨海部における水上交通に着目し,その事業計画 の段階ごとに求められる諸要件を導くことをねらいとして,東京臨海部の水上交通の事業内容の歴史的 変遷から事業の継続に関わる事業計画要件を明らかにするとともに,近年大きく変貌を遂げる東京臨海 部の魅力的海上景観や船着場周辺部の魅力形成に資する建築物・護岸形態など陸域と海域を横断的に捉 えた空間要件について明らかにするものである。
その成果の要約と意義は次のように整理できる。
① 東京臨海部における水上交通の「事業計画段階の事業方策」として,戦後の初動期から現在に至る までの 50 年間にわたる東京臨海部の水上交通事業の考察を通じ,3 期にわたる事業分類と各期の事業 運営上の特徴(集客コンセプト,周遊コース,料金設定,船舶規模,周遊時間等)を時代変遷として明 らかにした。その中で 50 年間継続利用されてきた主要航路として「東京内港エリア」を,また集客コ ンセプトとして「景観体験」を導出しており,これらはこれまで明らかになっていない東京臨海部にお
ける水上交通の事業継続要件として大きな成果の一つとして挙げられる。
② 東京臨海部における水上交通の「事業計画段階の空間要件」として,上述(①)の「景観体験」の 重要性に着目し,近年大きく変貌する東京港を対象に,「昼」と「夜」の好ましい海上景観要素とそれ らによって構成される 5 つの景観特性(近望性,連続性,近接性,誘目性,一体性)およびそれらを成 り立たせている主対象を眺めるにふさわしい視距離を導出している。この視距離は,海上景観特性を成 り立たせる各主対象に対し,昼・夜それぞれで乗船者がそれらを魅力的に感じられる距離帯であること を意味しており,この視距離を用いた各主対象と航路との間合いを設けることで魅力的海上景観体験が 可能な航行ルートが構築できるという点で有用な知見となる。
③ 東京臨海部における水上交通の「事業運用段階」の留意点として,水上交通の魅力を伝えるメディ ア画像の特徴(構図特性)について,「水上交通事業者」と「利用者」の両者が共通して注目する海上 景観要素の構図特性を捉えている。これまでは事業者が個々の感覚で独自に発信してきた水上交通に関 するメディア情報において,事業者サイドとともに利用者サイドにも魅力的に感じられる構図バランス とその表現方法を定量的かつ定性的に導いており,このことは水上交通事業の魅力を社会に広く伝達す るメディア画像のあり方を提示した点で高く評価できる。
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④東京臨海部における水上交通の「事業計画段階及び更新段階」の留意点として,東京都内ではその大 部分が単なる乗降の場にとどまっている「船着場」の改善方策を導くために,船着場と背後地域を一体 として賑わい形成に取り組んでいる先進事例(水都大阪プロジェクト)を対象として,「船着場」「護岸 遊歩道」「背後の建物」の三者を一体とした空間整備の重要性を明らかにした。このことは,「船着場」
を中心として賑わい創出の場となる「護岸遊歩道」と背後の「商業店舗等」が連担した水辺のエリアマ ネジメントに資する整備方策となり,「船着場」を核とする水辺地域活性化方策を明示した点で有用な 知見となる。
これらの成果を詳述する本申請論文の構成は次の通りである。
第1章「序論」では,本研究の背景と目的を述べるとともに,既往研究からみた本研究の位置づけを 明示している.
第2章「研究対象地の概要」では,本研究対象地の概要として,東京臨海部の定義をはじめ,その中 心となる東京港の歴史的成り立ちと現状について概説し,それらの着目理由を論じている.
第3章「東京臨海部における水上交通事業の変遷とその特徴」では,東京臨海部において戦後の水上 交通事業 50 年間にわたる歴史変遷から「内港エリア航路形成期(1971~1995 年)」「運河・中小河川活 用期(1996~2011 年)」「自由航路発展期(2012~2018 年)」という 3 期に大別し,各期の事業内容(コ ンセプト,料金設定,船舶規模,周遊時間,航路等)の分析を行っている。その結果,東京臨海部の水 上交通事業において戦後 50 年間にわたり一貫して共通した重要事項として,主要航路は「東京港内港 エリア」であること,事業コンセプトは「景観体験」が中心であることを明示している。
第4章「東京港における魅力的な海上景観の景観特性」では,前章においてその重要性が捉えられた
「景観体験」に着目し,特に都会のライフスタイルとして夜景ニーズが高まっている現状をふまえ,近 年変貌を遂げる東京港において,昼と夜のそれぞれについて海上クルーズ調査(現地景観評価)」を実 施し,被験者の評価理由の共通性により,船上から見た好ましい海上景観特性として 5 タイプを抽出し 昼・夜別にそれらの特徴を論考している。その具体として,各海上景観特性を成り立たせている主対象 を眺めるにふさわしい視距離を導出している。この視距離は,各主対象を好ましい距離帯で眺められる 新たな航路を設定するために重要な航路選定指標となる。
第5章「水上交通の魅力を伝えるメディア画像の構図特性」では,これまでのメディアコンテンツが 水上交通事業者の視点によるものが主であったことから,メディア画像の受け手側となる水上交通利用 者の視点にも留意する必要性を指摘し,本章では東京臨海部で運行を行う水上交通事業者とその利用者
(乗船者)の両者が共通して好ましいとする海上景観の構図特性を捉えている。その具体として,事業 年数が 10 年以上と安定して水上交通事業を運営している水上交通事業者発行の事業パンフレット(37 枚)と,海上クルーズ調査によって得られた水上交通利用者(乗船客)の景観評価結果を通じて,両者 が共通して取り上げる海上景観の構図特性として 7 タイプ(建築物主対象型,都市群バランス型,大橋 梁主対象型,大橋梁バランス型,小橋梁主対象型,港湾施設主対象型,航空機遠景型)を明らかにし,
その結果を用いて東京臨海部における水上交通の魅力を伝えるメディア画像のあり方について言及し ている.
第6章「船着場とその周辺の魅力向上のための留意点」では,船着場の人流機能をいかした賑わいと 魅力創出方策を導くために,17 年間にわたり水辺の地域活性化を実現してきたわが国の先進事例であ る「水都大阪プロジェクト(大阪市)」に着目し,そのプロジェクト対象エリアの船着場や「水辺を意 識した建物」(水辺側にテラスや開口部等が設けられており,一般市民が水辺を楽しむことができる建 物)の分布状況を現地調査から明らかにしている。その特徴として,「水辺を意識した建物」は,船着 場を中心に広がりを持つとともに,その広がりの方向は護岸遊歩道の延伸方向に波及するという実態を 捉えている。これにより,船着場を中心に人流が創出され,その人流により「水辺を意識した建物」の 利用が増加し,護岸遊歩道上でのイベント等の賑わい活動が形成されるといった,水辺地域活性化の要
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因が明らかとなり,本章の結論として水上交通を活用した地域活性化方策として「船着場」「水辺を意 識した建物」「護岸遊歩道」を三位一体として整備することの重要性を示唆している。
第 7 章「結論」では各章の成果を総括するともとに,各章の成果を用いて,現在の東京港を対象に東 京臨海部の魅力的海上景観が望ましい距離帯(視距離)で享受できる航行モデルルート等を提案するこ とにより,上述した4つの本研究成果の具体的活用方策を提示している。
これらのように,本申請論文は研究分野として僅少な「東京臨海部における水上交通」に焦点を当 て,戦後 50 年間という歴史変遷から水上交通の事業継続に資する諸方策を明らかにしたことをはじ め,大きく変貌を遂げる東京臨海部の昼・夜ごとの海上景観評価を通じて,乗船者を魅了する航行モ デルルートとともに,船着場を核とした地区的な賑わい形成手法の提示を行うなど,東京臨海部にお ける水上交通事業のあり方を陸域と水域を横断的に論考したものであり,こうした多面的アプローチ を通じて東京臨海部の新たな都市観光に資する水上交通事業者に向け,事業段階ごとの諸要件を提示 した本研究は高く評価できるものである。
以上のことは,本論文の提出者が自立して研究活動を行い,又はその他の高度な専門的業務に従事 するに必要な能力及びその基礎となる豊かな学識を有していることを示すものである。
よって本論文は,博士(工学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上
令和3年2月18日